( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:37:37.92 ID:1cg+xCnj0
  
第23話

ヘリは機体の限界並のスピードを出していく。
ローターが回る音と、風を切る音だけが聞こえ、眼下の景色は目まぐるしく変わっていった。
しばらくの間は森や山、畑しか見えなかったが、数十分もすると民家やビルがちらほらと見られてくる。

ブーン達の乗るヘリは樹海を抜け、都心部に向かって飛んでいた。
他にも2機のヘリがその隣を飛んでいる。
それらは護衛用のヘリで、腹には『VIP専用コブラ』と書いてあった。

コブラは、ヘリ単体では最強の呼び名も高い、武装ヘリだ。
毎分4000発の20ミリガトリング砲と、胴体中央部には4箇所のパイロンがあり、
ロケットランチャーや対戦車ミサイルなどが700キロ程度まで搭載可能の重武装ヘリ。

それらの護衛に先導されつつ、樹海から退却して数十分。
目的地である『VIP』のビルへと向けて、真下で惨劇が繰り広げられている中、ヘリは飛んでいく。





  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:40:17.15 ID:1cg+xCnj0
  



ヘリに乗るのはこれで2、3回目だった。
『影』の討伐のために何回か乗ったことがあるが、まだ慣れてはいない。
ローターの回る音と微妙な揺れで、少し酔いそうになってしまう。バス酔いにも弱い自分としては当然なのだろう。

だが、それ以上に眼下に広がる惨状に目を奪われてしまい、酔いどころではなかった。

( ^ω^)「ひどいお……」

川 ゚ -゚) 「なんということだ……都市部はほとんど壊滅状態か」

ヘリパイ「避難は進んでるみたいだけど、取り残されてる人もいるって話です。ひどい状況です」

上空から見下ろすことのできる街の状況。

電柱はなぎ倒され、コンクリートの破片が散乱する道路。
ところどころで煙があがり、時には火の手があがっている住宅街。
窓の割られたビルの中には、電灯だけが点いた無人のオフィスが覗き見える。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:42:17.05 ID:1cg+xCnj0
  

そんな建物の間や道路の上に時々見える黒い点のようなものは、おそらく『影』なのだろう。
家の壁や道路を壊し続けているそれは、まるで機械のように破壊活動だけを行っている。

そして、遠くから聞こえる何かの爆発音。悲鳴。怒号。

混乱だなんてレベルじゃない。大地震が起こった直後のようなこの悲惨さ。

これは全て、ジョルジュたちが起こしたことなのか?

( ^ω^)「……こんなこと」

ブーンはそれらの惨劇を見つめ、彼の言葉をもう一度思い出し、そして歯軋りした。

これが、ジョルジュのやりたかったこと? ジョルジュの目的?

恐怖で世界を安定させる。そうして人類の心をひとつにする。

人々の大事なものを壊し、夢や希望なんてひとつもない深い絶望を与えることが、目的だというのか?

( ^ω^)「間違ってるお……」

これが正しいわけがない。
人の悲しみの上に作られる平和なんて、本当の平和じゃない。

もっと、いい方法があるはずのに、どうしてジョルジュは……



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:44:33.56 ID:1cg+xCnj0
  

川 ゚ -゚) 「ブーン……大丈夫か?」

( ^ω^)「あ、大丈夫だお……クーさんこそ、大丈夫かお? さっきはなんだかぼーっとしてたみたいだったお」

川 ゚ -゚) 「ん……まあな。ちょっと色々と考えるところがあってな」

クーの遠くを見るような目に気付き、ブーンはその心を推し量ろうとしたが、かなわなかった。

考えるところ。

きっと、昔仲間だったジョルジュがこんなことを引き起こしていることが、彼女に複雑な気持ちを抱かせるのだろう。
その気持ちは自分には到底理解できない。
昔仲間だった彼女だからこそ、感じ得る気持ち。

川 ゚ -゚) 「私は止めなくてはならない。あいつを……私が」

( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚) 「……すまない。ひとり言だ。忘れてくれ」

そう言って、クーはヘリの操縦席の方へと行ってしまった。
どうやら航路についてパイロットと話し合うようだ。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:46:15.59 ID:1cg+xCnj0
  

ブーンは視線をぃょぅへと移した。

(=゚ω゚)ノ「……」

彼はヘリに乗ってから一言も喋っていない。
顔を俯け、何事かをぶつぶつ呟きながら考え事をしているようだった。

(=゚ω゚)ノ「……ょぅ」

きっとモナーが裏切ったことについて考えるところがあるのだろう。
これも自分には到底理解できない感情。
自分にとってもモナーが裏切ったことは確かにショックだが、長年同僚として彼と仲良くやってきたぃょぅならではの気持ちというものがあるはず。

それを理解するなんて不可能であり、だからこそ自分は肩を落とすぃょぅを見ても何も声をかけられないのだった。

ヘリパイ「クーさん、もうすぐ『VIP』のビルです」

川 ゚ -゚) 「そうか。とりあえず無線で連絡をしてみてくれ。反応があればいいんだが……」

そんな声が聞こえて、ブーンはドアの窓から外を眺めてみた。
相変わらず、折れた電信柱や火事の赤い光が見える中で、ひとつの大きなビルが目の前に近づいてくる。
『VIP』のビルだ。

外から見るのは久しぶりだった。ずっと中にいたから、こうやって外から見るとなんだか変な感じがする。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:48:33.69 ID:1cg+xCnj0
  

ヘリパイ「……ダメですね。応答がありません」

川 ゚ -゚) 「そうか……」

前から気落ちした声が聞こえてきて、ブーンはもう一度ビルへと目を移す。

確かにそのビルの窓は所どころが割れていて、しかも中からは火事の煙らしきものも見える。
おそらく爆弾が爆発した跡なのだろう、3、4階の壁は無残にも穴が空き、地面にはその破片が散らばっている。
生存者がいるようにも見えず、もうそれは、ただの容れ物と化したコンクリートの塊でしかなかった。

( ^ω^)(ドクオ、ショボン、ツン……)

この惨状を見てしまうと、彼らが無事なのかどうか余計に不安になってくる。

守りたいものがなくなってしまうという不安。
彼らがいなくなった時、自分はどうなるのだろうか?

そんなことは想像もつかないけど、きっと正常ではいられなくなる。それは確信できる。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:50:24.97 ID:1cg+xCnj0
  

川 ゚ -゚) 「くっ……私達だけでは、今の状況を把握することすらできない。無力だな……」

( ^ω^)「……」
(=゚ω゚)ノ「……」

川 ゚ -゚) 「これからどうするべきか……」

ヘリが『VIP』のビルの周りを旋回している間、思案顔で腕を組むクー。

ブーンもまた何かを考え出そうとするが、しかしそんなことを思いつく頭を持っているはずもない。

こういう時に役に立てない自分に腹が立って仕方がなかった。
情報収集だとか作戦の立案だとかできれば、もっと彼らの助けになるだろうに。

戦うことしかできない自分は、こういう時本当に無力だ。
いかに狐たちのバックアップがありがたいものだったかが実感できる。

ブーンはため息をつき、もう一度『VIP』のビルを見てみた。
火の手がかなり回ってきたのだろう。時々窓から炎の端が見えたような気がした。

赤い炎。
それは、これからビルの中を焼いて回り、全てを灰に帰してしまうのだろう。
全国的にパニックが続いている中で、消防車が来てくれるはずもない。
自分達は手をこまねいて、この炎を見ていることしかできないのだ。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:52:18.20 ID:1cg+xCnj0
  

ピーピーピー

と、急に横に置いていた無線機に着信音が鳴った。
いったい誰が? と思いながらスイッチを押すと「ブーン!!」という大声がヘリ内に響き渡った。

( ^ω^)「だ、誰だお?」

('A`)『無事なのか!?』
(´・ω・`)『やあ、ようこそバーボンハウスへ。このテキーラは(ry』

( ^ω^)「ドクオ! ショボン!」

狐『私もいるよ』
(*゚ー゚)『みなさん、無事のようですね。よかった……』

聞こえてくる狐たちの声。

ブーンは腰が砕けそうになるのを必死で抑えた。
よかった……みんな、無事だったのか。

川 ゚ -゚) 「無事だったのか……!」

自分の無線機に声を吹き込むクー。
心なしか笑顔を浮かべているように見えた。



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:54:36.42 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『はいはい、みんな静かに……やあ、クー君かい? どうやら君達は大丈夫だったみたいだね』

川 ゚ -゚) 「所長達こそ、大丈夫でしたか?」

狐 『ああ、ちょっと正体不明の兵士達の攻撃を受けたけど、屋上のヘリでなんとか脱出したんだよ。
   しぃ君やツン君達も無事だ。安心してほしい』

川 ゚ -゚) 「よかったお……!」

ブーンは、心の中の不安が徐々に晴れていくのを実感していた。
今の状況を打破できたわけではないけど、少なくともまだ自分には守るものがあるのだと安心することができた。

狐 『そちらでは何があったんだい? ジャミングを受けたようだけど……』

川 ゚ -゚) 「実は……」

クーが、あの場所で起こったことを手短に話していく。

ジョルジュたちがいたこと。
モナーが裏切ったこと。
彼らが『影』を吸い込んだこと。

そして、ジョルジュの話――『恐怖が世界を安定させる』ということ。

全てを聞き終えた狐は『そうか……』と動揺の隠し切れない呟きを吐いた。



  
20 名前: ◆ILuHYVG0rg [修正orzなぜクーが「お」をw] 投稿日: 2006/12/13(水) 23:55:34.91 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『はいはい、みんな静かに……やあ、クー君かい? どうやら君達は大丈夫だったみたいだね』

川 ゚ -゚) 「所長達こそ、大丈夫でしたか?」

狐 『ああ、ちょっと正体不明の兵士達の攻撃を受けたけど、屋上のヘリでなんとか脱出したんだよ。
しぃ君やツン君達も無事だ。安心してほしい』

( ^ω^)「よかったお……!」

ブーンは、心の中の不安が徐々に晴れていくのを実感していた。
今の状況を打破できたわけではないけど、少なくともまだ自分には守るものがあるのだと安心することができた。

狐 『そちらでは何があったんだい? ジャミングを受けたようだけど……』

川 ゚ -゚) 「実は……」

クーが、あの場所で起こったことを手短に話していく。

ジョルジュたちがいたこと。
モナーが裏切ったこと。
彼らが『影』を吸い込んだこと。

そして、ジョルジュの話――『恐怖が世界を安定させる』ということ。

全てを聞き終えた狐は『そうか……』と動揺の隠し切れない呟きを吐いた。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:57:36.96 ID:1cg+xCnj0
  

狐 『おそらく、今のこの状況は、そういった彼の思想の現れなんだろう。
   恐怖で世界を安定させ、人をひとつにする、か……』

川 ゚ -゚) 「私達はなんとしでもこれを止めなければいけません」

狐 『わかってる。よし、とりあえずこちらに来てくれ。
   私達は近くの避難場で陣を取ってる。ヘリパイにB地点と言えばわかるはずだ。
   すぐ近くだからね、ヘリならそう時間はかからない』

川 ゚ -゚) 「わかりました」

狐 『今世界で起こってる出来事も、そこで詳しく話す。その後に対策を立てよう。
   ただ……』

川 ゚ -゚) 「ただ?」

狐『……いや、いい。このことは後で話そう。じゃ、またね』

プツン、と通信が切れる。
ドクオ達の声をもう一度聞きたかったが、これから行く場所に彼らがいるのだから、そこは我慢だ。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/13(水) 23:59:30.09 ID:1cg+xCnj0
  

ブーンはヘリの中に座り込み、大きく息を吐いた。
彼らが無事でよかった……本当に。
狐、しぃ、ドクオ、ショボン、ツン、つー、そして他のスタッフのみんな。
守りたいものがまだ生きていてくれて、本当に助かった……

クーがヘリパイと何か話しているのを聞きながら、ブーンは空を眺めた。

空はもうかなり明るくなっていた。
太陽は天高く浮かび、地上を照らしている。
腕時計を見てみると、もう昼を過ぎている。

殲滅戦とジョルジュ達との邂逅で、時間がかなり早く進んだような感じがしたが、1日はまだ半分だ。
長い長い1日はまだ続く。

この1日、きっと自分にとって大事なものになるのだろう。
ブーンはそう思いつつ、明るくなった空を見上げ続けた。



  
25: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:01:37.50 ID:gmEhDIqq0
  



ヘリが数十分間飛び続けると、市街地の中でも比較的混乱していない地域へと入っていった。
そこは工場やら倉庫やらが立ち並び、住宅も少なければビルも少ない。
まだ『影』やテロリストの襲撃も受けていないようで、建物が壊されているということもなかった。

どうやら大会社直営の工場らしい。

ブーンはヘリの窓からその場所を見下ろし、驚いた。

人の波。

近くの街から避難してきたのだろう、ブルーシートが敷かれている地面の上は、多くの人々が座っていた。
大人、子供、男、女関係なく、全ての人々が寄り添いあい、互いに励ますように座り込んでいる。
まるで人気歌手の屋外ライブの映像を見ているかのようだ。

だが、ライブと違うのは、時々救護班らしき人に手当てを受けている人がいること。
テロに巻き込まれたり、逃げる時に怪我でもしたりしたのだろう。頭から血を流している人や倒れこんで動かない人もいる。

ひどい状況だった。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:03:20.64 ID:gmEhDIqq0
  

彼らはみんな、不安顔で座り込んでいる。
きっと、これからどうなるかの、自分は生き残れるのか、不安で仕方がないのだろう。

ヘリが彼らの上を飛んでいく間、ブーンはその不安な顔を忘れないように頭の奥にしまいこむ。
彼らだって守りたい。もう、どんな人も傷つけないと誓ったのだから……

川 ゚ -゚) 「あそこだな」

クーの指差す方向を見てみると、倉庫のような大きな建物の横に小さなテントが張られているのが見えた。
急ぎ立てられたものなのだろう、シートからはケーブル類が色々とはみだしており、中には色々な機材が持ち込まれているものと思われた。

よく見れば、テントの屋根には『VIP』と大きく文字が書かれている。

ヘリはそのテントの横の広場へと着陸した。

( ^ω^)「ふぅ……ヘリはまだまだ慣れないお」

川 ゚ -゚) 「気持ちはわからんでもないがな。ん、所長としぃが出てきたぞ」

ヘリを降りると、狐としぃがそれを出迎えてくれた。
彼らは一様にほっとした表情を浮かべている。



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