( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
4: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:03:05.22 ID:zgn2QLwd0
  
第19話

12月も下旬に入って久しい頃。
世間ではクリスマスや新年に向けて忙しくなる時期に入っている。
恋人や子供へのプレゼントを選んだり、年賀状の作成に追われたり、年末に向けて仕事が多く入ったりなど、
みんなが休む暇を削る頃だ。

しかし、今年の年末は違っていた。
冬休みに入ったはずの学生はあまり外で遊ばなくなった。
サラリーマンの忘年会は、先に政府から達せられた「夜での飲食店営業禁止命令」のあおりを受け、ほとんどお流れになった。
買い物客も例年に比べれば少なく、高層ビルが立ち並ぶ都会の光は最近になってますます弱くなっている。

夜でも昼でも、警官が街中を巡回している光景も見られるし、
喧嘩を目撃することも珍しくなくなってきた。

『夜に出歩くのは危険なのでなるべくやめておきましょう』

ニュースではそんなアナウンサーの堅い言葉が流れ続けている。

『評論家のひろゆきさん。今年の犯罪率の増加をどう見ますか?』

『そうですね。やはり模倣犯の増加がその要因だと思われます。
ひとつの大きな事件が起これば、それを真似する犯人が必ず現れる。よくない傾向としか言いようがありません。
近年のモラルの低下、防犯意識の薄さがここになって顕著に現れたものと私は思いますね』



  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:05:07.60 ID:zgn2QLwd0
  

『では、今私達ができることはなんでしょうか?』

『自分の身は自分で守るという意識を常に持つことです。嘘を嘘と見抜ける力を持つこと。それが今必要なのです』

都会では夜に出歩くことは危険とされ、そこから離れた田舎や住宅街でも、犯罪はわずかながら増加していた。

これは何が原因なのだろうか?
いや、原因など調べて無駄なのだろう。
これまでの何十年間もの間に起こった様々な要素が絡み合って、今のこの状況が出来上がってしまったのだ。

ある一人の行動、ひとつの事象に責任があるわけではない。
全体の流れが、このようになっていたのだ。





  
8: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:07:11.87 ID:zgn2QLwd0
  



某県某湖。
ひとつの町とひとつの村にまたがって広がる原野が、そこにはある。
近くの火山から噴き出した溶岩流によって作られたその土地の上には、様々な種類の木々が混在し、広い原始林が形成されている。
周辺には風穴と呼ばれる洞穴や、洞窟が多く点在し、3000ヘクタールを超える広さを持っている。

俗に言う「樹海」。

公園や遊歩道が設置されるなど観光にも適した場所でありながら、自らを殺してしまうような人間が多く訪れる、二律背反的な場所。

そこに、あるインターネットを通じて集まった若者達が車をとめ、壮大に広がる目の前の原始林を見渡していた。

夜。道路の灯りの他には、車のヘッドライトぐらいしか光源がない、暗い場所だった。

「お〜、ここが有名な樹海ねえ」

「ねえねえ、誰か今にも死にそうな人とかいるのかな?」

「俺、骸骨とか見たくねえなあ」

彼らは某クオリティを重視する掲示板にて、「突発樹海オフ」という、その板に似合わないOFF会を計画した若者達だった。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:09:34.66 ID:zgn2QLwd0
  

高校生や大学生、サラリーマン、男、女と様々な人物構成を有したそのオフ会では、
この樹海を探検して実際に遭難するのか?という、肝試し的なことをやろうと計画されていた。

いわば、お遊び企画だ。

「よし、俺がまず行くおwwww」

「ちょwwww 現実世界でその口調使うなよwwwwww」

「クオリティ高いのか低いのかわかんねえwwwww」

彼らは笑いあいながら、懐中電灯を手にして淀みのない足取りで森の中へと入っていこうとしていた。

ちなみに、「樹海の中では方位磁石が効かない」というのはまったくの俗説であり、
周辺の磁鉄鉱の影響を受けて多少の誤差は出るものの、地図を見る上ではほとんど影響がない。
オフ会を開いた彼らももちろんそのことは知っており、方位磁石と地図、もしものための携帯電話(樹海の中では携帯も通じる)も持参し、迷うことのないようにしていた。

「ちょwww 暗ええええええwwwww」

「叫ぶなwww」

「俺も叫ぶぜwwww」

無駄な笑い声をいつまでもたてている彼ら。
こんな樹海なんて全然怖くない、とでも言いたげなほど、余裕に満ちていた。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:11:26.78 ID:zgn2QLwd0
  

しかし。

「ん? なあなあ、あれなんだ?」

森に入って数分か歩いたところで、メンバーの1人が異変に気付いた。
その注意深い大学生は、あるひとつの方向を指差している。

その先には、なにやら人型の影らしきものが。

「なんだあれwwww」

「ちょwww まさかほんとに自殺者かよwww」

「こわーいwww」

それはゆっくりと目の前を移動していた。
木の葉を揺らし、地面を踏みしめ、月明かりも届かない闇の中をのそりのそりと歩いていた。
まさか、本当に自殺者? 首吊りか?
テンションの高くなっていた彼らは、半分驚き半分笑いながら、その影へと懐中電灯を向けた。

しかし、彼らの笑顔はその瞬間に凍りついた。

光を当てたはずなのに、その影はなお影でしかなかったのだ。



  
11: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:13:14.89 ID:zgn2QLwd0
  

「ちょ……うぇうぇ……」
「うは……イミワカンネ……」
「こりゃ……やばくね……」
「逃げようぜ……」

「w」を「…」に変えるスレの中にいるかのように、彼らの笑いはすでに無くなっていた。

目も鼻も口もない、ただ黒い物体がそこにいる。
彼らは恐怖で身を縮こまらせ、一斉に懐中電灯を放り出して逃げた。

持ち主を失い、地面にぽつりと放置されたその懐中電灯。
そこから放たれる光は、


無数の黒い物体が樹海の中をうようよとうろついている光景を、明るく照らし出していた。





  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:15:56.25 ID:zgn2QLwd0
  



狐「では、これから定例会議を行います。よろしく」

『VIP』のビル、会議室内。

寒さも増し、暖房がいつもより強くなっているその部屋の中で、毎日行われる定例会議が始まった。

ブーンは自分の席に座りながら、やはりこの場に慣れていない自分を自覚し、手の平に浮かぶ緊張の汗をズボンで拭き取った。
役人やら偉そうな人やらが出席するこの会議で、自分は発言したことがない。というか、できない。
ここまでの厳粛な雰囲気を人生で一度も味わったことがない自分が、他人の意見を聞いて意見を言うなど、できるのか? 否、できない。

だから、今日もこうやって話題の理解に努めるしかないのだ。

狐「じゃあ、まずしぃ君とクー君から報告をお願いしようか」

(*゚ー゚)「はい」
川 ゚ -゚) 「では、まず手元の資料を見ていただきたい」

ブーンは急いで手元の資料に目を落とした。
そこには『最近の【影】の動向』と題された報告の文章がずらりと書かれている。
下の右端にはグラフらしきものもあり、折れ線グラフで表現されているのは、どうやらここ1週間の『影』の出現数のようだ。

こう見ると、この2、3日で『影』の出現数が急激に減っていることが分かる」



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:19:54.46 ID:zgn2QLwd0
  

川 ゚ -゚) 「ご覧の通り、この3日間で『影』は劇的に減っていることがわかります。
      1週間前までは1日に10体は出ていましたので、この急激な減少具合は異常としか言いようがありません」

(*゚ー゚)「レーダーで調べてみても、やはり『影』の反応はほとんど見られなくなっています」

レーダーとは、『影』を見つけるために『VIP』が1年か2年ぐらい前に開発した代物だ。
あらゆるセンサーに反応しない『影』なので、その存在自体を捉えることはできない。
だが、『影』が現れることでその周辺の『気』に乱れが生じるため、それを捉えることで『影』の出現を感知するのだという。

中継地点がいくつも必要なので全国をカバーし切れていないものの、広範囲にわたって探知が可能となる。
しかし、これはまだまだ精度が低く誤差が大きい。

一方、『気』を扱える人間が『影』の気配を察知した方が精度は高いが、範囲が狭すぎる。

よって、このふたつ併用することで互いの弱点をカバーし合っているのだとか。
以前クーに聞いた説明を思い出しながら、ブーンは彼女達の話に聞き入った。

(*゚ー゚)「原因は不明としか言いようがありません。
    ただ、5年前にもこのようなことがあり、減少後にまた増加したという経緯があるため、楽観的に見ることはできないと思われます」

川 ゚ -゚) 「よって、これからの夜の任務には、『影』の討伐の他に『探索』も加えたいと思います。
     私やブーンなど、『気』を扱える人間が細かく見て行った方がいいでしょうし」

狐「うん、それはいいと思うよ。まあ、無理はしないようにしようね」

(*゚ー゚)「はい」
川 ゚ -゚) 「これで報告は終わりです」



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:22:18.24 ID:zgn2QLwd0
  

しぃとクーが席に座り、狐が何やらコメントを口にする。
ブーンはそれを聞かず、クーの方をちらりと横目で見た。

凛とした表情と燃えるような目。
何か決意に満ちたものがそこにあるような気がして、ブーンは不思議に思った。
あんな目は今までしていなかった。
何かが彼女を変えたのだろうか?

ジョルジュとクーの過去話を聞いて以来、どうも彼女のことが気になってしょうがない。性的な意味ではない。もちろん。

狐「じゃあ、次はぃょぅ君、報告を頼むよ」

(=゚ω゚)ノ「……あ!っと、わかったょぅ」

何やら文庫本を読んでいたぃょぅが、慌てた様子で立ち上がる。
その文庫本のカバーの裏に「憂鬱」という文字が見えたのは、もう気のせいじゃない。

(=゚ω゚)ノ「えーと、以前の報告どおり、ジョルジュ長岡は世界中の革命団体とコンタクトをとっているょぅ。これは完全に確認したので、間違いないょぅ。
     問題は、そんな連中と協力して何をしようとしているのか? ということだょぅ」

役人「世界中で革命でも起こそうとでも言うのかねえ」

クックックッという役人の下卑た笑い声が部屋に響く。
ぃょぅはあからさまに嫌な顔をしながら、説明を続けた。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:24:20.91 ID:zgn2QLwd0
  

(=゚ω゚)ノ「その可能性も否定はできないから、今こうやって情報を集めているんだょぅ」

狐「けど、本当に革命を起こそうとしているのなら、『VIP』だけの問題じゃなくなってくるよ。
  他の国の情報機関や、場合によっては国連の安保理にまで事態が発展するかもしれない」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。けど、今のところジョルジュがそういう行動に出ていることを掴んでいるのは、僕とアメリカぐらいだょぅ」

狐「アメリカはどう動いているんだい?」

(=゚ω゚)ノ「注意はしているようだょぅ。けど、直接的な動きにはまだ出てないょぅ」

狐「だろうね。本当に世界中で革命を起こすことなんてできるわけがない……何よりも力が違いすぎるしね」

まあ、確かに。
過去に起こった革命だって、例えば国民の大多数が政府に反発していたりするから可能だったのであり、
一部の武装集団がどう戦っても、彼らだけで革命を起こすなど不可能なのだ。

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。どうあがいてもアメリカで革命を起こすなんて不可能だし、他の国でも国の軍隊の方が強いに決まってるょぅ。
     けど、ジョルジュ達の動きは不気味だょぅ。だから、注意することは必要だと思うょぅ」

(*゚ー゚)「革命話ばかりにいってますけど、他の可能性はないんですか?」

ぃょぅが締めくくろうとしたところで、しぃが不意に口を挟んだ。
他の可能性? とブーンは首を傾げる。他の可能性とは、例えばどんなだろうか?



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:26:46.25 ID:zgn2QLwd0
  

(*゚ー゚) 「例えば……逆に革命軍をつぶそうとしている、とか。ラウンジ教で私達を助けてくれたように」

(=゚ω゚)ノ「確かにそれもありえるょぅ。けど、そうじゃなかった場合のリスクが高いから、こうやって情報を集めているんだょぅ」

(*゚ー゚)「そう……ですよね」

しぃが口を閉じ、顔を俯かせる。
彼女もまた、ジョルジュとは仲間だった関係なのだ。彼が悪いことをやっているとは考えたくないのだろう。

けど、ぃょぅの言うことだって一理ある。
ジョルジュが何をやろうとしているのかわからない以上、『最悪の事態』を考えて行動するのはこういう場合の鉄則だ。
それは理解できるのだが……やっぱりジョルジュが悪いことをやろうとしているなんて、思いたくない。それは十分理解できる感情だ。

ブーンはそんなことを考えながら、彼らの話を黙って聞く。

狐「なんにしろ、注意は必要だということだね。調査は引き続きお願いするよ。
  もしもの場合は政府との連携も深めていかなくてはいけない。ですよね?」

狐が役人達に向かって笑顔で尋ねると、彼らは渋々といった様子で頷いた。
にしても、彼らは『VIP』がとことん嫌いなのだろう。この二週間あまりの会議でそれが痛いほどよくわかる。

政府にとってはただの税金の無駄遣いにしか見えないのかもしれない。
けど、『影』が出るから仕方なく力を貸しているのであり……そういった葛藤がありありと分かる。自分には。

また直感的に人を判断していることに気付いたブーンは、いけないいけないと首を振った。そういう判断の仕方は後々致命的になるかもしれないのだから。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:29:15.93 ID:zgn2QLwd0
  

狐「じゃあ、次はしぃ君、モナー君、『あれ』の開発状況は?」

( ´∀`)「30%といった所だモナ。どうにも出力調整が難しい上、圧縮と爆散に時間がかかりすぎて、実用性に欠けてしまうモナ」

(*゚ー゚)「全力で開発を行っていますが、まだ理論が完成したばかりですし……」

狐「うーん、早めにお願いするよ。開発部にもそう言っておいて」

( ´∀`)「わかったモナ」
(*゚ー゚)「はい」

狐とモナーが話していることをぼんやりと聞きながら、ブーンは窓から外を見てみた。
外では木枯らしが吹き、とうの昔の葉を散らした茶色い木を揺らしていた。

昨日の天気予報では『シベリア寒気団が日本列島を覆い、さらに寒い1日となるでしょう』と言っていたが、どうやらそれは大当たりのようだ。
きっと外に出れば、身体は震えて歯をガチガチと鳴らしてしまうに違いない。

暖房さまさま、だ。
こうやって暖かい部屋にいる時は、エアコンの開発者に感謝したい気持ちになる。誰なのかは知らないけど。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:31:25.26 ID:zgn2QLwd0
  

狐「情報の漏洩に関してはどうだい?」

川 ゚ -゚) 「外部回線からネットを介してのハッキング、またはスパイ、スニーキングなどの工作活動等々、様々な可能性を探ってみましたが、
      怪しい所は見つかりません。確かに以前から私達の行動が監視されている素振りはありましたが、それも確定できるほどのものではありませんし」

狐「これは私の勘にしか過ぎないから、外れてるかもね。
  けど、一応調査は進めてくれないかい?」

川 ゚ -゚) 「了解」

雪でも降りそうな天気だ、本当に。
そういえば、今年はまだ雪を見ていない。
と言っても、最近は都会で雪が降ることなんて滅多になくなったから、今年も見れないかもしれない。

雪を見たいなあ、となんとなく思ったブーンは、暇が出来たらスキー旅行にでも行こうと密かに決意した。
そろそろ卒業後の進路について考えなければいけない時期なので、遊んでいる暇はないかもしれないけど。そもそもちゃんと高校を卒業できるかすら分からない。
狐は「任せといて」と言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?



  
21: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 17:34:03.42 ID:zgn2QLwd0
  

狐「他には?」

(*゚ー゚)「お姉ちゃんの病状があまりよくないんですが……」

川 ゚ -゚) 「確かに、以前よりひどくなっている感があるな。あまり話をしてくれなくなった」

狐「一流の医者を集めたつもりだったんだけどね……うん、1度私も彼女の様子を見てみるよ。
  医者と相談しながら、どうするか決めるよ」

(*゚ー゚)「お願いします」

ブーンはぼんやりと彼らの話を聞きながら、つーの所にも言っていないな、と思った。
最近はツンの所ばかりに行っているから、彼女を見舞ってない。
病状がよくないようだし、1度様子を見に行ってもいいかもしれない。

その次の瞬間には、そういえばツンはどうしているだろうか? と思考をつれづれと続けるブーン。

気付いた時には会議はすでに終わりを迎えており、「今日もあまり話を理解できなかったなあ」と難しい学校の授業を終えた学生のようにとぼとぼと会議室を出て行くのだった。





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