( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
2: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:30:34.99 ID:TD4MtPe40
  
第11話

暗い夜道は苦手だ。
前は見えないし、静か過ぎて怖い。いつ転ぶかもわからずにひやひやとしながら歩くのは嫌いだった。

けど、それ以上に。

『影』が見えにくいのが1番嫌だ。

( ^ω^)「クーさん! そっちに行ったお!」

川 ゚ -゚) 「む、任せろ!」

かすかにしか見えない『影』の身体。
目を凝らして、その動きを見切るのは結構大変だ。

今いる場所が学校の運動場だからいいものの、これがビルの裏道など、狭い場所なら不意打ち覚悟で退治しないといけない。
それぐらい、この『影』を狩る仕事は厳しい。



  
6: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:32:41.60 ID:TD4MtPe40
  

『影』はその身体を宙に浮かせ、クーの上を取った。
もちろん彼女はそれに気付いたものの、『影』は腕を伸ばして彼女の射程範囲外からの攻撃をしかける。

危ない!

( ^ω^)「クーさん!」

ブーンはとっさに精神を集中させ、クーの頭の上に光の壁――『光障壁』を発生させた。
それによって攻撃がはじかれ、『影』は地面に着地。すぐに間合いを取ってくる。

川 ゚ -゚) 「すまない、油断していた」
( ^ω^)「いいお。『光障壁』があるから、攻撃は通させないお」

川 ゚ -゚) 「ふむ……頼もしいことこの上ないのだが、その『光障壁』という名前はなんとかならんのか? 
     前も言ったが、技の名前など実戦では何の意味ももたない上に、どうも気が抜けるんだが」

( ^ω^)「かっこいいからいいんだお。それより、クーさんは右から行ってくださいお。僕は遠距離から援護するお」

川 ゚ -゚) 「了解だ」



  
7: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:34:18.71 ID:TD4MtPe40
  

ジャングルジムの上に立ち、こちらを伺っている『影』の方へとクーは走り出す。
『影』はそれに気付いて彼女に攻撃しようとするが、ブーンがそれをさせなかった。

( ^ω^)「はっ!」

掌から2、3個の光の弾――『光弾』を放つ。見事に命中。『影』は体勢を崩す。

その隙をクーが見逃すはずも無い。

川 ゚ -゚) 「ふっ!」

息を吐くようにして腰の日本刀を抜刀したクーは、ジャンプしてそのまま刀を薙いだ。
『影』の身体は横に真っ二つに切れる。相変わらず鋭い切れ味だ。

川 ゚ -゚) 「……終わったな」

ジャングルジムの上に着地したクーの言葉と同時に、『影』の身体は細かい黒い粒子となって消えていった。

これで、今日のお仕事は終わりだ。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:36:03.81 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「ふぅ……今日は2体もいるとは思わなかったですお」

川 ゚ -゚) 「2日に1体出るか出ないか、だからな。まあ、こんな日もあるさ……
     さて、そろそろ帰るぞ。本部、【クール】と【ピザ】、これから帰るぞ」

『了解』

耳にはめた通信機から声が聞こえた。男の声で、なんだか硬いけれども、これが仕事だと再認識させてくれる。

川 ゚ -゚) 「よし、今からヘリで東京までとんぼ返りだ」

( ^ω^)「ヘリよりも新幹線の方が静かでいいお」

川 ゚ -゚) 「今は夜中の3時だぞ? 無茶を言うな。名古屋から東京までならヘリが1番速い。飛行機は金がかかるしな」

( ^ω^)「はーい、ですお」

納刀した刀を袋詰めにしたクーに、ブーンは素直に返事した。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:38:01.43 ID:TD4MtPe40
  

辺りはまだ暗く、名古屋の一小学校の敷地であるこの運動場には、万引きの常習犯である少年達だけが残されていた。

気絶している彼らを見ながら、ブーンは心の底で何かが渦巻いているのを感じた。

それが何なのかはわからない。
けど、あんな年端もいかない少年(自分だってそうだけど)が、犯罪を繰り返しているなんて……どうも信じられないものだった。

ブーンとクーは彼らを横目に見つつも、その場はひっそりと去っていった。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:39:28.40 ID:TD4MtPe40
  



戦い始めてからまだ日も浅い頃。
12月も中旬に入り、寒さはいっそう厳しくなっていた。

VIP産業のビルの自分の部屋にて目を覚ましたブーンは、ぼーっとする頭を抱えながら起き上がった。

( ^ω^)「ふわあああ……眠くてたまらないお」

('A`)「そりゃあ、帰ってきたのが朝の6時だろ? 今が11時だから……ろくに寝てねえじゃねえか」

トランプ片手に話しかけてくるドクオが呆れた調子で言った。

ドクオの言うとおり、昨日名古屋で行った『影狩り』から戻ってきたのが朝の6時。
そこから少しでも寝ようと思ってベッドについたのだが、明らかに睡眠時間が足りていない。
クーは毎日こんなことをやっていたのかと思うと、彼女を尊敬してしまう。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:41:52.63 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「朝ごはんはもう終わったのかお?」

(´・ω・`)「もう昼だよ、ブーン。昼食は12時ジャスト。午後1時からはお勉強会だ。
     ドクオ、そろそろ自分の手札を決めてくれないか?」

( ^ω^)「うはwwww今日はしぃさんが先生だおwwwちょっと楽しみだおwww」

('A`)「あの人は教えるのが上手いからなあ……
   ショボン、もう少し悩ませてくれ。これが一世一代の大勝負なんだ」

ブーンは着替えをすませると、ドクオ達の手元を見る。またポーカーをやっているようだ。
ずっとポーカーばかりやっているけど、飽きないのだろうか? 
まあ、前みたいに大富豪をやるような時間はないけれども……

( ^ω^)「さてと……今日は稽古も入ってるから、もう少し寝ておくお」

('A`)「そうしとけ。おっ、キタ――――!!!!!」
(´・ω・`)「僕達が起こしてあげるね。って、ドクオ、いったい何がキタんだい?」



  
17: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:43:35.29 ID:TD4MtPe40
  

(‘A`)「ストレートだ!」
(´・ω・`)「な!……僕のツーペアを破るとはなかなかやるね」
(‘A`)「これで189勝21敗10引き分けだな」

( ^ω^)(いったいどれだけポーカーをやるんだお……)

ブーンは呆れた顔で2人の様子を見ながら、もう一度床についた。

頭はぼーっとしていて、数秒目を瞑ればすぐに夢の世界。
さらば〜、現実〜、フォーエバ〜



  
18 名前: ◆ILuHYVG0rg [wktk] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:44:34.35 ID:TD4MtPe40
  



戦い始めて数日が経った。

生活はまたもや変わってしまった。特に夜が。

2、3日に1度、ブーンはクーと一緒に日本全国を回る。
車やらバイクやら飛行機やらヘリやらを駆使して、『影』が現れると予言された場所にいち早く駆けつけ、犠牲者が出る前に『影』を倒す。
それが仕事だ。

これはけっこう疲れる。『影』はそれほど強くないし、一晩に2、3体ぐらい倒せばいいのだが、『日本全国』を回るための移動時間がきつい。
昨晩は名古屋だったが、その前は北海道、その前は沖縄など、本当に日本全国を駆けずり回らなくてはならないのだ。しかも一晩で。



  
19 名前: ◆ILuHYVG0rg [wktk多くて泣きそうだ…] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:46:02.66 ID:TD4MtPe40
  

これはかなりきつい。
1度ジェット戦闘機に乗って移動した時なんて、加速のGで気を失いそうになったぐらいだ。座りっぱなしで腰も痛くなるし。

まあ、それでもなんとかこなすことはできている。
クーと一緒に戦えば『影』もそれほど強くない。けっこう簡単に倒すことができるものだ。

ちなみに『予言』というのを誰がしているのかは知らない。
どこからともなくファックスが送られてきて、それを元に『影』の探知機を使って詳細な場所を調べて、自分達が狩りに行く、という手はずだ。

1度予言者についてクーに聞いてみたことがあるが、「機会があったら会わせてあげよう」と言われただけだ。
いったい誰がそんな『予言』をしているんだろうか? あ、そういえば『人の子』がどこに現れるかも予言してたっけ……それってけっこうすごいと思う。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:47:34.09 ID:TD4MtPe40
  

そんな夜の仕事と違って、昼はいたって平凡だ。

(*゚ー゚)「はい、この方程式が解ける人は?」

( ^ω^)「はいはいはいはいはいはい!!!!」
('A`)「うるせえ」
(´・ω・`)「というか、ブーンに解けるのかい?」
ξ゚听)ξ「無理ね」

(*゚ー゚)「はい、ブーン君」

( ^ω^)「わからないから教えてほしいお!」

(*゚ー゚)「わからなかったら手をあげないようにしましょうね〜」

あるビルの一室。
だけれども、その部屋は明らかに「学校の教室」の体をなしていた。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:49:26.96 ID:TD4MtPe40
  

ある日のことだ。
以前、「学校もきちんと卒業したいから勉強する」という自分達の言葉を聞いた狐が、急遽この部屋を学校の教室に作り変えてしまったのだ。
しかも学校に連絡して、どういう話をしたのか、ここで勉強すれば卒業するための単位がもらえるというではないか。

先生は狐、クー、しぃ、またはスタッフで手の空いている人がやることになり、生徒は自分達4人。
まるで過疎地の小学校のようだったが、狐達の教えっぷりは様になっており、今までの自主学習よりはるかに効率よく勉強できた。

にしても、こんなことにお金を使っていいのだろうか?



  
25: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:52:01.53 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「やっぱりわからないお。3次方程式とか、いったい何のためにあるんだお?」
('A`)「きっと山あり谷ありの人生を送ってきた奴が作ったんだよ、うん」

ξ゚听)ξ「現実逃避はやめて、早く勉強することね」
(´・ω・`)「もう僕達は課題終わったんだけどー」

(*゚ー゚)「ブーン君とドクオ君は居残り。あとの2人は帰っていいわよ〜」

なんだか本当に学校にいるみたいで、時々錯覚してしまう。
ドクオと2人で居残りするのなんて、学校で何度経験したことか。
非日常の中の日常に入り込めたような、そんな気がした。



  
26: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:53:29.27 ID:TD4MtPe40
  



――剣道場――

昼間の生活で変わった部分があるとすれば、教室型の部屋での勉強と、仕事のための訓練が入ったことだろう。

今まで、普通の高校生として普通の生活を普通に送ってきた自分としては、何かと戦うような体力も技術も心も持っていない。
いや、心はあると自覚している(自信はないが)から、体力と技術が足りない。

いくら光を出すような変な力を持っていたとしても、そういう基礎がちゃんとしていないと戦えない、とクーに言われた。

だから、毎日の午後に『戦闘訓練』の時間が設けられることになった。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:55:26.12 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「はぁああ!」

パーン!という竹刀の音が、剣道場に響き渡った。
クーが持っている竹刀に、振り下ろした自分の竹刀が当たった音だった。

川 ゚ -゚) 「脇が甘い!」

身体全体で力一杯振り下ろしたせいで体勢が崩れてしまい、その隙をクーに突かれた。
ちょんっと竹刀で肩を突かれ、ブーンはバランスを崩して尻餅をついた。

( ^ω^)「む〜……」

川 ゚ -゚) 「剣は、とかく派手に見られがちだが、実際は最小限の動きと力で相手を切りつけることに意味がある。
     身体全体を使うのはいいが、無駄な所に力が入りすぎている。もっとバランスを考えろ」

( ^ω^)「わかりましたお」

なぜクーに剣を習っているかというと、もちろん自分の手から出す光の剣を扱えるようになるためだ。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:56:13.76 ID:TD4MtPe40
  

光の剣――『剣状光』は、軽くて切れ味も鋭く、日本刀の名刀よりも使い勝手がいいのだが、なにぶん自分には剣術のスキルなんて全然ない。
まるで子供のチャンバラごっこのような使い方しかできず、一度クーにそれを見られて呆れられたほどだ。

だから、素人の手慰みが何の役に立つかはわからないが、やらないよりはマシだということでやり始めた。
クーの教え方も上手だし、とりあえず様にはなるようにしないといけない。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 00:57:57.12 ID:TD4MtPe40
  

ちなみに『剣状光』はブーンが自分でつけた光の剣の名前だ。
他にも、光の弾は『光弾』、光の壁は『光障壁』と名づけた。参考にしたのは某ロボットアニメ。
ブーン自身はこの名前をけっこう気に入っている。

だが、ドクオ達には
('A`)「厨くせえwww」
(´・ω・`)「もっといい名前つけなよ」
ξ゚听)ξ「馬鹿ねえ」
と言われ、

クーにいたっては
川 ゚ -゚) 「技に名前など必要ない。実戦でそれが有利に働くこともないし、技を出す時に名前を叫ぶのはアニメや漫画の世界だけだ」
と説教された。

けど、こういう遊び心は必要だと思うんだけどなあ……気持ちの問題だ、うん。



  
32: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:00:08.96 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「よし、竹刀はこれぐらいでいいだろう。
     で、次は……名前が何かは知らんが、あの光の剣を出してみろ」

( ^ω^)「『剣状光』かお?」

川 ゚ -゚) 「なんでもいい。竹刀より軽いらしいからな。それを持っての訓練もやっておかないといけまい」

ブーンはさっそく『剣状光』を出した。粒子状の光が手に集まり、剣の形を作る。
握りしめ、軽く振ってみる。
やっぱり竹刀より軽い。筋力があまり必要ないのがありがたい。その分、バランス感覚が必要になるけど。

川 ゚ -゚) 「毎度のことだが、不思議なものだ。『気』が剣の形をするとはな」

( ^ω^)「で、何をすればいいんだお?」

川 ゚ -゚) 「ふむ……私と少し打ち合ってみるか」

そう言うと、クーは竹刀に手をかざし、精神を集中し始める。だんだんと刃の部分が光り始める。
え? 打ち合う? クーと? いや、だけど……



  
35: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:01:53.34 ID:TD4MtPe40
  

(;^ω^)「あ、危なくないのかお?」
川 ゚ -゚) 「大丈夫だ。当たらなければどうということはない」

( ^ω^)「仮面つけたり、黒メガネつけたり、裏切ったりする人、ktkrwww」

川 ゚ -゚) 「何を意味のわからんことを……まあ、試したいこともある。まず、この竹刀を切ってみろ」

クーが竹刀を横に寝かせて、ブーンの前にかざす。
何を試したいのかわからないけど、ブーンはとりあえず竹刀に向かって光の剣を振り下ろした。

が、切れない。
光っている部分に当たった瞬間、小さく光が生じて、そのまま勢いを殺されて、それ以上切り込めない。
あれだ。某SF映画のラ○トセー○ーみたいだ。



  
36 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>34 違うねえ] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:03:51.20 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「き、切れないお……」

川 ゚ -゚) 「ふむ、そうか。『気』を張った物だと容易には切ることができないようだな」

( ^ω^)「ということは……」

川 ゚ -゚) 「どういう原理か知らんが、君の光は、『影』どころか普通の人間の『気』とも反発する作用を持っているようだな。
     まあ、この辺りは研究者が考えることだ。とにかく、今は訓練。行くぞ」

( ^ω^)「は、はいですお」

そうしてブーンはクー相手に、模擬戦闘の形で切り合った。
彼女の言葉は伊達ではなく、こちらの攻撃は一切当たらなかった。

まるで空気が流れていくかのように攻撃を避けるクーは、次の瞬間にはすばやく竹刀で一閃する。
何度か強めの攻撃も喰らってしまい、ブーンの身体は青い痣が出来てしまった。これでも手加減しているのだとか。

にしても、強い。どうしてそこまでにクーは強いのか?



  
38: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:05:43.93 ID:TD4MtPe40
  

理由を尋ねてみると、

川 ゚ -゚) 「実家が剣道場だった」

だそうだ。きっと子供の頃から剣術に慣れ親しんでいるのだろう。自分のような付け焼刃でかなうはずもない。

何度目かの模擬戦が終わり、休憩時間をとることになった。
2時間ほどぶっ続けで訓練していたから、もう身体がくたくただった。

( ^ω^)「つ、疲れたお……」
ξ゚听)ξ「おつかれ、ブーン。はい、水分補給」
( ^ω^)「ありがとうだお、ツン」

剣道場の端の方で眺めていたツンからペットボトル飲料をもらい、ブーンはそれを一気に飲み干した。
いい汗かいたー、という気分とはこういうものなのだろう。いつもよりおいしく感じられた。



  
40: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:07:13.02 ID:TD4MtPe40
  

ξ゚听)ξ「あんた、けっこう真面目にやってるのね。勉強もそれぐらいやればいいのに」
( ^ω^)「やらないと自分の身体が危ないから、危機感を持てるんだお。勉強にはそういうのがないお」
ξ゚听)ξ「それが大問題なのよ、あんたは」

ツンは、ブーンのトレーニングのお手伝いのような役をやっている。
スポーツドリンクを持ってきたり、タオルを渡してくれたり、汗のかいたシャツを洗ってくれたり、掃除してくれたり……
なんだか運動部のマネージャーのような仕事を、ツンは自ら進んでやっていた。

以前、どうして急にそんなことを? と聞いたことがあるが、答えは「暇だから」。
実に単純明快だ。

( ^ω^)「見てるだけで飽きないのかお?」
ξ゚听)ξ「雑用なんて探せばいくらでもあるわよ」
( ^ω^)「辛くないのかお?」

ξ゚听)ξ「それはあんたに聞きたいわね」
( ^ω^)「僕はそんなに辛くないお」

嘘ではない。嘘ではないがそう答える自信があるわけでもない。

辛いといえば辛い。けど、これは必要なもののような気がするのだ。戦うためには……
だから辛くはない。けど、気持ちが折れれば辛くなる。自分は中途半端だな、本当に。



  
41 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>39 あんたすげえwww] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:09:08.32 ID:TD4MtPe40
  

ξ゚听)ξ「ふーん、なら私もよ。暇な時間を過ごすより100倍はマシだわ」

へ〜、とだけブーンは返しておいた。

暇よりはマシ、か。ということはあの2人も「暇よりマシだから」という理由であんなことをやっているのだろうか……

('A`)「つ、ツン……俺にも水……」
(´・ω・`)「やあ、ブーン。君も休憩かい?」

とつぜん、剣道場にドクオとショボンの2人が入ってきた。
2人共空手着らしきものを着ていて、汗をだらだらと流している。ドクオの左手は痙攣を起こしていた。

('A`)「し、死ぬ……」
(´・ω・`)「ドクオ、体力がなさすぎるよ。瞬発力はいいのに。日ごろの運動不足が原因だね」
('A`)「将来ニート志望の俺に体力を求めんじゃねえ……つ、ツン、早く……」



  
42: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:11:06.77 ID:TD4MtPe40
  

ξ゚听)ξ「はいはい。ちょっと待ってなさい」

( ^ω^)「2人は何をしてたんだお?」

(´・ω・`)「組み手。モナーさん、けっこう強くて疲れたよ、うん」
('A`)「俺はもう駄目だ……」

剣道場の隣には畳を敷いた柔道場がある。
どういうわけか、2人はそこで格闘術の稽古をしているらしいのだ。

なぜそんなことを? と聞いてみたら、「暇だから」という、ツンとまったく同じ答えが返ってきた。

暇だったら、もっと楽しいことをやればいいのに、どうしてまた格闘術を……よくわからない2人だ。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:13:01.01 ID:TD4MtPe40
  

( ´∀`)「あれぐらいでバテてるようじゃ、先が思いやられるモナ」

みんなで一緒に水を飲んでいると、また1人剣道場に入ってきた。

ブーンもよく知っている人物、モナーだ。

この組織ではクーと同じぐらいの地位にあり、主に白兵戦・格闘術を得意とするとか。
見た目は、20代後半のちょっと太めな体操のお兄さんのようだ。
保護生活の3日目ぐらいに初めて紹介されて以来、あまり話したことがないけど、優しくて頼りになる人らしい。

だが、そんな噂と反して、彼の姿を見た途端、ドクオが「げっ!」と声をあげ、恐怖で顔を引きつらせていた。

('A`)「く、くるな……俺はもうボコボコにされたくねえんだ」

( ´∀`)「人聞きの悪いことを言うんじゃないモナ。あれは受け身の訓練だモナ」

( ^ω^)「モナーさん、どうして2人を鍛えてるんだお?」

( ´∀`)「クーさんに頼まれたんだモナ。
      それよりブーン君、最低限の筋肉はついてきてるモナ。きっとクーに鍛えられたんだモナ」

川 ゚ -゚) 「まあな。これぐらいやらないと意味がない」



  
44: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:15:12.84 ID:TD4MtPe40
  

今度はクーが話に割り込んでくる。剣道場の端なのに、人口密度がえらく高くなってきた。

クーは「まあ」と相槌を打ちながら、ブーンの腹の肉をつかむ。

川 ゚ -゚) 「もう少しやせなくてはいけないがな」

( ^ω^)「ダイエットは勘弁だお。僕はいっぱい食べないとイライラするんだお」

川 ゚ -゚) 「何を言う。そもそもダイエットとは、バランスのよい食事と運動をだな……む、もうこんな時間か。ブーン、訓練の再開だ。準備しろ」

もうそんな時間になってたのか。そういえば、話し込んでいたから時間を見るのをすっかり忘れていた。

( ´∀`)「ドクオ君とショボン君もやるモナ。次は空手の型だモナ」

('A`)「うへぇ、仕方ねえか」
(´・ω・`)「ま、ほどほどにやろうか」

嫌な顔をするドクオとは対照的に、ショボンはそれほど疲れていなさそうだ。
モナー曰く「腰が強い」らしいショボンだが、いったい何で鍛えたのだろう? 
本人に聞くと「まあ、いろいろあるんだよ、ウフフフ」と笑っていた。少し寒気もした。



  
46: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:17:03.86 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「さて、次は光の壁と組み合わせてやってみるぞ」

( ^ω^)「わかったお。『光障壁』はそう簡単に破れないはずだお」

川 ゚ -゚) 「まあ、確かにな。では行くぞ」

訓練はそれから1時間ほど続いた。
光を出すのは疲れないけれど、クーと何度も打ち合うのに神経を使った。
彼女と向き合うだけで精神が疲れてくる。

それだけでも、彼女は本当に強い人だな、と思う。



v 47: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:18:49.05 ID:TD4MtPe40   



訓練もほどほどに終わり、時間は夕方にさしかかろうとしていた。
これから夜までは自由時間だ。今夜もまた仕事があるので、十分に休んでおかないといけない。

ボロボロになったドクオ、普通に笑っているショボンと共に、ブーンは剣道着から普段着に着替えて、自分の部屋に戻ろうとした。
だが、クーに呼び止められた。なんでも見せたいものがあるとか。

( ^ω^)「何を見せたいんだお?」

川 ゚ -゚) 「君がここに来ることになった原因のひとつさ」

連れてこられたのは地下2階。夜の探索でも足を踏み入れたことのない「最重要封鎖区域」だった。

エレベータを降りると、すぐ目の前に大きな観音開きのドアがあった。
茶色で窓がひとつもついておらず、ヨーロッパの映画でよくこういうのがあった気がする。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:21:06.28 ID:TD4MtPe40
  

(*゚ー゚)「あら? クーさんと……ブーンさん? 珍しいお客さんですね」

ドアの横にU字型の机があり、そこにしぃが座っていた。持っていた書類から目を上げて、ほがらかな笑顔で迎えてくれた。

( ^ω^)「しぃさんかお? こんな所で何をしているんだお?」

(*゚ー゚)「私は、特別な仕事がない時はこの部屋の管理人をやっているんです。今日来たのは……あれですか?」

川 ゚ -゚) 「ああ、あれだ。案内してくれ」

(*゚ー゚)「わかりました。私についてきてください」

示し合わせたように視線を合わせた2人。
扉が開き、ブーンは2人の後ろを黙ってついていった。

中に入った瞬間、驚いた。
何もない、薄暗くて体育館のように広い部屋でしかなかったからだ。
置物のひとつも置かれておらず、物置だとしても殺風景すぎる空間だった。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:22:36.36 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「ここはいったい何の部屋なんだお?」

(*゚ー゚)「まあ、見ていてください……はい、ここです」

しばらく歩き続け、部屋の1番奥にたどりつくと、しぃがおもむろに茶色の壁に手を当てた。
なんだ? と思った瞬間、しぃが手を当てた部分だけが四角くくぼんだ。

もしかして、スイッチ?

その予想は当たり、四角くくぼんだ部分がさらに奥にいくのと合わせるかのように、足元の床の一部分が四角柱状にせりあがってきた。

それが腰の辺りまで上がってくると、しぃは上面の一部分を触る。すると電卓のようなナンバーを押す装置が出てきた。
そして、見えない速度で十数桁のナンバーを押すしぃ。

ピー、という音と共に上面が自動で左右に開いて、天井からライトが照らされる。

ブーンは目を見開いた。

中には箱状のガラスに囲われた1冊の本があった。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:24:29.90 ID:TD4MtPe40
  

中には箱状のガラスに囲われた1冊の本があった。

(;^ω^)「な、なんだお……」

(*゚ー゚)「以前話しませんでしたか? 『人の子』が現れることが記された予言書……これがそれです」

しぃが白い手袋をはめ、ゆっくりとその本のページを繰り始めた。
表紙は茶色で題名も何も書いておらず、中は赤茶けた紙――いや、これは紙じゃなさそうだ。
紙っぽいけど紙じゃない……そういえば世界史の授業で、昔の書物は紙ではなく羊の皮を使っていたって言ってたっけ?

その1ページ1ページには、見たこともない文字がぎっしりと書きつめられていた。

川 ゚ -゚) 「ここには様々な事柄が予言されている。それが全て当たっているというわけではないが……
     少なくも、1999年に地球が滅びると言った予言書よりは信用できるものだ」

(*゚ー゚)「このページです……見えますか?」

しぃが示したページを見てみる。
アルファベットみたいな文字がぎっしりと詰められている。
こんな文章どころか英語も読めないブーンには何が書いているのかまったくわからない。



  
54: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:26:00.15 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「読めないお……」

(*゚ー゚)「それは仕方ないですよ。大昔に滅びた文字で書かれてありますから。
    まあ、書いてあることは簡単です。『影が現れ、人の世が混乱した時、【人の子】が現れる』。
    以前話した内容と同じような感じです」

( ^ω^)「そうなのかお……」

そんな昔に、『人の子』が現れることを予言するなんて……いったい誰がこれを書いたのだろう?
それを聞いてみると、返ってきたのは「分からない」という答えだった。vとしては大変貴重なんですけどね」



  
55: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:28:19.26 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「そういえば、これの次のページ破れてるお」

(*゚ー゚)「ちょうど『人の子』について書かれているところの次のページですね……次のページについては何もわかっていません。
    文脈で判断する限り、『人の子』について書かれているようなのですが……」

川 ゚ -゚) 「文章は『彼は自分の外にも中にも光が存在することを認識する』という部分で切れているらしい。
     ……何のことかまったくわからんな」

(*゚ー゚)「『光』とは、ブーン君が出せる光に関係があるかもしれませんね」

川 ゚ -゚) 「では、『自分の外にある光』とはブーンが出す光のことか? なら、『中にある光』はなんだ?」

(*゚ー゚)「さあ……そこまではさすがに……そもそも『外にある光』がブーン君の光なのかもわかりませんし」

クーが難しい顔をして言い、しぃが肩をすくめてそれに答える。

なんだか難しいことを話している。自分には何も理解できない。

そもそも、どうして自分をここに呼んだんだ?
ブーンはそんな疑問が浮かび、「あの……」とまだ話し合っている2人に声をかけた。2人がこちらを向いた。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:29:49.93 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「どうして僕にこれを見せたんだお……?」

川 ゚ -゚) 「ああ……君なら何かわかるかもしれないというのが理由の半分。
     君がここに来る原因を話しておきたいというのが半分、だな」

( ^ω^)「何かわかるって……文字も読めないし、見せても意味がないと思うお」

そう言いながら、赤茶けた本を再び見てみる。やっぱり何もわからない。何も感じない。

川 ゚ -゚) 「まあ……期待はしていなかったらいいさ。とりあえず見せたかっただけだ」

( ^ω^)「そうですかお……それはありがとうですお」

川 ゚ -゚) 「お礼を言う必要はないさ。
     君がこんな状況に巻き込まれることになった理由を、私達はできるかぎり話しておきたいと思った。それだけだ」

顔を背けて、冷たい声で言うクー。

その横でくすりと笑うしぃ。

クーが少し照れたような顔をしたのは、気のせいだろうか?



  
58: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:31:16.76 ID:TD4MtPe40
  



穏やかな夕方はすぐに過ぎ去り、時間は夜。仕事の時間。

今夜の仕事場所は、比較的近かった。最近は北海道やら沖縄やらばかりで疲れていたので、ちょうどよかった。

クーのバイクに二人乗り、ブーン達はファックスで送られてきた『影』の出現予定場所に向かう。
黒いジャケットと黒いGパンをおそろいで着ている自分達。周りからはなんだか不思議なペアに見えたことだろう。

まあ、その服を着ると、なんだか闇の仕事をしているというような気がしてきて、気が引き締まるけど。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:32:48.55 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「今日は都内なのかお?」

公道を制限速度ギリギリで走るクー。大声で話さないと声が届かず、ブーンは腹の底から声を絞り出す。

次々と変わる景色。クーが「そうだ」と答えた。

川 ゚ -゚) 「今日はこの場所ひとつだけだ。それほど辛くはない仕事だから、安心しておけ」

安心しておけ。

クーは、仕事に入る前に絶対そう言ってくれる。
その一言のおかげで、非日常的な活動をしているというプレッシャーと不安から解放される。少しは笑ってられる。
この人は本当に強い人だ。こんなにも他人に気を配ることができるのだから。

バイクはどんどんと進み、1時間後に指定の場所にたどりついた。

バイクから降り、軽く辺りを見回してみる。新興住宅が多く立ち並び、平凡な街並みだった。
これまでの仕事場所とはだいぶ雰囲気が違う。『影』は犯罪者を狙うので、必然的に出現場所は治安の悪い地域が多い。
だけど、今回は治安がよく、雰囲気も明るい。灯りも多くて、『影』や犯罪者が出るような街には見えなかった。



  
63: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:34:21.61 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「ふむ……いるな、『影』が」

日本刀の入った長細い袋を手に持ち、クーが呟いた。
『影』の気配を感じることができるクー。以前ブーンもやろうとしてみたが、できなかった。
どうしてそんなことができるのか、いつも不思議に思う。しぃさんや他の『気』を操る人なら誰でもできるらしいが……
コツのようなものでもあるのだろうか?

川 ゚ -゚) 「こっちだ。行くぞ……こちら【クール】。本部、応答してくれ」

狐『こちら本部、聞こえてるよ』

マイクとスピーカーの両方を備えたイアホン型の通信機から、狐の声が聞こえた。
本部とはこうやって定期的に連絡を取り合いながら、仕事を行うことになっている。
本部にも一応『影』の探知機があり(性能はかなり悪いみたいだが)、『影』のだいたいの場所を教えてくれるのにも一役買っている。



  
64: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:35:53.87 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「一応こちらでも『影』の気配をつかんだが、そちらはどうだ?」

狐『うん、それに関しては専門のオペレーターにやってもらうよ。どうぞ』

ξ゚听)ξ『あー、あー。聞こえますか?』

( ^ω^)「ツン!」

ブーンは思わず大声をあげてしまった。クーに「静かに」と注意され、慌てて口を閉じる。
自分達の仕事は、あくまで水面下で行われなければならない。
こんな街中で大声をあげるなんて言語道断。

最初の仕事の説明で言われたことを思い出したブーンは、「ど、どうしてツンが…」とマイクに小さく声を吹き込んだ。

ξ゚听)ξ『私ができることを探しただけよ』

( ^ω^)「け、けどこんなことしなくたって……」

ξ゚听)ξ『あんたが戦って、私は後ろでサポートする。それだけよ。文句ある?』

( ^ω^)「な、ないですお」

声だけでもツンの迫力が感じられて、ブーンは思わず頷いてしまった。
にしても、どうしてツンが……



  
65: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:37:22.33 ID:TD4MtPe40
  

狐『彼女がやってくれた方が、気持ちの上で安心できると思ったからね。まあ、大丈夫。私達がしっかりと教えたから』

ξ゚听)ξ『というわけで、これからは私が誘導します。よろしく。
    クーさん、じゃなくて【クール】も掴んでいると思われますが、目標はその地点から西南西300メートルの付近に反応があります」

西南西300メートル。
住宅街の真ん中辺りか……?

ξ゚听)ξ『その付近では、重大な事件は起こっていません。
    ただし、空き巣被害の届けが多数出されており、目標に狙われる犯罪者はその犯人ではないかと推測されています』

空き巣被害か。これだけ高級住宅が並んでいるんだ。どれだけ空き巣防止策が貼られていようと、犯人にとっては宝の山のように見えるのだろう。

ξ゚听)ξ『【クール】と【ピザ】はこれより指定された地点にて潜伏。
   【影】が現れたら、そこからは自己判断で排除行動に移ってください』

川 ゚ -゚) 「【クール】、了解」
( ^ω^)「【ピザ】、了解だお」



  
66: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:39:10.96 ID:TD4MtPe40
  

【クール】と【ピザ】とは、仕事中のクーとブーンに与えられた呼称だ。
通信傍受の防止はやっているが、呼称で呼んだ方がより安心だとか。

どうして自分がが【ピザ】なのか、狐に聞いてみたところ、「ちょっと太ってるから」という単純明快な答えが返ってきた。
自分としてはそれほど太ってるつもりはないのに、どうして周りはこう「太い」「太い」と言ってくるんだろう。
本当にダイエットしようかな。

川 ゚ -゚) 「行くぞ」
( ^ω^)「はいですお」

いけない、いけない。今は仕事中だ。

ブーンは精神を集中し、いつでも臨戦態勢に入れるようにする。
手が少し震えているのは、武者震いだ、きっと。

そう思いたい。
いや、そのはずだ。



  
67: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:40:26.90 ID:TD4MtPe40
  



高級住宅街というのは、どうにも普通の住宅街とは雰囲気が違っている。
道ひとつとってもそうだ。普通なら、ゴミのひとつは落ちていてもよさそうなのに、紙くずのひとつも転がっていない。
それどころか、ゴミ箱自体が存在していないのだ。
街の景観をよくするためのなのだろうけど、いったい空き缶とかはどこに捨てているのだろう? 持って帰るのか?

それに、それぞれの家の壁は高く、かつ高級そうだ。
時にはカフェテラスやレストランのような店がポツンとあったりして、なんだか別の国に来たような感覚に陥ることがある。

そんなことを考えながら街中を歩き、ブーン達は指定ポイントにつく。
そして、適当な所に潜伏しようとしたその時だ。

予想外のことが起こった。

クーが、急に険しい顔になり「いる」と小さな声で言ったのだ。



  
68: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:42:43.33 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「な、何がですかお?」

川 ゚ -゚) 「『影』だ。おかしい。まだ早いはずだ……」

クーが周りを見渡す。彼女にしか感じえない『何か』を探っているのだろう。

と、「ちっ! あっちだ!」と言いながらクーが走り出した。
ブーンはわけがわからずにそれについていく。

ξ゚听)ξ『【クール】、どうしました?』

川 ゚ -゚) 「目標の気配をはっきりと感じた。
      この気配の大きさ……もう人を襲っている最中だと思われる」

ξ゚听)ξ『そんな……予言された時間までまだまだ早いはずだけど……どういうこと?』

ツンの動揺した声が聞こえる。

狐『オペレーター、落ち着いて。【クール】、感じた場所までは遠いかい?』

川 ゚ -゚) 「いえ、すぐ近くです。もうすぐ着きます……あ、いえ、ちょっと待ってください」



  
69: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:44:10.63 ID:TD4MtPe40
  

クーが曲がり角を曲がると、急に立ち止まった。
ブーンは彼女の背中にぶつかりつつも、彼女の視線の先にあるものを見据えた。

誰かが倒れている。

ブーンは「ま、まさか……」と呟いた。頭が真っ白になってくるような感じがする。

もしかして、もう犠牲者が……?

川 ゚ -゚) 「いや、あれは死んでいない。頭もちゃんとついている……」

( ^ω^)「え? ということは……またですかお?」

川 ゚ -゚) 「ああ。『影』の気配が消えた……本部、そっちはどうだ?」

ξ゚听)ξ『あ、はい。そうですね。目標の反応も完全にロスト。
    逃げた様子もありませんし、「消えた」という表現が1番正しいでしょうね』

狐『ふむ……これで3回目か……』

狐の神妙な声に、ブーンは(またかお……)と頭の端っこで考えた。



  
70: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:45:51.23 ID:TD4MtPe40
  

ここ最近、予言どおりに『影』の出現場所に赴いても、『影』が突然消えてしまう事がある。

『影』の気配は確かに感じる。
だが、突然その気配が大きくなったかと思うと、そのすぐ後には消えてしまうのだ。

そして残されたのは、気を失った犯罪者だけ。

どうにも奇妙な現象だった。

狐『……ふむ。まあ、このことは後で話し合ってみよう。とにかく今は事後の手続きを行っておいてくれ』

川 ゚ -゚) 「了解」

通信終了。次にクーは、盗聴と逆探知が防止された携帯電話を取り出し「110」を押した。

仮にも、目の前で気を失っているのは犯罪者だ。
事前に写真で確認したとおり、その倒れている男は「空き巣常習犯」のようだった。
ちゃんと警察に連絡して、逮捕してもらわないと。

警察につながったのか、クーが話し始める。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:47:16.24 ID:TD4MtPe40
  

一方、ブーンは気を失っている男の方を見てみた。

男は、背広と皮のバッグを持ったサラリーマン風の格好をしている。
一見すれば真面目そうだが、どうして空き巣なんかやったのだろうか……

今日本では犯罪者が増えてきているとか。
『影』もそれに比例するかのように増えており、まるで『影』が犯罪者狩りをやっているかのようにも思えた。

いったいどうなるのだろう、この世の中は……

川 ゚ -゚) 「ええ。そうです。では」

警察に連絡し終えたようだ。クーが携帯電話をポケットにしまいこみ、こちらに顔を向けた。

川 ゚ -゚) 「どうした?」

考え込んでいるのがバレたのだろう。無表情だったが、声色から心配しているとわかるクー。



  
74: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:48:44.71 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「いえ……どうして『影』は犯罪者を狙うのかなあ、って思っただけですお」

川 ゚ -゚) 「ふむ……それはわからん。
     だが、阻止しなければならない、というのはわかるだろう?」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚) 「まさか、犯罪者なんだから『影』に殺されてもいい、とでも思っているのか?」

( ^ω^)「そ、そんなことは思ってないですお。けど……なんだかよくわかんないんですお。
      犯罪が多くなったり『影』が出てきたり……その中で、僕がやっていることに意味があるのかなあ、って……」

少しだけ、心の中に溜まったものを吐き出すブーン。
こんなことを考えていては、守りたいものを守れないかもしれない。けど、考えずにはいられなかった。

どれだけ『影』を倒しても犯罪者は減らないし、『影』もいなくならない。
それどころか、もっと混乱しているような気もしてくる。

こんな混沌とした社会の中……自分はどれだけのことがやれているのか、わからなくなっていた。
自分のようなちっぽけな存在に、何ができるのか。



  
78: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:51:03.96 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「……人間社会というのは、ルールによって成り立っている」

クーが唐突に話し始めた。

川 ゚ -゚) 「全てのルールに従わなければいけないわけではない。だが、少なくとも自分にとって正当的だと思えるものには従うべきだ。
     ルールに縛られることは悪いことじゃない。言葉や服装も一種のルールでしかないしな。
     犯罪者を憎むのは仕方のないことだ。だが、社会にとっても人間にとっても重要なのは、その犯罪者を正当でかつ公的な場で裁き、罰を与え、できるかぎり更正させること。
     犯罪者を全て死刑にすれば、犯罪がなくなるわけではない。罰を重くすれば犯罪が減るわけでもない。
     重要なのは、人の心を、どれだけ社会に適したものにするか、だ。
     そのように社会を安定させるため、私達は戦っている……こう考えられないか?」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚) 「まあ、これは私の考えでしかない。君は君の考えを持てばいい」

( ^ω^)「……はいですお」

正直、クーの言っていることを半分も理解したとは思っていない。

けど、その言葉は心に染み渡った。少なくとも、クーは自分なりの信念をもって行動しているのだとわかった。



  
80: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:52:35.25 ID:TD4MtPe40
  

ならば……自分は?

自分はこれほどの信念をもって行動できているのだろうか?

『守りたいものを守る。そして日常を取り戻す』

それを言葉でどれほど表してみても、はたしてこれが自分の心に、みんなの心に響き渡らせることができるのだろうか。

自分の心は……いったい……

撤収の準備をしながら、ブーンは考えた。
けど、冬の風は容赦なく体に吹きつけ、思考の邪魔をしてくる。
風に吹かれたぐらいで考えが止まってしまうなんて、信念が足りない象徴なのかもしれない。

ブーンは肩を落として、ため息をついた。
ため息は、暗闇の中でも白く濁ったように見えていた。

第11話 完



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