( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
5: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:15:21.66 ID:x+lVgNNR0
  
第9話

( ─ω─)「……お?」

真夜中。クー達のビルの一室。ベッドの上。
ブーンはなんとなく目覚めてしまった。

( ⊃ω^)(ツンとキスする寸前だったのに……なんてことだお)

目前まであったはずのあの顔。
あと少しで重なりあっていたはずなのに……あ〜、もったいない。

あの光景を思い出してはもだえ、落ち込むブーン。
ベッドの上で目を瞑り、今何時なのか確認しようとしてみる。

Σ( ^ω^)(か、身体が動かないお)

頭は働いているのに、身体が動かない。
まただ。また金縛りにあっている。

( ^ω^)(どういうことだお……ん?)

ξ゚听)ξ「……」

ツンがベッドの横に立っていた。
ブーンは驚いて、口をあんぐりと開ける。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:16:32.32 ID:x+lVgNNR0
  
別の部屋で寝ているはずのツンが、どうしてここに?

( ^ω^)「ツン、何をしてるんだお?」

ξ゚听)ξ「……」

喋らないツン。
なんだか雰囲気が変だ。いや、ツンツンとしている所は変わらないのだけれども、何かが違う。何だろう?

( ^ω^)(ま、まさか夜這いかお!?)

まさか……そんな!
だとしたら大歓迎だ!

そんなくだらないことを考えていると、ツンがツンツンとした表情で口を開いた。

ξ゚听)ξ「あんた、これからどうするの?」

( ^ω^)「……お?」

ξ゚听)ξ「あんたは何をして、どうやって生きるの?」

いきなりなんだ?
興奮した頭が冷めてきて、ブーンはツンの言うことを理解してみようとした。
だが、わからない。



  
8: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:18:32.71 ID:x+lVgNNR0
  

こんなこと、一度だって聞いてきたことはなかったのに、なんなんだ?

ブーンは意味がわからず、「お? ツン、どうしたんだお?」と尋ねてみる。
しかしツンはまだつっけんどんな口調で答える。

ξ゚听)ξ「どうしたもこうしたもないわよ。あんたの意志を聞いてるだけ」

( ^ω^)「どうしてツンがそんなことを聞くんだお?」

ξ゚听)ξ「どうしてって、私はあんたの従者なんだから、一応聞いときたいのよ」

『従者』?
聞いたことがあるぞ、これ。確か、夢の中のしぃが言っていた言葉じゃなかっただろうか?

ということは、もしかしてこのツンは……本物のツンじゃなくて、あの夢の中の謎の人物?



  
10: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:20:28.68 ID:x+lVgNNR0
  
( ^ω^)「もしかして、ま、前はしぃさんの姿で出てきた人かお?」

ξ゚听)ξ「ああ、あれね。元々あんたの心の中でかなりのウェイトを占めている人の姿で出てくるはずだったんだけど、
     あの時は彼女の治療の影響があったからああなっちゃったのよね。
     今は彼女もあんたの心の中で、けっこうなウェイトを占めているみたいだけど。
     まあ、こっちとしてはそれもゲシュタルトの具現化がやりやすいからいいんだけど、
     イドの肥大化が進んでいる上に不確定要素が膨大に増えてきているから、
     なかなか具現化された存在としての永続的存続が――」

( ^ω^)「あ、あの、言っていることがぜんぜん理解できないお」

ξ゚听)ξ「ああ、そうだったわね。あんたにはこの概念が行き届いてないのよね」

ツン(もどき)がため息をついて腕を組み、近くの椅子に座った。
なんだか、偽者にしてはやけに本物に似ている。呆れたようにこちらを見ている姿なんて、そっくりだ。



  
11: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:22:19.46 ID:x+lVgNNR0
  

ξ゚听)ξ「で、聞かしてよ、あんたの意志」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「これからどうするの?」

( ^ω^)「どうするって……」

ξ゚听)ξ「このままここにいるの? それとも、何かするの?」

ツンの表情が真剣めいたものになってくる。
ブーンは戸惑いつつ、けれども何度も自分自身に問いかけている質問を投げかけられて、考え込む。

何をするべきなのか?
何ができるのか?

けど、考えても考えても決まらない自分の意志を、今この瞬間に出せるほどブーンは頭の回転が速くなかった。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:24:05.39 ID:x+lVgNNR0
  
( ^ω^)「……決まってないお」

ξ゚听)ξ「そう」

ツンがそっけなく答えて、椅子から立ち上がった。話は終わりだ、とでも言いたげに。

ξ゚听)ξ「ならいいのよ。これからも考えればいいわ」

( ^ω^)「お? 聞きたいんじゃなかったのかお?」

ξ゚听)ξ「決まってないのに聞けるわけないじゃない」

正論だけれども、なんだか釈然としない。
あれだけ真剣に尋ねてきたことなのに……

ξ゚听)ξ「別にあんたに答えを強制してるわけじゃないわよ。
    言ったでしょう? 従者なのよ、私は。それでいてあんたのゲシュタルトであり、その鏡でもある」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「考えればいいわ、これから。私は道を照らすだけだから」



  
14: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:26:10.46 ID:x+lVgNNR0
  

しぃの姿の時と同じようなことを言っているが、やはりわからない。

何を言いたいのだろう? というより、この人はいったい何者だ?

と、急に額にやわらかい感触が広がった。

ツン(もどき)が手を額に置いているのだ。

( ^ω^)「……ツン?」

ξ゚听)ξ「さっきも言おうと思ったんだけど、それは彼女の名前でしょ? 私に名前はないわ」

なんだか眠くなってきた。
彼女の掌が眠りを誘っているかのようだった。

ξ゚听)ξ「あんたと私に、人の祝福がありますように……」

そのささやきと共に、ブーンは意識を手放した。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:28:17.23 ID:x+lVgNNR0
  


保護生活が始まって1週間が経った。

生活は以前と比べて激変した。前とはまるっきり違う生活だ。

まず住む場所が変わった。

今まで何度も訪れたビル――なんでも「VIP産業」という仮会社名義らしいが、そのビルの一室に住むようになった。
ここは住居も兼ねていて、キッチンや風呂も完備されている。住む場所としては完璧だ。
ショボン、ドクオとは同室で、ツンはクーと同じ部屋に住まわせてもらうようになった。

この生活に当たって、孤児院や家への連絡は全てクー達がやってくれた。どんな風に説明したのかは知らない。

1日の過ごし方も変わった。
基本的に部屋から出てはいけない。食堂に行ったり、風呂に入ったりする以外は、特別な用事がない限り部屋から出ることを禁止された。
まるで監禁されているかのようだったが、それが自分達の安全のために必要なのだと分かっているから、文句は言わなかった。

ただ問題なのは、1日中部屋に缶詰にされていると、本当に暇なことだ。
最初はドクオやショボン、部屋にやってくるツンとおしゃべりしたり、ゲームしたりしていたが、それもすぐに飽きてしまう。最近は一日中何もせずぼーっとしてしまっている。
たまにしぃさんが尋ねてきてくれて、一緒に遊ぶこともあるが、それも本当に「たまに」でしかない。



  
17: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:30:13.42 ID:x+lVgNNR0
  

最近は「少しは勉強もした方がいい」というツンの一声で、参考書を買ってきてもらって勉強もしていた。
もし高校に戻れた時のことを考えてのことだ。一応卒業はしたいし。

ちなみにこのことを狐に話したら、「う〜ん、学校のこともなんとかしよう」と言われた。なんとかするとは、どうするんだろう?

時々、部屋を出て内緒でビル内を探索したこともある。
始まりはショボンの「ちょっとここを探検してみたくない?」という一声で、ドクオがそれに強烈に賛同し、あまり乗り気ではなかった自分とツンも巻き込んで行われた。
もちろん、重要そうな部屋はバレる確率が高いので行かなかったが、例えば以前クーに連れて行ってもらった「剣道場」に入って、冗談交じりで稽古をしたりした。

このことは狐やクーもうすうす気付いているらしいが、注意してはこなかった。
それどころか、「剣の稽古でもやってみるか?」とクーに言われたほどだ。
きっと、こんな生活をしている自分達に同情してくれたのだろう。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:32:42.75 ID:x+lVgNNR0
  

一度、夜になってから部屋を抜け出してみたことがある。
昼間と違ってビル全体に人がおらず、楽しそうなものは何一つなかったが、ひとつだけ見てしまったものがある。

それは、偶然窓から外を覗いた時のこと。クーがこのビルを出て行くのを見たのだ。

ツンに聞くと、「毎晩、私が寝静まった後になると部屋を出て行くみたい」とのこと。
何か仕事の用事でもあるんだろうか? と思ったが、気にしてもしょうがないので、その時は夜の探索を続けた。
結局その日は何も面白いものは見つからなかった。

そして、探索も終わりに差し掛かってきた約2時間後、クーはこのビルに戻ってきた。

ボロボロの傷だらけの姿で、だ。

クーがこのビルに入ってきて、地下へのエレベータに乗る所で、その姿を目撃した。

驚きつつ、狐達の話を思い出して、自分達はなんとなく事情を察した。

この『VIP』という組織の目的は『影の殲滅』にある。
きっとクーは、夜の間に外に出て、『影』と戦ってきたのだろう。たぶん、いや、きっと。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:34:54.43 ID:x+lVgNNR0
  

そのことを翌日の朝、クーに聞いてみたら、彼女は困った顔をしつつも「そうだ」と答えてくれた。
毎晩毎晩『影』を倒すために日本を駆けずり回っているらしい。
傷は一晩で治っていて、しぃの力で治してもらったのだと、ブーンでもすぐにわかった。

それを聞いて、思った。なんて生活をしているんだろう、と。
きっと彼女は、夜は『影』と戦って傷つき、帰ってきたらしぃにその怪我治してもらい、また翌日の夜に戦うという行為を繰り返しているのだろう。

なんて辛いことを繰り返しているんだ、とブーンは思った。

『気』を使うことのできる人間は少なく、この『VIP』に属している使い手は、クーとしぃ以外には2人だけ。
しかもその2人は別任務を遂行中らしく、『影』を倒す役目はクーだけに押し付けられているといっても過言ではなかった。

クーの仕事は厳しく、それでいて成果がなかなか現れない。倒しても倒しても『影』は現れる。
いたちごっこ。その言葉が思い浮かび、ブーンは自分にも何かができないのだろうかと思っていた。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:36:33.99 ID:x+lVgNNR0
  

自分も『影』を倒す力を持っているのだ。正体不明で、まだぜんぜんコントロールできないけど。

そんな力を持っているのだったら、クーの仕事も手伝えるのではないだろうか?
自分にも何かできることがあるんじゃないか?

けど、その時ブーンはもうひとつの考えに捕らわれる。
怖い。戦うのは怖い。外に出れば、色々な人に狙われる。
力の使い方もわからない。
人や『影』と戦うことも、傷つけるのも嫌だ。

何かしたいけど、せっかくの平和なこの保護生活をやめて行動を起こすのが怖い。

けど、クーの手助けはしたい。

そんな堂々めぐりを繰り返していた。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:38:45.53 ID:x+lVgNNR0
  


保護生活が始まって8日目。

もうずいぶん慣れてしまった白くて硬いベッドの上で、ブーンは目覚めた。

( ⊃ω^)「んん……朝かお?」

(‘A`)「よぉ、ブーン。相変わらず起きるのが遅いな」

(´・ω・`)「昨日はお楽しみだったからかい?」

ドクオとショボンはすでに起きていて、部屋のソファに座ってトランプをしていた。

この部屋はアパート一室ぐらいの広さがある。
ベッドが3つにソファがひとつ。14型のテレビとエアコン、それに服等を入れるタンス。
全体的に洋風テイストなこの部屋は、もともと狐が趣味で作ったものらしい。

(‘A`)「朝食までまだ時間があるってよ」

ドクオがそう言うのを聞き、ブーンは壁にかけてある時計を見た。
9時すぎ。
朝食を取るにしては遅い時間だと思うのだが、食堂が開くのが9時からなので仕方ない。



  
24: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:40:48.58 ID:x+lVgNNR0
  

( ^ω^)「ドクオたちは何をしているんだお?」

ブーンはベッドから抜け出して、タンスから服を取り出し、着替えを始めた。
元からこの部屋に備えられていた白いパジャマを脱いで、長袖の黒いTシャツと白いトレパンに着替える。

(‘A`)「まあ、ちょっとポーカーやってるんだ。金がないから賭けはしてないけどな」

(´・ω・`)「僕は身体ごと払ってもよかったんだけどね」

(‘A`)「さすがに断る」

ドクオは上下紺色のジャージ、ショボンは白いYシャツと黒いGパン。
最近、2人はこの服ばかり着ている気がする。いや、自分も同じ服ばかり着ているけれど。

(‘A`)「暇だよなあ、何もやることがないってのは。ニートになれたらいいなあって前から思ってけど、ニートって毎日こんな生活してるんだろ? 
    ちょっと俺には耐えられないかもな。あまりにも暇すぎる」

(´・ω・`)「ニートにはインターネットという強い味方がある。ここにはそれがないから、もしかしたらニートより暇な人間かもね、僕達は」



  
25: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:42:36.33 ID:x+lVgNNR0
  

ニートより暇……それって、生きている価値があるのだろうか。

『人の子』だというだけで普段は何もしていない自分に、保護を受けるだけの権利があるのだろうか?

思考の堂々巡りに陥ってしまいそうになり、ブーンは頭を振った。そんなことを考えてばかりいては、ドクオ達に心配させてしまうではないか。

('A`)「どうする? お前も入るか?」

( ^ω^)「入るお。ベッドは今日の朝ごはんだお」

(´・ω・`)「ふむ、なかなかいいね。面白そうだ」

('A`)「賭けが絡めば、俺は負けんよ」

(´・ω・`)「坊やだね、君も。まだまだだ」

( ^ω^)「みんなの焼き魚はもらったお」

とりあえず、いつもどおりにしておこう。



  
26: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:44:21.42 ID:x+lVgNNR0
  



結局ポーカーは自分が負けてしまった。考え事をしながらのポーカーは負けやすいということを経験できて、まあよかった。

朝食の焼き魚は全部ドクオとショボンに取られてしまったが、ツンに少しおすそわけしてもらったので、なんとか腹を満たすことはできた。
ツン曰く「私、いつもここの朝食は多いと思ってたのよね」とのことだ。

それから、午前中はツン達と勉強をした。
参考書は3年のものを使っていたが、自分とドクオがあまりにも1,2年のことを忘れていたので、最近はツン自作の問題を解いて勉強を進めている。

彼女の教え方はスパルタ方式で、間違えれば罰としてハリセンで叩かれる。
ブーンも10発程度もらってしまった。ドクオはその倍以上だったけれど。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:46:25.57 ID:x+lVgNNR0
  

午後はフリータイム。
だが、ドクオの勉強が遅々として進まないため、ツン主催の「地獄のプチ合宿」という祭りが始まってしまい、
ドクオは部屋から一歩も出ることができなくなった。

ショボンもどうやら部屋でやりたいことがあるらしく、部屋に閉じこもりっきり。

仕方ないから、1人でビル内を探索してみることにした。1人で行くのは初めてだった。

探索といっても大したことはしない。ちょっと出歩いたり、物珍しいものを見たり……
この前は「メイド喫茶」なるものを見せてもらった。所長が趣味で作ったとか (1日後には閉店してしまったけど)。

ゆらゆらと、ビルの中をさまよう。

途中、狐と会った。彼は最近仕事に忙しく、あまり喋る機会がなかった。
その時も慌てた様子でビル内を走り回っていたので、ブーンは少し挨拶をするだけにとどめた。
「少しビルの中を見てみるお」と狐に言うと、「まあ、仕事の邪魔にならない程度にね」という返事をもらった。
なんだか最近は、ビルの探索を容認されている気がする。まあいいや。

今日は久しぶりに屋上に行くことにした。



  
28: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:48:03.34 ID:x+lVgNNR0
  


( ^ω^)「やっぱり屋上は寒いお」

このビルの屋上に立つことを許されたのは3日前のことだ。

それまでは、衛星や望遠鏡で自分の姿が見られてしまう可能性があったので、いっさい許されなかった。
しかし、なんとかお願いした所、「システムを使うから衛星はジャミングしておく。30分ぐらいならいいだろう」という狐の許しをもらった。

たった30分しか感じられない外の空気だったけれども、それで十分だった。
1日中部屋の中にいると、どうしても心も身体も澱んでしまう。新鮮な空気を浴びることが必要だった。

ブーンは思いっきり外の空気を吸い込んだ。気持ちいい。

屋上にはパラボナアンテナや貯水装置などの設備がある。
それらを除けばほぼ平らな屋上の地面。コンクリートで固められており、試しに寝転んでみると冷たかった。
冬の風が温度を下げていた。

上着を着てくればよかった、というのは今になって気付いた。
けど、今日は太陽が出ているので、日向に行けば暖かかった。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:49:37.31 ID:x+lVgNNR0
  

(*゚∀゚)「あれ〜? 君、どっかで見たことあるぅ〜?」

声をかけられて、初めて後ろに人がいることに気がついた。

こちらを見て笑っている、車椅子の女性……確か、しぃの姉の「つー」だ。
初めて会った時の印象が深く残っており、ブーンはすぐにその名前を思い出した。

( ^ω^)「しぃさんのお姉さんで、確かつーさんだったかお?」

(*゚∀゚)「あ〜、光ってるねぇ、君ぃ。そうかそうか。君もまたここにいるんだねえ」

( ^ω^)「そんなに光ってるのかお?」

(*゚∀゚)「あれぇ? 今日はそんなに寒くないねぇ」

話が噛み合ってない。
やはり以前の印象どおり、つーは精神病の気があるようだった。

車椅子を動かしてこちらの横に移動するつー。
外は寒いのに大丈夫だろうか? ひざかけはかけてあるけれども、上はパジャマ1枚だ。

つーはゆらゆらと頭を揺らしながら、満面の笑みを浮かべていた。



  
31: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:51:41.86 ID:x+lVgNNR0
  

(*゚∀゚)「光ることは大事だよぉ〜、だって君はパプテスマを受けたんだからぁ」

( ^ω^)「……前もそんなこと言ってたけど、パプテスマってなんですお?」

(*゚∀゚)「パプテスマはパプテスマだよぉ、光が弱いねぇ」

( ^ω^)「いや、だからそのパプテスマの意味がわからないんですお」

(*゚∀゚)「光はねぇ、世界を導くと同時に世界を決定するんだよぉ。
   『人の子』はそのための存在でありぃ、パプテスマを受けた存在なんだからぁ」

やっぱり意味がわからない。
なんだかこんな意味のわからない台詞をどこかで聞いたような気がする。
確か、夢の中のしぃやツンも、こんなことを言ってたような。

( ^ω^)「それはどうやって知ったんですお?」

(*゚∀゚)「知ってる知らないは関係ないんだよぉ? ねえねえ、こんな歌知ってる?」

いきなり、つーは歌いだす。
今までの喋り方とは段違いに明瞭で、それでいて綺麗な声で。



  
32: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:53:00.30 ID:x+lVgNNR0
  

 そうだ うれしいんだ 生きる喜び
 たとえ 胸の傷が痛んでも
 ああ アンパンマン 優しい君は
 いけ みんなの夢 守るため



  
33: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:54:26.88 ID:x+lVgNNR0
  

( ^ω^)「アンパンマンの歌かお?」

(*゚∀゚)「そうだよぉ。知ってるのぉ? 私、全部歌えないんだよねぇ。あと歌えるのはこんだけ〜」

 忘れないで夢を こぼさないで涙
 だから 君は飛ぶんだ どこまでも

( ^ω^)「……」

(*゚∀゚)「ねえねえ、知ってるぅ? この先、知ってるぅ?」

つーに問い詰められて、ブーンは仕方なくアンパンマンの歌を思い出してみた。
幼稚園の頃はよく見ていたけれど、高校生の今となっては歌なんてうろ覚えだ。
それでもなんとか思い出して、ブーンは口を開いて歌ってみた。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:56:27.73 ID:x+lVgNNR0
  

 何のために生まれて 何をして生きるのか
 わからないなんて そんなのはいやだ

 今を生きることで 熱い心 燃える
 だから 君は いくんだ ほほえんで

 そうだ うれしいんだ 生きる喜び
 たとえ 胸の傷が痛んでも
 ああ アンパンマン 優しい君は
 いけ みんなの夢 守るため

( ^ω^)「確か1番はこんな感じだったはずですお」

(*゚∀゚)「へぇ〜へぇ〜。覚えられるかなぁ。あとでしぃに書いてもらおうかなぁ。
    アンパンマンは強いよねぇ、うん、光ってるよねぇ」

( ^ω^)「アンパンマンも光ってるのかお?」

(*゚∀゚)「やだなぁ〜、アンパンマンだよ? 光ってるわけないじゃない〜」



  
35: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:58:49.25 ID:x+lVgNNR0
  

話が一貫していない。
ブーンは次々と変わっていく話題についていけず、つーの会話を聞いているふりだけして、考え事することにした。
こちらが聞いてないことがわかってないのか、つーはずっと1人で喋り続けている。何を喋っているかはよくわからない。

アンパンマン、か。
アンパンマンは正義の味方だ。悪者のバイキンマンのいたずらを阻止するために、日々空を飛び回っている。
友達や街の住人を守るために日夜戦い、それでいて弱っている人も助ける。

なんだかすごい人物――いや、パンだから人間じゃないのだけれども、そうやって戦えるということをすごいことだと思う。
守るべきものを守り、倒すべきものを倒す。
彼はきっと、自分の力の使い道というものをきちんと分かっているのだろう。

(*゚∀゚)「あれぇ? 光弱くなってきたぁ?」

( ^ω^)「お?……太陽が隠れてきたお」

今までさんさんと輝いていた太陽だったが、だんだんと雲が出てきて太陽を隠してしまった。今はもう、太陽はすでに見えなくなっている。

突然、冬の風が身体中に染み渡ってきて、ブーンは身体を震わせた。



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