( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 5: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:15:21.66 ID:x+lVgNNR0
- 第9話
( ─ω─)「……お?」
真夜中。クー達のビルの一室。ベッドの上。
ブーンはなんとなく目覚めてしまった。
( ⊃ω^)(ツンとキスする寸前だったのに……なんてことだお)
目前まであったはずのあの顔。
あと少しで重なりあっていたはずなのに……あ〜、もったいない。
あの光景を思い出してはもだえ、落ち込むブーン。
ベッドの上で目を瞑り、今何時なのか確認しようとしてみる。
Σ( ^ω^)(か、身体が動かないお)
頭は働いているのに、身体が動かない。
まただ。また金縛りにあっている。
( ^ω^)(どういうことだお……ん?)
ξ゚听)ξ「……」
ツンがベッドの横に立っていた。
ブーンは驚いて、口をあんぐりと開ける。
- 7: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:16:32.32 ID:x+lVgNNR0
- 別の部屋で寝ているはずのツンが、どうしてここに?
( ^ω^)「ツン、何をしてるんだお?」
ξ゚听)ξ「……」
喋らないツン。
なんだか雰囲気が変だ。いや、ツンツンとしている所は変わらないのだけれども、何かが違う。何だろう?
( ^ω^)(ま、まさか夜這いかお!?)
まさか……そんな!
だとしたら大歓迎だ!
そんなくだらないことを考えていると、ツンがツンツンとした表情で口を開いた。
ξ゚听)ξ「あんた、これからどうするの?」
( ^ω^)「……お?」
ξ゚听)ξ「あんたは何をして、どうやって生きるの?」
いきなりなんだ?
興奮した頭が冷めてきて、ブーンはツンの言うことを理解してみようとした。
だが、わからない。
- 8: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:18:32.71 ID:x+lVgNNR0
こんなこと、一度だって聞いてきたことはなかったのに、なんなんだ?
ブーンは意味がわからず、「お? ツン、どうしたんだお?」と尋ねてみる。
しかしツンはまだつっけんどんな口調で答える。
ξ゚听)ξ「どうしたもこうしたもないわよ。あんたの意志を聞いてるだけ」
( ^ω^)「どうしてツンがそんなことを聞くんだお?」
ξ゚听)ξ「どうしてって、私はあんたの従者なんだから、一応聞いときたいのよ」
『従者』?
聞いたことがあるぞ、これ。確か、夢の中のしぃが言っていた言葉じゃなかっただろうか?
ということは、もしかしてこのツンは……本物のツンじゃなくて、あの夢の中の謎の人物?
- 10: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:20:28.68 ID:x+lVgNNR0
- ( ^ω^)「もしかして、ま、前はしぃさんの姿で出てきた人かお?」
ξ゚听)ξ「ああ、あれね。元々あんたの心の中でかなりのウェイトを占めている人の姿で出てくるはずだったんだけど、
あの時は彼女の治療の影響があったからああなっちゃったのよね。
今は彼女もあんたの心の中で、けっこうなウェイトを占めているみたいだけど。
まあ、こっちとしてはそれもゲシュタルトの具現化がやりやすいからいいんだけど、
イドの肥大化が進んでいる上に不確定要素が膨大に増えてきているから、
なかなか具現化された存在としての永続的存続が――」
( ^ω^)「あ、あの、言っていることがぜんぜん理解できないお」
ξ゚听)ξ「ああ、そうだったわね。あんたにはこの概念が行き届いてないのよね」
ツン(もどき)がため息をついて腕を組み、近くの椅子に座った。
なんだか、偽者にしてはやけに本物に似ている。呆れたようにこちらを見ている姿なんて、そっくりだ。
- 11: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:22:19.46 ID:x+lVgNNR0
ξ゚听)ξ「で、聞かしてよ、あんたの意志」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「これからどうするの?」
( ^ω^)「どうするって……」
ξ゚听)ξ「このままここにいるの? それとも、何かするの?」
ツンの表情が真剣めいたものになってくる。
ブーンは戸惑いつつ、けれども何度も自分自身に問いかけている質問を投げかけられて、考え込む。
何をするべきなのか?
何ができるのか?
けど、考えても考えても決まらない自分の意志を、今この瞬間に出せるほどブーンは頭の回転が速くなかった。
- 12: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:24:05.39 ID:x+lVgNNR0
- ( ^ω^)「……決まってないお」
ξ゚听)ξ「そう」
ツンがそっけなく答えて、椅子から立ち上がった。話は終わりだ、とでも言いたげに。
ξ゚听)ξ「ならいいのよ。これからも考えればいいわ」
( ^ω^)「お? 聞きたいんじゃなかったのかお?」
ξ゚听)ξ「決まってないのに聞けるわけないじゃない」
正論だけれども、なんだか釈然としない。
あれだけ真剣に尋ねてきたことなのに……
ξ゚听)ξ「別にあんたに答えを強制してるわけじゃないわよ。
言ったでしょう? 従者なのよ、私は。それでいてあんたのゲシュタルトであり、その鏡でもある」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「考えればいいわ、これから。私は道を照らすだけだから」
- 14: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:26:10.46 ID:x+lVgNNR0
しぃの姿の時と同じようなことを言っているが、やはりわからない。
何を言いたいのだろう? というより、この人はいったい何者だ?
と、急に額にやわらかい感触が広がった。
ツン(もどき)が手を額に置いているのだ。
( ^ω^)「……ツン?」
ξ゚听)ξ「さっきも言おうと思ったんだけど、それは彼女の名前でしょ? 私に名前はないわ」
なんだか眠くなってきた。
彼女の掌が眠りを誘っているかのようだった。
ξ゚听)ξ「あんたと私に、人の祝福がありますように……」
そのささやきと共に、ブーンは意識を手放した。
- 16: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:28:17.23 ID:x+lVgNNR0
- ※
保護生活が始まって1週間が経った。
生活は以前と比べて激変した。前とはまるっきり違う生活だ。
まず住む場所が変わった。
今まで何度も訪れたビル――なんでも「VIP産業」という仮会社名義らしいが、そのビルの一室に住むようになった。
ここは住居も兼ねていて、キッチンや風呂も完備されている。住む場所としては完璧だ。
ショボン、ドクオとは同室で、ツンはクーと同じ部屋に住まわせてもらうようになった。
この生活に当たって、孤児院や家への連絡は全てクー達がやってくれた。どんな風に説明したのかは知らない。
1日の過ごし方も変わった。
基本的に部屋から出てはいけない。食堂に行ったり、風呂に入ったりする以外は、特別な用事がない限り部屋から出ることを禁止された。
まるで監禁されているかのようだったが、それが自分達の安全のために必要なのだと分かっているから、文句は言わなかった。
ただ問題なのは、1日中部屋に缶詰にされていると、本当に暇なことだ。
最初はドクオやショボン、部屋にやってくるツンとおしゃべりしたり、ゲームしたりしていたが、それもすぐに飽きてしまう。最近は一日中何もせずぼーっとしてしまっている。
たまにしぃさんが尋ねてきてくれて、一緒に遊ぶこともあるが、それも本当に「たまに」でしかない。
- 17: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:30:13.42 ID:x+lVgNNR0
最近は「少しは勉強もした方がいい」というツンの一声で、参考書を買ってきてもらって勉強もしていた。
もし高校に戻れた時のことを考えてのことだ。一応卒業はしたいし。
ちなみにこのことを狐に話したら、「う〜ん、学校のこともなんとかしよう」と言われた。なんとかするとは、どうするんだろう?
時々、部屋を出て内緒でビル内を探索したこともある。
始まりはショボンの「ちょっとここを探検してみたくない?」という一声で、ドクオがそれに強烈に賛同し、あまり乗り気ではなかった自分とツンも巻き込んで行われた。
もちろん、重要そうな部屋はバレる確率が高いので行かなかったが、例えば以前クーに連れて行ってもらった「剣道場」に入って、冗談交じりで稽古をしたりした。
このことは狐やクーもうすうす気付いているらしいが、注意してはこなかった。
それどころか、「剣の稽古でもやってみるか?」とクーに言われたほどだ。
きっと、こんな生活をしている自分達に同情してくれたのだろう。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:32:42.75 ID:x+lVgNNR0
一度、夜になってから部屋を抜け出してみたことがある。
昼間と違ってビル全体に人がおらず、楽しそうなものは何一つなかったが、ひとつだけ見てしまったものがある。
それは、偶然窓から外を覗いた時のこと。クーがこのビルを出て行くのを見たのだ。
ツンに聞くと、「毎晩、私が寝静まった後になると部屋を出て行くみたい」とのこと。
何か仕事の用事でもあるんだろうか? と思ったが、気にしてもしょうがないので、その時は夜の探索を続けた。
結局その日は何も面白いものは見つからなかった。
そして、探索も終わりに差し掛かってきた約2時間後、クーはこのビルに戻ってきた。
ボロボロの傷だらけの姿で、だ。
クーがこのビルに入ってきて、地下へのエレベータに乗る所で、その姿を目撃した。
驚きつつ、狐達の話を思い出して、自分達はなんとなく事情を察した。
この『VIP』という組織の目的は『影の殲滅』にある。
きっとクーは、夜の間に外に出て、『影』と戦ってきたのだろう。たぶん、いや、きっと。
- 20: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:34:54.43 ID:x+lVgNNR0
そのことを翌日の朝、クーに聞いてみたら、彼女は困った顔をしつつも「そうだ」と答えてくれた。
毎晩毎晩『影』を倒すために日本を駆けずり回っているらしい。
傷は一晩で治っていて、しぃの力で治してもらったのだと、ブーンでもすぐにわかった。
それを聞いて、思った。なんて生活をしているんだろう、と。
きっと彼女は、夜は『影』と戦って傷つき、帰ってきたらしぃにその怪我治してもらい、また翌日の夜に戦うという行為を繰り返しているのだろう。
なんて辛いことを繰り返しているんだ、とブーンは思った。
『気』を使うことのできる人間は少なく、この『VIP』に属している使い手は、クーとしぃ以外には2人だけ。
しかもその2人は別任務を遂行中らしく、『影』を倒す役目はクーだけに押し付けられているといっても過言ではなかった。
クーの仕事は厳しく、それでいて成果がなかなか現れない。倒しても倒しても『影』は現れる。
いたちごっこ。その言葉が思い浮かび、ブーンは自分にも何かができないのだろうかと思っていた。
- 22: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:36:33.99 ID:x+lVgNNR0
自分も『影』を倒す力を持っているのだ。正体不明で、まだぜんぜんコントロールできないけど。
そんな力を持っているのだったら、クーの仕事も手伝えるのではないだろうか?
自分にも何かできることがあるんじゃないか?
けど、その時ブーンはもうひとつの考えに捕らわれる。
怖い。戦うのは怖い。外に出れば、色々な人に狙われる。
力の使い方もわからない。
人や『影』と戦うことも、傷つけるのも嫌だ。
何かしたいけど、せっかくの平和なこの保護生活をやめて行動を起こすのが怖い。
けど、クーの手助けはしたい。
そんな堂々めぐりを繰り返していた。
- 23: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:38:45.53 ID:x+lVgNNR0
- ※
保護生活が始まって8日目。
もうずいぶん慣れてしまった白くて硬いベッドの上で、ブーンは目覚めた。
( ⊃ω^)「んん……朝かお?」
(‘A`)「よぉ、ブーン。相変わらず起きるのが遅いな」
(´・ω・`)「昨日はお楽しみだったからかい?」
ドクオとショボンはすでに起きていて、部屋のソファに座ってトランプをしていた。
この部屋はアパート一室ぐらいの広さがある。
ベッドが3つにソファがひとつ。14型のテレビとエアコン、それに服等を入れるタンス。
全体的に洋風テイストなこの部屋は、もともと狐が趣味で作ったものらしい。
(‘A`)「朝食までまだ時間があるってよ」
ドクオがそう言うのを聞き、ブーンは壁にかけてある時計を見た。
9時すぎ。
朝食を取るにしては遅い時間だと思うのだが、食堂が開くのが9時からなので仕方ない。
- 24: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:40:48.58 ID:x+lVgNNR0
( ^ω^)「ドクオたちは何をしているんだお?」
ブーンはベッドから抜け出して、タンスから服を取り出し、着替えを始めた。
元からこの部屋に備えられていた白いパジャマを脱いで、長袖の黒いTシャツと白いトレパンに着替える。
(‘A`)「まあ、ちょっとポーカーやってるんだ。金がないから賭けはしてないけどな」
(´・ω・`)「僕は身体ごと払ってもよかったんだけどね」
(‘A`)「さすがに断る」
ドクオは上下紺色のジャージ、ショボンは白いYシャツと黒いGパン。
最近、2人はこの服ばかり着ている気がする。いや、自分も同じ服ばかり着ているけれど。
(‘A`)「暇だよなあ、何もやることがないってのは。ニートになれたらいいなあって前から思ってけど、ニートって毎日こんな生活してるんだろ?
ちょっと俺には耐えられないかもな。あまりにも暇すぎる」
(´・ω・`)「ニートにはインターネットという強い味方がある。ここにはそれがないから、もしかしたらニートより暇な人間かもね、僕達は」
- 25: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:42:36.33 ID:x+lVgNNR0
ニートより暇……それって、生きている価値があるのだろうか。
『人の子』だというだけで普段は何もしていない自分に、保護を受けるだけの権利があるのだろうか?
思考の堂々巡りに陥ってしまいそうになり、ブーンは頭を振った。そんなことを考えてばかりいては、ドクオ達に心配させてしまうではないか。
('A`)「どうする? お前も入るか?」
( ^ω^)「入るお。ベッドは今日の朝ごはんだお」
(´・ω・`)「ふむ、なかなかいいね。面白そうだ」
('A`)「賭けが絡めば、俺は負けんよ」
(´・ω・`)「坊やだね、君も。まだまだだ」
( ^ω^)「みんなの焼き魚はもらったお」
とりあえず、いつもどおりにしておこう。
- 26: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:44:21.42 ID:x+lVgNNR0
※
結局ポーカーは自分が負けてしまった。考え事をしながらのポーカーは負けやすいということを経験できて、まあよかった。
朝食の焼き魚は全部ドクオとショボンに取られてしまったが、ツンに少しおすそわけしてもらったので、なんとか腹を満たすことはできた。
ツン曰く「私、いつもここの朝食は多いと思ってたのよね」とのことだ。
それから、午前中はツン達と勉強をした。
参考書は3年のものを使っていたが、自分とドクオがあまりにも1,2年のことを忘れていたので、最近はツン自作の問題を解いて勉強を進めている。
彼女の教え方はスパルタ方式で、間違えれば罰としてハリセンで叩かれる。
ブーンも10発程度もらってしまった。ドクオはその倍以上だったけれど。
- 27: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:46:25.57 ID:x+lVgNNR0
午後はフリータイム。
だが、ドクオの勉強が遅々として進まないため、ツン主催の「地獄のプチ合宿」という祭りが始まってしまい、
ドクオは部屋から一歩も出ることができなくなった。
ショボンもどうやら部屋でやりたいことがあるらしく、部屋に閉じこもりっきり。
仕方ないから、1人でビル内を探索してみることにした。1人で行くのは初めてだった。
探索といっても大したことはしない。ちょっと出歩いたり、物珍しいものを見たり……
この前は「メイド喫茶」なるものを見せてもらった。所長が趣味で作ったとか (1日後には閉店してしまったけど)。
ゆらゆらと、ビルの中をさまよう。
途中、狐と会った。彼は最近仕事に忙しく、あまり喋る機会がなかった。
その時も慌てた様子でビル内を走り回っていたので、ブーンは少し挨拶をするだけにとどめた。
「少しビルの中を見てみるお」と狐に言うと、「まあ、仕事の邪魔にならない程度にね」という返事をもらった。
なんだか最近は、ビルの探索を容認されている気がする。まあいいや。
今日は久しぶりに屋上に行くことにした。
- 28: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:48:03.34 ID:x+lVgNNR0
- ※
( ^ω^)「やっぱり屋上は寒いお」
このビルの屋上に立つことを許されたのは3日前のことだ。
それまでは、衛星や望遠鏡で自分の姿が見られてしまう可能性があったので、いっさい許されなかった。
しかし、なんとかお願いした所、「システムを使うから衛星はジャミングしておく。30分ぐらいならいいだろう」という狐の許しをもらった。
たった30分しか感じられない外の空気だったけれども、それで十分だった。
1日中部屋の中にいると、どうしても心も身体も澱んでしまう。新鮮な空気を浴びることが必要だった。
ブーンは思いっきり外の空気を吸い込んだ。気持ちいい。
屋上にはパラボナアンテナや貯水装置などの設備がある。
それらを除けばほぼ平らな屋上の地面。コンクリートで固められており、試しに寝転んでみると冷たかった。
冬の風が温度を下げていた。
上着を着てくればよかった、というのは今になって気付いた。
けど、今日は太陽が出ているので、日向に行けば暖かかった。
- 29: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:49:37.31 ID:x+lVgNNR0
(*゚∀゚)「あれ〜? 君、どっかで見たことあるぅ〜?」
声をかけられて、初めて後ろに人がいることに気がついた。
こちらを見て笑っている、車椅子の女性……確か、しぃの姉の「つー」だ。
初めて会った時の印象が深く残っており、ブーンはすぐにその名前を思い出した。
( ^ω^)「しぃさんのお姉さんで、確かつーさんだったかお?」
(*゚∀゚)「あ〜、光ってるねぇ、君ぃ。そうかそうか。君もまたここにいるんだねえ」
( ^ω^)「そんなに光ってるのかお?」
(*゚∀゚)「あれぇ? 今日はそんなに寒くないねぇ」
話が噛み合ってない。
やはり以前の印象どおり、つーは精神病の気があるようだった。
車椅子を動かしてこちらの横に移動するつー。
外は寒いのに大丈夫だろうか? ひざかけはかけてあるけれども、上はパジャマ1枚だ。
つーはゆらゆらと頭を揺らしながら、満面の笑みを浮かべていた。
- 31: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:51:41.86 ID:x+lVgNNR0
(*゚∀゚)「光ることは大事だよぉ〜、だって君はパプテスマを受けたんだからぁ」
( ^ω^)「……前もそんなこと言ってたけど、パプテスマってなんですお?」
(*゚∀゚)「パプテスマはパプテスマだよぉ、光が弱いねぇ」
( ^ω^)「いや、だからそのパプテスマの意味がわからないんですお」
(*゚∀゚)「光はねぇ、世界を導くと同時に世界を決定するんだよぉ。
『人の子』はそのための存在でありぃ、パプテスマを受けた存在なんだからぁ」
やっぱり意味がわからない。
なんだかこんな意味のわからない台詞をどこかで聞いたような気がする。
確か、夢の中のしぃやツンも、こんなことを言ってたような。
( ^ω^)「それはどうやって知ったんですお?」
(*゚∀゚)「知ってる知らないは関係ないんだよぉ? ねえねえ、こんな歌知ってる?」
いきなり、つーは歌いだす。
今までの喋り方とは段違いに明瞭で、それでいて綺麗な声で。
- 32: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:53:00.30 ID:x+lVgNNR0
そうだ うれしいんだ 生きる喜び
たとえ 胸の傷が痛んでも
ああ アンパンマン 優しい君は
いけ みんなの夢 守るため
- 33: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:54:26.88 ID:x+lVgNNR0
( ^ω^)「アンパンマンの歌かお?」
(*゚∀゚)「そうだよぉ。知ってるのぉ? 私、全部歌えないんだよねぇ。あと歌えるのはこんだけ〜」
忘れないで夢を こぼさないで涙
だから 君は飛ぶんだ どこまでも
( ^ω^)「……」
(*゚∀゚)「ねえねえ、知ってるぅ? この先、知ってるぅ?」
つーに問い詰められて、ブーンは仕方なくアンパンマンの歌を思い出してみた。
幼稚園の頃はよく見ていたけれど、高校生の今となっては歌なんてうろ覚えだ。
それでもなんとか思い出して、ブーンは口を開いて歌ってみた。
- 34: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:56:27.73 ID:x+lVgNNR0
何のために生まれて 何をして生きるのか
わからないなんて そんなのはいやだ
今を生きることで 熱い心 燃える
だから 君は いくんだ ほほえんで
そうだ うれしいんだ 生きる喜び
たとえ 胸の傷が痛んでも
ああ アンパンマン 優しい君は
いけ みんなの夢 守るため
( ^ω^)「確か1番はこんな感じだったはずですお」
(*゚∀゚)「へぇ〜へぇ〜。覚えられるかなぁ。あとでしぃに書いてもらおうかなぁ。
アンパンマンは強いよねぇ、うん、光ってるよねぇ」
( ^ω^)「アンパンマンも光ってるのかお?」
(*゚∀゚)「やだなぁ〜、アンパンマンだよ? 光ってるわけないじゃない〜」
- 35: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:58:49.25 ID:x+lVgNNR0
話が一貫していない。
ブーンは次々と変わっていく話題についていけず、つーの会話を聞いているふりだけして、考え事することにした。
こちらが聞いてないことがわかってないのか、つーはずっと1人で喋り続けている。何を喋っているかはよくわからない。
アンパンマン、か。
アンパンマンは正義の味方だ。悪者のバイキンマンのいたずらを阻止するために、日々空を飛び回っている。
友達や街の住人を守るために日夜戦い、それでいて弱っている人も助ける。
なんだかすごい人物――いや、パンだから人間じゃないのだけれども、そうやって戦えるということをすごいことだと思う。
守るべきものを守り、倒すべきものを倒す。
彼はきっと、自分の力の使い道というものをきちんと分かっているのだろう。
(*゚∀゚)「あれぇ? 光弱くなってきたぁ?」
( ^ω^)「お?……太陽が隠れてきたお」
今までさんさんと輝いていた太陽だったが、だんだんと雲が出てきて太陽を隠してしまった。今はもう、太陽はすでに見えなくなっている。
突然、冬の風が身体中に染み渡ってきて、ブーンは身体を震わせた。
- 38: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:00:43.91 ID:x+lVgNNR0
( ^ω^)「さ、寒いお」
(*゚∀゚)「光らないかなあ、もっと光らないかなあ」
つーが何か言っているが、まあ意味がよくわからないので無視しておこう。
ブーンは屋上の扉へと向かおうとする。
いや、待て。薄着の彼女をこのまま置いていくのも忍びない。風邪をひく可能性だってある。
( ^ω^)「つーさん、ビルの中に戻りませんかお?」
(*゚∀゚)「ん〜? 光るのを見るんだから、らめぇ〜」
( ^ω^)「風邪ひいちゃうお」
(*゚∀゚)「光れば暖かいのぉ」
駄目だ。断固として動こうとしない。
どうしたものかと考えつつ、ブーンは空を見上げた。
嫌になるほどの雲が出てきている。風が強いから雲が流れるのも早い。
だんだんと気温も下がってきて……寒い。寒すぎる。
- 39: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:02:28.41 ID:x+lVgNNR0
ξ゚听)ξ「ちょっと、ブーン。こんなところで何してるのよ」
( ^ω^)「ツン」
ツンが、屋上の扉を開けて呆れたような顔で立っていた。
ジャケットとマフラーをつけた彼女の格好は暖かそうで、ブーンはうらやましげな顔でそれを見つつ、「ちょっと気分転換だお」と答えておいた。
ξ゚听)ξ「ふーん。つーさんも一緒に?」
( ^ω^)「偶然だお」
(*゚∀゚)「……」
ツンが現れた途端、つーが車椅子を動かし始めた。
今までどうやっても動こうとはしなかったのに。
ξ゚听)ξ「つーさん、これ着けます?」
(*゚─゚)「……」
いきなり無表情になったつー。
マフラーを差し出したツンの問いかけには何も答えないまま、その横を通って屋上を出て行った。
- 41: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:07:25.45 ID:x+lVgNNR0
なんだろう、あの変わりよう。
まるで、ブーン以外の人間はまったく興味がないとでもいうような。
ξ゚听)ξ「……なんか、気に障ることでもしたかな」
( ^ω^)「気分屋なんだお、きっと」
ツンにフォローをいれつつ、ブーンが彼女のマフラーを受け取った。
それを首に巻いてみる。うん。暖かい。
ξ////)ξ「ちょ、ちょっと!!」
( ^ω^)「暖かいお、ツンのマフラー。寒かったからちょうどよかったお」
ξ////)ξ「な、なに勝手に使ってんのよ! ま、まあ寒そうだから貸してあげてもいいけどね!」
ツンが横に立ち、2人して空を見上げた。
まだ太陽は出ていない。雲は厚くて、辺りは薄暗くなっている。
急に強い風が2人の間に通り、「お!」とブーンは声をあげた。
- 42: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:08:15.95 ID:x+lVgNNR0
( ^ω^)「さ、寒いお」
ξ゚听)ξ「あんた薄着だもん。仕方ないわ」
( ^ω^)「マフラーを借りても寒いとは……予想外だお」
ξ゚ー゚)ξ「まあ、あんたが馬鹿なだけよ」
ツンが笑って、自分も笑った。
なんだか以前の日常の空気が途端に戻ってきたような気がした。
周りは公園。遠くにはちょっとしたビル街が見える屋上。
ツンの気配と香りが少しだけ感じられ、笑いあって、互いの思いはわからないけれども言葉は交し合える。
穏やかでいて、生ぬるいけれども心地よい空間。
……こういう時間が続けばなあ、とブーンは思った。
- 44: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:10:27.38 ID:x+lVgNNR0
- ※
どうしてあなたは戦うのですか?
そんな疑問を投げかけたところで、戦っている人にとってはうっとうしいことこの上ないのだろう。
だって、そういう疑問を投げかけるということは、その人の行動に少なからず疑問を抱き、場合によっては否定してしまうかもしれないからだ。
自分の考えや行動を否定されることほど、人にとって嫌なものはない。
それに、戦うという行為ほど決意の必要なものは滅多にないから、その決意すら否定されるかもしれないからだ。
きっと、戦っている人は戦うまでに多くの疑問を持っていただろう。
だから、すでに決意を固めた人は、すでに戦うことに疑問をあまりもたない。少なくとも戦っている間は。
だから、そんな疑問を改めて投げかけられると答えるのも面倒だし、問題のぶり返しになるから、いらいらするだろう。
だけれども、僕はあえて問いたい。
その答えに否定も肯定もしない。
ただ理由が知りたいだけだから。
「どうしてあなたは戦うのですか?」
- 45: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:12:00.70 ID:x+lVgNNR0
- ※
夜、ブーンはなんだか目が冴えて眠れなかった。
身体が興奮するというか、異様に頭が冴えて眠ることを拒否しているというか。
まあ、夜更かしが常態となっている自分としては、夜の9時に就寝なんて不可能なことなのだ。
(‘A`)「zzzzz」
(´─ω─`)「zzzzzz……あれ? ブーン?……zzzzz」
同じように夜更かしに慣れてしまった2人は、どうしてこうまで簡単に眠れるのだろうか。いつか問いただしてみたい。
暗い部屋の中、ブーンはベッドから出て、ジャンパーを羽織った。
眠れないなら仕方ない。こうなった夜のビルを探索だ! という気概を持って、部屋を出る。
夜のビルは昼以上に人気がない。時々、誰かにすれ違うことはあるものの、大抵クーや狐であって、他の人に会ったことがない。
なんでも、狐とクーぐらいしかこのビルに住んでいる者はおらず、後は動かせない病人が泊まるぐらいなのだそうだ。つーもその1人だとか。
- 46: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:13:22.74 ID:x+lVgNNR0
( ^ω^)(……なんだか夜の学校並みに気味が悪いお)
ビルの廊下をつれづれと歩く。
暗い道。障害物なんて何もないこの廊下で、ふらふら歩いても何も危険なことはない。
けれども、電気も何も点いていない中で歩くのは少し怖かった
暗くて狭い道。静かで何も感じない道。
先なんて何も見えず、不安を覚えながら、戻ることもせずに歩くしかない。
なんだか自分にぴったりくるというか……「合っていた」。
( ^ω^)「……」
だが、その静けさに亀裂が走る。
女性の悲鳴が、外から聞こえた。
「きゃああああ!」
( ^ω^)「な、なんだお?」
- 47: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:14:51.95 ID:x+lVgNNR0
耳をつんざく女性の金切り声。
ブーンはとっさに周りを見渡したが、窓も何もないこの廊下では外の様子なんて見れない。
ただ、声のした方角を推測すると、声は右から聞こえてきたようだった。
で、右に目を移すとつーの部屋があり、ブーンは迷った。
気になる。あんな女性の悲鳴、日常では考えられない。
けれども、つーの部屋にいきなり入っていいものだろうか。仮にも女性の部屋だ。マナーをわきまえないと……
そうやって逡巡していると、扉の方が勝手に開いて、ブーンは驚いた。
扉を開けたのはつー本人だった。
(*゚∀゚)「……入るぅ?」
そう尋ねられて、ブーンは思わず頷いてしまった。
車椅子に乗ったつーが横にのいて、ブーンは頷いてしまった手前、緊張した面持ちで部屋に入る。
部屋の中は電気が点いてなくて暗かったが、部屋のだいたいの様子は見ることができる。
- 48: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:16:25.54 ID:x+lVgNNR0
まるで子供みたいな部屋。絵本やぬいぐるみやおもちゃなどが散らかっていて、年齢一ケタの少女の部屋と言われても疑わなかった。
それが第一印象だったが、今はそんなことを気にしているわけにもいかず、すぐに窓へと近づいて外を見た。
ビルの下、道路の真ん中。
女性が倒れていた。
( ゜ω゜)「た、助けにいかないと!」
ブーンは駆け出した。
つーの部屋を飛び出し、エレベータに乗って下へと向かう。
確か玄関の鍵は閉まっていたはずだが、関係ない。
目の前に倒れている人がいるのだから、助けにいかないといけないのだ。
そこに理由なんてない。バーローだって言ってたじゃないか。
- 50: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:18:12.22 ID:x+lVgNNR0
- ※
ブーンが出て行った部屋の中、車椅子に乗るつーは笑いながら窓の外を見つめていた。
(*゚∀゚)「光はぁそのままでは光れない〜。そこに意志がなければ強くなれないんだよねぇ」
外には空と公園だけが広がっている。
夕方から出てきていた雲はほとんどなくなっていて、徐々に月が雲間からその姿を覗かせるようになっていた。
あと少しすれば、空は晴れてくる。
今日は満月だ。
(*゚∀゚)「行動には理由が伴い〜、理由は心の動機付けから発生するのよねぇ。原因と結果ぁ、どちらが欠けていても存在することのない人間の行動ぉ。
因果律ぅ。心の原因〜、イドと意志ぃ」
ずっと外を眺めていたつーは、ふと後ろから足音が聞こえてきたような気がして、振り返る。
その足音が3つあることに気付き、つーはにんまりと笑みを浮かべた。
(*゚∀゚)「そうだ〜♪ うれしいんだぁ、生きる喜び〜♪」
歌声が、部屋の中に響き渡っていった。
- 51: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:20:06.39 ID:x+lVgNNR0
※
玄関から外へ、そして悲鳴が聞こえた場所へ。
ビルの壁に沿う形で、ブーンは力の限り走った。
この辺りは広場のようになっているらしく、時々親子連れが歩いているのを窓から見たことがある。
また、ビル街から駅までの近道になっているらしく、サラリーマンやOLが通っていくこともある。
女性がどうして真夜中にこんな場所にいたかはわからないけれども……とにかく、助けないと!
そう思って、悲鳴の場所にたどりついた時。
頭がなくなっている女性の死体を発見した。
( ゜ω゜)「……間に合わなかったのかお」
頭がなくなっているのは、『影』の仕業の証拠。
『影』に襲われたということは、この女性は犯罪者か何かだったのだろうか?
女性の服装を見てみると、何やら特攻服のようなものを着ている。
暴走族の一員だったのだろうか……?
ブーンは呆然とした表情でその女性の死体を見つめた。
ネットで見るようなグロ画像よりもさらに気持ちの悪いものだったけれども、目を逸らすことができなかった。
- 52: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:21:52.52 ID:x+lVgNNR0
助けられなかった。
悲鳴をあげて、助けを求めている人を助けられなかった。
あと少し早ければ、助けられたかもしれない人を。
自分に『影』が倒せるかわからないけれども、それでも何かができるはずなのに、間に合わなかった。
無力だ。自分は。本当に。
ブーンは周りを見渡した。『影』がまだ近くにいるかと思ったが、何の気配もしない。
どうやら『影』は消えてしまったらしい。
ため息をつき、警察にでも連絡しようかと携帯電話を取り出す。
その時、後ろに足音が聞こえて、ブーンは振り返ろうとした。
「動くなニダ」
だが、振り返れなかった。
首筋にナイフを突きつけられたから。
- 53: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:23:54.61 ID:x+lVgNNR0
(;^ω^)「だ、誰だお……」
<ヽ`∀´>「動くな。動いたら殺すニダ」
ナイフはギザギザが掘ってあり、なんだかすごく切れ味がよさそうだ。
サバイバルナイフといっただろうか?
なんだこれ。どうしてこんなものを、こいつは首筋に当ててくるんだ?
『各国の組織がこの国に入ってきている』
狐のそんな言葉を思い出し、ブーンははっとなった。
そうか。こいつ、どこかの国の兵士か何かなんだ。
で、自分を捕まえるために、こんなことを……
ブーンは自分のうかつさを呪った。ビルから出るなと言われたのに外に出て、気をつけろと言われたのに何も考えていなかった。
狐たちから十分注意は受けていたのに……どうして自分は、こんなにも馬鹿なんだろう。
- 55: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:25:39.18 ID:x+lVgNNR0
<ヽ`∀´>「運がよかったニダ。まさか偶然こんな所でターゲットを見つけられるとは思わなかったニダ。警備員はノしたし、ちょうどいいニダ」
男がぶつぶつと何か言っている。なんだか、ギコやクーのような調査員とは少し雰囲気が違っていた。
なんというか、ちょっと甘さがあるというか……こんなこと呟かなくても、早く自分を連れて行けばいいのに。
簡単に連れて行かれるつもりはないけど。
( ^ω^)「……」
ブーンはタイミングを計っていた。強そうじゃないこんな男なら、もしかしたら逃げることもできるかもしれない。
隙を見て走り出せば、あるいは……
待て。もしかしたら拳銃を持っているかも。なら離れても危ない……
<ヽ`∀´>「さてと、ウリについてきてもらうニダ」
予想的中。
ナイフと共に、今度は拳銃を出してきた男。
- 56: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:28:06.13 ID:x+lVgNNR0
指1本動かすこともできず、ブーンは立ち尽くした。もう何もできない。
『人の子』が特殊な力を持っている?
そんなの『影』に対してだけじゃないか。『気』は普通の人間には何の役にもたたない。
こんな風に銃で脅されれば……結局は1人の人間に戻ってしまう。
諦めとも絶望ともつかない感情が溢れてきて、ブーンは身体の力が抜けていくのを感じていた。
( ´ω`)「……」
<ヽ`∀´>「早く来るニダ! ウリの国に連れて行って、その力を」
男の言葉はそれ以上続かなかった。
突然、誰かが男を殴ったからだ。
ドカリというパンチの音共に、男が倒れる。
- 58: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:29:48.32 ID:x+lVgNNR0
<ヽ`∀´>「ノー!!!」
('A`)「ブーン! 逃げろ!」
(´・ω・`)「こいつは僕達に任せろ!」
ξ゚听)ξ「ブーン、こっち!」
(;^ω^)「み、みんな」
ドクオとショボンが男に飛び掛り、ツンが腕を引っ張ってくる。
どうしてここに? どうして自分を助けに?
ブーンはわけが分からず、ツンに引っ張られるままに走り出した。
だが、逃げてはいけないような気がする。
そうだ。相手は拳銃を持っているんだ。このままドクオとショボンを置いたままにしておけば、彼らが危ない。
いや、だけど自分が残ってどうにかなるのか? 普通の喧嘩は限りなく弱い自分が。
いったい何ができる? 何をする?
- 59: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:31:33.13 ID:x+lVgNNR0
<ヽ`∀´>「むむむ、ファビーン! 邪魔するなニダ!」
( ゜A゜)「ぐは!」
(´ ゜ω゜`)「ぐっ!」
振り返ると、ショボンとドクオが男に殴られて倒れていた。
腹を押さえて悶絶している2人。
まただ。また自分のせいで大事な人が傷ついた。
<ヽ`∀´>「邪魔するやつは……消すニダ!」
銃を構える男。
その銃口は、明らかにツンを狙っている。
ξ゚听)ξ「ひっ」
小さく悲鳴をあげるツン。
恐怖で凍り付いているのか、彼女はその場から動かない。いや、動けない。
- 61: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:33:20.01 ID:x+lVgNNR0
ブーンはツンに逃げろとも言えず、その様子を食い入るように見つめていた。
頭の中はずっと混乱しっぱなしだが、ひとつの思いが自分の身体を突き抜けた。
駄目だ。駄目なんだ。
これ以上、傷つけさせたくないんだ。誰も。
敵であっても味方であっても、誰も傷ついてほしくない。
けど、銃口を向けている相手にそんなことは言ってられない。
このままだと、ツンが……守りたいものが殺されてしまう。
なら、どうすればいい?
<ヽ`∀´>「死ぬニダ!」
そうだ。
そうなんだ。
守ればいい。
自分が。
自分が守れば。
- 62: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:35:23.92 ID:x+lVgNNR0
男が引き金を引いた瞬間、ツンの目の前に「あの」光の壁が発生した。
その光の壁は、銃弾をものともせず、完全にその衝撃を吸収した。
勢いを失った鉛の銃弾が、地面にポトリと落ちる。
<ヽ`∀´>「な、なんだナリ!」
ξ゚听)ξ「え? え?」
ブーンは自分の手を見た。
光が生じている。粒子状で白く細かい光が、掌から生じている。
暗いこの場を照らすかのように。
いける、とブーンは思った。
その瞬間、光は収束していく。粒子はひとつになっていき、自分の手の上でひとつの形を作っていく。
相手を攻撃するためのもの……「剣」に。
( ゜ω ゜)「……守るんだお、みんなを、僕が……僕がぁぁ!」
光でできた剣。
まるでRPGででてくるような形をした剣。
それをしっかりと握ったブーンは、一気に銃を持つ男へと走り出した。
- 63: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:37:56.16 ID:x+lVgNNR0
<ヽ`∀´>「に、ニダ!」
( ゜ω ゜)「おおおおおおおおお!」
男が銃を何発も撃つが、ブーンの目の前に生じる光の壁が全て防いでしまう。
あと少しで手が届きそうな所まで距離をつめ、ブーンは右手の光の剣を斜めに振るった。
刃は銃に当たった。
まるで薄皮をナイフで切ったかのように、それは軽々と両断される。
軽い。それに切れ味も鋭い、この光の剣。
拳銃の銃口部分を失い、呆然とした表情を浮かべた男は、次の瞬間「な、なんだニダ! ひぃぃぃ!」と悲鳴をあげる。
( ゜ω ゜)「ええええああああああああ!」
もう一度、光の剣を振るう。
男の頬に刃がかすめ、皮膚を少しだけ切り裂いた。
- 64: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:39:38.39 ID:x+lVgNNR0
男の頬から流れてくる赤い血。
それを見たブーンは、頭に上っていった血が急速に冷えていくのを感じた。
切った。人を。自分が。
( ゜ω゜)「お、お?」
<ヽ`∀´>「ひいいいいい!」
恐怖で顔をゆがめた男が逃げていく。逃げ足が速い。
ブーンはその後ろ姿を呆然と見つめていた。もう彼が逃げようが立ち向かってこようが、どちらでもよかった。
切った。人を。
自分が切ったのか……え? 『気』は人には作用しないんじゃなかったのか?
愕然としたブーンは、不思議そうに自分の手の中にある光の剣を見つめた。
切れるのか? 人を?
誰に投げかけたかわからない疑問を思い浮かべていると、光の剣は徐々に光度を低くしていく。
そして、粒子状に戻り、飛び散り、消えた。
- 65: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:41:21.94 ID:x+lVgNNR0
ξ゚听)ξ「ブーン……」
('A`)「そりゃあ、いったい……」
(´・ω・`)「……」
3人が驚きの顔でこちらを見ている。
彼らの顔を見て、場にそぐわず、ブーンはほっとした。
守れた。自分の大切なものを、守ることができた。
そうか。これはそういう力なんだ。自分が守りたいものを守るための力。
川 ゚ ?゚) 「ブーン! お前達! 大丈夫か!」
クーの声が聞こえたと思うと、人影が慌てた様子でこっちに向かってくる。
きっと仕事が終わってビルに戻ってきた際、偶然自分達を見つけたんだろう。
この場は彼女に任しておけば大丈夫だ。
ブーンは自分の右手をもう一度見た。
光の剣はなくなっている。
だけど、出そうと思えばもう一度出せるような、そんな気がした。
もう自分の中には剣があるということなのだろう。
- 66: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 01:41:58.65 ID:x+lVgNNR0
※
「どうしてあなたは戦うのですか?」
「僕は守りたいものを守るために戦うのです……きっと」
僕の質問に、僕は答えた。
自信なさげな僕の声が、僕の耳に聞こえた。
第9話 完
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