( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
66 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:34:02.53 ID:Pq8gNNQw0
  








最終話 「遥か彼方へと続くこの道の先へ」










  
67 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:34:52.16 ID:Pq8gNNQw0
  


ξ−凵|)ξ「……?」

ひとつの光が自分のまぶたを横切った時、自然と目を開けることができた。
今まで、開こうとしても開かなかった目。開いても何も見えなかった目。

それが、ようやく光を捉える能力を取り戻した。

ξ゚听)ξ「ここは……」

一言で言えばたやすい。真っ白な空間、だ。

上下左右の感覚すらない。空と大地の境目もなく、今自分はどこに立っているのかも分からない。
けど、確実に自分の足は「何か」を捕らえている。こうして立っていられる。

目も見える。
声も出せる。
音も聞こえる。

何も問題はない。



  
71 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:35:52.45 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「……」

ツンはゆっくりと歩き出した。
自分の行くべき場所はわかっている。

けど、時間は残り少ない。
右手の薬指に光る指輪が、どの道をたどれば良いか教えてくれている。

だから、歩き出そう。

ξ゚听)ξ「……遠いわね」

どれだけ歩けばいいのか分からない、というのは不安を覚えるものだ。
だが、一歩一歩が近付いていることを理解していれば、自然と不安はぬぐわれていく。

ξ゚听)ξ「……ん?」

後ろに誰かが立っている気配がした、
なんてことはなく、ただ不意に後ろを振り返ってみただけ。

だが、驚いたことにそこには2人の人間が立っていた。



  
75 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:37:10.79 ID:Pq8gNNQw0
  
  _
( ゚∀゚)「……」
(*゚∀゚)「……」

1人はつーだ。『VIP』のビルの時とまったく変わらない、無邪気な笑顔を浮かべてこちらを見つめている。

その横に立っている男は……見たことのあるような、ないような。
青年の顔立ちをしていて、白いYシャツが背景に溶け込んでいる。

彼の肌色の手が少し見えて、ああこの人もここにいるべき人なんだ、とツンはなんとなく理解した。

(*゚∀゚)「どこに行くの?」

ふと、つーが笑顔を浮かべたまま言った。

はっきりとしたその口調に違和感を覚えつつも、ツンはしっかりと質問の意味を汲み取り、口を開いた。



  
76 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:38:15.39 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「……私が行くべき場所に」
  _
( ゚∀゚)「それがどこなのか分かってるのか?」

今度は男が尋ねてくる。
真面目そうな顔をしているけど、どうも裏表がある人のような気もする。

だが、信用に足る人物だという直感も否定できない。

ツンは淀みのない言葉で「さあ」と答えた。

ξ゚听)ξ「……言葉にはできないけど、なんとなくわかるわ。あいつがいる場所、だから」
  _
( ゚∀゚)「それは良かった」

男が腰に手をやり、やんわりと笑みを浮かべる。
優しい顔をする人だな、とツンは思った。



  
77 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:39:25.88 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「あなたたちは何をしてるの?」
  _
( ゚∀゚)「……色々と考えてるんだよ」

(*゚∀゚)「そう。考えてる。私達は考えなくちゃいけない。ずっと、ずっとね」
  _
( ゚∀゚)「それが俺たちの……そしてお前にとっての責務であり、欲求、だろう?」

ξ゚听)ξ「そうなの?」
  _
( ゚∀゚)「そうさ」
(*゚∀゚)「そうよ」

ツンは、この人たちは全てを分かっているのかもしれない、と思った。
なら、自分の疑問にも答えてくれるかも。

そう考え、ツンはゆっくりと口を開く。

ξ゚听)ξ「ねえ」
  _
( ゚∀゚)「ん?」



  
78 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:40:30.36 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「結局、あいつは何だったの? 人? それとも宇宙人? 超能力者?
     それに、『影』って何?」

一息にそんな質問を投げかけると、男は「ふむ」と考え込むように腕を組み、口を閉じた。
何を考えることがあるのだろう? 全てを分かっているからこそ、ここまでやって来たのではないのか?
  _
( ゚∀゚)「……まず、『影』は俺たちにも分からない。いきなり現れ、犯罪者狩りを行っていたもの。
     もしかしたら、あの世界が生み出した、『変革』に対する反作用……なのかもしれない」

ξ゚听)ξ「何それ……世界に意思があるっていうの?」
  _
( ゚∀゚)「分からない。高次の次元のものを理解できるほど、俺たちは発達していない」

ξ゚听)ξ「そう……」



  
81 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:42:24.79 ID:Pq8gNNQw0
  

ジョルジュは話を続けた。
  _
( ゚∀゚)「だが、あいつのことは分かる。
     あいつは俺達の……人間の、動物の、物質全体の、この世界に存在する全てのモノの子供だ。
     俺達という親が子供にモノを与え、子供は与えられたものの中から、
     自分の取るべき道しるべを決め、世界を理解し、何らかの変革をもたらす」

ξ゚听)ξ「……」

(*゚∀゚)「そして私は、彼とは反対の存在」

ξ゚听)ξ「反対の……存在?」

つーが自分を指差し、楽しそうな笑みを浮かべて言った。

(*゚∀゚)「ひとつの存在があれば、それとは対極に位置するもうひとつの存在がある。
    アダムとイブ、カインとアベル、天使と悪魔、白と黒、光と闇、そして、『人の子』と『影の子』。
    私は彼とは対極の存在であり、彼と同じ『子供』だった」



  
82 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:44:01.60 ID:Pq8gNNQw0
  
  _
( ゚∀゚)「『彼』と『彼女』、どちらが世界を変革させるかは、この戦いですでに決まってしまった。
     あいつは自分の進むべき道を見つけ、世界を変えようとしている」

(*゚∀゚)「これが正しいのかは分からない。けど、彼はそれを決めた。『全てをひとつにする』という道を選んだ」

ξ゚听)ξ「……」

ゆっくりと頭の中でその言葉を咀嚼し、理解を深めていく。
言葉はこういう時に役に立つ。
  _
( ゚∀゚)「だが、まだあいつの決めていないことがある」

(*゚∀゚)「それが、あなた」

ξ゚听)ξ「私……?」
  _
( ゚∀゚)「お前と、それに呼応するあいつの心。その指輪の中に秘められたわずかな意志。それがまだ決まっていない」

(*゚∀゚)「だから、あなたは行くべきなの」
  _
( ゚∀゚)「お前はあいつと話をする権利がある」
(*゚∀゚)「彼に心を決めさせる権利がある」
  _
( ゚∀゚)「その心をあいつに渡し、心を開かせることができる」
(*゚∀゚)「私達はそれを見守る……できれば手伝いをする。それが役割。権利。特権」



  
83 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:46:19.76 ID:Pq8gNNQw0
  

ツンは自分の薬指にはめられた指輪を見つめた。
質素な指輪だ。おそらく銀で出来ているのだろうけど、粗悪な銀に違いない。所々がくすんでいる。
けど、彼の気持ちがちゃんと込められている。それはよく分かる

そして、自分は彼と話すことができる。それも分かる。

けど、何を話せばいい?

ξ゚听)ξ「……私はあいつと何を話すべきなの?」
  _
( ゚∀゚)「お前の心が望むこと……話したいことを話せばいい。
     世界の変革を防げとか、あいつを説得しろ、なんてことは言わない。
     正否なんてものは、そもそも関係ない」

(*゚∀゚)「あなたが話したいことを話して。話したくないなら、それでもいい」
  _
( ゚∀゚)「全てはお前の自由だ」

(*゚∀゚)「自由は空に羽ばたく翼。けど、時にそれは重荷になる。
    空に対する不安と恐怖を増長する。
    あなたは……どうしたい?」

自分がやりたいこと。
自分が話したいこと。

それは……ひとつに決められない。たくさん、たくさんある。



  
84 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 21:47:49.94 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「……あいつと話してくるわ」
  _
( ゚∀゚)「そうか」

(*゚∀゚)「なら、行ってらっしゃい。気をつけて」
  _
( ゚∀゚)「色々な人の思いがここには交錯している。道に迷うこともあるかもしれない。
     けど、お前の心が望む方向に行けば、きっとたどりつくさ」

(*゚∀゚)「私達は……ちゃんと見てるから」
  _
( ゚∀゚)「頑張れ」

そう言って、2人は白い泡のようになって消えていった。



  
92 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:05:15.04 ID:Pq8gNNQw0
  

ツンは前を向き(といっても前がどっちかなんて分からないけど)、ゆっくりと歩みを進める。
自分がやるべきことはもう分かっている。

あいつと話して、あいつの心をちゃんと見定めて……迷っていることがあるなら、一緒に考えて……

高尚な議論はできないけど、話すことなら、聞くことならできる。

つまりは、1人にさせないこと。
それしかない。

ツンは歩き続ける。
光は縦横無尽に広がっているけれども、右手の指輪は自分を案内してくれているように思えた。

だから、迷わない。





  
94 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:06:41.54 ID:Pq8gNNQw0
  




世界は白く染まっていく。
そこには全ての人たちの思いが込められている。






  
95 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:08:33.34 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

彼女はベッドの上で、彼に対する気持ちを膨らませていた。

从 ゚−从「……どうして私を助けたの?」
  _
( ゚∀゚)「死にそうな人間を助けるのは当たり前だろう?」

从 ゚−从「でも、私は敵。あなたの仲間を殺した敵」
  _
( ゚∀゚)「そうだな。敵なら殺す。だが、お前が銃で撃たれて倒れた時点で、戦いは終わったんだよ。
     敵も味方もなくなった。だから、敵じゃないお前を助けるのは、当たり前だろう?」

彼女はその出会いに感謝した。
ある任務がきっかけで起こったその出会いに。

それによって、自分は変わることができた。
「殺人機械」から脱却することができた。

だから、彼女は彼を助けるために、彼を守るために戦う。





  
97 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:10:28.38 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

彼らは自らのプライドを賭けて戦っていた。

( ´_ゝ`)「くはぁー!! どうしてお前には勝てないんだ! 理解できん!」
  _
( ゚∀゚)「だからさー、もう少し戦略というものを考えようぜ。コンピュータゲームでも戦略は必要なんだよ」

(´<_` )「兄者……そろそろ帰らないか? 隊長がうるさいぞ」
(#´_ゝ`)「まだだ! まだ終わらん! 俺は勝つまではやめんぞ!」
  _
( ゚∀゚)「しゃーねーな」

ヴァーチャル上でも戦いは戦い。
突如傭兵部隊に入ってきた男を倒すために、彼らは自らの知識を総動員して戦略を立てた。

それでも終わらなかった戦い。
ライバルは自分の道を突き進むために旅立った。彼らもそれを追いかけていき、結局交わされた再戦の約束。
そして、ライバルの思想を聞き、深く考えた結果、彼を助けることを選んだ。

彼らは戦う。

プライドを守るために。





  
100 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:13:04.10 ID:Pq8gNNQw0
  


ある日、ある場所のこと。

彼は、自分の胸の内にある疑念を晴らすための方法を探していた。

「口答えするな! お前の意見など聞いておらん! 出直せ!」

( ´∀`)「……」

理不尽な仕事、納得のいかない説明。
彼は自分のやることが、本当に人のために、国のためになるのか、疑問を抱いていた。

そんな中もたらされた、1本の電話。

「俺の話を聞いてほしい。モナーさん」

( ´∀`)「誰だモナ……あんたは」

「この国を救いたいと思っている1人の男、とでも答えておきましょうか」

それは救いの電話なのか? それとも破滅への電話なのか?

だが、彼はその電話を取り、その言葉を信じた。
自らの信念を貫き通し、あえて茨の道を進んだ。

全ては、この国を守るために。





  
102 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:14:58.17 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

彼は自らの人生の集大成として、未来を救う道を選んだ。
  _
( ゚∀゚)「……本当についてきてくれるんですか?」

( ,,゚Д゚) 「ああ。もう迷いはない。お前を手伝うことにするさ、ゴラァ」
  _
( ゚∀゚)「けど……あなたにはCIAの仕事が……」

( ,,゚Д゚) 「あんなもんはクソ喰らえ、だ」

今までやってきたことを償えるとは思っていない。
これまでの人生、全ては灰色で塗りつぶされてきた。
「あの国を守るため」という大義の元、色々と汚いことをやってきた。
大義は正しくとも、方法が間違っていればダメだというのに。

だから、この老獪の身に、最後の最後で光を浴びることを許してほしい。
人間らしく、自らの人生に良い幕引きが訪れることを願うのは、普通のことだろう?

戦おう。今は。

信念と人生を裏切らないために。
子供たちの未来を守るために。





  
104 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:17:09.75 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

彼は、本当にこの国にとって良いことを成すために奮闘していた。

狐「……では、『VIP』の設立は?」

「いいだろう。だが、少しでも問題が起きればすぐに解散だ。それを肝に銘じろ」

狐「はっ!」

『アンノウン』という恐怖に対して、彼は独自の力で戦うことを選んだ。
本来なら、全てを自分の力で行いたかったものの、そのための実力はない。

この国を変えたくとも、それを行う力が無い。
だから、今は内部からこの国を守る。この国を変える。

それがちゃんとした未来に通じる。みんなを守ることができる。
『アンノウン』という脅威が取り除かれ、全ての恐怖から解放されれば、きっと……

そうして彼は戦いの道を選んだ。

人々を守るために。





  
105 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:20:10.49 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

彼女は過去を振りほどき、『影』という敵を倒すために戦い続けていた。

(*゚ー゚)「今日も成果なし……はぁ。なかなか『影』の尻尾がつかめないなあ」

彼女は、『VIP』のビルの中をゆっくりと歩き、大切な人のいる部屋に向かう。
親はとっくの昔に他界し、今や家族はこの人だけ。だから、ちゃんと守らなくてはならない。
たとえ、自分に戦う力がなかろうとも。

(*゚ー゚)「お姉ちゃん……」

「……」

(*゚ー゚)「明日は……きっと話してくれるよね」

その力は小さいかもしれない。けど、力は力だ。
縁の下の力持ちでもいい。ただの治療役でもいい。

彼女は何かの役に立ちたかった。
自分のように、家族を『影』に殺された人たちなんて、もう生み出したくなかった。

彼女は戦う。

みんなに悲しんでほしくないから。





  
107 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:23:21.06 ID:Pq8gNNQw0
  


ある日、ある場所のこと。

彼は、自分ができることを模索していた。

(=゚ω゚)ノ「……はあ、毎日デスクワークばっかりで飽きるょぅ」

この国を守る、国民のために何かをしたい。
そんな青雲の志をもって、政府という大きなシステムの中に入った彼。
だが、自分の力でできることとはいったい何なのか、まったく分からなかった。

そんな時にかかってきた、1本の電話。

「やあ、狐というものだが、少し話があるんだ」

(=゚ω゚)ノ「話……?」

「以前身体検査を受けただろ? それの結果が非常に興味深くてね……まあ、話を聞いてほしい」

その電話がきっかけで、彼は自分の力の使い道を見つけた。

これならきっと、この国を守れる。大きな脅威から、みんなを守れる。

そうだろう? 自分はずっとあこがれてきた。アニメの中のヒーローに。

これからは自分がヒーローだ。
だから、戦おう。





  
109 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:25:21.96 ID:Pq8gNNQw0
  


ある日、ある場所のこと。

彼と彼女は、自らの進む道を探していた。
  _
( ゚∀゚)「なあ、『天国』って、この国のためになってっと思うか?」

川 ゚ -゚) 「ん? いきなりなんだ。頭にコーヒーでもかけられたか? 豆腐の角に頭をぶつけたか?」
  _
( ゚∀゚)「ちょwww ひでぇwww」

迷いながら過去を生きてきた彼ら。

だが、未来にて、ようやく自らの進み道を見つける。

彼は、世界を旅することで人間の本質を見抜き、その本質に則った対策を打ちたてた。
そして、それを行うための方法を模索し、ギコという助けを借りて、ようやく『影の子』というキーワードを見つける。

一方彼女は、戦いから離れ、1人考え続けることで道を見つけようとした。
それでも見つからない道。迷いっぱなしだったとも言える。
だが、1人の少年と出会い、戦い続けることでようやく道を見つけた。
感情という、否定されがちな要素を肯定し、理性をも肯定し、彼女は新たな方法を見つけ出した。

そんな2人に共通する意志は同じ。

この世界を守りたい。ただそれだけ。





  
117 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:39:46.23 ID:Pq8gNNQw0
  



ある日、ある場所のこと。

『彼』は、公園の片隅でじっと座っていた。

空は夕焼け。一日の終わりを告げる光が、辺りを照らしている。

( ^ω^)「……」

『彼』――ブーンは、手に木の棒を持ち、砂場に大きく丸を描いていた。
笑顔なんて浮かべていない。口をへの字に曲げ、ぼんやりと目を開き、一心不乱に丸を描く。

ひとつの大きな丸が出来上がった時、ブーンは棒を放り捨てて、近くのベンチに座った。

周りには誰もいない。
いるはずもない。全ては『自分』になってしまったんだから。
ここにいるは自分ひとり。世界中、どこを探しても自分だけ。

異様な風景だったものの、嫌ではなかった。
これが自分の選んだ道だから。

これでいい。これなら、きっと全てが上手くいく。



  
120 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:42:53.23 ID:Pq8gNNQw0
  

「あんた、まだここにいたのね」

ブーンはゆっくりと顔を上げて、その声の出所を探った。
そこには見知ったようで知らない顔、ずっと会いたかったようでいて、けどそれすらも分からない人が立っていた。

「ツン」とブーンは自然とその人の名前を口に出す。

( ^ω^)「……どうしてここにいるんだお?」

ξ゚听)ξ「それはこっちの台詞。あんた、まだ『ここ』にいたのね。
    律儀に中学校の制服まで着て。カバンは……持ってないか、当たり前よね」

ツンは、じろりとこちらを視線でひと舐めし、周りを見渡し始めた。

きっと驚いているんだろうな、とブーンは思った。
ここの太陽はまったく動かない。地平線に沈みかけたままで止まっている。
夜になることも、昼に戻ることもない。

ここは全ての時間が止まっている。
自分はここから抜け出せていない。

それは分かる。だが、ここで考えに考え抜き、ようやく結論を出したのだ。
だから、別に迷うこともない。



  
123 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:45:45.99 ID:Pq8gNNQw0
  

ブーンは座ったままで、「ツン」と呼びかけた。

( ^ω^)「……僕を止めに来たのかお?」

ξ゚听)ξ「別にそんな気はないわ」

「これ何?」と、ツンは砂場に描かれている丸を指差した。

彼女の答えに驚きつつ、ブーンは立ち上がり、砂場の丸の中に1人で入ってみた。

( ^ω^)「……境界線」

ξ゚听)ξ「何と何の?」

( ^ω^)「僕と他人の、だお」

丸の中から、ツンに話しかける。
それだけのことで、自分と他人は別だということがよく分かる。
普段は目に見えないし、自覚していないけど、自分と他人の間には明確な境界線があるのだ。

この線の外には、色々な人たちがいる。
時には自分の丸と重ね合わせようとしてくる人もいる、時にはぶつけ合おうとする人もいる。
ただひとつ言えるのは、この丸が完全に消えることもないし、他の丸とぴったり重なり合うこともない、ということ。



  
126 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:48:59.92 ID:Pq8gNNQw0
  

しかも、丸を書く場所は限られているから、自然と他の丸と重なったり、ぶつかったりしてしまう。
だから、戦いが終わることなんてない。

( ^ω^)「……けど、もう分かったんだお。この丸をこうやって大きくすれば……」

ブーンを囲っている丸は、何もしていないのに徐々に大きくなっていた。
砂場をはみ出し、公園を超え、ついには見えない所まで広がっていく。

丸は、この世界を覆ってしまった。

( ^ω^)「……全ての丸を大きな丸で囲めば、みんなが『自分』になれば、もうぶつかり合うこともないお。
      自分や他人を守る必要すらなくなるんだお」

ξ゚听)ξ「そうね。そうなのかもね」

丸は急激に小さくなり、再び砂場の上へと戻ってきた。
ブーンはいまだその中で、外にいるツンを見つめている。

ツンは、腰に手をやり、胸を張った。
気がつかなかったが、彼女の服装はワンピース、つまり私服だった。

ξ゚听)ξ「……私はね、別にあんたに説教しに来たわけでも、あんたを助けたいわけでもない」

「ただね」とツンは近付いてくる。

砂場に入り、丸の前で止まった。



  
127 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:52:57.86 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「……よっ!」

いきなり、丸の一部分を足で消してしまった。

( ^ω^)「あ、ああっ!」

ξ゚听)ξ「よいしょっと……」

続いて、その欠けた部分を通って丸の中に入ってくるツン。
丸の中に2人の人間が入り込んだ。
彼女の身体がものすごく近い。

( ゚ω゚)「あ、ああ……」

ブーンは身体をガタガタと震わせ始めた。
こんなに近くに人が来たのは初めてだったから。
そして、自分はどうすればいいのか分からず、不安だったから。

ξ゚听)ξ「何震えてんのよ」

( ゚ω゚)「入るんじゃないお!」

手を前に出して、彼女を押し出そうと試みるブーン。
だが、ツンはその手を掴んで、勢いを殺してしまう。

ますます震えがとまらなくなり、ブーンは腰を抜かしそうになる。



  
129 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:55:55.19 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「……やっぱり、ね」

( ゚ω゚)「来るんじゃないお、来るな……来るなぁ」

ξ゚听)ξ「あんたはね、怖いだけなのよ」

( ゚ω゚)「怖……い?」

ξ゚听)ξ「そう。こうやって、丸の中に入ってこられるのが怖い。他人と手をつなぐのが怖い……
    その人のことを良く知りもしないのに、一方的に怖がってる」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「分かる? あんたが怖がってるのは『他人』じゃない。他人が何をするのか分からないことを怖がってるのよ」

( ^ω^)「……けど、他人のことを理解するなんて不可能だお。怖がるのは当然だお」

ξ゚听)ξ「……そうね。実際、私も怖いもん。いつあんたが私を襲ってくるのか、分からない。それが怖い」

(;^ω^)「そ、そんなことはしないお!」

ξ゚听)ξ「うん、分かってる。怖いけど、私はあんたのことを信じてる。だから大丈夫」

『信じる』……?



  
131 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 22:58:28.80 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「だから、あんたも私のことを信じて。
    殴ったり、叱ったりするかもしれないけど……信じてほしい」

( ^ω^)「……」

ツンはブーンの手をぎゅっと握り締める。
ブーンはその手の力の強さに戸惑いつつも、ゆっくりとその手を両手で取って、握り締めた。

『信じる』ということ。

確かに、他人と完全に分かり合うことは不可能かもしれない。
だからこそ、考え方や思想の違いで戦いが起きる。

けど、だからと言って他人を完全否定する理由にはならないのではないか?

ξ゚听)ξ「あんたは1人じゃない」

( ^ω^)「……!」

ξ゚听)ξ「私が見てるから……だから、1人じゃない。あんたはこっちにいるのよ」

( ^ω^)「……けど、僕はどうすればいいんだお?」

ξ゚听)ξ「それは、あんたが考えること」

ツンが手を離した。
丸の外に出て、悲しげな笑顔を浮かべて話を続ける。



  
132 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:01:34.92 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚听)ξ「あんたが決めるのよ……私は話をしに来ただけ。
     最後に決めるのは……あんたじゃないと」

( ^ω^)「けど……けど、僕はそんなに強くないお! どうしてみんな、僕に決めさせるんだお!」

ξ゚听)ξ「馬鹿ね、ほんと」

ツンは「しょうがないわね」とでも言いたげな顔をして、再びブーンの手を取った。
その手のぬくもりが暖かく、ブーンは呆けたような表情を浮かべて言葉を待った。

ξ゚听)ξ「あんたを1人の人間として認めてるから……
    あんたがちゃんと考えられると信じてるから……任せるの」

( ^ω^)「……」

ξ゚ー゚)ξ「私はもう何も言わない。今はあんたが信じる道を進んで。
     色々な人から色々と教えてもらったでしょう。もう決められるはずよね」

( ^ω^)「ツン……僕は……」

と、ふと彼女の手のぬくもりがなくなったことを感じ、ブーンは驚き顔でその手を見つめた。
その手は色が薄くなっており、徐々にだが白い光へと変わっていこうとしていた。

ξ゚听)ξ「……時間、みたいね」

( ^ω^)「ツン! 僕は、僕は!」



  
135 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:04:15.69 ID:Pq8gNNQw0
  

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫……私はちゃんと見てるから……私が見てるんだから、あんたはちゃんとここにいるでしょ?」

( ;ω;)「ツン!」

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ……ね」

ツンの身体が消えた。
白い光に分解し、その光すら辺りの風景に溶け込んでいってしまった。

キン、という音がした。

地面を見下ろすと、そこにはクリスマスプレゼントでツンにあげた指輪が落ちていた。

ブーンはそれを拾い上げ、涙目で見つめる。

銀色に輝く指輪は、何も答えてはくれない。

( ^ω^)「僕は……」

ブーンは、砂場の丸をもう一度見つめた。



  
139 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:07:22.37 ID:Pq8gNNQw0
  

この丸が、他の丸と重なり合うことはないかもしれない。

だが、だからと言って他の丸を完全否定していいはずはない。
もし否定しているのなら、それは根拠の無い恐怖を抱いているからだ。

その恐怖が、本来は敵ではない相手を、「敵」と認識させてしまう。
行う必要のない争いを続けてしまう。

この恐怖は本能的なものだ。生存本能か防衛本能が、他人を疑わせる。

だけど、こんな根拠のない恐怖に振り回されてどうする?

自分はずっと、恐怖を抱いて生きてきた。
戦うことを恐れ、大切なものを失うことを恐れてきた。
そして、そのたびにその恐怖を乗り越えようとしてきた。

ならば、この恐怖も乗り越えよう。

『信じる』ことで。

本能で人はひとつになれないなら、「信じる」という理性的なもので補おう。

これはものすごく頼りないものかもしれない。少しでも恐怖に振り回されれば、すぐ切れてしまう細い糸のようなものだ。

けど、成長することもある。変化することもある。時には鋼鉄のロープのような、太く切れ難いものになることもある。
そうなれば、きっと大丈夫だ。



  
141 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:10:25.60 ID:Pq8gNNQw0
  

もし、それでも切れてしまったらどうするか?
根拠の無い恐怖が、現実的で対象を持つ恐怖となっても、信じ続けるのか?

そんなことはしなくていい。その時は戦うしかない。
守るために戦うことは、もはや正否を超えた、あって当然なものとなっている。

だが、勘違いしてはならない。
現実化する前の、根拠の無いあやふやな恐怖を、戦うことで消し去って良いわけではない。

相手が引き金を引くことで、初めて恐怖は具現化するのだ。
それ以前は、まだ細くても糸がつながっているはず。それを太くする努力を続けよう。
もし戦いが起こったとしても、今後起こらない方法を模索していこう。

武器を持ってはいても、それを使わない勇気を。

そうだ。そうなんだ。

( ^ω^)「……」

公園が、砂場が、急激に形を崩していった。
空の夕焼けは白い光に変わり、滑り台やジャングルジムは砂のように分解されていく。

全てが白い光の粒子に変った時、周りに広がるのはどこかで見た白い空間だった。

上下左右も分からない。ここがどこなのかも知れない。



  
144 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:12:43.77 ID:Pq8gNNQw0
  

どうすればいい?

そう自分に問い詰めたら、ひとつの答えが返ってきた。

( ^ω^)「あっち……かお」

見つめた先は、ある一方向。
その先に行かなければいけないようだと、ブーンは直感的に感じ取った。

それは遠いかもしれない。永遠にたどりつかない場所かもしれない。

だが、行けないことはない。



だって、こことあそこは道でつながっているのだから



  
145 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:15:22.03 ID:Pq8gNNQw0
  

道も、行き先も、走り方も分かっているんだ。

だから……走ろう!

( ^ω^)「……行くお!」

中学の学生服が、変化し始めた。
黒い詰襟から、今の自分が普段着ている私服に変わる。

セーターとズボン。ただそれだけ。

指輪をズボンのポケットにしまい、ゆっくりと足を踏み出したブーン。

白い翼も、白い剣も持たない。

その身ひとつだけで、ブーンは走り出す。

⊂二二二( ^ω^)二⊃「ブーーーーーン」

思いっきり足を上げ、腕を振って走る。
行き先がどんな所かは分からない。
けど、走らなくちゃいけない。

逃げてはいけない。退いてもいけない。

もう走れるんだ。
怖がらずに、笑顔で!



  
148 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:17:56.04 ID:Pq8gNNQw0
  

ブーンは一心不乱に足を動かし続けた。

( ゚ω゚)「おっ!」

急ブレーキをかけて止まるブーン。
目の前を見れば、そこには地面を大きく裂いている黒い地割れ。

右と左を見て、その地割れはどこまで続いていることを確認する。
どうやら避けることはできなさそうだった。

対岸までは4メートルぐらい。
走り幅跳びが苦手な自分としては、なかなか辛い距離だった。

( ^ω^)「……お?」

と、後ろに気配がして、ブーンは振り返る。
そこには、4つの白い光が浮かんでいた。

( ^ω^)「これは……」

ふわふわと浮かぶ光の球を見て、その暖かさのおかげか、決心がついた。

ブーンは再び前を向き、助走をつけるために走り出す。



  
150 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:20:08.29 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「はぁ!」

思いっきりジャンプするブーン。

だが、思ったよりもジャンプが高くない。

( ゚ω゚)「ま、まずいお!」

このままでは黒い奈落の底に落ちてしまう。
ブーンはぎゅっと目を瞑る。

だが、背中からドン!という衝撃を受けて、跳躍の距離が伸びた。
なんとか対岸の地面で受け身を取り、崖を乗り越えたブーン。

後ろを振り返ると、4つの光の球が笑うように飛び交っていた。

ブーンは目を細めてその光を見つめる。
ありがとう、と礼を言うと、4つの光は、それより早く行け、という返事をしてきた。





分かる。それは、流石兄弟、モナー、ハインリッヒの光だ。



  
154 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:22:23.91 ID:Pq8gNNQw0
  

見知った光は、徐々にその光量を薄めていき、ついには消えていった。
それぞれ満足した感じだったのは、気のせいじゃない。

ブーンは、彼らがずっと傍にいるということを確信し、前を向いて走り出す。

( ^ω^)「はぁ、はぁ」

さらに走り続けること2、30分。
体力という概念がここにあるのかは分からないが、ブーンは息切れを起こし始めていた。
行きたい場所があるというのに、走れないというのは、なんともどかしいことか。

だが、足と腕の疲労に勝てるはずもなく、ブーンはついにその場にしゃがみこんだ。

( ^ω^)「はぁはぁ……お?」

また、白い光が現れた。
今度は3つ。それぞれ、こちらの周りを飛び交ってきては、何か言いたげに近寄ってくる。

まず、ひとつの光、自分の目の前でこう言った。「頑張れ」と。

その声は、落ち着いた大人のもの。人生の道しるべを立て、いろんなことを教えてくれる人のもの。


狐、だ。



  
157 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:24:47.93 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「はぁはぁ……」

残り2つの光は、自分の足と腕の周りを飛び交っている。
すると、徐々にだが疲労が取り除かれていっているように思えた。
特に、足の周りを飛んでいる白い光は、優しい光を浴びせてくれている。

これは、しぃ。
そして、もうひとつの光は、ぃょぅ。

ふたつの光は「これで大丈夫」とでも言いたげに、身体の周りを飛び交うのを止めた。

ブーンはゆっくりと立ち上がると、身体の疲労が全て取れていることに気がついた。

( ^ω^)「……ありがとうだお」

3つの光は、満足気に消えていった。
だが、寂しくない。一緒に走っているようなものなのだから。

ブーンは軽い足を前に投げ出し、スピードを上げていく。



  
159 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:26:27.84 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、そこで気がついた。1度しゃがみこんだから、どこに行けばいいのか分からなくなっていることを。

( ^ω^)「しまったお……」

右と左を見て、上も見る。
完全に道が分からなくなっている。

途方にくれたブーンだったが、不意にふたつの光が目の前に現れた。


こっちだ、早くしろ。
がんばれぇ〜。


互いに寄り添うようにしながら宙を漂い、道を示して消えていった光。

それはきっと、ジョルジュとつーなんだろう。

ブーンは彼らが示してくれた道を走る。

走り続ける。

( ^ω^)「……もう少し!」

目的の場所が近付いてきたのを実感し、ブーンはさらにスピードを上げる。



  
162 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:29:06.40 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、そこでいきなり、上から黒い球のようなものが落ちてきた。
ブーンは避けようと身体をひねるが、間に合いそうもない。

当たる。
そう思った瞬間、後ろから白い何かが飛んできて、その黒い塊を粉々に打ち砕いた。

( ^ω^)「なっ……」

後ろを振り返ると、そこにはひとつの白い光が。

優しく、それでいて厳しい目が自分を見つめている。
自分の何倍もの年を重ね、様々なことを知っているであろうその目。
ギコだ、あれは。

しょうがねえな、お前は。

そんな声が聞こえると同時に、次々に振ってくる黒い塊を、その光は白い矢で貫いていく。

その間に、ブーンは前へと進む。
後ろの光は背中を押してくれている。援護してくれている。

ギコの光が見えなくなったぐらいのこと。
目的地は近い。この道のりも、もう終わり。



  
164 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:31:40.46 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、急に嫌な予感がして、ブーンは立ち止まる。

それは的中し、今度は黒い壁のようなものがいきなり現れ、立ちはだかった。

(;^ω^)「ど、どうすれば……」

戸惑い、右と左を見る。
道は全て黒い壁にふさがれてしまっている。
これでは進めない。あと少しなのに。


そうして出てきた、最後の白い光。

それは、宙を漂っていたかと思うと、黒い壁を一閃のし、進路を切り開いた。

刀と長い髪が見えたような気がして、ブーンは目を見開いてその背中を見つめた。

暖かい。自分をいつも見てくれていた人。
ずっと、自分を守ってくれた、一緒に戦ってくれた、その光。


安心して行け。


そんなクーの声が聞こえて、ブーンは力強く頷いて、走る。

もうすぐだ。もうすぐたどりつく。



  
167 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:34:16.41 ID:Pq8gNNQw0
  

そうしてたどりついた、この世界の果て。
白い空間の端っこ、それ以降は全てが黒く塗りつぶされており、目の前には巨大な崖が立ちはだかっている。

ブーンはその端っこに立ち、下を見つめた。
何も見えない。本当の暗闇がそこには広がっている。

怖い。
けど、ここに行かなくては始まらない。自分が行きたい場所に行けない。

それが分かってはいるものの……恐怖は、自分の心を押しつぶしてくる。

(どうした?)

声が、聞こえた。

懐かしく、それでいていつも身近にいてくれた人の声。

自分の……友達の声。

振り返ると、やっぱりみんながいた。

ツンの、素直じゃないけど優しい光。
ドクオの、おちゃらけつつも親しげな光。
ショボンの、頼りになる光。



  
168 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:36:43.90 ID:Pq8gNNQw0
  

(怖いのか?)

ドクオの光がそう尋ねてきて、ブーンは「うん、ちょっとだけ」と答えた。

(大丈夫さ、君ならね)

(;^ω^)「けど……ここから先は、暗くて何も見えないお」

(私達も一緒よ……みんな、一緒にいる。あんたの胸の中にいる)

( ^ω^)「そうなのかお?」

ツンの光の言葉に、ブーンは自分の胸に手を当てた。
確かに、聞こえるような気がする。
みんなの光が、この先を照らしてくれているような気がする。

(あんたは、色々な人と接し、彼らの言葉を聞き、その心を見てきたでしょう?
そこから得たものは、みんなあんたの中にあるはず。
それを元に考えて、自分の道を探し出した。そうでしょう?)

( ^ω^)「みんなの心が……僕に……」

(さあ、行こうぜ)

(僕達も一緒に行って、見てるから)

(今度は、あんたの心を……みんなに見せましょう!)



  
170 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:39:34.43 ID:Pq8gNNQw0
  

みんなの心が僕の中にある。
みんなの心を、見せてもらった。

だから、今度は自分の心を見せよう。
今こうやって考えていることを、みんなに伝えよう。

( ^ω^)「……行くお!」

(ああ、行ってこい)
(君なら大丈夫!)
(きっと……!)

みんなの声を背に、意を決して飛び込んだ崖。

どんどんと落ちていく。
下があるのか分からないけど、自分は今落ちている。
そこは暗闇が広がっていると思いきや、自分の中から発せられた白い光が空間に溶け込み、徐々に辺りを照らしていった。



  
171 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:41:51.72 ID:Pq8gNNQw0
  

そうなんだ。こうやって、黒と白が混ざりあえばいい。

それと同じだ。

色々と対極に位置するものはたくさんある。

本能と理性、戦うことと戦わないこと、右と左、
新しいものと古いもの、内と外、白と黒、自分と他人。

そんな、両立せず、矛盾するとされているものを、あえて合わせればいい。
そうやって出来上がったものが、自分のとるべき道。

それでも間違いは起きるだろう。
けど、それを糧にして人間は進んでいく。

ゆっくりだけれども、確実に。何十も世代を重ねていって。

だから、可能性はたくさんある。
もしかしたら、自分の考えたこんなものよりも、もっとすごいものを後々に考えてくれるかもしれない。

それに賭けたっていいはずだ。

人は、少しずつ進んでいくのだから。

だから、自分も進もう。
今、こうやって一歩を踏み出そう。



  
172 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:43:46.69 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「……お?」

目の前に現れた白い光。
それは、もう誰なのかはわかる。『従者』だ。
けど、今度は誰かの姿をとっていない。いや、今度は……

( ^ω^)

自分の姿だ。

( ^ω^)「そうだったのかお……」

一歩を踏み出すのなら、やはりここからだったのだ。
いつだって、虚栄心を取り払わなくてはならない。

まずは、僕は僕を受け入れよう。

ブーンは手を伸ばし、『従者』の腕を取った。

( ^ω^)「君は……僕だったのかお」

にこりと、『従者』が笑った。
『従者』は再び白い光になって、身体に入り込んでくる。

僕は、僕を受け入れた。



  
179 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:55:39.23 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「……うん、そうだお」

さあ、僕は心を開こう。

みんなに、自分に、様々な人に。
理性も感情も、恐怖も勇気も、悲しみも喜びも、全部、全部ひっくるめた、



僕の、心を。







  
180 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:56:25.65 ID:Pq8gNNQw0
  



8枚の翼は、その大きさをさらに増していった。

今や、世界の全てはブーンと一体化していたとも言える。

だが、まだ残り少なくその世界にいた人々は、空を覆っていた白い光が、さらに光り始めたのを見た。

それは、まばゆいほどの光。

世界を包み、地球を包み、そして宇宙にまで届こうとする光。






彼の心が、全てに届いた瞬間だった。



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