( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
25: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:31:57.21 ID:hj5V9knd0
  

兵士A「何者だ!」

兵士B「かまわん、撃て!」

隊長を撃たれたことで彼女を敵と判断した『VIP』の兵士達が、一斉に彼女に銃を向ける。
だが、これだけの人数を前にしても彼女の顔は何一つ変わらない――いや、違う。少しずつ、口の端が上がっていた。

徐々に上がっていく口。

皺を浮かべる頬。

まさしくそれは、

从 ゚∀从「……ヒャハ♪」

満面の笑みだった。





  
26: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:33:51.02 ID:hj5V9knd0
  



敵は12人。
たったの12人だ。

兵士A「撃て!」

いきなり撃ってくる兵士達に対し、横に飛び跳ねて全ての銃弾を避ける。
反応の遅い敵は、こちら側のAUGが火を噴く瞬間を見ることもないまま、2人の戦力を消耗させた。

兵士C「く、くそ!」

気持ちのいい声が聞こえる。恐怖で歪んでしまったその表情もイイ。
もっと見せてほしい。もっと、もっと。

从 ゚∀从「ハーハッハッハ!」

人形のように倒れていく兵士3人。
いずれもAUGの射線に巻き込まれたものばかり。

兵士達は全て、眉間にたった一発の銃弾を撃ちこまれて死んでいく。

残り7人。

もっと声が聞きたい。
もっとその表情を見たい。

もっと、もっと。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:35:57.46 ID:hj5V9knd0
  

(違う、でしょ)

頭の中でそんな声が聞こえ、ハインリッヒは「ヒャハ!?」と奇声をあげて近くにあったダンプカーの後ろに身を潜めた。

(私がやるべきことは、もっと別のこと)

从 ゚∀从「ヒャハ……ヒャハ!」

頭痛を起こしたようにガンガンと鳴り響くその声。
『彼女』は頭を抱えて、それに耐えるように顔をゆがめる。

(さあ、行くわよ)

从 ゚∀从「ヒャハ……」

ハインリッヒの笑みが徐々に消えていく。
それと共に、喜びに染まっていた心は、冷静で氷のように冷たいものに、
人を殺す感触を楽しんでいた手は、存在意義を掴み取るものに変わっていく。

从 ゚―从「……よし」

ハインリッヒは自分の胸に手を置き、心臓の鼓動を確かめる。

この鼓動が消えるまで、戦い続けよう。

『彼女』と共に。



  
29: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:37:55.15 ID:hj5V9knd0
  

ダンプカーの陰から突如身を表したハインリッヒは、横にジャンプしつつ、近づいてくる『VIP』の兵士の足を撃ち抜いた。

从 ゚―从(いける!)

正確無比な銃撃を行えている自分の腕を確かめつつ、目標の少年2人の位置を確かめた。

彼らはすでに遠くに避難していた。
兵士2人に付き添われるようにして逃げていく彼らの背中を、ハインリッヒは見逃しはしなかった。

後ろで足音がしたのを感じ取り、すぐさま身体を後ろに向けて引き金を引く。
1人、腕と足を撃たれて倒れた。これで残り5人。少年たちと一緒にいるのを除けば3人。

今度は横のダンボールの物陰から銃のセーフティを解除した音が聞こえ、ハインリッヒは迷いもせずにそこに銃弾を打ち込む。
だが、それはフェイクだったらしく、当たった感じがしなかった。

兵士D「くらえ!!」

上、と判断した時にはすでに銃口が熱を帯びていた。

兵士D「ぐはっ!」

屋上に立っていた『VIP』の兵士は肩を撃たれ、地面に落ちてくる。
だが、段ボール箱に落下したので大した怪我はしていない。それでも戦闘不能だけど。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:39:55.41 ID:hj5V9knd0
  

邪魔者はあと2人。
ハインリッヒは目標に向かって走り出す。

すぐに後ろから銃の構える音が聞こえ、ハインリッヒは振り向かず、何の躊躇もなく引き金を引いた。
姿を見ることもなかった兵士2人の「うぐぅ」という呻き声が聞こえたが、もう彼女にはそんなものはどうでもよかった。

これで、残りは少年2人と兵士だけ。

从 ゚―从「逃がさない……!」

重量4キロのステアーAUGを担ぎながら走るのは、かなりの体力を要する。
さらには手榴弾やマガジンまでも持ち歩くとなると、兵士としての訓練を受けたものでも苦労するものだ。

だがハインリッヒは、目標に近づけば近づくほど身体が軽くなっていくのを自覚していた。
これが『彼女』の力。体力・技術・精神全てを『戦争』のために使うことのできる『彼女』にとって、これぐらいの任務は造作もないことだった。

少年達を追いかけている間も何人もの兵が邪魔をしてくるが、それら全てをAUGの一撃の下で沈黙させていく。

目標が工場の壁沿いを右折する。その先には『VIP』の兵士達が集まっているはずだった。
だが、ハインリッヒはその後を、迷うことなく追いかけていく。
待ち伏せされていても、撃退する自信があった。



  
31: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:41:57.39 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「……!」

だが、角を曲がった瞬間に見えたのは、少年達でも兵士でもない。
上空から近づいてくるヘリ――「コブラ」だった。

从 ゚―从「くっ……!」

ハインリッヒは咄嗟に工場の壁に身を隠した。
次の瞬間、ヘリの機首下面に設置されているM79三砲身ガトリング砲から、すさまじい銃弾の嵐が放たれた。
工場の壁を削るように撃ちこまれていくそれらは、戦車の装甲すら切り裂く威力を持っている。

無論、工場の壁ごときが盾になるはずもなく、ハインリッヒは急いでその場から離れ、トラックの後ろへと隠れた。

こちらの姿を見失ったコブラが一時的に高度を上げた。
おそらくセンサー類でこちらを見つけ出すか、もしくは他の敵の排除に向かうのだろう。

从 ゚―从「はぁ、はぁ……」

無残にも穴だらけになった工場の壁を見据えつつ、ハインリッヒは自分の装備を確認する。

ステアーAUGと手榴弾が数個。あとはナイフぐらい。

これで、現在もアメリカ海兵隊や日本の陸上自衛隊で使用されている、あのガンシップをかわすことができるか?



  
32: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:44:23.83 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从(できる……今なら!)

ハインリッヒは躊躇することなくトラックの陰から飛び出し、振り向きざまにステアーAUGを上空に向ける。

今までのように片手ではなく、両手で確実に照準を合わせ、フルオートで連射。

狙うのはヘリの装甲じゃない。そんな所に撃っても牽制にもならない。
ただのアサルトライフルでヘリを落とすには、一点集中の攻撃を脆い部分に浴びせるしかない。

ハインリッヒは力強くその引き金を引いた。
弾丸はひとつの場所へと吸い込まれるように飛んでいく。

それは常人のなせる業ではなかった。
一発一発を正確無比に撃ち込める射手はざらにいるが、フルオートでそれを行える者はそうはいない。

『彼女』はそんな神業を行うことのできる数少ない1人だった。
努力でもなく根性でもない。『彼女』にはそれを行えるだけのセンスがある。
その力を使っている今はそれがよくわかる。

残り30発だった弾丸が、頭の中でイメージした直径5センチの円の中に連射で撃ち込まれていく。
その円はヘリコプターの中でも1番繊細な部分――ローターのつなぎ目の上にあった。

ヘリの尻尾の部分にあるテールローターに、一点集中で撃ち込まれたその弾丸は、シャフトを捻じ曲げ、機体の姿勢制御機能を失わせる。



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:46:18.97 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「まだ……!」

だが、ガンシップはそれぐらいで落ちはしない。
テールローターはまだ完全に停止しなかった。

機関銃の矛先をこちらに向けたヘリは、旋回しつつ無数の銃弾を放ってくる。

ハインリッヒは全速力でヘリの前を横切り、再び工場の壁に身を隠す。
『VIP』の兵士が近付いてくる気配を感じ、これならミサイルを撃たれることもないから逆に楽だな、と考えつつ、
味方の兵士が近くで倒れているのを見て、彼が持っていたグレネードランチャーを拾い上げた。

同時にAUGのマガジンを入れ替え、ヘリのセンサーに引っかからないよう、火災が起きている場所を背に移動するハインリッヒ。

ヘリの後ろに位置を取った彼女は、今度は左手のグレネードランチャーを発射した。

曲線軌道を描いてキャノピーに直撃したグレネード。
たとえ耐弾ガラスで守られていようとも、中の人間がその爆圧をまともに受けて無事でいられるはずがない。



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:48:42.26 ID:hj5V9knd0
  

確実にその身をぐらつかせたヘリに対し、ハインリッヒはさらにテールローターへとAUGの弾丸を撃ち込む。

ヘリには、メインローターが回転する反作用として、逆回転のモーメントが発生する。
それを打ち消し、機体を安定させるために備えられているのがテールローターだが、
それがつぶされ、中の人間も負傷してしまったコブラは、酒酔い運転を行っているスポーツカーに等しい。

そんな状態ですばやい動きができるはずもなく、ハインリッヒにとって今のコブラは格好の的でしかなかった。

テールローターに次々と撃ち込まれていく弾丸は、微弱ながらもヘリにダメージを与えていく。
そのまま攻撃を受け続ければ確実に落ちる。

そう思ったものの、コブラは生還を選択したのか、ふらふらとよろつきながら、徐々に工場の外へと逃げていった。

从 ゚―从「ふぅ……」

ヘリの音が遠くなるにつれて、ハインリッヒはAUGの引き金を引くのをやめ、辺りを見渡した。
アサルトライフルでヘリを退けた興奮など微塵も感じることなく、冷静に状況を把握する。



  
35: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:50:52.52 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「あっち……」

『VIP』兵の気配がしなくなった。どうやらコブラにこの場を任せて、他の兵士は退却したのだろう。
ハインリッヒはついさっき少年達が逃げた方向と、兵士達が選びそうな逃走ルートを推測して、道を選んだ。

武器の重量を気にすることもなく、すさまじいスピードで走っていくハインリッヒ。

身体が軽い。頭も冴えている。
今までで1番、強くなっている。

『彼女』の力と、自分の心。

それを合わせた今、もう誰にも負けない。
そんな高揚感が身体を包み込んでいた。

从 ゚―从「いた……!」

兵士達が集まる屯所にて、少年二人と複数の兵士達が何やら話し合っている姿が、100メートル先からでも見えた。

すぐにこちらに気付いて『VIP』兵は銃を構えるが、今の彼女にとってそれは遅すぎた。
左右に展開する兵士達に一発ずつAUGの弾丸をお見舞いし、ハインリッヒはすさまじいスピードで彼らに近づいていく。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:52:33.42 ID:hj5V9knd0
  

('A`)「ひ、ひっ」

少年の1人が恐怖で顔を捻じ曲げていた。
それを見て心が痛むが、今は彼らを排除しなければ、自分達の道は開けない。

必要なのだ。今、彼らがいなくなることが。

从 ゚―从「っ……!」

護衛についていた『VIP』兵は、少年達を連れ出そうと彼らの服を引っ張る。
だが、ハインリッヒはその兵士の足と肩に銃弾をぶち込む。すぐに彼の身体は弛緩し、地面に倒れこんだ。

(´・ω・`)「な、なんだよ」
('A`)「こいつはやべぇよ……に、逃げないと!」

兵士「早く逃げろ!」

再びVIP兵が彼らを守るようにして周りを囲む。
兵士が銃を撃つ気配を感じたハインリッヒはしゃがみ込み、その反動を利用して横にジャンプしつつ、空中でAUGを撃った。

兵士「ぎゃっ!」

続いて、機会をうかがっていたらしい右の兵士1人にも1発、後ろの兵士2人にも1発ずつ、銃弾を喰らわせる。

これであらかたの兵士は倒れた。

残るは少年2人だけ。



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:54:16.77 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「……」

(;'A`)「く、くそ!」
(;´・ω・`)「く、くるな!」

AK―47Uを構える少年達だったが、手は振るえ、銃身も安定していないその腕では当たるものも当たらない。

ハインリッヒは静かにステアーAUGを彼らに向けた。

('A`)「ひ、ひっ!」

少年の顔がまた歪む。

ハインリッヒはその顔を見て、また胸がちくりと痛んだ。

生きようとする少年の命。はたしてここで終わらせていいのか?
ジョルジュのため、世界のためとはいえ、ここで彼らを殺すことが許されるのか?

从 ゚―从(そんなこと、許されない。けど……)

すでに血で汚れたこの手。
いまさらこの手で何を望む? 何を願う?

罪と罰を背負うべきこの身体。
最後ぐらい、自分の信じたモノのために、愛した男のために使おう。

だから、



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:54:55.13 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「……死んで」

('A`)「ひ、ひ!」
(´・ω・`)「く、くるなぁ!」

ハインリッヒは引き金にかけた人差し指に力を入れた。

39名前: 閉鎖まであと 10日と 21時間投稿日: 2007/01/12(金) 23:55:25.90 ID:x8whCun2O
高岡恐いよぉ(´;ω;`)
40: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:56:59.80 ID:hj5V9knd0

だが、弾丸が発射されることはなかった。











自分の身体が血で染まっていたから。



  
42: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/12(金) 23:58:17.80 ID:hj5V9knd0
  

从 ゚―从「……え?」

ハインリッヒは自分の胸から染み出てくる血を視認し、ぐらりと身体をよろつかせた。

横から銃声が聞こえた。
そして、今自分は血を流している。

撃たれた? 自分が?

从 ゚―从「あぅ……うっ……」

腕が麻痺していく。脳の活動が鈍っていく。

高揚感にまみれていた身体は、だんだんと鈍くなってくる。
『彼女』の力が、なくなっていく。

从 ゚―从「ま、だ……」

だが、ハインリッヒは動きを止めることをしなかった。

まだ自分は何もやっていない。
ジョルジュに恩返しできていない。感謝の気持ちを示せていない。

彼のためにも、今ここで倒れるわけにはいかない。



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