( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 29: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:05:04.04 ID:gmEhDIqq0
狐 「やあ、無事でよかったよ、本当に」
(*゚ー゚)「通信不能になった時は本当にどうなるかと思いました」
川 ゚ -゚) 「それはこちらもだ。だが、こんな風に挨拶している場合じゃないと思うが」
狐 「そうだね。テントの中に入ってくれ。現状を説明するから」
( ^ω^)「あの、ドクオ達はどこだお?」
狐 「彼らは他のテントの中にいるよ。後で会いに行けばいい」
( ^ω^)「わかったお」
狐としぃに連れられてテントの中に入ると、そこは『VIP』のビルで見た司令室そっくりの場所だった。
様々なモニターや機械類が所せましと立ち並び、それぞれが何かの情報を映している。
自分には何のことやらさっぱりだが、ここが今の『VIP』の心臓部なのだろうということは想像がついた。
狐 「慌てて脱出したから、あまり機材はないんだけど……とりあえずの現状把握はできている。
一から説明していこうか。そこの椅子にかけてくれ」
ブーンは素直に近くにあった椅子に座る。隣にはクーとぃょうが座った。
と、そこでしぃの腕に白い包帯が巻かれているのに気がついた。
その包帯には血も滲み出しており、見た限り何かの切り傷のようだった。
ブーンはドクンと胸が鳴るのを感じた。
- 30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:07:00.62 ID:gmEhDIqq0
( ^ω^)「しぃさん、その腕は……?」
(*゚ー゚)「え、あ、これですか? ちょっと脱出する時に怪我をしちゃって……
最後の最後までビルの中にいた私が悪いんですけど……」
(=゚ω゚)ノ 「ビルの中に? どうしてだょぅ?」
狐 「彼女はつーくんをずっと探していたんだ。
脱出する際、特別治療区域の患者から優先的にヘリに乗せるように告げたんだが、つー君が部屋にいなくてね。
総出で探したんだが、結局見つからなかった。行方不明のままなんだ……」
つーが行方不明?
どうして?
彼女が1人で外に出るなんて、滅多なことじゃありえない。
時々屋上にこっそりと出てくるぐらいで、それ以外は部屋の中にいるのが常だったはずだ。
だから、日常的にビルの中を歩き回っていても彼女に出くわすことはほとんどなかった。
しかも、病状が悪化したせいで、こちらから出向かないと会うこともできないような状態だったはず。
なのに、いったいどこに?
どうして彼女が行方不明に?
まさか、ビルの火事に巻き込まれて死んでいるだなんてこと……
- 31: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:08:40.57 ID:gmEhDIqq0
(*゚―゚)「……今はそんなことを言っている場合でもありません。
とにかく報告を先にしましょう」
しぃの痛々しい顔が心に響く。
きっとつーのことが心配でたまらないだろうに。
無理をしていることは明白で、どう声をかけていいのかもわからない。
川 ゚ -゚) 「……そうだな」
クーもまた、無理をしているように見える。
数年来の友人をなくしたかもしれないという気持ち。
自分にとっては、ショボンやドクオ達を失くすことに等しい気持ち。
どうして彼らはそんなにも冷静でいられるのだろうか?
もっと、感情的になったりしないのだろうか……?
それが大人というもの?
それとも、それ以上に大切なことがあるから?
わからない。
こっちは、守りたいと思っていたつーがこうやって行方不明になったと聞いただけで、暗い気持ちになってしまうのに。
狐 「……じゃあ、始めよう。まず、世界の状況についてだ」
狐がどんよりとした空気を断ち切るかのように話を切り出した。
ブーンは心に浮かんだ疑問を端に追いやり、狐の話に集中する。
- 34: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:10:26.54 ID:gmEhDIqq0
狐 「現在、世界の90%以上の国で『影』が出現している。大都市を中心に、建物を破壊しまわっているようだ」
(*゚ー゚)「また、それに合わせるかのように革命軍やテロリストによる大規模なテロが起こっています。
それにより、政府の中枢を破壊され、国家としての機能を失った国も出てきています」
モニターの地図が映し出された。
それは世界地図で、狐が「『影』が出現した国は赤く表示される」と説明を付け加えた。
だが、そんな説明は必要のないほど、もうほとんどの国が赤で染まっていた。
赤くなっていないのは、小国か開発途上国ぐらいなもの。
『影』とテロリストにより世界中に恐怖がばら撒かれている言葉に嘘はなかった。
(*゚ー゚) 「『影』が現れるのは、人口密度の高い都市部や住宅地が多いようです。
田舎や山の中で現れているという情報も少ないですし、この付近にもあまり出現していません。
ただ、『影』がその地域を襲うのも時間の問題でしかないと思われます」
狐 「今のところ、各国とも軍隊や警察が『影』やテロリストとの交戦を行っているが、それは無駄なことだろうね。
『影』に通常の兵器が効くはずがない。『気』を使える人間がそう簡単にいるはずもないし、『影』を止めることは実質不可能と言っていい」
(*゚ー゚)「状況は絶望的と言ってもいいでしょう。私達にできるのは、多くの人を避難させるぐらいしか……」
狐としぃの声のトーンが徐々に落ちてくる。
その顔は、現実を見据えた上で、その現実に押しつぶされそうになっていることをありありと示していた。
- 36: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:13:29.84 ID:gmEhDIqq0
世界中で『影』が拡散し、都市を破壊しまわっている。
テロリストはそれに呼応するかのように、国家を転覆させようとしてくる。
狐 「以前からの情報と、クー君の話を合わせて考えてみると、テロリストがこんなタイミングで現れたのはジョルジュ達のせいだろう」
(=゚ω゚)ノ「各国の革命軍とコンタクトをとっている……以前から掴んでた情報だょぅ」
狐 「そうだ。そして、『影』を拡散させたのもジョルジュ達だと思う。どうやってかはわからないけど……
『世界を恐怖で覆う』という彼の言葉と、今回の出来事はタイミングが合致しすぎている。
彼らがこの状況を作り出したと考えるのが妥当だろうね」
今回の出来事は、世界を恐怖で覆うには十分すぎることだろう。
きっと、これを放っておけば多くのものと多くの人を犠牲にし、恐怖と絶望で人々の心は覆われるだろう。
こんなことは止めなければいけない。
だが、どうやって?
さきほどの通信で狐が『だが……』と何かを言いよどんでいたことを思い出す。
あれは、もう手のうちようもないことをわかっていたから……?
( ^ω^)「……なんとかできないのかお?」
苦し紛れにブーンはそう言ったが、狐は苦い顔を返すだけだった。
- 37: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:15:23.83 ID:gmEhDIqq0
狐 「……正直言って、もう何もできない。私達が扱えるレベルの問題ではなくなってしまった。
今回の問題についての中央指揮は防衛庁に移ってしまったし、今、国連の安保理も事態の収拾に動き始めている。
その上、アメリカが樹海に向けて核ミサイルを撃つ準備を進めているという情報も入っているんだ」
( ^ω^)「か、核……!」
狐 「『影』が飛び出してきたのがあの樹海からだからね。
アメリカはそこが発生源と見て、これ以上『影』を増やさないようにしたいようだ。
けど、はっきり言って無駄でしかない。核兵器すら『影』には通用しないし、発生源がそこだという確信すらない。
だから、あらゆるラインを使ってそれを止めようと努力もしてるんだけど、アメリカの方が力的に上だし、
何よりただの一諜報機関に成り下がった『VIP』にそんな権限もない」
( ^ω^)「そんな……なら、僕達に出来るのは、もう見ていることだけなのかお!」
叫ぶように言うものの、狐は何も言い返してはこなかった。
本当に何もできない状況になってしまったのだろう。
手も足もでない、とはまさしくこのような状況。
あまりにも無力な自分達。
たとえ近辺の『影』を倒して回っても、焼け石に水。
世界の状況は変わらない。
- 39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:17:00.37 ID:gmEhDIqq0
狐 「せめて……せめて『影』だけでもなんとかできれば、テロリストの方は軍隊でなんとかなるんだ!
けど、『影』を倒すことができるのは『気』の使い手だけ。その使い手は、こちらにはもう4人しかいない。
この戦力で数千、いや数万の『影』を殲滅させるなんて、不可能だ……!!」
ガタン、と狐が机を苛立ち混じりに叩く。
何もできない己の無力と絶望感。そして、3つ目の核爆弾が日本に落とされるかもしれないという恐怖。
それらを心の底から感じ、いらだっているのだろう。
それはみんなも同じことであり、それからしばらくの間、沈黙が続いた。
みんな、深刻な顔で机だけを見つめ続けている、何かを思いつこうとしているが、何も思いつかない状態。それがずっと続く。
- 40: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:18:50.56 ID:gmEhDIqq0
ブーンは目のやり場に困り、モニターに目を移した。
すると、それはひとつのテレビ番組を映していた。音声は聞こえず、映像だけが淡々と流れていた。
都心部の様子をヘリで空撮しているのだろう、空から撮られたその映像には、『影』が電柱を折る瞬間が映されている。
周りに人の姿はないものの、人間が作り出したものを易々と打ち壊すその様は、恐怖を与えるには十分な要素になる。
あんなものをずっと見ていれば、人は必ず発狂するに違いない。
画面が変わり、今度はどこかの避難所の様子が映し出された。
そこでは避難民同士が互いに助け合い、怪我人を治療したり、食料を分けていたりする様子が撮られていた。
傍から見れば、心暖まる映像だ。他人同士が危機に瀕した時に助け合う。すばらしいこと。
だが、これがジョルジュの言っていた「恐怖でひとつになった」人間の姿なのだろう。
恐怖で発狂した人間は、自分達を守るために他人と協力し合うようになる。
日ごろの諍いや不満を水に流し、互いを助け合おうと努力する。
恐怖が人をひとつにする。まさしくその通りだ。
だが、これが本当に正しいのか?
恐怖を乗り超えるために様々なことを成し遂げてきた人間が、恐怖に頼るようになっていいのか?
安定だとか平和だとかは、そうやって作るしかないのか?
- 42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:20:29.72 ID:gmEhDIqq0
( ^ω^)(そんなの……違う)
違う。それはわかる。けど何故?
理由はわからないけど、違うと感じてしまう。
心の奥底がそれを否定している。
ジョルジュやクーがこれを聞けば、「それはただの感情論でしかない」と言うに違いない。
自分でも頭の隅っこでそう思っている。これはただの感情論だ。
けど、論理だとか合理だとかを考える頭のない自分は、結局感情的になるしかない。
そう、感情的に決めた「みんなを守る」という誓いを貫き通すしかない。
たとえ相手の論理を否定する根拠がなくても、だ。
人というのは、そうやって戦いを繰り広げるものなのかもしれないのだから……
川 ゚ -゚) 「……待てよ、そうか、もしかしたら」
テレビ画面を眺め続けていると、ふと横のクーがそんな呟きを口にする。
何事か、と全員が彼女に目を移した。
- 43: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:23:46.69 ID:gmEhDIqq0
クーは椅子から立ち上がり、「そもそも」と口火を切った。
川 ゚ -゚) 「そもそも、『影』は犯罪者しか襲わないはずだ。
なのに、今回は人を襲わずに建物だけを破壊して回っているだけで、これまでの性質とはまるで違っている。
それに、昼は活動の鈍るはずの『影』が、まだこうやって活発な動きを見せていることも不自然だ。
第3に、テロリストと『影』が協力体制をとるということ自体、これまでなら不可能だったはず。
なのに、これらが全て行われている。
矛盾のないようにこれらを成り立たせるためには、ひとつの方法を使わなくてはならない」
(=゚ω゚)ノ「……『影』を操ること?」
ぃょぅの呟きに「それだ」とクーが返した。
川 ゚ -゚) 「誰かが『影』を操っていると考えれば、これら3つの不自然さは解消される。
なら、方法は何なのか? ジョルジュはこんなことを言っていた。
『【影】の身体に【気】を覆うことで、【影】との同化を果たした』と。
つまり、『気』で『影』を押さえつけているわけだ」
(*゚ー゚)「そ、そうか……! なら、もしかして!」
しぃがおもむろにパソコンをいじくり始める。
キーボードを目にもとまらぬ速さで叩き、画面にひとつのレーザーのようなものを呼び出した。
- 45: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:26:01.48 ID:gmEhDIqq0
これは確か、『気』を機械的に察知するレーダーのはず。
この近辺の地図が示されているそのレーダーには、何やら白い点がいくつも浮かび出てきた。
これは、『気』がこの地点に発生していることを示しているのだが、しかしどうしてこんなにもたくさんの『気』が?
その疑問を解消するかのように、しぃが喋り続ける。
(*゚ー゚)「やっぱり……! わかりました! どうやって『影』を操っているのかが!」
川 ゚ -゚) 「やはり、『気』か?」
(*゚ー゚)「はい、おそらく『気』がアンテナの役目をしているのだと思います。
見ての通り、レーダーには『気』の反応が多くあります。
都会で集中的に見られることから考えて、これは『影』の反応であり、その身体にはごく少量の『気』が埋め込まれていると推測されます。
詳しい原理は不明ですが、『影』と同化できるぐらいなら、操ることぐらい簡単なはずです」
(=゚ω゚)ノ「なら……」
川 ゚ -゚) 「鍵は『奴ら』か」
(*゚ー゚)「はい。指示を出している人……ジョルジュさん達を止めれば、この時間帯です、『影』は姿を消すかもしれません!
少なくとも、この状況だけでも打開できます!」
つまり……ジョルジュ達を倒せば、全ては解決するということ?
クー達は喜び顔でそんなことを話しているが、しかしブーンはひとつ疑問に感じることがあった。
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