( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:44:06.43 ID:uW8qhbnE0
  
第17話

夜=怖い
それは特に夜に慣れない人がそう思うことだろう。
夜をいつも家の中で過ごしている人にとっては、暗くて静かで、誰が何をしているかわからない外の夜は怖いものだろう。

今の時勢では特にそうだ。
犯罪者があふれ、所々から奇声が聞こえ、テレビ番組では「夜には出歩かないようにしましょう」という異例とも言える警報が出されるこのご時勢。

普通の人なら、こんな時に外に出ようなんて思わないに違いない。
いるとしたら、仕事で仕方なく出ている人、もしくは犯罪者だけだ。

そして、自分は前者だと言える。

( `ω´)「おおおお!!!」

闇の中で白い輝きを浮かび上がらせる『剣状光』を手にし、勢いよく走り出すブーン。

『影』がその腕を振り下ろしてくるのをサイドステップで避け、足部分へと刃を横に薙ぐ。

( `ω´)「まだだお!」

体勢が崩れた『影』の身体に手をあて、『光弾』を発射。
ゼロ距離から放たれたそれを『影』が避けられるはずもなく、胸に大きな風穴が開けられた。



  
4: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:46:06.54 ID:uW8qhbnE0
  

だが、ブーンはまだ攻撃を止めない。

光を帯びた右足で『影』を蹴り上げ、落ちてくるそれを『剣状光』で連続して切る。切る。切る。切る。

( `ω´)「はぁああ!」

最後に巨大な『光弾』を浴びせるブーン。
その光は『影』の切り刻まれた身体を覆い尽くし、完全に消滅させた。

完全な勝利。圧倒的な力。

( ^ω^)「はぁ、はぁ……」

川 ゚ -゚) 「ブーン……」

今日も『影』退治のパートナーしてついてきたクーが、心配そうな顔でこちらを見ていた。
ブーンはそれを見て不思議に思う。

なぜそんな顔をするんだろう? 完璧に勝ったじゃないか。

『剣状光』を消したブーンは、息を整えつつ、「クーさん」と彼女に声をかけた。

( ^ω^)「次はどこだお? 早く移動しないと、時間が足りないお」

川 ゚ -゚) 「ブーン……やめておけ。もうこれで5体目だ。それに、『影』の気配は感じられなくなった」

(♯^ω^)「大丈夫だお! 僕はまだまだやれるお!」



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:48:41.02 ID:uW8qhbnE0
  

ブーンは辺りを見渡し、空を見上げた。

ここは都内のビル街の裏道。かつては夜の店が立ち並び、多くの人が一夜限りのお楽しみを興じていたその街並は、いまや完全に廃れていた。
「飲食店やコンビニなどの店舗全ては、午後10時以降の営業を停止すること」。
そんな政府からお達しが下り、いまや日本全国、夜の光というのは見られなくなった。一部の許可証をもらっている店以外は、全て夜の営業を停止していた。

そのため、夜中の午前2時を回った今となっては、この裏道にもまったく人影がない。
街灯がきらめいているだけで、まるで田舎の商店街のようにも見えた。

( ゜ω゜)「……いるお」

空を見上げていたブーンは、目を見開いて小さく呟いた。

川 ゚ -゚) 「何がだ」

( ゜ω゜)「『影』だお! こっちだお!」

ブーンは走り出した。



  
8 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>5 おkwww] 投稿日: 2006/11/18(土) 23:50:30.55 ID:uW8qhbnE0
  

ブーンは『影』の気配を完全に掴んでいた。

以前はできなかったのに、どうして今はできるのか?

そんなことはどうでもいい。今は『影』を殲滅させることが1番大事なことなのだ。

自分の大切なものを、これ以上傷つけさせないため。
自分の大切なものを、敵から守るため。

自分は戦わなくてはならない。たとえこの身体が朽ち果てようとも。

『影』の姿が見えて、ブーンは『剣状光』を握り、『光弾』を放出した。

( `ω´)「おおおお!!!」

あのラウンジ教での出来事から1週間。

ブーンはこの1週間で、すでに50体以上の『影』を消滅させていた。





  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:53:18.21 ID:uW8qhbnE0
  



ラウンジ教の施設が崩壊、壊滅してしまったあの事件。
建物は、中にあった爆弾のせいが何らかの理由で暴発し、そのため大爆発を起こして消滅した、ということにされていた。
もちろん、『VIP』側の情報操作の結果だ。

ニュースではそれが大々的に報道された。
もちろん、爆発物製造・所持の疑いが強かった全国のラウンジ教の施設は残らず捜査され、幹部や信者は8割方逮捕された。
ラウンジ教は実質壊滅状態となり、モララー教祖は行方不明と報じられた。

『VIP』とラウンジ教の兵士が戦争をしていたり、ブーンという少年が人質にとられていたことなどは、情報操作で完全になかったことになっていた。

あくまで、『ラウンジ教が爆発物の取り扱いを誤り、そのために施設が消滅した』という偽の事実を、報道各局は報じていた。

しかし、国民にとってそのニュースは非常にショッキングなことであり、昨今の治安の悪化と合わせて、首相官邸や国会議事堂で小規模なデモが起こったりした。
治安に関する対策を進めるように、という要求を行った市民団体だったが、
それはあまりにも小規模なもので、政治に影響を及ぼすことはなかった。

大半の国民は、ショックを受けながらも不安を抱えたまま事態を静観しているだけだったのだ。

それが今のこの国の現状だった。良い悪いは別として。



  
11: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:55:41.31 ID:uW8qhbnE0
  

一方、『VIP』ではラウンジ教の内部について詳しい調査が行われていた。

もちろん、モララー教祖の行方を捜すためでもあるし、ラウンジ教がこれ以上の暴挙に出ないようにするためでもあるが、もうひとつ理由がある。

それは、ある日の定例会議における、クーとブーンの言葉がきっかけだった。

川 ゚ -゚) 「ラウンジ教がブーンをさらったのならば、ギコはどうして誘拐現場にいたのか?
      『赤坂』に所属しているのではなかったのか?
      それに、ツンのことやC4のことを教えてくれた電話相手は誰だったのか?」

( ^ω^)「ラウンジ教の施設で優しい人に会ったお。ジョルジュって言う人だったお。その人は見つかってないのかお? その人かもしれないお」

川 ゚ -゚) 「ジョルジュ……?」

その名前を聞いた途端、クーの顔色が変わり、狐が慌てた様子で立ち上がったのを、ブーンは覚えている。

そして、それについては調査する、という狐の言葉と共に、会議は終了し、それからラウンジ教に関しての一斉調査が開始されたのだ。

まだこれに関する新しい情報は寄せられていない。
ぃょぅを中心に、莫大なお金をかけた諜報活動が展開されているようだったが、それがどこまで進んでいるのかブーンには知りようがなかった。

ジョルジュにいったい何があるのだろう? とブーンは思っていた。

そして、彼がもし見つかったら、1度お礼が言いたいな、とも思っていた。
彼はあちらでの恩人なのだから





  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/18(土) 23:58:30.64 ID:uW8qhbnE0
  



――昼 『VIP』のビル

ついさっき自分の部屋で目を覚ましたブーンは、疲れてなかなかベッドから出ようとしない身体を無理やり起こし、廊下を歩いていた。

12月も下旬にさしかかり、今年の冬は最盛期を迎えていた。
窓には結露が発生し、少し開けてみると冷たい風が部屋に舞い込んでくる。そんな時期。

ビルは暖房完備なので寒くはなかったが、暖房特有のぬるい空気が身体にまとわりつき、だるい。

しかし、そんなことは言ってられない。昨日の仕事は満足いく結果にはならなかったから。

午前11時。昼時とも言える時間。
ブーンは重い足取り食堂に向け、とぼとぼとカウンターに立つ。
食堂には昼食を食べるスタッフの姿がちらほらと現れ始めている。

ブーンは今日始めての食事を鮭定食に決めて、料理をもらい、一人でテーブルに座った。

( ^ω^)「はむはむ! モフ!」

周りの人「きめぇwwww」

今の季節は鮭がおいしい、ような気がする。
確か冬に産卵するんだったっけ? いや、夏か? 
なんにしろ、鮭が大好物の自分にとっては、これでご飯10杯はいける。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:01:08.97 ID:gaCMsGwV0
  

狐「お〜、ブーン君、食べてるねえ」

( ^ω^)「狐さん」

手にコーヒーカップを持つ狐が、ブーンの目の前の席に座った。
いつものスーツ姿ににこやかな笑みを浮かべている彼は、しかし疲労の色が見え隠れしているように思えた。
精神も少し疲れているようだ。

ブーンは直感的にそう思った。

( ^ω^)「疲れてるお?」

狐「そうかい? まあ、君の方が疲れるはずだけど。毎晩毎晩仕事づめじゃあ、身体を壊すよ?」

( ^ω^)「それが僕のやるべきことだお」

狐「そうか」

最後に味噌汁を一気飲みして、今日の朝食を終了。

心配そうな顔でこちらを見てくる狐には気付かないふりをし、ブーンは席から立ち上がる。



  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:04:13.79 ID:gaCMsGwV0
  

狐「あ、そうだ。ブーン君」

( ^ω^)「なんだお?」

狐「今日は夜の仕事がないんだ。その代わり、ちょっと話したいことがあるんだ。夜にね。
  午後11時ぐらいになったら、ドクオ君とショボン君を連れて、私の部屋に来てくれないかい?」

( ^ω^)「話したいこと、かお?」

狐「詳しくは夜に。あと、午後7時から会議があるから、それにも出席してほしい。
  ラウンジ教についての調査報告がまとまったから、君にも見てほしいんだ」

( ^ω^)「わかったお」

ブーンは今度こそ立ち去ろうと食器を片付けて全てプレートの上に乗せ、それを食器返却口に置いて、出口に向かって歩き出す。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:06:17.95 ID:gaCMsGwV0
  

狐「……ねえ、ブーン君」

また狐に呼び止められて、ブーンは振り返った。
狐はコーヒーメーカーの前に立ち、コーヒーのおかわりを淹れていた。

コーヒーが入っていくのを見つめながら、狐は言う。

狐「これからどこに?」

( ^ω^)「……特別治療区域に、だお」

狐「そうか……」

狐はそれ以上何も言わず、コーヒーが満杯に入ったカップを持って席に戻っていく。
その背中は非常に哀愁の漂うものであり、30代半ばとなる男というのは、みんなあんな背中をするのだろうか? と意味のない疑問を思い浮かべる。

ブーンはその後ろ姿をしばらく見つめていたが、すぐに踵を返して出口の扉を開いた。

さあ、行かないと。





  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:08:43.21 ID:gaCMsGwV0
  



特別治療区域は、このビルの3階にあてがわれた特殊な空間だ。

なぜこんな場所が『VIP』に? と以前から不思議に思っていた。

なぜなら、そこは政府の特殊機関としては珍しく、けが人や病気となった人を治療し、
必要とあらば入院まで受け入れるという、本格的な病院のような場所なのだ。

普通、防衛庁や大蔵省などの政府機関にこんな場所があるわけがない。
あったとしても『保健室』レベルのものであり、『VIP』のように手術室があったりMRIなどの最先端の機械があったりする所なんて皆無だ。

これに関して、狐に1度尋ねてことがある。『どうしてこんな場所があるのか?』と。
『VIP発足当初に色々あったんだ』というのが彼の答えだったが、どうにもよくわからないのが本音だ。
もしかして、狐が遊びで作ってしまったのだろうか? メイド喫茶なんて作っていた彼なら、それもありうるかも。

それはともかく、この特別治療区域には様々な医師が駐在し、様々な患者がいる。

例えば、つーの精神病を治療しているのもここの医師だったりする。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:11:22.09 ID:gaCMsGwV0
  

つーは最近、病状が悪化してきたらしく、こっちが話しかけても答えないことが多くなった。
時々、アンパンマンの歌を口ずさむことがあるようだが、しかし意思疎通はほとんど不可能で、しぃが悲しそうな顔で看護している姿が廊下で見受けられる。
特別治療区域の医師は、どんな薬を使っても一向によくならないつーの病状に、頭を抱えているとか。

なら、きっともうひとつ頭を抱える懸案事項が増えたことだろう。

彼女がここで治療を受けているのだから。


ブーンは特別治療区域のひとつの部屋の前に立った。
そこには見知った人物の名前の札が掲げられており、ブーンは迷わずその扉を開く。

白い壁と蛍光灯の光。そして、薄いピンクのカーテン。白いベッド。

そして、自分にとってかけがえのない存在が、ベッドに座ったまま窓の外を見つめていた。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:13:34.67 ID:gaCMsGwV0
  

ξ 凵@)ξ「……」

( ^ω^)「ツン……おはようだお」

ξ 凵@)ξ「……」

( ´ω`)「……今日はりんごを持ってきたお。あとで剥いてあげるお」

ツンは何も答えてくれない。
虚ろな目で窓の外を見つめているだけ。
いや、見つめてはいないのかもしれない。
彼女の目がたまたま窓の外に向いているだけで、彼女は何も見ていないのかもしれない。

彼女の心はいまだ感じられない。
意思を持つ人ならば、絶対に何かしらの心を持っているはずなのに、彼女はまるで「物」のように心を持っていない。

そうだ。彼女はすでに「者」ではなく「物」になっている。

ξ 凵@)ξ「……」

( ´ω`)「昨日はいっぱい戦ってきたお。このまま続ければ、きっと平和になるお」

ξ 凵@)ξ「……」



  
24: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:15:43.09 ID:gaCMsGwV0
  

『彼女の自我は完全に破壊されています』

ここの医師は、ツンを初めて診た時、そんなことを言っていた。

ラウンジ教で彼女に使用された薬は、様々な麻薬を調合した新薬であり、
脳の機能をほとんど停止させ、「ある一定の人物の声を聞いた時のみ、限定的に脳の機能が回復する」というものだったようだ。

しかし、時間が経つにつれて「声による回復」は効果をもたなくなってくる。
最後には脳における最小限の生命維持活動を司る部分以外は、完全に破壊されてしまうのだという。

最初聞いた時は信じられなかった。きっと彼女は治るものだと思っていた。
けど、何度もその医師から説明を受け、実際に回復しないツンを目の当たりにし、しぃの治療すら効果がないとわかると、絶望した。

彼女はもう、自分の心を取り戻すことはできない。
言葉を発せず、動きもせず、ただ心臓を動かして呼吸するだけの存在。

それを、はたして『人間』と呼べるのか?



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:17:54.69 ID:gaCMsGwV0
  

( ´ω`)「……ツン、去年の春にお花見に行ったことは覚えてるかお?」

ξ 凵@)ξ「……」

( ´ω`)「ショボンがお酒を持ってきちゃって、間違えてそれを飲んだツンが、だれかれ構わずに絡んでいっちゃった時だお」

「あんなことは思い出させないでよね!」というツンの返事は、もう聞けない。

( ´ω`)「その前の春は、2人だけでお花見に行ったお。ドクオとショボンに用事ができて、仕方なくだったお」

ξ 凵@)ξ「……」

( ´ω`)「けど、僕は楽しかったお。ツンが作ってきてくれた大量のお弁当を1人で食べるのは辛かったけど……おいしかったお」

ξ 凵@)ξ「……」

( ´ω`)「桜が咲いたら、また一緒にお花見に行きたいお。2人で」

実りのない思い出話を延々と語り続けるブーン。

効果がないのは自分でもよくわかっている。
きっと自分の言葉は彼女の耳に届きやしない。いや、届いても彼女はそれを感じられないのだ。

けど、「もしかたしたら」を信じたかった。
ドラマとか映画なら、こうやって語り続けてたら意識が戻ったということもあるじゃないか。

ツンがふと目の光を取り戻して、「ブーン」と名前を呼んでくれる日がきっとくる。絶対に。
そう信じたい。



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