( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:34:56.89 ID:gx1gBjB00
第2話
ある建物の、ある部屋の中。
部屋は整えられており、絨毯や机、椅子、ソファ、棚、調度品などの全てが高級感を醸し出していた。
一目見ただけで「えらい人使っているすごい部屋」のように思える広い部屋だったが、中はかなり暗かった。
窓のカーテンは全て閉め切られており、シャンデリアの電灯も点いていない。
唯一、1本のロウソクの光だけが四角いガラステーブルの上できらめいている。
そのテーブルを挟むようにして、2人の人物がソファに座って向かい合い、お互いバーボンの入ったグラスを傾けていた。
「本当に、今日現れるんですね?」
2人の内の1人――Tシャツにジーンズというラフな格好の女性が、バーボンを飲み干したグラスを置きながら口を開いた。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:35:42.78 ID:gx1gBjB00
「もちろん」
もう一方――高級感溢れた黒のスーツを着込んだ男性が、グラスを置いてその声に応える。微妙な笑みを浮かべ、飄々とした表情でいる男は、しかしその笑みの裏にはいつも何かを考えている。
男の笑みほど信用できないものはない、と思いつつ、女性がひとつ小さなため息をついた。
テーブルの上にあったバーボンの瓶を手に取り、中身をグラスに注いで一気に飲み干す。
こんな飲み方をしているようではいらだちを隠し切れていないな、と女性は思った。
女「しかし、私には信じられません」
男「それは仕方のないことだ。だが、信じようと信じまいと今日、事態は始まってしまう」
女「本物だとは限らないのに?」
男「それでも、現れることによって事態は進んでしまうものだ」
女「……」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:36:26.75 ID:gx1gBjB00
女性が口をつぐむと、スーツの男もまたバーボンの瓶を取り、グラスに一杯になるまで注ぐ。
そして、ちびちびと、まるで猫がミルクを飲むかのように少しずつバーボンを飲む。
男「君が行ってくれると、私としては大いに助かる。強制はしないが……」
女「……行かないと『彼』にとっても、私たちにとってもまずい事態となる」
男「そのとおり」
男はそこで、一気にバーボンを飲み干した。それはこの話し合いが終わりを迎えたことを示す合図だった。
男「頼めるか?」
女「……いいでしょう。『影』は現るんですか?」
男「おそらく。だが、それほど強力なものは出ないよ」
女「『彼』を見つけることに専念しろ」
男「その通り。飲み込みが早くて助かるよ、酒も話も」
すでに空になった酒瓶を振りながら、男は笑顔で言った。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:37:09.29 ID:gx1gBjB00
男の顔はかなり赤くなっている。バーボンを2杯飲んだだけで酔いが回っているのだ。
相変わらずお酒に弱い人だった。
女「お酒も飲めないのに知人に貰ってばかりいるから、処理に困るんですよ」
男「飲み始めは旨いんだけどね、やはりアルコールは身体に合わないようだ」
男がそう言って酒瓶をテーブルに置くと同時に、女性は立ち上がった。
話し合いは終わり、という合図だ。後は行動に移すだけ。
女性は部屋のドアへと向かう。部屋が暗くてよく周りが見えないが、ドアの位置ぐらいはわかる。
ドアノブに手をかけて、外に出ようとした
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:37:54.26 ID:gx1gBjB00
と、そこでスーツの男が立ち上がる気配を感じ、女性は立ち止まった。
男「『人の子』を頼んだよ……クー君」
静かで、かつ重みの感じられる声が耳に届き、クーと呼ばれた女性は思わず背筋を伸ばした。
川 ゚ -゚) 「了解」
女性は外に出て、ドアを閉めた。
外は目を細めてしまうほどに明るい。
部屋の暗さに慣れてしまった自分にとって、新しく光を見つめることはどうも気後れしてしまうものだった。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:38:33.07 ID:gx1gBjB00
※
ニュー速高校、3年2組。
7時半というまだ早朝とも言うべき時間帯に、1人の生徒が教室のドアを開けた。
最近少し太ったことを気にしている人――ブーンだ。
( ^ω^)「お? 誰もいないお?」
ξ゚听)ξ「ブーンじゃない。どうしたのよこんな早くに」
教室にはツン1人だけがいた。
ツンはいつものニュー速高校の制服を着込み、何もせずに窓の傍に立っていた。
( ^ω^)「ツンこそ、どうしてこんな早くに学校にいるんだお?」
ξ゚听)ξ「生徒会で用事があったんだけど、担当の子が寝坊したから暇になったのよ。あんたは?」
( ^ω^)「宿題をするのを忘れてたから、朝早く来てやっておこうと思ったんだお」
ξ゚听)ξ「やっぱり忘れたのね……毎度のことだけど」
ツンのため息混じりの声に、ブーンは申し訳なさそうに頭をかいた。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:39:14.38 ID:gx1gBjB00
ブーンはいつも、宿題があったことを当日の朝になって思い出す。
それまでは、まるで嫌なことを忘れたがっているかのように、宿題のことなど頭の中から消え去っているのだ。
( ^ω^)「早くやらないと、数学の先生は厳しいお」
ξ゚听)ξ「しょうがないわね。私も手伝ってあげるわよ」
( ^ω^)「ありがとうだお! すごく助かるお!」
ξ/////)ξ「べ、別にあんたのためじゃないんだからね! 数学の復習のついでに、仕方なく教えてあげるだけなんだからね!」
ブーンは、いつもツンに宿題を手伝ってもらっている。
時々不登校になってしまうブーンにとって、彼女の助けは本当にありがたいことだった。
宿題もせず、授業も真面目に聞かないブーンが、3年生までなんとか落第せずに済んだのは、ツンの助けがあればこそだった。
いやいや言いながらも、まるで姉のように自分を助けてくれるツン。
そんな彼女に、ブーンは少なからぬ好意を抱いていた。
それが世間で言う「恋」だとか「愛」だとかに当てはまるものかどうかは分からなかったけれども。
ξ゚听)ξ「そういえばショボンとドクオは? あんたを迎えに行くはずでしょ」
(;^ω^)「あ、わすれてたお」
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:40:10.51 ID:gx1gBjB00
※
ktkr孤児院前。
ブーンを迎えに行ったのに、すでに彼は出発したと聞かされるという不意打ちを喰らった2人の男が、しょぼくれた顔で立ち尽くしていた。
(´・ω・`)「ショボーン……」
('A`)「……ウツダ」
2人とも、最近学校に行きたがらないブーンをなんとか連れて行こうと思って息巻いていたのだが、
こんな不意打ちを喰らうとは思っておらず、少なからずショックを受けていた。
冬の朝、寒空の下、2人はトボトボと学校へと足を進める。
('A`)「なあ、俺って生きてる価値あるのかな?」
(´・ω・`)「僕に掘られるぐらいの価値ならあると思うよ」
('A`)「だが断る」
ドクオとショボンは冗談を言い合いながら、なんとか心の平静を保とうとしていた。
まるで右ストレートを出したら、相手から右のハイキックを喰らったかのような衝撃を、2人は感じている。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:43:06.92 ID:gx1gBjB00
だが、少なからず嬉しいことも確かだ。
ブーンが自主的に学校に行くなんて、いつ以来のことだっただろうか。
最長3ヶ月登校拒否をしていた頃に比べて、今はなんと活発なことか。
それが友達として嬉しくもあり、約束を破ったブーンに対して怒りを感じない原因でもあった。
('A`)「まあ、あいつが元気ならそれでいいか」
(´・ω・`)「僕はバーボンを喰らったかのような衝撃だ。少し悔しい」
('A`)「大人気ねーな、お前」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
('A`)「だが断る」
朝の風は冷たく、こんな冗談を男2人で言い合っている自分達に少なからず虚しさを覚えていた。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:43:51.08 ID:gx1gBjB00
('A`)「お、あの人、きれいじゃね?」
ドクオが一方向を指差す。
(´・ω・`)「僕は女に求める基準は高いんだが……確かに高得点だね」
ドクオとショボンの見つめる先には、コンビニの前に1人佇んでいる女性がいた。
黒髪のストレート、小顔で身長が高く、服装はGパンに皮ジャケットというシンプルな出で立ち。
だが、そのシンプルさが彼女の魅力を引き上げており、一見モデルのようにも見えるほど綺麗だった。
顔も整っており、今は無表情だったが、笑えばさぞかし目の保養となるだろう。
('A`)「いいよなー。ああいうのが彼女になってくれたら、俺の学生生活も充実するんだけどなー」
(´・ω・`)「ドクオの癖に生意気だな。釣り合うとでも思っているのかい?」
(♯‘A`)「……」
その女性の前を通り過ぎる間、2人は横目でその顔を見つめる。やはり綺麗だ。彼氏になる奴はうらやましい限りだ。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:44:35.45 ID:gx1gBjB00
そう思いつつ、彼女の前を通りすぎって行った。
川 ゚ -゚) 「……」
ふと、自分達が彼女に見られているかのような感覚を受けた。
びっくりして振り返るが、もうすでに彼女は顔を下に向けていて表情を伺い知ることはできない。
('A`)「?」
(´・ω・`)「……」
2人は疑問に思いつつも、気のせいということにしておき、歩を進めるのだった。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:45:17.66 ID:gx1gBjB00
※
その日、ブーンの日常はいつも通りに進んでいた。時間はどんどんと進んでいた。
朝。
ドクオとショボンに約束を忘れていたことを叱られながらも、学校に来たことを喜ばれ、少し照れくさかった。
昼。
弁当を忘れていることにその時になって気付き、困っていた所をツンからお弁当のおすそ分けをしてもらった。
彼女は「べ、別にあんたのためじゃないからね! 今日はちょっと量が多かっただけだからね!」という言葉を受け賜った。
嬉しくてお礼を言ったら、ものすごく赤い顔をされた。
放課後。
部活も何も入っていない自分達4人組は、その日は一直線に家路へと着いた。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:46:08.74 ID:gx1gBjB00
それは珍しいことだった。
いつも、ゲームセンターやらカラオケやら何かしら寄り道をしていた。遊びに行くのが常だった。
けど、その日はどういうわけか誰も遊びに行こうとは言い出さなかった。みんな、どこかに遊びに行くような気にはなれなかった。
本当に珍しい、1ヶ月に1度あるかないかの出来事だった。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:46:46.71 ID:gx1gBjB00
だからこそ、その「事態」は偶然だったと人は言うだろう。
無限にループしていた時間が、一直線のベクトルに変化するような「事態」。
いつも通りに流れていた日常が、急速に方向転換してしまうような「事態」。
もし遊びに行けば、そんな「事態」には巡り合わなかっただろう。
もし帰り道が別の道だったら、そんな「事態」に直面しなかっただろう。
けど、起きた。
起きてしまった。
「偶然などありえない。実際に起こったものは全て必然なのだ」という言葉は誰のものだっただろうか?
その言葉に従えば、その「事態」は必然だった。
僕達はその「事態」に直面した。
数ある可能性の中、僕達はひとつの可能性を必然として選び取ってしまったのだ。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:47:31.35 ID:gx1gBjB00
※
('A`)「あ〜、今日も疲れたぜ〜」
(´・ω・`)「そうだね。どうも12月の学校というのはだれてくるものだよ」
いつもの通学路。まだ夕方とも言えない早い時間に、ブーン達は帰路についていた。
4人とも、学校がようやく終わった後の解放感でいっぱいになっていた。
( ^ω^)「今日はあんまり寒くないような気がするお」
ξ゚听)ξ「そうね。マフラーもつけなくていいから楽だわ。天気予報ではここ1週間暖かい日が続くって言ってたわね」
( ^ω^)「そうなのかお? 寒いのは苦手だから良かったお……ツンはどうして傘を持ってるんだお?」
ツンの赤い傘を指差し、ブーンは不思議そうに尋ねた。
今日は雲ひとつない快晴だ。雨が降る気配なんて微塵もない。
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:48:21.75 ID:gx1gBjB00
ξ゚听)ξ「学校に置いてあったままなのを忘れてたのよ」
( ^ω^)「ツンが置き傘なんて、なんか珍しいお」
そう言いつつ、ブーンはコートのボタンを外した。歩いていると暑くなってきた。
( ^ω^)(暑いお……)
本当に今日は暖かい。コートの下から汗の熱気がムンと噴き出してきて、まるで春みたいだ、とブーンは思った。
(´・ω・`)「そういえば、昨日の芸能ニュースを見たかい? あのグラビアアイドルが結婚するらしいじゃないか」
('A`)「おー、知ってる知ってる。MEGUKOだろ? 俺、けっこうお世話になってたんだけど、これからは人妻かあ」
( ^ω^)「それはそれでなかなかの色気を持つと思うお」
ξ゚听)ξ「ふーん」
ここからブーンの住む孤児院まで歩き、3人は別々の道を往くことになる。
それがいつも通りの帰り道。ここ3年間、何度も通っている道だった。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:49:15.87 ID:gx1gBjB00
( ^ω^)「人妻には独身にはない魅力があるお」
(´・ω・`)「そうだね」
('A`)「そうだな」
ξ゚听)ξ「私にはわかんないわねえ、あんた達の気持ちが」
( ^ω^)「ツンも人妻になっても、色気を出すのはなかなか難しいお」
ξ♯゚听)ξ「……」
( ^ω^)「し、しまったお!」
地雷を踏んだブーンは、ツンが傘を振り上げるのを見て、手を頭にやって目を瞑った。
だが、衝撃はいつまでたっても来ない。
いつもは、3秒間の間に傘での打撃を5発ほど繰り出すツンなのに。
ブーンは不思議に思って目を開いた。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:49:51.75 ID:gx1gBjB00
( ^ω^)「……お?」
ツンとドクオ、そしてショボンは、みんな一方向を見たまま動いていなかった。
何か、驚いたような表情をしている。
なんだ?
ブーンも、彼らが見ている方向に目を向けてみた。
すると、そこには1人の男が立っていた。
男は無精ひげを生やした不潔そうな格好をしており、着ている茶色のコートは所々に穴が空いている。
だが、注目すべきところはその右手。
彼の右手には包丁が握られていた。
(´・ω・`)「あれは……最近この近辺に現れるという、痴漢じゃないか?」
('A`)「なんかやばいふいんきだな……」
ξ゚听)ξ「雰囲気でしょ、馬鹿……ねえ、逃げた方がいいんじゃない?」
男は笑っていた。
何が可笑しいのか、口の端を大きく曲げて「クックックッ」と喉を鳴らして笑っている。
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