( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 2: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:07:50.47 ID:RHVsE1FT0
- 第10話
「僕も……戦いますお」
「なに?」
※
狐「ブーン君が……君の手伝いをするって?」
川 ゚ -゚) 「はい……今日の朝、彼に言われました。『クーさんの仕事を手伝いたい』と」
所長室の中、2人の堅い声が響いている。
戸惑いと躊躇。ふたつの感情が同居しているその声と表情。
まるで、いい意味で「飼い犬に手をかまれた」。そんな感じだった。
朝の所長室ほど静かな場所はないが、今はクーと狐、そしてしぃの声が入れ替わり立ち代りに響いている。
- 3: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:08:59.43 ID:RHVsE1FT0
狐「彼は、その意味がわかって言ってるのかい?」
川 ゚ -゚) 「はい。『僕も戦えるから』と言いましたし、私の仕事についてもよく分かっているはずです。
一度、話したこともありますし」
(*゚ー゚)「けれど……戦えるんですか? 彼……」
しぃが心配そうに言う。
1週間ほどの保護生活の間、最も彼らと仲良くしていたのはしぃだ。
きっと弟のような存在であるブーンが戦うことに不安を覚えているのだろう。
クーは彼女の思いをひしひしと感じつつ、「それなんだが」と口火を切った。
川 ゚ -゚) 「昨日、見せてもらった。彼はもう、ほとんど自由自在に光の弾やら壁やら剣やらを出すことができる」
狐「それ、本当かい?」
川 ゚ -゚) 「はい。今日の朝にも確認しました。しかも驚いたことに……それらは、物や人にも『効く』んです」
その瞬間、狐としぃが息を呑むのがわかった。
- 4: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:10:52.21 ID:RHVsE1FT0
当たり前だ。こんなこと今までなかった。自分でもまだ信じ切れていない。
しぃも、人に効果を及ぼす『治療』を行うことができるけれども……それと『攻撃』とは別次元の話だ。
『治療』は比較的楽に行うことができる。相手の『気』の上に、自分の『気』を塗りたくるだけでいいからだ。
いわば、ペンキの上に新しいペンキを塗るようなもの。
だが、『攻撃』はまったく違う。
そもそも、『影』に対してだけ『気』が効果的な理由は、『影』と人間の『気』が相反するような現象を見せるから、というのが研究者達の共通見解だ。
『影』と『気』は、まるで磁石が反発しあうかのような現象を起こす。だから、『影』に『気』を浴びせれば、必然的にそれが『攻撃』となるのだ。
それはいわば、相性の悪いペンキとペンキを重ねるようなもの。
だが、人相手に『気』を浴びせることは、相性の良いペンキを重ねることに等しい。
人同士だと、反発するどころか、相手に同化したりすり抜けたりする (しぃの能力はこのうちの『同化』の要素を利用して、『治療』を行っている)。
それはまるで意味をなさない。
だから、『気』による『攻撃』は原理的に不可能なのだ。
よって人間が相手の場合、『気』を使った武器ではなく、普通に銃で戦った方が楽なのだ。
- 5: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:12:26.04 ID:RHVsE1FT0
なのに、その常識を覆したブーンの力。
いったい、なんなんだ、あの少年の力は。
狐「……確かに、彼が手伝ってくれたら非常に助かる」
3人が3人とも考え込んでいると、狐が唐突に口を開いた。
狐「けど……僕達の目的は保護だ。彼の力を使うことじゃない」
川 ゚ -゚) 「それは彼にも言いました。けど、彼は……『こんな状況を終わらせるには、【影】を残らず倒すしかないお。だから戦うんだお』と言っていましたよ」
狐「決意は固い、というわけか……もし私達がやめさせようとしても……」
(*゚ー゚)「彼は1人で戦いに行ってしまう……かもしれませんね」
それは非常に困る、とクーが言いかけたところで、やめておいた。
そんなことは誰だってわかっている。今ブーンが外に出たら、何が起こるかわからない。
彼の力を狙う組織はますます増えるだろうし、『影』と1人で戦い続けることで彼に危険が及ぶかもしれない。
パワーバランスの崩壊と、彼の身の危険。どちらも訪れてはいけないこと。
- 6: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:14:11.56 ID:RHVsE1FT0
狐「……」
狐が頭を掻いている。また色々と悩んでいるのだろう。
ブーンをそのまま保護しておくのか、それとも彼の希望通り戦わせるのか。
どっちも不安はある。ならば、リスクの少ない方を選ぶのがベターだ。
ということは……
狐「……もともと、この保護は強制じゃない」
心を決めた、というような声で狐が話を始める。
狐「私達が戦わせず、保護を強制すれば、彼は出て行くかもしれない。それは非常に困る。
だから、できるかぎり彼の希望通りに沿うようにしよう」
川 ゚ -゚) 「……いいんですか? パワーバランスの崩壊の可能性がありますし……それに、『人の子』の意味すらまだわかっていません」
狐「パワーバランスに関しては……他の組織への対処は、昨日の韓国人のように私達で行えばいい。彼が戦う相手はあくまでも『影』だ。
まあ、『影』がいなくなれば、こんな混乱した状況にも終止符が打てる。
『人の子』については……正直言って、わからない。彼の力はまだまだ未知なものだ。使うにはそれなりのリスクが伴うだろうけど……」
- 7: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:15:50.24 ID:RHVsE1FT0
(*゚ー゚)「使う方向を、私達が示してあげればいい、ということですか?」
狐「そうだね。けど、それは強制じゃない。彼の意思が一番大事だ」
(*゚ー゚)「ということは、彼の意思次第では、私達の敵にもなると……?」
狐「それもありえるだろうね。まあ……そうならないように、信頼を勝ち取るしかないんじゃないかな?」
信頼。
やはりそれが一番大事だ。強制ではなく、信頼で協力し合うこと。
それが最も大事で、大切なこと。
狐「それに、『影』と戦える人材は全然足りてない。私達としてもものすごく助かるしね」
川 ゚ -゚) 「では……彼にも戦ってもらうということで?」
狐「そうしよう。あくまでも協力だけどね」
最後に「協力」という言葉をことさら強調した狐は、すっきりとした顔でコーヒー牛乳をすすった。
- 9: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:17:36.48 ID:RHVsE1FT0
それを見ながら、クーは自分の拳が自然と固く握られていくのを感じた。
彼も戦うことになってしまった。誰のせいでもなく、彼の意思でそうなった。
こんな状況を打破したいと、彼は考えたのだろう。
それとも、何かを守りたいと思ったのだろうか?
どちらでもいい。これからは、彼は保護対象者ではなく、仲間だ。
戦いの中では辛いことが数多くある。悲しいこともある。それは不可抗力で感じてしまうこともある。
けれども、なるべく彼には感じてほしくない、そういうことは。
青筋が立ち、骨が浮かび出た自分の拳を見つめたクーは、これからはいつでも正念場だな、と小さく呟いた。
- 10: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:19:29.47 ID:RHVsE1FT0
※
ξ゚听)ξ「ちょっとブーン!」
( ^ω^)「い、イタ! な、なんだお?」
午後10時というまだ朝とも言える時間。
ビルの廊下をのろのろと歩いていたブーンは、いきなり後ろからツンに耳を引っ張られていた。
わけがわからず、痛みで声をあげるブーン。
ツンはなぜか、ものすごく怒っていた。
ξ♯゚听)ξ「どうしてあんなこと言ったのよ!」
(;^ω^)「そ、それより耳を離してくれお!」
力の無い抗議をすると、なんとかツンに耳を離してもらえた。
耳が痛い。ちょっと赤くなってるかも。
- 11: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:21:34.28 ID:RHVsE1FT0
ξ゚听)ξ「どうしてクーさんにあんなこと……!」
( ^ω^)「あ、あんなこと?」
ξ゚听)ξ「戦うってどういうこと? 説明しなさい!」
(´・ω・`)「そうだね。僕もそれは聞きたい」
('A`)「だな」
急に、近くのドアが開いて、ショボンとドクオが出てきた。
2人とも機嫌の悪そうな顔をしている。
(;^ω^)「な、何がだお?」
(‘A`)「とぼけんじゃねえよ。俺たちも聞いてたんだ。食堂でお前がクーさんに『僕も戦います』って言ってたのを」
うっ、聞かれてたのか。
今日の朝、食堂で朝食を食べているクーを捕まえて、自分の決意を告げたのだが……
まさか聞かれてたとは、計算違いだった。3人にはまた後で話すつもりだったのに……
- 13: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:23:36.48 ID:RHVsE1FT0
(´・ω・`)「どういうことだい? どうして君が戦う必要があるんだい?」
ξ゚听)ξ「そうよ! あんたが戦うことないじゃない!」
('A`)「納得のいく説明をしてもらおうか」
(;^ω^)「そ、それは……」
いきなりの修羅場にブーンはすっかり混乱し、何を言うべきかまったく分からなくなっていた。
本当はもっと言葉を考えてから話すつもりだったのに、こんな急に問い詰められては答えに困る。
いや、明確な答えはあるのだけれども、それをどう伝えるべきか……
そんなことを考えていると、「ブーン君」という静かな女性の声が後ろから聞こえて、ブーンは振り返った。
そこにはクーが神妙な顔で立っていた。
- 14: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:25:23.27 ID:RHVsE1FT0
- 川 ゚ -゚) 「取り込み中すまないが……用件だけ伝えておこう。会議を行ったところ、君の意志どおりに事は進みそうだ。
手伝ってもらうのは明後日以降となるが、その前に仕事について説明をしたい。
今から時間はあるか?」
( ^ω^)「え、あ、え〜と」
川 ゚ -゚) 「よかったらすぐに会議室に行ってくれ。所長が詳しいこと説明してくれるはずだ」
( ^ω^)「わ、わかったお」
川 ゚ -゚) 「うむ、ではな」
本当に用件だけ伝えに来たらしいクーは、それだけを告げると踵を翻してその場を去ろうとする。
だが、そんな彼女の前にツン達が立ちふさがった。みんな、どこか怒った顔をしていた。
ξ゚听)ξ「どういうことなんですか! ブーンが戦うって……!」
(´・ω・`)「ここでは保護だけのはずですよ。彼の力を使うのは約束に反する」
('A`)「もし強制的にでもやらせるっつうんなら、俺たちが全力で阻止しますよ……!」
- 15: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:27:40.35 ID:RHVsE1FT0
み、みんな……と声をあげそうになったが、それ以上に戸惑いが邪魔をして声がでない。
どうしてみんなは、こんなにも自分のことを心配してくれるんだ?
どうしてみんなは、こんなにも優しいんだ?
どうして……?
川 ゚ -゚) 「……これは彼の意志だ。私達から提案したことじゃない」
冷静な口調で言うクーの言葉に、3人は少なからず絶句した。
そして、驚きの顔のままこちらを見てくる。ブーンはいたたまれずに視線を外した。
川 ゚ -゚) 「そうだな……そう決めた理由、私も知りたい。ブーン君、教えてくれるか?」
( ^ω^)「僕は……」
ようやく頭が冷えてきたブーンは、ここ数日考えていたことを、一言一言、自分の言葉で紡いでいった。
クー達に保護されてばかりでいいのだろうか?
自分のせいで色々なことが起こっているのに、自分は何もしなくていいのだろうか?
自分は何ができるのか? 何がしたいのか?
自分の力を何かに使えないのか?
そう言った疑問や葛藤を踏まえた上で出した結論が『戦う』という行為だった。
- 16: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:29:42.31 ID:RHVsE1FT0
自分のせいで傷つく人を守りたいから。
こんな状況は、早く終わらせたいから。
だから、戦う。
ξ゚听)ξ「ブーン……」
(´・ω・`)「……」
('A`)「……」
川 ゚ -゚) 「そうか……」
ツン達の戸惑った顔と、クーの納得いったような顔が、それぞれ返ってきた。
ブーンは最後に言葉を結ぶ。
( ^ω^)「心配してくれてるのは分かってるお。けど、今は戦わなくちゃいけない、そんな気がするんだお」
それだけを言い切って、ブーンは口を閉じた。
あとは、みんなの言葉を待つだけだ。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:31:28.40 ID:RHVsE1FT0
ξ゚听)ξ「あんたがそこまで言うなら、そうしなさい! け、怪我には気をつけるのよ!」
ツンらしい、とげとげとした言葉だった。けど、彼女の思いは十分伝わった。
(´・ω・`)「君がそこまで決意しているとは……そうだね。プロテインだね」
ここまできてギャグをかますのはショボンらしい。
けど、それは言外に「君の自由に」と言っているように聞こえた。確信はないけど。
('A`)「……お前の好きにしろ」
短いけど、ドクオらしい言葉。
突き放したようで、優しさに満ちている。そんな感じ。
ブーンはそれぞれの言葉を受け取り、顔をあげた。
( ^ω^)「みんな、ありがとうだお」
お礼を込めた言葉も、彼らに伝わっているはず。
そう思いたい。
- 19: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:33:24.47 ID:RHVsE1FT0
川 ゚ -゚) 「ふ……ブーン、もういいか? 所長が待っている」
( ^ω^)「あ……わかったお。じゃあ、まただお、みんな」
ξ゚听)ξ「がんばりなさい」
(´・ω・`)「気をつけてね」
('A`)「うまくやれよ」
会議室へ向かう足を進めながら彼らの言葉を聞き、ブーンは思った。
こんな風に、友達に自分の意志を話して、許してもらうことなんて意味はないのかもしれない。
けど、自分にとってこれは意味がある行為だった。そうであるはずだ。
( ^ω^)(……僕はやるお)
いい友達を持ったなあ。
ブーンはそう思いつつ、歩き始めていた。
- 20: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 00:36:37.23 ID:RHVsE1FT0
※
ξ゚听)ξ「……ブーンが戦うなら、私達も何かしたいわね」
(´・ω・`)「そうだね。プロテ)ry」
('A`)「そうだな。俺たちにもできること……何かないっスか、クーさん?」
川 ゚ -゚) 「ん? そうだな……」
その一歩でようやく時間は動き出す。
不安はあったし、未来のことなんて何もわからなかった。
けど、一歩を踏み出すことに意味がある。
僕達はそんな気がしていた。
第10話 完
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