( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
2: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 22:55:51.60 ID:5bA3acr60
  

第25話

その戦いは、すでに各地で始まっていた。

世界中で猛威を振るう『影』。
彼らは建物だけを壊しまわり、邪魔する人間は容赦なく排除していった。
そのため、『影』が現れて数時間が経った都心部では、ほとんどの建物は打ち壊され、道路は寸断される。
電気系統、交通網も麻痺してしまった。

それとタイミングを合わせるかのようにして現れたのが、各国の政府の革命軍、およびテロリスト達。
彼らは『影』とは違い、明確に人をターゲットにした破壊活動を繰り広げていた。
建物を爆破し、電車の線路を打ち壊し、逃げ惑う人々に銃を向ける。
新しい国を作る、強国に自分達の存在を知らしめる、などの各自の目的を達成するために、彼らは活動を活発化させていった。



  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 22:56:36.70 ID:5bA3acr60
  

それらの恐怖に対抗するために、各国の軍隊は出動する。
すでにアメリカや中国などの国では、強大な力を持つ軍隊がテロリストの鎮圧へと動き始めていた。

また、国連の安全保障理事会でも今回の出来事を緊急事態と捉え、
あまり軍事力を持たない国に対してはアメリカ軍を中心とした国連軍が派遣されることとなった。

世界の人々は、『影』やテロリストといった『敵』に対して一致団結しようとしていたのだ。
普段は仲の悪い国の間でも、今回ばかりはわだかまりを水に流し、協力体制をとっている。

恐怖に対抗するために、人々は今ひとつになろうとしていたのだ。

それは無論、この国でも同じだった。

普段から互いを牽制しあっていた警察と防衛庁、公安などの機関が、国を守ろうと躍起になっていた。
最初は不調和音を奏でることもあったが、『影』とテロリストが破壊工作を続けているとあっては、もう四の五の言っていられないのが実情。

自衛隊と警察が協力し、それに行政も加わるという、今までは考えられなかった協力体制が出来上がっていった。



  
6: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 22:57:43.46 ID:5bA3acr60
  

また、隣の半島や大国家、もしくは日ごろから「表向き」の同盟を結んでいた国とも、この国は連携を取りつつあった。

全ては自分の国を守るため。
自分達を守るため。

すさまじい恐怖に相対した時、人は防衛本能を発揮し、
同じ状況に立たされた他人と手を取り合っていくのだ。

それを人は良いことと思うのだろうか?
それとも悪いことと思うのだろうか?

それは誰にも分からないのかもしれない。





  
8: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 22:59:10.07 ID:5bA3acr60
  



狐 「第1、2部隊は北に展開! トラップを形成しつつ、敵の襲撃に備えろ!」

(*゚ー゚)「避難民の80%がすでに工場外に出ています。あと30分もすれば全ての人々の救助が済む予定です」

狐 「よし、避難民が全てここから逃げたら、そこにもトラップを仕掛けておくんだ」

(*゚ー゚)「通達しておきます。
    偵察部隊より入電。北、西の未確認飛行物体から武装兵が降りてくるのを確認したとのこと。
    兵士は短機関銃P90とグレネードランチャー、名称不明の地対空ミサイルを武装しているようです」

兵士風の男「報告します! 自衛隊の404部隊が協力を要請してきました!」

狐 「待たせろ! こっちはこっちで苦しいんだ!」

兵士風の男「はっ!」

『VIP』の総司令部となっているこのテントの中は、すでにすさまじい喧騒の渦に巻き込まれていた。
何人もの人がこのテントに出入りし、指示の怒号が飛び交い、偵察部隊からのせわしない入電が聞こえる。



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:01:22.51 ID:5bA3acr60
  

これはまるで戦争のよう――いや、すでに戦争状態に入っているのだろう。

そんなことを考えながら、ドクオは、今もあらゆる部隊と情報をやり取りしているしぃと、指示を出し回っている狐の姿を見据えた。
先ほどまでクーやぃょぅと連絡を取り合っていた彼らは、すでにこの戦場を預かる指揮官と通信士へと変貌している。

狐 「時間がないんだ! 避難民の退却はまだか!」

(*゚ー゚)「もう少しで完了です!
     第3部隊より入電。北にて武装兵士をはっきりと確認したとのこと。未確認飛行物体は輸送ヘリコプター『カサッカ』のようです」

狐 「よし、準備だ! トラップをしかけた位置の後ろまで退却し、敵をおびき寄せるんだ」

(*゚ー゚)「指示を通達。返信待ちです」

今、どうやらこの工場の北側と西側に敵を確認したらしい。
未確認飛行物体がここに近づいてきているという情報が入ってからたったの10分しか経っていないが、もうそこまで事態は進んでいるようだ。

この工場は南が山、北が川に囲まれている天然の要塞だ。
工場の親会社は、静かで空気のきれいな所にこの建物を建てたかったらしいが(作っている製品が清潔感の必要なICチップだったようだ)、
今となっては、ここは戦争を行うための要塞と化している。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:03:09.62 ID:5bA3acr60
  

所々にトラップがしかけられ、『VIP』や自衛隊の兵士が巡回しているこの場所。

山から攻め込むことは敵にとっても容易ではないため、必然的に襲撃を受けるのは主に北と西、東からだ。
だが、東は自衛隊の部隊が密集し、避難民の退却のために厳重な警戒がなされているため、敵側も攻撃しづらい。

そのため、敵が襲撃をかけてくるとしたら北と西だ、というのが狐達の推測だった。

血も涙もないテロリストなのだから、避難民ごと爆弾で吹っ飛ばしたりはしないのだろうか? という質問を彼にしてみたが、

狐「それをやると強烈な反撃を受ける可能性があるし、リスクが高い。
  それに、あの兵士達は『VIP』を狙ってきているのだと思う。だから北と西から来るはずだ」

という答えが返ってきた。よくわからないが、それが戦争の戦術というものなのだろうか?

(*゚ー゚)「北地区の第1部隊から入電。『我、戦闘を開始せり』です」

狐「よし、作戦通りに敵をおびき寄せるんだ。多少の損害は気にしてられない。おそらく今回は大多数の敵と戦うんだ。奮起するように」

通信機から『了解』という声が何十も聞こえる。

作戦が始まったのだ。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:04:59.81 ID:5bA3acr60
  

('A`)「……」

ドクオは司令部の端で立ち尽くしながら、横のショボンとツンの様子をちらりと見る。

(´・ω・`)「……」

ショボンはツンの車椅子のハンドルを握りながら、この喧騒を真剣な目で見つめていた。
何を考えているのかはわからない。けど、この事態をありのままに受け止めようとしているということだけはわかる。

ξ 凵@)ξ「……」

ツンは相変わらずだ。病室と何も変わっていない。ただうつろな目を宙に向けているだけ。

彼女の回復はもう難しいと、医者は言っていた。
脳組織の大部分の機能が低下し、このまま脳死を待つだけの状態なのだという。

ブーンはこのことを知らない。知ればたぶん……

(´・ω・`)「ねえ、ドクオ」

('A`)「ん……なんだ?」

ショボンがいきなり話しかけてきて、慌てて答える。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:07:09.99 ID:5bA3acr60
  

(´・ω・`)「なんだかさ、僕達って本当に何もできないね」

('A`)「……そうだな。何も出来ない」

(´・ω・`)「役立たずだよね、僕達」

('A`)「……ああ」

ドクオはちらりと、足元に置いてあるAK47−U、アサルトライフルに目を留めた。
先ほどブーンの光が注ぎ込まれたその銃は、今はもう光を放っていない。どうやら、銃弾に光が凝縮されたようだった。

ブーンは、何を思ってこれを渡したのか?
戦わない自分達にこんなものを渡されても手に余るだけだ。

けど、持っておかなくてはならないのだろう。
戦うこともできない役立たずの自分達でも、これを使う時が来るかもしれない。

ブーンの言う通り「これで身を守る」機会が訪れるかもしれない。

ドクオはアサルトライフルを足で小突きつつ、ひとつのモニターに目を移した。



  
15: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:09:56.27 ID:5bA3acr60
  

それは何も映像を写さず、砂嵐が流れるだけだ。
偵察衛星の映像を映すためのモニターらしく、遠くの場所でも自由に見ることができるとか。

今は偵察衛星の座標の調整だとかなんとかで、まだ何の映像も送ってこないが、しばらくすれば彼らの戦いを克明に捉える目になってくれる。
この事態を打開するために戦いの地へ向かった、彼ら3人の姿を……

そうやってモニターに細い目を向けた所で、すさまじい爆発音が辺りに響き渡った。
何度聞いても、この爆発音には慣れない。
つい先日、『VIP』のビルを襲撃された時に聞いたとしても、これが呼び起こす恐怖感には耐えがたいものがある。

(*゚ー゚)「第1、2部隊が交戦状態に入ったようです」

狐 「始まったか……!」

これから、長い戦いが始まるのだろう。
その中でいったい、自分に何ができるというのだろうか? ちっぽけな力しか持たない自分が……





  
17: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:12:56.33 ID:5bA3acr60
  



それは、まず敵側の兵士達からの攻撃で始まった。

サブマシンガンを持ち、防弾チョッキと防弾メットで身を固めた兵士達は、
『VIP』側の兵士を見つけるとすぐさまグレネードランチャーを撃った。

それはアンダーバレル・グレネードランチャーという、小銃の銃身下部に擲弾発射装置をつけた武器で、
グレネードを発射しながらも自衛用の小銃を扱えるという利点を持っている。

『VIP』側の兵士は、グレネードが発射されたことを確認するとすぐに後退しようとしたが、
その前にグレネードは爆発し、数人の兵士がそれに巻き込まれ、死亡した。

それ以降も、敵側のグレネードランチャーによって数回の爆発が北側の工場で起きる。
それらは倉庫の壁を打ち壊し、『VIP』の兵士が隠れる場所をなくしていく。

しかし『VIP』側に何も策がなかったわけではなかった。

敵側の兵士が北側のあるラインに入った瞬間、地面に仕掛けてあった地雷が起爆する。
湾曲した箱の形状をしたそれは、『VIP』の兵士の持つリモコンによって起爆。
爆発によって内包された700個程度の鉄球が一方向に扇状に発射され、敵方の兵士の身体を貫き、その命を奪う。

対人指向性地雷の名を持つクレイモア地雷が、北側の工場付近に線のように設置されているのだ。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:15:03.95 ID:5bA3acr60
  

これにより、敵方の兵士は容易に攻め込めなくなった。
ワイヤーではなくリモコンによる爆発なので、近づいた瞬間に地雷は爆発する。そのため撤去は難しい。
そのまま突き進むことは自殺行為に等しいため、敵方の兵士は遠くからのグレネードランチャーによる攻撃と、迂回しての突撃という作戦を取らざるを得なくなった。

「こちらチームα。敵が地雷を避けて迂回することを確認」

「チームβ、了解。ここで待機する」

クレイモアの撤去を行う敵はチームαが、迂回路を取る兵士に対してはチームβが殲滅に当たるという作戦だ。

『VIP』の中でも特に射撃・身体能力の高い兵士が集まるチームβの兵士は、工場の屋根の上ではじっと潜んでいた。
敵側がクレイモア地雷の仕掛けてある北のラインを避けるには、西と東に向かい、工場の中を通らなくてはならない。

よって、屋根の上で待ち伏せし、敵が中に入ろうとする所を狙撃すれば、ある程度の時間を稼ぐことができるのだ。



  
19: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:18:15.73 ID:5bA3acr60
  

「敵確認。人数は7」

「各自銃を構えろ。よく引き付けて撃てよ……!」

アサルトライフル「FAMAS」をほふく体勢で構え、敵を確認したチームβは、
敵が工場入り口5メートル付近まで近づいてきた時、引き金をフルオートで引いた。

銃身から放たれる毎分950発の弾丸は、いとも簡単に人間の身体に何十個もの穴を空けていく。

7人のうち、6人はその弾丸によって倒れ、1人は所持していたP90の引き金を引いて応戦してくる。
だが、地上と屋上では視界の幅がかなり違う。屋上のチームβが少し後ろに下がれば、敵の兵士の射線は届かなくなってしまう。
一方、敵はいくら逃げようとも、屋上の高さから見下ろされている状況で身を隠すのはかなり難しい。

そうして、応戦していた1人の敵も、結局はFAMASによる弾丸の洗礼を受けることになったのだった。

チームβの隊長が無線機を手に取り、司令部に連絡を取る。

隊長「チームβ。敵1部隊を壊滅完了。指示を乞う」

狐 『その場で待機だ。まだ突撃する必要はない。避難民が完全に退避するまで、その場で持ちこたえてほしい』

隊長「了解」

チームβの隊長は、無線機のスイッチを切り、辺りに目をめぐらせた。
兵士として鍛えられた目は、幾分の異変も逃さない。
たとえ木の葉の揺れが少し変わっただけでも、スコープの反射光が1秒未満光っただけでも、
それらの異変を捉え、瞬時に対処することができるのだ。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:20:27.43 ID:5bA3acr60
  

隊長はどこにも異変がないことを確認し、少し気を休めようと隣に座っていた若い隊員に声をかけた。

隊長「どうだ?」

若い隊員「大丈夫ですよ。これぐらいならまだまだ持ちこたえれます」

隊長「そうだな……避難民が退避すれば、後は突撃するか退却するかだ。こんなに神経を張り詰めなくて済む。もう少し我慢しろ」

若い隊員「りょうか、」

「了解」と言いかけた若い隊員の口に、まばたきの合間で小さな穴が空いた。
パシュ、という軽い音と、少量の血。
銃弾が命中したのだ。

先ほどまで話をしていた若い隊員はあっけなく倒れ、傾斜の強い工場の屋根から落ちていく。

しかし、彼を気遣う時間はなかった。
隊長はすぐに身を低くして、辺りを見渡す。
さっきまで敵影も何も見えなかったのに、いったいどこから撃ってきたというのか?

チュイン、という音がこだまする。また1発の銃弾が、鉄の屋根に弾けた音だった。
隊長は混乱する頭を兵士の理性で押さえつけながら、「こちらチームβ」と無線機に声を吹き込んだ。



  
21: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:22:48.71 ID:5bA3acr60
  

隊長「現在、銃撃を受けている。敵影なし。隊員が1人死亡した」

狐 『身を隠して銃撃から逃れてくれ。どこから銃撃を受けているのか分からないのか?』

隊長「わからない。赤外線センサーにも反応なし」

隊長は手持ちの赤外線スコープで辺りを見回すが、やはり敵の姿はどこにもない。
遠くで銃撃の音が聞こえるが、これはチームαと地雷を撤去しようとする敵の銃撃戦の音。

さきほど隊員が打たれた銃弾の方向から考えると、北からまっすぐ銃撃を受けたことになる。
だが、北には空き地と土手、川が広がっているだけで、敵影はなし。
それより向こう側は遠すぎて狙撃なんてできないはず。

パシュ、という音がまた聞こえた。左隣にいた隊員の頭が打ちぬかれた音だった。

狐 『敵が見つからないなら退却してくれ。その場にとどまるのは危険だ』

隊長「了解。これより100メートルほど後ろに下がる」

隊長は屋根の上にいた隊員に手信号を送り、退却指示を出す。
それぞれの隊員はほふく前進で屋根の上を移動する。
100メートルも後ろに下がり地上に降りれば、隠れる場所はいくらでもある。倉庫の中や、重機の後ろでもいい。
そこから敵の姿を確認するのが得策だ。



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:24:52.78 ID:5bA3acr60
  

と、そこで隊長は妙な感覚に襲われた。
何か嫌な感覚だった。何度か経験したことがある、本能的なもの。

危険。

そう思って後ろを振り返ると、そこには黒い「何か」が立っていた。
2メートル大の、全身が真っ黒で目も鼻もない異様な物体――『影』。
今、全世界を恐怖に陥れている存在。そして、『VIP』の主な敵のひとつ。

それを認識すると同時に、前を先に行っていた隊員が立ち上がり、FAMASの引き金をひいた。
だが銃弾は『影』の身体をすり抜ける。
これには何の銃火器も効かない。『VIP』の中でも特別な人間しか倒せないというデータは、すでにもらっている。

FAMASをオートで乱射していた隊員は、次の瞬間、頭を銃弾で打ちぬかれて、絶命した。
立ち上がった瞬間を狙った、見事な銃撃。まるで『影』と連携を計っていたかのようで……

隊長が、まさか、とひとつの考えに思い至った時、もうすでに彼の下半身は『影』によって引き裂かれていた。
『影』の黒い腕は、的確に隊長の足をもぎ取り、腹をつぶす。

悲鳴をあげる間もなくその意識を霧散させた隊長の身体は、倉庫の屋根からずり落ち、大量の血を辺りに撒き散らしていった。



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