( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 23: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:25:49.48 ID:5bA3acr60
一方、屋根の上では、『VIP』のチームβの兵士が『影』から逃げようと立ち上がり、地上に降りようと躍起になっていた。
だが、立ち上がった瞬間を寸分の違いもなく狙ってくる銃弾が、彼らの身体を貫き、筋肉を弛緩させる。
一方銃撃を恐れて立ち上がらなかった兵士は、『影』によってその身体を肉塊に変えられてしまう。
そうして、
チームβは、どこから来るかも分からない銃撃と1体の『影』によって、全滅した。
※
- 24: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:27:42.02 ID:5bA3acr60
※
『VIP』のテント内。
これまで通信を続けていたしぃの顔が曇り、頭に付けているインカムからの音を注意深く聞く。
だが、期待した応答はないのか、すぐに「だめです」と呟いた。
(*゚ー゚)「第1部隊のチームβ、応答ありません」
狐 「やられた……? 銃撃で?」
(*゚ー゚)「おそらく。いえ、ごく微弱なものですが……『影』の気配もしました」
狐 「そうか。ついに現れたか……」
狐が頭を掻き、腕を組んで思案を始めた。
しぃもまた『気』の使い手なので、ある程度は『影』の気配を掴むことができる。
その彼女が言うのだから、おそらく『影』は現れたのだろう。
今はどの部隊からも連絡はないようだが、これから『影』の発見報告は続々と入るに違いない。
ドクオは2人の様子を見ながら、足りない頭でそんなことを考えてみた。
- 25: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:29:45.92 ID:5bA3acr60
これぐらいは狐も考えられることだろうが、ジョルジュ達が『影』を操っていることが事実ならば、この場所にも『影』は攻めてくるに違いない。
敵兵士だけでなく、『影』もここを襲撃してくるとなると、こちらはかなり劣勢に立たされてしまう。
『影』には通常の兵器は何一つ効果がない。
唯一、ブーンの光を応用した『H.L』という兵器が対抗策としてあげられるらしいが、その数も少ないと狐はぼやいていた。
よって、『VIP』の兵士はなすすべもなく『影』に倒されるしか道はなく、
それはすなわちこちらの敗北ということになる。
狐 「……『影』に関しては、もう少し数が増えてきてから作戦を実行しよう。
問題は、出所不明の銃弾の正体だ」
どうやら『影』に対しては何か対抗策があるらしく、まずはチームβを襲った銃撃に関して対策を練るらしい。
ドクオはなんとなくさっきの通信を思い返してみる。
チームβの隊長は、周りには何の異常もないと言っていた。
敵がどこかに潜んでいた、という可能性も捨てられなくはないが、『VIP』の兵士は皆優秀で、気配察知能力関しては抜きん出ていると聞いた。
よって敵は近くにはいなかったと考えるのが妥当。
- 26: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:31:38.27 ID:5bA3acr60
となると考えられるのはひとつしかない、
と戦争物のゲームで得た知識をフル活用して考えていると、
狐 「あの銃撃は、超遠距離からの狙撃と考えるしかない」
狐が訳知り顔で言った。
(*゚ー゚)「しかし……狙撃ポイントがありません。
この工場の周りは空き地や平地が多いので身を隠せる場所がありませんし、風が強いのでそれほどの距離は取れないと思うのですが……」
狐 「……そうだね、そこの君、地図を出してくれ」
狐が命じると、近くにいた兵士が棚からこの辺り一帯の地図を出してくる。
地図は工場を中心とし、周り一帯は平地や空き地などの閑散とした土地ばかり。
南には山、北には川があるが、そこから撃つことはほぼ不可能と考えるしかない。
どちらも狙撃するには遠すぎる。3000メートルはゆうに離れている。
狙撃する距離は、銃と人間の腕にもよるが、だいたい1000メートルぐらいまでと相場が決まっているので、
スナイパーがいるとすれば、この工場内か周りの平地しかない。
- 28: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:33:55.22 ID:5bA3acr60
狐 「いるとすれば……ここと、ここだね」
だが狐は、ドクオが否定した北の橋と、南の山の観光施設を指差した。
(*゚ー゚)「そんな……いくらなんでも遠すぎます。
今日みたいに風が強い中、2000メートル以上の超長距離からの狙撃なんて不可能です」
その通りだ。普通のスナイパーなら不可能な所業。
狐 「けど、私ならできる。私ができるということは、敵もできるかもしれないということだ」
(*゚ー゚)「けど……」
狐「それに、1人いたはずだよ。ジョルジュ達の中にそういう銃火器の扱いに長けた兵士が。
もしかしたら、私以上の腕の持ち主かもしれない」
(*゚ー゚)「……彼女ですか」
彼女、と言われてもドクオには誰のことやらさっぱりだったが、それ以上に狐が狙撃の腕を持っていたことに驚きだった。
こういう所から、やはり狐も戦争を行う指揮官なんだなと思い知らされてしまう。
それに比べて、自分はゲームから得た知識しか使えない役ただずだな、ほんと。
- 29: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:35:06.66 ID:5bA3acr60
狐 「とにかく、川の橋付近と、この山の観光施設を中心に捜索を行ってくれ。
向かわせるのは……そうだね。コブラを2機ずつにしよう」
(*゚ー゚)「ヘリをこの場から離すのは危険だと思いますが……」
狐 「避難民の退却が済んでない工場の敷地内で、ヘリのミサイルや機関銃をぶっ放すわけにもいかない。
サーモグラフィーを積んだ偵察用の機体を1機と、攻撃用のヘリを1機、それぞれのポイントに向かわせるんだ」
(*゚ー゚)「わかりました。伝えます」
しぃはすぐにインカムを頭につけて、狐からもらった指示を各自に伝えていく。
- 30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:36:29.77 ID:5bA3acr60
('A`)「……」
ドクオはその様子を見ながら、改めて足元に置いてあるAK−47Uを足で小突いた。
硬い銃身の感触が足に伝わり、暴発しないか冷や冷やするが、安全装置がかかってるので安全なのだろう。
だが、それでも『銃』という存在自体が怖い。
この銃身から弾が出て、人を貫く。
それを想像しただけで身体が震えてくる。
そして、もしかしたら自分もそれを受けるかもしれないと考えると……
想像したくもない。
(*゚ー゚)「第2部隊より報告。『【影】を発見。これより徐々に退却する』とのことです」
狐 「あとは『影』か……」
狐の呟きが霧散する中、ドクオは隣に立つショボンとツンを交互に見ながら、握りこぶしをひとつ作った。
※
- 31: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:38:49.29 ID:5bA3acr60
※
『影』は徐々にその姿を現し始めていた。
『VIP』の兵士が敵と戦っている中、突如現れたそれらの『影』は所構わず建物を破壊していく。
せっかくのトラップもそれによって破壊されてしまう。
地雷や爆弾それ自体を壊されてしまってはトラップなんて何の意味も持たないのだ。
また、それらの『影』が人を襲っていたこと。
これまで積極的に人に危害を与えることのなかったのに、どういうわけかここでは『影』は『VIP』の兵士達に襲い掛かっていく。
無論、通常兵器の効かない『影』に対しては何もできず、兵士達は退却を余儀なくされた。
「退却! 作戦地域まで退け!」
「了解! みんな、退却だ! いけ! うぐっ!」
後ろへと下がる兵士達に追い討ちのように襲い掛かるのが、スナイパーによる精密射撃だった。
その狙撃はどこから来るのかもわからない恐怖の代物。
恐ろしいほどの命中率で兵士達を次々と殺していくその銃弾は、とどまることを知らなかった。
時にはわざと急所を外して、負傷した兵士に仲間が寄りかかろうとしている所を狙いもする。
足を撃って進軍や退却を遅らせもする。
たった1人のスナイパーに、『VIP』の兵士は翻弄されていった。
- 32: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:40:49.13 ID:5bA3acr60
だが、無論『VIP』側もそのままで終わるつもりは毛頭もなかった。
『影』に対しての対策はすでに行っていた。そのための退却であり、作戦の実行もあとわずか。
またスナイパーに対しても、狐が狙撃ポイントを推測し、その場所へと『VIP専用コブラ』――最強ともうたわれるガンシップを派遣している。
ただなぶり殺しにされるだけではない。彼らは対抗する意志を見せていた。
「こちらコブラA。山頂付近の観光施設を捜索したが、スナイパーらしき人物は見えず」
「こちらコブラB。右に同じだ」
「こちらコブラC。川沿いの橋を捜索中。コブラDも同じだ」
ヘリは狐の推測したポイントに、温度を色で視覚化したセンサー――サーモグラフィーをかけ、
スナイパーの発見に全力を向けていた。
現在、スナイパーによる犠牲者は後を立たない。
ヘリですら飛ぶのをためらわれる風の中、3000メートルを越える距離で狙撃を行うなど常人のなせる業ではないが、
しかしコブラに乗るヘリパイは自分達の探す場所に敵がいることを肌で感じ取っていた。
根拠などない。だが、山か川しか狙撃ポイントがないことは事実だし、何より長年の勘がそう告げていたのだ。
山を捜索していたコブラA・Bは敵を見つけることはできなかったらしいが、コブラC・Dはまだ捜索中。
見つかる可能性はまだあった。
- 33: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:43:04.27 ID:5bA3acr60
「ひどい状況だ……」
コブラCのパイロットは、川沿いにヘリを進ませるようにレバーを持ちながら、眼下に広がる景色を見据えてそう呟いた。
川沿いの建物は軒並みつぶされ、人っ子ひとりいないその景色。
まるで世界の終わりを告げるかのようなそれに、パイロットは背筋を走る冷たいものを抑えることができなかった。
「人がいないから捜索はやりやすいがな」
前の席で、サーモグラフィーのレンズを覗き込み続けている隊員が雰囲気を変えるように言った。
だが、パイロットは何も答えず、ただヘリを飛ばし続ける。答える気分にはなれなかった。
「ん、橋の下に不自然に温度の高い物体があるな」
「どこの橋だ」
「あそこだ。1番手前の。あ、消えた……」
「消えた?」
「ああ。どういうわけか反応が消えた」
疑問に思いつつ、パイロットはレバーを操作してヘリをその場所へと向ける。
肉眼では何も見えないが、センサーでは何らかの反応があるらしい。
橋の下がジャングルジムのように鉄骨で入り組んでいるその場所は、確かに足場を確保することはできるだろう。
しかも平地の工場より高い位置にあるので、狙撃を行うにはぴったりの場所だ。
- 35: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:44:51.04 ID:5bA3acr60
「ん……あれは」
パイロットは一瞬、人影が見えたような気がして、さらに目を凝らしてみる。
同時に武器管制システムを担当する前の席の隊員に、機関銃の用意をしておくことを告げておく。
ヘリは爆音を上げながら、ちょうど橋の高さの地点で静止した。
「反応は?」
「ないな……俺の気のせいだったかもしれん」
「頼むぞ、おい……」
「すまんすまん」
『コブラC。こちらコブラDだ。捜索はどうか?』
無線機に入ってきた硬い声に、パイロットは「進展ありません」と答えた。
コブラDにも進展はないことは、無線機の硬い声を聞けばわかる。
どうやら所長の出した推測は外れだったようだ。
ならばやはりコブラA・Bが担当する山の方にいるのか? と思い、手元の地図に目を移した、その瞬間。
- 38: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:46:20.91 ID:5bA3acr60
「目の前! 反応あり!」
「何!?」
隊員の声に急いで前を向くと、そこには橋の上に立って大型の筒状のものを構えている人間がいた。
パイロットは一見し、頭の中からそれに関する知識を思い出して、理解した。
地対空ミサイル「スティンガー」……!
パイロットは反射的にヘリを上空へとやり、ミサイルのロックオンを惑わすためのフレア(発火弾)を射出しようとしたが、しかしそれは間に合わなかった。
ホーミングする「スティンガー」のミサイルが橋の上から射出され、一直線に飛んでいく。
急上昇を行おうとしていたヘリの腹にそのミサイルは衝突し、瞬間的に爆薬が発火、爆発する。
- 39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:47:23.11 ID:5bA3acr60
ヘリのパイロットは目の前が真っ赤になりながらも、橋の上にいた人間の顔を頭に思い浮かべ続けていた。
从 ゚―从
その女に表情はなかった。
ただ淡々とスティンガーの引き金を引いていただけで、それはまるで機械のように見えた。
――機械に殺されたのか? 俺は――
そう考えるパイロットの意識も、次に訪れた爆発の衝撃によって霧散する。
そうして、2人の人間を乗せていたヘリは中央から真っ二つに折れ、炎を出しながら墜落していった
※
- 40: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:49:45.33 ID:5bA3acr60
※
川の土手に、炎をあげた鉄屑が撒き散らされている。
かつて空を飛び、翼をもぎ取ってしまった命。
それを目にしながら、ハインリッヒは橋の上でぽつんと立っていた。
从 ゚―从「……」
肩には、たった今ミサイルを射出して熱を帯びているスティンガーを担いでいるハインリッヒ。
「蜂の毒針」の名を持つこれは、人間がヘリに対抗できる武器として今でも使われている兵器。
ヘリが放つ紫外線を捉えて自動追尾するミサイルから逃れることはほぼ不可能だ。
けど……引き金をひくだけで後は機械がやってくれるなんてものは、命の重さを感じ取れる武器ではない。
そういう武器は嫌いだった。
ハインリッヒはスティンガーをかつぎながら、近くにあった階段を使って土手へと下りていった。
炎を帯びた鉄くずが巻き散らかっている中、かつてヘリだったその物体に対し、ハインリッヒは無意識に目を閉じて「ごめん……」と呟いた。
殺しておいて何を言う、と普通は思うかもしれない。
けど、自分にとってこれは必要なものだった。殺す必要がなかったとは言わない。けど、何の感情もなく敵を殺しているわけではない。
すまないと思う気持ちだってあるし、それを言いたい時もあるのだ。
これを人は自己満足と言うのだろうか?
けど、かつて人を殺すことをなんとも思わず、感情のない「Crazy Kill Machine」として過ごしてきた自分より、
そんな自己満足に浸る自分の方がよっぽどマシだった。
- 41: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:51:46.54 ID:5bA3acr60
从 ゚∀从
从 ゚―从「っ……!」
頭の中に現れた「もう1人の自分」。
ハインリッヒは顔を歪め、それを意識の外へと出そうと首を振る。
すぐに「彼女」はいなくなってしまったが、だがこれ以上戦い続ければ自分はまた「彼女」になってしまうことは確実だ。
かつてアメリカで大量の人を殺し続けた、自分であって自分でない「もう1人の自分」。
ジョルジュと出会い、彼に救われたことで意識的に押さえつけてきた「殺人のための機械」としての自分。
それがまた、目覚めようとしている。
嫌、とハインリッヒは呟いた。
もう2度と、目的も何ももたない命令を聞くだけの殺人マシーンにはなりたくない。
生きることも死ぬこともいとわない、人を殺すだけの存在。そんなものになりたいと、誰が望む?
- 42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:53:46.56 ID:5bA3acr60
从 ゚―从「……けど」
けど、「彼女」が出てこようとしてくることは仕方のないことかもしれない、とハインリッヒは思った。
このまま戦い続ければ、おそらく自分はもっと多くの人を殺さなくちゃいけないし、様々な危険に見舞われることだろう。
人を殺すという感覚や生存本能の警鐘が、かつての「機械」としての自分を呼び起こす。
機械としての「彼女」の力は絶大だ。
おそらく『VIP』の兵士など簡単に殺していくだろう。
今はその力が必要だとも言える。
ならば、どうする?
そう考えたハインリッヒは、簡単だ、と結論付けた。
从 ゚―从「私は……私」
自分はジョルジュのために生きようと決心した。
彼に助けられ、彼のために行動し、彼のために生きようとしている。
かつての自分とは違う。
命令に対して自分で考え、自分で判断し、自分で決めることができている。
「彼女」とは違う。
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