( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:37:37.92 ID:1cg+xCnj0
  
第23話

ヘリは機体の限界並のスピードを出していく。
ローターが回る音と、風を切る音だけが聞こえ、眼下の景色は目まぐるしく変わっていった。
しばらくの間は森や山、畑しか見えなかったが、数十分もすると民家やビルがちらほらと見られてくる。

ブーン達の乗るヘリは樹海を抜け、都心部に向かって飛んでいた。
他にも2機のヘリがその隣を飛んでいる。
それらは護衛用のヘリで、腹には『VIP専用コブラ』と書いてあった。

コブラは、ヘリ単体では最強の呼び名も高い、武装ヘリだ。
毎分4000発の20ミリガトリング砲と、胴体中央部には4箇所のパイロンがあり、
ロケットランチャーや対戦車ミサイルなどが700キロ程度まで搭載可能の重武装ヘリ。

それらの護衛に先導されつつ、樹海から退却して数十分。
目的地である『VIP』のビルへと向けて、真下で惨劇が繰り広げられている中、ヘリは飛んでいく。





  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:40:17.15 ID:1cg+xCnj0
  



ヘリに乗るのはこれで2、3回目だった。
『影』の討伐のために何回か乗ったことがあるが、まだ慣れてはいない。
ローターの回る音と微妙な揺れで、少し酔いそうになってしまう。バス酔いにも弱い自分としては当然なのだろう。

だが、それ以上に眼下に広がる惨状に目を奪われてしまい、酔いどころではなかった。

( ^ω^)「ひどいお……」

川 ゚ -゚) 「なんということだ……都市部はほとんど壊滅状態か」

ヘリパイ「避難は進んでるみたいだけど、取り残されてる人もいるって話です。ひどい状況です」

上空から見下ろすことのできる街の状況。

電柱はなぎ倒され、コンクリートの破片が散乱する道路。
ところどころで煙があがり、時には火の手があがっている住宅街。
窓の割られたビルの中には、電灯だけが点いた無人のオフィスが覗き見える。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:42:17.05 ID:1cg+xCnj0
  

そんな建物の間や道路の上に時々見える黒い点のようなものは、おそらく『影』なのだろう。
家の壁や道路を壊し続けているそれは、まるで機械のように破壊活動だけを行っている。

そして、遠くから聞こえる何かの爆発音。悲鳴。怒号。

混乱だなんてレベルじゃない。大地震が起こった直後のようなこの悲惨さ。

これは全て、ジョルジュたちが起こしたことなのか?

( ^ω^)「……こんなこと」

ブーンはそれらの惨劇を見つめ、彼の言葉をもう一度思い出し、そして歯軋りした。

これが、ジョルジュのやりたかったこと? ジョルジュの目的?

恐怖で世界を安定させる。そうして人類の心をひとつにする。

人々の大事なものを壊し、夢や希望なんてひとつもない深い絶望を与えることが、目的だというのか?

( ^ω^)「間違ってるお……」

これが正しいわけがない。
人の悲しみの上に作られる平和なんて、本当の平和じゃない。

もっと、いい方法があるはずのに、どうしてジョルジュは……



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:44:33.56 ID:1cg+xCnj0
  

川 ゚ -゚) 「ブーン……大丈夫か?」

( ^ω^)「あ、大丈夫だお……クーさんこそ、大丈夫かお? さっきはなんだかぼーっとしてたみたいだったお」

川 ゚ -゚) 「ん……まあな。ちょっと色々と考えるところがあってな」

クーの遠くを見るような目に気付き、ブーンはその心を推し量ろうとしたが、かなわなかった。

考えるところ。

きっと、昔仲間だったジョルジュがこんなことを引き起こしていることが、彼女に複雑な気持ちを抱かせるのだろう。
その気持ちは自分には到底理解できない。
昔仲間だった彼女だからこそ、感じ得る気持ち。

川 ゚ -゚) 「私は止めなくてはならない。あいつを……私が」

( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚) 「……すまない。ひとり言だ。忘れてくれ」

そう言って、クーはヘリの操縦席の方へと行ってしまった。
どうやら航路についてパイロットと話し合うようだ。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:46:15.59 ID:1cg+xCnj0
  

ブーンは視線をぃょぅへと移した。

(=゚ω゚)ノ「……」

彼はヘリに乗ってから一言も喋っていない。
顔を俯け、何事かをぶつぶつ呟きながら考え事をしているようだった。

(=゚ω゚)ノ「……ょぅ」

きっとモナーが裏切ったことについて考えるところがあるのだろう。
これも自分には到底理解できない感情。
自分にとってもモナーが裏切ったことは確かにショックだが、長年同僚として彼と仲良くやってきたぃょぅならではの気持ちというものがあるはず。

それを理解するなんて不可能であり、だからこそ自分は肩を落とすぃょぅを見ても何も声をかけられないのだった。

ヘリパイ「クーさん、もうすぐ『VIP』のビルです」

川 ゚ -゚) 「そうか。とりあえず無線で連絡をしてみてくれ。反応があればいいんだが……」

そんな声が聞こえて、ブーンはドアの窓から外を眺めてみた。
相変わらず、折れた電信柱や火事の赤い光が見える中で、ひとつの大きなビルが目の前に近づいてくる。
『VIP』のビルだ。

外から見るのは久しぶりだった。ずっと中にいたから、こうやって外から見るとなんだか変な感じがする。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:48:33.69 ID:1cg+xCnj0
  

ヘリパイ「……ダメですね。応答がありません」

川 ゚ -゚) 「そうか……」

前から気落ちした声が聞こえてきて、ブーンはもう一度ビルへと目を移す。

確かにそのビルの窓は所どころが割れていて、しかも中からは火事の煙らしきものも見える。
おそらく爆弾が爆発した跡なのだろう、3、4階の壁は無残にも穴が空き、地面にはその破片が散らばっている。
生存者がいるようにも見えず、もうそれは、ただの容れ物と化したコンクリートの塊でしかなかった。

( ^ω^)(ドクオ、ショボン、ツン……)

この惨状を見てしまうと、彼らが無事なのかどうか余計に不安になってくる。

守りたいものがなくなってしまうという不安。
彼らがいなくなった時、自分はどうなるのだろうか?

そんなことは想像もつかないけど、きっと正常ではいられなくなる。それは確信できる。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:50:24.97 ID:1cg+xCnj0
  

川 ゚ -゚) 「くっ……私達だけでは、今の状況を把握することすらできない。無力だな……」

( ^ω^)「……」
(=゚ω゚)ノ「……」

川 ゚ -゚) 「これからどうするべきか……」

ヘリが『VIP』のビルの周りを旋回している間、思案顔で腕を組むクー。

ブーンもまた何かを考え出そうとするが、しかしそんなことを思いつく頭を持っているはずもない。

こういう時に役に立てない自分に腹が立って仕方がなかった。
情報収集だとか作戦の立案だとかできれば、もっと彼らの助けになるだろうに。

戦うことしかできない自分は、こういう時本当に無力だ。
いかに狐たちのバックアップがありがたいものだったかが実感できる。

ブーンはため息をつき、もう一度『VIP』のビルを見てみた。
火の手がかなり回ってきたのだろう。時々窓から炎の端が見えたような気がした。

赤い炎。
それは、これからビルの中を焼いて回り、全てを灰に帰してしまうのだろう。
全国的にパニックが続いている中で、消防車が来てくれるはずもない。
自分達は手をこまねいて、この炎を見ていることしかできないのだ。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:52:18.20 ID:1cg+xCnj0
  

ピーピーピー

と、急に横に置いていた無線機に着信音が鳴った。
いったい誰が? と思いながらスイッチを押すと「ブーン!!」という大声がヘリ内に響き渡った。

( ^ω^)「だ、誰だお?」

('A`)『無事なのか!?』
(´・ω・`)『やあ、ようこそバーボンハウスへ。このテキーラは(ry』

( ^ω^)「ドクオ! ショボン!」

狐『私もいるよ』
(*゚ー゚)『みなさん、無事のようですね。よかった……』

聞こえてくる狐たちの声。

ブーンは腰が砕けそうになるのを必死で抑えた。
よかった……みんな、無事だったのか。

川 ゚ -゚) 「無事だったのか……!」

自分の無線機に声を吹き込むクー。
心なしか笑顔を浮かべているように見えた。



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:54:36.42 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『はいはい、みんな静かに……やあ、クー君かい? どうやら君達は大丈夫だったみたいだね』

川 ゚ -゚) 「所長達こそ、大丈夫でしたか?」

狐 『ああ、ちょっと正体不明の兵士達の攻撃を受けたけど、屋上のヘリでなんとか脱出したんだよ。
   しぃ君やツン君達も無事だ。安心してほしい』

川 ゚ -゚) 「よかったお……!」

ブーンは、心の中の不安が徐々に晴れていくのを実感していた。
今の状況を打破できたわけではないけど、少なくともまだ自分には守るものがあるのだと安心することができた。

狐 『そちらでは何があったんだい? ジャミングを受けたようだけど……』

川 ゚ -゚) 「実は……」

クーが、あの場所で起こったことを手短に話していく。

ジョルジュたちがいたこと。
モナーが裏切ったこと。
彼らが『影』を吸い込んだこと。

そして、ジョルジュの話――『恐怖が世界を安定させる』ということ。

全てを聞き終えた狐は『そうか……』と動揺の隠し切れない呟きを吐いた。



  
20 名前: ◆ILuHYVG0rg [修正orzなぜクーが「お」をw] 投稿日: 2006/12/13(水) 23:55:34.91 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『はいはい、みんな静かに……やあ、クー君かい? どうやら君達は大丈夫だったみたいだね』

川 ゚ -゚) 「所長達こそ、大丈夫でしたか?」

狐 『ああ、ちょっと正体不明の兵士達の攻撃を受けたけど、屋上のヘリでなんとか脱出したんだよ。
しぃ君やツン君達も無事だ。安心してほしい』

( ^ω^)「よかったお……!」

ブーンは、心の中の不安が徐々に晴れていくのを実感していた。
今の状況を打破できたわけではないけど、少なくともまだ自分には守るものがあるのだと安心することができた。

狐 『そちらでは何があったんだい? ジャミングを受けたようだけど……』

川 ゚ -゚) 「実は……」

クーが、あの場所で起こったことを手短に話していく。

ジョルジュたちがいたこと。
モナーが裏切ったこと。
彼らが『影』を吸い込んだこと。

そして、ジョルジュの話――『恐怖が世界を安定させる』ということ。

全てを聞き終えた狐は『そうか……』と動揺の隠し切れない呟きを吐いた。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:57:36.96 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『おそらく、今のこの状況は、そういった彼の思想の現れなんだろう。
   恐怖で世界を安定させ、人をひとつにする、か……』

川 ゚ -゚) 「私達はなんとしでもこれを止めなければいけません」

狐 『わかってる。よし、とりあえずこちらに来てくれ。
   私達は近くの避難場で陣を取ってる。ヘリパイにB地点と言えばわかるはずだ。
   すぐ近くだからね、ヘリならそう時間はかからない』

川 ゚ -゚) 「わかりました」

狐 『今世界で起こってる出来事も、そこで詳しく話す。その後に対策を立てよう。
   ただ……』

川 ゚ -゚) 「ただ?」

狐『……いや、いい。このことは後で話そう。じゃ、またね』

プツン、と通信が切れる。
ドクオ達の声をもう一度聞きたかったが、これから行く場所に彼らがいるのだから、そこは我慢だ。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:59:30.09 ID:1cg+xCnj0
  

ブーンはヘリの中に座り込み、大きく息を吐いた。
彼らが無事でよかった……本当に。
狐、しぃ、ドクオ、ショボン、ツン、つー、そして他のスタッフのみんな。
守りたいものがまだ生きていてくれて、本当に助かった……

クーがヘリパイと何か話しているのを聞きながら、ブーンは空を眺めた。

空はもうかなり明るくなっていた。
太陽は天高く浮かび、地上を照らしている。
腕時計を見てみると、もう昼を過ぎている。

殲滅戦とジョルジュ達との邂逅で、時間がかなり早く進んだような感じがしたが、1日はまだ半分だ。
長い長い1日はまだ続く。

この1日、きっと自分にとって大事なものになるのだろう。
ブーンはそう思いつつ、明るくなった空を見上げ続けた。



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:01:37.50 ID:gmEhDIqq0
  



ヘリが数十分間飛び続けると、市街地の中でも比較的混乱していない地域へと入っていった。
そこは工場やら倉庫やらが立ち並び、住宅も少なければビルも少ない。
まだ『影』やテロリストの襲撃も受けていないようで、建物が壊されているということもなかった。

どうやら大会社直営の工場らしい。

ブーンはヘリの窓からその場所を見下ろし、驚いた。

人の波。

近くの街から避難してきたのだろう、ブルーシートが敷かれている地面の上は、多くの人々が座っていた。
大人、子供、男、女関係なく、全ての人々が寄り添いあい、互いに励ますように座り込んでいる。
まるで人気歌手の屋外ライブの映像を見ているかのようだ。

だが、ライブと違うのは、時々救護班らしき人に手当てを受けている人がいること。
テロに巻き込まれたり、逃げる時に怪我でもしたりしたのだろう。頭から血を流している人や倒れこんで動かない人もいる。

ひどい状況だった。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:03:20.64 ID:gmEhDIqq0
  

彼らはみんな、不安顔で座り込んでいる。
きっと、これからどうなるかの、自分は生き残れるのか、不安で仕方がないのだろう。

ヘリが彼らの上を飛んでいく間、ブーンはその不安な顔を忘れないように頭の奥にしまいこむ。
彼らだって守りたい。もう、どんな人も傷つけないと誓ったのだから……

川 ゚ -゚) 「あそこだな」

クーの指差す方向を見てみると、倉庫のような大きな建物の横に小さなテントが張られているのが見えた。
急ぎ立てられたものなのだろう、シートからはケーブル類が色々とはみだしており、中には色々な機材が持ち込まれているものと思われた。

よく見れば、テントの屋根には『VIP』と大きく文字が書かれている。

ヘリはそのテントの横の広場へと着陸した。

( ^ω^)「ふぅ……ヘリはまだまだ慣れないお」

川 ゚ -゚) 「気持ちはわからんでもないがな。ん、所長としぃが出てきたぞ」

ヘリを降りると、狐としぃがそれを出迎えてくれた。
彼らは一様にほっとした表情を浮かべている。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:05:04.04 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「やあ、無事でよかったよ、本当に」
(*゚ー゚)「通信不能になった時は本当にどうなるかと思いました」

川 ゚ -゚) 「それはこちらもだ。だが、こんな風に挨拶している場合じゃないと思うが」

狐 「そうだね。テントの中に入ってくれ。現状を説明するから」

( ^ω^)「あの、ドクオ達はどこだお?」

狐 「彼らは他のテントの中にいるよ。後で会いに行けばいい」

( ^ω^)「わかったお」

狐としぃに連れられてテントの中に入ると、そこは『VIP』のビルで見た司令室そっくりの場所だった。
様々なモニターや機械類が所せましと立ち並び、それぞれが何かの情報を映している。
自分には何のことやらさっぱりだが、ここが今の『VIP』の心臓部なのだろうということは想像がついた。

狐 「慌てて脱出したから、あまり機材はないんだけど……とりあえずの現状把握はできている。
   一から説明していこうか。そこの椅子にかけてくれ」

ブーンは素直に近くにあった椅子に座る。隣にはクーとぃょうが座った。
と、そこでしぃの腕に白い包帯が巻かれているのに気がついた。

その包帯には血も滲み出しており、見た限り何かの切り傷のようだった。

ブーンはドクンと胸が鳴るのを感じた。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:07:00.62 ID:gmEhDIqq0
  

( ^ω^)「しぃさん、その腕は……?」

(*゚ー゚)「え、あ、これですか? ちょっと脱出する時に怪我をしちゃって……
     最後の最後までビルの中にいた私が悪いんですけど……」

(=゚ω゚)ノ 「ビルの中に? どうしてだょぅ?」

狐 「彼女はつーくんをずっと探していたんだ。
   脱出する際、特別治療区域の患者から優先的にヘリに乗せるように告げたんだが、つー君が部屋にいなくてね。
   総出で探したんだが、結局見つからなかった。行方不明のままなんだ……」

つーが行方不明?
どうして?
彼女が1人で外に出るなんて、滅多なことじゃありえない。
時々屋上にこっそりと出てくるぐらいで、それ以外は部屋の中にいるのが常だったはずだ。

だから、日常的にビルの中を歩き回っていても彼女に出くわすことはほとんどなかった。
しかも、病状が悪化したせいで、こちらから出向かないと会うこともできないような状態だったはず。

なのに、いったいどこに?
どうして彼女が行方不明に?

まさか、ビルの火事に巻き込まれて死んでいるだなんてこと……



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:08:40.57 ID:gmEhDIqq0
  

(*゚―゚)「……今はそんなことを言っている場合でもありません。
    とにかく報告を先にしましょう」

しぃの痛々しい顔が心に響く。
きっとつーのことが心配でたまらないだろうに。
無理をしていることは明白で、どう声をかけていいのかもわからない。

川 ゚ -゚) 「……そうだな」

クーもまた、無理をしているように見える。
数年来の友人をなくしたかもしれないという気持ち。
自分にとっては、ショボンやドクオ達を失くすことに等しい気持ち。

どうして彼らはそんなにも冷静でいられるのだろうか?
もっと、感情的になったりしないのだろうか……?

それが大人というもの?
それとも、それ以上に大切なことがあるから?

わからない。

こっちは、守りたいと思っていたつーがこうやって行方不明になったと聞いただけで、暗い気持ちになってしまうのに。

狐 「……じゃあ、始めよう。まず、世界の状況についてだ」

狐がどんよりとした空気を断ち切るかのように話を切り出した。
ブーンは心に浮かんだ疑問を端に追いやり、狐の話に集中する。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:10:26.54 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「現在、世界の90%以上の国で『影』が出現している。大都市を中心に、建物を破壊しまわっているようだ」

(*゚ー゚)「また、それに合わせるかのように革命軍やテロリストによる大規模なテロが起こっています。
    それにより、政府の中枢を破壊され、国家としての機能を失った国も出てきています」

モニターの地図が映し出された。
それは世界地図で、狐が「『影』が出現した国は赤く表示される」と説明を付け加えた。
だが、そんな説明は必要のないほど、もうほとんどの国が赤で染まっていた。

赤くなっていないのは、小国か開発途上国ぐらいなもの。

『影』とテロリストにより世界中に恐怖がばら撒かれている言葉に嘘はなかった。

(*゚ー゚) 「『影』が現れるのは、人口密度の高い都市部や住宅地が多いようです。
      田舎や山の中で現れているという情報も少ないですし、この付近にもあまり出現していません。
      ただ、『影』がその地域を襲うのも時間の問題でしかないと思われます」

狐 「今のところ、各国とも軍隊や警察が『影』やテロリストとの交戦を行っているが、それは無駄なことだろうね。
   『影』に通常の兵器が効くはずがない。『気』を使える人間がそう簡単にいるはずもないし、『影』を止めることは実質不可能と言っていい」

(*゚ー゚)「状況は絶望的と言ってもいいでしょう。私達にできるのは、多くの人を避難させるぐらいしか……」

狐としぃの声のトーンが徐々に落ちてくる。
その顔は、現実を見据えた上で、その現実に押しつぶされそうになっていることをありありと示していた。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:13:29.84 ID:gmEhDIqq0
  

世界中で『影』が拡散し、都市を破壊しまわっている。
テロリストはそれに呼応するかのように、国家を転覆させようとしてくる。

狐 「以前からの情報と、クー君の話を合わせて考えてみると、テロリストがこんなタイミングで現れたのはジョルジュ達のせいだろう」

(=゚ω゚)ノ「各国の革命軍とコンタクトをとっている……以前から掴んでた情報だょぅ」

狐 「そうだ。そして、『影』を拡散させたのもジョルジュ達だと思う。どうやってかはわからないけど……
   『世界を恐怖で覆う』という彼の言葉と、今回の出来事はタイミングが合致しすぎている。
   彼らがこの状況を作り出したと考えるのが妥当だろうね」

今回の出来事は、世界を恐怖で覆うには十分すぎることだろう。

きっと、これを放っておけば多くのものと多くの人を犠牲にし、恐怖と絶望で人々の心は覆われるだろう。
こんなことは止めなければいけない。

だが、どうやって?

さきほどの通信で狐が『だが……』と何かを言いよどんでいたことを思い出す。
あれは、もう手のうちようもないことをわかっていたから……?

( ^ω^)「……なんとかできないのかお?」

苦し紛れにブーンはそう言ったが、狐は苦い顔を返すだけだった。



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:15:23.83 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「……正直言って、もう何もできない。私達が扱えるレベルの問題ではなくなってしまった。
   今回の問題についての中央指揮は防衛庁に移ってしまったし、今、国連の安保理も事態の収拾に動き始めている。
   その上、アメリカが樹海に向けて核ミサイルを撃つ準備を進めているという情報も入っているんだ」

( ^ω^)「か、核……!」

狐 「『影』が飛び出してきたのがあの樹海からだからね。
   アメリカはそこが発生源と見て、これ以上『影』を増やさないようにしたいようだ。
   けど、はっきり言って無駄でしかない。核兵器すら『影』には通用しないし、発生源がそこだという確信すらない。
   だから、あらゆるラインを使ってそれを止めようと努力もしてるんだけど、アメリカの方が力的に上だし、
   何よりただの一諜報機関に成り下がった『VIP』にそんな権限もない」

( ^ω^)「そんな……なら、僕達に出来るのは、もう見ていることだけなのかお!」

叫ぶように言うものの、狐は何も言い返してはこなかった。

本当に何もできない状況になってしまったのだろう。

手も足もでない、とはまさしくこのような状況。
あまりにも無力な自分達。

たとえ近辺の『影』を倒して回っても、焼け石に水。
世界の状況は変わらない。



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:17:00.37 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「せめて……せめて『影』だけでもなんとかできれば、テロリストの方は軍隊でなんとかなるんだ!
   けど、『影』を倒すことができるのは『気』の使い手だけ。その使い手は、こちらにはもう4人しかいない。
   この戦力で数千、いや数万の『影』を殲滅させるなんて、不可能だ……!!」

ガタン、と狐が机を苛立ち混じりに叩く。
何もできない己の無力と絶望感。そして、3つ目の核爆弾が日本に落とされるかもしれないという恐怖。
それらを心の底から感じ、いらだっているのだろう。

それはみんなも同じことであり、それからしばらくの間、沈黙が続いた。
みんな、深刻な顔で机だけを見つめ続けている、何かを思いつこうとしているが、何も思いつかない状態。それがずっと続く。



  
40: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:18:50.56 ID:gmEhDIqq0
  

ブーンは目のやり場に困り、モニターに目を移した。
すると、それはひとつのテレビ番組を映していた。音声は聞こえず、映像だけが淡々と流れていた。

都心部の様子をヘリで空撮しているのだろう、空から撮られたその映像には、『影』が電柱を折る瞬間が映されている。
周りに人の姿はないものの、人間が作り出したものを易々と打ち壊すその様は、恐怖を与えるには十分な要素になる。

あんなものをずっと見ていれば、人は必ず発狂するに違いない。

画面が変わり、今度はどこかの避難所の様子が映し出された。
そこでは避難民同士が互いに助け合い、怪我人を治療したり、食料を分けていたりする様子が撮られていた。
傍から見れば、心暖まる映像だ。他人同士が危機に瀕した時に助け合う。すばらしいこと。

だが、これがジョルジュの言っていた「恐怖でひとつになった」人間の姿なのだろう。
恐怖で発狂した人間は、自分達を守るために他人と協力し合うようになる。
日ごろの諍いや不満を水に流し、互いを助け合おうと努力する。

恐怖が人をひとつにする。まさしくその通りだ。

だが、これが本当に正しいのか?
恐怖を乗り超えるために様々なことを成し遂げてきた人間が、恐怖に頼るようになっていいのか?
安定だとか平和だとかは、そうやって作るしかないのか?



  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:20:29.72 ID:gmEhDIqq0
  

( ^ω^)(そんなの……違う)

違う。それはわかる。けど何故?

理由はわからないけど、違うと感じてしまう。
心の奥底がそれを否定している。

ジョルジュやクーがこれを聞けば、「それはただの感情論でしかない」と言うに違いない。
自分でも頭の隅っこでそう思っている。これはただの感情論だ。 

けど、論理だとか合理だとかを考える頭のない自分は、結局感情的になるしかない。

そう、感情的に決めた「みんなを守る」という誓いを貫き通すしかない。

たとえ相手の論理を否定する根拠がなくても、だ。

人というのは、そうやって戦いを繰り広げるものなのかもしれないのだから……

川 ゚ -゚) 「……待てよ、そうか、もしかしたら」

テレビ画面を眺め続けていると、ふと横のクーがそんな呟きを口にする。
何事か、と全員が彼女に目を移した。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:23:46.69 ID:gmEhDIqq0
  

クーは椅子から立ち上がり、「そもそも」と口火を切った。

川 ゚ -゚) 「そもそも、『影』は犯罪者しか襲わないはずだ。
     なのに、今回は人を襲わずに建物だけを破壊して回っているだけで、これまでの性質とはまるで違っている。
     それに、昼は活動の鈍るはずの『影』が、まだこうやって活発な動きを見せていることも不自然だ。
     第3に、テロリストと『影』が協力体制をとるということ自体、これまでなら不可能だったはず。
     なのに、これらが全て行われている。
     矛盾のないようにこれらを成り立たせるためには、ひとつの方法を使わなくてはならない」

(=゚ω゚)ノ「……『影』を操ること?」

ぃょぅの呟きに「それだ」とクーが返した。

川 ゚ -゚) 「誰かが『影』を操っていると考えれば、これら3つの不自然さは解消される。
     なら、方法は何なのか? ジョルジュはこんなことを言っていた。
     『【影】の身体に【気】を覆うことで、【影】との同化を果たした』と。
     つまり、『気』で『影』を押さえつけているわけだ」

(*゚ー゚)「そ、そうか……! なら、もしかして!」

しぃがおもむろにパソコンをいじくり始める。
キーボードを目にもとまらぬ速さで叩き、画面にひとつのレーザーのようなものを呼び出した。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:26:01.48 ID:gmEhDIqq0
  

これは確か、『気』を機械的に察知するレーダーのはず。

この近辺の地図が示されているそのレーダーには、何やら白い点がいくつも浮かび出てきた。
これは、『気』がこの地点に発生していることを示しているのだが、しかしどうしてこんなにもたくさんの『気』が?

その疑問を解消するかのように、しぃが喋り続ける。

(*゚ー゚)「やっぱり……! わかりました! どうやって『影』を操っているのかが!」

川 ゚ -゚) 「やはり、『気』か?」

(*゚ー゚)「はい、おそらく『気』がアンテナの役目をしているのだと思います。
    見ての通り、レーダーには『気』の反応が多くあります。
    都会で集中的に見られることから考えて、これは『影』の反応であり、その身体にはごく少量の『気』が埋め込まれていると推測されます。
    詳しい原理は不明ですが、『影』と同化できるぐらいなら、操ることぐらい簡単なはずです」

(=゚ω゚)ノ「なら……」
川 ゚ -゚) 「鍵は『奴ら』か」

(*゚ー゚)「はい。指示を出している人……ジョルジュさん達を止めれば、この時間帯です、『影』は姿を消すかもしれません! 
     少なくとも、この状況だけでも打開できます!」

つまり……ジョルジュ達を倒せば、全ては解決するということ?

クー達は喜び顔でそんなことを話しているが、しかしブーンはひとつ疑問に感じることがあった。



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:28:08.87 ID:gmEhDIqq0
  

どうしてこんなに都合よく事が進むんだ?
彼らを倒せば全てが解決。これではまるで、ご都合主義の漫画みたいじゃないか。
  _
( ゚∀゚)『【気】で【影】を包んで取り込んでるしな』

どうして彼はこんな情報を自分達によこした?
元工作員の彼なら、相手に情報を与えることがどれほど危険なことか、わかるはず。
これが彼らの計画を止められるヒントになるのなら、なおさらのこと。

なのに、どうして?
  _
( ゚∀゚)(来れるもんなら、来てみるんだな)

( ,,゚Д゚) (また、な。必ず来いよ)

あの邂逅の最後に感じられた、彼らの心の言葉。

( ^ω^)(もしかして、そういうことだったのかお?)

来れるものなら来てみろ。
必ず来い。

それはまるで、こちらを戦いの場へ誘っているような言葉。

つまり、自分達を止めたいなら、俺達の所へ来て戦え、と?
そう言いたいのか……ジョルジュ?



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:29:56.34 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「よし、そうと決まればすぐにジョルジュ達を見つけよう。
   こういう時は独立機関なのが重宝するよ、ほんとに。
   まずは諜報員を使って――」

(  ω )「……狐さん」

ブーンは、各員に指示を出す狐の言葉を遮る。

それは静かな声だったけど、確かな声。
狐が話すのをやめ、みんながこちらを見る。

ブーンはひとつ息を吸い、そして言葉を確かめるようにしながら、言った。

( ゜ω ゜)「ドクオとショボンとツンを……たのみますお!」

ブーンは走り出し、テントから飛び出した。
後ろで誰かが止める声が聞こえるが、そんなことは気にしていられない。
今は走って、目的地へと向かうだけ。

迷いはない。





  
50: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:32:08.85 ID:gmEhDIqq0
  



川 ゚ -゚) 「ちっ! ブーン! 待て!」

いきなりテントを出て行ったブーンを追いかけようと、クーは立ち上がり走り出そうとした。

だが、「待ってくれ」という狐の言葉で制止せざるをえず、クーは前に出した足を元に戻す。

狐は椅子に座ったまま、眉をひそめて腕を組んでいた。

川 ゚ -゚) 「所長! 早く追わないと、きっと彼は……!」

狐 「わかってる。彼はたぶん、1人でジョルジュのところへと向かうつもりなんだろう。
   けど、彼だけでなく、君もここを離れられては防御が甘くなってしまう。それはよくない」

正論を盾にしてくる狐に、クーはかすかに舌打ちをした。
確かに、ここを『影』に襲撃される可能性がないとは言えず、だとしたら『気』を扱える自分はここの防御に徹するべきだろう。

ブーンのように、一時の感情任せに事を進めてしまったら、何もかも台無しになってしまう。
ジョルジュを止めるのならば、それなりの作戦を立てていかないといけない。

それはわかる。分かりすぎるほどに分かる。



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:33:54.95 ID:gmEhDIqq0
  

だが、感情がそれを許さない。

かつて、正論によって仲間をなくした自分。
合理と感情の狭間に立たされ、どちらを取ることもできなかったために、罪を犯すこととなった自分。

もう、あんな思いはごめんだ。

いくら合理的には正しくても、感情が先立つならばそれに身を任せても良い。
そうして感情に身を任せた先で、合理的な判断を行えばいい。
それは兵士としては失格でも、人間としてはそれで正しいと思える。そうだろう?

と、そこでクーは自分の思考に疑問を持った。


合理よりも感情? そうなのか? 本当に?

ならば、自分の取るべき道は……



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:35:33.72 ID:gmEhDIqq0
  

川 ゚ -゚) 「……とにかく、彼1人では危険です。 ここは私も!」

狐 「一時の感情に身を任せるな。もっと冷静に判断するんだ」

川 ゚ -゚) 「っ! しかし!」

狐 「と、お偉いさんなら言うだろうね」

そう言いながら、狐がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
え、とクーは乗り出しかけた身体を元に戻し、彼の顔を呆然と見つめた。

狐 「君を『VIP』に誘ったときに言っただろう? ここは独立した組織。私達のやるべきことをやりたいようにできるんだ。
   君が行きたいと思うなら、それを止めはしないし、私も君が行った方がいいと思ってる」

川 ゚ -゚) 「……所長」

狐 「さあ、装備を整えて行くんだ。きっとブーン君ならジョルジュ達を見つけることもできるだろう。
   ぃょぅ君、君もだよ。早く用意をするんだ」

(=゚ω゚)ノ「は、はいだょぅ!」



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:37:19.83 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「こちらのことは気にしなくて良い。戦力は整ってきてるし、まだ『影』が襲撃してくるまでには時間があるはず」

川 ゚ -゚) 「しかし、ビルを襲ってきた兵士たちのことは……」

狐 「……彼らはジョルジュ達の兵士なんだろうけど、それも大丈夫だ。
   少ないながら『H.L』の試作品もまだ残ってる。こちらはこちらで対抗する力がある」

そう言う狐だが、きっと本心ではなんとかなるとは思ってはいまい。

『H.L』の試作品が残っていたとしても、ブーンの光が足りていないはず。
もしサンプル用として残していたとしても、それは微量だろう。

『影』と兵士の総攻撃を受ければ、いくら『VIP』と自衛隊の軍勢でも太刀打ちできるものではない。
『気』の使い手が1人は必要なはず。

だが、それにもかかわらず彼は「行け」と言う。
必要だとか合理的だとかは関係なく、個人の感情と因縁による判断に任せようとしてくれている。

ありがたかった。
『VIP』に入って本当によかった。

こんな上司がいるからこそ、自分は思うとおりに動くことができる。やりたいことを懸命に行うことできる。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:40:07.56 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「死なないでくれよ、クー君。またお酒を飲んでもらわないと、贈り物がたまって困るんだからね」

川 ゚ -゚) 「ええ、その時は酔いつぶれるまで飲んであげますよ」

狐 「……がんばってくれ」

クーは立ち上がり、ぃょぅに目配せをした。
彼にはバイクを取ってきてもらい、自分は装備を整える。
それを察してくれたぃょぅは頷きを返し、テントを出て行った。

そしてクーもまた、テントを出ようとした時、

(*゚ー゚)「クーさん……」

しぃが目の前に立ちはだかった。
その目は、涙で潤んでおり、これから何が起こるのか不安がっていることが一目でわかる。

クーは冷静に、彼女を諭す。

川 ゚ -゚) 「しぃ……私は行かなくてはならない。ジョルジュを止めるために」

(*゚ー゚)「わかっています。もう何も言いません。私ができるのは、これを渡すことだけ」

そう言ってしぃが差し出したのは、『疑似障壁』の発生装置だった。
樹海での殲滅戦で全て使ってしまったと思っていたが、まだ残っていたとは驚きだった。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:42:05.53 ID:gmEhDIqq0
  

(*゚ー゚)「これが最後のひとつです。何かの役に立てばいいんですが……」

川 ゚ -゚) 「いや、十分役に立つ。ありがとう。
     それに、お前に指示をもらわないと、ジョルジュ達やブーンの居場所が分からなくなる。頼んだぞ」

(*゚ー゚)「……はい!」

(=゚ω゚)ノ「クーさん! バイクの用意できたょぅ!」

外からぃょぅの声が聞こえ、クーはしぃを思い切って抱きしめた。
「無事で」と呟くと、「クーさんも」という答えが返ってくる。

これで、思い残すことはなし。
戦いに望める。

クーはテントを出て、空を見た。
青い空と白い雲。晴れ渡るこの空は、クリスマスにしては陽気すぎる。

だが、これから戦いに望む身としては、すがすがしい気分にさせてくれるものだった。

青い空の一端に、よく見知った白い光が瞬いているのを見つめながら、クーはバイクにまたがった。
これから装備を整え、ブーンを追いかけ……

全ての決着をつける。





  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:44:06.94 ID:gmEhDIqq0
  



テントから離れ、避難している人が集まる倉庫の方へと向かう。
そこには多くの人がブルーシートの上で座り、身体を休めていた。

おそらく彼らは、ここよりももっと安全な地帯に避難することになるのだろう。
自衛隊の車に乗る人々を見れば、そういうことは容易に想像がつく。

ブーンは彼らの横を走りながら、考えた。

自らの安全のために逃げる。それもまたひとつの選択肢。
だが、少なくとも自分は逃げてはならない。
今自分ができることを、自分はやらなくてはならない。

そう思いながら走り続ける。

倉庫郡を抜け、大型の駐車場のような広い場所に出た。
普段は多くの従業員がそこに車を止めるのだろうが、今は自衛隊や『VIP』関連の車が置いてあるだけで、大部分は空白だった。

駐車場の向こう側には山が見え、ここが都会から遠い田舎だということがわかる。

あの山の向こうまではかなりの距離があるはずで、きっと歩いて行くことなんてできない。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:45:58.19 ID:gmEhDIqq0
  

「ブーン!」

後ろから声をかけられ、ブーンは、はっ!と振り返った。
聞き覚えのある声。自分の大切な人たちの声。

('A`)「お、おい、お前どこに行くんだ?」
(´・ω・`)「クーさんたちと一緒じゃなかったのかい?」
ξ 凵@)ξ「……」

ドクオとショボンは息を切らせながら、ツンは彼らに車椅子を押されながら、こちらに近づいてくる。
彼らの顔を見た瞬間、思いがけず涙が出てしまいそうになったが、なんとかこらえた。

今は泣いている場合じゃない。
ひとつの感情に縛られず、自分の信念を貫き通すために戦う時なのだ。

( ^ω^)「僕ができることをするために……行かなくちゃいけないんだお」

('A`)「できる……こと?」
(´・ω・`)「それってもしかして、彼らと戦うことかい?」

( ^ω^)「そうだお。今やらなくちゃ、みんな死んじゃうんだお……
       だから、僕は行かなくちゃいけないお」



  
65: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:48:11.00 ID:gmEhDIqq0
  

('A`)「けど……こんな状況なんだぜ? 死ぬかもしれないんだぞ?」
(´・ω・`)「危険すぎるよ、そんなの」

心配してくれる彼らの心が胸に染みる。
こういう優しい人達だからこそ、自分が守りたいと思える。
彼らのために命を投げ出してもいいと確信できる。

ブーンは無理やり笑顔を作って、彼らに言った。

( ^ω^)「行くんだお……みんな幸せにならなくちゃいけないんだお」

ドクオとショボンの表情が変わる。
心配から決意の顔に……

('A`)「……そうか」
(´・ω・`)「もう僕達では止められない……いや、止める必要もないんだろうね」

( ^ω^)「ごめんだお……わがままで」

('A`)「そんなことはないさ」
(´・ω・`)「それが君の信念なんだろうからね」

( ^ω^)「……そうだお、ドクオ達にこれを渡しておくお」

ブーンはそう言いながら、近くにあった軍事車両の中に入り、備えられてあった小銃を手に持った。
きっと『VIP』の装備のひとつなのだろう。この辺りには民間人は入れないから放置しているのだろうが、どうにも無用心だ。

けど、今は好都合。



  
66: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:50:07.94 ID:gmEhDIqq0
  

その小銃は、重くて細長い銃身と茶色いグリップが何やら印象的だった。
AK−47Uと書いてある。意味はよくわからない。
けど、何やらすごい銃なのはわかる。

ブーンはその小銃(アサルトライフル)に向かって、意識を集中させた。特に弾倉部分に。
たちまちに白い光が手から現れ、銃全体を覆っていく。

別に、今までにもこういうことができると思っていたわけじゃない。
けど、今ならできるという自信があった。
クー達が武器の周りに『気』を張れるように、自分の光もそれができるはずだ、と。

銃全体に光が張られ、特に銃弾には高密度の光が張られた。
これなら、『影』にもダメージを与えられる。「彼ら」を守る武器になってくれるはず。

他の人たち全員の武器にこれを行うことはきっとできない。
友達を思うからこそ、できた技。

('A`)「ブーン……その光は……」

( ^ω^)「これで、守ってほしいお……自分とツンを」

光を張った小銃を1丁ずつ、ドクオとショボンに手渡す。
戸惑った表情を見せる彼らだったが、こちらの言葉の真剣さに何かを悟ったのか、すぐに表情を固くして「わかった」と応じてくれた。



  
67: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:52:11.12 ID:gmEhDIqq0
  

( ^ω^)「じゃあ……僕は行くお!」

('A`)「おう!」
(´・ω・`)「帰ってきなよ! 絶対に!」

ξ 凵@)ξ「……」

( ^ω^)「ツン……帰ってきたら、いっぱいお話しようだお」

ブーンはツンの指にある指輪を触り、彼女の目を見た。
光のない目。けど、その奥底にきっと彼女の意識はあるはず。

ブーンは立ち上がり、空を見た。

これで自分は戦いにいける、とブーンは思った。

彼らを守るために、戦いに行く。
みんなを守るために、行く。
全ての人たちを守るために。
意識を失くして眠る彼女を守るために。

そういうことなんだろう? ジョルジュ?
戦って、決着をつけて、この世界の命運を決めたいんだろう?

なら、戦ってやる。
守りたいものを守るために、戦ってみせる。



  
70: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:54:24.37 ID:gmEhDIqq0
  

ブーンは空白の駐車場を思いっきり走った。
空は青、向こうには緑の山。太陽は真上に位置し、きっとジョルジュのいる場所までは相当の距離があるだろう。

けど、距離なんて関係ない。
望めば、どこへだって行ける。何だって見れる。何でもできる。

いつだってそうだった。
光はそれに答えてくれた。
『光弾』も『剣状光』も『光障壁』も『飛槍光』も。

だから、

望めば……空だって飛べる!

( `ω´)「おおおおおお!!!!」

ブーンの身体がふわりと浮ぶ。

それは、彼の心が望んだこと。
飛ぶという思いを現実化させたもの。

常に身体を支配していた重力から解き放たれ、

望む場所へと向かう彼のために、

光はその背中に翼を生み出した。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:55:57.47 ID:gmEhDIqq0
  

( ゜ω ゜)「……行くお!!」


それは、白い光の翼。


彼の背中から生まれ出でて、


天使のそれのように羽ばたき、


淡く光る羽を宙に散らせながら、


彼を青い空へやり、


全ての決着の場へと彼を導く。




第23話 「望めば空だって飛べる」 完



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