( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:00:03.85 ID:feDzEIXR0
  
第21話

12月25日、朝。
太陽が地平線から姿を現し、地上を照らし始めていた。
長い夜を切り裂いて、光の粒子を空気中にばら撒く太陽。
その光はどんな場所にでも、どんなものにでも平等に降り注ぎ、平等に暖かさを与えていく。

そんな時間、樹海ではまだ薄暗さが残りつつも、徐々に森に明るみが帯びてきていた。
冬の今は、それほど葉も茂っておらず、所々が枯れているものも多い。
だが、それでも『樹海』と呼ぶのにふさわしいほどの木々がそこにはある。

様々な種類の木が混在する原始林。地上に降り注ぐはずの光を遮り、昼であっても薄暗さを保つその地。
誰もが入るのを嫌い、俗説ではあるものの「入れば脱出できない森」と言われるだけの不気味さを持っている。



  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:01:52.37 ID:feDzEIXR0
  

だが、その中に人の姿はなかった。
観光地でもあるその場所では、休日ともなれば観光客がちらほらと見られるが、今は静けさが森の中を支配していた。

「不発弾処理のため」という名目上の理由により、警察が樹海の全て封鎖してしまったからだ。
今となっては森は静寂に包まれ、鳥や爬虫類などの動物程度しか生き物は見られない。

だが、もしそこに人が入れば、まず見えるのは何か?
生い茂る木々? それとも腐葉土と化した地面?

いやそんなものよりも、はっきりと見え、はっきりと見えないものがある。

『影』。

漆黒の身体と、目も鼻も口も持たないその姿は、しかし誰にもその存在を悟られることなく、樹海の中を歩き回っていた。
『影』は深夜に活動が活発になり、昼にはあまり姿を現さないのが普通。
そのため、夜と昼の間である朝は、『影』の活動が鈍りつつも姿を消すことがないという時間帯だった。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:03:46.16 ID:feDzEIXR0
  

幾分か動きがノロくなりつつも、『影』は変わらず樹海を歩き回っている。
5000体を超えるであろう大量の『影』が。

だが、そのことを知っている人物はごく少数でしかない。
周辺の住民はもちろんこと、警察官でさえ、この樹海で何が起こり、これから何が起ころうとしているのか知っている者はいない。
「不発弾の処理」というのが嘘であることを知っているのは、ごく一部の警察官僚と、『影』を倒す者達だけ。

そして、その『影』を倒す者達は今、樹海の入り口で全ての準備を終えていた。

『殲滅戦』

それが今から、始まる。





  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:05:51.67 ID:feDzEIXR0
  



(*゚ー゚)『【H.L】、光の圧縮を開始します。光を注入してください』

通信機から聞こえるしぃの声を合図と共に、手の平から出る光を注ぎこむと、『Heaven’s Light』――『H.L』から空気が抜けるような排気音が弾ける。
デジタル表示の部分には「圧縮中 5%」という表示が浮かび上がった。

(*゚ー゚)『15分ほど注ぎ続けてください。圧縮が完了したら、また連絡します』

狐『じゃあ、君達、改めて作戦を説明するよ』

続いて聞こえてきた狐の声に、ブーンは注入を続けながら、身を固くして目の前の森へと視線を移した。

ブーン、クー、ぃょぅ、モナーの4人は、現在樹海の南の入り口の前に立っていた。
目の前には『A樹海』という看板が立ち、何やらこの場所の説明をしている立て板もある。
おそらく観光にやってきた人はここから入り、中を散策するようになっているのだろうが、自分達の目的は観光ではない。

だが、数え切れないほどの木が立ち並び、そのひとつひとつが奇妙な形をしているこの樹海に目を奪われずにはいられなかった。

都会に住んでいると、これほどの木々に囲まれることなんてまずない。
ここが本当に自分達の住んでいる国なのか? と思えるぐらいにここには雄大な自然が広がっている。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:07:58.65 ID:feDzEIXR0
  

狐『まず、北と東、西の3方向から陽動をかける。
 【VIP】の兵士が何人か突撃・退却を繰り返すことで、【影】をなるべく君達の側から遠ざけておく』

狐の真剣味の帯びた声を聞くのは、これで何度目だろうか?
どうにも慣れない感じがするが、それだけ彼も本気なのだろうということは分かる。

狐『陽動が済めば、君達は圧縮の完了した【H.L】をひとつずつ持って、樹海の中へと入ることとなる。
  まずは4人一塊になって進み、襲ってくる【影】を撃退しつつ、樹海の中央へと向かってほしい』

ブーンは頭の中で地図を思い浮かべて、狐の言うルートをイメージでたどってみる。
南から突入して、4人一緒に樹海の中央へと向かう。うん、大丈夫だ。

狐『そして、中央へとたどりついたら、その時点で今日の朝に渡された2個の四角い装置の内、1つ目の装置のボタンを押す。
  それを押すと、君達ひとりひとりの周りにブーン君の【光障壁】と同じものが、短時間だけど発生させることができる。【疑似障壁】という代物だ。
  これである程度【影】の攻撃を防ぐことができる。
  ただし注意してほしいのは、ストックしておいたブーン君の光がなくなれば【擬似障壁】は消滅してしまう。時間には注意してくれ』

ブーンはみんなの腰にある、文庫本サイズぐらいの四角い白い装置を目を移した。
あそこに自分の光を溜めてスイッチを押すと、弱いながらも『光障壁』を発生させることができるらしい。
開発したのはしぃだと聞いたが、すごいとしか言いようがない。研究所出身というだけのことはあるのだろう。
十数個しか作れなかったというのが残念だが。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:10:23.61 ID:feDzEIXR0
  

狐 『【疑似障壁】発生後、君達は4つに分散して、各自のポイントへ向かってほしい。
   ブーン君は北西、クー君は北東、ぃょぅ君は南西、モナー君は南東だよ』

頭の中の地図でイメージしてみる。
樹海の地図の上に正方形を描き、その中央に4人が集まっている。
そこから、各頂点へと向かう自分達……よし、大丈夫だ。

狐 『ポイントに向かう間も、おそらく【影】の襲撃を受けるだろうけど、ほとんどは無視してもらっていい。【疑似障壁】もあるしね。
   で、ポイントについた後、各自タイミングを合わせて起爆スイッチを押す。本番はここからだ』

ブーンは、いまも光の圧縮を続けている『H.L』をチラリと見てみた。
起爆スイッチは円筒の上面に位置している。ここを3秒間押せば、スイッチが入ったことになるらしい。

狐 『しぃ君の調べでは、スイッチを押してから爆発するまでには最短で10秒、最長で30分かかる。
   君達には、爆発するまでの間、【H.L】を守ってもらう。
   その頃になるとひとつ目の【疑似障壁】も切れかかってきているだろうから、自分の実力で守り抜いてもらうしかない。
   もちろん、【H.L】にも【擬似障壁】は張っているけど、それも10分程度の代物だ。
   安心はせず、なんとかして守ってもらいたい』



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:12:45.50 ID:feDzEIXR0
  

無茶な作戦と言えるだろう。
5000体の『影』がうごめく中で、たったひとつの兵器を守るために最長30分も戦わなくてはならない。
前も横も後ろも『影』の中で、どうやって戦えというのか?

だが、やるしかないのも現実。
いざとなったら、自分の力の全てを使い尽くしてでも、『H.L』を守り抜くしかない。

狐 『そうして守り抜き、【H.L】が爆発する際だが、この時に2つ目の【疑似障壁】を発生させてもらう。
   【H.L】の爆発は人間や周りのものには影響を与えないと言うが、そうではないとも言い切れない。
   だから、【疑似障壁】でその爆発をしのいでもらいたい。もちろん、爆発の際にはなるべく【H.L】から離れて、ね』

それはたぶん大丈夫だと、ブーンは思っていた。
『H.L』の爆発は、きっと『影』にしか影響が及ばないはず。
だって、ラウンジ教を吹き飛ばした時だって、大事な人であるツンやクーを吹き飛ばすことはなかった。
それと同じで、クーやぃょぅ、モナーといった大事な人を、光の影響を受けるはずがない。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:15:13.97 ID:feDzEIXR0
  

狐 『時間差はあるだろうけど、全ての【H.L】が爆発すれば、【影】のほとんどを殲滅できる。
   もし、爆発の時間差で逃れることができた【影】があっても、それは微量だ。君達が力を合わせれば、すぐに殲滅できるはず。
   これが私達の考えうる、安全かつ最短時間で行える作戦だ。
   そろそろ圧縮が完了するはずだけど……』

(*゚ー゚)『はい。あと3分で圧縮が完了します』

狐『そうか。じゃあ、君達、用意して』

その声と同時に、みんなが立ち上がった。

川 ゚ -゚) 「よし……」

左の腰に刀が2振り、右の腰に『疑似障壁』の装置と拳銃を携えたクーが、ひとつ大きな息を吐いて、気合を入れる。

(=゚ω゚)ノ「準備……OKだょぅ」

ぃょぅの武器は短刀らしく、腰には小太刀が1振り、服の中にはくないが何十本と忍ばせているらしい。
いざとなって、小枝でもOKだとか。

( ´∀`)「今日は調子がいいモナ」

一方のモナーは武器ではなく、徒手格闘が主らしい。
彼の『気』に相性がよかったのはグローブと靴らしく、その周りに『気』を発生させて、格闘戦で『影』を倒す。
武器を使わないのは珍しいタイプだとか。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:17:29.36 ID:feDzEIXR0
  

( ^ω^)「……うん、大丈夫だお」

そしてブーン自身も、まだ光を『H.L』に注ぎこみながらも、準備が万端であることを確認した。
手には何も持たず、腰には『疑似障壁』の装置(必要ないかもだが)。
武器は何も持たないが、自分の武器は自分自身なのだ。
手の平から湧き出る白い光を見つめながら、ブーンは「よし!」と気合を入れた。

狐 『準備はいいみたいだね……ああ、ブーン君、君に話しておかないといけないことがある』

( ^ω^)「なんだお?」

狐 『彼らだよ』

('A`)『おー、ブーン。大丈夫か? 緊張してないか?』
(´・ω・`)『緊張したら、手の平に【男】と書いて飲み込むんだよ』

( ^ω^)「ドクオ! ショボン!」

通信機から突如聞こえてきた見知った声に、ブーンは驚いた。
どうして彼らがここに?

('A`)『俺たちじゃねえぜ。ツンもここにいる』
(´・ω・`)『みんなで君の活躍を見ようって決めたんだ。迷惑かな?』

( ^ω^)「そんなことないお……心強いお!」

仲間の声が聞こえるというだけで、自分は強くなれる。
そういう意味もあってなのか、狐のこの計らいには本当に感謝できた。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:19:55.20 ID:feDzEIXR0
  

('A`)『がんれよ、ブーン』
(´・ω・`)『一発【影】を掘っちゃいな』

( ^ω^)「ありがとうだお!」

狐『うん、じゃあそろそろ作戦の開始時間だ……用意はいいかい?』

( ^ω^)「はいですお」
川 ゚ -゚) 「いつでもどうぞ」
(=゚ω゚)ノ「いくょぅ!」
( ´∀`)「……OKだモナ」

(*゚ー゚)『圧縮、完了しました。各自ひとつずつ【H.L】を持ってください』

光を注ぐのを止めたブーンは、『H.L』を背中に担ぎ始めたクー達に習い、ひとつを手に持ってみた。
『H.L』には何やら紐のついた土台の上に乗せられており、その紐を肩にかけるとがくん、とその重さが感じられた。
せいぜい2,3キロの重さらしいが、これでもけっこうきつい。自分に筋力がないからだろう、たぶん。

狐 『よし……06:00時、作戦を開始する。陽動開始』

狐の言葉と共に、通信機から『了解』という陽動部隊の返答が聞こえた。





  
21: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:21:50.57 ID:feDzEIXR0
  



陽動部隊の行動は迅速だった。

短機関銃と目くらましのフラッシュグレネードを持ち、身体にはボディアーマーを着込んだ彼らは、まずわざと『影』に対して姿を現す。

陽動部隊の姿を捉えた『影』は、最初は興味のなさそうにそれを見ていたが、
陽動部隊から銃撃をいくつか受け、フラッシュグレネードの光を浴びると、彼らを敵性と認定し、すぐさま襲い掛かっていく。

普段は犯罪者しか襲わない『影』だったが、特定の人物や自分達に敵対する者には躊躇せず襲い掛かっていく性質を持つ。

今回はその性質を逆手に取り、わざと攻撃を浴びせることで『影』をおびき寄せる作戦だ。

『影』に襲われた陽動部隊だったが、彼らは1人が襲われるともう1人が攻撃して注意を自分に向け、そちらが襲われれば今度はまた別の1人が攻撃するという戦法を繰り返す。
そうしながらだんだんと後退することで、中央から北、西、東の一端へと『影』をおびき寄せ、南をがら空きにさせることが目的だ。

その甲斐もあってか、この作戦において重要な南区域の『影』の数はだんだんと減ってきていた。

だが、それでも『影』がその区域から消えたわけでもない。人を殺すには十分すぎるほどの数の『影』が、うじゃうじゃといるのだ。
それに、陽動にも限界がある。『影』を倒すことのできない陽動部隊では、せいぜいおびき寄せる程度しかできない。
限界が来れば彼らは退却せざるをえず、後は何度か陽動を繰り返して「彼ら」に任せるしかなかったのだ。

そう。唯一『影』を倒すことのできる能力の持ち主である「彼ら」に。





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