( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/16(木) 23:55:19.43 ID:gclVlXDd0
  



車はようやく止まり、目隠しも外されると、目に飛び込んできたのは出発時とあまり変わらない駐車場だった。
戻ってきたというわけじゃないだろう。きっと別の施設の駐車場の中だ。

まるでデパートの地下駐車場のような広さのそこを、ブーンはジョルジュの後をついていき歩く。
まもなく扉を見つけ、そこから中に入る。

中は殺風景だった。前のような貼り紙だとか変な飾りもされていない。灰色の壁と豆球ぐらしか目につくところのない廊下がどこまでも続いている。
時々、廊下の両側に扉があったりするけど、それらは全て鉄格子で囲われ、厳重に鍵がかけられている。
イメージでいえば、刑務所のそれに近い。

( ^ω^)「ここはどこだお?」
  _
( ゚∀゚)「更正施設、と呼ばれてる。まあ……刑務所みたいなもんだな。
     教団の中で罪を犯せば、ここに連れられてくるんだ」

( ^ω^)「……」

変なの。まるでひとつの社会を構成しているようだ。ラウンジ教って。
なら、警察に該当する組織もちゃんとあるんだろうな。



  
57: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/16(木) 23:57:29.64 ID:gclVlXDd0
  
  _
( ゚∀゚)「よし、ここだ」

廊下を歩き続け、ひとつの扉の前に立ち止まる。
カードキーを取り出し、リーダーに滑り込ませると、すぐに扉が空いた。自動ドアだ。ここだけ新しく作られたっぽいな。

( ・∀・)「やあやあ、『人の子』さん。ようこそ」

中にいたのは、モララーと白衣を着た研究員らしき男達だった。

モララーは笑顔でこちらを迎え入れ、その後ろにいる研究員達はこちらに見向きもしない。まるで興味がないかのように。

その部屋は不思議な部屋だった。コンピュータがずらりと並び、正面には大きなスクリーン画面があった。
SF映画によくある、秘密基地の司令室、とでも言えばいいだろうか。
なんでこんな部屋がここに? と思ったが、きっとこの施設に収容されている人々を監視するためだというのはすぐに分かった。
小さなテレビ画面には、小部屋に収容されている人々の映像が移り変わり流れていたのだ。

( ・∀・)「今日はですね。ちょっとしたお願いがあってお呼びしたんですよ」

モララーが笑顔で話を始めた。
いつの間にかジョルジュとハインリッヒの姿が消えていることに今気付き、代わりに黒スーツの男が2人、出口を塞ぐようにして立っていた。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/16(木) 23:59:50.92 ID:gclVlXDd0
  

( ・∀・)「『人の子』さん。私達の教団に協力してもらえないものですかね?」

( ^ω^)「何度も言わせるなお。絶対に、嫌だお!」

( ・∀・)「強情ですねえ。う〜ん……仕方ない。ここはひとつ切り札でも出しましょうか」

切り札? なんだ?

モララーが合図を送ると、研究員の1人が何やらパソコンのキーボードを打ち始める。

( ・∀・)「画面をご覧ください。面白いものが見れますよ」

渋々、モララーの指し示すテレビ画面に目を移す。
いったいなんだって言うんだ。どんなことがあろうとも、この教団には絶対に手を貸さないぞ……

そう心に決めた瞬間、テレビ画面に1人の人間の姿が映し出された。

ブーンはその人間の姿を見て驚いた。

椅子に座ったままロープで縛り付けられてぐったりと頭を垂れ、まったく身体を動かしていないその人物。

華奢な身体。カール気味の髪の毛。若干のツリ目と薄い唇。

――この世で最も大切な人

( ゜ω゜)「ツン!!!!!」

ブーンは叫び声をあげ、テレビ画面に近寄り、凝視した。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:01:54.52 ID:7fQNAVNT0
  

間違いない。どこからどう見てもツンだ。

こんな場所にはふさわしくないその姿……眠っているかのような安らかな顔。
どうして? どうしてツンがここに?

( ・∀・)「そうです。あなたの大事な大事なツンさんです」

モララーの半笑い気味の声に、ブーンは一気に頭に血を上らせた。

( ゜ω゜)「あんた! まさかツンを……!」

( ・∀・)「いえね。あなたに素直になってもらおうと思いましてね。
     そこにいる少年に、あなたの大事なものを聞くと彼女だというので、ちょっと拝借させてもらったんですよ」

モララーが不意に人差し指をある方向に向けた。

そっちに目を移すと、これもまたこの場にふさわしくない人間がそこにいた。

椅子に座り、ぼんやりと口を開けて動かないその少年。

(―_─)「……」

(;゜ω゜)「ヒ、ヒッキー……」

(─_─)「……」

どうしてヒッキーがここに?
彼は親戚の家に遊びに行って、孤児院に戻ったんじゃないのか?



  
63: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:03:59.00 ID:7fQNAVNT0
  

名前を読んでもヒッキーは答えない。
孤児院では薄い笑顔さえ浮かべてくれたその顔は、口を開けたままどこか虚空を見つめるかのようにして呆けていた。
明らかに、彼の意志が存在していない。彼の心が感じられない。

( ゜ω ゜)「ヒ、ヒッキーに何をしたんだお!」

( ・∀・)「そんな怒鳴らないでくださいよ。耳が痛い。
     これも仕方ないことなんですよ。世界の平和を築き上げるための、小さな犠牲なのですから」

( ゜ω ゜)「ち、小さな犠牲……?」

( ・∀・)「そうです。大きなことをやり遂げるためには小さな犠牲はつき物なのですよ。
     そう、彼女もです。ツンくん、立ちなさい」

にやりと笑みを浮かべるモララーが、研究員からマイクを受け取り、声を吹き込む。

すると、画面の中のツンが、縛られているにも関わらず、ふらふらと立ち上がった。
目は虚ろで、口を半開きにしているツン。

ξ 凵@)ξ「……」

ブーンはいてもたってもいられず、モララーからマイクを奪い取った。

( ^ω^)「ツン! 僕だお! 聞こえるかお! どうしたんだお!」

ツンは何も反応を示さない。ただふらふらとしながら立っているだけ。
こちらの声が彼女に届いていない。彼女の心が感じられない。



  
64: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:05:59.05 ID:7fQNAVNT0
  

( ・∀・)「無駄ですよ。ちょっとばかしお薬を使わせていただきました。以前からの研究の成果です。
     今、ツンさんには私の言葉しか届きません。私の命令しか聞きません。
     逆に言えば、私の言うことはなんでも聞くということです。たとえ、自分の命を断つという行為すら、ね」

( ゜ω゜)「この!」

ブーンはモララーに掴みかかろうと身を乗り出すが、それは後ろにいた2人の黒服に止められた。
腕を後ろでがっちりとロックされ、中腰の状態にならざるをえなくなり、身動きが取れなくなってしまった。

( ゜ω゜)「く、くそぉ……」

( ・∀・)「さて、『人の子』さん。どういたしましょうか? ここであなたが協力してくだされば、ツンさんを元に戻し、解放してあげましょう。
     もしそれでも断るなら……う〜ん、ちょっとしたショーをお見せして、あなたの決意を促しましょうか」

( ゜ω゜)「ショー……?」

( ・∀・)「人が死ぬところほど面白いショーはないんですよ、『人の子』さん」

( ゜ω゜)「……ツン」

どうすればいい? どうすれば……



  
65: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:08:08.60 ID:7fQNAVNT0
  

ここで断ってしまえば、きっとツンの命はなくなってしまう。
黒服とモララーをぶちのめして無理やり脱出しようとしても、ツンを人質に取られてはまったく身動きが取れない。

ブーンは、自分の胸に何か重いものがのしかかってきたのを感じた。
ロックされている腕が痺れてきた。

こんな…こんなことがあっていいのか!
ツンは何も関係ないのに……何も力なんて持たない、普通の少女なのに……

自分は彼女を守ると決めた。みんなを守ると決めた。

なら、ここで彼女を守るために……やるべきことは……

くそぅ、と小さく声をあげ、ブーンは視線を床に向けた。

( ´ω`)「……協力するお」

( ・∀・)「ほう! それはよかった! 私も無駄な人殺しはしたくはなかったものでしてね。よかったよかった。ハハハハ!」

このくされ外道め……!



  
67: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:10:06.43 ID:7fQNAVNT0
  

( ・∀・)「では、これからのことは後で話をしましょう。今はあなたの部屋にてお休みください、『人の子』さん。
     黒服くん、案内してあげて」

黒服「はっ!!」

腕をロックされたまま、ブーンは部屋を連れ出される。
最後にテレビ画面の中のツンに目を向ける。ツンは立ち上がったまま身じろぎもしない。ヒッキーと同じく、完全に自分の意志をなくしている。

ブーンは憎しみを込めた目でモララーを見た。だが、モララーはあの軽い笑みを返してくるだけだった。

自分の情けなさに反吐が出そうだった。



  
68: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:12:03.42 ID:7fQNAVNT0
  

黒服に両腕をつかまれたまま、廊下を歩き続ける。
今自分達が入っている区域は、比較的移動の自由がある囚人らしく、時々信者とすれ違うことがあった。
誰も彼も意志のない瞳をしており、明らかにこれは「更正」ではなく「強制的な人格破壊」だと、ブーンは思った。

こんなことをツンにもやったのか……!
そう思うと、怒りがさらにこみ上げてくる。

ひとつの部屋の前で止まり、扉が開かれる。中は薄暗くてよくわからないが、ベッドと便所くらいしかない小さな部屋だった。
黒服につかまれていた両腕が離された。

信者「『人の子』さま〜!」

( ^ω^)「お、お!?」

突然、近くにいた信者が足にすがりついてきた。
バランスを崩したブーンは尻餅をつく形で倒れこんでしまい、信者がその上に覆いかぶさってくる。

( ^ω^)「いたたた……何するんだお!」

信者「す、すみません〜」

信者が覆いかぶさったまま動こうとしない。しかも逆に耳元に口を近づけてくる。

い、息がくすぐったい!



  
69: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:14:05.56 ID:7fQNAVNT0
  

信者「そのままでいい。何も声を出すな。聞け」

信者の声色が突然変わった。
ささやくようにして耳元で話すその声は……ま、まさか!

川信゚ -゚) 「手短に話す、いいな」

く、クーさん!と声を出しそうになるのを気合で押さえ、なるべく彼女をどかすように奮闘する演技をしてみせた。
黒服が、やれやれという表情でこちらを見ている。

川信゚ -゚) 「今から30分の間に逃げる用意をしておけ。爆発音と共に、私が迎えに行く」

ブーンは小さくうなずいて、それに応えた。
ふっ、とクーが小さく笑ったような気がした。

黒服「ほら! 早くどけ!」

川信゚ -゚) 「あ〜、お情けを〜。お情けを〜」

黒服が無理やり彼女をひっぺはがし、もう1人の黒服にこちらの腕をつかまれて、ブーンは放り込まれるようにして部屋に入れられた。

ガチャン!という音と共に、鉄の扉が閉められた。きっと鍵もかけられたことだろう。

しかし、今はそれどころじゃない。

クーがここにいる。どうやって彼女がここを突き止めたのかはわからないけど、彼女はきっと自分を助けにきたんだ。



  
72: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:16:10.97 ID:7fQNAVNT0
  

ブーンはベッドに腰を下ろしながら、考えた。

クーが言っていたことはだいたいこんな感じか?

『今から30分の間に行動を起こすから、それまでに逃げる用意をしておくこと。自分が迎えに行くから、待っておけ』

どうやって自分を助けるのか見当もつかないが、きっと彼女に任せておけば全て大丈夫だろう。自分はきっと安全に脱出できる。

けど、とブーンは思った。

けど、ツンはどうなる? ヒッキーは? 彼らは『VIP』にとってさほど重要ではないかもしれない。
見捨てるなんて薄情な真似はしないだろうけど、それでも優先順位としては低いに違いない。

自分は助かって、ツンとヒッキーは見捨てられる?

そんなの、絶対にあってはいけない。

クー達はきっと、自分を助けるので精一杯だろう。
ツンとヒッキーを助ける余裕なんてないかもしれない。

( ^ω^)(なら……)

ブーンは思った。

自分が、助けよう、と。



  
74: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:18:22.94 ID:7fQNAVNT0
  

ブーンは自分の掌を見つめ、そこに精神を集中させた。
すぐに白い光が掌に集まり、ひとつの形を形成していく。光の剣――『剣状光』。

ブーンはできあがった『剣状光』を一振りしてみる。ヒュン、という風を切る音。切れ味抜群の刃。

軽くて扱いやすい『剣状光』は、すっかり自分の手に馴染んでいた。

いける。絶対に助けてみせる。

ブーンは1人、その部屋の中で心を決めていた。





  
75: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:20:27.38 ID:7fQNAVNT0
  



その日の昼間。飛騨山脈の奥深くにひとつ、ポツンと立っている白い建物に異変が起きていた。

その建物は1本の舗装されていない道路で結ばれているだけの、完全に都会とは断絶された場所にあるのだが、その唯一の道路で突然土砂崩れが起きたのだ。

土砂は完全に道路を塞いでしまい、それを見たラウンジ教の職員は呆然としていた。
土砂崩れ対策は完全に行っていたはずなのに、どうして起こったのだ? しかもこんな大規模な。

原因はよくわからないけど、これで2、3日はこの場所から出られないことを確実となっていた。
この建物は陸の孤島と化してしまったのだ。


一方、建物それ自体でも異変は着実に起こっていた。
職員の1人が、建物内の椅子の下に黒いバッグがあるのを見つけたのが、その始まりだった。
そのバッグは何が入っているのかまったく分からず、むやみにあけるのは危険とされ、すぐに常駐の兵士(ラウンジ教が自衛隊から引き抜いた)にバッグを任せた。
その兵士は、バッグの中から何やらチクタクという音が聞こえるのに気付き、すぐにみんなにここから離れるように告げた。
兵士は思っていた。もしかしたら時限爆弾かもしれない、と。

とりあえず、慎重にバッグのチャックを開き、中身を見てみることにした。もちろん、爆弾処理用のスーツなんてないから一発勝負だ。

手を震わせながらチャックを開けると、中にあったのは――ただの目覚まし時計だった。
誰だこんないたずらをしたのは! と声を張り上げそうになった兵士は、しかし直後に聞こえた爆発音によって口を開けたままその場に固まらざるを得なかった。



  
82: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:29:07.97 ID:7fQNAVNT0
  
それは、本当に小規模な爆発だった。
建物の外壁に取り付けられた少量のセムテックス爆弾が、
時間通りに起爆・爆散したために起きた爆発であり、建物それ自体にはほとんどダメージを与えなかった。

しかし、そんなこととは知らず、建物内部にいたラウンジ教職員は完全に自分を見失った。
ただでさえ『人の子』という爆弾を抱えて不安になっていた職員達は、その爆発をきっかけにパニック状態となり、
『敵はどこだ!』『爆弾はあと何個ある!?』と大騒ぎするようになる。

そしてその情報は、人から人に伝わっていくごとに事実とはかけ離れたものとなり、最後に教祖や兵士達に届く頃には、
『敵、爆撃機を確認!』『数千の兵士が四方から襲ってきます!』という誇張された情報となってしまった。

もちろん、それを全て信じてはいなかった教祖と兵士達だったが、しかし次に聞こえていた銃声に身を震わせた。

それはサブマシンガンがオートで連射された音だった。
パララララという独特の連続音が所々で聞こえるようになり、教祖と兵士達もまた混乱の渦に巻き込まれていく。



  
84: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 00:31:39.44 ID:7fQNAVNT0
  

隊長「敵は!」

兵士「南に数十! その後ろにも多数いる模様です!」

隊長「もっと情報は正確に! 早くしろ!」

建物に常駐していた兵士達は、サブマシンガンを持つ手が緊張で震えていた。
いくら自衛隊で訓練を積んできたとはいえ、実践はこれが初めてなのだ。
しかも、こんな辺境の山奥。日本の地。
戦争なんて起こるはずがないと鷹をくくっていた兵士達は、混乱の中初陣を飾る羽目になった。

それは多大な恐怖と不安を呼び起こす元となり、そしてそれは敵に対する正確な認識を誤らせる。

敵は2、3人程度しかいないのに数十と認識してしまったり、ただのダンボール箱を爆弾と間違えたり。
完全に、兵士達は自分を保つことができなくなっていた。


だが、それが現代の戦争の縮図とも言える。
情報を制するものが勝つ。相手にダミーの情報をつかませれば、それだけ自分達は優位に立つ。
コンピュータ上だけではない。実際の戦場でもそうなのだ。

そう。
そこはすでに戦場だった。

戦争が実際に起こっていたのだ。





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