( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
24: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:43:14.85 ID:Sxst+Bdv0
  
1回、2回とコール音が鳴り響く。

( ^ω^)「は、早く出てくれお!」

ブーンは慌てて叫ぶ。

( ,,゚Д゚) 「おら! おら!」

男は相変わらず弓を引いているが、『影』はどれだけ矢が当たっても倒れることはなかった。
それどころか、徐々にこちらに近づいてきている。

3回、4回とコール音。
近づいてくる『影』に、ブーンは恐怖した。

5回、6回。

( ^ω^)「クーさん! 頼むお!」

7回、8回。
『影』は矢が刺さっていても、平然とこちらに向かっている。
自分達との距離はもう、20メートルほどしかなかった。

9回、10回。

(;^ω^)「クーさん!」

11回。
唐突にコール音が途切れ、携帯電話は通話状態に変わった。

『今行く』



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:45:01.64 ID:Sxst+Bdv0
  

そんなクーの声とほぼ同時に、『影』の後ろに1台の赤いバイクが飛び込んできた。
『影』の横を猛スピードですり抜けると、自分達の目の前で急ブレーキをかけ、車体を横にして止まる。
静かな公園にそぐわないエンジン音が、辺りに響き渡る。

バイクに乗っていたライダーがヘルメットを取った。

川 ゚ ?゚) 「待たせたな」

長い黒髪をたなびかせ、黒いライダースーツに身を包んだその人物は、まさしくクーだった。
かすかな笑みを浮かべ、へたり込んでいるこちらを見下ろしてきた彼女は「もう大丈夫だ。安心しろ」と言って手を差し出してくれた。

ブーンはその手を掴んで立ち上がろうとしたが、腰が抜けたままではそれは叶わず、そのままの体勢でクーを見上げた。

( ^ω^)「ど、どうしてこんなに早いんだお」

川 ゚ -゚) 「細かいことは後で話そう。今はあいつを倒すのが先だ」

そう言ってクーは、バイクの側面にかけていた棒状の何かを取り出して、『影』の前に立った。

その後姿は非常に頼りになるものであり、ブーンは一瞬にして身体の緊張が解けていくのを感じた。

よかった、これで助かる。



  
26: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:46:48.04 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「てめえ、誰だ!」

弓矢を間断なく放ちながら、いきなり自分の隣に立ったクーに対して、男が威圧感のこもった声で言った。

川 ゚ -゚) 「今そんなことを話している時間はないはずだ。私が行くから、お前はその弓矢で援護をしてくれ」

( ,,゚Д゚) 「ああん? お前、見たことあるな。確かあのガキが『アンノウン』に襲われた時に一緒にいた奴だな?」

川 ゚ -゚) 「……」

( ,,゚Д゚) 「はっ! 忠告しとくぜ、あの程度の奴を倒せないなら引っ込んでな!」

男がそう言い放つと同時に、『影』がこちらに突進してきた。
右腕らしきものがクーへと伸びていく。これは以前、彼女がやられたのと同じ状況だ。

危ない、とブーンは叫ぶ。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:49:06.00 ID:Sxst+Bdv0
  

だが、以前のようにやられはしなかった。
クーは手にしていた棒状の物――日本刀の柄を握ると、鞘から一気に刀を引き抜いた。

その刃は見えないほどの速度で振りぬかれ、『影』の腕を一閃する。

一刀両断された腕が地面に落ちた。

( ^ω^)「……」
( ,,゚Д゚) 「……」

その一連の動作を流れるように行ったクーは、再び刀を鞘に戻しつつ、男に向かって無表情に言った。

川 ゚ -゚) 「私も忠告しておこう。あれが私の実力だとは思わないことだ」

( ,,゚Д゚) 「へっ! 上等じゃねえか! ゴラァ!」

そして、2人の共闘が始まった。

クーが『影』へと一直線に走り、その後ろから男が矢を放って援護する。
矢に気を取られて隙を何度も見せる『影』は、クーの刀によって的確に傷をつけられていく。

これならいける。
きっとこの2人が一緒に戦えば、あいつをやっつけられる。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:51:00.87 ID:Sxst+Bdv0
  

後ろの方からその戦いを眺めていたブーンは、いまだ動かない自分の身体を恨みつつ、2人を応援していた。

( ^ω^)(そうだお! クーさんが右から切って、変な人は左腕に矢を放って……!)

彼らの戦いに夢中になっていたブーン。
だからなのか、今目の前にある危機に気付けなかった。

クーによって切り取られた『影』の右腕……それが動いているのに気付いたのは、恐ろしいスピードでそれがこちらに飛来してきた時だった。

( ,,゚Д゚) 「しまった! まだ動けたのか!」

川 ゚ -゚) 「くっ! ブーン!」

2人の声もむなしく、ブーンは目前に迫る『影』の右腕を呆然と眺めていた。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:53:26.23 ID:Sxst+Bdv0
  

来る。自分を殺しに。
明らかに、こちらを狙っている。クー達の助けも間に合わない。

このままじゃ死んでしまう。

嫌だ。

そんなの嫌だ。

自分はまだ……明日の遊びの約束も果たしていない。まだ日常から離れたくない。
ツン達と、まだ一緒にいたい。

だから、死にたくない!

そう心の底から思ったブーンの目の前に、白い光が現れた。

( ゜ω゜)「お、お!?」

その光は自分を守るためにあるかのように思えた。
飛来する『影』の右腕に対して壁を作るように現れたそれは、腕の動きを止め、その衝撃を完全に吸収した。

白くて薄い光の壁……なんだ、これ?



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:55:27.07 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「ま、まさか本当にこのガキが?」

川 ゚ -゚) 「いまだ! その腕を撃て!」

( ,,゚Д゚) 「お、おう!」

光の壁が消え去ると同時に、男が『影』の右腕に矢を放つ。
見事に命中し、腕は砂のように分解して、消えていった。

一方、本体の方もケリがつこうとしていた。
ジャンプ一番、2メートルはあろうかという『影』のさらに上を跳んだクーが、そのまま刀を縦に振り下ろす。
縦一閃。身体の中心線をなぞるかのように見事に一刀両断され、『影』は霧のように消滅した。
見事なまでの切れ味だった。

( ^ω^)「……」

終わった……

静寂が戻った。
満月の浮かぶ空と、夜の空気の帯びた公園。
見えるのは頭がなくなった兵士の死体と、クーと男、そして何も変わっていない公園の風景だけ。



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:57:44.87 ID:Sxst+Bdv0
  

終わった。終わってくれた。
『影』は消えて、自分は助かった。
恐怖がなくなり、安心感がだんだんと体中を包んでいくのを感じた。ずっと抜けていた腰が元に戻り、ようやく立ち上がれる。

終わった……はぁ……

急に寒さが思い出されてきて、ブーンは場の雰囲気にそぐわないくしゃみをひとつした。

川 ゚ -゚) 「……」
( ,,゚Д゚) 「……」

クーが刀を鞘に納めて腰に差し、男が弓矢を懐へとしまいこむ。

その動きは非常にゆっくりだったけれども、次の動作はブーンには見えないほど迅速だった。

両者とも、懐に手を差し込むと拳銃を取り出し、それを右手に構えて一瞬の動作で互いの眉間に当てたのだ。

動かない2人。交わる腕。
互いに引き金に指をかけ、いつでも撃てる体勢を取っていた。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 00:59:52.06 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「……」
( ,,゚Д゚) 「……」

突如漂いだした緊迫した空気にブーンは戸惑い、「お?お?」と疑問の声をあげるしかなかった。
どうして2人は互いに銃を向け合っているのだろう?

川 ゚ -゚) 「……どこの組織のものだ?」

( ,,゚Д゚) 「それは俺の台詞だ。もっとも、予想はついているがな」

互いに険しい顔をしている2人。
先ほどの共闘の空気などどこへやら、お互いの正体について詮索をしているようだった。

川 ゚ -゚) 「……この少年はこちらが預かる」

( ,,゚Д゚) 「それもこっちの台詞だ。へっ、議論は平行線ってやつか?」

手の中の拳銃を強く握り締める2人。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 01:01:52.78 ID:Sxst+Bdv0
  

( ,,゚Д゚) 「こうなったら力づくでもいいんだぜ?」

川 ゚ -゚) 「……やめておけ、頭が吹き飛びたくなかったらな」

( ,,゚Д゚) 「なに?」

男が視線を外し、あらぬ方向へと目を向ける。
ブーンも同じ所へと目を移したが、そこには遠く見えるビルがあるだけだった。
何もいなければ、何の気配もない。

しかし、男の頬がピクリと動いた。明らかに何かに反応していた。

( ,,゚Д゚) 「……当てられるってか?」

川 ゚ -゚) 「ご想像通りだ」

そのクーの言葉を聞くと、男はふっと息を吐き、「……へっ、やめたやめた!」と素っ頓狂な声を出して銃を下ろした。

( ,,゚Д゚) 「割りに合わねえことはやりたくねえしな。ここは一旦引くことにするぜ」

肩をすくめて、銃を懐にしまいこむ男。
急に諦めた理由がわからず、ブーンはますます困惑した。

クーは無表情で立ったまま、男の動作をつぶさに観察していた。



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 01:03:56.57 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「……」

( ,,゚Д゚) 「まあ、いい。合理的に考えて、ここは引くのが一番だしな、ゴラァ」

川 ゚ -゚) 「お前、『ラウンジ』の人間か? それとも『赤坂』か?」

( ,,゚Д゚) 「……ま、そんなところだわな」

男は背を向けて、歩き出した。
さっきまでの緊張感はもう感じられず、男の背中は隙だらけだった。こちらが攻撃するなんて微塵も思っていないようだった。

クーも攻撃する気がないのか、その背中に何もしようとはせず、ただ見送るだけだった。

足音もしない中、ただ男の影だけが遠ざかっていく。

男の背中が闇に消える瞬間、「あ、そうだ」というのんきとも言える調子で男が背中越しに口を開いた。

( ,,゚Д゚) 「俺の名前はギコってんだ。よろしく頼むぜ」

川 ゚ -゚) 「なぜそれを言う。必要ないだろう」

( ,,゚Д゚) 「俺が言いたくなったからだよ。じゃあな」

男は消えていった。後には何も残さず、ブーンから見ても綺麗な去り様だった。



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 01:05:58.92 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「……」

ギコの気配が完全に消え去り、再び静寂が公園を支配した中。
クーがじっとギコが去った方向を見つめていたので、ブーンは話しかけるタイミングが分からなかった。

いったい何を考えているのだろう?
彼女の言葉の中にあった『ラウンジ』『赤坂』とはいったいなんなのか?
ギコの言葉にあった『アンノウン』という、『影』の別の呼び方らしきものは、いったい何なのか?
銃弾が効かなかったのに、ギコの矢やクーの刀はどうして効いたのか?

そして、自分が出した『光の壁』のようなものはいったい何なのか?

わからないことだらけで、クーには聞きたいことがたくさんあった。

( ^ω^)「クーさん……」

懇願するような声で彼女の名を呼ぶと、クーははっとした様子でこちらへと向きなおした。

川 ゚ -゚) 「あ、ああ、すまない。ぼーっとしていた」

( ^ω^)「これからどうすればいいんだお……?」

右も左もわからない中、ブーンはそう彼女に尋ねることしかできなかった。
クーは少し考えるような仕草を見せて、静かに答えた。



  
40: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 01:07:52.21 ID:Sxst+Bdv0
  

川 ゚ -゚) 「そうだな……とりあえず、また私達の所に来るか?」

( ^ω^)「あのビルかお?……やっぱり、行くしかないのかお?」

川 ゚ -゚) 「いや、君が行きたくないならそれでいい。だが……やはりこのまま外に居続けるのは危険だと思うのだが」

クーの言葉が、ブーンの胸の奥に深くのしかかった。

そうなのだ。自分のせいでこんな銃撃戦すら起こってしまった。
戦争もどきの行為をしていたとはいえ、兵士みたいな人たちは自分と関わったせいで死んでしまった

きっとこのまま普通に暮らしていると、もっと多くの人が傷つくことになるのだろう。
周りは変わっていなかったけれども、自分の運命は完全に変わってしまった。

異質なものがひとつでもあれば、その世界には綻びができる。
適材適所、人にはそれぞれ適した世界がある。

きっと、自分が行くべき世界はクー達の世界なのだろう。

ブーンはそう自問自答して、クーに決心の言葉を告げる。



  
41: ◆ILuHYVG0rg :2006/10/18(水) 01:10:23.00 ID:Sxst+Bdv0
  

( ^ω^)「行くお」

川 ゚ -゚) 「そうか……なら後ろに乗ってくれ。今回のことも含めて、現時点で私達が知っていることをあちらで全て話そう」

クーが予備のヘルメットを取り出して、ブーンに放る。
ブーンはそれをつけて、赤いバイクの後ろにまたがった。
クーもヘルメットをつけて、バイクの鍵を回す。
ブーンがクーの腰に手を回して安全を確保すると、バイクはゆっくりと出発した。

道中、クーからドクオ、ショボン、ツンに関しての話を聞いた。

彼らも自分同様、謎の誰かに襲われていたらしい。
なんとかクーの組織の人間が助け、3人とも怪我はなかったようだ。
彼らは自分と同じように保護され、今から向かうビルにいるとのこと。

その話を聞いたブーンはますます罪悪感を募らせて、自分以外の人間が傷つかないようにするためにはどうすればいいのだろう? と深く考えてみた。

だがどうにも答えは見つからず、ただクーの腰に手を回し、めまぐるしく変わっていく景色を眺めることしかできなかったのだった。

第5話 完



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