( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:25:06.82 ID:Pq8gNNQw0
  

第29話



目を開けたら、そこは真っ白な空間だった。

空も地面もない。自分の身体すら見えない。
上下左右の感覚もなく、まるで浮いているような感じ。

身体はぴくりとも動かない。声も出せない。
音も聞こえなければ、匂いもしない。あらゆる意味で真っ白な空間だった。

そんな中、ふと隣に誰かが立ったような気がして、けれども目を動かすこともできず、
しかも気のせいだったかもと思いながらも、聞こえてきた声にブーンは耳を傾けた。



  
4 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:25:57.74 ID:Pq8gNNQw0
  
(*゚ー゚)「時は満ちました」

ξ゚听)ξ「選択の扉が現れるわ」

('A`)「お前が決めるんだ」

(´・ω・`)「世界をどの扉に導くか、だよ」

川 ゚ -゚) 「その時、心は開く」

もう分かる。それらは『従者』の声。
自分に決断を促す言葉。

それ対し、ブーンは静かな心で答えた。


もう、心は決まっていたから。






  
5 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:26:49.41 ID:Pq8gNNQw0
  

(*゚ー゚)「時は満ちました」

ξ゚听)ξ「選択の扉が現れるわ」

('A`)「お前が決めるんだ」

(´・ω・`)「世界をどの扉に導くか、だよ」

川 ゚ -゚) 「その時、心は開く」

もう分かる。それらは『従者』の声。
自分に決断を促す言葉。

それに対し、ブーンは静かな心で答えた。


もう、心は決まっていたから。






  
7 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:28:03.02 ID:Pq8gNNQw0
  



黒い光が晴れた世界。夜の空気が戻ってきた世界。

空の一点にぽつんと白い光が現れる。

それは太陽のように強烈に光り出し、辺りを照らし始める。
夜は昼へと代わり、空は白い光に覆われていく。

雲と地面の間に広がっているようで、白い光は星や太陽、月などの天体を隠し、白い膜のようにこの星を包んでいった。

地上にいた人間は、突然夜から昼になった空を見上げ、驚く。
「なんだ、あれは」。それが口を揃えて言った第一声。

そして、彼らはその白色光の出所をさぐり、空をぐるりと見回す。
すると、ある一方向から強烈な光が噴き出していることに気付き、目を細めてそれを凝視するのだ。

太陽のように光るその発光体は、じょじょにその光量を弱め、その正体をあらわにしていった。



  
8 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:29:52.74 ID:Pq8gNNQw0
  

「あれは……」
「人……?」

屋上から、地上から、車の中から、飛行機の中から、様々な場所からその発光体の正体を見た人間達。
彼らはただ呆然とするしかなかった。

それは、人間のように見えた。
だが人間ではなかった。

その人間は宙を浮き、目を瞑っていた。
腕を下げ、足を揃えて空を飛ぶその人間の背中からは、白い光が未だに噴き出している。

いや、違う。それは翼だった。
1枚は上に向かって、1枚は真横に、1枚は下に向かって、それぞれ別方向に向かって伸びるその白い翼の枚数は、合計8枚。
4対8枚の、数十メートルはあろうかという巨大な翼を携えた人間が、空に浮かんでいたのだ。

人々は唖然とそれを見ることしかできなかった。

黒い光のような恐怖は感じない。
だが、その翼を持った人間は、何かをもたらすに違いない。
そんな直感のようなものが目撃者たちの間に共有されていた。



  
10 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:30:47.22 ID:Pq8gNNQw0
  

そして、その直感はまさしく当たった。

( ゚ω゚)「……」

少年が動いた。
口を広げ、胸を押し上げるその姿は、声を出そうとしているようにも見えた。

だが、何の声も聞こえない、「聞こえない声」だった。

代わりにその体から発せられたのは、白い光。

直径50メートルあろうかという巨大な光球が彼の頭上に発生し、近くの街へと勢いよく飛んでいく。

地面に当たった瞬間、爆発したかのように光が広がり、街をすっぽりとドーム状に覆ってしまった。
爆発音も衝撃もない。ただ「光がそこに広がった」だけなのだ。

光は徐々に勢いを失くし、収束し始める。
だが、そこにあったはずのものは、もう存在していなかった。
ビルも民家も、道も、電柱も、人も、木も、全て。
全てが跡形もなく消え去り、残されたのは土をえぐられ、隕石が落ちたかのようなクレーターができた土地だけだった。

街どころか、地面すらも消滅してしまったのだ。



  
11 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:31:45.21 ID:Pq8gNNQw0
  

近くにいた人々はその一部始終を見ていた。
テレビ局もその映像を写していた。
衛星からモニターしていた各国の軍隊、政府もそれを見ていた。
そして、もちろん『VIP』もそれを目撃していた。

彼らの間に流れ込んできた感情はただひとつ。

「混乱」。

恐怖でも歓喜でもない。ただ「混乱」だけが彼らの心にもたらされる。

人々は顔を見合わせ、何が起こったかを理解しようと努める。
テレビ局のアナウンサーも「ただいま状況を把握している最中です。お待ちください」と流すだけ。
政府や軍隊も情報を交換し合って、混乱する頭を整理しようとし、
『VIP』は見知った少年が行った行為に、頭が真っ白となる。

混乱する人々に対し、翼を持った少年は静かに空に浮かぶ。

世界の行く末を、じっと見つめるかのごとく。





  
12 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:33:18.46 ID:Pq8gNNQw0
  



通信士『××町の一角が消滅! 死者、被害ともに計り知れません!』

兵士『少年――ブーン君は徐々に移動を開始! 北方面に向かって進行中!』

通信士『近隣の住人がパニックを起こしています! 現在、避難所は人で溢れかえっていて、危険です!』

狐「くっ……これはどういうことだ……!」

狐の切羽詰った声に対し、様々な方面から様々な通信が入ってくる。
それらは全て、ブーンについての情報だ。

突如、大量の白い光をその身体から溢れさせ、背中に8枚の翼を作り、空を光で覆ってしまったブーン。
近くの街をまるごと消してしまい、今もゆっくりと移動しているらしいブーン。

何が起こったのかまったくわからない。
どうしてつーやジョルジュを倒したのに、今度は彼がこんなことをやるのか?
彼はどうして……人を消してしまったのか。

様々な疑問を胸に抱えながら、ドクオは、もはや画面が真っ白になってしまったモニターから視線を外し、
慌てた様子の狐とぃょうの様子をうかがう。



  
13 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:34:10.54 ID:Pq8gNNQw0
  

通信士『アメリカ軍からの通信が入りました。つなぎます』

( ^Д^)『これはどういうことだ! あの少年はお前たちの仲間ではなかったのか!?』

狐「ええ、しかし何があったのかはわかりません。現在調査中でして……」

( ^Д^)『あれを見なかったのか! 街をひとつ消したんだぞ! 明らかに危険だ! 敵に寝返ったのではないのか!』

アメリカ陸軍大佐、プギャーがそうがなるのに対し、狐は何も言い返せずに口をつぐんだ。
ブーンがあんなことをやってしまった今、何も言うことはできない。確かに街を消してしまったのだ。

今や、ブーンは世界を混乱に陥れている原因となってしまった。特にアメリカ側にとっては。

( ^Д^)『これから戦闘機を差し向ける。あれは【影】ではないのだろう? ならば通常兵器でも殲滅が可能だな』

('A`)「なっ!?」
(´・ω・`)「そんな!」

いくら街を消してしまったからと言って、あれがブーンであることに変わりはない。
もしかしたら敵に操られているだけかもしれないし、元に戻る可能性も十分ある。

なのに、いきなり「殲滅」? 早計すぎる。



  
15 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:35:47.50 ID:Pq8gNNQw0
  

狐「待ってください! それは……!」

( ^Д^)『今あいつを止めなければ、さらに被害は拡大する。
     たとえかつての仲間であろうとも、今となっては世界に混乱もたらす元凶だ。
     感情にとらわれていては、助けるべき人間も助けられなくなるぞ』

狐「しかし、彼は……」

( ^Д^)『お前も国を守るものとして考えれば分かるはずだ。
     大きなものを守るためには、小さな犠牲も必要だということが』

狐「……」

( ^Д^)『【空軍から借りたF−22とB−2を発進させろ。クラスター爆弾と核の使用も許可する】』

プギャーが近くにいた兵士に命じたのだろう。
英語だったけれども、明らかに攻撃の指示だと分かり、ドクオは慌てて機関銃を放り出して、「狐さん!」と怒鳴った。

('A`)「このままじゃブーンが!」

狐「……けど、実際ブーン君は街ひとつを消してしまった。
  これ以上の被害が出ることは防がないといけない」



  
16 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:37:22.91 ID:Pq8gNNQw0
  

(#‘A`)「けど、あれはブーンなんすよ!」


ドクオは叫び、狐の胸倉をつかむ。
だが、狐は目を閉じ、握りこぶしを作ってそれに耐えるだけで、何の抵抗も見せようとはしなかった。

狐「時には……守るための犠牲も必要なんだ」

('A`)「……っ! くそっ!」


ドクオは走り出し、テントから外に出た。
外は夜とは思えないほど明るく、空は真っ白に染まっている。


目をこらすと、ブーンの8つの翼がぽつんと見える。
ここから彼がいる場所まではかなりの距離があるのに、それでも見えるとは……

つまり、それほど翼が巨大だということなのだろう。



  
17 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:38:10.99 ID:Pq8gNNQw0
  

近くにいた兵士から双眼鏡を借り受け、ドクオはレンズ越しに戦闘機がブーンに向かって飛んでいくのを見た。

あれが、今からブーンを攻撃する。

('A`)「馬鹿やろう……やめろってんだよ!」

ドクオはそう叫ぶものの、戦闘機が止まることはない。

白い翼に向かって、黒い点のような戦闘機が猛スピードで近付いていくのを、ドクオは見ていることしかできなかった。






  
20 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:39:37.55 ID:Pq8gNNQw0
  



アメリカ軍が差し向けたF−22は最新型の戦闘機だ。

レーダーに映りにくくするステルス性能を持ち、
アフターバーナー(高推力を得るための装置。だが、燃費が悪い)を使わずに超音速巡航を可能にした次世代型。
最強の戦闘機と言われているF−15にも勝る性能と、対空対地ともに十分な装備を持っている。

冷戦の終結に伴い、これほどの高性能機は必要ないとの方針により、生産台数は削減されたものの、
現在のアメリカ空軍の第一線をささえているのはこの機体だ。

そんな高性能戦闘機が、日本の空の上を駆ける。
3機編成、3角形状に広がるそれらは、たったの1人の敵に対しての戦力としては過剰とも言えるだろう。

その後ろに続くのが1機のB−2爆撃機。
これもまたステルス性能を持ち、水平尾翼と垂直尾翼がない特徴的な形をしている。
元々は、レーダーをかいくぐって隠密的に核攻撃を仕掛けるために開発されたものだ。
もちろん、こちらも少数ながら第一線で活躍する爆撃機。
しかもB-2は核ミサイルを搭載していた


つまり、アメリカ軍は、敵と認識した少年を、完全に討ち滅ぼそうとしていたのだ。



  
21 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:41:16.83 ID:Pq8gNNQw0
  

まず、F−22が亜音速で飛んでいく。

パイロットは、正面の巨大な白い翼を見据えながら、機関銃の照準を中心の少年に合わせ、何のためらいもなくボタンを押す。

機体下部に備え付けられている20mm機関銃が火を噴き、寸分の互いもなく少年の身体へと浴びせられていく。
パイロットは確かに、弾丸が当たった手ごたえを感じていた。

パイロットA『軽いな、これぐらい』

先頭を切って攻撃したパイロットがそう呟き、何もたかが人間1人に戦闘機3機はやりすぎだろうと、ほくそ笑みながら思った。
いくら巨大な力を持っていようとも、肝心の身体に弾丸を受ければ、相手は死ぬ。


簡単なことだ。全ては先制攻撃が大事。



  
22 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:43:32.64 ID:Pq8gNNQw0
  

パイロットB『いや……待ってください。目標に変化がありません』

パイロットA『何!?』

パイロットAは旋回しつつ、目標の少年を目視で確認する。
確かに、機関銃の銃撃を受けても傷ひとつついていない。
これはどうしたことか?

と、目標の白い翼がかすかに動いた。

右側の1番上の1枚が、大きく羽ばたくように動き、その後を白い光が追いかけるように発せられていったのだ。

そして、光は1番後ろを飛んでいたF−22を飲み込む。

パイロットA『γ(ガンマ)! 応答しろ!』

パイロットはすかさず通信でよびかけるが、飲み込まれたパイロットからは何の反応もなかった。
目視で状況を確認しようと首をひねると、γの機体が白い砂のように解け始めているのが見えた。



  
23 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 20:45:42.20 ID:Pq8gNNQw0
  

パイロットA『応答しろ!』

続けて呼びかけるが、最後まで相手からの返事はなかった。
ついにγの機体は、サラサラと白い砂――いや、白い光の粒子へと変化し、
そのまま少年の白い翼に引き込まれるようにして同化してしまった。

ただの人間に、1機の戦闘機がやられた……?

ぞくり、と背筋が凍るのを感じる。

パイロットA『くっ……β(ベータ)! 援護しろ! 俺がしとめる!』

パイロットB『了解』

βが機関銃で援護してくれる気配を感じつつ、戦闘機は複雑な螺旋軌道を取って目標へと近付いていく。
そして、息巻いてミサイルのスイッチを押そうと指を動かしたパイロット。

が、指がスイッチを押すことはなかった。

その指が、砂のように分解してしまっていたから。

パイロットA『なっ……なっ!』

パイロットが何かを言い切る前に、その身体は完全に白い光の粒子と化し、意識もまた飛んでいった。
同様に、βの機体も光を浴びせられ、消滅。

そうしてF−22の編隊はものの数分で全滅した。



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