( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
8: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:12:43.25 ID:FKCcxNOW0
  
幕間 「In The Twilight」

夕焼けがやけに眩しい。
街全体がオレンジに包まれ、どこからともなく夕食の匂いがしてくる時間帯。
昼間はさんさんと冬の地球を照りつけていた太陽が、地平線の彼方へと消え去っていくその光景は、
いつ見ても綺麗だと思えるし、言葉では表せない感慨深いものを感じさせてくれる。

夕焼けは、太陽の光が地球の大気を通る際に屈折することで起きる現象だと聞いている。
中学校の理科の時間で習うような、初歩的な理論だったが、そんなことを解明しても、このオレンジ色の光を見た時の感覚を説明できるものではない。

空が白から黒に変わる間際の、たった何十分間しか見ることのできない、1日のフィナーレ。
子供の頃から大人になるまで、何度なく見てきた祭。そういえば、子供の頃はこの夕焼けの向こう側に行ってみたいと思ったこともあった。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:14:40.46 ID:FKCcxNOW0
  

( ,,゚Д゚) (……へっ)

昔のことを思い出してしまうのは、年をとったからか?
そう思ったギコは、マンションのベランダに立つ足を動かし、オレンジの太陽に背を向けて部屋の中へと入った。

地上15階立ての高級マンションが誇る、雄大な景色。

これを見ていたのはどうやら自分だけだったようで、他のメンバーは色々と自分の仕事に忙しく手を動かしていた。

(´<_` )「……」

カタカタカタカタという、無機的にキーボードを叩く音。
世界中に張った情報の網から、必要なものをピックアップしていく作業を淡々と行っている弟者。
その周りにはパソコンの周辺機器と見られるものがズラリと並んでいる。プリンタやスキャナといった基本的なものから、自分には何に使うのかわからない複雑な機械まで。
このマンションを潜伏先に選んだ時に真っ先に運んだのがこれらの機械類だ。
弟者は「これぐらい必要なんだ、俺たちの存在を消しておくには」と言っていたが、重いことこの上なかった、引越しの時は。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:16:16.29 ID:FKCcxNOW0
  

从 ゚−从「……次はお砂糖が2杯」

無表情な顔でフライパンを振っているのはハインリッヒ高岡。
今日の料理当番ということで、見た感じではチャーハンを作っているようだが、今の「お砂糖」という言葉に少し不安を覚えてしまう。
大丈夫なのだろうか?

それにしても、最初に出会った時はジョルジュとしか話をしなかった高岡だが、最近はメンバー全員と多少なりとも会話をすることがある。
内容は「おはよう」「ありがとう」と言った挨拶ばかりだが、それでも大きな進歩だ。
だんだんと心を開いてくれているのだろう。

( ´_ゝ`)「……zzzz はっ! 俺のメロンパン! ……zzzz」

意味不明な寝言を言い、ソファを全て占領して眠っているのが兄者。
最近は出番がないので暇ことが多いようだが、これからは彼の爆弾製造の技術がものを言うのだ。
頑張ってもらいたい。

にしても、メロンパンが寝言って、どんな夢を見ているんだ?



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:18:26.49 ID:FKCcxNOW0
  
  _
( ゚∀゚)「Yes,yes……The festival starts within three days.」

流暢な英語で電話をしているのがジョルジュ……われらがリーダー様。
おそらく相手は最近頻繁にコンタクトをとっているあいつらなのだろう。
その固い口調からは、これからの自分達には数々の正念場が待っていることを物語っている。
  _
( ゚∀゚)「Yes……Good luck」

「くは〜」というため息混じりに声を出しながら、ジョルジュが電話を切った。
さっきまでの真剣な顔が嘘のように、今度は盛大な笑顔を高岡に向ける。メリハリの効いた正確だこと。
  _
( ゚∀゚)「高岡〜、飯はまだか〜?」

从 ゚−从「もうちょっと……あとはワインを入れるだけ」

チャーハンにワイン、か。いったい高岡は何を作っているのだろうか? 
ワインなんて入れたら、チャーハンにおいて命とも言えるパラパラ感がなくなってしまう。別の料理になってしまうだろう。

それでもジョルジュは「おー、頼んだぜ」というだけで、何もとがめようとはしない。というか、気にしていない。
たぶん、この男は高岡の作ったものならなんでも食べてしまうのだろう。それぐらいに仲間を大事にする男なのだ。自分は食べたくないが。



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:20:50.03 ID:FKCcxNOW0
  
  _
( ゚∀゚)「お、夕焼けか〜。いいねえ」

( ,,゚Д゚) 「準備は全て整ったのか? ゴラァ」
  _
( ゚∀゚)「ええ、全て万端です。
     高岡は結局『気』が使えないままだったので、当初の作戦を変更せざるをえませんでしたが、なんとかなりました。
     ねずみもちゃんと情報を送ってくれましたし……
     あとは決行の日を待つだけです」

( ,,゚Д゚) 「そうか」

ジョルジュはベランダに出て、もうかなり黒みがかってきた夕焼けを見つめ始める。
ギコは部屋に入ろうとしていた足を止め、窓にもたれかかって彼の後ろ姿を見つめた。

若く、それでいて精気にあふれているその背中。
これから何が起ころうともちゃんと受け止め、自分の中に取り込み、これからへとつなげていこうとする若者の背中。

他の連中も同じだ。自分とは違って、まだまだこれからの人生を歩む権利を持っている人間ばかり。
すでに体力も気力も衰え始めた年寄りではなく、こういう若者がこれからの世界を担わなくてはならないのだろう。

だが、これから起こることは果たして彼らのためになるのだろうか?
もしかしたら、彼らの可能性を摘み取ることにならないのだろうか?



  
21: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:22:58.06 ID:FKCcxNOW0
  

( ,,゚Д゚) (……はっ、俺らしくねえか)

ギコは口を歪めて、こんなノスタルジックになっている自分に苦笑した。
何を考えることがある? 
彼らが選んだ道は彼らのものだ。そして、目的地が同じだったから、自分達は一緒にいる。ただそれだけのことだ。
迷う必要などない。これからやることは、全て自分で決め、自分の心に誓ったことなのだから。
  _
( ゚∀゚)「ギコさん」

急に神妙な顔つきになったジョルジュが言った。

( ,,゚Д゚) 「なんだ?」
  _
( ゚∀゚)「ありがとうございます。ここまでついてきてくださって」

( ,,゚Д゚) 「……よせよ。俺が好きでやってきたことなんだよ、ゴラァ」

似合わないお礼なんて言ってないで、これからの準備でもやればどうだ? 
と言いかけ、ついさっき準備は終わったという話をしたことを思い出してギコは口をつぐんだ。

そんなこちらの無様さを悟ったのか、ジョルジュは苦笑しながら、また夕焼けへと視線を移す。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:25:09.11 ID:FKCcxNOW0
  
  _
( ゚∀゚)「ギコさんがいてくれたから、俺たちはここまでこれた。
    『天国』から逃げてきた俺を、最初に世話してくれたのがギコさんでしたね」

( ,,゚Д゚) 「ああ……もう何年も前の話だ。忘れちまったよ」
  _
( ゚∀゚)「そして、『赤坂』で仕事をして、そこからまた抜けて、世界を旅して……」

( ,,゚Д゚) 「流石兄弟やハインリッヒと出会ったんだろ? それは何度も聞いた話だぜ、ゴラァ」
  _
( ゚∀゚)「そうでしたね」

ふっ、と鼻で笑うように息を吐き、遠くを見つめる目で眼下に広がる都会の街並みを見つめるジョルジュ。
こんな大人の顔をするようになったのか? と思ったギコは、多少驚きながらも、これが若い奴の成長ってやつか、と妙に納得できる気持ちになった。
  _
( ゚∀゚)「みんな、何かしらこの世界をどうにかしたいと思っていた。だから、こうやって集まってくれた。みんなには感謝していますよ」

( ,,゚Д゚) 「みんなもお前に感謝してるだろうな」
  _
( ゚∀゚)「どうしてですか?」

( ,,゚Д゚) 「お前がいなけりゃ、俺たちは今でも飼い犬のままだった。お前がいたからこそ、俺たちは自分の意志で道を歩けてるんだよ、ゴラァ」
  _
( ゚∀゚)「そうですか……恐縮ですよ」

肩をすくめて笑い、踵を翻して部屋の中へと戻っていくジョルジュ。
今まで彼が影になって見えなかったオレンジ色の太陽が、また目の前に広がり、ギコは目を細めてそれに見入った。



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:27:31.44 ID:FKCcxNOW0
  

夕日を見ることができるのも、これが最後かもしれない。

そんな思いに突如駆られて、どういうわけか夕焼けがさらに愛しいものに思えた。

だが、この光景を心に留めておくには時間が足りず、太陽はまもなく地平線へと沈んでいった。
何も残ることはなかったものの、ならばこれから心に残ることを作ればいい、と結論づけたギコ。

从 ゚−从「できた……かな?」

疑問系で言うな、自分で作った料理なのに。

そう突っ込みそうになったところをかろうじて抑え、部屋の中から異様な匂いがすることにげんなりとなりつつ、
ギコはそのまま部屋の中へと戻っていった。


幕間 終わり



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