( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:06:47.93 ID:hj5V9knd0
  

第26話

一瞬たりとも気の抜けない時間が続いていた。
少しでも意識を他方に向ければ、その瞬間に死が訪れる。

そうならないために、ひとつのことに自分の心を集中させ、身体を動かす。
それは体力と精神力をすり減らしていく行為だった。

( ゚ω゚)「くそぉ!」

翼をはばたかせ、『剣状光』を振るブーン。
だが、その剣先は相手には届かない。

( ´_ゝ`)「遅い! 遅すぎる!」
(´<_` )「それでは俺達には当てられない!」

兄者を切りつけるはずの剣は空振りに終わり、その隙を突かれて弟者の手裏剣が飛んでくる。
瞬時に空へと飛び立って避けるものの、追い討ちをかけるようにして飛んでくる手裏剣達を全て避けきるのは無理があった。

(メ^ω^)「くぅ!」

左の太ももに1発当たり、ブーンは痛みで顔を歪める。
だが、それに耐える暇もなく、ジャンプしてきた兄者のロープを『剣状光』で受けた。
反撃で左手から『光弾』を放出。兄者はそれを避けて、地上に着地した。

20メートルの高さまで悠々とジャンプしてくる彼ら。
いったい『影』との同化でどれほどの力を得たというんだ?



  
4: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:07:51.78 ID:hj5V9knd0
  

( ^ω^)「はぁ、はぁ」

ブーンは息を弾ませ、左ふとももに突き刺さる手裏剣を抜き、ポケットに入っていた応急処置用の止血布を貼る。
これで血は止まる。けれども、痛みは消えない。
左腕と太ももからじんじんと感じられる痛みは、ブーンの精神を徐々に消耗させていった。

( ´_ゝ`)「さあ、まだ戦いは続くぞ」
(´<_` )「息を休める暇などない」

兄者と弟者がおもむろに上着を脱ぎだした。
彼らが着ているコートはかなり厚手で、ダメージを和らげるために着ていると思っていたが、どうやら違うらしい。
彼らはコートどころかYシャツや肌着、はてはズボンまで脱ぎ捨てていく。

そして、下から現れた彼らの身体は、完全に黒に染まっていた。

( ^ω^)「あんた達……」

( ´_ゝ`)「顔以外は全て黒……変だと思うか?」
(´<_` )「だが、これでも俺達は気に入ってるがな」

( ^ω^)「人間の体を捨ててまでやり遂げたいことがあるのかお……」

( ´_ゝ`)「当たり前だ」
(´<_` )「だから俺達はこうやってここにいるんだ」

( ^ω^)「……」



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:09:07.45 ID:hj5V9knd0
  

おかしいとは思うけれども、それを彼らに言う気は、なぜか起こらない。
彼らは彼らなりに信じるもののために戦っているのだ。

いまさら何を問う? 
相手と自分、互いの主張は平行線のまま、こうやって戦うしかないのだ。

( ´_ゝ`)「さあ、行くぞ」
(´<_` )「全力で止めさせてもらう」

( ^ω^)「……」

ブーンは『剣状光』を握り直し、どうやって彼らを倒すべきか考える。
攻撃力はこちらに分があるが、コンビネーションでは彼らの方が上。スピードは互角だ。

2対1という不利な状況では、完璧に彼らの行動を見極めない限り、攻撃を当てることは難しい。

だが、自分は敵の行動を予測するだとかは大の苦手だ。
その時その時の条件反射で戦ってきた身としては、いきなりそんなことができるはずもない。

ならば、勝てないのか? 
いや、そんなことはないはず。信じれば、勝てる。
今は自分を、白い光を信じなければならない。

そうして『光弾』を出そうとした瞬間、奇妙な感覚に捕らわれた。



  
8: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:10:18.54 ID:hj5V9knd0
  

( ^ω^)(……なんだお?)

敵から目を離し、よそ見をするなんて愚の骨頂だが、しかし気になった。
ブーンはふと目を横に向け、はるか遠くに感じられた奇妙な感覚を掴もうと意識を飛ばす。

( ^ω^)(……誰かが)

それは、遠くにあったロウソクの火が消えたかのような、今まで聞こえていた声が途切れたような、そんな感覚。

経験のない不思議なものだったが、ブーンは直感でそれがなんであるかを理解した。

( ゚ω゚)(誰かの心が……消えたのかお?)

ブーンははるか遠くを見つめ、その感触の出所を探った。

( ´_ゝ`)「よそ見などするな!」

兄者がジャンプしてこちらに向かってくる。
手には黒い光に覆われたロープが。

だが、



  
9: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:12:40.17 ID:hj5V9knd0
  

( ゚ω゚)「邪魔するなお!」

ブーンの身体全体を球状に覆うようにして現れた『光障壁』が、それを防いだ。
兄者は「なに!?」と驚きの声をあげながら、地面に着地する。

( ´_ゝ`)「なんだ……今のは……」

( ゚ω゚)「あっち……」

ブーンは小さく呟きながら、翼を羽ばたかせて移動し始めた。
向かう先は心の声が消えた地点。
誰か、自分の大切な人がいなくなった場所。

兄者と弟者が追いかけてくる気配を感じたが、今となってはどうでもよかった。

自分の向かうべき場所に向かわなければならない、そんな気がしたから。





  
10: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:14:43.63 ID:hj5V9knd0
  



銃弾が飛び交う戦場では、まず姿勢を低くすることが最優先とされている。
無論、弾が当たる面積を少なくするためだが、もうひとつ重要なことがある。

それは、敵に見つかりにくくするため、だ。

从 ゚―从「……」

ハインリッヒは、工場の中のダンボールの影で息を潜めていた。
中腰になり、目を絶え間なく周りに向けながらも、その耳は外へと向けられていた。

この工場の外ではすでに『影』と自分側の兵士、そして『VIP』の総力戦が繰り広げられている。

ハインリッヒの目的は、この工場の中に逃げ込んできた友軍の援護と『VIP』の兵士の排除だ。
この工場は身を潜めるにはちょうどいい場所で、怪我をした兵士が一時的な避難所にするには最適だ。
その証拠にこの工場のすぐ後ろには『VIP』の救護所がある。

ハインリッヒの任務は、敵側の兵士が救護所に行ったり、救護兵がここを通ることを妨害し、味方の援護を行うことだった。

ふと、工場の入り口から足音が響くのを感じ、ハインリッヒは右手のAUGの引き金に指をかけた。



  
13: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:16:13.85 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚∀从

从 ゚―从「っ……!」

再び頭の中に現れた『彼女』を振り払いつつ、銃身だけをダンボールの影から突出させ、同時に引き金を強く引く。

「ぐはぁ!」
「な、なんだがhわ!」

『VIP』の兵士2人がその銃弾をモロに受けて倒れた。
ハインリッヒは(ごめん)と心の中で呟き、2人が動かなくなったことを確認して、立ち上がった。

从 ゚―从(そろそろ支援だけじゃ限界……かな)

さきほどから、こちら側の兵士が逃げる姿が多くなっている。
それに比例して、『VIP』側の負傷者は少なくなっている。
外の様子を見るまでもなく、こちら側が劣勢に立たされていることは明らかだ。

こちらには『影』がいるので圧倒的に有利だったはずだが、それは覆されてしまった。

おそらく、あの2人の少年に。



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:18:19.99 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从(あの2人……『影』を倒せるのか……)

ハインリッヒがこの工場に入る直前に、遠くからちらりと見えた2人の少年。
彼らのアサルトライフルの銃弾は『影』を倒せるらしく、そのせいで『影』の数はだんだんと少なくなっている。

このままでは地力で劣るこちら側が負けることは必至であり、少年達をなんとかしなければ未来はない。

だが、『VIP』はもちろんそんなこちら側の思惑など分かっており、少年の周りには何十人もの兵士が護衛役として張り付いており、容易に近づくこともできない。

あれだけの数を倒すのは『影』でも兵士でも不可能だ。

けど、『彼女』なら……?

从 ゚―从「……」

ハインリッヒはポケットから白い携帯電話を取り出し、じっと見入った。
時計と電話代わりにしかなっていない質素なその画面には、何の着信履歴もメールもきていない。

「これに反応があるまで絶対に突撃はするな。支援に徹するんだ」というジョルジュの言葉通り、自分はずっとそうしてきた。
彼の指示を無視するつもりなんて微塵もなかったし、こんな指示を出すのは、自分の身を案じてのことなのだというのもよく分かっている。

だけど、だ。

自分の頭で考えたら、どうか?
こうやって支援に徹してばかりで、果たしてジョルジュのためになるのか?



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:20:42.36 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从(違う……)

今やるべきことはひとつ。
『VIP』の本部を叩いて、少しでもジョルジュの手助けをすること。ただそれだけ。

ならば、自分は自分の信じる方法でその目的を達成しなくてはならない。
命令だけを聞く兵士ではない。1人の意思を持った人間なのだから。

ハインリッヒはゆっくりと歩き出し、AUGのトリガーを指で確認した。
工場の外は激戦区だ。だが、今は何の恐怖も感じない。

从 ゚∀从

从 ゚―从「つっ……」

頭に広がる『彼女』の心。
『彼女』はこの戦いの場を嬉々として見つめている。
今にもこの身体を乗っ取り、敵を殲滅しようとしてくるだろう。

だが、『彼女』を表には出させてはならない。
自分が行うことは『殺戮』ではなく『戦い』なのだから。

だから、その力を意思でコントロールする。今ならそれができるはず。

工場の外で『VIP』の兵士がひとり見えた時、ハインリッヒはAUGの引き金を強く引いた。





  
19: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:23:05.61 ID:hj5V9knd0
  



戦場の空気は濁っている。そんなイメージをいつも抱いていた。

だけど、今感じている空気はすごく澄んでいる。
頭がハイになって……まるでトランプでぼろ勝ちしているような気分だった。

(♯'A`)「うおおおお!」

ドクオの持つAK−47Uから無数の銃弾が放たれると、それは『影』に直撃し、その身体を消し去っていく。

これで倒した『影』は20体目ぐらい。確実に少なくなっていた。

(´・ω・`)「ドクオ! 飛ばしすぎ! もっと弾を節約しないと!」

('A`)「わかってるさ! けどな、これだけ多いと弾もなくなるんじゃねえか!」

ショボンは安心して背中を預けられる相手だった。
目の前にいる敵は自分が、後ろの敵はショボンが撃っていく。
『影』は次々に消えていき、今では『VIP』が完全に優勢となっていた。



  
21: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:24:48.61 ID:hj5V9knd0
  

('A`)「うぉ!」

物陰からいきなり敵の兵士が現れ、ドクオは驚いてとっさに引き金を絞りかけた。

だが、撃つことはできなかった。

('A`)「く、くそ」

自動小銃をこちらに構えてくる兵士に対して、ドクオは何もできなかった。
今にも撃ってくる気配を感じる。

だめだ、死ぬ――

そう思った瞬間、横から強烈な銃声が鳴り響き、敵は人形のように倒れこんだ。

撃ったのは自分達を守ってくれている部隊の隊長だった。

隊長「兵士は任せておけ……お前達は『影』を頼む!」

笑みを浮かべながら、銃をしまう隊長。

('A`)「す、すんません」

隊長「気にしなくていい。人は撃ちたくない、だろう?」

('A`)「……はい」



  
22: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:26:35.30 ID:hj5V9knd0
  

この戦場にやってくる時、『VIP』の隊長さんと交わした約束がある。
それは、『自分達は『影』は撃っても、人は撃たない』ということ。

自分達は兵士ではない。人間だ。
人を殺すなんて絶対にできないし、やりたくもない。

甘ったれた考えだと思われるかもしれないが、これだけは譲ることができなかったのだ。

隊長「お前達が『影』を殲滅してくれれば、あとは私達がなんとかする。
   とりあえずこの辺り一帯の『影』を消してくれれば、それでいい」

こんな甘い考えを快く受けいれてくれた隊長さんには、本当に感謝していた。
もちろん、『影』を倒せる人材を獲得できるのなら、これぐらいの条件は渋々飲まなくてはならないのだろう。
けど、嫌な顔ひとつせずに『仲間』として受け入れてくれたのは本当にありがたい。

だからこそ、自分達は『影』を倒すという目的に専念できるのだ。

('A`)「うおおおお!」

(´・ω・`)「くぅ!」

また2体の『影』が消滅。
これでこの辺りの『影』はあらかたやっつけたことになる。



  
23: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:29:07.61 ID:hj5V9knd0
  

ほっと一息ついたドクオだったが、いきなり隊長さんに頭を抑えられ、「うぐっ」と息をつまらせた。

隊長「頭を低く!」

その怒鳴り声に素直に従い、ドクオとショボンは地面に頬をつけるように寝転んだ。

すると、すぐに強烈な爆裂音が鳴り響き、身体に土砂がかかる。
手榴弾が近くで爆発したのだ。

ぞっ、と背筋が凍るのを感じたドクオ。
血の匂いが充満し、人が死ぬ原因になるものがそこかしこにあるこの状況で、正気を保てている自分は奇跡だ。

やり遂げなくてはならないことを抱えているからこそ、なのだろうか。

('A`)「はぁ、はぁ……」

隊長「よし、この辺りの『影』はいなくなった。お前達は後ろに下がっていろ。そこのお前! この2人を救護所に、」

隊長の言葉はそこで突如切れた。
指示のために伸ばした人差し指が脱力し、顔は驚愕の表情に染まったまま動かない。

彼の眉間には、穴が空いていた。



  
24: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:30:29.84 ID:hj5V9knd0
  

('A`)「あ、あぁ……」
(´・ω・`)「……」

隊長の身体がゆっくりと崩れ落ちていく。
眉間の穴から一筋の血が流れ、それが地面に落ちるよりも早く、彼の身体は沈む。
そして、まったく動かなくなった。

さっきまで自分達を守ってくれていた人は、眉間に当たった銃弾一発であっけなく死んだ。

呆然とそれを見ていたドクオは、ふと視線を移した。

そこには、1人の『女性』が立っていた。

「……」

無表情の女性。
その細腕と比べてあまりにもごつい機関銃を持ち、ゆらりと立っている。

彼女の他には周りに誰もおらず、ならば隊長さんを撃ったのは彼女で間違いなく、
けどそんなことをするようには思えない普通の女性に見えた。

ドクオは目を開きっぱなしのまま、彼女の顔を凝視していた。



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