( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
32: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:31:09.31 ID:62RqceFl0
  

第14話

目覚めたのは広いベッドの上だった。

( ⊃ω^)「お……?」

ここがどこなのかは分からなかった。
暗くて何も見えなくて、それでいて広くてやわらかい白いベッドの上で自分は寝ていた。

どこだ? そして自分はいったい?

身体を動かしてみようとして、動けないことに気付いた。指1本動かせない。

まただ。またあの金縛り。
ということは……

('A`)「よう」

いきなり横で声がしたので、目だけ動かしてその姿を確認する。
ドクオのひょろりとした痩躯がそこにはあり、ブーンは(ああ、そうか)と心の内で納得した。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:33:04.36 ID:62RqceFl0
  

今度はドクオなのかお? 『従者』さん?

('A`)「ああ」

そうか。やっぱり従者か。

暗い部屋の中で従者の姿だけがはっきりと浮かび上がっていた。
にしても、ここはどこだ? 暗くてわからない。広いような気はするけど……

にしても、このドクオもどきも本物にそっくりだ。あの痩せ具合とか陰気な顔とか。

('A`)「なあ」

何?とブーンは声を出さず、頭の中だけで返した。
言葉は必要ないように感じた。

('A`)「迷ってるのか?」

迷ってる? 何を?

('A`)「戦うことを」

そう言われて、ブーンは返答に困った。
確かに迷っているといえば迷っている。



  
35: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:35:07.53 ID:62RqceFl0
  

兄者とかいうロープ使いに言われた言葉で、自分の心の奥底でくすぶっていた疑問にまた火がついた。

守るために相手の守るものを壊して良いのか? という疑問。

それは多分、頭の足らない自分がどれだけ考えても解決しない疑問なのだろう。
けど、無視することができないほど、火は明るく灯っていた。

('A`)「守ると決めたんじゃねえのか?」

( ^ω^)「……そうだお」

初めて声に出した。声に出した方がいいと感じたから。

('A`)「なら、迷う必要はねえじゃねえか」

( ^ω^)「けど、それが正しいことなのかが分からないんだお」

「ふーん」という興味のなさそうな声を返すドクオ。もとい、彼の姿をした『従者』。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:37:12.12 ID:62RqceFl0
  

('A`)「ややこしいんだな」

( ^ω^)「……そういうもんだお」

('A`)「なら、守るのはやめるのか?」

( ^ω^)「それはダメだお」

('A`)「そうか」

そこで沈黙。
ブーンはもう一度辺りを見回していた。
指先1本も動かない今の状態では、周りの状況を確認するだけでも一苦労だ。

けど、やはり暗いだけで何も見えない。
というかこの暗さで『従者』の姿が見えること自体がおかしい。
人じゃないからか?

('A`)「……どうすんだ?」

ふと『従者』からそう問われて、ブーンはまた返答に困った。



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:39:34.06 ID:62RqceFl0
  

どうしたらいいんだろう? 正直言って、わからない。
これからも戦い続ければいいのだろうか? それとも、戦いをやめてひっそりと暮らした方がいいのだろうか?

自分からアクションを起こすべきなのか? それとも何かが起こるのを待つべきなのか?

わからない。全てが分からない。

( ´ω`)「……どうしたらいいんだお?」

質問に質問で返すなんて愚の骨頂だけど、そうすることしかできなかった。

しかし、『従者』は顔色ひとつ変えずに「それを決めるのはお前だよ」と答えた。

('A`)「俺は『従者』だ。ただついていくだけ。全部お前が決めろ」
( ´ω`)「厳しいお……」
('A`)「そういうもんさ」

ドクオの姿をした『従者』がおもむろに掌をブーンの額に当てた。
そして、いつものように睡魔が襲ってくる。今回は男の手だったので少し気持ち悪かったけど。

('A`)「お前と俺に人の祝福があらんことを……」

薄れゆく意識の中、ブーンはただ自分の大切なものだけを心に浮かべていた。



  
41: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:41:56.81 ID:62RqceFl0
  



車を飛ばすこと3時間。

都内から出て他県へと入り、そのまた他の県に移動する。
3時間の間、車の窓から見える景色は、都会から田舎へとなだらかに変化していき、最終的にはある山のふもとに落ち着く。

○○県××山のふもと。道もろくに整備されておらず、ところどころに農家の畑や民家が点在している「いかにも」な田舎。
山々の森から鳥の鳴き声が聞こえ、空は雲を点在させながら真っ青な表情を見せている。
12月の中旬なので畑に農作物はなかったものの、日本独特の田舎の雰囲気を漂わせていた。

車から降りたクーは、その土地の空気を久しぶりに吸って、なんだか心が洗われるような心地がした。



  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:43:59.04 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) (ふむ……老後はこんな場所で過ごすのもいいだろうな)

そんなことをつれづれと思いながら、車は道端に放置しておき、ドクオ・ツン・ショボン達と共に歩き始めた。

ξ゚听)ξ「こんな所に予言者がいるんですか?」

川 ゚ -゚) 「ああ」

('A`)「まるっきりのど田舎じゃねえか……」

呆然と周りの景色を眺めている3人。
まあ、普通は驚くだろう。『VIP』にとって重要な人物が、こんな所に住んでいるなんて思いもよらないはず。

けど、この場所でなければならない理由が彼女にはあるのだ。

予言者として、どうしてもここにいなければならない。そんな理由が。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:46:07.93 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「ここからは歩きだ。けっこう長いからな。トイレに行きたい者は先に行け」

('A`)「遠足みたいっすよ、その台詞www」
(´・ω・`)「お菓子は300円まで、バナナはおやつじゃありません」
ξ゚听)ξ「遠足にしてはさびれた所にきたわね」

そんな軽口を叩きあいながら歩くこと30分。

あぜ道や原っぱの上を歩き通し、今度は山を登るようにして作られた長い階段を上る。

('A`)「ひーはー、ひーはー」

(´・ω・`)「ドクオ……体力がなさすぎるよ」
ξ゚听)ξ「私より体力ないってどんなよ……」

川 ゚ -゚) 「……」

体力のないドクオを置いとけぼりにするようにしつつ、クー、ツン、ショボンは階段を上りきった。

ξ゚听)ξ「……ここですか?」

川 ゚ -゚) 「ああ」

(´・ω・`)「だけど……ここって」



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:48:01.82 ID:62RqceFl0
  

呆然とした2人の後ろからドクオが青い顔して追いついてきた。

('A`)「ひーひー、ん、ん? なんだよここ、廃墟じゃねえか……あ〜、つかれた〜」

3人は再び呆然とした表情でその建物を眺めていた。

まあ、当たり前か。

目の前にあるのはまさしく『廃墟』の洋館なのだから。

川 ゚ -゚) 「……まあ気にするな」

(;'A`)「いやいや」
(´・ω・`)「これは甚だ意外だね」
ξ゚听)ξ「こんな所に……?」

その洋館はすさまじく大きい。それは確かだ。何十年前は何千万円という建設費をかけて建てられたことは容易に想像がつく。
左右対称に作られたヨーロッパの近代建築の象徴であるかのようなたたずまい。
真正面に玄関。所どころに窓があり、屋根裏もついているのだろう、天体観測用の天窓もついている。

しかし、それら全てがボロボロだった。窓は所どころ割れており、壁の一部は剥がれ、穴が空いているところもある。
亀裂は縦横無尽に走り、玄関のドアは閉められていない。というか壊れている。

まさしく『廃墟』だ。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:50:12.06 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「入るぞ」

ふっ、と笑ったクーは、とうの昔にたてつけの悪くなっている木目調の大きな扉を開いて洋館の中に入る。

ξ゚听)ξ「え? 呼び鈴とか鳴らさなくていいんですか?」

川 ゚ -゚) 「呼び鈴も壊れているし、鳴らす必要もない。私達が来ることは分かっているはずだ」

(´・ω・`)「?」
('A`)「?」

クーは勝手知ったる足取りで洋館の中を歩き回る。
中も外観と同様にひどいものだ。きちんと掃除されていればゴージャスな貴族の屋敷のようになっていただろうに。
今となってはねずみの巣のようなものだ。

玄関は吹き抜け式になっており、大きな階段を上った先にある2階の部屋の扉も見ることができるが、目指すのはそこじゃない。

階段の裏側の床。そこに小さな扉が付けてある。



  
47: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:52:54.61 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「ここの梯子を下るんだ」

ξ゚听)ξ「地下があるんですか?」

川 ゚ -゚) 「私達が作った。彼女のためにな」

梯子をくだり、たどりついた先にあるのは巨大な鉄の扉。
錆びきったボロボロの鉄の扉だが、この先にあるものを封ずるには十分だった。

クーは鉄の扉の横にあったナンバー認証式のキーに自分のカードを差込む。
すぐにOKのサインが出て、扉が開き始めた。

鉄がきしむ音とこすり合わせる音が混在した爆音を立てながら、扉は最後まで開ききった。

そして、その場所は現れる。

真っ白で何もない空間が。

ξ゚听)ξ「なに……これ……」
(´・ω・`)「壁はやわらかい……マット?」
(‘A`)「なんだよここ……」

3人は3度目の呆然とした表情で部屋を眺める。



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:54:55.76 ID:62RqceFl0
  

まあこれも当たり前だろう。
目の前に広がるのは、ワンルームマンションの一室のような広さの部屋。
だが、壁は自傷防止用のマットで覆われ、最小限のもの以外はテレビすら置かれず、ほとんど間この鉄の扉で密室状態とされているこの部屋。

何年も前に『VIP』が作った特別『保護』施設だ。

川 ゚ -゚) 「……いるな」

常人が入れば3日と持たず精神が崩壊するようなこの部屋の中央に、ひとつのテーブルと椅子が置かれている。
その椅子に座って紅茶を優雅に飲んでいる女性に向かって、クーは頭を下げた。

川 ゚ -゚) 「お久しぶりです、マザー」

J(  ̄─ ̄)し「ええ、久しぶりです、クーさん」

その女性は、身振り手振りで久しぶりの再会を喜びながらも、その顔につけた鉄仮面のせいで表情を伺いしることはできなかった。

あでやかなカジュアルドレスを着込み、ふっくらとした体つきをしていながらも、顔には鉄仮面。
なかなかにシュールな姿だ。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:56:26.18 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「マザー、さっそくですがお話が……」

J(  ̄─ ̄)し「あらあら、せっかちねえクーさん。初めてのお客さんに挨拶ぐらいさせてもらってもいいでしょうに。
       ねえ、ツンさん、ドクオさん、ショボンさん?」

ξ゚听)ξ「え……!」

(´・ω・`)「どうして僕達の名前を……」

驚いているツン達。
彼らのことをすっかり忘れていたクーは、慌てて彼らに説明をし始める。

川 ゚ -゚) 「彼女はこういう人なんだ。予言者、と言っただろう?
     彼女は未来を見る力を持っている。怖がらなくてもいい。悪い人ではないから」

J(  ̄─ ̄)し「あらあら、予言だなんてたいそうなものじゃありませんよ。ただ推測しているだけです」



  
50: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 00:58:46.52 ID:62RqceFl0
  

予言者『マザー』。
数年前の「ごたごた」の後から『VIP』に協力してもらっている『重要保護人物』。
そして、予言者。

彼女の予言は多岐にわたり、『人の子』が出現する場所を当てたのも彼女だし、『影』の出現場所を推測してくれたのも彼女だ。

彼女と再会したのは実に1年半ぶりのことだ。
これまでは彼女からの一方的なファックスを受け取るぐらいしか接点がなかった。(それでも十分な情報をもらっていたけど)

それは彼女が人と接するのを嫌がるからであり、
こんな山奥まで電話線が引かれていないからでもあり、
またこちらからもなるべく接触を避けていたからでもある。

なんにしろ、彼女の予言は自分達にとって不可欠なものだ。

それは十分「たいそうなもの」と言う資格がある。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:00:53.28 ID:62RqceFl0
  

ツン達は動揺しながらも、マザーに向かって頭を下げた。

ξ゚听)ξ「は、はじめまして」
('A`)「はじめまして」
(´・ω・`)「はじめまして」

J(  ̄─ ̄)し「はい、はじめまして。ああ、握手は結構ですよ。あなたたちの未来を見てしまうのは忍びないですから」

ショボンが律儀に握手しようとしたを所をマザーが止める。
3人が再び頭に?マークを浮かべたので、クーは重ねて説明した。

川 ゚ -゚) 「彼女は近くにいる人間や物の未来を無差別的に見てしまうんだ。見ようとしなくても、な」

(´・ω・`)「え? それじゃあ……」

J(  ̄─ ̄)し「ああ、今は大丈夫ですよ。こうやって鉄の仮面をつけていれば見えませんから。
       ただ、直接触ってしまうとダメなので握手は遠慮しているんです」

川 ゚ -゚) 「こんな田舎のこんな部屋の中に住んでいるのもそれが原因だ。この部屋の壁には鉄が敷き詰められており、外とは完全に遮断されている。
     しかしそれでも未来を見てしまうことは完全に阻止できない。どうしたって壁や床には触れてしまうからな。だからこのマットを敷いている」

クーは床に敷き詰めてある自傷防止用の白いマットを指差した。



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:03:12.75 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「このマットは……」

J(  ̄─ ̄)し「未来を見過ぎて狂ってしまった時、自分を傷つけないためのもの。
       あと、ある程度の遮断性もあります」

川 ゚ -゚) 「……こういう部屋でないと彼女は日常生活を送れないんだ」

ξ゚听)ξ「そんな……」

ツンが口を手で覆って、悲痛な声を出す。
マザーは近くにあったティーポットでお茶を淹れながら、明るい声でそれに答えた。

J(  ̄─ ̄)し「そんな声を出さないで、ツンさん。私は満足してます。
       こうやって静かな生活を送ることが私の幸せですから。
       以前都会に住んでいたこともありますが、それに比べたら遥かにマシですよ」

おそらくその仮面の下では幸せそうな微笑みを浮かべているのだろう。
それが感じられて、クーもまた微笑んだ。ツン達も納得がいかない表情をしつつも、安心したかのように息を吐いた。

J(  ̄─ ̄)し「昔クーさん達には迷惑をかけましたしね……今はしがない占い屋をやっています」



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:05:19.11 ID:62RqceFl0
  

マザーは慣れた手つきで4人分の紅茶を淹れ終え、テーブルの上におく。

J(  ̄─ ̄)し「どうぞ」

クー達は椅子に座り、ありがたくそのお茶をいただいた。

おいしかった。少なくとも食堂の紅茶よりは。

川 ゚ -゚) 「で、マザー。聞きたいことがあるんですが……」

紅茶を飲み干しながら、クーは話を切り出した。

J(  ̄─ ̄)し「ええ、わかっています。『人の子』……ブーン君のことですね?」

川 ゚ -゚) 「……やはりマザーも彼が『人の子』だと?」

J(  ̄─ ̄)し「あなた達もそう思っているんでしょう?
       彼は不思議な子です。私ですら、彼の未来をはっきりと見ることができない。
       いえ、最近になって世界全体の未来にもやがかかっているのは、おそらく彼の存在があるからなのでしょう」



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:07:25.14 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「もや? では、未来が見えないんですか?」

J(  ̄─ ̄)し「まだまだ薄いもやですが、広がりつつあります。きっと彼という不確定要素が発生したからなのでしょう。
        私は『気』の流れを推測するだけ。それは川の流れを読むのと似ています。
        しかしブーン君という『石』が川の中央に落とされることで、流れは複雑化し、さまざまな方向へと流れているのです」

クー達は黙って彼女を話に聞き入った。と同時に不安に思った。

マザーが未来を見ることができない……ということは、ブーンを救い出すことができないということに。

J(  ̄─ ̄)し「ああ、だけど安心してください。ブーン君の近い未来……非常に近い未来は見ることができました」

その瞬間、ツン達の間に希望の笑みが浮かんだ。

ξ゚听)ξ「じ、じゃあ居場所も!」

J(  ̄─ ̄)し「私が見ることのできるのは現在ではなく未来だけ……今の居場所はわかりません。
        私が見たのは、今から3日後の昼、ブーン君が飛騨山脈の山奥にある何かの施設に収容される所だけでした」

(´・ω・`)「けっこう範囲が広いね……」



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:09:32.41 ID:62RqceFl0
  

J(  ̄─ ̄)し「詳しい場所はわかりません。しかし、ブーン君を連れていく人達には見覚えがありました。
あれはおそらく……ラウンジ教でしょう」

川 ゚ -゚) 「ラウンジ教……! そうか、やはりぃょぅの推測は正しかったのか」

狐達にことの次第を報告した会議の後で、ぃょぅはこんなことを電話で言っていた。

(=゚ω゚)ノ『もしかしたらラウンジ教かもしれないょぅ。
     ブーン君が行方不明になった日、公安も【影】の出現地域を見張っていたという情報が入っているょぅ』

ラウンジ教ならば、対処方法はいくらでもある。
彼らの本部はわかっているし、そこにブーンがいる可能性も……!
もしそこにいなかったとしても、3日後には飛騨の施設に移されることが分かっているのだ。
その移動中を狙っても良い。

彼を救い出す方法などいくらでも……!

クーは無意識に明るい表情をとった。



  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:11:34.48 ID:62RqceFl0
  

川 ゚ -゚) 「ありがとうございます。これでなんとかなりそうです」

J(  ̄─ ̄)し「いえいえ、これが何かの役に立てばいいんですが」

(´・ω・`)「僕達にとっては救いの手みたいなものですよ」
ξ゚听)ξ「ありがとうございます!」
('A`)「よし! 善は急げだ! 早く帰ろうぜ!」

ドクオのそんな早足にツンが「待ちなさいよ。せめてお茶を飲んでからにしなさい」とツッコミを入れる。
部屋の中が少しだけ笑いに包まれた。


丁重にお礼を言い、クー達はその館を後にした。

最後、マザーはクーだけを呼び止めて、こんなことを言った。

J(  ̄─ ̄)し「おそらくこれが私の最後の予言になると思います。世界はもう私が理解するためにはあまりにも複雑化していますから。
       あなたと会うのもこれが最後でしょう……名残惜しいですけど、仕方のないことです。
       クーさん、気をつけてください。これからは私が見えない世界です。あなた達の意志が重要になります。
       これまでは人の意志で未来を変えることなどできませんでしたが、これからは違います。人の意志が重要なのです。
       これだけを覚えておいてください」

そんな暖かい言葉に、クーは頭を下げただけで応えた。言葉が出てこなかった。
まるで本当の『母』のようだった、彼女は。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:13:24.90 ID:62RqceFl0
  



マザーの洋館から、来た道を戻ること30分。

ドクオの体力が限界になって倒れそうなところを、クーとショボンが両側から担いで歩いたり、

ツンが赤い顔をしてモジモジと身を震わせ、「トイレか?」と聞くと一層赤い顔になったり、

ショボンが汗ひとつかかない顔をして歩いていたり(冬ではあるものの、けっこうな距離を歩いたのだが)、

そんなことをしながら、クー達は車に戻り、そして一路『VIP』へと戻るために出発した。

帰った後にやることは山ほどある。これからは一層寝不足になることだろう。
だが、それは嫌なことではない。自分から進んでやっていることなのだ。自分の意志が望んでいることなのだ。

ブーンを助けるために。これ以上繰り返さないために。
今自分がやるべきことを、やる。



  
63: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:15:30.52 ID:62RqceFl0
  

('A`)「クーさん、ブーンを助ける作戦……俺たちも混ぜてくれませんか?」

川 ゚ -゚) 「それは……」

(´・ω・`)「お願いします」
ξ゚听)ξ「サポートぐらいならやりますから!」

運転中、彼らが真剣な表情でそう言うのを聞いて、クーは一瞬迷った。

彼らもまた『自分がやるべきこと』をやろうとしているのだろう。
自分達の意志を貫き通そうとしているのだろう。

だが……

川 ゚ -゚) 「すまない。それはできない」

(´・ω・`)「どうしてですか?」

川 ゚ -゚) 「これからはもう普通の人間が関わるようなことじゃない。戦争だ。
      たとえ君達が1週間ほど訓練をしていたとしても、なんとかなるようなレベルの状況じゃないんだ。
      それに、君達がやることは別にある」

('A`)「なんですか?」



  
64: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:17:37.38 ID:62RqceFl0
  

クーは一息つき、後ろにも前にも車がないことを確認して、目線を後ろの3人に移した。

川 ゚ -゚) 「ブーン君が戻ってくるのを待つこと。そして、彼が戻ってきた時に迎え入れてあげること……
      それは君達にしかできないことだ。兵士ではとてもじゃないができない」

ξ゚听)ξ「……」
('A`)「……」
(´・ω・`)「……」

ハンドルを右に切りながら、クーは一呼吸置いて言った。

川 ゚ -゚) 「私達に任せてもらいたい。絶対に助けるから」

「はい」という言葉が返ってきたのは、それから数十秒経ってからのことだった。



  
66: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/12(日) 01:19:32.62 ID:62RqceFl0
  

少しくさい台詞だっただろうか? まあ、これが本心からの言葉だ。

……これでますます失敗は許されなくなった。
ツン達が役目を果たせるように、まず自分が頑張らないといけないのだ。

川 ゚ -゚) (……)

クーは長く続く高速道路の先を見つめた。
もう夕方に差し掛かりつつある空の色。
道路沿いの電灯が瞬き、車もほとんど通っていないこの道路の先には何があるのだろう?

それは自分の意志ひとつで決まるのかもしれない。

マザーの言葉が今になってさらに印象深いものになったような気がした。

第14話 完



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