( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:50:54.93 ID:gx1gBjB00
  

痴漢「お、女ぁ……見つけたぁ……」

(´・ω・`)「ま、まさか……」

('A`)「狙いは……」

( ^ω^)「ツンだお!」

ブーンの大声と共に、4人は一斉に反転して逃げ出した。
あれはまずい。きっと包丁で脅して、ツンを強姦するつもりだ。

そんなことはさせてはいけない。ここは逃げないと。
自分はもちろんのこと、喧嘩に強いドクオやショボンすら、あんな包丁を持った男を相手にするのは危険。
防衛本能とでも言うべきものが、逃げることを命じていた。

だが。

痴漢「逃がすかー!!」

(;゜ω゜)「うぐっ!」

男は猛スピードで走り出してきて、右手の包丁を振り下ろした。
それはブーンの右肩を大きく切り裂き、赤い血を噴き出させた。



  
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:51:58.31 ID:gx1gBjB00
  

(´・ω・`)「ブーン!」

('A`)「ちくしょう! やりやがったな!」

ショボンとドクオがブーンの前に立ち、男と対峙する。
しかし、武器を持つ者と持たない者では、明らかに後者が不利だ。
特殊な戦闘技術でも持たない限り、その間には越えられない壁が存在する。
それが分かっているはずなのに、それでもショボンとドクオは、ブーンを守るように男に立ちはだかった。

(´・ω・`)「ツンは早く逃げるんだ!」

('A`)「救急車呼んどいてくれ!」

ξ゚听)ξ「け、けどブーンが……」

(メ;ω;)「い、痛いお……痛いお……」

ブーンは右肩から生じる激痛のせいで、周りのことに気を配ることができなくなっていた。
滴り落ちる血。ぱっくりと開いた傷口。麻痺していく右腕。



  
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:52:51.08 ID:gx1gBjB00
  
全て夢の出来事のようだったが、絶え間なく生じる激痛が夢ではないことを証明していた。

(メ;ω;)「う、うぅ……」

(´・ω・`)「いいから早く! ブーンのことは任せてくれ!」

ショボンがそう叫んだ瞬間、狂気に満ちた男が再び包丁を高く上げた。
わずかに開けた目でその光景を見て、ブーンは感じた。

ショボンがやられる。

ショボンが、あのいつも優しく頼りになるショボンが、殺される。

ゾッとする感覚を覚えたブーンは、男が包丁を振り下ろす瞬間、「ショボン!」と叫ぶ。
叫んだ所でどうにもならないのはわかっていた。声だけで狂った男を止められるはずもない。
ショボンは殺される。そう確信した。

だが、その予想は見事に裏切られることとなった。

包丁はショボンには当たらなかった。

突如、男の頭が文字通り「消滅」したのだ。


包丁が地面に落ちて、カランという音を立てたのを聞いた。



  
58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:53:45.23 ID:gx1gBjB00
  



川 ゚ -゚) 「来た……!」

朝からコンビニ、喫茶店、映画館、漫画喫茶など、様々な所を転々としていること十数時間。
ついに、その「気」が現れたことを感知したクーは、思わず声を出してしまい、漫画喫茶にいる、他の客達の好奇の視線にさらされた。

クーは自分自身で大声を出したことを自戒し、急いでカウンターでお金を払って外へと出る。
読みかけの漫画は次までおあずけだ。
なかなか面白かったのが心残りだ。
銀色の髪をしたキャラに感情移入してしまうほど、読みふけってしまった。
後でまた買いに行こう。



  
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:54:33.94 ID:gx1gBjB00
  

川 ゚ -゚) 「む……思ったよりも強いな……」

外に出て、より明瞭に感じられる『気』の強さに、クーはまた所長の予想が外れたな、と上司を恨めしく思った。
あの人の言うことはいつも適当で当てにならない。信じたこっちが馬鹿だったか。

ちゃんとした武器を持ってくるべきだったと今になって思うが、もう遅い。

クーは周囲を見回し、何か役に立ちそうなものはないか探した。
漫画喫茶の横で何やらビルの工事をやっている。周りがブルーシートで囲われていて、中を覗いてみると誰もいない。
これは都合がいい。
クーはとりあえず工事現場の中に入って、武器の代わりになりそうな物を探した。



  
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:55:15.32 ID:gx1gBjB00
  

川 ゚ -゚)「ふむ……これでいいか。借りていくぞ」

誰もいないのだから、許可を取ろうと取らなかろうと意味はないのだが、まあこういうのは気持ちが大事なのだ。
言い訳? そんなことはない。「借りる」という気持ちは大切だ。後で返そうと思えるのだから。

さて、これからどうするか。
予言通りなら、きっと『彼』はピンチに陥っているはず。おそらく今でもひしひしと感じられる『気』の発生源に襲われていることだろう。

もしそうなら、守らなくてはならない。それが自分の仕事だ。

『彼』の気配がいまだに感じられないのが少し気がかりだが……あちらに行けば見つかるだろう。
でなければ、予言が成り立たない。

川 ゚ -゚) 「よし、行くか」

だらだらとした思考を閉じて、クーは走り出した。

右手に「バールのようなもの」を携えながら。



  
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:55:59.28 ID:gx1gBjB00
  



それが何なのか分からなかった。
冬は昼が短く、すぐに夜がやってくるとはいえ、午後4時にもならない今はまだまだ外は明るい。
太陽の光は辺りを照らし、はっきりと周りを見渡すことができる。

だが、『それ』は見えなかった。
その周りだけ夜だと錯覚してしまいそうになるほど、『それ』の身体は黒かった。
いや、身体の輪郭すらはっきりとせず、まるで黒いベールに覆われているかのようだったのだ。

正体不明。目的も不明。何かもが不明。
はっきりと分かることは、この黒い『それ』が痴漢男の頭を消滅させたということだけだった。



  
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:56:46.09 ID:gx1gBjB00
  

(´・ω・`)「な、なんだい、これは」
('A`)「俺が知るかよ……」
(メ^ω^)「お、お……」
ξ゚听)ξ「……こっち見てるわよ」

『それ』がこっちを見ている。

目も口もどこにあるか分からない『それ』だったが、本能的にこちらを見ていることは理解できた。

そして、『それ』が……襲ってくるであろうことも。

その圧倒的なプレッシャーを感じたブーン達の間に、言葉はいらなかった。
今やるべきことはひとつ。

ただ『逃げること』だけ。

言葉を交わすことなくとも、この圧倒的な恐怖を感じれば、人というのは逃げることしか考えられなくなるものだった。
それは一度でもそういう恐怖を経験すれば、わかること。

ドクオとショボンが両肩を抱えてきて、ブーンは立ち上がった。

『それ』に背を向けるようにして反転し、ツンを先頭にして急いで走り出した。

逃げなくてはならない。『それ』から。

4人の頭を支配しているのはそれだけだった。

だが、



  
64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:57:54.88 ID:gx1gBjB00
  

ξ゚听)ξ「ヒッ!」

『それ』は一瞬にして目の前に移動したのだ。
さっきまで後ろにいたはずなのに、信じられないスピードで――いや、まるで消えて、また現れたかのように、ツンの目の前に立ちはだかったのだ。

その瞬間に感じられる、未曾有の殺気。
それを受ければ、自分達の全てが否定されてしまうぐらいに強烈な「存在否定」の念。

(´・ω・`)「危ない!」

ショボンがツンに飛びかかり、2人して身を伏せた。
一瞬後、『それ』の腕らしき長いものが2人の上を通り過ぎ、近くに立っていた電柱に当たった。
コンクリートで出来ているはずの電柱は、まるで木の棒のように見事にへし折れた。

(;'A`)「なんだよあれ……」

『それ』が振るった攻撃を喰らえば、自分達の身体などぐちゃぐちゃにされてしまうだろう。きっと、原型をとどめることすらできない。

何とか逃げないと……でも、どうやって?



  
65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 17:58:43.17 ID:gx1gBjB00
  

肩の痛みが痺れに変わってきて、なんとか自分を取り戻すことができつつあったブーンは、何か方法はないかと自問自答した。

走って逃げる? 駄目だ。また目の前に現れてくるだけ。
倒す? 電柱をへし折るような正体不明なものと? 無理だ。

何か方法は……方法は?

考えるブーンだったが、『それ』はそんな時間など与えてくれなかった。
またあの強烈な殺気が感じられたかと思うと、すさまじいスピードで『それ』の腕らしきものが振るわれた。
その目標は、ショボンとツン。

友達が……殺される!
先ほど痴漢男が包丁を振るった瞬間に感じた『失くす恐怖』を再び感じたブーン。
叫ぼうとするが、声も出ない。
身体を動かそうとするが、肩の痺れが全身に回ってきて動けない。

駄目だ……駄目だ!



  
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:00:07.89 ID:gx1gBjB00
  

「はぁっ!」

声が聞こえた。

だが、それより先に目の前の光景への驚きが頭を支配していた。

細身の女性が、両腕に持つ「バールのようなもの」で『それ』の腕を受け止めていたのだ。

川 ゚ -゚) 「くっ……」

『それ』の腕を止めている女性が小さく声を上げる。
すさまじい力がその両腕にかかっているのだろう。ギリギリ、という競り合いの音が聞こえてきそうだった。

川 ゚ -゚) 「き、君たち」

女性が背中越しにこちらに目をやる。
返事をしようとしたが、声が出ない。ショボン達も同じようだった。

川 ゚ -゚) 「早く……こ、ここから逃げろ!」

そう叫ぶと同時に、女性は受け止めていた黒い腕を上に跳ね上げ、『それ』の胴らしき場所に大振りの一撃を喰らわせた。

『それ』が一瞬だけひるむ。



  
69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:01:13.96 ID:gx1gBjB00
  

(´゚ω゚ `)「あ、あなたは……?」

ξ゚听)ξ「な、なんなの? 誰?」

川 ゚ -゚) 「話している暇はない! 早く逃げろ!」

だが、『それ』が体勢を立て直すのはすさまじく早かった。
腕を天に掲げたかと思うと、今までとは段違いのスピードでそれを振り下ろしてきた。
女性はなんとかそれを受け止めたが、得物がもたなかった。「バールのようなもの」は真っ二つに折れてしまった。

女性の頭から一筋の血が流れる。一撃を喰らってしまったらしい。

川 ;゚ ?゚)「くっ……これでは工事現場に返すことができないではないか」

何やら悪態をついた女性は、周りをキョロキョロと見回し始めた。
何かを探しているのだろうか? ブーンはそう感じた。

川 ゚ -゚)「そこの君!」

女性が声をかけたのはツンだった。

ξ゚听)ξ「え、え? 何?」

川 ゚ -゚) 「その傘を少し貸してくれ!」

ξ゚听)ξ「え? ど、どうして?」

川 ゚ -゚) 「いいから早く!」



  
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:02:03.06 ID:gx1gBjB00
  

ツンは女性の言葉に従って、持っていた赤い傘を女性に放り投げた。
受け取った女性は傘を左手に持ち、一瞬だけ右手を全体に擦り当てる。

川 ゚ -゚) 「よし……!」

女性は満足したように頷くと、攻撃の反動で態勢が崩れている『それ』に一撃を与えた。
不思議なことに傘は曲がりもしなかった。強風で折れるような強度しか持っていないのに。

川 ゚ -゚) 「はぁあ!」

気合の声と共に繰り出される連撃。
頭、胴、腕、足……様々な場所に繰り出される連続攻撃に、『それ』は徐々にひるみ始めた。

倒せるかもしれない。もしかしたら。

ブーンは心の中でその女性を応援した。いける。絶対に。あんな強い女性ならきっと倒せる!

しかし、ブーンは見てしまった。
『それ』の黒い身体が女性の後ろまで伸びていき、彼女の背中に強烈な一撃を浴びせたのを。

川 ゚ -゚) 「くはっ!」

女性の身体が揺らぐ。
『それ』はその隙を逃さず、女性の側面へと腕を振う。
防御する暇もなく、女性は吹き飛んだ。
道路の壁へと打ち付けられ、コンクリート状のそれが少しへこんだ。

傘も折れてしまい、女性は「うぅ……」と呻き声をあげるが、立ち上がることはできなかった。



  
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:02:54.68 ID:gx1gBjB00
  

(メ゚ω゚)「あ、あんな強い人が……」

勝てると思っていた。
自分が立ち向かうこともできなかったほどの恐ろしい相手に、ひるむことなく向かっていた。『それ』の一撃を何度も受け止め、反撃の手数を大量に繰り出していた。

なのに、女性は壁に吹き飛ばされ、もう動けなくなっていた。

(メ゚ω゚)「あ……あぁ……」

(´・ω・`)「くそ! 逃げるぞ! みんな!」

('A`)「立てブーン!」

ξ゚听)ξ「は、早く!」

(メ゚ω゚)「あああああ……」

何か声が聞こえる。何を言ってるんだろう? 聞こえない。いや、聞こえるけれども意味がわからない。

『それ』がこちらを向いた。分かる。顔も腕もわからないけれども、そいつの殺気だけは感じられる。

来る。自分を殺しに。

肩が痛い。怖い。逃げたい。けど方法が分からない。
なんなんだ、あれは? 怖い。ここから離れたい。怖い怖い怖い怖い怖い……!



  
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/14(土) 18:04:33.82 ID:gx1gBjB00
  
川 メ゚ -゚) 「くっ……に…げろ」
(´・ω・`)「ブーン!」
('A`)「ブーン!」
ξ;凵G)ξ「ブーン!」

また何か聞こえた。誰だ? 誰かが泣いている。女の子? わからない。怖い。恐怖しか今は感じない。

何かがこっちにやってくる。怖い。そうだ。僕を殺しにやってくるんだ。
僕の存在を否定するものが、僕を消しにやってくる。
消える? 怖い。消えるのなんて嫌だ。消えたら何も残らない。僕が僕でなくなってしまう。僕が否定されてしまう。

嫌だ。怖い。怖い。怖い。来てほしくない。来るな。

来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな

(メ゚ω゚)「あああああああああ!」

『それ』が来るのを拒むかのように、両の手の平を前に突き出すブーン。

突如、手の平に何か温かみを感じた。

そこからの記憶はブーンの頭の中に存在しない。


手の平からサッカーボール大の光の弾を出して、『それ』を消滅させたことなど、彼は覚えているはずもなかった。


第2話 完



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