( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:00:21.40 ID:FKCcxNOW0
狐「つまりね」
狐が円筒の『H.L』を持ちながら、説明をし始める。
狐「爆弾っていうのは、使用者が爆発させたい時に爆発するから、兵器としての価値があるんだ。
10分後に爆発させたいのに、30分後に爆発しちゃあ、作戦も何も成り立たないし、その前に敵に爆発を止められてしまうかもしれない。
それと同じで、もし空からこの『H.L』を投下しても、爆発までの時間がわからないから、その前に『影』に壊されてしまうかもしれない。
そもそも、衝撃に弱いから投下という手段をとること自体ができない」
( ^ω^)「は、はあ」
狐「だから、この『H.L』は人の手で運ばなくちゃいけないんだ」
(*゚ー゚)「すみません。もっと実用性のあるものにしたかったんですが……」
狐「いや、これで十分だよ。よく完成させてくれた。
で、だ。この『H.L』を使って『影』を殲滅させるには、色々と工夫を凝らさなくちゃいけない。
まずこの地図を見てくれ」
狐がスクリーンに映る樹海の地図を、棒で指し示す。
棒の先は、樹海の入り口を指し示していた。
- 54: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:02:32.67 ID:FKCcxNOW0
狐「まず、この場で4つの『H.L』にブーン君の光を注ぎ込み、圧縮が完了するのを待つ。
もちろん、『影』には見つからないようにね。
15分ほどで圧縮は完了だ。ブーン君には光を注ぎ込む作業をなるべく早くやってほしい」
( ^ω^)「は、はいですお」
狐「緊張しないでいいからね。問題はここからだ。
圧縮が完了した『H.L』の起爆スイッチを押しても、起爆までの時間はほとんど不明と言っていい。
もし入り口で起爆スイッチを押してすぐに爆発でもされたらたまったもんじゃない。
だから、起爆スイッチを押すのは作戦における所定の位置にたどり着いてからにしてもらいたい」
その所定の位置とはここだ、という狐の声と共に、4つの青い点が樹海の地図上に浮かび上がる。
青い点はそれぞれ等間隔に離れており、線で結べば正方形ができるような位置を取っていた。
狐「この所定の場所で爆発させれば、樹海全域を覆うことができる。
問題は、この場に着いてから後の話だ。スイッチを入れた後、起爆までには時間がかかる場合がある。
『影』に気付かれて破壊でもされたら、その場で作戦は失敗だ。
だから、『影』からこの『H.L』を守ってほしいんだ。ブーン君、クー君、モナー君、ぃょぅ君の4人で、ね」
- 56 名前: ◆ILuHYVG0rg [>53ジョルがすごいイメージ通り] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:05:46.78 ID:FKCcxNOW0
川 ゚ -゚) 「『H.L』は全部で4つ。私達は4人……
1人ひとつを受け持ち、この所定の位置で『H.L』を守るということですか?」
狐「その通り。起爆しても、この爆弾の光は『影』にしか影響を及ぼさないから、大丈夫だ。
ブーン君が望めば、何を破壊するのか、破壊しないのかが自由だからね。
そうだろう?」
( ^ω^)「た、たぶん」
狐「うん、もし影響を及ぼすにしても、しぃ君が言ったとおり、その場合の対策もちゃんと講じている。
作戦としてはこんな感じだ。
もちろんこれは簡単なことじゃない。5000体の『影』がうじゃうじゃといるんだ。いくら君達が強いと言っても、長くは持たないだろう。
しかも、『影』に対抗できるのは君達しかいないから、援護はほとんどない。最初に『影』をひきつけるぐらいだね。
だが、作戦としてはこれぐらいしか思いつかなかった。やってくれるかい?」
狐の早口の問いかけに、会議室の中がしんと静まり返った。
誰も彼もが顔を俯け、何も言おうとはしない。クーでさえ、苦渋の表情を顔に浮かべている。
それもそうだろう。こんな作戦、無謀としか言いようがない。
5000体の『影』の中を、爆弾ひとつ持って突撃し、爆発まで守る。
そんなことが、果たしてできるのか?
- 57: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:07:51.45 ID:FKCcxNOW0
( ^ω^)「……やるお」
ブーンは自分の言葉を確かめながら、決意に満ちた声で言った。
( ^ω^)「それでこの戦いが終わるなら……どんなことだってやってみせるお」
それが自分の仕事であり、自分のやりたいことであり、やるべきことだから。
思いを込めてそう言い切ったと同時に、横に座っていたクーが「ふっ」と微笑んだ。
川 ゚ -゚) 「……そうだな。命をかけるとまでは言わないが、賭ける価値のある作戦だ」
( ´∀`)「いつだってOKだモナ。絶対にやってみせるモナ」
(=゚ω゚)ノ「僕はそんなに強くはないけど……守るぐらいなら、やってみせるょぅ!」
(*゚ー゚)「私も、全力でサポートします!」
狐「みんな……」
みんなの決意に満ちた表情と言葉。
それを聞いた狐が感慨深げに呟き、「よし」と次の言葉を繰り出す。
ブーン達は彼の次の言葉を黙って待った。
- 60: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:09:23.20 ID:FKCcxNOW0
狐「ひとつだけ、お願いがある」
会議室が、また静まり返った。
狐の言葉が澄み渡り、これが最後の戦いなのだという実感を生んでくれている。
狐「……死なないでくれ」
( ^ω^)・川 ゚ -゚) ・( ´∀`)・(=゚ω゚)ノ「了解!」
決行は、明日の早朝。
『影』の活動が鈍りつつも、ちゃんと周りを見渡せるぐらいの明るさになる時間帯に、その作戦は始まる。
※
- 61: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:11:10.29 ID:FKCcxNOW0
※
――特別治療区域 ツンの病室
('A`)「そうか……行くんだな」
(´・ω・`)「今回はかなり厳しい作戦だって聞いてるけど……」
( ^ω^)「そんなことないお。みんなでやれば、きっと成功するお」
ブーンは今、ドクオとショボン、そしてツンに明日の作戦について説明をしていた。
もちろん、自分が理解できたのは大枠だけだったので、所々端折りながらだったが、
危険な作戦であるというのはドクオとショボンにも理解できたようだった。
会議が終わって数時間が経ち、VIPのビル内は騒がしくなってきていた。
(´・ω・`)「強くなったよね……ブーンは」
( ^ω^)「お? そうかお?」
('A`)「そうだな。だって、死ぬかもしれない作戦なんだぜ? 前まではいじめられて泣いてた奴が、まさかねえ……」
(´・ω・`)「人って成長するんだなあ、って改めて思い知らされたよ」
( ^ω^)「褒めてるのかからかってるのかわからないおww」
- 64: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:13:11.67 ID:FKCcxNOW0
自分は強くなった?
そんなことはない。前と同じで、まだまだ弱いままだ。
変わったことと言えば……守りたいものができたこと。そして、守りたいと心から願うようになったこと。
それらが、自分を突き動かしてくれる。どんなに怖い作戦でも、やってやろうと思える。
みんなのおかげなのだ。
みんながこうやって自分の周りにいて、自分を見ていてくれるから、頑張れるのだ。
ブーンが心の中でそんなことを考えていると、「ねえ」とショボンに声をかけられた。
(´・ω・`)「全部終わってさ、家に帰れるようになったら……まず、何をしようか?」
('A`)「カラオケとかいいんじゃね? 最近歌ってないからなあ」
(´・ω・`)「僕はみんなでくそみそテクニックを極めるのもいいかと思うんだけど」
('A`)( ^ω^)「コンビニのATM相手にやってろ」
(´・ω・`)「ショボーン」
帰ったら何をする? か。
これまで、家に帰りたい帰りたいと思ってばかりで、帰って何をするかなんて考えたこともなかった。
いったい、自分は何をしたいんだろうか? カラオケ? 遊びに行くこと? 勉強?
- 67 名前: ◆ILuHYVG0rg [>62それ書こうかとも思ってたw] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:15:08.92 ID:FKCcxNOW0
( ^ω^)「……」
('A`)「ブーンはなんかあるか?」
( ^ω^)「え? あ……うーん……」
ブーンは考えてみる。
こんなことを考えるのは久しぶりのことのような気がしつつ、思い浮かんだことを口にしてみた。
( ^ω^)「……卒業できたらいいなあ、って思うお」
('A`)「卒業? 童貞か?」
( ^ω^)「違うおwww 僕は魔法使いまでいくつもりだおwww
そうじゃなくて、学校だお。学校を卒業して……そこから、何をやりたいか探したいと思うお」
('A`)「そうか……まあ、俺たちが言っていたのは遊びのことなんだが……そうだな、卒業、したいよな」
(´・ω・`)「僕とブーンとドクオとツンで、卒業証書を持って、校門をくぐりたいよね」
しんみりとした空気が部屋の中を流れる。みんなが黙りこくってしまい、それぞれ学校に関して思いを馳せているようだった。
なんとなく居心地の悪さを感じたブーンは、行き場に困った視線をツンの方へと向けてみた。
- 69: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:17:21.87 ID:FKCcxNOW0
ツンは今日も眠っていた。最近は1日の半分を眠っているらしく、起きている時間が少ないと聞いた。
それは症状が重くなっていることの証であるらしく、これ以上病状が悪くなると、一生眠り続ける状態になってしまうというのだ。
ξ 凵@)ξ「……」
そんなこと、あるわけがないと思いながらも、そうなった時はどうしよう?
ツンが一生眠り続けるのなら、自分はどうする?
ずっと彼女の傍にいるのか?
それとも彼女を見捨てるのか?
……そんな時、ブーンは考える。彼女ならどうしてほしいと思うだろうか? と。
「あんたの世話になんかなんないわよ!」だろうか?
それとも、「お願い、一緒にいて」だろうか?
おそらく赤くなりながら前者の言葉を言うんだろうけど……
たぶん、ツンはみんなに一緒にいてほしいと思うだろう。そんな気がする。
だったら自分は……自分達はツンと一緒にいよう。彼女のためにも、自分達のためにも。
- 71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:19:23.47 ID:FKCcxNOW0
ξ 凵@)ξ「……」
( ^ω^)(ツン……全部終わったら、1度みんなで海か山にでも行くお)
ブーンはポケットの中からひとつの小さな箱を取り出した。
それは、先日ドクオ達と話していたクリスマスプレゼント……ツンにあげるつもりだった、自分の気持ち。
箱からその気持ちを取り出し、ゆっくりとツンの細い右手の薬指につけていく。
シルバーの安物だったけど……きっと、これを見ればツンは驚く。
「な、なにこれ!?」と言って顔を赤くするだろう。
その時のツンの顔が見ものだ。きっと、笑いながら幸せな気分に浸れることだろう。
ブーンは満足げにツンの薬指を眺め、微笑んだ。
後ろのドクオとショボンが笑っている気配がするが、気にしない。笑いたければ笑え。もう何を言われても大丈夫だ。
その時、コンコンと扉がノックされる音。
- 72: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:20:08.20 ID:FKCcxNOW0
(´・ω・`)「はい?」
「私だ」
クーの声だった。
ショボンが扉を開くと、神妙な顔つきのクーが立っていた。
川 ゚ -゚) 「すまない。ちょっといいか? 君達に提案したいことがある」
('A`)「提案?」
川 ゚ -゚) 「ああ」
※
- 75: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:22:35.27 ID:FKCcxNOW0
※
クーに連れてこられたのは、ビル内の通信室だった。
ここでは、政府相手の通信から、周辺国の通信の傍受、協力組織との連絡、などなど、『VIP』における通信業務の全てを担っている。
そして、自分達に差し出されたのは電話3つ。
大事な人と連絡を取りたいだろうから、ひとつずつ受話器に耳を当てろとクーに言われ、
ブーン達はわけがわからず言うことだけを聞いた。
Pururururu
呼び出し音が鳴っている。いったいどこにかけているんだろうか。
『もしもし……ktkr孤児院じゃが』
( ^ω^)「あ、荒巻院長!?」
/ ,' 3『ん? その声はブーンかの? お〜、久しぶりじゃのう』
電話に出たのは、ktkr孤児院の院長であり、ブーンの育ての親でもある荒巻だった。
『影』に襲われてから、荒巻には1度も連絡していなかった。
狐が何やら手を打っていたらしいが、孤児院のみんなには心配をかけていないか不安に思っていたところだ。
提案とはこういうことなのだろう。
大事な人と連絡をとるということ……自分にとっては、育ての親である荒巻と。
- 76: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:24:50.38 ID:FKCcxNOW0
/ ,' 3『急に留学が決まったとかで驚いたぞい。どうじゃ? 元気か?』
( ^ω^)「は、はい。元気ですお」
どうやら、自分はどこかに留学していることになっているらしい。
けど、こんな時期に留学だなんて、常識的に考えておかしいのだが。
まあ、荒巻なら信じてもおかしくはない。それくらいにお人よしなのだ、彼は。
/ ,' 3『よかったのお。色々と学ぶことが多かったじゃろう?』
( ^ω^)「それは……はい。大事なことをいっぱい学んだお」
/ ,' 3『帰ってきたら話を聞かせてほしいものじゃのう。
お前が帰ってきたら、おかえりパーティをやろうと計画中じゃ。
ヒッキーももうすぐ退院じゃからの。って、お前は知らなかったか?』
知っている。ヒッキーは自分のせいで……
/ ,' 3『ヒッキーは急病とかで入院中なんじゃ。じゃが、前に見舞いに行った時はもう元気そうじゃったぞ。
あと1週間もすれば退院じゃそうじゃ』
( ^ω^)「そうなのかお……ヒッキー、早く元気になってほしいお」
- 78: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:27:25.61 ID:FKCcxNOW0
/ ,' 3『お前も元気にやるんじゃぞ?』
( ^ω^)「はい……ですお」
ブーンは受話器を強く握り締めた。何もしらない荒巻に全てをぶちまけたい気分になったが、なんとかそれは抑えた。
話すのは、全てが終わってからでいい。
/ ,' 3『じゃあ、そろそろじゃなあ……
お、そうだ、ブーンよ』
( ^ω^)「はい」
/ ,' 3『これから何か大事なことがあるんじゃろう?』
( ^ω^)「え…あ…」
/ ,' 3『言わなくてもわかる。お前の声なんて何十年と聞いてきたからの。声の調子が違う』
荒巻は少し笑いながら、静かに言った。
こちらの心を的確に捉えているその言葉は、まるで本当の親の口から言われているようだった。
/ ,' 3『気にするな。何も咎めはせんよ。お前はお前の信じたことを貫けばいい。どんなことでもな。
わしはお前が選んだことなら、喜んで賛成する』
( ^ω^)「……」
/ ,' 3『だから、がんばるんじゃぞ』
( ^ω^)「……はい」
/ ,' 3『じゃあの。そろそろわしも仕事じゃ』
- 80: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:29:59.55 ID:FKCcxNOW0
電話を切る気配がして、ブーンは慌てて「院長」と荒巻に呼びかけた。
/ ,' 3『ん?』
( ^ω^)「……ありがとうだお」
/ ,' 3『何を水臭いことを。じゃあの。元気で帰って来いよ』
プツン、と電話が切れた。耳にはぷーぷーという音が鳴り続けている。
受話器をゆっくりと置いたブーンは、自然に流れ出そうになる涙を、目頭を押さえることでなんとか止めた。
荒巻院長――自分の育ての親。
捨て子だった自分を拾ってくれて、ここまで育ててくれた人。
そして、本当の親のように優しい人。
感謝してもしきれない。彼の優しさには。
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