( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
47: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:18:49.05 ID:TD4MtPe40
  



訓練もほどほどに終わり、時間は夕方にさしかかろうとしていた。
これから夜までは自由時間だ。今夜もまた仕事があるので、十分に休んでおかないといけない。

ボロボロになったドクオ、普通に笑っているショボンと共に、ブーンは剣道着から普段着に着替えて、自分の部屋に戻ろうとした。
だが、クーに呼び止められた。なんでも見せたいものがあるとか。

( ^ω^)「何を見せたいんだお?」

川 ゚ -゚) 「君がここに来ることになった原因のひとつさ」

連れてこられたのは地下2階。夜の探索でも足を踏み入れたことのない「最重要封鎖区域」だった。

エレベータを降りると、すぐ目の前に大きな観音開きのドアがあった。
茶色で窓がひとつもついておらず、ヨーロッパの映画でよくこういうのがあった気がする。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:21:06.28 ID:TD4MtPe40
  

(*゚ー゚)「あら? クーさんと……ブーンさん? 珍しいお客さんですね」

ドアの横にU字型の机があり、そこにしぃが座っていた。持っていた書類から目を上げて、ほがらかな笑顔で迎えてくれた。

( ^ω^)「しぃさんかお? こんな所で何をしているんだお?」

(*゚ー゚)「私は、特別な仕事がない時はこの部屋の管理人をやっているんです。今日来たのは……あれですか?」

川 ゚ -゚) 「ああ、あれだ。案内してくれ」

(*゚ー゚)「わかりました。私についてきてください」

示し合わせたように視線を合わせた2人。
扉が開き、ブーンは2人の後ろを黙ってついていった。

中に入った瞬間、驚いた。
何もない、薄暗くて体育館のように広い部屋でしかなかったからだ。
置物のひとつも置かれておらず、物置だとしても殺風景すぎる空間だった。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:22:36.36 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「ここはいったい何の部屋なんだお?」

(*゚ー゚)「まあ、見ていてください……はい、ここです」

しばらく歩き続け、部屋の1番奥にたどりつくと、しぃがおもむろに茶色の壁に手を当てた。
なんだ? と思った瞬間、しぃが手を当てた部分だけが四角くくぼんだ。

もしかして、スイッチ?

その予想は当たり、四角くくぼんだ部分がさらに奥にいくのと合わせるかのように、足元の床の一部分が四角柱状にせりあがってきた。

それが腰の辺りまで上がってくると、しぃは上面の一部分を触る。すると電卓のようなナンバーを押す装置が出てきた。
そして、見えない速度で十数桁のナンバーを押すしぃ。

ピー、という音と共に上面が自動で左右に開いて、天井からライトが照らされる。

ブーンは目を見開いた。

中には箱状のガラスに囲われた1冊の本があった。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:24:29.90 ID:TD4MtPe40
  

中には箱状のガラスに囲われた1冊の本があった。

(;^ω^)「な、なんだお……」

(*゚ー゚)「以前話しませんでしたか? 『人の子』が現れることが記された予言書……これがそれです」

しぃが白い手袋をはめ、ゆっくりとその本のページを繰り始めた。
表紙は茶色で題名も何も書いておらず、中は赤茶けた紙――いや、これは紙じゃなさそうだ。
紙っぽいけど紙じゃない……そういえば世界史の授業で、昔の書物は紙ではなく羊の皮を使っていたって言ってたっけ?

その1ページ1ページには、見たこともない文字がぎっしりと書きつめられていた。

川 ゚ -゚) 「ここには様々な事柄が予言されている。それが全て当たっているというわけではないが……
     少なくも、1999年に地球が滅びると言った予言書よりは信用できるものだ」

(*゚ー゚)「このページです……見えますか?」

しぃが示したページを見てみる。
アルファベットみたいな文字がぎっしりと詰められている。
こんな文章どころか英語も読めないブーンには何が書いているのかまったくわからない。



  
54: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:26:00.15 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「読めないお……」

(*゚ー゚)「それは仕方ないですよ。大昔に滅びた文字で書かれてありますから。
    まあ、書いてあることは簡単です。『影が現れ、人の世が混乱した時、【人の子】が現れる』。
    以前話した内容と同じような感じです」

( ^ω^)「そうなのかお……」

そんな昔に、『人の子』が現れることを予言するなんて……いったい誰がこれを書いたのだろう?
それを聞いてみると、返ってきたのは「分からない」という答えだった。vとしては大変貴重なんですけどね」



  
55: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:28:19.26 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「そういえば、これの次のページ破れてるお」

(*゚ー゚)「ちょうど『人の子』について書かれているところの次のページですね……次のページについては何もわかっていません。
    文脈で判断する限り、『人の子』について書かれているようなのですが……」

川 ゚ -゚) 「文章は『彼は自分の外にも中にも光が存在することを認識する』という部分で切れているらしい。
     ……何のことかまったくわからんな」

(*゚ー゚)「『光』とは、ブーン君が出せる光に関係があるかもしれませんね」

川 ゚ -゚) 「では、『自分の外にある光』とはブーンが出す光のことか? なら、『中にある光』はなんだ?」

(*゚ー゚)「さあ……そこまではさすがに……そもそも『外にある光』がブーン君の光なのかもわかりませんし」

クーが難しい顔をして言い、しぃが肩をすくめてそれに答える。

なんだか難しいことを話している。自分には何も理解できない。

そもそも、どうして自分をここに呼んだんだ?
ブーンはそんな疑問が浮かび、「あの……」とまだ話し合っている2人に声をかけた。2人がこちらを向いた。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:29:49.93 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「どうして僕にこれを見せたんだお……?」

川 ゚ -゚) 「ああ……君なら何かわかるかもしれないというのが理由の半分。
     君がここに来る原因を話しておきたいというのが半分、だな」

( ^ω^)「何かわかるって……文字も読めないし、見せても意味がないと思うお」

そう言いながら、赤茶けた本を再び見てみる。やっぱり何もわからない。何も感じない。

川 ゚ -゚) 「まあ……期待はしていなかったらいいさ。とりあえず見せたかっただけだ」

( ^ω^)「そうですかお……それはありがとうですお」

川 ゚ -゚) 「お礼を言う必要はないさ。
     君がこんな状況に巻き込まれることになった理由を、私達はできるかぎり話しておきたいと思った。それだけだ」

顔を背けて、冷たい声で言うクー。

その横でくすりと笑うしぃ。

クーが少し照れたような顔をしたのは、気のせいだろうか?



  
58: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:31:16.76 ID:TD4MtPe40
  



穏やかな夕方はすぐに過ぎ去り、時間は夜。仕事の時間。

今夜の仕事場所は、比較的近かった。最近は北海道やら沖縄やらばかりで疲れていたので、ちょうどよかった。

クーのバイクに二人乗り、ブーン達はファックスで送られてきた『影』の出現予定場所に向かう。
黒いジャケットと黒いGパンをおそろいで着ている自分達。周りからはなんだか不思議なペアに見えたことだろう。

まあ、その服を着ると、なんだか闇の仕事をしているというような気がしてきて、気が引き締まるけど。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:32:48.55 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「今日は都内なのかお?」

公道を制限速度ギリギリで走るクー。大声で話さないと声が届かず、ブーンは腹の底から声を絞り出す。

次々と変わる景色。クーが「そうだ」と答えた。

川 ゚ -゚) 「今日はこの場所ひとつだけだ。それほど辛くはない仕事だから、安心しておけ」

安心しておけ。

クーは、仕事に入る前に絶対そう言ってくれる。
その一言のおかげで、非日常的な活動をしているというプレッシャーと不安から解放される。少しは笑ってられる。
この人は本当に強い人だ。こんなにも他人に気を配ることができるのだから。

バイクはどんどんと進み、1時間後に指定の場所にたどりついた。

バイクから降り、軽く辺りを見回してみる。新興住宅が多く立ち並び、平凡な街並みだった。
これまでの仕事場所とはだいぶ雰囲気が違う。『影』は犯罪者を狙うので、必然的に出現場所は治安の悪い地域が多い。
だけど、今回は治安がよく、雰囲気も明るい。灯りも多くて、『影』や犯罪者が出るような街には見えなかった。



  
63: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:34:21.61 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「ふむ……いるな、『影』が」

日本刀の入った長細い袋を手に持ち、クーが呟いた。
『影』の気配を感じることができるクー。以前ブーンもやろうとしてみたが、できなかった。
どうしてそんなことができるのか、いつも不思議に思う。しぃさんや他の『気』を操る人なら誰でもできるらしいが……
コツのようなものでもあるのだろうか?

川 ゚ -゚) 「こっちだ。行くぞ……こちら【クール】。本部、応答してくれ」

狐『こちら本部、聞こえてるよ』

マイクとスピーカーの両方を備えたイアホン型の通信機から、狐の声が聞こえた。
本部とはこうやって定期的に連絡を取り合いながら、仕事を行うことになっている。
本部にも一応『影』の探知機があり(性能はかなり悪いみたいだが)、『影』のだいたいの場所を教えてくれるのにも一役買っている。



  
64: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:35:53.87 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「一応こちらでも『影』の気配をつかんだが、そちらはどうだ?」

狐『うん、それに関しては専門のオペレーターにやってもらうよ。どうぞ』

ξ゚听)ξ『あー、あー。聞こえますか?』

( ^ω^)「ツン!」

ブーンは思わず大声をあげてしまった。クーに「静かに」と注意され、慌てて口を閉じる。
自分達の仕事は、あくまで水面下で行われなければならない。
こんな街中で大声をあげるなんて言語道断。

最初の仕事の説明で言われたことを思い出したブーンは、「ど、どうしてツンが…」とマイクに小さく声を吹き込んだ。

ξ゚听)ξ『私ができることを探しただけよ』

( ^ω^)「け、けどこんなことしなくたって……」

ξ゚听)ξ『あんたが戦って、私は後ろでサポートする。それだけよ。文句ある?』

( ^ω^)「な、ないですお」

声だけでもツンの迫力が感じられて、ブーンは思わず頷いてしまった。
にしても、どうしてツンが……



  
65: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:37:22.33 ID:TD4MtPe40
  

狐『彼女がやってくれた方が、気持ちの上で安心できると思ったからね。まあ、大丈夫。私達がしっかりと教えたから』

ξ゚听)ξ『というわけで、これからは私が誘導します。よろしく。
    クーさん、じゃなくて【クール】も掴んでいると思われますが、目標はその地点から西南西300メートルの付近に反応があります」

西南西300メートル。
住宅街の真ん中辺りか……?

ξ゚听)ξ『その付近では、重大な事件は起こっていません。
    ただし、空き巣被害の届けが多数出されており、目標に狙われる犯罪者はその犯人ではないかと推測されています』

空き巣被害か。これだけ高級住宅が並んでいるんだ。どれだけ空き巣防止策が貼られていようと、犯人にとっては宝の山のように見えるのだろう。

ξ゚听)ξ『【クール】と【ピザ】はこれより指定された地点にて潜伏。
   【影】が現れたら、そこからは自己判断で排除行動に移ってください』

川 ゚ -゚) 「【クール】、了解」
( ^ω^)「【ピザ】、了解だお」



  
66: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:39:10.96 ID:TD4MtPe40
  

【クール】と【ピザ】とは、仕事中のクーとブーンに与えられた呼称だ。
通信傍受の防止はやっているが、呼称で呼んだ方がより安心だとか。

どうして自分がが【ピザ】なのか、狐に聞いてみたところ、「ちょっと太ってるから」という単純明快な答えが返ってきた。
自分としてはそれほど太ってるつもりはないのに、どうして周りはこう「太い」「太い」と言ってくるんだろう。
本当にダイエットしようかな。

川 ゚ -゚) 「行くぞ」
( ^ω^)「はいですお」

いけない、いけない。今は仕事中だ。

ブーンは精神を集中し、いつでも臨戦態勢に入れるようにする。
手が少し震えているのは、武者震いだ、きっと。

そう思いたい。
いや、そのはずだ。



  
67: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:40:26.90 ID:TD4MtPe40
  



高級住宅街というのは、どうにも普通の住宅街とは雰囲気が違っている。
道ひとつとってもそうだ。普通なら、ゴミのひとつは落ちていてもよさそうなのに、紙くずのひとつも転がっていない。
それどころか、ゴミ箱自体が存在していないのだ。
街の景観をよくするためのなのだろうけど、いったい空き缶とかはどこに捨てているのだろう? 持って帰るのか?

それに、それぞれの家の壁は高く、かつ高級そうだ。
時にはカフェテラスやレストランのような店がポツンとあったりして、なんだか別の国に来たような感覚に陥ることがある。

そんなことを考えながら街中を歩き、ブーン達は指定ポイントにつく。
そして、適当な所に潜伏しようとしたその時だ。

予想外のことが起こった。

クーが、急に険しい顔になり「いる」と小さな声で言ったのだ。



  
68: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:42:43.33 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「な、何がですかお?」

川 ゚ -゚) 「『影』だ。おかしい。まだ早いはずだ……」

クーが周りを見渡す。彼女にしか感じえない『何か』を探っているのだろう。

と、「ちっ! あっちだ!」と言いながらクーが走り出した。
ブーンはわけがわからずにそれについていく。

ξ゚听)ξ『【クール】、どうしました?』

川 ゚ -゚) 「目標の気配をはっきりと感じた。
      この気配の大きさ……もう人を襲っている最中だと思われる」

ξ゚听)ξ『そんな……予言された時間までまだまだ早いはずだけど……どういうこと?』

ツンの動揺した声が聞こえる。

狐『オペレーター、落ち着いて。【クール】、感じた場所までは遠いかい?』

川 ゚ -゚) 「いえ、すぐ近くです。もうすぐ着きます……あ、いえ、ちょっと待ってください」



  
69: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:44:10.63 ID:TD4MtPe40
  

クーが曲がり角を曲がると、急に立ち止まった。
ブーンは彼女の背中にぶつかりつつも、彼女の視線の先にあるものを見据えた。

誰かが倒れている。

ブーンは「ま、まさか……」と呟いた。頭が真っ白になってくるような感じがする。

もしかして、もう犠牲者が……?

川 ゚ -゚) 「いや、あれは死んでいない。頭もちゃんとついている……」

( ^ω^)「え? ということは……またですかお?」

川 ゚ -゚) 「ああ。『影』の気配が消えた……本部、そっちはどうだ?」

ξ゚听)ξ『あ、はい。そうですね。目標の反応も完全にロスト。
    逃げた様子もありませんし、「消えた」という表現が1番正しいでしょうね』

狐『ふむ……これで3回目か……』

狐の神妙な声に、ブーンは(またかお……)と頭の端っこで考えた。



  
70: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:45:51.23 ID:TD4MtPe40
  

ここ最近、予言どおりに『影』の出現場所に赴いても、『影』が突然消えてしまう事がある。

『影』の気配は確かに感じる。
だが、突然その気配が大きくなったかと思うと、そのすぐ後には消えてしまうのだ。

そして残されたのは、気を失った犯罪者だけ。

どうにも奇妙な現象だった。

狐『……ふむ。まあ、このことは後で話し合ってみよう。とにかく今は事後の手続きを行っておいてくれ』

川 ゚ -゚) 「了解」

通信終了。次にクーは、盗聴と逆探知が防止された携帯電話を取り出し「110」を押した。

仮にも、目の前で気を失っているのは犯罪者だ。
事前に写真で確認したとおり、その倒れている男は「空き巣常習犯」のようだった。
ちゃんと警察に連絡して、逮捕してもらわないと。

警察につながったのか、クーが話し始める。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:47:16.24 ID:TD4MtPe40
  

一方、ブーンは気を失っている男の方を見てみた。

男は、背広と皮のバッグを持ったサラリーマン風の格好をしている。
一見すれば真面目そうだが、どうして空き巣なんかやったのだろうか……

今日本では犯罪者が増えてきているとか。
『影』もそれに比例するかのように増えており、まるで『影』が犯罪者狩りをやっているかのようにも思えた。

いったいどうなるのだろう、この世の中は……

川 ゚ -゚) 「ええ。そうです。では」

警察に連絡し終えたようだ。クーが携帯電話をポケットにしまいこみ、こちらに顔を向けた。

川 ゚ -゚) 「どうした?」

考え込んでいるのがバレたのだろう。無表情だったが、声色から心配しているとわかるクー。



  
74: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:48:44.71 ID:TD4MtPe40
  

( ^ω^)「いえ……どうして『影』は犯罪者を狙うのかなあ、って思っただけですお」

川 ゚ -゚) 「ふむ……それはわからん。
     だが、阻止しなければならない、というのはわかるだろう?」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚) 「まさか、犯罪者なんだから『影』に殺されてもいい、とでも思っているのか?」

( ^ω^)「そ、そんなことは思ってないですお。けど……なんだかよくわかんないんですお。
      犯罪が多くなったり『影』が出てきたり……その中で、僕がやっていることに意味があるのかなあ、って……」

少しだけ、心の中に溜まったものを吐き出すブーン。
こんなことを考えていては、守りたいものを守れないかもしれない。けど、考えずにはいられなかった。

どれだけ『影』を倒しても犯罪者は減らないし、『影』もいなくならない。
それどころか、もっと混乱しているような気もしてくる。

こんな混沌とした社会の中……自分はどれだけのことがやれているのか、わからなくなっていた。
自分のようなちっぽけな存在に、何ができるのか。



  
78: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:51:03.96 ID:TD4MtPe40
  

川 ゚ -゚) 「……人間社会というのは、ルールによって成り立っている」

クーが唐突に話し始めた。

川 ゚ -゚) 「全てのルールに従わなければいけないわけではない。だが、少なくとも自分にとって正当的だと思えるものには従うべきだ。
     ルールに縛られることは悪いことじゃない。言葉や服装も一種のルールでしかないしな。
     犯罪者を憎むのは仕方のないことだ。だが、社会にとっても人間にとっても重要なのは、その犯罪者を正当でかつ公的な場で裁き、罰を与え、できるかぎり更正させること。
     犯罪者を全て死刑にすれば、犯罪がなくなるわけではない。罰を重くすれば犯罪が減るわけでもない。
     重要なのは、人の心を、どれだけ社会に適したものにするか、だ。
     そのように社会を安定させるため、私達は戦っている……こう考えられないか?」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚) 「まあ、これは私の考えでしかない。君は君の考えを持てばいい」

( ^ω^)「……はいですお」

正直、クーの言っていることを半分も理解したとは思っていない。

けど、その言葉は心に染み渡った。少なくとも、クーは自分なりの信念をもって行動しているのだとわかった。



  
80: ◆ILuHYVG0rg :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 01:52:35.25 ID:TD4MtPe40
  

ならば……自分は?

自分はこれほどの信念をもって行動できているのだろうか?

『守りたいものを守る。そして日常を取り戻す』

それを言葉でどれほど表してみても、はたしてこれが自分の心に、みんなの心に響き渡らせることができるのだろうか。

自分の心は……いったい……

撤収の準備をしながら、ブーンは考えた。
けど、冬の風は容赦なく体に吹きつけ、思考の邪魔をしてくる。
風に吹かれたぐらいで考えが止まってしまうなんて、信念が足りない象徴なのかもしれない。

ブーンは肩を落として、ため息をついた。
ため息は、暗闇の中でも白く濁ったように見えていた。

第11話 完



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