( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:32:43.51 ID:FKCcxNOW0
  

第20話

目覚めた時、真っ先に見えるのが見慣れた部屋だというのは安心できる。

それは家にいた頃でもそうだし、この『VIP』のビルで目覚めた時も同じだ。
人間、繰り返し経験すれば絶対に慣れるものであり、たとえ一ヶ月前にやってきたばかりのこの部屋であっても、毎日寝泊りすれば自然と慣れてくる。

そうだ。慣れというものは絶対にやってくる。
今こうやって身体が金縛りにあっていたとしても、4回目の出来事なので意外と冷静に状況判断できている自分がそれを証明している。

そして、次に現れるであろう人物も、もう予測できるのだ。

(´・ω・`)「やあ」

今度はショボンの姿をした『従者』が、ベッドの横に立っていて、ブーンは目だけを動かしてその顔を見た。

(´・ω・`)

しょぼくれたショボンの顔。眉が下がり、目はくりくりとしている緊張感のないその表情。

もし身体を動かすことができれば、飛び上がって驚いていたに違いない。
この『従者』というのは、どうしてここまで顔を似せることができるのだろうか?



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:34:26.66 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)「今度はショボンなのかお?」

(´・ω・`)「まあね。僕ではご不満かい?」

似ている。気持ち悪いぐらいに似ている。というか、ショボンそのものだ。

(´・ω・`)「ん? 何か震えてるね。怖いのかい?」

(;^ω^)「そんなことはないお。ただ、ベッドの横にショボンがいると、どうも不安になってきて……」

(´・ω・`)「そうかい? ……うーん」



(´・ω・`)「や ら な い か ?」




( ^ω^)「だ、だが断る!」

ブーンは慌てて否定の言葉を叫ぶ。

(´・ω・`)「冗談だよ、冗談」

(;^ω^)(その顔で言われると冗談に聞こえないお)

まあ、ショボン本人も本気であの台詞を言っているとは思えないが、それでもなるべく危険は回避しなくてはならない。うん。そうだ。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:36:47.89 ID:FKCcxNOW0
  

身体が動かないこの状況で、もし本当にショボンがいたら……いや、考えるのはやめておこう。想像することすらためらわれる。

そうこうしていると、ショボンの姿をした『従者』は椅子に座り、
相変わらずのしょぼくれた顔のままで「ねえ」と声をかけてきた。

(´・ω・`)「結局、守るために戦うってことでFA?」

( ^ω^)「FA」

ブーンは即答した。即答できた。
もう心は固まっていたから。

(´・ω・`)「そう。それはよかったよ」

『従者』は息を吐いて安堵の言葉を口にする。

しかし、それをブーンは不思議に思った。
守るために戦うってことを心に決めたからといって、彼(もしくは彼女?)に何かメリットがあるとでもいうのだろうか?

それを尋ねてみると、「まあ、君の心が安定したら、僕も安心できるからさ」という答えが返ってきた。よくわからない。

(´・ω・`)「何にしろ、心が定まってよかったよ。きっかけはなんだったんだい?」



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:39:35.23 ID:FKCcxNOW0
  

きっかけ。
そう問われて、それはなんだろうか?とブーンは考えた。

ツンの心が壊されたこと?
自分が強くなったこと?
クーの過去話を聞いたこと?

色々と思い浮かべ、色々と考える内に、ブーンはひとつの考えに思い至った。

全部だ、と。

ここ一ヶ月間の経験の全てが、「守るために戦う」という結論を導き出してくれたんだ、とブーンは思った。
『影』と戦ったり、ジョルジュと出会ったり、ツンの心を壊されたり、クーの過去を聞いたりといった、様々なことが自分の心を定めてくれた。

そして、「もうこれ以上誰も傷つけさせないために戦う」という、ありきたりだけれども自分にとっては大事な結論を出すことができた。

これまでの経験が、自分を成長させてくれたのだ。

(´・ω・`)「そうか……なら、あの兄弟が言っていたことについてはどう思うんだい?」

( ^ω^)「……戦えば、敵の守りたいものを壊してしまう、ということかお?」

(´・ω・`)「そう。どう思う?」



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:41:21.38 ID:FKCcxNOW0
  

流石兄弟が言っていた言葉。
『戦えば、相手の守りたいものを壊してしまう』ということ。

相手にだって守りたいものがあるから、戦う。
それは当たり前だ。こっちに守りたいものがあれば、あっちにもそれはある。
で、守りたい対象が違うから戦いは起きてしまう。

けど、それがわかったからといって何になる?
敵は敵でしかないのだ。敵のことを考えたからといって、こっちの守りたいものが守れるとでも?

自分はキリストじゃない。人類皆平等だなんて……理想はそうでも、現実は不可能なことなのだ。

( ^ω^)「仕方のないことだお。戦いって、そういうものだから……」

そう、だからそれは仕方のないことなのだ。
敵のことなんて考えることはできない。自分のことで精一杯なのだから……

どこか胸の奥が痛みつつも、ブーンは『従者』に対してそう答えた。

(´・ω・`)「そうか。君がそう思うなら、僕はそれでいいよ」

そう答えて、もう用事は済んだとばかりに『従者』は立ち上がった。

毎回思うのだが、この問答に何の意味があるのだろうか?
『従者』はいつも意味不明なこと言ってくるだけで、何一つ彼(彼女)の正体についてわかったことはない。
『ゲシュタルト』と以前言っていたが、それもまるで意味不明だ。



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:43:31.32 ID:FKCcxNOW0
  

(´・ω・`)「じゃあ、頑張って」

( ^ω^)「あ、あの……いったい、あなたは誰なんだお?」

(´・ω・`)「僕かい?」

『従者』は首をかしげて考え始める。どうしてそんな当たり前のことを聞くんだ? とでも言いたげに。

(´・ω・`)「僕は僕だよ。僕以外の何者でもない」

( ^ω^)「いや、だからその『僕』がわからないんだお」

(´・ω・`)「君が最も知っていて、最も知らない人。それでいて最も好きで、最も嫌いな人。君の中にいて、外にもいる人」

( ^ω^)「……意味不明だお」

(´・ω・`)「まあ、次に会う時には分かるんじゃない?」

「じゃ、僕は行くから」と言って、『従者』はいつものごとく、額に手の平を乗せてきた。
するとやっぱり眠気が襲ってきて、ブーンはそれに逆らうことなく目を閉じた。

(´・ω・`)「君と僕に人の祝福があらんこと……」

『従者』の声は異様にはっきり聞こえたけど、逆にとても遠くから聞こえたようにも感じた。





  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:45:55.77 ID:FKCcxNOW0
  



『影』の殲滅戦を、明日決行する。

その言葉が狐の口から出されたのは、12月24日、クリスマスイブの朝だった。

その日は特に寒さが強烈になっていて、ビル内の暖房もいつも以上に強く設定されていた。

( ^ω^)「明日……」
川 ゚ -゚) 「ついに、か」

クリスマスの朝、樹海に赴いて『影』の殲滅を行う。

今日の朝、緊急の会議とかで呼び出されたブーンが耳にしたのは、そんな狐の言葉だった。

狐たちはここ2、3日、死に物狂いで働いていた。
狐が廊下を走り回ったり、四六時中電話をかけていたり、
クーが朝から晩まで剣道場で訓練をしていたり、
しぃが「開発室」という部屋から一歩も出てこず、つーの世話をする暇もなくなったり、
モナーが各部署に命令を出すために一日中作戦室にこもっていたり、
ぃょぅは情報収集を進めるためなのか1度もビルに帰ってこなかったり、

こっちから声をかけられないぐらいに、みんな忙しそうにしていた。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:47:53.34 ID:FKCcxNOW0
  

一方の自分達は、いつもどおりのニート生活を送っていたのだが、気持ちの面では少し違っていた。
意識のないツンを世話したり、
以前より強くなったらしいドクオと一緒に訓練したり、
ショボンと一緒にリンゴを食べたり、

色々と無駄な日々を送っていたが、その裏で心は戦いに向けて準備万端だった。
冷静ながらも熱い心で。
流れる水のような心で。
決行の日を待っていた。

ブーンは握りこぶしを作って、狐達の話に聞き入る。
もう戦うことに迷いはなかった。

狐「うん、開発部の方でなんとか『あれ』が完成できたからね。彼らには感謝しないと」

( ´∀`)「ここ最近徹夜ばかりで死にそうだったらしいモナ」
(*゚ー゚)「私もアドバイザーとして長く働いてたから、もう肩こりがひどくって……」

狐「君達には感謝しているよ。よく頑張ってくれた」

「作戦はこうだ」と話を切り出し始めた狐。
同時に、プロジェクターから正面の白いシートに向かって光が放たれ、何かの地図らしきものが映し出される。
どうやら、樹海の地図のようだ。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:50:05.48 ID:FKCcxNOW0
  

森を描いているその地図上に、赤い点が次々と表れてくる。おそらく、この赤い点は『影』を表しているのだろう。
その数はどんどん増えていき……ついには樹海全域を覆い尽くしてしまった。

狐「現在の『影』の数は推定5000体。おそらくこれからも増え続けると思われる。
  今は警察による封鎖を行い、観光客などが入らないように注意しているが、
  これだけの『影』が1度に外に出れば、パニックではすまないだろうね」

狐の重苦しい調子の言葉と共に、モナーが動き出した。立ち上がり、近くに置いていたダンボール箱を持ち上げ、テーブルに置く。

狐「『影』がいる範囲は樹海全域、つまり3000ヘクタールほど。わかりやすく言えば、東京ドーム750個分ぐらいかな。
  これだけの数の『影』を一気に殲滅させるために、今回新兵器を用意した」

「これだ」とダンボールの中からひとつの白い筒を取り出した。
だいたい長さ1メートル、半径10センチぐらいの円柱で、鉄製と見受けられる。
白色の表面には『H.L』という黒い文字が書かれていた。

狐「『Heaven’s Light』……対影用広域破壊兵器だ。
  これで破壊できる範囲がひとつで800ヘクタール。4個用意したので、 ぎりぎり樹海の面積内に収めることができる」

対影用の兵器……?
ブーンはそれを見て、あれ?と疑問を感じた。
確か、『影』には通常の兵器はまったく通じないのではなかったか?
だから『気』の使い手が必要だったんじゃないのか?



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:53:17.20 ID:FKCcxNOW0
  

その疑問を読み取ったかのように、狐が「この兵器について、しぃ君から説明をしてもらう」としぃに話を振った。

しぃが立ち上がり、プロジェクターの画面も同時に変わる。『H.L』の図解画面が現れた。

(*゚ー゚)「通常、『影』に対してはどんな兵器も無効となっています。
    『影』を倒すためには『気』をまとった武器で攻撃するしかない。そう思われていました」

うん、だから『天国』でクー達が必要だったんだし、今もぃょぅやモナーといった『気』の使い手がここにいるのだ。

(*゚ー゚)「しかし、ブーン君の光は違います。『気』と似ていながらもその性質はまるで違う。
    『影』の身体とも、世界の物質とも反発する作用を持つブーン君の光を、今回の『H.L』に応用しました」

しぃがひとつの小さな白い円筒を取り出した。「H.L」を一回り小さくしたようなものだ。

(*゚ー゚)「物質と反発するということは、つまり『気』と違って透過・浸透の作用を持たない。ひとつの器に閉じ込めることができる、ということです。
    ならば、圧縮することも可能となる。
    800ヘクタール分の光をこの『H.L』に圧縮し、火薬と共にそれを爆散させれば、急激な光の膨張を起こす――つまり『光の爆弾』となるのです」

「ブーン君、ちょっと来て」と頼まれ、ブーンは立ち上がってしぃの近くにいく。

(*゚ー゚)「この小さい筒に光を注いでください」

( ^ω^)「は、はあ……」



  
48 名前: ◆ILuHYVG0rg [>>45山の手線で囲まれた面積] 投稿日: 2006/12/02(土) 00:55:47.87 ID:FKCcxNOW0
  

言われるがままに、その小さい白い円筒に光を注いでみた。
さっきからしぃの言っていることはまったく理解できない。何やら自分の光を使ったすごい兵器のようだが……

手の平から出る淡い光を、しぃの指し示す場所へと注いでみる。
光を注入し終えると、しぃがその円筒を床に置く。
円筒のデジタル表示の部分が「OK」という表示を浮かべた。

(*゚ー゚)「今注いだのは、だいたい半径30センチほどの光です。注ぎ終えた後にスイッチを入れます。で、少し待つと……」

ボン!

しぃが口を閉じた瞬間、白い筒から光が漏れ出した。

その光は急速に丸いボール上の光が形成していく。
半径30センチほどの光の爆発が生じたのだった。

数秒後には、ボール状の白い光が床の上に転がっている。
ブーンはそれを見て、なんだか不思議な気分になっていくのを感じた。
自分の手以外から現れた光……懐かしいような、寂しいような、そんな感じ。

光はだんだんと収束していく。最後には白い円筒だけがその場に残った。



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 00:58:07.59 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚ー゚)「今の光は『影』だけに作用するようになっているみたいです。なぜなのかはわかりませんが……」

( ^ω^)「たぶん、僕がそう望んでいるからだと思うお」

(*゚ー゚)「そうですか? ま、まあ人に影響を及ぼさない保障もないので、それに関してはまた対策を講じています。
    とりあえず言いたいことは、これを使えば、広範囲に『影』を殲滅させることが可能ということです」

しかし、としぃが言葉をつなげる。

(*゚ー゚)「もちろん、欠点もあります。ひとつは、光の圧縮に時間がかかること。
    800ヘクタール分の光をこの円筒に圧縮するためには15分ほどの時間がかかります。
    そしてもうひとつが……」

川 ゚ -゚) 「もうひとつが?」

(*゚ー゚)「……火薬の起爆から『光の爆発』へと移るまでの時間が、マチマチなんです。
    10秒で爆発することもあれば、5分もかかることがあって……
    しかも、圧縮中や爆発前に強い衝撃を与えると、それだけで壊れてしまうんです」

川 ゚ -゚) 「ということは……」

狐「空からの投下は不可能、ってことだ」

( ^ω^)「?? どうしてだお?」



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