( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 4 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:29:05.52 ID:Bto8pEe+0
- 第24話
その白い翼は、揚力や翼面加重といった空を飛ぶための物理法則を完全に無視するかのように、
ただ羽ばたくだけで身体を空へと押し上げてくれる。
スピードを上げようと思えば加速してくれるし、少し上に行こうと思えば高度を上げるし、降下しようと思えばしてくれる。
いわば、脳と直接つながったコントローラーで操作している飛行機ゲームのような感覚か。
( ^ω^)「だいたい分かってきたお……」
ブーンは10分ほど空を飛び続けてようやくコツを見出し、しばらく飛んだ後、近くのビルと同じ高さで静止した。
白い光の翼は羽ばたき続け、空中に止まることを許してくれる。
羽ばたくたびに淡く光る羽が舞い落ちていくのを見て、これが自分の出している翼なのかと驚きつつも、決して疑問には思わなかった。
白い光はいつもこちらの心に応えてくれる。これもその結果のひとつに過ぎないのだ。
自分の意志で自由に動く翼。
空を飛ぶという望み。
それは叶えられた。
- 7 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:30:20.36 ID:Bto8pEe+0
( ^ω^)「……どこだお」
ブーンは空中で静止しながら、精神を集中させた。
目を瞑り、この近辺、果ては日本全国まで神経を張り巡らせていく。
ジョルジュ達の戦うために、まずやらなくてはいけないのは彼らを見つけることだ。
だが、『影』と同化したジョルジュ達を見つけるのは至難の技だ。
『影』はいまや世界中に散らばっており、数万のそれらの中からジョルジュ達だけを見つ出さなければならない。
まるで針の山から、1本の金の針を見つけるかのような、気の遠くなるような作業。
( ―ω―)「……」
ピクリ、とブーンの頬が動く。
ひとつ、いや、ふたつ以上の違和感ある気配を感じ取れた。
それは、ただの『影』の気配ではなかった。
黒くて濁ったものの中に、確固とした意志が存在している。
黒い殻の中に白い液体が入っているかのような、そんな感じ。
人間の気配でもなければ、『影』の気配でもない。
その2つが合わさった、異質なるものの気配……
- 9 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:32:38.13 ID:Bto8pEe+0
( ゜ω ゜)「……そこかお!」
ブーンは勢いをつけて、翼を動かした。
白い羽が舞い散る中、その身体は急加速をとる。
ビルの谷間を猛スピードで抜け、山の頂上の遥か上を飛ぶブーン。
普通ならばブラックアウト現象(加速のGによって血が下半身に集中し、貧血状態になること)が起きるほどの加速度でも、
彼の身体は平然と飛び続けていた。
その体の表面には白い光が膜のように張られている。
自身でも気がつかない間に、身を守るための事前策を取っていたのだ。
ブーンがそれに気がついたのは、山の上を飛んでもそれほど寒くないことに気がついた時。
そして、自分の身体に薄く白い光が張られているのを見て、無意識にこんなことをしていたんだな、と納得する。
( ^ω^)「いけるお……!」
そう呟き、さらにスピードをあげるブーン。
景色はめまぐるしく変わる。山から田舎へ。田舎から街へ。
20分も飛び続けていると、もう眼下の景色は都会の様相を呈していた。
- 10 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:34:39.33 ID:Bto8pEe+0
その街はすでに『影』に侵略された後なのか、建物は打ち壊され、電柱は折られ、道路も所々でひび割れている。
避難が済んでいるためか人影もなく、電線も切断されている。光らないイルミネーションが街路樹に飾られているのがもの悲しい。
クリスマスの今日、きっとカップルや親子連れでいっぱいになっていたであろうその街は、
今や『影』だけが徘徊するゴーストタウンと化していた。
が、当たり前だが、その景色を眺めている時間なんてない。
一刻も早くジョルジュ達を止めなくてはいけない状況で、観光なんてしている暇はないのだ。
( ^ω^)「……」
しかし、ブーンはその街の上空で翼を止め、じっと街を見下ろしていた。
『影』が今も建物を破壊し続け、人っ子ひとりいないという、今や地獄にも等しい光景。
その街へと、ブーンは急降下していく。
タン、という音と共に彼は道路の上へと舞い降りた。
- 11 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:36:52.23 ID:Bto8pEe+0
( ^ω^)「……ひどいお」
ブーンは道路の上を淡々と歩いていく。
上空からだけでは見えなかった、建物の細かい傷や爆発跡、天井がぺしゃんこになった車、逃げ送れた人の死体……
白い翼をたなびかせながら、ブーンはそれら全てを頭の中に刻み込んでいった。
忘れてはならない、この惨劇を。
避難所で見た不安げな人たちの顔と共に、覚えていなくてはならない。
ジョルジュ達を倒すためには、並大抵の決意じゃダメだ。
もっと、確固とした意志を持たなくては、きっと勝てない。
思えば、自分はずっとあやふやな思いで戦ってきた。今だってそうだ。
ただ、身近な人を守りたいという軽い動機ではじめた戦い。
それが今や、全世界を巻き込む大惨事となり、それを止めるために自分は戦わなくてはならない現実。
守るなら、心の底から守りたいと思わなければならない。
あやふやなままではだめだ。もっと、信ある心で望もう。
- 12 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:38:41.20 ID:Bto8pEe+0
ブーンは立ち止まり、自分の胸に手を当てる。
心臓の鼓動が確かに伝わる。
これが全世界の人々の胸の中にもある。
それぞれ、ちゃんと生きている。ちゃんと存在している。
それを否定していいものは、ひとつだってない。
不意に後ろに『影』の気配がして、ブーンは振り向きもせずに掌だけを後ろに向け、『光弾』を放った。
光の弾は確かに飛んでいき、確かに『影』を消滅させる。
見えないけど、それを感じた。
( ^ω^)「……行くお」
翼を動かすと、ふわりと身体が浮き始める。
淡い白の羽が舞い散る。
だが、完全に宙に浮く前に、ブーンは上空に気配を感じて、空を見上げた。
( ゜ω ゜)「……」
空にぽっかりと空いた黒い穴。
否、『影』の大群。
自分と同じように空を飛んでいる十数体の『影』が、黒い星を形作っていた。
- 13 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:40:25.97 ID:Bto8pEe+0
( ^ω^)「空を飛ぶ『影』……」
今までこんなものは1体も出現しなかった。
ということは、これもジョルジュ達が差し向けたことなのか?
自分を近づけさせないために?
それとも、こいつらの相手でもしてるのがお似合いだ、とでも言いたいのか?
( `ω´)「……舐めるなお!」
これぐらいの『影』、障害でもなんでもない。
全部倒して……乗り込んでやる!
ブーンは翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がる。
手には『剣状光』、背中には『飛槍光』を携え、まずは『光弾』を空中に向かって放つ。
その白い弾は猛スピードで空気を切り裂き、1体の『影』に命中。消滅させる。
( `ω´)「まずは1体目! 次!」
- 16 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:42:40.98 ID:Bto8pEe+0
翼がたなびくたびにブーンの身体は加速度を増していく。
『剣状光』を握りながら、ブーンは先頭の『影』に狙いを定めて『光弾』を発射。
だが、もちろんそんな2度目の見え見えの攻撃が当たるはずもなく、『影』達は円状に散らばり、『光弾』を避ける。
それはもちろん、フェイクの攻撃。
ブーンは右に避けた2体の『影』の方へと急接近する。
そして、すれ違いざまに『剣状光』を振る。
『影』の反応が鈍い。いや、こっちの速さが増している?
そう思いながら、『影』の身体を切り裂くと、2体共消滅した。
( `ω´)「2、3! まだまだぁ!」
さらにブーンは『飛槍光』のイメージを頭の中で進めていく。
今回は平地という2次元ではなく、空という3次元でのイメージだ。
これは今までよりも格段に難しい。
空での戦闘の難しさは、テレビゲームでよくわかっている。
縦と横に、高さという概念が加わっただけで、今までとはまったく違う戦い方を強いられることになる。
『飛槍光』も同じで、これまで一直線に敵にぶつけるだけだったイメージに、高さを加えるとなると、かなりの労力が必要だ。
- 18 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:44:40.98 ID:Bto8pEe+0
影「グワワガwギャヤヤア!」
『影』が意味不明な叫び声をあげながら、高速で近づいてくる。
ブーンは避けようとしてみるが、間に合わない。
こんな時に使うのは……!
( `ω´)「はぁ!」
ブーンが掌をかざすと、目の前に白い光の壁が現れる。
ちょうど『影』の拳がこちらに向かっていた時に現れた『光障壁』は、ものの見事に攻撃を防いでくれる。
( `ω´)「甘いお! 4体目!」
その『影』は『剣状光』の刃で一刀両断しつつ、ブーンは『飛槍光』のイメージを進めていく。
『影』はあの手この手でこちらへと近づいてくるが、それらは全てかわすブーン。
後ろから襲ってくる気配を察知して、左へと旋回。
両側から挟み撃ちにされても、上空へと高く上がり、包囲網を抜け出す。
明らかに、ブーンの翼は旋回性能でも速度でも『影』に勝っていた。
- 19 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:46:52.55 ID:Bto8pEe+0
そして、数分後、『飛槍光』のイメージは完了。
( `ω´)「数えるのも面倒だお……これで一気にラスト! いけ!」
その言葉と共に、白い槍はブーンの背中から射出されていく。
それらは地上ではなしえなかった、複雑な軌道を描いていく。
縦、横、斜め……『影』の周りを目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく白い槍は、『影』の気付かない方向から突撃し、その身体に突き刺さる。
残り数十体いた『影』は、全て『飛槍光』によって貫かれ、消滅した。
( ^ω^)「……よし」
周りに『影』がいなくなったことを確認し、ブーンは空中で静止しつつ、一方向を仰ぎ見た。
それは、精神集中で感じられた異質な気配がある方向。
ここよりもさらにビルが密集し、都会然とした街……この国の首都がある方向。
そこにジョルジュ達はいる。そこに、自分が戦うべき人間がいる。
- 20 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:49:24.61 ID:Bto8pEe+0
Purururu
そうしていると、いきなり腰の無線機が鳴り出し、ブーンはビクリと身体を震わせた。
そういえば、自分は狐達に無断で出て来てしまった。
自分は兵士ではないので、命令違反なんてことにはならないだろうが……狐達に怒られることは、まず間違いない。
そんなことを考えながら、びくつく手で無線機のスイッチを押すと、
『ブーン!』
というクーの声が大きく響いた。
川 ゚ -゚) 『ブーン! 今、お前はどこにいる!?』
( ^ω^)「く、クーさん。えっと……たぶん、××町辺りだと思うお」
川 ゚ -゚) 『なに、もうそんな所まで……いったい何に乗って移動しているんだ?』
( ^ω^)「え、あ……飛んでるんだお」
川 ゚ -゚) 『飛ぶ? ヘリにでも乗っているのか?』
( ^ω^)「いや、そうじゃなくて自分で飛んでて……」
川 ゚ -゚) 『ん? よくわからんが、ともかくお前はどこに向かっているんだ?』
- 21 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:51:25.80 ID:Bto8pEe+0
どこに向かっているか、と聞かれてブーンは困った。
ジョルジュの気配を感じることはできているものの、その場所の名前なんてわかるわけがない。
感覚で掴んだものを言葉で説明することは難しいのだ。
( ^ω^)「えーと……東の山の向こう側の、少し左側ぐらいかお」
川 ゚ -゚) 『地名で言え、地名で。それではわからん』
( ^ω^)「地名はよくわからないんだお。僕についてきてくれれば、ジョルジュ達の所へたどりつくと思うお」
川 ゚ -゚) 『そうか。わかった。先に着いても無理はするな。こっちはぃょぅと一緒に地上をバイクで移動中だ。
わかってるな? 合流してから、突入だ』
( ^ω^)「わかったお」
プツンと通信が切れる。
どうやらクー達もジョルジュと対峙しようとしているらしい。
自分ひとりでは無理かもしれない、と心の端で思っていただけに、これはありがたい。
彼女とぃょぅが一緒なら、きっと大丈夫。きっと勝てる。
ブーンは翼を羽ばたかせ、ゆっくりと移動をし始めた。
感覚を頼りに、自分の倒すべき敵がいる方向へと。
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