( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 2: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:15:40.97 ID:IBS2W5mv0
- 第18話
今から6年前。
ノストラダムスの大予言やら、2000年問題やらで盛り上がりを見せていた世紀末から、1年ほど経過したあの頃。
世の中の犯罪はさほど凶悪化しておらず、少年犯罪や議員の汚職がまだトップニュースになっていたあの頃。
多くの人が「6年前に何があった?」と問われれば、ぼんやりと自分の6年前について語るだけで、世間での大事件など覚えてもいないだろう。
「忘れる」。それが人という生き物の大きな特徴であり、大きな強みであり、大きな弱さでもある。
しかし、一部の人にとっては忘れらない出来事が確かにあった。その時に。
『影』――現在ではそう呼ばれ、当時は『アンノウン』と呼ばれていた存在が、初めて現れたのはその6年前だった。
事の始まりは、ある不可解な事件だった。
一見、ある男性がビルの屋上から飛び降り自殺しただけのように見える事件。
けれども、その男性は幸せな家庭を持ち、仕事に精を出し、近く子供が生まれる予定だった。つまり、実に幸せな人生を送っていたのである。
しかも遺書等の自殺をほのめかすようなものは一切見つからず、警察でもどうしてこの男性が自殺をしたのか解明できず、頭を抱えていたのだ。
- 3: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:17:40.48 ID:IBS2W5mv0
しかし、それが自殺だというのは決定的だと思われていた。
監視カメラには夜のビルに1人で忍び込む男性の姿が録画されていたし、男性の遺体には争った形跡がない。
そうした疑問を抱えながらも、その男性が死んでから1週間後、結局は「理由不明の自殺」という結論で事件に幕は下りた。
その男性は、現在のこの国に多く見られる自殺者の1人として数えられるに留まった。
問題はそれ以降だった。
その男性の自殺があって以来、全国各地で「理由のわからない自殺」がちらほらと現れ始めたのだ。
もちろん、これまでもそういった事件がなかったわけではないが、数が多くなってきたのは確かだった。
なにせ、昨年の3倍のペースで「理由のわからない自殺」が増えていたのだ。
一般の人たちから見れば、ただの自殺にしか見えないので世間を騒がせるまでには至らなかったが。
だが、警察の内部では深刻な事態が起きていた。
『自殺者が自殺する直前、その横にはなにやら黒い物体が寄り添っていた』
自殺の目撃者の1人が言った証言内容が本当の始まりだった。
これを聞いた警察は、もしかしたらその黒い物体が自殺と何かの関係があるのではないか? と推測していた。
だが、捜査をしても他に何の物的証拠を見つけることができない。
一方で、自殺者の横に黒い物体を見たという目撃証言がそれからも報告され続け、警察内部ではひとつの噂が広まることとなった。
『幽霊が自殺をほのめかしている』と。
- 4 名前: ◆ILuHYVG0rg [なんか地の文ばかりで申し訳ない] 投稿日: 2006/11/24(金) 00:19:39.84 ID:IBS2W5mv0
次の段階に進んだのは、初めの不可解な自殺者が現れてから2ヶ月後のこと。
都内のビルの屋上から飛び降りようとしていた老人を、常駐していた警備員に止められるという出来事があった。
老人はそのまま警察に引き渡され、なぜ自殺しようとしたのか? と事情を聞かれた際、こう答えた。
『わしの中のもう1人のわしが、死ねと命じてくる』
わけがわからなかった警察官は、何かの精神病にでもかかっているのか?と疑いをかけるだけで、老人の話には取り合おうとはしなかった。
しかし、事件はその夜に起こった。
自殺しようとしたその老人は、翌日病院に移送されることが決まり、そのまま警察署で一夜を過ごすこととなった。
警察署内の仮眠室を借りて、老人は就寝。
だが、1人の若い警察官が、老人の寝ている部屋から不審な物音が聞こえるのに気付いた。
もしかしたら部屋で自殺でもしようとしているのか?と思った警察官は、慌てて扉を開いて中を覗いた。
そして、見てしまったのだ。
老人の身体の上に黒い影のような物体が乗りかかり、老人の首を切っているのを。
恐怖で叫び声をあげた警察官は、思わずその場から逃げ出してしまい、助けを呼びに行った。
数十分後、上司を引き連れて戻ってきた警察官は、2重の驚きを経験することとなった。
黒い物体は跡形もなく消え去り、後には首の頚動脈を切られた老人だけが残されていたのだ。
※
- 5: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:21:34.97 ID:IBS2W5mv0
※
狐「それ以降、事態を重く見た警察庁は、極秘裏に調査を敢行した。いくつかの人員を割いてね。
調査は順調に進んだんだ。以降も黒い物体が横に憑いた人が自殺をしたり、交通事故にあったりする事件が頻発したから」
(´・ω・`)「……まったく知らないね、そんなこと。そもそも、6年前のことなんて覚えてないし」
狐「まあ、そんなもんだよ、普通は。
で、警察は研究所やら有識者やらの意見を聞きつつ調査を進めていった。そしてある結論に達した。
その黒い物体は、見えるけれどもあらゆるセンサーに引っかからない存在だ、と」
('A`)「あらゆるセンサーにかからないけど見える。そりゃあ怖いわなあ」
狐「当時の調査員達も恐怖で凍りついたらしいよ。見えるのに『いない』。
それは噂されていた幽霊のようなものだからね」
( ^ω^)「それが『影』……」
狐「そういうこと」
※
- 8: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:23:45.99 ID:IBS2W5mv0
※
見えるけれども、存在しない。
その黒い物体を、警察は『アンノウン』と名づけ、以降の対策を内閣を中心とした対策委員会に委ねることにした。
そして対策委員会がまず決定したのは、『アンノウン』の存在を世間に公表しないことだった
その理由は、更なる調査を行ってその存在を確かめなければならない、というのがひとつ。
対策も何も立っていないのに公表しても、いたずらに世間の不安をかきたてるだけだから、というのがもうひとつ。
そして最も大きな理由が、委員達がその存在を信じていなかったからだった。
そのため対策委員達はろくな協議を行わず、結局『アンノウン』の調査と対策は防衛庁の傘下にあった、あるひとつの組織に丸投げされた。
- 10: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:25:51.91 ID:IBS2W5mv0
『天国』。
正式名称は『独立天海国防・情報収集及び工作部隊』。
『天海』というのは、その部隊の創始者の名前らしく、その長ったらしい名前の中から2文字とって『天国』と呼ばれていた。
国防の砦にしてはあまりにも不釣合いな名前。
そんな力の抜けるような名前が反映されているのか、当時の『天国』は、名があるだけでほとんど活動していないような部隊だった。
人員構成としては、窓際族、汚職事件で飛ばされたかつてのキャリア組などなど、防衛庁が厄介者扱いしている、いわば『掃き溜め』のような人たちばかり。
ろくな能力もなければ、仕事もしない。
そんな部隊に調査と対策を任せたのは、もちろん『アンノウン』などという厄介なものを早々に話題から消し去りたいという委員の思惑があったからだ。
ただ、さすがに元からいた隊員だけでは『アンノウン』の調査ができるわけがないし、外面だけでもきちんと整えなければならない。
そう考えた対策委員会は、『アンノウン』に関わる調査と研究を行っていた人材を3名派遣した。
それが、私としぃとつーだった。
※
- 11: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:28:01.03 ID:IBS2W5mv0
※
(´・ω・`)「どうして彼女たちが?」
狐「クー君は何のことはない。『アンノウン』の調査を行っていた警察署の一員だったからだよ。新人だったけどね。
しぃ君とつー君は、『アンノウン』の研究を行っていた研究所の新人研究員だったんだ。
対策委員会から派遣員を出すように言われた警察署と研究所は、渋々その3人を差し出した。
厄介事は新人に押し付けて、自分達の捜査や研究を優先させたかったんだろうね」
( ^ω^)「大人の人の考えることはよくわからないお……」
狐「それは私もよくわかるよ。子供の心で考えれば、よっぽど世界は単純に見えるだろうね。
それができないのが大人なんだけど」
※
- 12: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:29:47.07 ID:IBS2W5mv0
※
最初は疑問に思ったものだ。「どうして私が?」と。
確かに『アンノウン』の存在は脅威だ。
これから増えるのか減るのかもわからないけれども、放っておけば社会に害をなすことは間違いない。
調査と対策を一刻も早く進めなければならない。
けれども、どうして私だったのか? どうしてただの新人の警察官だった私なのか?
もっと『アンノウン』に関して詳しい警察官はいたはずなのに。
けれども、私は何の文句も言わなかった。
たとえ何かに疑問を持ったとしても、それを口には出さず、ただ上からの命令を遂行することだけを念頭に置かなければならない。
それが警察官として、この社会の秩序を守る存在として父親から叩き込まれてきたことであり、私はその考え方を忠実に守っていた。
だから、新米だろうと何だろうと、与えられた仕事はきちんとこなしていこうと考えていた。
今になって思えば、日頃から浮いている存在だった私を厄介払いしたかった警察署が、ちょうど良いゴミ箱を見つけただけなのだろうけど、
- 13: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:31:52.09 ID:IBS2W5mv0
『天国』は掃き溜めと呼ぶにふさわしい場所だった。
とにかくやる気がない。何かに打ち込もうとする気力がまったく感じられない。
例えば、訓練と呼ぶ時間はあっても、上官も部下もやる気がないので、だらだらとグラウンドを走ったりするだけで、
軍隊にありがちの厳しい筋トレがあるわけがなかった。
仕事もほとんどないので、ある者は一日中喫煙室でタバコを吸いながら将棋を指していたり、
ある者は彼女とデートがあると言って勤務時間にも関わらず外出したり。
税金の無駄遣い、という言葉がここほどふさわしい場所はなかっただろう。
そんな中に私としぃとつーが送られてきて、果たしてまともに仕事ができるのか?
答えはNOでもあり、YESでもある。
やろうと思えばできた。
そこで初めて出会ったしぃとつーは、新米ながらも優秀な研究員で、『アンノウン』についてのデータがあればすぐさま解析を進めてくれる。
大人し目で頑張り屋である妹のしぃ。
明るく、はちゃめちゃとも言える性格の持ち主の、姉のつー。
この姉妹がいてくれれば、「研究」に関しては不足はなかった。
- 15: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:33:56.18 ID:IBS2W5mv0
(*゚ー゚)「『アンノウン』には物理的な攻撃は効きません。これは確かです」
(*゚∀゚)「というより、『物質』という概念が当てはまらない存在なのかもね。
そんな相手に物理的な攻撃をしたって意味ないでしょ」
「ならば、物理的なものではない攻撃をしろ、ということか? 例えばなんだ?」
(*゚∀゚)「さあ? なんだろね」
(*゚ー゚)「それを調べるにはデータがあまりにも足りなさ過ぎます。『アンノウン』自体を捕まえることができればいいんですが……」
「そうか……」
『研究』に関しては確かにそうだった。
だが、いかんせんデータがあまりにも足りなさ過ぎた。
当たり前だろう。『アンノウン』に関する調査はすでに『天国』に丸投げされており、他のどんな機関も調査はしていない。
しかも『天国』の中で『アンノウン』に関する仕事を行っているのは、実質私としぃとつーだけだったのだ。
私達の直属の上司ですら、手伝ってはくれなかった。
そんな状況でデータを集めろというのに無理があるのだ。
もう仕事を続けることはできないのかもしれない、と思い始めていた。
- 18: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:36:23.35 ID:IBS2W5mv0
そんなある日だ。
私は『天国』の敷地内における、憩いの場――公園のような場所を歩いていた。
連日の徹夜と仕事詰めのせいで気力体力共に付きかけており、私は『アンノウン』に関する書類を手に持ちながら、ふらふらと歩いていた。
天気は日本晴れ。夏も近くなってきていた7月頃。
太陽はさんさんと照りつけ、地面をじりじりと焼いていた。
そんな空の下、汗をじんわりとかきながら、私は公園の道をゆっくりと歩いていた。
歩きながら色々なことを考えていた。
『アンノウン』に関する調査と対策について。『天国』の連中が手伝ってくれない等の恨み言。まだ7月なのにもう暑くなってきている気候に対する文句。
色々考えすぎて、「それ」が聞こえてきたとき、一瞬天からの歌声のように錯覚してしまったほどだ。
「ほら、手をつないで生きる喜び〜♪」
かつて聞いたことのあるような、単調なメロディライン。
なのに深い所をついている歌詞。
子供の頃に何度も聞いた歌。
アンパンマンの歌?
「たとえ、胸の傷が痛んでも〜♪」
それが聞こえてきたのは、ちょうど自分が立っている場所の真上。
見上げれば、木の枝がさんさんと生い茂っている。
そう。それは大きな木の枝の上から聞こえていた。
- 20 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>16 流石兄弟に惚れたww] 投稿日: 2006/11/24(金) 00:38:42.09 ID:IBS2W5mv0
「あん、あん、アンパンマン〜、やーさしいきーみはー♪」
目を凝らしてみると、かすかに木の枝に誰かが乗っているのが見えた。
誰だ?
「きーて、みんなのゆーめ、まーもるたーめー♪って、おわ、おわわわわ!」
木の枝が激しく揺れている。それと共に、その声が慌てた調子に変わる。
その一瞬後に、何か大きなものが目の前に落ちてきた。
コンクリートの道の上に盛大に倒れているそれは、一見人間のように見える……いや、確かに人間の男だった。間違いない。しかも『天国』の制服を着ている。
「おーいて。さすがに枝の上で寝るのは無理があったか。いたたた」
腰をさすりながら立ち上がるその男。
その顔は、「こりゃしまった」という心の中が一瞬で読み取れそうなほど、素直な笑みを浮かべていた。
なんだこいつは……
「ん? おわ! いつからそこにいたんだ!? ってあんたは確か……」
男は、誰かが後ろにいる気配に気付き、
実際に人が立っていて驚き、
そして今度はこちらの顔を見て考える仕草をとる。
表情の七変化とはこういうものを言うんだろう。
- 21: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:40:50.10 ID:IBS2W5mv0
「ああ、そうだ。確か『幽霊』の調査をやってる奴だったっけ?
朝の集会で紹介されてたな。名前は確か……カー? スー?」
「……クーだ」
「そうそう! クーだったな、うん。思い出した。最近物忘れが激しくてな〜」
「……」
「で、ここに散らばってる紙はあんたの持ち物じゃないのか?」
「む」
そう言われて、初めて書類を地面に落としていることに気がついた。
きっと男が落ちてきた時に驚いて落としてしまったのだろう。
いきなり空から人間が降ってきたんだ。驚くなという方が無理がある。しかもどういうわけかアンパンマンの歌を歌っている男、なのだ。
私はすぐに書類を拾い始めた。一応重要な書類なのだ(自分としぃとつー以外は誰も読まないが)。
と、男も拾い始めているのに気付いて、私は慌てて「別に拾わなくていい」と言っておいた。
別に深い意味はない。自分で落としたものは自分で拾うのが筋だ。
「ん、まあ、気にするな。しっかし、これは……ふ〜ん、面白いな」
男が何やら書類を読み始める。
そのページは、確か『アンノウンは犯罪に手を染めた者を襲う確率が高い』という統計データだったはず。
- 22: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:43:02.00 ID:IBS2W5mv0
「ふむふむ、犯罪者を襲う幽霊ねえ」
「……何が面白いんだ、早く返せ」
「うん、いや、よく頑張ってるなあ、って」
「興味本位ならお断り願う。これは仕事だ」
「いや、だけど一応俺も『天国』に所属してるんだしさ。見せてもらってもいいじゃん」
『天国』に所属している?
この男が? いや確かに服装はそうだが……にしてはかなり若い。元キャリア組か?
「こっちの方が面白そうだなあ」
「何がだ」
「いやさ、俺が今やってる仕事がつまんなくて仕方ないんだよな。だから……いいねえ、これ」
仕事が面白いかつまらないかで判断しているのか、この男は。
私は呆れて物も言えなかった。
軽薄な男。
ジョルジュ長岡という男の第一印象は、そんなものでしかなかった。
- 25: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:45:24.32 ID:IBS2W5mv0
その印象は最後まで消えなかった。
軽薄で、かつ役人でも兵士でもないなにやら奇妙な男。それがジョルジュ長岡だった。
そもそも『天国』にやってきた理由自体、奇妙としか言いようがなかった。
もともとは国家公務員の試験を合格し、自衛隊のキャリア組として道を進むべき人間だったらしい。
将来は防衛庁長官になるかもしれない、とも言われていたが、しかしあるひとつの事件でジョルジュは『天国』に飛ばされてしまった。
それがまたくだらない事件だった
なんでも飲み会で上司と色々話をしていたのだが、話題がこの国の防衛問題に発展するとだんだんと話がヒートアップしてきて売り言葉買い言葉の言い合いに。
そして最後にはジョルジュが上司をぶん殴って、失神させてしまったのだ。
まあ、それぐらいなら土下座のひとつでもして、「酒の席での出来事」として済ませれば事なきを得るはずだったのだが、ジョルジュはそうはしなかった。
あくまで「自分が正しい」「上司の言い分が正しいとは思えない」「俺が謝るのなら、それなりに納得してから」と言うだけ。
結局上司との溝は埋まらず、『天国』に飛ばされてしまった、というのだ。
馬鹿としか言いようがない。
自分の考えが正しいと思うのは勝手だが、それ以前にこの社会のルールというものが欠落している。
上の命令は絶対で、下はそれに従うだけ。他はどうでも、軍隊としてはそれが当たり前なのだ。
そんな男が私達の仕事に絡むようになったのは、初めて出会ってからわずか2日後のことだった。
- 26: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:47:39.03 ID:IBS2W5mv0
- しぃ、つーと話し合いを行っているところに、急にこの男が割り込んできたのだ。
_
( ゚∀゚)「おいっす〜、ちょっとお邪魔していいかな?」
(*゚ー゚)「え? え?」
(*゚∀゚)「誰よ、あんた。部外者は入っちゃいけないのよ」
「お前は確か……」
_
( ゚∀゚)「おー、覚えててくれたかい? あんたみたいな美人に覚えてもらえるなんて光栄だねえ」
私は最近、『天国』の連中からこの男の噂を聞いており、その経歴の不思議さに多少なりとも興味を持っていた。
どうして上司の命令を逆らってまで、自分の意見を通したのか?
そこまでして貫き通したいことは何だったのか?
だからなのだろうか。
この男が「会議に参加したい」と言うのを、思わず承諾してしまったのは。
今でも気の迷いだったとしか思えない。
- 28: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:49:51.92 ID:IBS2W5mv0
- _
( ゚∀゚)「ほうほう、『アンノウン』には物理的な攻撃は効かず、しかも神出鬼没。いきなり現れて消えることもしばしば。
しかも、『アンノウン』はどういうわけか物理的な攻撃を行うことができる、と」
(*゚ー゚)「は、はい。その身体がどのような物質で出来ているのかは不明ですが、もしかしたら地球上の元素が構成物質ではないのかもしれません」
_
( ゚∀゚)「面白いねえ。うん。窓際で書類の点検やってるよりははるかに面白い」
面白い面白いと連呼するジョルジュ。
これまではいったいどんな仕事をしてたんだ? と尋ねてみると、
_
( ゚∀゚)「書類の点検やら部屋の掃除やら……とにかく雑用ばっかりやってたなあ。面白くない仕事ばっかりだった」
という答えが返ってきた。まあ『天国』の職員の仕事なんてこんなものだ。
_
( ゚∀゚)「にしても、あんた達面白い姉妹だよなあ。なんかしぃちゃんの方が姉に見えるぜww」
(*゚∀゚)「ひどいわねえ。私の方が2歳も年上なのよ! というか、あんたと同い年だし!」
_
( ゚∀゚)「ははww まあ、おっぱいはつーの方がでけえわな。俺はおっぱいが大きいほうが好きだぜwww」
(*゚∀゚)「うっわ、何それ、セクハラよセクハラ!」
(*゚ー゚)「ふふふ」
- 30: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/24(金) 00:51:46.03 ID:IBS2W5mv0
天性の明るさと巧みな話術もあってか、ジョルジュが私達の間に溶け込むのにそう時間はかからなかった。
ジョルジュは元々スパイやら諜報活動やらが得意で、特に敵に化けて潜入する腕は天下一品らしい。
つまりは詐欺師のようなものであり、そう考えればジョルジュの口の巧さに納得いく部分もある。
そんなうそつきジョルジュだが、私達は彼という人間をよく分かっていたように思う。
彼は私達の前では「猫をかぶる」ということをせず、ありままの姿を見せてくれた。
だから、私達も素の自分を出せていたのだろう。私達は分かり合えた。きちんと。心の奥底で。
※
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