( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:47:03.77 ID:gaCMsGwV0
  

(=゚ω゚)ノ「1週間前から続けていた調査がようやくひとくぎりついたので、その中間報告からやっていきたいと思うょぅ」

ぃょぅがそう言うと同時に、プロジェクターに1枚の写真が浮かび上がった。
中年の年に近い、骨太で筋骨隆々の男性の写真。これは……ギコ?

(=゚ω゚)ノ「以前からブーン君やクーさんと接触があったこの男性――名は『ギコ』と言うのですが、
    彼は確かに『赤坂』、在日CIA所属であったようだょぅ」

ざわ、と辺りが騒ぎ始めた。

そうか。あの誘拐された日、物陰から銃を連射してきたのはギコだと、クーが言っていた。

ということは、あの誘拐事件にはギコ――『赤坂』も一枚噛んでいるということであり、
となるとラウンジ教と『赤坂』に何らかのつながりがあったということになるかもしれないのだ。
騒ぐのも当然だろう。

しかし、ぃょぅはその予想に反した言葉を次につなげた。



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:48:54.74 ID:gaCMsGwV0
  

(=゚ω゚)ノ「けど、ギコ自身は数週間前から『赤坂』との接触を拒否、というより行方しらずの状態になっているようで、
    今回の誘拐事件に『赤坂』が直接絡んでいるというわけではなかったようだょぅ」

狐「つまり……『赤坂』を抜けて、ラウンジ教に入ったということかい?」

(=゚ω゚)ノ「その可能性もあるかもしれないけど、僕は違うと思うょぅ。
    ラウンジ教でも『赤坂』でもない、もう1つの勢力に関わっていたと思われるょぅ」

( ´∀`)「ん? 何か掴んだのかモナ?」

(=゚ω゚)ノ「最近になって日本への密入国船の船長が逮捕されたんだょぅ。
     警察がその船長を問い詰め、これまでの密入国者の特徴を聞きだしたんだけど、その中にギコと思われる人間が入っていたんだょぅ」

狐「ギコが密入国した、ってことかい?」

(=゚ω゚)ノ「違うょぅ。ギコは、密入国してきた人間を迎え入れた方なんだょぅ。
    で、その迎え入れたメンバーというのが、また驚くんだょぅ。まず、彼らだょぅ」

そう言ってプロジェクターの画面に映るものが変わった。



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:51:11.93 ID:gaCMsGwV0
  

それはよく顔の似ている兄弟が2人一緒に写ったスナップ写真のようなもので、その横には簡単なプロフィールもついていた。

そのプロフィールの1番上に『流石兄弟』という名前があるのを見て、ブーンは驚いて目を見開いた。

自分と戦った……あの兄弟?

(=゚ω゚)ノ「『流石兄弟』。3年前までフランスの外人部隊に籍を置いていたものの、脱隊。
     以降は行方知らずとなっている、日本人の傭兵だょぅ。
     兄は爆破の、弟は諜報活動のスペシャリストなんだょぅ」

( ^ω^)「よ、傭兵……?」

ブーンが驚いている間も、プロジェクターの映像は次々と変わっていく。

次に映し出されたのは、女性が海辺に立っている写真。
白いワンピースを着て、無表情にカメラのレンズを見つめているその女性。
これは……ハインリッヒじゃないか?

(=゚ω゚)ノ「『ハインリッヒ高岡』。アメリカ出身の在米日系人。
     2年前までアメリカ海軍の海兵隊に所属。その後は脱隊し、流石兄弟と同様に行方不明。
     クレー射撃のアメリカ代表候補になったほどの銃の腕前を持っている、銃火器のスペシャリストだょぅ」

あの無口な女性が……銃火器のスペシャリスト?
そんな。嘘だ。絶対にそんなことあるはずがない。だって、無口だったけれども優しかったじゃないか。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:53:26.81 ID:gaCMsGwV0
  

プロジェクターの映像はまた変わる。

今度は最も再会したかった、それでいてこの場では最も見たくはなかった男の写真。

何かの集合写真のような、大勢の人間が笑顔で一列に並んでいる中の、その中央。
あの優しい笑顔が……『ジョルジュ長岡』の笑顔が、そこにはあった。

その写真がプロジェクターに映し出された瞬間、狐が眉間に指当てて顔をゆがめ、クーが慌てた様子で立ち上がり、政府関係者はわざとらしくため息をついていた。

(=゚ω゚)ノ「『ジョルジュ長岡』。経歴は……数年前まで『天国』に所属。
     『天国』が解体された後は行方不明。
     特殊工作を主とした、スパイや――」

狐「そこまででいい」

狐が顔を俯けたままそう言うと、ぃょぅは報告書を読む口を止めて、プロジェクターの電源を切った。
どうやら、これで写真は終わりらしい。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:55:47.39 ID:gaCMsGwV0
  

(=゚ω゚)ノ「以上、4名がギコの迎え入れた密入国者のようだょぅ
     ……全員、ブーン君が戦ったり、ラウンジ教で出会った同名の人間と特徴が合致しているょぅ」

狐「そうか……」

(=゚ω゚)ノ「彼らが密入国してきた目的は不明だょぅ。
    彼らがラウンジ教でどのような活動を行っていたのか、『赤坂』に所属していたはずのギコがどうして彼らを迎え入れたのか、全ては今も調査中だょぅ。
    ただ、ラウンジ教とつながっていた世界の革命団体の中で、ジョルジュの姿を見ているという未確認情報もあるょぅ」

狐「うん、十分だ。調査ご苦労様」

ぃょぅが椅子に座り、報告が終了。
ブーンは彼らの話についていけず、今も頭の中が混乱したままだった。
そのため、何も言うことができず、ただ周りのざわめきに身を任せていた。

役人「これは由々しき事態ですね。まさか『天国』の負の遺産が、まだ残っていたとは」

役人2「どうするつもりですか、所長? これが明るみに出れば、『VIP』の存続自体が危ぶまれる。
    ましてや以前の関係者が、今大問題とされているラウンジ教と関わっていたと分かれば、現政権の存続自体が危ぶまれますよ」

狐「……」

狐は何も答えず、なにやら考え事を始めている。

なんだ? いったい役人達は何を言っているんだ?



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 00:58:31.14 ID:gaCMsGwV0
  

ジョルジュは確かにラウンジ教に入っていたが、自分を助けてくれたんだぞ? 
いったい何の不都合があるっていうんだ?

役人「またやっかいなものを持ち込んでくれましたね。ジョルジュ長岡……噂の裏切り者ですか。
   革命団体ともつながっているすると、これは日本だけで解決できる問題ではなくなってますね。
   国連で秘密裏に取り上げられることも考えうる。昨今の中東情勢も鑑みると、アメリカがどう言ってくるか……
   裏切り者はいつまでもこの国の裏切り者というわけですな」

川 ゚ -゚) 「黙れ!!」

突然、横で呆然と立ち上がっていたクーが怒鳴り声を上げた。
今まで悠長に喋っていた役人は、それで身を縮み上がらせ、驚き顔でクーを見つめる。

怒り顔でその役人の方へと突っかかっていくクー。普段の冷静さは完全に失われていた。

川♯゚ -゚) 「貴様にあいつの何がわかる! あの時、『天国』で何があったのか、お前は知っているというのか!
      事情を知りもしないくせに、私の仲間を――」

狐「クー君!!」

クーが役人に殴りかかる素振りすら見せた時、狐の一喝が飛び、会議室の空気が一瞬にして静まり返った。

狐はクーに近寄り、彼女の握りこぶしを下にさげさせつつ、「君らしくもない」と眉をひそめて呟いた。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:00:39.49 ID:gaCMsGwV0
  

狐「会議はまだ続いているんだ。自戒するように」

川 ゚ -゚) 「……申し訳ありませんでした」

クーが頭を下げ、自分の席へと戻っていった。
恐怖で顔をゆがめていた役人は、クーの後ろ姿を見た途端に「ふん」と鼻で笑い、人を嘲笑するような笑みを浮かべた。

( ^ω^)(……いったいなんなんだお)

ジョルジュがラウンジ教にいたことが、そんなに大問題なのか?
そして、クーはどうして怒ったのか?
いったい、ジョルジュという人間は何者なのか?

分からないことだらけのまま、会議は続く。

川 ゚ -゚) 「……」

クーはそれ以降一言も発しないままだった。





  
53: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:03:08.98 ID:gaCMsGwV0
  



午後11時。約束の時間。
ビルの廊下を歩く人はほとんどおらず、だいたいのスタッフが帰ってしまった時間帯。

結局会議は、意味のわからないまま時間だけがいたずらに過ぎ去っていき、ほとんどの話は聞き流すことになってしまった。

ただ、ジョルジュとクーに昔何かあったということ、そして流石兄弟やハインリッヒが元軍人だったということだけが、理解できたことだった。

(´・ω・`)「さてと、いったい何の話があるというんだろうね?」

('A`)「またメイド喫茶みたいなものを作りたいとかじゃねえだろうなあ」

さすがにあの真剣な目の狐が、そんなくだらないことを言うはずが……ないと言えないのが悲しいことだった。

ブーン達は、狐の部屋――『所長室』の前に立っていた。
狐との約束どおり、午後11時きっかり。ドアをノックして「どうぞ」という声を聞く。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:05:21.44 ID:gaCMsGwV0
  

( ^ω^)「失礼しますお」
('A`)「失礼しやーす」
(´・ω・`)「おじゃましまわんにゃ〜」

ショボンの微妙に分かりづらいギャグはさておき、所長室に入ると中は電気が半分ついているだけで、妙に薄暗かった。
正面の机に座っていた狐が「やあ」と声をかけてくるので、ブーン達は少し頭をさげて、それに答えた。

狐「まあ、そんなに緊張しないで。今は勤務時間も終わって、ただの男になったから」

(´・ω・`)「話ってなんでしょう?」

狐「うーん、まずはコーヒーでも飲んでほしい。ちょっと長くなるから」

狐が4人分のコーヒーを淹れていく。

「砂糖とミルクは?」と聞かれたので、ブーンは「ひとつずつ」、ドクオは「なし」、ショボンは「ミルクだけ」と答えた。

狐の淹れるコーヒーは結構おいしい。
この部屋に専用のコーヒーメーカーが置いてあり、豆にもある程度こだわっているらしいのだ。
食堂で飲むコーヒーとは味が格段に違っていた。

狐「コーヒーには自信があるんだ。お酒は苦手なんだけどね」

狐がそう呟きつつ、自分のコーヒーを一口飲む。ドクオと同じブラック。ブラックコーヒーを飲める人ってすごいと思う。あんな苦いのはとてもじゃないが飲めない。

ドクオ曰く「それがコーヒー本来の味なんだよ」らしいが。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:07:28.04 ID:gaCMsGwV0
  

狐「で、だね。話っていうのは……うん。ちょっとした昔話なんだ」

('A`)「昔話?」

狐「うん。ブーン君は知っているだろうけど……今日の会議で、クー君があんなに取り乱した理由も、その昔話に入ってる」

(´・ω・`)「取り乱した? クーさんが? まさか」

ショボンが不思議そうな顔をしたので、ブーンは2人に今日の会議での様子を所どころ端折りながら伝えた。
するとドクオとショボンが、うーんとうなり始める。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:09:33.99 ID:gaCMsGwV0
  

('A`)「ってことは……その『天国』っていう組織のことですか?」

(´・ω・`)「しかいないだろうね。けど、ブーンはまだしも、どうして僕達にまで?」

狐「まあ、この組織に入っている者なら、ほとんどの人は知ってるんだよ。だから、君達にも教えておかないと不公平だと思ってね」

2人の相変わらずの理解の早さに驚いて、ブーンはどうして2人はこんなに理解力があるんだろう?と思った。

狐の話というのが、『天国』というよくわからないものの話だなんて、まったく予想がつかなかった。

というか、この2人をここに呼んだのは、自分の理解力が乏しいからではないだろうか? とブーンは思った。
まずドクオとショボンの2人に理解してもらって、彼らの口からこちらにわかりやすく伝えてもらう。
そんな意図もあって、2人を呼んだのかもしれない。

狐「うん、じゃあ、長くなるけど、根気よく聞いてほしい」

そう言って、狐はコーヒーをもう一口飲んだ。

コーヒーの湯気が、窓の外に広がる闇によく映えていた。

狐「『天国』というのは、5年前まであった組織――『VIP』の前身なんだ」



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:11:49.88 ID:gaCMsGwV0
  



夜の闇は晴れ晴れしいほどのさわやかさを持っている、というのは矛盾しているようで矛盾していない。

実際、夜に外に出た方が気持ちの上ですっきりしてしまう。
最近夜での活動が多くなったことも起因しているのだろうけど、何より自分は夜という時間が好きなのだ。

どこまでも続く闇と、明るく光る電灯。

1度、函館の夜景というものを見に行ったことがあるが、あれは本当に見事なものだった。
日本でも随一とも言われ夜景というのは伊達ではなく、どこまでも続く白い光の波が、山という砂浜に打ち付けられていくような錯覚すら覚えてしまうのだ。

もう、何年も前のことだな。あんな綺麗な夜景を見たのは。

川 ゚ -゚) 「……」

『VIP産業』のビルの屋上にて、クーは、その長い髪が汚れるのを気にすることもなく、コンクリートの地面の上で座禅を組んでいた。



  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:13:56.36 ID:gaCMsGwV0
  

その手には愛用の刀が握られている。これを握っていると、どんな雑念や怒りが押し寄せて来ようとも平常心が取り戻せるのだ。

冷たい冬の風が身体に吹き付けられようとも、刀を握り精神を集中していれば、何も寒くはならない。
心は身体を凌駕する。これは自分の父親に教えられた、唯一の言葉だったっけ?

川 ゚ -゚) 「……」

クーは、あの会議室でのらしくない行いを、今になって自戒していた。
いくら頭に血が上っていたからといって、あれは絶対にやってはいけない行動だった。
相手を戒めるのは言葉で十分できる。狐がその見本じゃないか。
暴力と力は違う。力は自分を守るため、他人を守るためにある。そう自分の心に刻み込んでいたのを、あの時は忘れていたとしか思えない。

鞘から刀を引き抜き、両手でそれを持ちながら、真剣の刃の輝きを見つめるクー。

ふぅー、と息を吐いて、その綺麗な刀身を眺める。刀を持てば、心は研ぎ澄まされる。
たとえ刀を持っていなくとも、この心を忘れていなければ、強さなど変わらないのだ。

川 ゚ -゚) 「……」

刀を鞘に戻し、クーは立ち上がった。
屋上の端へと足を進め、立ち止まり、遠くに見える都会の夜景を眺める。

昔はあの夜景の中に自分もいた。
現実を一歩下がった所から見ることができず、いつもその場その場での対処に追われ、何一つ自分を貫き通すことができなかった。
天から言われたことをただ実行するだけの、マシーンのような存在。それがかつての自分。

では、今は?



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/19(日) 01:16:11.59 ID:gaCMsGwV0
  

川 ゚ -゚) 「……」

こうやって夜景を外から眺めていても、もしかしたらもうひとつこの場所を外から眺める所があるのかもしれない。
そこでこの場所を眺めれば、今の自分はまだマシーンに見えるのだろうか?

川 ゚ -゚) (そんなことはない、と思いたいな)

あの時とは違い、自分には信念があるのだから。


クーは空を見上げた。そこには満天の星空――とまではいかないものの、多数の星のきらめきを見ることができる。

この星空を、自分は何度見たことだろう? 何度見ても、この星空は変わらない。

けど、こちらは変わってしまった。あの時は、もっと多くの仲間と一緒にこの星空を見ていた。

今は1人。

川 ゚ -゚) (……ジョルジュ、か)

襲いくる思考の波に、クーは何も逆らわず、ただ身を任せるのみとした。

その思考の波の名前は……『思い出』

第17話 完



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