( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
23 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:53:42.68 ID:Bto8pEe+0
  



工業用地と都会との境目には、全て2メートルほどの金網が立てられている。

元々公的機関の建物があった場所を全て更地に戻し、
一般企業の誘致を行って大型のショッピングセンターを建てる。

それがこの場所で進められていた建設計画だ。

開業は2010年以降という気の長い話だが、
ここが完成すれば地域の活性化が望まれるだけでなく、過去の政府の遺恨を全て消し去ることができる。
そんな一石二鳥の計画。

だが、それをジョルジュは許してはいなかった。

だからこそ、自分達が彼らを迎え撃つ場所をここにしたのだし、世界の命運を決める『鍵』もここに連れてきた。
それは、人々にこの場所で起こったことを忘れさせないため。
ここで若者達の出会いがあり、別れがあったことを永遠に残すため。

『天国』の跡地を使うのは、きっとそういう意味があるのだろう、と金網の前に立つギコは考えていた。



  
24 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:55:50.38 ID:Bto8pEe+0
  

( ,,゚Д゚) (あいつにしては感傷的だが……悪くはねえわな)

人間、全てを合理的な頭で考えることなんてできない。
時には感情で決めたことに従うことも必要なのだ。

と、ふとギコは(自分はそれとは正反対の生き方をしてきたのに?)という疑問が浮かび上がってきたことを感じ、すぐに思考に蓋をかぶせた。

だからなんだというのだ?
今までは今まで。今は今は、だ。

たとえ『赤坂』で生きてきた自分が機械のような生活しかしていなかったとしても、
今の自分は最も人間らしく生きていけていると思える。

そうだろう? ジョルジュや流石兄弟、ハインリッヒも同じ。
全員がこの世で1番「人間らしい」。

感情と合理がごちゃまぜになり、その狭間で悶々と過ごすという、ごく一般的な「人間」として生きていけている。
たとえ、身体は『影』に染まろうとも。

ふっ、と笑みを浮かべたギコは、心の高揚感を惜しみ隠さずに「おしっ!」と気合の一声を入れた。



  
25 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 22:58:03.67 ID:Bto8pEe+0
  

( ,,゚Д゚) 「おい、弟者。あいつらは近づいてきてるのか?」

(´<_` )「ん〜、そうだな。空から来てる奴が1番近くまで来てる。だいたい3キロ先ぐらいか?」

ロングコートを脱ぎ捨て、Yシャツ1枚という薄着の弟者が、パソコンの画面を覗き込みながら応える。

3キロ先……空から来ている、というのは、おそらく『人の子』――ブーンだ。
それぐらいは気配でわかる。『影』と反発する光を持つ彼の気配だけは、びんびんに感じ取ることができる。

( ,,゚Д゚) 「3キロか……近いな。よし、いっちょ先制攻撃といくか、ゴラァ」

( ´_ゝ`)「届くのか? ここから?」

( ,,゚Д゚) 「やれねえことはねえ。ただ、当たらねえけどな」

( ´∀`)「けど、それじゃあ……」

( ,,゚Д゚) 「大丈夫だ。任せとけ」

ギコは懐から白い弓矢を取り出し、感触を確かめる。
ジョルジュに『気』の素質があると言われて以降、ずっと懐に忍ばせてきたこの弓矢。

四六時中もち続けていたためか、今では長年連れ添った女房のような感覚を覚える時もある。
実際には女房どころか、彼女すらいない生活を送ってきたのでそんな感覚は分かるはずもないが、
まあ恋人は弓矢、というような感じだ。



  
27 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:00:19.55 ID:Bto8pEe+0
  

だからこそなのだろう。今はこれで戦いたい。

最後の最後、無粋な拳銃に頼ることなく、これで生死をかけた戦いに挑む。

1番信頼できるものにいてほしいだろう? 最後ってのは。

誰に投げかけたかわからない疑問を呟きながら、ギコは弓矢を構えた。
そして、いつものように矢の周りに『気』を張ってみるが、今回は少し勝手が違った。

『影』と同化しているからなのだろう。『気』はいつもの白色ではなく、完全な黒に染め上がっていた。
そして、その『気』は弓矢を1.5倍ほど巨大化させ、強度を上げ、身体の筋力を増大させていく。
矢は『黒い矢』と化し、ギコはそれを弦にかけて目一杯引っ張る。

( ,,゚Д゚) (狙うのはあそこだな)

狙うは彼の気配がある所。
これを放った時から戦いが始まる。全ての終わりと始まりが集う戦いが。

( ,,゚Д゚) (さあ、祭囃子を奏でてやろうかい!)

そう心の中で叫んだ瞬間、弦を離し、矢を放った。

それは空気を切り裂き、空へ一直線に向かう。

黒光りした矢は、まるで地上から空へと流れる流れ星のようだった。





  
29 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:02:54.29 ID:Bto8pEe+0
  



自分の感覚を頼りに飛んでいる時、唐突に現れたその異様な気配を、ブーンは確かに感じ取っていた。
こちらに向かって一直線に近づいてくる『何か』。

『気』でも『影』でもない、それら2つを合わせた新しいものが、こちらに向かってくる。

( ^ω^)「くっ!」

ブーンはとっさに翼を動かして急降下した。
すると、つい先ほどまでいた場所に、黒い何かが猛スピードで通り過ぎていった。
何だ、あれは?

一瞬『影』の攻撃かと思ったが、感覚的にそれは違う。
あの異様な気配を持った黒い何かは……ジョルジュ達から感じ取るものと同じだった。

そう考えていると、第2、第3の何かが近づいてくるのを感じ、ブーンは急速に旋回して回避行動を取る。
そして、また黒い『何か』は目の前を通り過ぎていった。

( ^ω^)(あれは……)

こちらに向かって飛んでくる無数の黒い『何か』に目を凝らしてみると、ようやくわかった。

あれは、ギコの『気』をまとった矢だ。



  
30 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:05:19.30 ID:Bto8pEe+0
  

( ^ω^)「まだ距離があるのに……いったいどこから攻撃してきてるんだお」

それらの命中精度はよくないものの、超長距離から放たれているため、反撃は不可能。
まず敵の位置を把握しなくては話にならない。

川 ゚ -゚) 『こちらクー。もうすぐ近くに着くはずだが、どこにいるんだ?』

( ^ω^)「くっ、今はそれどころじゃないお!」

ブーンは目の前に『光障壁』を出し、らせん状に回転しながら翼を羽ばたかせる。
これで当たる確率は減ったはず。だが、狙撃されている以上、まずは位置特定を急がなくてはならない。

クーからの無線にはあまり耳を貸さず、ブーンは矢が飛んできた方向へと神経を集中させる。

( ―ω―)(……)

煤i ^ω^)(そこかお!)

ひとつ、いや2つ以上の気配を察知した。
それらは全て、『気』と『影』が混ざった感じの異様な気配。

ジョルジュの仲間の誰かであることは間違いない。



  
31 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:07:48.86 ID:Bto8pEe+0
  

川 ゚ -゚) 『ブーン、どうした。何があった?』

( ^ω^)「ここから3キロ先に、大きな更地があるお! そこに敵がいるお!」

川 ゚ -゚) 『何!? ジョルジュ達か!』

( ^ω^)「クーさん達もそこに向かってほしいお! 僕は先に……行くお!」

川 ゚ -゚) 『待て! 1人では!』

クーが言い終わらない内に、ブーンは翼を動かして高速で飛び始めた。
前方には『光障壁』を張っておき、黒い矢の攻撃に備えておく。

景色がめまぐるしく変わり、黒い矢が何本も飛んでくる中、ブーンは飛び続けた。
そして、目的の更地が見えた瞬間、『剣状光』を手に出し、自分の敵をその目に焼き付ける。

樹海の半分くらいの広さを持っていると見間違うような更地。
どこまで行っても赤茶けた土やコンクリート地面が見えるだけで、建物も何もないまっさらな地面。
唯一、ショベルカーやプレハブ小屋などが見えるものの、そんなものは何の印象も残さない。

都会の中にこんな場所があったことが驚きであり、しかし感じられる気配によってジョルジュ達がここにいると確信することができた。



  
32 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:09:33.90 ID:Bto8pEe+0
  

そんな更地と更地を隔てるために立てられた、どこまでも続く銀色の金網。
その向こうに放置されていたショベルカーの上に立つ、ギコの姿。
その横に座っている流石兄弟と、地面に立つモナー。

彼らを見据えたブーンは、スピードを緩めずに一直線にギコに向かって飛び続けた。

( ,,゚Д゚) 「ちっ!」

黒い矢が何本も飛んでくるが、『光障壁』はそれをなんとか防いでくれる。
だが、矢が当たるたびに障壁の光が揺らいでいる。これでは長く持たない。さすがは『疑似障壁』を貫いただけのことはある。

だが、ひるんではいけない。退いてはいけない。

戦え。戦うんだ。

( `ω´)「うぅぉおおおお!」

スピードを保ったままのその突撃は、ギコを確かに捉えていた。
黒い矢を補充する隙を狙っての『剣状光』による縦一閃。



  
34 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:12:29.29 ID:Bto8pEe+0
  

( ´_ゝ`)「させんよ!」

だが、目の前に現れたロープによって『剣状光』の斬撃はおろか、飛ぶ勢いすらも止められてしまった。
兄者が棒のように両手にロープを持ち、歯を食いしばってギコの前に立っていたのだ。

( ^ω^)「くっ、それなら!」

ブーンは左手に『剣状光』を発生させ、下方から切り上げる。
だが、兄者は瞬間的にバックステップを取り、ぎりぎりの所でそれをかわす。
光の刃は衣服を切り裂いたものの、実質的なダメージを与えてはいなかった。

ブーンは翼をはためかせて体勢を立て直そうとしたが、その前に背中からものすごい衝撃を受けて、あえなく上方へと吹き飛ばされる。

その謎の衝撃に戸惑いを覚えつつも、すぐに平静を取り戻し、光の翼によって空中で静止。
そして、下方に向かってすぐに『光障壁』を発生。
そのおかげで、モナーがこちらにジャンプしてきて放ったアッパーカットを、すんでの所で止めることができた。

( ゜ω ゜)「こんなことで!」

『剣状光』を消して、両手を左右に広げるブーン。
その掌から『光弾』の大きな球体が放たれる。
それは数秒飛んでいたかと思うとすぐに無数の小さな光の球に分散し、ギコ達へと降り注がれていく。



  
35 : ◆ILuHYVG0rg:2006/12/19(火) 23:15:34.75 ID:Bto8pEe+0
  

だが、そこで終わってはいけない。相手はギコや流石兄弟なのだ。こんな小さな攻撃でやっつけられる相手ではない。
ブーンは『光弾』の散弾がまだ降り注いでいる間、『飛槍光』のイメージも進めておいた。
散弾の嵐が終われば、次は白い槍の雷の出番だ。

ギコ達に対して、白い槍が突き刺さるイメージを何度も繰り返すブーン。

(´<_` )「そこだ!」

だが、小さな『光弾』の嵐から、一枚の手裏剣が飛んできた。
イメージに夢中になっていたために『光障壁』の展開が間に合わず、その手裏剣は腕に激痛を伴いながら刺さる。

(メ゚ω゚)「ぐぅ!」

ブーンはとっさに上空に逃げることで続けての手裏剣の攻撃から免れる。
だが、手裏剣は確実に自分の腕を肉の下へと突き刺さり、激しい痛みを与えてくる。

弟者の手裏剣には麻痺毒が塗ってあるはず。
早く処置をしなければ、また気を失ってしまう。そうなった終わりだ。

傷口に口を当てて、そこから血を吸い出してみるが、上手くいかない。
テレビでは毒を吸い出す時にみんなこうやっていたが、実際にやるとなると難しい。

こうしている間にも毒が身体に……!



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