( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 2: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:46:50.10 ID:cEpGzgeR0
- 第12話
Purururruru
電話が鳴っていた。
コートのポケットに突っ込んでいる携帯電話が、無機的な着信音を鳴らしている。
とりあえず、ベッドから起き上がるのが面倒なので数十秒間放置しておいた。
だが、着信音は止まらない。ずっと鳴り続ける携帯。
しつこい。このしつこさはきっとあいつだ。
ギコは渋々ベッドから起き上がり、コートのポケットに手を入れた。
( ,,゚Д゚) 「くはぁ……俺だ」
『また寝てたんですか?』
やっぱりだ。
まったく、このリーダー様は諦めるということをまるで知らない。
こんな些細な電話でさえ、しつこく目的を達成しようとしてくる。
いや、リーダーとしては良い性格なのだが……周りの人間の苦労も少しは知ってほしいものだ。
- 3: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:48:32.33 ID:cEpGzgeR0
( ,,゚Д゚) 「あのなあ、今何時だと思ってんだ? 朝の6時だぞ、6時。俺は寝不足なんだゴラァ」
『ああ、それはすみません。けど、仕事なんで仕方ないですよ』
( ,,゚Д゚) 「ふん……もっと老体をいたわりやがれ」
40代も中盤に差し掛かったこの身体は、多少の寝不足でも悲鳴をあげる。
歳を取ったな……という口癖を出すにはまだ早いが、若い頃に比べれば嫌でも体力も気力も落ちてる。
目をこすり、身体に鞭打って、ギコは受話器に耳を当てた。
- 4: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:49:52.49 ID:cEpGzgeR0
( ,,゚Д゚) 「で、早く用件を伝えろゴラァ」
『そろそろ流れが変わりそうなんです。
俺たちとしては、その前に【人の子】について見極めたいので、兄弟を差し向けようと思っています』
( ,,゚Д゚) 「ふん……流石兄弟を仕向けるのか」
『ええ。ギコさんにはその援護をお願いしたいんですが』
( ,,゚Д゚) 「OKだ。やるのはいつだ?」
『今夜の晩にでも』
( ,,゚Д゚) 「おし、俺はいつでもいけるぞ」
急に頭が覚めてきた。
仕事の話が舞い込んでくると、長年の習性からかすぐに身体が覚醒してくる。仕事モード、とでも呼べばいいのだろうか。
今日の予定をすばやく頭の中で組み立てつつ、ギコは顔を洗うために洗面所に向かう。
- 5: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:51:14.04 ID:cEpGzgeR0
『あと、情報操作についてもお願いします。特に【赤坂】に対して』
( ,,゚Д゚) 「そんなことは言われなくてもわかってるぜゴラァ」
『まあ、あまり必要ないかもしれないですけどね。最近、世界中の組織で強硬派が少なくなっています。
【人の子】を力でもって手に入れようとする輩は少ない』
( ,,゚Д゚) 「そうなのか? 方針の転換ってやつか? ゴラァ」
『はい。無理矢理手に入れるよりも、【VIP】に協力して同じ船に乗る方がリスクも少ないですし。懸命な判断ですよ』
( ,,゚Д゚) 「そうかい」
ギコは顔を2、3度洗ってタオルで拭き、再び携帯に耳を当てた。
まだまだリーダー様の話は続く。
- 7: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:53:04.29 ID:cEpGzgeR0
『【VIP】の戦略は非常に緻密です。さすがにやり手と呼ばれる人が所長をやっているだけのことはあります』
( ,,゚Д゚) 「あの女もいるしな」
『そうですね』
歯を磨き、ぼさぼさになった頭を水で整える。ま、こんな所だろ。
腰の高さしかない小さな冷蔵庫をあさってみるが、中には何も食べれそうなものがなかった。
最近は買い物も行ってないし、当たり前か。
『では、今日の夜、お願いします。また連絡するので』
( ,,゚Д゚) 「おう……そうだ、ひとつ言いてえことがあるんだが」
『はい?』
ギコは唯一残っていたアンパンを手に取り、口に含む。賞味期限が一ヶ月も過ぎているが、まあ大丈夫だろう。
- 8: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:54:44.73 ID:cEpGzgeR0
( ,,゚Д゚) 「お前、敬語が似合わねえな」
『……尊敬する人に対して敬語を使うのは当たり前ですよ』
( ,,゚Д゚) 「へえ、そうかい」
『では、こんな口調でもいいんですか? じゃあ、ギコ。これから頼むぞ』
( ,,゚Д゚) 「それはそれで感じが悪いな」
クックックッ、と笑い声を漏らしてしまった。
本当にこのリーダー様は単純で、かつ面白い人間だ。
『からかわないでください……では、後ほど』
( ,,゚Д゚) 「ああ、じゃあな」
ぴっ、という音と共に電話は切れた。
- 9: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:56:29.85 ID:cEpGzgeR0
さて、とギコは自分の部屋を見回した。
都内に建つ平凡なワンルームマンション。その一室は、入居当初と比べてまったく変わっていない。
生活の匂いがしないとでも言えばいいのだろうか?
あるのは冷蔵庫とベッドとガラスのテーブルだけ。テレビもパソコンもエアコンすらない。
まあ、寝食のためにしか使ってないから仕方ないのだけれども。
ギコは壁にかけてあった、1メートル大の木の弓を見つめた。
今日はこれの出番はないな……
そう呟き、ベッドの下に手を伸ばし、目的のものを手に掴む。
拳銃――コルト・ガバメントは、いつもと変わらずそのフレームを黒光りさせていた。
- 10: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 22:58:09.90 ID:cEpGzgeR0
※
( ^ω^)「お、お、お〜。眠いお〜」
朝の10時、VIP産業ビルの廊下を、ブーンはゆらゆらと歩ていた。
足取りは軽いものの目の下には隈が出来ており、意味不明な歌を口ずさみながら歩く姿は、まるで酔っ払いのようだった。
( ^ω^)「ぶ、ぶ、ぶーん。ブーンが飛ぶ〜」
やげて、目的地にたどりついた。
社員食堂。いつもブーンはここで朝ごはんを食べていた。
扉を開けて、周りを見渡す。テーブルの一角に見知った顔がいた。
- 12: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:00:20.89 ID:cEpGzgeR0
( ^ω^)「おいすー」
('A`)「おう、ブーン。今起きたのか?」
(´・ω・`)「遅いね、いつも。それだけ夜の営みが大変ということかな?」
ξ゚听)ξ「営みじゃなくて『仕事』でしょ。ショボンはいっつもそういう方向に持っていこうとするんだから」
おなじみの面々。彼らの顔を見るとなんだかホッとしてくる。
ブーンはカウンターで鮭定食を受け取り、彼らと同じテーブルに座った。
( ^ω^)「昨日は仕事がなかったから、まだ楽だお。けど、最近夜が眠れなくなってるんだお」
('A`)「完全な昼夜逆転生活してるもんなあ」
(´・ω・`)「それに比べて、僕達は生活リズムが戻っちゃった。夜が眠くて仕方ないなんて、なんて健康的な生活だろう」
ξ゚听)ξ「私はサポートしてるから、リズム狂いそうなのよねえ……夜更かしはお肌の敵なんだけど」
- 13: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:01:10.44 ID:cEpGzgeR0
( ^ω^)「ツンがそういうことを気にするなんて、意外だお」
ξ゚听)ξ「失礼ね! 女の子なんだから、そういうことを気にしたっていいでしょ!」
('A`)「ツンは女じゃねえってかwww」
(´・ω・`)「まあ、女の子っぽくはないかもね」
ξ♯゚听)ξ「……」
問答無用で、ツンにおかずのソーセージを取られた男3人。やはり言葉には気をつけないといけない。
『今日の早朝未明、○○県の××町にて絞殺死体が発見されました。殺されたのは近くに住む会社員、岡部敏郎さん。
警察は殺人事件として捜査していますが、犯人のめぼしはまだ立っていません」
『万引き事件が相次ぐ中、大手スーパーのショウエーは独自の商品管理方法を開発。
また、監視カメラの数も増やし、捜査員も各店に10人以上は配置すると発表しました。
この発表によって万引きの抑止効果を出す狙いですが、専門家の間では意見が分かれています』
『ネット犯罪の増加に伴い、政府は人権擁護法案とネット犯罪防止法案を次期国会にて可決させようと動き出しています。
インターネットを中心とした監視体制を敷くというこの法案ですが、弁護士会や世論では反対が多い中、
どのようにして可決に持っていくのか、国民にどう説明していくのかが注目されています』
- 14: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:03:16.10 ID:cEpGzgeR0
朝のニュースが次々と流れていく。
嫌なニュースばかりだけれども、いくら重大な事件が起ころうとも、食堂にいる人たちはテレビに見向きもしなかった。
それは自分も同じで、ぼんやりとテレビ画面を見ながらドクオ達との話に耳を傾けるだけ。
だけど、そんな自分にハッ!と気付いた。
慣れている。犯罪や事件に対して慣れてしまっている。
( ^ω^)「……」
('A`)「ん? ブーン、どうした?」
(´・ω・`)「お腹でも痛いのかい?」
( ^ω^)「……いや、みんなニュースってあんまり見ないんだなあ、って思っただけだお」
ξ゚听)ξ「珍しいわね、あんたがニュースについて話すなんて」
( ^ω^)「たまにはニュースも見るお。けど……犯罪のニュースばっかりで、ちょっと気が重くなりそうだお」
(´・ω・`)「最近は本当に増えてきたからねえ……」
- 16: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:05:26.44 ID:cEpGzgeR0
『テレビの前のみなさん、家の戸締りなど、空き巣対策はきちんとしておきましょう。
それと、夜に出歩く時は防犯ブザーなど、なるべく自分の身を守るものを持っておきましょう。
「自分は大丈夫」なんて言っていられる時代ではなくなってきたのですから』
テレビ上の有名アナウンサーの言葉に、ブーンは嫌な感触を覚えた。
犯罪って、いったいなんなんだろう?
どうして、人はそんなことをやってしまうのだろう?
(´・ω・`)「そういえば、最近の犯罪者の特徴って知ってるかい?
罪を罪とも思わず、犯罪をおかしいとも思わず、自分の考えたことが絶対に正しいと思い込んでいるようなんだよ。
ああ、あとマナー違反をするような人もそんなことを考えてるとか。
『誰にも迷惑かかってないんだから』『別に法律があるわけじゃないんだから』とか言ってるらしい」
ξ゚听)ξ「へえ〜。なんだかおかしい人が多いわねえ」
('A`)「ニートみたいに視野が狭いんじゃねwww 俺もだけどwww」
(´・ω・`)「みんな自己中なんだよ、きっと」
- 17: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:06:07.54 ID:cEpGzgeR0
自己中。
そんなショボンの言葉を聞いて、なら自分は?とブーンは考えた。
自分は、自己中心的な考えに陥っていないのだろうか?
こうやってここにいることも、戦っていることも、自分よがりな考えの上に成り立ってはいないだろうか?
それがわからず、ブーンは黙々と朝ごはんを食べ続けた。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:07:43.77 ID:cEpGzgeR0
※
狐「じゃあ、今日の定例会議を始めるね」
午後2時の会議室にて、恒例の会議が始まっていた。
この会議は、毎日1度必ず行われる。
主にこの組織の方針や『影』対策について話し合ったり、定期報告を行ったりなど、この『VIP』について色々と議論するのだ。
以前、ドクオ達と共に狐達との話し合いをした時にも使われたこの場所だが、
あの時とは違って今は大勢の人が会議室の席に座っていた。
狐、クー、しぃはもちろん、モナーや見たことのない老人、青年、役人然としたおじさんなどなど。
ここが国の組織であり、きちんとした体制を持っているのだと改めて認識させられた。
薄暗い会議室の中、プロジェクターの光が煌々と照らされている。
何度出席しても、この雰囲気には慣れない。どうも自分がここにいるのは場違いなような気がする。
- 19: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:09:18.59 ID:cEpGzgeR0
肩身の狭い思いをしつつも、ブーンはとりあえず狐の話に耳を傾けることにした。
狐「うん、今日は重要な報告を先にしようと思ってる。ぃょぅ君が帰ってきたからね」
狐が顎で示した先には、席に座っている1人の青年がいた。
何やらイアホンを耳につけて、指先でリズムを取っているその青年。
きっと音楽を聴いているのだろう、会議中にあるまじきスタイルであり、ブーンは目を見開いて驚いた。
狐「ぃょぅ君」
(=゚ω゚)ノ「……あるー、晴れーた、日ーのことー」
狐「ぃょぅ君」
(=゚ω゚)ノ「まほーみたいにゆーかいなー」
ぃょぅと呼ばれる青年は狐の声にはまったく気付かず、ぶつぶつと歌の歌詞らしい言葉を呟いている。
なんだか聞いたことのある歌詞なのは気のせいか?
- 21: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:10:53.80 ID:cEpGzgeR0
( ´∀`)「こら! ぃょぅ!」
(=゚ω゚)ノ「うひゃあ! な、なんだょぅ!?」
隣に座っていたモナーが、ぃょぅの耳のイアホンを力任せに引き抜いた。
( ´∀`)「会議中に音楽を聴くなと、どれだけ言えばわかるんだモナ!」
(=゚ω゚)ノ「ん? 会議始まってたのかょぅ? それはすまないょぅ」
ぃょぅが立ち上がり、周りに平謝りし始めた。
ブーンは彼の服装を見て、また驚いた。
だぶだぶの上着とズボン、後ろ前にした帽子。銀のネックレス。
どうも秘密組織に似つかわしくない気がする。というか、一昔前のラッパーみたいだ。
ますます彼のことがよくわからなくなってきた。いったいなんだ? あの人は。
- 22: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:12:17.72 ID:cEpGzgeR0
( ^ω^)「クーさん、あの人は誰だお?」
ブーンは横に座っているクーに聞いてみた。「ああ、彼か」という少し呆れた声が返ってきた。
川 ゚ -゚) 「彼はこの組織の一員で、名はぃょぅという。
まあ、格好と態度は不真面目だが、諜報・偵察活動に関しては彼の右に出るものはない」
( ^ω^)「ふーん……」
ブーンは疑惑の目でぃょぅを見つめる。
(=゚ω゚)ノ「にしても、モナー、無理やりイアホンを抜くことないょぅ。コードが切れたらどうするんだょぅ」
( ´∀`)「お前がもっとちゃんとしたら、俺は何もしないモナ」
な、なんだか2人の間の空気が悪くなってきた。
川 ゚ -゚) 「真面目なモナーとは相性が悪いように見えるが、あの2人は同期でな。
よく仕事も一緒なことが多い。いいパートナー同士だと思うのだがな」
( ^ω^)「喧嘩してるように見えるお……」
今にもとっつかみあいの大喧嘩が始まりそうな雰囲気だったが、そこはなんとか狐が間に入ることで収まり、ようやく会議が始まった。
- 23: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:13:52.06 ID:cEpGzgeR0
まずはぃょぅの報告から。
彼は今まで世界を何十カ国と回り、『人の子』が出現したことによる各国の組織の活動状況を調べていたらしかった。
例えば、外国の軍隊が日本に特殊部隊を派遣するかもしれないなら、事前にその情報を『VIP』にしらせ、国境の水際で阻止する。
情報戦をしかけてくるようなら、それを知らせて、セキュリティを強化する策を考案する。
『VIP』が何か行動を起こす時は、ダミーの情報をいくつも流しておいて、各国を騙す。
ぃょぅの活動は、『VIP』が直接的な行動を取るための支援――縁の下の力持ち的なものだった。
彼の諜報活動がなければ、おそらく『VIP』は今までもたなかっただろうし、仕事中の自分達が何度も特殊部隊に襲われたりすることになっていただろう、
とクーは言う。
- 25: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:16:17.67 ID:cEpGzgeR0
(=゚ω゚)ノ「最近は、各国とも強攻策を取らなくなっているようだょぅ。
無理をして敵対するよりは、見せ掛けでも協力する方が利益があると考えているようだょぅ」
狐「まあ、そうだろうね。韓国も、あの一件以来諜報員を引き上げたようだし」
(=゚ω゚)ノ「『影』への対策は日本が1番進んでいると言っても過言ではないょぅ。
だから、『影』対策のノウハウを得る上でも、日本に協力するのは仕方ないと、各国の組織が思っているょぅ」
( ´∀`)「確かに、『影』は日本を中心に世界に広がっているモナ。
『気』の扱いをよく知らない国にとっては、国が滅ぼされる事態にもなりかねないと考えているのかもしれないモナ」
(=゚ω゚)ノ「だから、『人の子』の力を借りたい、という国もあるょぅ」
各国の駆け引きやら話の内容はどうにもよくわからない。
だが、以前のように特殊部隊が街中で銃を撃ち合うような事態は、あまり起こらないと思っていていいらしい。
- 26: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:18:09.03 ID:cEpGzgeR0
狐「うん、いい傾向だね。これで力の均衡が再び整えられたいいんだけどね」
(*゚ー゚)「問題は『影』ですね。『影』に対する抜根的な対策がいまだ見つかっていません」
狐「うん……そうなんだよね。人材があまりにも少ないしね」
狐がため息をつきながら言った。
(=゚ω゚)ノ「所長の要望で、日本、もしくは世界の各地で『気』を扱える人物を探してみたけど、なかなか見つからないょぅ」
狐「仕方ないね。今『VIP』に4人――いや、5人も『影』を倒す力を持つ者がいること自体、奇跡に近いからね」
(=゚ω゚)ノ「引き続き調査はしてみるょぅ」
狐「頼むよ」
- 27: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:20:11.79 ID:cEpGzgeR0
この話を聞いてブーンは、はて?と頭にハテナマークを浮かべた。
『影』を倒す力を持つ者……クーとしぃ以外にいったい誰が?
( ^ω^)「クーさん」
川 ゚ -゚) 「ん?」
小声でクーに話しかける。
( ^ω^)「クーさんとしぃさん以外に誰が『気』を使えるんだお?」
川 ゚ -゚) 「ああ、それならそこにいるじゃないか」
クーが声で示したのは、まだ少しだけ険悪ムードなモナーとぃょぅ。
川 ゚ -゚) 「それと、ここに」
そして、ブーン自身。
そうか。モナーとぃょぅ、そして自分を合わせて5人か。
そういえば前にも聞いたっけ、「他の『気』の使い手は仕事中」と。
モナーとぃょぅも『気』を使えるとは知らなかった。いったいどんな風に使うんだろう?
ぼーっと2人のことを見ていると、狐が「さて、次だが」と会議の続きを進行し始める。
- 29: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:21:54.50 ID:cEpGzgeR0
狐「次は『影』が突然消える現象についてだが…」
(=゚ω゚)ノ「あ、ちょっと待ってほしいょぅ。もうひとつ言うことがあったょぅ」
狐「ん? なんだい?」
ぃょぅがその場に立ち上がる。
(=゚ω゚)ノ「ラウンジ教、という団体を知ってますかょぅ?」
なんか厳格な老人「聞いたことがあるのう。全国に広がる宗教団体らしいが」
狐「公安の方でもマークされてるみたいだけどね。それがどうかしたのかい?」
(=゚ω゚)ノ「公安関係者から聞いたんですが、どうも不穏な動きをしているようなんだょぅ」
狐「不穏、とは?」
(=゚ω゚)ノ「以前は麻薬関係で調べられていたけど、最近は公安の中でも武器・爆発物関係の部署が動いているようだょぅ」
( ´∀`)「ラウンジ教が革命でも起こすとかモナ?」
(=゚ω゚)ノ「それはわからないょぅ。
けど、世界中の組織の中でも、テロリストや革命派などとコンタクトをとっているらしいょぅ」
- 32: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:23:54.18 ID:cEpGzgeR0
狐「ふむ……頭に入れておこう。どうも気になるな。詳しい調査を頼めるかい?」
(=゚ω゚)ノ「予算が下りれば。『赤坂』と並行して調査するとなると、けっこうなお金がかかりますょぅ」
役人顔の男「おいおい、あまり予算の無駄遣いはしないでくれ。特別会計から横流ししている資金にも限界があるんだから」
狐「それはわかってますよ。無駄な所は切り詰めていきます」
メイド喫茶や学校の教室を作ったりしているのに、それはあまり説得力がないような気がする。
何にしろ、ブーンもまた「ラウンジ教」という団体のことを覚えておくことにした。
もしかしたら、これから自分を狙うのは、各国の組織ではなく彼らかもしれないから……
狐「よし、次の議題は――」
そうして会議は続く。
眠い目をこすりながら、ブーンは必死に会議の内容にくらいついていくのだった。
- 34: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:25:42.56 ID:cEpGzgeR0
※
夜の11時。良い子なら寝る時間。悪い子ならこれからが本番。
ブーンは自分の部屋にて、仕事の準備を始めていた。
服装はいつもの黒ジャケットと黒いGパン。
持っていくものは、水と食料と通信機。
あまり持ち物が多くなる動きが鈍くなるので、最低限のものだけを持っていくように言われている。
( ^ω^)「よし……行くお」
ブーンは全ての準備を終えると、最後に深呼吸した。
これから仕事。気を引き締めないと。
(´・ω・`)「行くのかい?」
と、急にショボンの声が聞こえて、ブーンは「おお!?」と大きな声をあげた。
('A`)「んん? なんだあ?」
ドクオも起きてしまった。仕事着を着ているブーンの姿を見て「お、行くのか」と感心ありげに言った。
- 35: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:28:01.48 ID:cEpGzgeR0
(´・ω・`)「気をつけてきなよ。僕達は何もできないけど……君が無事に戻ってくることを祈ってるよ」
('A`)「俺も祈ってるぜ〜。くはぁ〜、ねみぃ〜」
ドクオの祈りは当てにならないな、とブーンは苦笑した。けど気持ちは伝わった。
2人に挨拶をすませ、ブーンは部屋の外へと出た。
( ^ω^)「……気合を入れるお」
いつも以上にやる気が出てきたような気がする。
おとといより昨日の方が、昨日より今日の方が、自信が持てるようになってきた。
彼らを守るための戦い。自分の日常を取り戻すための戦い。
きっと、やり遂げてみせる。
- 36: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:29:44.50 ID:cEpGzgeR0
夜のビルの廊下は相変わらず暗い。
足元もよく見えず、注意して歩かないと何かにつまずいてしまいそうだ。
ブーンはてくてくとエレベータに向かって歩き続けた。
(*゚∀゚)「あ、君、行くんだぁ」
( ^ω^)「おわはぁ!」
また急に後ろから声がして、ブーンはその場で転びそうになった。
後ろを振り向いてみると、パジャマ姿のつーがいる。
どうも今日は突然声をかけられることが多いな、まったく。
(*゚∀゚)「行くんだねぇ、行くんだねぇ」
( ^ω^)「そうだお……戦いに行くんだお」
(*゚∀゚)「そうかぁそうかぁ。よろしく言っといてねぇ、色々な人にぃ」
( ^ω^)「色々な人かお? 誰だお?」
(*゚∀゚)「色々な人だよぉ。色々いるんだからぁ」
- 38: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:31:11.37 ID:cEpGzgeR0
きゃっきゃっと笑うつー。
いつものごとく意味のわからない言葉ばかりだったけれども、なんだか今はつーと話していることが楽しい。
彼女はものすごく無邪気で繊細だ。
言葉に気をつけないとすぐに機嫌を悪くしてしまう。
けど、楽しい時は本当に楽しそうな顔をしてくれる。そしたら自分も嬉しくなる。
そして、そんな時にふと思う。こんな笑顔を守ることも自分のやるべきことなんだと。
( ^ω^)「じゃあ、行ってきますお」
(*゚∀゚)「おーおー。行ってらっしゃい〜」
つーが手を振って見送ってくれた。
その挨拶は、今までのどんなものよりも暖かく感じられた。
- 40: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:32:50.83 ID:cEpGzgeR0
※
ドルルルルゥと表現するしかないバイクの音が響いている。耳をつんざき、頭の奥を揺さぶるような音だった。
何回乗っても、この音には慣れることができない。バイクと自分はとことん相性がよくないのだろうか?
バイクは首都高を100キロ近いスピードで飛ばしていた。
( ^ω^)「今日はどこだお?」
川 ゚ -゚) 「近くだ。2、3体出るようだから、用心しておけ。まあ私がいるんだ。安心しておけばいい」
( ^ω^)「わかったお」
いつものクーからのお言葉をもらい、ブーンはバイクの上で精神集中を行った。
今日はいつも以上に気合が入っている。光の速さで『影』をやっつけて、さっさとビルに戻ってベッドインしてしまおう。
目指せ! 睡眠3時間!だ。
- 41: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:34:57.00 ID:cEpGzgeR0
バイクはぐんぐんとスピードを増し、目的地へは1時間ほどでたどりついた。
今日の仕事場は、大きな廃工場だった。
なんでも国が国家事業のための工場を作ったはいいものの、5、6年前の不況のせいで早々につぶれてしまい、そのまま放置されているとか。
しかも外国人窃盗グループの根城にされている可能性があり、よって『影』は彼らを狙うかもしれないという報告があがっている。
ブーンはバイクを降りて、廃工場全体を見渡してみる。
どうにも嫌な感じだ。
作業場らしい無駄に広い空間がひとつ、鉄骨が無数に絡み合ったジャングルジムのような場所がひとつ、クレーンなどの機材も多数ある。
障害物が多くあり、『影』と戦う際にはこのことも考慮に入れないと
- 42: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:36:32.90 ID:cEpGzgeR0
( ^ω^)「クーさん、どうですかお?」
川 ゚ -゚) 「ふむ……今は気配を感じないな。本部に連絡してみよう。
本部、【クール】と【ピザ】だ。応答してくれ」
クーが胸元のマイクに声を吹き込む。
が、おかしい。いつもの『はーい』という狐の能天気な声が返ってこない。
受信機は、砂嵐のようなザーという音が鳴り響かせるだけだった。
川 ゚ -゚) 「ん? おかしいな。電波状態が悪いのか……?」
( ^ω^)「ツン? 応答してくれお」
今日もサポートに回っているであろうツンに呼びかけてみるが、やはり返事がない。
ブーンはポケットから携帯電話を取り出してみる。『圏外』の文字が明るく浮かび上がっていた。
おかしい。ここは街中だ。いくらなんでも携帯が『圏外』になるなんて……
- 45: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:38:20.60 ID:cEpGzgeR0
川 ゚ -゚) 「む……『影』の気配だ」
( ^ω^)「お? 早いお。まだ2時間も時間があるお」
川 ゚ -゚) 「待て。この気配は大きすぎる。まさか……」
クーの顔色が徐々に変わってくる。
疑問からあせりの色へと。
川 ゚ -゚) 「ちっ! ブーン、行くぞ!」
( ^ω^)「ま、待ってくださいお!」
クーが廃工場の中へと走り出す。ブーンは驚きながらもそれについていった。
中は外見以上にひどいありさまだった。
鉄骨が散乱し業務用の工事用具が放置され、砂埃もひどい。
くしゃみが際限なく出そうになるのを我慢し、ブーンは必死でクーに着いていった。
- 47: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:40:31.22 ID:cEpGzgeR0
川 ゚ -゚) 「む……やはりか」
立ち止まるクー。
その目の前で、外国人らしき男達が固まって気絶していた。
報告にあった窃盗集団なのだろう。
死んでいないということは、『影』に襲われていないということか?
( ^ω^)「また、ですかお」
川 ゚ -゚) 「そのようだ……『影』の気配もない。いったいどういうことだ」
( ^ω^)「……」
考えてみるが、やはりわからない。
『影』の気配がいきなり大きくなり、そして消える。
誰かが『影』を倒したとでも言うのか?
いや、『気』を操れる人なんてそういない。
『VIP』以外だと『赤坂』のギコぐらいしか……
- 49: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:41:54.99 ID:cEpGzgeR0
川 ゚ -゚) 「む!」
と、クーがいきなり動いた。
横に飛び、こちらを巻き込むようにして倒れこむ。
ドサリという音と共にしたたかに背中を打ちつけたブーンは「な、なんだお?」とクーに問いかけようとした。
だがその前に地面に飛び散った火花の音が響き渡り、背筋を凍らせた。
じ、銃弾?
川 ゚ -゚) 「走れ! ブーン!」
( ^ω^)「お?お?」
すぐに起き上がったクーに引っ張られて、ブーンは体勢を崩しながら走り出す。
向かっているのは工場の中。
床に転がる鉄骨を飛び越え、背中から聞こえる銃弾の着弾音を耳にいれつつ、ブーンは必死で走る。
- 51: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:43:47.39 ID:cEpGzgeR0
だがクーをつかんでいた手に衝撃が走り、思わずブーンは彼女の手を離してしまった。
川 ゚ -゚) 「ブーン!」
なんだ? 今のは?
よく見えなかったが、何か紐のようなものが自分の手首に当たったような……
川 ゚ -゚) 「いまそちらに……! くっ!」
クーがこちらに来ようとする。しかし銃弾の嵐が自分とクーの間に注ぎ込まれて、仕方なくブーンとクーはそれぞれ別の場所に身を潜める。
ブーンは鉄骨の下に隠れた。クーはトタン板の後ろに身を潜めたようだ。
と、クーの居る場所から銃弾の着弾音が次々と鳴り響く。クーを狙っているのか?
川 ゚ -゚) 「くぅ!」
銃弾の波が止んでいる間、クーはたまらずその場からさらに奥の部屋の中へと移動した。
鉄製のドアを盾にして、クーは銃弾が止むのを待つ。
- 52: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:46:01.34 ID:cEpGzgeR0
良い判断だが、このままでは離れ離れになってしまう。
( ^ω^)「クーさん!」
川 ゚ -゚) 「動くな! 今そちらに……くそ!」
クーがこちらに来ようとすると、弾は容赦なくクーの進行を阻止する。まるでこちらと合流させないかのように……
もしかして、それが狙いか? 自分とクーを引き離すことが?
ちゃんと考えている暇もなく、今度は自分の方に銃弾の嵐が向けられる。
鉄骨の隙間や眺弾で当たらないとも限らず、ブーンはクーから離れるようにしてその銃弾から逃げていく。
そこでブーンは思いついた。そうだ。『光障壁』なら銃弾でも大丈夫なんじゃないか?
ブーンは隠れ場所から身を露にして、銃弾の波の前に立つ。
精神を集中させ、自分の前に生じる『壁』をイメージする。
それに反応するかのように目の前に光の壁が現れ、自分に当たるはずだった銃弾を完全にガードしてくれた。
カンカン、という音と共に数個の弾が地面に落ちた。
- 53: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:47:51.06 ID:cEpGzgeR0
やっぱりだ。これならいける。クーと合流しないと!
「その技、やっかいだな」
後ろから声?
振り向こうとした瞬間、何かが自分の横を通り、カツという音が後ろの壁から発せられた。
振り返ると、何かが壁に突き刺さっている……手裏剣?
( ´_ゝ`)「恨みはない。だが、お前とは戦わなくてはならないのでな」
(´<_` )「そういうことだ。覚悟することだな。少年」
(;^ω^)「だ、誰だお!」
目の前の暗闇から声が聞こえる。姿はちゃんと見えないが、どうやら2人の男がいるらしい。
と、また何かが飛んできて、ブーンはとっさに身をかがめた。
カツカツという音が鳴り響き、壁に2つの手裏剣が突き刺さる。
- 55: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:49:49.14 ID:cEpGzgeR0
なんだこいつら? どうして手裏剣なんて時代遅れなものを? 銃じゃないのか?
何にしろ、『光障壁』なら全部防げるはず……!
だがその前に一方の影がこちらに近づいてくる気配を感じた。
黒い影は何か棒状のようなものを持っており、それを振りかざしてこちらに向かってくる。
( ^ω^)(鉄パイプかお? そんなの『剣状光』で!)
ブーンは光の剣を手に出す。これならどんなものでも切れるはず。
鉄パイプを切り、相手の武器を破壊しようとした。
すぐに真っ白な光でできた剣が手に現れ、相手が振り下ろしてくる鉄パイプを受けると同時に切ってやろうとする。
そこで予想外のことが起こった。
キーン、という音が鳴り響き、電気が放電されたかのような光が生じた。
相手の武器が切れないのだ。
しかも、この男の武器は鉄パイプではなかった。攻撃を受けて初めて分かった。ただのロープだったのだ。
- 57 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>54 似ているけど違うかな] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:51:42.24 ID:cEpGzgeR0
( ^ω^)「な、なんで切れないんだお!」
( ´_ゝ`)「ち、受けるとはな。弟者!」
(´<_` )「わかっている、兄者」
ロープを持った男が一足飛びに退くと、また手裏剣が飛んできて、ブーンは『光障壁』を発生させてそれを防ぐ。
だが銃弾と違い、光の壁と手裏剣が当たった瞬間に光が生じた。
『剣状光』とロープが当たった時の光と同じだ。
これは……クーの竹刀を切ろうとした時と似ている。
もしかして、こいつら『気』の使い手か?
どうしてこんな所に『気』の使い手がいて、しかも自分を襲ってくるのか全然わからなかったが、
とにかくも自分の身を守るためだ。
ここは戦わないと!
ブーンは自分の手にある『剣状光』を強く握りなおした。
- 59: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:53:18.09 ID:cEpGzgeR0
※
自分が進もうとすると、目の前の地面に銃弾を叩き込まれてどうにも移動することができない。
川 ゚ -゚) 「くそ……」
銃弾を避けて逃げ続けていると、クーはいつの間にかブーンとは引き離されてしまっていた。
もう彼の姿は見えず、目の前には暗闇が広がっているだけ。人の姿などまったく見えない。
ブーンはいったいどうしている? ちゃんと隠れているのか?
一瞬だけ彼の出す光のきらめきが見えたような気がしたが、もしかして誰かと戦っているのか?
『影』? それとも他の組織?
何にしろ、早くブーンの所に行かないといけない。
そう結論づけたクーはジャケットの裏をまさぐり、黒い拳銃を取り出した。
ブローニングM1910。9ミリ口径に装弾数7発。サプレッサーのおまけ付き。
護身用としていつも持ち歩いているが、今日ほどこれを持っていてよかったと思う日はなかった。
- 61: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:55:21.83 ID:cEpGzgeR0
欲を言えば、もう少し弾を持ってきていたらと思ったが、そんなことは言ってられない。
さっそくクーは発砲音と銃弾の火花の関係から敵の位置を予測し、そこに向かって引き金を引いた。
1、2、3発。銃声もたてずに銃弾が飛んでいく。手ごたえなし。
「久しいなあ、ゴラァ」
突然、図太い男の声が工場中に響き渡った。聞いたことがある。この声は……
川 ゚ -゚) 「この声……『赤坂』のギコか!」
声のした方向に向かって引き金を引く。
4、5発目。またもや手ごたえなし。
クーはポケットの中のマガジンを確認する。
マガジンは合計で3つ。ひとつで7発なので、拳銃に残っている弾とあわせて残り弾数は23。
弾が尽きる前に終わらせないと……!
- 63: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:57:22.76 ID:cEpGzgeR0
隠れ蓑にしている鉄の扉に金属音が鳴り響いた。相手からの銃撃だ。
川 ゚ -゚) (くそ、あちらはいったいどれだけ弾があるというのだ……!)
さっきから何十発も打ち込んできている敵。
おそらくギコなのだろうが、これほど弾を持っているということは最初から自分達を狙って待ち伏せしていたと考えるのが妥当だろう。
しかし、なぜ自分達がここに来るということが分かったんだ?
『赤坂』に情報が漏れているとでも言うのか?
( ,,゚Д゚) 「隠れてないで出てこいよ。ちょっと話でもしねえか?ゴラァ」
近くから声が聞こえ、クーはギクリと背筋を震わせて辺りを見渡す。どこだ? どこにいる?
- 64: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/04(佐賀県と談合) 23:58:57.09 ID:cEpGzgeR0
川 ゚ -゚) 「お前と話すことなどないな」
( ,,゚Д゚) 「そんなつれないこと言うなよ。これでも興味持ってんだぜ? お前には」
工場内に音が反響して、声の出どころを特定しづらい。加えて工場の中は暗く、視界がかなり悪い。
これでは敵の居場所なんて簡単に掴めない。
ギコもおそらくそれを分かった上で、おしゃべりなどしているのだろう。
鉄の扉から少し身を乗り出し、クーはだいたいの目星をつけて2、3発拳銃の引き金を絞った。
しかし、やはり当たった気配はなし。
( ,,゚Д゚) 「おいおい、あせってるのか?」
川 ゚ -゚) 「うるさい。お前には関係のないことだ」
もう一度撃とうとしたが、鉄の扉に銃弾が撃ちこまれ、再び身を隠すはめになってしまった。
くそ。時間がたちすぎている。ブーンはどこに……?
- 65: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:00:47.75 ID:LZalLN+z0
( ,,゚Д゚) 「あせんなよ。あのガキが心配なのか? 仲間を失うことが嫌なのか? ゴラァ」
川 ゚ -゚) 「関係ないと言っているだろう!」
1、2、3発。
「ちっ」というギコの声が聞こえた。よし。だいたいの位置は特定できた。あとはその方向に向かって――
( ,,゚Д゚) 「『天国』時代のことでも思い出すのか?」
川 ゚ -゚) 「なっ!?」
思わず、引き金を引く指を止めてしまった。
『天国』……なぜこいつがそれを?
- 66: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:02:16.62 ID:LZalLN+z0
川 ゚ -゚) 「きさま! 何を知っている!」
( ,,゚Д゚) 「ハハハ!」
笑い声が移動する。くそ。ギコがまた隠れる場所を変えたようだ。
位置をつかめないこちらと、どういうわけか攻撃をせずにおしゃべりをしてくるギコ。
これでは長期戦にならざるを得ない。時間だけが刻々と過ぎていき、その分ブーンに危険が及んでいるのかもしれない。
銃を持つ手が汗ばみ、クーは冷や汗を流した。
またあれを繰り返すのか?
また仲間を……死なせるのか?
忌まわしい過去に振り回されそうになったクーは、自分の顔を左手ではたいて気合を入れた。
今はそんなことを考えてられない。とにかく目の前の敵を倒すだけ。
クーは再び引き金を引いた。だが相手に当たっている様子はまったくなかった。
- 67: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:04:09.94 ID:LZalLN+z0
※
( ´_ゝ`)「ほわぁぁ!」
( ^ω^)「くぅ!」
小さい方の男がロープを振り回してくるのを、ブーンは『剣状光』の刃でガードした。
( ^ω^)「く……なんで切れないんだお!」
そんな憎憎しい叫びをあげながら、ブーンは男の腹に蹴りを入れようとする。
クーとの訓練で培ったガードから攻撃に転ずる技だ。
だが、男は一足飛びにすばやく後ろに退く。
そして次の瞬間には、男の背後から手裏剣がこちらに向かって飛んでくる。
回転する十字手裏剣。光の壁でなんとかそれをガードするが、にしてもこの2人の連携はスキがない。
こちらから小さい男に向かって攻撃しようとしたら、手裏剣が飛んできて防がれる。
防御から反撃に転じようとしても、やはり手裏剣が飛んでくる。
手裏剣使いを先に倒そうと思っても、ロープを持った男が長いリーチでこちらに攻撃してくるため、その暇がない。
- 70: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:06:13.31 ID:LZalLN+z0
1対2で明らかに不利な上に、こんな連携攻撃を使われては太刀打ちできない。
今は『光障壁』のおかげで無傷だが、いつ攻撃を喰らってしまうやら……
( ^ω^)(いやいや、あっちだって『光障壁』を破る手はないはずだお。
連携を破る方法を見つけたら、こっちの勝ちだお)
また手裏剣が飛んでくる。それと同時にロープがこちらの顔に向かってしなやかに振られるが、2つとも『光障壁』でガード。
攻撃が当たった壁の2箇所から光が生じる。やっぱり、こいつらは『気』の使い手なのか……
ブーンはそんなことを考えながら、光の弾――『光弾』を数発出す。
見え見えの攻撃だけれども、スキを作る機会にはなる。
思ったとおり、手裏剣使いの方が『光弾』に気を取られて一瞬だけ手裏剣を撃つ手を止めた。
よし、いまだ。
( `ω´)「おおおおお!」
ブーンはロープ使いの方に向かって走り出した。
左手で『光弾』を何個か出しながら右手の『剣状光』を相手の足に向かって振る。
- 71: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:08:07.61 ID:LZalLN+z0
(;´_ゝ`)「むぅ!」
この波状攻撃に戸惑うロープ使い。『光弾』に意識が集中していたため、足元がおろそかになっている。
ブーンの『剣状光』の刃が、彼の太ももをかすった。
(´<_` )「兄者!」
( ´_ゝ`)「心配ない、かすり傷だ」
右太ももの内側からかすかに血を流しているロープ使い。平気そうな顔をしているが、手ごたえはあった。
『剣状光』の切れ味は尋常ではない。かすっただけでもそうとう深い傷になりうるはず。
( ^ω^)(これならいけるお……さっさとこいつらを戦闘不能にして、クーさんのところに行かないと!)
殺すつもりはない。けど、邪魔をするのなら倒す。
戦うのはまだ怖いけど、やらなくちゃならない。やらなくちゃ!
そんな意気込みをもって、ブーンは『剣状光』をしっかりと握りなおした。
- 72: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:09:54.36 ID:LZalLN+z0
( ´_ゝ`)「やっかいだな……あの光の壁が問題だ」
(´<_` )「俺に良い考えがある。いいか?」
( ´_ゝ`)「流石だな、わが弟よ。いいだろう。お前の言う通りにしてやろう」
何やらヒソヒソ話を始める2人。
『兄者』やら『弟』やらと呼び合っているところを見ると、もしかして兄弟だろうか?
けど、『兄者』と言われてる方が弟よりちっこいような……アンバランスな兄弟だな、こいつら。
と、いけないいけない。相手があんな大きなスキを作っているんだから早く攻撃しないと。
( ^ω^)「おしゃべりはそこまでだお!」
ブーンは左手から『光弾』を2、3発出す。
これは牽制球。本命は……
( `ω´)「はぁ!」
ブーンは『剣状光』を、まるで陸上競技の槍投げのように思いっきり投げつけた。
狙うは足だ。当たっても死んでしまうことはないし、行動不能ぐらいにはできるはず。
- 74: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:11:50.40 ID:LZalLN+z0
( ´_ゝ`)「見える! 甘いな!」
しかし、兄弟はすばやい動きでそれらを全てかわす。さっきより速くなってるのは気のせいか?
間もなく手裏剣が飛んでくる。1発はすれすれで避けて、2、3発は『光障壁』でガード。
( ^ω^)「同じパターンの攻撃は通じないお!……お?」
もう一度『光弾』を出そうとした所で、ブーンは異変に気付いた。
右腕が動かない。見てみると手首にロープが巻きついていて、その先には小さな男が力一杯ローブを引っ張っている。
( ´_ゝ`)「動きは封じた」
これぐらいで何を!
ブーンは左手で『光弾』を出そうとしたが、その前に手裏剣使いの攻撃が飛んでくる。3発の手裏剣。
( ^ω^)「こんなの『光障壁』で……!」
(´<_` )「甘いな」
え?
- 75: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:13:52.07 ID:LZalLN+z0
手裏剣使いの冷徹な声が聞こえたかと思った瞬間、背中に刺すような痛みが広がった。
聞こえた、トスという軽い音。
広がる痛み。力も抜けていく。
自分の背中に1枚の手裏剣が刺さっているとわかったのは、地面に倒れこんだ後だった。
え? どうして?
(メ゜ω ゜)「くぅ…ぅ……ど、どうして……」
頬に地面の冷たさを感じながら、ブーンは苦しげに声を出した。
どうして?
後ろからどうして手裏剣?
いや、それよりも『光障壁』は?
- 76: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:15:41.15 ID:LZalLN+z0
(´<_` )「やはり俺の思った通りだ。この光の壁、当人が『出そうと思ったところ』にしか出せない。
死角からの攻撃はさすがに防げないのだな」
( ´_ゝ`)「ふ、流石だな、弟よ。いいブーメラン撃ちだったぞ」
(´<_` )「兄者もいい所で注意をそらしてくれた」
( ´_ゝ`)「ふ、何にしろ」
( ´_ゝ`)(´<_` )「流石だな、俺ら」
兄弟の話を聞き、ブーンは驚いた。
『出そうと思ったところ』にしか出せない? そうなのか?
いや、確かにそうだ。今までは攻撃が来ると思った所にしか『光障壁』は出せなかった。
なんてことだ。まさかそんな弱点があったなんて。
クーとの訓練の中で気付けばよかったのに……つくづく甘いな、自分は。
- 77: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:17:26.34 ID:LZalLN+z0
(メ^ω^)「く……」
( ´_ゝ`)「動けないだろう。弟者の手裏剣には麻痺毒が塗ってあってな。象も動けなくなる代物だ」
(´<_` )「まあ、死にはしないから安心しろ。当たりどころも悪いところではないしな」
(メ^ω^)「誰なんだお……あんた達は……」
( ´_ゝ`)「お前に名乗る名などない!」
(´<_` )「流石だな、兄者。いい台詞だぞ」
( ´_ゝ`)「そうか? パクリだと思われないか?」
(´<_` )「ああ、流石だ」
流石流石って、さっきからそればっかり言っている。
しかもコントまがいのこともしてるし……こんな奴らに負けたなんて……
- 80: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:19:07.80 ID:LZalLN+z0
( ´_ゝ`)「にしても、どうもこいつの戦い方はおかしかったな。まるで俺たちをなるべく傷つけずに、とでもいうような」
(´<_` )「確かにな。兄者も気付いていたのか」
( ´_ゝ`)「ああ……ふむ、『人の子』よ、聞きたいことがある」
雑談していると思ったら、今度はこっちとおしゃべり?
なんだこいつら……戦った後の緊張感なんてまるでない。
もしかして自分を倒したことなんて軽いものだったのか?
憎々しさと、そんな敵に負けた自分への情けなさで、ブーンは「くそぅ……」と小さく毒づいた。
( ´_ゝ`)「聞いているか? 聞きたいことがある」
(メ^ω^)「……なんだお」
( ´_ゝ`)「そう怖い声を出すな。少し尋ねたいだけだ。お前はどうして戦っているんだ?」
- 81: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:20:29.03 ID:LZalLN+z0
何をいきなり……ふざけてるのか?
(メ`ω´)「そんなの、守るために決まってるお!」
ブーンは自分の指が1本も動かないことを確認しながら、怒鳴り声で質問に答えた。
そんな怒気をたやすく受け流す男は、たいそう面白そうに大きな笑みを浮かべた。
( ´_ゝ`)「ははは! そうか。ふむ、まあそんな戦う理由があってもいいな」
「だが、まだ青い」と言葉を続ける男。
青い? なにが?
- 82: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:22:53.64 ID:LZalLN+z0
( ´_ゝ`)「1度聞いてみよう。
お前が何かを守るために戦っているということは、相手の守りたいものを壊しているということでもある、と考えたことはないか?」
ずきん、と手裏剣が刺さった部分に痛みが走った。
いや、違う。これは胸の奥底の痛み?
そうだ。そうなんだ。
今まで、この男の言っていることを考えたことがなかったわけではない。
むしろ心の奥底にしまっておいて、目をそらしていた事柄だった。
自分の守りたいものを守るために、敵の守りたいものを踏みにじらなければならないという真実。
そんなことをしてもいいのだろうか? という疑問。
考えたくもなかったこと。けど、男の言葉のせいで目覚めてしまった。
場所にそぐわない、この疑問が。
(メ´ω`)「……」
( ´_ゝ`)「ははは! 答えられないか! そうだろうな、まあそうだろう」
- 84: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:24:35.79 ID:LZalLN+z0
唐突にピーピーという電子音が鳴り響いた。
それは手裏剣使い――どうやらこちらが弟のようだ――の胸元から発していた。
弟はすばやく無線機らしきものを取り出す。
(´<_` )「ん、ジャミングを切って、と……弟者だ」
ジャミング?
もしかして、この工場全体に電波のジャミングでもかけていたのか?
そうか。だから、さっき通信機が使えなかったのか。
(´<_` )「……む、そうか。わかった」
短い会話をすませ、弟者は兄の方に真剣な目を向ける。
(´<_` )「もうすぐ来るそうだ。早めに撤収して、引き渡しをスムーズにしないか?」
( ´_ゝ`)「もう少し待て、こいつと話をしたい」
- 96 名前: ◆ILuHYVG0rg [再開です] 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:36:52.93 ID:LZalLN+z0
- (´<_` )「早くしてくれよ、兄者」
( ´_ゝ`)「分かってるさ……さあ、『人の子』よ」
兄者がこちらの前にしゃがみこみ、顔を覗き込んできた。
その目はこちらの心を見通してくるかのようで、ブーンは無意識にその目から視線を逸らした。
「ふむ」と兄者が声を漏らす。
( ´_ゝ`)「やはり青いな、『人の子』。もっと大きな世界を見てみることだ。そうすれば様々な考えを思いつくだろうな」
(メ´ω`)「……」
( ´_ゝ`)「まあ、これからのお前に期待、という感じだな。
まあ、守るべきものを持てるということは幸せだ。ただ、その守るべきものが壊されたとき、お前はどうするんだろうな」
またハハハと兄者は笑った。なんなんだ、本当に。
今まで戦っていた敵に対して笑みを浮かべるなんて、どういう奴だ、こいつ。
- 99: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:39:31.47 ID:LZalLN+z0
(´<_` )「兄者、くるぞ」
弟者のせかすような声を聞いても、兄者は口を止めなかった。
むしろ饒舌になっていく。
( ´_ゝ`)「お前が取る道を、世界中のみなが注目している。ふふ……果たしてどんな道を選ぶのか、見ものだな」
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)「ふ……時間だ。ではな。良い夢を」
兄者が立ち上がり、だんだんと2人の気配が遠ざかっていくのをブーンは感じた。
不思議な2人だった。敵とは思えない。けど、味方でもないような気がする。
- 103: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 00:42:55.22 ID:LZalLN+z0
ブーンはうつぶせになりながらも辺りを見渡してみた。暗い。誰の気配もしない。
弟者の言葉を聞いている限りでは、何かがここに来るらしいが……
クーだろうか? そういえばクーはどうしたんだろう? 銃声はもう聞こえないけど……
ブーンは必死で思考をつなぎとめようとしたが、叶わず、ついに目を閉じてしまった。
最後に遠くから足音が聞こえてきた所で意識を手放した。手足の感覚は全てなくなっていた。
ただその足音が1人ではなく、複数で大人数の足音だということだけは覚えていた。
第12話 完
戻る/次のページへ