( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 26: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:20:32.06 ID:gaCMsGwV0
動かないツンを見つめ続けていると、病室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは見知った2人だった。
('A`)「お、ブーン……いたのか」
(´・ω・`)「起きてたんだね」
バナナを手に持って、汗だくの顔で病室に入ってきた2人。
きっと、モナーに戦闘訓練でも受けていたのだろう。近頃は、ますます訓練に身を入れるようになったとか。
(‘A`)『……ツンがこんなことになってるのに、俺が何もできねえのが……悔しくて仕方ないんだよ』
(´・ω・`)『……ぶち殺してやりたい相手がいても、それを行う技術がなかったら……どうしようもないからね』
訓練を受ける理由をそう語った2人。
悲しいのは自分だけじゃない。彼らも当然そうなのだ。
そして、自分の無力さに嘆いているのも……自分と同じ。
- 27: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:23:26.61 ID:gaCMsGwV0
('A`)「どうだ? なんかあったか?」
( ^ω^)「昨日と変わらないって先生は言ってたけど、僕は少し微笑んでくれたように思うお」
(´・ω・`)「なら、きっとそうなんだよ。彼女だってずっと仏頂面だと疲れるだろうしね」
黒いジャージを着たドクオと、赤いセーターを着ているショボン。
バナナをツンのベッドの横に置き、ドクオは「そうだ」と何かを思い出したように言った。
('A`)「ヒッキーだがな、狐さんから聞いたところによると、どうやら意識が回復したらしいぞ?」
( ^ω^)「そうなのかお! それはよかったお……」
ツンと同じようにラウンジ教に薬を打たれて自分を失い、ツンの部屋の隣196号室に監禁されていたヒッキー。
彼は、建物が爆破されるというクーの放送があった時点で、『VIP』の捜査員に発見され、救出されたのだという。
そして、その後一般病院に入院。治療を受けていると聞いていた。
ヒッキーに投与された薬は、ツンのものよりは軽い症状らしく、治療はなんとか成功。今日になって自分で言葉を発せられるようになった、というのがドクオの話だった。
なぜヒッキーがラウンジ教にいたのか? という疑問についてもドクオが狐から話を聞いていた。
ヒッキーが遊びに行った親戚の人たちは、ラウンジ教の熱心な信者だったらしく、彼らにごり押しのような形で無理やりラウンジ教に入信させられた。
そして、彼が『人の子』の友人であるという情報を掴んだラウンジ教の幹部は、ヒッキーに薬を投与。
そうして『人の子』について様々な情報を聞き出した、ということだった。ツンがさらわれたのも、きっとヒッキーから話を聞いたからなのだろう。
ごり押しに弱いヒッキーならこれは十分ありうる。信じても良い話だった。
- 29: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:26:14.94 ID:gaCMsGwV0
('A`)「今は治療に励んでるようだな。まあ、機会があったら見舞いにでも行ってみるか?」
( ^ω^)「……ちゃんとごたごたが終わったら、だお」
('A`)「そうだな」
ドクオが近くにあった椅子に座り、ショボンが果物ナイフを手にしてりんごの皮をむき始めた。
皮むきは自分がやろうと思っていたのだが、ショボンの方が上手なので任せることにした。
ブーンはツンを見る。身体が揺れている。どうやらずっと座っていて身体が疲れてきたようだ。
( ^ω^)「今寝かしてあげるお」
ブーンはツンの肩を持って、背中を支えてあげながらゆっくりとベッドに横にしてやった。
ξ 凵@)ξ「……」
ツンは何も言わないまま、ただ呆然と宙を見ている。
肩を触っても何も反応しないし、こっちを見てもくれない。
反応がないのがこんなにも辛いだなんて……思いもよらなかったことだった。
( ^ω^)「あ……訓練の時間だお」
時計を見てみるとすでに昼の1時過ぎ。クーとの訓練の時間を過ぎていた。
彼女が剣道場で待っている。行かないと。
- 32: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:28:24.34 ID:gaCMsGwV0
( ^ω^)「じゃあ、僕は行ってくるお」
('A`)「訓練が終わったらここに戻ってくるのか?」
( ^ω^)「えーと、その後は会議があるから、たぶん無理だお。ツンの世話は看護士さんに任せればいいと思うお」
(´・ω・`)「まあ、時間がある限り僕達もここにいることにするよ」
ウサギの形に切ったリンゴを差し出しつつ、ショボンが笑顔で言った。久しぶりにショボンの笑顔を見たような気がする。
こうやって、普通に笑顔を浮かべて喋ってくれるのが、自分にとっては何より嬉しい。
『人の子』だとか、変な力を持っているとかに関係なく、笑いながら話し合える相手がいる。
これはものすごくありがたいことだった。
帰る場所があると思えて、安心できるのだ。
ブーンはリンゴを受け取り口に放り込む。おいしい。リンゴって切った形で味が変わるのだろうか?
- 33: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:30:24.40 ID:gaCMsGwV0
( ^ω^)「あ、そういえば、夜の11時ごろに、僕とドクオとショボンに所長室に来てほしいって、狐さんが言ってたお」
('A`)「俺たちも?」
(´・ω・`)「何かあるのかな」
リンゴを食べつつ、2人は顔を見合わせて不思議そうに言った。
まあ、確かに狐がこの2人を呼ぶのも珍しいような気がする。
( ^ω^)「わからないけど、ちゃんと伝えたお。忘れないように頼むお」
('A`)「把握した」
(´・ω・`)「了解」
( ^ω^)「じゃあ、行ってくるお」
ブーンは最後にそう付け加え、病室を後にした。
ツンがこちらを無表情な顔で見ていたような気がしたが、きっとそれも気のせいだろう。
ただ目を向けた先が扉だっただけのこと。
だって、彼女の目には心がこもっていなかったのだから。
※
- 34: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:32:33.18 ID:gaCMsGwV0
- ※
地下の剣道場に来るのはこれで何回目だろうか?
もう何度も訓練を受けているので、数え切れないほどここにやってきている。
学校に行っていた時も、「3年間高校に行ったら、1000回ぐらいここを通るんだろうなあ」と通学路で考えていたものだ。
時間というのはその時その時は長く感じても、過ぎ去るのは早い――いや、言葉が変だな。つまりは時間が過ぎるのは早いってこと。
ブーンは剣道場の扉を静かに開けた。中で竹刀を持ったクーが袴姿で立っていた。
川 ゚ -゚) 「む、来たか」
( ^ω^)「遅れてごめんだお。ちょっと用事があったんだお」
川 ゚ -゚) 「かまわない。私は私でついさっき来たばかりだからな」
それをデートの待ち合わせ場所での台詞に変換したら萌えるような、ないような。
川 ゚ -゚) 「さっそくだが、はじめるぞ。今日は最初から光の剣でこい」
( ^ω^)「お? どうしてだお?」
川 ゚ -゚) 「君に基礎をやる体力は残ってないだろう?」
そう言うクーの顔にも、少しだけ疲れの色が見え隠れしているように思えた。
というか、当たり前だろう。彼女は毎晩のように『影』の討伐を行いつつ、普段の仕事もきっちりとこなしているんだ。
自分のように昼はニート生活をやっているわけじゃない。クーは自分以上に忙しいのだ。
だから、自分は夜の仕事で彼女の助けにならないといけない。そうして彼女の負担を減らすんだ。
- 35: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:35:00.11 ID:gaCMsGwV0
( ´∀`)「クー、やっぱりやめておいた方がいいモナ」
うぉ、とブーンは驚きの声をあげ、後ろを振り返った。
剣道場の扉の前でモナーが心配そうな顔で立ち、クーを見つめていた。
何時の間にここにいたのだろう?
しかしクーはさして驚いたような顔をせず「何がだ」と怪訝そうな顔で尋ねた。
( ´∀`)「もう2日は満足に寝てないモナ。さすがにクーでも倒れると思うモナ」
川 ゚ -゚) 「かまわん。私よりも、ブーンにその言葉を送ってやれ」
( ^ω^)「ぼ、僕かお?」
いきなり名前を呼ばれてどぎまぎしつつ、ブーンは自分を指差した。
川 ゚ -゚) 「私は最近、夜の仕事でそうとう楽にさせてもらっている。寝ていない分の疲労は、そこで回復できている。
だが、ブーンはつい先日まで一般人だったんだ。ここ最近の仕事ぶりはめざましいものだが、その分身体にガタがきているだろう?」
( ´∀`)「……そうなのかモナ?」
うっ、とブーンは答えに詰まった。
いや、確かに疲れてはいるけれども、こんなの冬の長距離マラソンに比べたら微々たるものだ。
体育の授業でのマラソンは厳しかったなあ……
そうやって昔を思い出しつつも、ブーンは「大丈夫だお」とだけ答えておいた。
- 36: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:37:08.02 ID:gaCMsGwV0
川 ゚ -゚) 「……」
( ´∀`)「……まあいいモナ。今日の訓練はいつもの半分にしておいた方がいいモナ」
( ^ω^)「はいですお」
モナーが名残惜しそうに去っていく。その手に竹刀があるのにいまさらながら気付いた。
もしかして、自分が訓練の相手をするつもりだったのだろうか? もしくはクーが心配で?
優しい人だな、モナーさんは。
川 ゚ -゚) 「まったく、おせっかいがすぎるんだ……」
( ^ω^)「確かに、だお」
川 ゚ -゚) 「人のことは言えんよ、君もだ」
( ^ω^)「お、お?」
川 ゚ -゚) 「夜の仕事ぐらいは私に楽をさせてくれているようだが……そのような気遣いは無用だ。
私は私なりに体調管理はできている。これからはコンビネーションを中心に『影』を討伐するぞ。いいな?」
( ^ω^)「は、はいですお!」
やっぱりばれていたのか。
クーのすごむような声に怖気つつ、ブーンは敬礼してそれに答えた。
やっぱりクーはすごいなあ。いつもいつも頼りになる上、こちらのことなど全てお見通し。どうにも頭が上がらない。
- 38: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:39:20.67 ID:gaCMsGwV0
川 ゚ -゚) 「それに……気負うな、あんなことがあった後だから気持ちはわかるがな」
( ^ω^)「……」
川 ゚ -゚) 「無用な気負いはいつか致命的なミスにつながる……
戦う時はいつも流れる水のように静かな心を持つこと。最初に教えたことだろう?」
( ^ω^)「……はいですお」
川 ゚ -゚) 「建物をひとつ吹き飛ばすような力を持っているんだ。なおさら力の使い方を誤ってはいけない」
( ^ω^)「……はい」
建物を吹き飛ばす力、か。
話に聞いた所によると、自分はラウンジ教の施設を丸ごと吹き飛ばしたらしい。
しかし、あの時のことはほとんど覚えていない。
心を失くしたツンを抱きしめ、泣いてしまったことぐらいしか覚えがないのだ。
だから、そんな力を自分が持っているとはまだ信じられないのだが……
けど、信じるしかないのだろう。実際に建物が消し飛んでいるのだから。
川 ゚ -゚) 「では、訓練を始める。剣を持て」
その合図と共に、ブーンは手に『剣状光』を出現させ、しっかりと柄を握る。
『剣状光』の光はいつも以上に輝いているように見えた。
きっと、こっちの心に反応して『剣状光』も変わっていくのだろう。そんな気がした。
- 40: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:41:51.30 ID:gaCMsGwV0
( ^ω^)(……)
クーに向かって剣を構えつつ、ブーンは今さっきついた「嘘」に若干の後悔を感じていた。
静かな心を持つこと……もちろん、それも心得ている。けど、それだけじゃあ自分は強くなれない。
大きな力を持つなら、それを使うことを恐れてはならない。
決意と勇気が必要なのだ。今は。
( ^ω^)(僕が戦って、みんなを守るんだお……)
もう誰も傷つけさせないために。
その力はきっとある。
あの光の爆発は、建物は吹き飛ばしても、自分やクーを吹き飛ばさなかった。
そのことから考えて、あれは消し去りたいものだけを消す力のはず。
ならば、それをコントロールする術を身につければいい(どうやって出すのかすらわからないけど)。
だから今は……心の赴くままに戦う。
戦う決意はもうついたのだ。あとは力を得るだけ。
クーに向かって『剣状光』を一振りして、ブーンは自分の心に巣食う雑念を追い払った。
後に残ったのは決意と勇気だけだった。
※
- 43 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>39狐がイメージどおりww] 投稿日: 2006/11/19(日) 00:44:48.91 ID:gaCMsGwV0
※
狐「じゃあ、今日の定例会議を始めます」
訓練の時間はまたたくまに過ぎ去り、時間は夜の7時。
恒例の定例会議にブーンは1週間ぶりに(ツンのこともあって、報告の会議の時以来は出なくてもいいと、狐に言われていた)赴き、
例のごとくクーの隣の席に座っていた。
他のメンバーはいつもどおりだ。
モナー、ぃょぅ、しぃといった『VIP』の面々。政府関係者。ご意見番のご老人。そして狐。
緊張感漂う久しぶりの空気に、ブーンは思わず手に汗握っていた。
狐「じゃあ、今日はぃょぅ君の報告からいこうか。ぃょぅ君、頼むよ」
(=゚ω゚)ノ「は、はいですょぅ!」
携帯電話を開いていたぃょぅが、狐の声に気付いて慌てて立ち上がる。
黄色いカチューシャをつけた某団長の壁紙が、携帯のディスプレイに写っていたのは気のせいか?
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