( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 4: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:03:05.22 ID:zgn2QLwd0
- 第19話
12月も下旬に入って久しい頃。
世間ではクリスマスや新年に向けて忙しくなる時期に入っている。
恋人や子供へのプレゼントを選んだり、年賀状の作成に追われたり、年末に向けて仕事が多く入ったりなど、
みんなが休む暇を削る頃だ。
しかし、今年の年末は違っていた。
冬休みに入ったはずの学生はあまり外で遊ばなくなった。
サラリーマンの忘年会は、先に政府から達せられた「夜での飲食店営業禁止命令」のあおりを受け、ほとんどお流れになった。
買い物客も例年に比べれば少なく、高層ビルが立ち並ぶ都会の光は最近になってますます弱くなっている。
夜でも昼でも、警官が街中を巡回している光景も見られるし、
喧嘩を目撃することも珍しくなくなってきた。
『夜に出歩くのは危険なのでなるべくやめておきましょう』
ニュースではそんなアナウンサーの堅い言葉が流れ続けている。
『評論家のひろゆきさん。今年の犯罪率の増加をどう見ますか?』
『そうですね。やはり模倣犯の増加がその要因だと思われます。
ひとつの大きな事件が起これば、それを真似する犯人が必ず現れる。よくない傾向としか言いようがありません。
近年のモラルの低下、防犯意識の薄さがここになって顕著に現れたものと私は思いますね』
- 6: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:05:07.60 ID:zgn2QLwd0
『では、今私達ができることはなんでしょうか?』
『自分の身は自分で守るという意識を常に持つことです。嘘を嘘と見抜ける力を持つこと。それが今必要なのです』
都会では夜に出歩くことは危険とされ、そこから離れた田舎や住宅街でも、犯罪はわずかながら増加していた。
これは何が原因なのだろうか?
いや、原因など調べて無駄なのだろう。
これまでの何十年間もの間に起こった様々な要素が絡み合って、今のこの状況が出来上がってしまったのだ。
ある一人の行動、ひとつの事象に責任があるわけではない。
全体の流れが、このようになっていたのだ。
※
- 8: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:07:11.87 ID:zgn2QLwd0
※
某県某湖。
ひとつの町とひとつの村にまたがって広がる原野が、そこにはある。
近くの火山から噴き出した溶岩流によって作られたその土地の上には、様々な種類の木々が混在し、広い原始林が形成されている。
周辺には風穴と呼ばれる洞穴や、洞窟が多く点在し、3000ヘクタールを超える広さを持っている。
俗に言う「樹海」。
公園や遊歩道が設置されるなど観光にも適した場所でありながら、自らを殺してしまうような人間が多く訪れる、二律背反的な場所。
そこに、あるインターネットを通じて集まった若者達が車をとめ、壮大に広がる目の前の原始林を見渡していた。
夜。道路の灯りの他には、車のヘッドライトぐらいしか光源がない、暗い場所だった。
「お〜、ここが有名な樹海ねえ」
「ねえねえ、誰か今にも死にそうな人とかいるのかな?」
「俺、骸骨とか見たくねえなあ」
彼らは某クオリティを重視する掲示板にて、「突発樹海オフ」という、その板に似合わないOFF会を計画した若者達だった。
- 9: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:09:34.66 ID:zgn2QLwd0
高校生や大学生、サラリーマン、男、女と様々な人物構成を有したそのオフ会では、
この樹海を探検して実際に遭難するのか?という、肝試し的なことをやろうと計画されていた。
いわば、お遊び企画だ。
「よし、俺がまず行くおwwww」
「ちょwwww 現実世界でその口調使うなよwwwwww」
「クオリティ高いのか低いのかわかんねえwwwww」
彼らは笑いあいながら、懐中電灯を手にして淀みのない足取りで森の中へと入っていこうとしていた。
ちなみに、「樹海の中では方位磁石が効かない」というのはまったくの俗説であり、
周辺の磁鉄鉱の影響を受けて多少の誤差は出るものの、地図を見る上ではほとんど影響がない。
オフ会を開いた彼らももちろんそのことは知っており、方位磁石と地図、もしものための携帯電話(樹海の中では携帯も通じる)も持参し、迷うことのないようにしていた。
「ちょwww 暗ええええええwwwww」
「叫ぶなwww」
「俺も叫ぶぜwwww」
無駄な笑い声をいつまでもたてている彼ら。
こんな樹海なんて全然怖くない、とでも言いたげなほど、余裕に満ちていた。
- 10: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:11:26.78 ID:zgn2QLwd0
しかし。
「ん? なあなあ、あれなんだ?」
森に入って数分か歩いたところで、メンバーの1人が異変に気付いた。
その注意深い大学生は、あるひとつの方向を指差している。
その先には、なにやら人型の影らしきものが。
「なんだあれwwww」
「ちょwww まさかほんとに自殺者かよwww」
「こわーいwww」
それはゆっくりと目の前を移動していた。
木の葉を揺らし、地面を踏みしめ、月明かりも届かない闇の中をのそりのそりと歩いていた。
まさか、本当に自殺者? 首吊りか?
テンションの高くなっていた彼らは、半分驚き半分笑いながら、その影へと懐中電灯を向けた。
しかし、彼らの笑顔はその瞬間に凍りついた。
光を当てたはずなのに、その影はなお影でしかなかったのだ。
- 11: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:13:14.89 ID:zgn2QLwd0
「ちょ……うぇうぇ……」
「うは……イミワカンネ……」
「こりゃ……やばくね……」
「逃げようぜ……」
「w」を「…」に変えるスレの中にいるかのように、彼らの笑いはすでに無くなっていた。
目も鼻も口もない、ただ黒い物体がそこにいる。
彼らは恐怖で身を縮こまらせ、一斉に懐中電灯を放り出して逃げた。
持ち主を失い、地面にぽつりと放置されたその懐中電灯。
そこから放たれる光は、
無数の黒い物体が樹海の中をうようよとうろついている光景を、明るく照らし出していた。
※
- 12: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:15:56.25 ID:zgn2QLwd0
※
狐「では、これから定例会議を行います。よろしく」
『VIP』のビル、会議室内。
寒さも増し、暖房がいつもより強くなっているその部屋の中で、毎日行われる定例会議が始まった。
ブーンは自分の席に座りながら、やはりこの場に慣れていない自分を自覚し、手の平に浮かぶ緊張の汗をズボンで拭き取った。
役人やら偉そうな人やらが出席するこの会議で、自分は発言したことがない。というか、できない。
ここまでの厳粛な雰囲気を人生で一度も味わったことがない自分が、他人の意見を聞いて意見を言うなど、できるのか? 否、できない。
だから、今日もこうやって話題の理解に努めるしかないのだ。
狐「じゃあ、まずしぃ君とクー君から報告をお願いしようか」
(*゚ー゚)「はい」
川 ゚ -゚) 「では、まず手元の資料を見ていただきたい」
ブーンは急いで手元の資料に目を落とした。
そこには『最近の【影】の動向』と題された報告の文章がずらりと書かれている。
下の右端にはグラフらしきものもあり、折れ線グラフで表現されているのは、どうやらここ1週間の『影』の出現数のようだ。
こう見ると、この2、3日で『影』の出現数が急激に減っていることが分かる」
- 13: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:19:54.46 ID:zgn2QLwd0
川 ゚ -゚) 「ご覧の通り、この3日間で『影』は劇的に減っていることがわかります。
1週間前までは1日に10体は出ていましたので、この急激な減少具合は異常としか言いようがありません」
(*゚ー゚)「レーダーで調べてみても、やはり『影』の反応はほとんど見られなくなっています」
レーダーとは、『影』を見つけるために『VIP』が1年か2年ぐらい前に開発した代物だ。
あらゆるセンサーに反応しない『影』なので、その存在自体を捉えることはできない。
だが、『影』が現れることでその周辺の『気』に乱れが生じるため、それを捉えることで『影』の出現を感知するのだという。
中継地点がいくつも必要なので全国をカバーし切れていないものの、広範囲にわたって探知が可能となる。
しかし、これはまだまだ精度が低く誤差が大きい。
一方、『気』を扱える人間が『影』の気配を察知した方が精度は高いが、範囲が狭すぎる。
よって、このふたつ併用することで互いの弱点をカバーし合っているのだとか。
以前クーに聞いた説明を思い出しながら、ブーンは彼女達の話に聞き入った。
(*゚ー゚)「原因は不明としか言いようがありません。
ただ、5年前にもこのようなことがあり、減少後にまた増加したという経緯があるため、楽観的に見ることはできないと思われます」
川 ゚ -゚) 「よって、これからの夜の任務には、『影』の討伐の他に『探索』も加えたいと思います。
私やブーンなど、『気』を扱える人間が細かく見て行った方がいいでしょうし」
狐「うん、それはいいと思うよ。まあ、無理はしないようにしようね」
(*゚ー゚)「はい」
川 ゚ -゚) 「これで報告は終わりです」
- 14: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:22:18.24 ID:zgn2QLwd0
しぃとクーが席に座り、狐が何やらコメントを口にする。
ブーンはそれを聞かず、クーの方をちらりと横目で見た。
凛とした表情と燃えるような目。
何か決意に満ちたものがそこにあるような気がして、ブーンは不思議に思った。
あんな目は今までしていなかった。
何かが彼女を変えたのだろうか?
ジョルジュとクーの過去話を聞いて以来、どうも彼女のことが気になってしょうがない。性的な意味ではない。もちろん。
狐「じゃあ、次はぃょぅ君、報告を頼むよ」
(=゚ω゚)ノ「……あ!っと、わかったょぅ」
何やら文庫本を読んでいたぃょぅが、慌てた様子で立ち上がる。
その文庫本のカバーの裏に「憂鬱」という文字が見えたのは、もう気のせいじゃない。
(=゚ω゚)ノ「えーと、以前の報告どおり、ジョルジュ長岡は世界中の革命団体とコンタクトをとっているょぅ。これは完全に確認したので、間違いないょぅ。
問題は、そんな連中と協力して何をしようとしているのか? ということだょぅ」
役人「世界中で革命でも起こそうとでも言うのかねえ」
クックックッという役人の下卑た笑い声が部屋に響く。
ぃょぅはあからさまに嫌な顔をしながら、説明を続けた。
- 15: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:24:20.91 ID:zgn2QLwd0
(=゚ω゚)ノ「その可能性も否定はできないから、今こうやって情報を集めているんだょぅ」
狐「けど、本当に革命を起こそうとしているのなら、『VIP』だけの問題じゃなくなってくるよ。
他の国の情報機関や、場合によっては国連の安保理にまで事態が発展するかもしれない」
(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。けど、今のところジョルジュがそういう行動に出ていることを掴んでいるのは、僕とアメリカぐらいだょぅ」
狐「アメリカはどう動いているんだい?」
(=゚ω゚)ノ「注意はしているようだょぅ。けど、直接的な動きにはまだ出てないょぅ」
狐「だろうね。本当に世界中で革命を起こすことなんてできるわけがない……何よりも力が違いすぎるしね」
まあ、確かに。
過去に起こった革命だって、例えば国民の大多数が政府に反発していたりするから可能だったのであり、
一部の武装集団がどう戦っても、彼らだけで革命を起こすなど不可能なのだ。
(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。どうあがいてもアメリカで革命を起こすなんて不可能だし、他の国でも国の軍隊の方が強いに決まってるょぅ。
けど、ジョルジュ達の動きは不気味だょぅ。だから、注意することは必要だと思うょぅ」
(*゚ー゚)「革命話ばかりにいってますけど、他の可能性はないんですか?」
ぃょぅが締めくくろうとしたところで、しぃが不意に口を挟んだ。
他の可能性? とブーンは首を傾げる。他の可能性とは、例えばどんなだろうか?
- 16: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:26:46.25 ID:zgn2QLwd0
(*゚ー゚) 「例えば……逆に革命軍をつぶそうとしている、とか。ラウンジ教で私達を助けてくれたように」
(=゚ω゚)ノ「確かにそれもありえるょぅ。けど、そうじゃなかった場合のリスクが高いから、こうやって情報を集めているんだょぅ」
(*゚ー゚)「そう……ですよね」
しぃが口を閉じ、顔を俯かせる。
彼女もまた、ジョルジュとは仲間だった関係なのだ。彼が悪いことをやっているとは考えたくないのだろう。
けど、ぃょぅの言うことだって一理ある。
ジョルジュが何をやろうとしているのかわからない以上、『最悪の事態』を考えて行動するのはこういう場合の鉄則だ。
それは理解できるのだが……やっぱりジョルジュが悪いことをやろうとしているなんて、思いたくない。それは十分理解できる感情だ。
ブーンはそんなことを考えながら、彼らの話を黙って聞く。
狐「なんにしろ、注意は必要だということだね。調査は引き続きお願いするよ。
もしもの場合は政府との連携も深めていかなくてはいけない。ですよね?」
狐が役人達に向かって笑顔で尋ねると、彼らは渋々といった様子で頷いた。
にしても、彼らは『VIP』がとことん嫌いなのだろう。この二週間あまりの会議でそれが痛いほどよくわかる。
政府にとってはただの税金の無駄遣いにしか見えないのかもしれない。
けど、『影』が出るから仕方なく力を貸しているのであり……そういった葛藤がありありと分かる。自分には。
また直感的に人を判断していることに気付いたブーンは、いけないいけないと首を振った。そういう判断の仕方は後々致命的になるかもしれないのだから。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:29:15.93 ID:zgn2QLwd0
狐「じゃあ、次はしぃ君、モナー君、『あれ』の開発状況は?」
( ´∀`)「30%といった所だモナ。どうにも出力調整が難しい上、圧縮と爆散に時間がかかりすぎて、実用性に欠けてしまうモナ」
(*゚ー゚)「全力で開発を行っていますが、まだ理論が完成したばかりですし……」
狐「うーん、早めにお願いするよ。開発部にもそう言っておいて」
( ´∀`)「わかったモナ」
(*゚ー゚)「はい」
狐とモナーが話していることをぼんやりと聞きながら、ブーンは窓から外を見てみた。
外では木枯らしが吹き、とうの昔の葉を散らした茶色い木を揺らしていた。
昨日の天気予報では『シベリア寒気団が日本列島を覆い、さらに寒い1日となるでしょう』と言っていたが、どうやらそれは大当たりのようだ。
きっと外に出れば、身体は震えて歯をガチガチと鳴らしてしまうに違いない。
暖房さまさま、だ。
こうやって暖かい部屋にいる時は、エアコンの開発者に感謝したい気持ちになる。誰なのかは知らないけど。
- 20: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:31:25.26 ID:zgn2QLwd0
狐「情報の漏洩に関してはどうだい?」
川 ゚ -゚) 「外部回線からネットを介してのハッキング、またはスパイ、スニーキングなどの工作活動等々、様々な可能性を探ってみましたが、
怪しい所は見つかりません。確かに以前から私達の行動が監視されている素振りはありましたが、それも確定できるほどのものではありませんし」
狐「これは私の勘にしか過ぎないから、外れてるかもね。
けど、一応調査は進めてくれないかい?」
川 ゚ -゚) 「了解」
雪でも降りそうな天気だ、本当に。
そういえば、今年はまだ雪を見ていない。
と言っても、最近は都会で雪が降ることなんて滅多になくなったから、今年も見れないかもしれない。
雪を見たいなあ、となんとなく思ったブーンは、暇が出来たらスキー旅行にでも行こうと密かに決意した。
そろそろ卒業後の進路について考えなければいけない時期なので、遊んでいる暇はないかもしれないけど。そもそもちゃんと高校を卒業できるかすら分からない。
狐は「任せといて」と言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?
- 21: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:34:03.42 ID:zgn2QLwd0
狐「他には?」
(*゚ー゚)「お姉ちゃんの病状があまりよくないんですが……」
川 ゚ -゚) 「確かに、以前よりひどくなっている感があるな。あまり話をしてくれなくなった」
狐「一流の医者を集めたつもりだったんだけどね……うん、1度私も彼女の様子を見てみるよ。
医者と相談しながら、どうするか決めるよ」
(*゚ー゚)「お願いします」
ブーンはぼんやりと彼らの話を聞きながら、つーの所にも言っていないな、と思った。
最近はツンの所ばかりに行っているから、彼女を見舞ってない。
病状がよくないようだし、1度様子を見に行ってもいいかもしれない。
その次の瞬間には、そういえばツンはどうしているだろうか? と思考をつれづれと続けるブーン。
気付いた時には会議はすでに終わりを迎えており、「今日もあまり話を理解できなかったなあ」と難しい学校の授業を終えた学生のようにとぼとぼと会議室を出て行くのだった。
※
- 22: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:35:55.05 ID:zgn2QLwd0
※
( ^ω^)「ツン〜、みんな〜、おいすー」
('A`)「お、会議は終わったのか?」
(´・ω・`)「お疲れ。リンゴを剥いたから食べてね」
会議は終わってすぐ、ブーンは特別治療区域に向かい、ツンの病室へと飛び込んだ。
部屋にはベッドの上で寝ているツンの他に、トランプをやっているドクオをショボンがいる。
ブーンは彼らの横の椅子に腰掛けつつ、寝ているツンの様子を覗き込んだ。
白い布団をかぶり、目を瞑り、穏やかな顔で眠っているツン。
それはものすごく綺麗で、一瞬ブーンは目を奪われ、飛びつきそうになるのを抑えるのに苦労する。
ξ 凵@)ξ「……」
( ^ω^)「ツンは寝てるのかお?」
('A`)「最近は起きてる時間の方が少ないからなあ」
(´・ω・`)「床ずれが起きないよう、こまめに体勢を変えること、ってさっきお医者さんが言ってたよ」
( ^ω^)「じゃあ、さっそく体勢を変えるお」
ブーンは布団をめくり、ツンの身体に手を添える。
これは決して淫らな気持ちがあるわけじゃない。
そう心に誓いつつも、ツンの身体を見てしまうと反応してしまうのは悲しい男の性か。
- 23: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:38:18.82 ID:zgn2QLwd0
なんてことを考えながら、ツンの身体を横にしてやると、気付いたことがあった。
細くなっているのだ。特に腕とか足の辺りが。
意識のないツンは、もちろん通常の食事を取ることができない。
そのため、点滴による栄養補給を行っているのだが、それは生命活動を行う上での最低限のエネルギーしか補給できず、だからこんなに細くなってしまうのだろう。
こんな細い腕は初めて見た。「小枝のような腕」という表現がぴったりと当てはまる。
ブーンは少し暗い気持ちになりつつも、ツンに布団をかけてあげると同時に「リンゴもらっていいかお?」とショボンに向かって手を差し出した。
(´・ω・`)「ん? いいよ。はい」
( ^ω^)「ありがとうだお」
8等分ぐらいにしたリンゴをもらい、それを一口で頬張る。
シャリシャリした感触を口の中で確かめながら、口移しでもできたなあ、とブーンは考える。喉に詰まるから危ないけど。
なんとかしてツンを助けたいのに、できない。
もどかしくて、嫌な気分になってしまうものだった。
- 25: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:40:46.90 ID:zgn2QLwd0
( ´ω`)「……はあ」
('A`)「何ため息ついてんだ?」
(´・ω・`)「おいしくなかったかい?」
( ^ω^)「そんなことないお。ちょっと疲れただけだお」
('A`)「そうか」
(´・ω・`)「まあ、働きづめだしね。ねえ、ブーン。そろそろクリスマスだって気付いてたかい?」
( ^ω^)「そうだったかお? そういえば……もう年末だったかお?」
『VIP』にやってきたのは12月の上旬。
で、今は年末に近い日付。もう一ヶ月近くも家に帰っていないことになる。
時間が経つのは早い……その間にあったことは驚愕に尽きない出来事ばかりだったけど。
『影』に襲われて、変な光を出して、『VIP』に保護されて、戦う決意をして、変な組織にさらわれて……
嫌なことも嬉しいこともあった。悲しいことはもっとたくさんあった。
貴重な出会いもあれば、嫌な出会いもあった。
これからどこに進んでいくのかわからないけど、いつかはクリスマスを素直に祝えるような日々に戻りたい。ブーンはそんなことを考え、もうひとつリンゴを頬張る。
- 27: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:43:21.91 ID:zgn2QLwd0
(´・ω・`)「クリスマスにテロでも起こしてみる?」
('A`)「バーローwwww それなんて小説だよwww」
( ^ω^)「冗談きついおwww」
こうやって冗談を言い合える時間が、もっと増えたらいい。
そんな希望を心に浮かべれば、これからの出来事にも少しは耐えられるような気がする。
(´・ω・`)「じゃあ、テロはまだしも、パーティぐらいならできそうじゃない?」
('A`)「いいね。最近、家族でもクリスマスにパーティすることなんてないからなあ」
( ^ω^)「普通の家庭は、高校生になるとケーキを食べるぐらいしかしないものだお。
まあ、孤児院でパーティはやってたけど」
(´・ω・`)「じゃあ、クリスマスに用事がなかったらパーティでもしようか?」
('A`)「プレゼントでも買ってくるかな。あ、外には出られないんだっけ?」
( ^ω^)「スタッフさんに頼めば大丈夫だお。僕から頼んでみるお」
(´・ω・`)「頼むよ」
('A`)「何にするかねえ。プレゼント交換会でもするかあ」
( ^ω^)「それは面白いおwww」
- 28: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:46:41.06 ID:zgn2QLwd0
クリスマスプレゼント、か。
パーティ用とは別に、ツンにも何かプレゼントあげてもいいかもしれない。
例えば……指輪、とか?
( ^ω^)(恥ずかしすぎるおwww)
けど、ツンに指輪をあげるのはいいかもしれない。
目覚めた時に見慣れない指輪があるのを見たら、きっと驚くだろう。
顔を赤くして「だ、誰がこんなものを!!」と怒ったりとか。
そんなツンを見てみたい気もする。
ξ 凵@)ξ「……」
( ^ω^)(早く目を覚ますお、ツン。みんな、パーティの準備をして待ってるお……)
眠っているツンに心で語りかけてみるブーン。
返事は返ってこないけど、話しかけるだけで今は十分だった。
※
- 29: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:49:37.56 ID:zgn2QLwd0
※
午後に入り、いつもの訓練の時間がやってきた。
今日はこれまでのクーとの訓練の復習と、新技の開発だ。
『光弾』『剣状光』『光障壁』の3つがあれば、近距離・遠距離共にカバーできるのだが、いかんせん数を倒すには適していない。
原則的に『影』との戦闘は1対1、もしくは味方2対敵1なのだが、これから大量の『影』と戦う可能性がないとは言えない。
例えば、過去につーの精神がおかしくなった事件の時のように、大量の『影』に囲まれた場合はどうするべきか?
なんとかならないか?とクーに話してみると「では、新しく技でも作ってみたらどうだ」という答えが返ってきた。
それから何日かクーと相談しながら新技開発に力を注いできた。
例えば、マシンガンのように連続して『光弾』を放出したりだとか、
地雷のように白い光を地面に埋め込め、トラップを形成したりだとか、
光をロープのように伸ばして敵に絡ませることで、捕縛したりだとか、
イメージさえ固めれば、白い光は形や性質を色々と変えてくれるので、後は実用性と効率の両面で有効なものを探すだけだった。
(ただ、ラウンジ教の施設を吹き飛ばしたようなドーム状の光はどうやっても出せなかった)
- 31: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:52:33.46 ID:zgn2QLwd0
敵をいっぺんに倒しつつも、目の前に敵に集中できるようなもの。
けど、味方を巻き込まないようにできるもの。
そうやって色々考えた結果、ひとつの技に決めることができた。
川 ゚ -゚) 「では、ボールを投げるぞ。しっかりイメージして当てろ」
( ^ω^)「わかったお」
剣道場の端っこで、クーがこぶし大のゴムボールを持って構えている。
ブーンはそのボールを見つめながら、これから出す光をしっかりとイメージし、技がちゃんと出せるように準備する。
川 ゚ -゚) 「はっ!」
クーがマウンドに立つ投手のように大きく振りかぶり、勢いよくボールを投げる。
ゴムボールはすさまじい速さで壁に向かって飛んでいく。野球選手顔負けのスピードだ。130は出てるんじゃないか?
しかも変化球がかかっていたらしく、途中でカーブして予想外の動きをとろうとする。
しかし、ブーンのイメージはすでに完了していた。
- 32: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:55:39.85 ID:zgn2QLwd0
ブーンが右腕を横に上げると同時に、白い光が腕全体から発し始める。
それは急速に収束・凝固し、ブーンのイメージする姿――細長い槍のような物へと形作られていく。
それらは腕から背中にかけて何本も発生する。外から見ればまるで多数の槍を背負っているかのように見えるだろう。
( `ω´)「……いけ!」
その声と共に、白い槍は自らの意志を持っているかのように、手首の方から順番に階段状に射出していく。
頭上に浮いていたそれらの光は、慣性の法則を無視しているかのように急激な加速をとり、宙を飛んでいるボールに向かって飛んでいった。
そして、4、5本の白槍がボールに突き刺さる。
ゴムボールはパン!という音と共に粉々に砕け散り、残骸が地面へと落ちる。
成功だ。
川 ゚ -゚) 「む、見事だ」
( ^ω^)「やったお! 完成だお!」
白い槍は、まだ2、3本ほどブーンの背中に背負われている状態で残っていた。
それを消し、ブーンはクーの方へと足早に近づいていく。
( ^ω^)「完成だお! これを『飛槍光』と名付けるお!」
川 ゚ -゚) 「名前はどうでもいいが……見事だ。
空を飛び、遠隔操作の出来る槍、か。大量に出せば、おそらく集団戦でも役に立つだろう。
こんなイメージ、どうやって思いついたんだ?」
( ^ω^)「某ロボットアニメだお! 本当は『ひれ状じょうご』と名付けたかったけど、それはパクリすぎてるし、かっこわるいからやめたお!」
- 33: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:58:27.54 ID:zgn2QLwd0
ちなみにこの『飛槍光』は、望めば数百と出せるし、巨大な1本の槍にすることも可能だ(イメージするのが大変だが)。
ただ、放熱板と間違えられたり、敏感すぎてダイレクトに防御に走ったり、バリアを形成したりはしない。
( ^ω^)「これで『影』の討伐がもっと楽になるお。戦いだって終わるに決まってるお」
川 ゚ -゚) 「そうだな……そうなると良いんだが。
私も、お前のように『気』を飛ばすことができたらいいんだがな」
竹刀をぽんぽんと叩きながら呟くクー。
彼女はあくまで、剣の周りに『気』を張ることしかできない。だからこそ、剣術が生かされるというものなのだが。
川 ゚ -゚) 「方法はないものか……」
顔を俯けて、考え込むクー。心なしか落ち込んでいるような気がするのは気のせいか?
もしかしたら、強さで引き離されているとでも思っているのだろうか?
そんなことはない。剣術ではまだまだクーには適わないし、何より心の強さがぜんぜん違う。
戦いにおいて心理面が重要だというのは、嫌ほど経験してきたこと。
たとえ強力な技を持っていても、総合的に見ればクーの方がまだまだ上なのだ。
( ^ω^)「……クーさんも訓練すればいいんだお! そしたらきっとできるはずだお!
望めばきっと叶うんだお!」
川 ゚ -゚) 「……そうだな。一応、練習はしておくか」
ふっ、と笑うクー。少し元気になったようで、安心だ。
- 34: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:01:54.97 ID:zgn2QLwd0
川 ゚ -゚) 「では、次にこれまでの復習をするぞ。まずは剣だ。
それが終わったら、光の弾やら、空を飛ぶ光の槍やらとのコンビネーションもやっておくぞ」
( ^ω^)「はいだお!」
( ´∀`)「も、盛り上がってる所をすまないモナ。ちょっといいかモナ?」
『剣状光』を出して準備万端という所で、急にモナーが慌てた様子で剣道場に入ってきた。
汗をかき、息を切らしているモナーの顔は、なんだが悲愴さが漂っているような気もしないではない。
( ´∀`)「緊急事態だモナ。すぐに会議室に来てほしいモナ」
川 ゚ -゚) 「なんだ? 何があった?」
( ´∀`)「『影』が現れたんだモナ。しかも大量に」
川 ゚ -゚) 「どこに?」
( ´∀`)「それは……『樹海』だモナ」
樹海?
その言葉を聞いたブーンは、何か不思議な感覚が身体を突き抜けていくのを感じた。
その場所に何かがあるという予感。そして、その場所に行ってはいけないという不安感。
- 35: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:04:54.89 ID:zgn2QLwd0
(;^ω^)(な、なんだお?)
強烈なイメージが頭の中へと流れ込んでくる。まるで川の流れの先を見るかのような感覚だった。
目の前が真っ暗になったと思った瞬間、視界に飛び込んできたのは見慣れない光景。
視界の全てが灰色がかっており、まるで夢を見ているかのようにも思えた。
見えるのは、『剣状光』を持っている自分と、刀を構えて何やら喋っているクー。
周りは緑や、枯れた木で覆われており、目の前には巨大な石がそびえ立っている。
その上に立ち、クーと喋っている人影は……?
川 ゚ -゚) 「行くぞ、ブーン。どうした?」
( ^ω^)「あ……はいだお」
イメージは一瞬にして消え去った。
さっきまで見えていた森の中での光景は全て消え、心配そうな顔でこちらを見ているクーとモナーが視界に入ってくる。
正体不明のイメージ。あんな場所は行ったことがない。どうしてそんな場所がいきなり目の前に浮かぶんだ?
疑問を抱えつつも、ブーンはクーと共に会議室に向かう足を進めた。
今は『影』の話に集中しなくてはならない。
それでも、あのイメージは頭からついて離れなかった。
※
- 36: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:07:53.36 ID:zgn2QLwd0
※
狐「今日の未明、ある若者のグループから警察に向けて1本の通報がかかってきた」
会議室に集まったのは、しぃやクー、モナー、ぃょぅといった『VIP』のメンバーだけだった。
政府の人間はすでに自分達の仕事場所に帰っているらしく、緊急の会議だったため今回は欠席なのだとか。
いつもより緊張感が少ない部屋で幸いだ。事態は全然幸いじゃないが。
狐「彼らが言うには、『樹海で黒い変な影を見た!』とのことだった。
警察から『VIP』に連絡が入り、急遽ぃょぅ君に調査を頼んだんだけど……」
珍しく戸惑った表情の狐がぃょぅへと視線を移す。
それに答えるかのように、視線を受け取った当人は立ち上がった。いつも以上に真剣な顔で。
(=゚ω゚)ノ「……樹海に入った瞬間、めちゃくちゃ怖い感じがしたんだょぅ」
川 ゚ -゚) 「怖い感じ?」
(=゚ω゚)ノ「中に入ると、『影』の気配がしたょぅ。
で、ちょっと周りを見渡したら……」
ぃょぅの顔色が悪い。お化け屋敷に入ってしまった女子高生のようだ。
- 38: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:10:24.69 ID:zgn2QLwd0
(=゚ω゚)ノ「……そこら中が『影』で埋め尽くされていたんだょぅ」
川 ゚ -゚) 「そこら中?」
(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。詳しく調べてみたら、樹海の中を1メートル進むごとに『影』に出会うような感じだったょぅ……
たぶん、軽く3000体は超えているょぅ」
(;´∀`)「さ、さんぜんたいかモナ!?」
さんぜんたい……
ここ1週間で、自分は100体以上の『影』を倒してきた。それでもけっこう苦労したのだ。
その30倍……?
ありえない。どうして樹海にそんな大量の影が集まるのだろうか?
(=゚ω゚)ノ「『影』はまだまだ増えていると思うょぅ。で、それに反比例するかのように、世界中で『影』の発生数が激減しているんだょぅ」
ぃょぅが座ると同時に、今度はしぃが立ち上がった。
彼女も顔色が悪い。おそらくぃょぅと共に調査に当たっていたのだろう。今にも倒れそうに見える。
(*゚−゚)「ぃょぅさんの言うとおり、樹海に『影』が集中的に集まっているのに反して、世界中で『影』の発見例が少なくなっています。
この日本の真裏側の国、例えばブラジルなどは、今は夜の時間帯ですが『影』の発見報告はまったく聞いていません。
それどころか、ここ1週間1度も見たことがないというのです。
これは全世界的にそうなっているらしく、現在『影』が見られるのは日本だけ。
それでも、以前の報告通りに夜に『影』を見つけることがなくなっているのを考慮すると……」
狐「考慮すると……?」
(*゚−゚)「……現在、全世界の『影』が、あの樹海に集まっているものと推測できます」
- 40: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:12:59.52 ID:zgn2QLwd0
思わず呆けてしまいそうになり、ブーンは気合を入れて事態の理解に努めた。
全世界の『影』が樹海に?
どうして? どんな理由があって『影』が樹海に集まるというのだ?
そんな疑問に答えるかのように、しぃが「原因は不明です」と硬い声で言った。
(*゚−゚)「原因は不明ですが、緊急事態であることは確かです。早急な対処が必要だと思われます。
あの樹海は観光地でもありますし、もし一般人に被害が出て、『影』の存在が世間に知られたら……」
狐「……大混乱、パニックを起こすだろうね」
重苦しい空気が会議室の中を流れていく。
原因不明の『影』の集中的な発生。
もし、世間に知れ渡れば、さっそくニュースで流れ、警察や政府が対策に追われるだろう。
そして、『影』が以前から街を歩き回り、頭なしの死体や自殺者を多く生み出しているというのは、たぶんすぐにバレることだ。
そうなれば、もう社会はパニックに陥る。
逃げたり、警察や政府を糾弾したり……普通の生活を送ることは不可能となるだろう。
今、世間は犯罪や怖いものに対して非常に敏感になっている。『影』というスパイスがひとつ加わるだけで、パニックを起こすのも必然だ。
- 41: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:15:38.45 ID:zgn2QLwd0
けど、
( ^ω^)「けど……これはチャンスじゃないかお?」
川 ゚ -゚) 「チャンス?」
( ^ω^)「そうだお……」
世界中の『影』が樹海に集まっているなら、それら全てをやっつけばこの戦いは終わるのではないか?
そうだ。絶対にそうだ。長く続いたこの生活ともおさらば。普通の日常に戻ることができるはず……
( ^ω^)「樹海にいる『影』を全部やっつけたら、それで全てが解決するんじゃないかお?」
狐「それはそうだけど……危険だ。お薦めしない」
初めて会議で発言したブーン。
煮え切らない狐の態度に、少しだけカチンときた。
( ^ω^)「けど、これが最後のチャンスかもしれないお! ここで終わらせないと、また前みたいにいたちごっこになるだけだお!」
狐「けどね、3000体だよ? どうやってそれほど『影』をやっつけるんだい?
『VIP』の戦力をもってしてでも不可能だよ。もし殲滅戦を行うにしても、ちゃんと作戦を立ててからにしないと……」
(♯^ω^)「それじゃあ遅いお! ぐずぐずしてたら、チャンスが逃げちゃうお!」
思わず怒鳴ってしまったブーン。
会議室にいた全員が凍りつくのがわかる。けど、止まらない。
これで戦いが終わるなら、という思いに駆られ、口が止まらなくなっていた。
- 42: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:18:17.05 ID:zgn2QLwd0
(♯゜ω゜)「力が足りないことはないお! そうだお! みんなで力を合わせればなんとかなるお!
それに、あのラウンジ教の建物を吹き飛ばした力を使えば、すぐに……!
そうだお! その力が僕にはあるんだお! だから今すぐ樹海に行くんだお!」
川 ゚ -゚) 「ブーン、落ち着け」
(♯゜ω゜)「落ち着いて考えなきゃいけないのはクーさん達だお!
今やらなきゃ、いつかやられるんだお! なら、危険でもここは武器をとって、戦わなくちゃいけないんだお!
武器をもつことを怖がっちゃいけないんだお! 戦うんだお!
『影』なんて絶滅させなきゃいけないんだお! 邪魔する奴を全部倒して!
みんなが行かないんなら、僕1人だけでも行くお! みんなを、」
パン!
守るために、と続けようとした瞬間、左の頬に鋭い痛みが走った。
一瞬何が起こったのかわからず、ブーンは呆然とその場に立ち尽くす。
数秒経ってちゃんと前を見ることができて、初めて自分がクーに掌でぶたれたことに気付いた。
険しい顔で目の前に立っているクー。振りぬかれた右手。
川 ゚ -゚) 「落ち着けと言っているだろう! そうやって力ばかりを先行させるな!
どんな志を持っていようとも、意志の暴走した力は暴力にしかすぎない!
頭を冷やせ!」
左頬の痛みをじんじんと感じながら、ブーンは周りを見渡してみた。
みんな、複雑そうな顔でこっちを見ている。まるで異星人になった知り合いでも見るかのような目。
- 43: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:20:43.42 ID:zgn2QLwd0
――自分は今、何を言った?
ブーンは自分の言葉を振り返ってみる。
絶滅させる? 戦わなくちゃならない? 邪魔者を全て倒して?
なんだそれ。まるで、戦争好きの将軍みたいな言葉じゃないか。
いったい、いつから自分はそんな言葉を吐くようになったんだ?
( ^ω^)「あ……」
ブーンは自分の言葉を恥じた。
いくら守るためとは言え、これではただの暴力男にすぎない。
- 44: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:22:38.61 ID:zgn2QLwd0
もっと……方法を考えなくちゃいけないんだ。
そうか。そうなんだ。
良い目的だからといって、残虐な方法を取っていいはずがない。方法を考えなくちゃいけないんだ
- 46: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:25:05.99 ID:zgn2QLwd0
( ´ω`)「……ごめんなさいだお」
狐「いや、その気持ちはよく分かるよ。正直言って、私だって今すぐなんとかしたい。『影』を殲滅させたい。
けど、今いくのは危険なんだ。それはわかってくれるかい?」
( ´ω`)「はい、ですお」
狐のフォローの言葉が、今となっては心に痛い。
クーは何も言わず席に座り、いつの間にか立ち上がっていた他のメンバーも(きっとひと悶着あると思って準備していたのだろう)、安堵の息をつきながら席に座る。
狐「……今すぐどうにかすることはできない。けど、時間をもらえば、なんとかできるよ」
( ^ω^)「え?」
狐「しぃ君、『あれ』の開発状況は?」
(*゚ー゚)「え? あ、ええと……朝からまだあまり進んでいませんが、サンプルとして4つ、完成しています」
狐「それを使おう。準備を頼むよ」
断言する狐。
それを聞いたしぃとモナーが慌てて立ち上がった。
(*゚ー゚)「そ、それは無茶です! まだ試用段階でもないんですよ?」
( ´∀`)「最悪、暴発する可能性だってあるモナ!」
- 47: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:27:26.92 ID:zgn2QLwd0
狐「それをなんとかするんだよ。2、3日後を目処に頼む。
完成次第、作戦を立てて殲滅戦を決行。いいね?」
(*゚ー゚)「は、はい」
( ´∀`)「わかったモナ……」
何が何やらわからない。『あれ』とはいったいなんのことだ? 開発? サンプル?
狐「ブーン君、君の気持ちは無駄にはしない。いい作戦を立ててみせるよ。
各自、自分の部署で準備をしておいてくれ!」
(*゚ー゚)・(=゚ω゚)ノ・( ´∀`)・川 ゚ -゚) ・他 「了解」
かっこよく言葉を言い残して、会議は終わったとばかりに立ち去る狐としぃ達。
(*゚ー゚)「やはり圧縮に時間がかかりすぎるのが問題です。それまでの間、本体を守るためのものがやはり必要かと思いますよ」
( ´∀`)「時間の短縮か、守るための何かを作るかモナか。2、3日以内ではけっこうきついモナ」
(=゚ω゚)ノ「とりあえず僕は樹海についてもっと詳しく調査するょぅ」
みんな決意に満ちた表情で部屋を出て行く。
しぃとモナーは少し不安の色をその顔に滲ませているが、それでも「なんとかしなければ」という思いがひしひしと彼らから伝わってくる。
ぃょぅなど、歌を歌いながら意気揚々と部屋を去っていく有様。
いったい、何があったのかブーンには理解できなかった。
- 48: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:30:49.70 ID:zgn2QLwd0
川 ゚ -゚) 「ブーン」
唯一出て行かなかったクーが話しかけてくる。
ちょうどいい。彼女に話を聞けばいい。
( ^ω^)「あ、クーさん。これからいったい何が……」
川 ゚ -゚) 「頬、すまなかったな」
クーが手を伸ばして左の頬をさすってくる。
思いがけない感触に、ブーンは「おお!」と驚いて後ずさりしてしまった。
それを見たクーが、不安そうな顔で「ん? 何か変なことでもしたか?」と言った。
( ^ω^)「そ、そんなことはないお。ちょっと驚いただけだお」
川 ゚ -゚) 「そうか、それはよかった。すまなかったな。殴ったりして」
( ^ω^)「え、いや……あれは僕が悪かったんだお。あの時はどうにかしてたんだお」
川 ゚ -゚) 「……いや、戦う人間には付き物な感情だ。私だってそんな頃があった。
けどな……」
言葉を切り、顔を俯かせるクー。
お叱りの言葉で受けるのか? と思ったブーンは思わず身構えてしまう。
しかし、反対に彼女の声はすごく優しいものだった。
- 49: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:36:21.34 ID:zgn2QLwd0
- 川 ゚ -゚) 「私達は戦っていても、戦いたいわけではないんだ。守りたいものがあるから戦っている。君もそうだろう?」
( ^ω^)「はいですお」
川 ゚ -゚) 「戦いが起こるのは仕方のないことだ。恐れてはいけないという、君の言葉も分かる。
だが、暴走してはいけない。いつも流れる水のように穏やかでいないとな」
( ^ω^)「……はい」
川 ゚ -゚) 「それだけだ。呼び止めてすまないな。それでは、私もやることがあるので、失礼する」
あ、と声をかける前にクーは足早に部屋を立ち去っていった。
結局、『あれ』や『作戦』について詳しく聞くことができなかった。いったい彼らは何をしようというのだろうか?
けど、何かが始まるということだけはわかる。
狐は「時間をくれれば、なんとかしてみせる」と言ってくれた。
ということは、2、3日すれば樹海に集まる『影』を倒すための作戦でも立ててくれるのだろう。
ならば、自分ができることは何か?
( ^ω^)「……寝るかお」
そう、今は彼らに全てを任せるだけ。
自分は準備を怠らず、数日後に決行するであろう「作戦」に備えるだけだ。
これで終わる。これでこの戦いの全てが終結する。
やれることはどんなことでもやってみせる。
みんなを守るために。これ以上誰も傷つかないようにするために。
第19話「流れる水のような心で」 完
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