( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
137: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:54:15.60 ID:jKdbHlH10
  



ある国会議員がいた。
彼は、この国の権力を手中に収めようと画策し、なんとか現政権にとってスキャンダルとなるようなネタはないかと探していた。

そこで見つけたのが『アンノウン』対策と『天国』という組織の存在。

もともと『天国』は「役立たず共の巣」であり、税金の無駄遣いとして国会でも時々槍玉にあげられていた。
いつもは「掃き溜めの収納先も必要だ」という意見に落ち着いてしまうが、今回はそうはいかない。

『アンノウン』などという正体もわからないものに血税を注ぎ込み、しかも自衛隊でもないのに武器を持っている。
これはスキャンダルだ。これをタレこめば、きっと現政権は地に落ちる。

そう思い、彼はまず『天国』のメンバーを犯罪者に仕立て上げることで、この問題の火蓋を切って落とそうと考えた。

第1段階として、在日CIA――『赤坂』に情報を流し、協力を仰ぐ。
彼らの国もまた『アンノウン』の被害に悩まされているらしく、それまでの研究データを差し出すという条件で、すぐに協力を取り付けた。

第2段階として、自分にとって日ごろ邪魔だった国会議員の殺害計画を立てる。
この殺人の実行犯を『天国』のメンバーにして、世間に広めてやる。

そして第3段階として、『天国』や防衛庁のお偉方を金や脅しで協力させる。
これは1番楽で、自分と同じ権力志向の人間を絡め取ることほど簡単なことはなかった。



  
138: 暴れん坊VIPPER :2006/11/25(土) 00:57:51.71 ID:jKdbHlH10
  

そうして、計画は実行された。
まず、国会議員を『赤坂』の力を借りて殺害。
その国会議員宅に『天国』のメンバーをおびき寄せ、かつ警察に『凶悪犯罪集団』がそこにいるという情報を流す。
銃を持っているという付帯情報も流せば、SATが出動するのも必然。
しかも、『赤坂』の工作員が一発の銃弾をSATに向けて打てば、もう全ては完了だ。その場は戦争状態になる。

結果、見事に『天国』の中心人物は逮捕、または逃走中の『事故』で死亡した。
生き残った私達は「裏切り者」の汚名を被ることとなったのだ。

この話を聞いた時、私は防衛庁の秘密施設の牢屋に入れられていた。

仮にも防衛庁傘下の『天国』のメンバーが行った事件。
警察での取調べを受ける前に秘密裏にこの事件は処理され、世間にはあまり広まらなかった。
だが、防衛庁は私達のことを徹底的に調べようとしてきた。どうして裏切ったのか? どうして議員を殺害したのか?など。

それは過酷で、精神に異常をきたしそうな取調べだった。
恫喝や脅迫は当たり前。時には薬を使ってでも真実を聞き出そうとしてくる。
無駄に薬に耐性があるこの身体が、その時ほど恨めしかったことはない。

1日に何十回と行われる取調べに耐え、仲間の近況を聞くこともできないままに牢屋に放り込まれる日々。

あれが「はめられた」ことだといくら説明しても、誰も信じてくれない。
きっと、国会議員がすでに手を打っていたのだろう。
信じてくれそうな検査官に会っても、その上司がそれを否定し、部下の思考を停止させる。



  
141: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:00:55.59 ID:jKdbHlH10
  

その部下に以前までの自分を見ているように思えて、私は鳥肌を立てた。
上から下へと意志が染み渡るその体制。反論を許さず、ただのマシーンと化していく下部。
それは何も生み出さず、上の思うとおりに進んでしまうだけのもの。

こんな体制の中に自分もいたのかと思うと、震えがとまらなかった。
1度外に出てしまうと、中のものをじっくりと見ることができた。

そして、思った。
2度とこんな世界には戻らない、と。


そこから一ヶ月ほど(と言っても時間の感覚も狂っていたので定かではないが)、取調べ室と牢屋を往復する生活が続いた。

その間、私の頭の中にはあの日の光景がいつまでもフラッシュバックしていた。
私の腕を引っ張り、仲間を救うために走ろうとするジョルジュ。
腹部を『影』に切り裂かれ、苦悶の表情を浮かべながら大量の血を流している照美。
心を失くし、虚ろな目を宙に向けるつー。
涙を流し、懸命に治療を続けるしぃ。

あんなことになったのは、自分のせいだった。

仲間を助けることに、一瞬でもためらってしまった自分の罪。
それはいつまでも消えることはない。この記憶はいつまでも残り続け、死ぬまで贖罪の道を歩かなくてはならないのだ。

牢屋の中で、私は1人泣いた。
自分の背中に背負われた十字架の重さに耐え切れず、泣くことしかできなかった。



  
147: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:05:30.97 ID:jKdbHlH10
  

そんな日々が続く中、ある日の昼に転機が訪れた。

「出たまえ」

低く静かな男の声。
それが聞こえたと思った瞬間、長く閉ざされていた部屋の扉が開いた。

扉の前に立っていたのは1人の男。
微笑みを浮かべ、久しぶりとでも言いたげな目でこちらを見つめている。

「……誰だ」

「覚えていないのかい? バーベキューパーティを見逃してあげたのに」

見覚えがあった。
クリスマス、屋上でジョルジュ達とバーベキューパーティをやっていたのを見逃してくれた……あの時の男?

男は肩をすくめ、思い出したかい?とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。
それはこの1カ月ほどの監禁生活で、久しぶりに見た人間らしい表情だった。

「あの時の男……」

「そう。さあ、出てきなさい。君はここにいる必要がなくなったからね」

男が、外へと私を導く。
外の世界は私にはまぶしすぎた。まだこの部屋の中で膝を抱えていたいと思ったが、そうも言ってられなかった。
私は歩き出さなければいけなかった。罪を背負って。



  
151: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:08:45.61 ID:jKdbHlH10
  

私を助けた男は防衛庁のキャリア組で、『狐』と名乗った。
彼は『天国』の不祥事や中心メンバーの裏切りを知ると、すぐに独自で調査を行った。

その結果、ある国会議員が他国に情報を流出していたことを突き止め、当の国会議員を糾弾、辞職に追い込んだ。
おかげで私達の汚名も晴れることとなり、無罪放免を勝ち得たのだという。

釈放されたのは私としぃと、つー。

ジョルジュはその場にいなかった。

狐曰く、彼は2週間ほど前に収容所から脱走し、そのまま行方不明なのだという。
彼のいた部屋には、こんな置手紙が残されていたとか。

『俺は俺の進む道を探す。今回のことを、このまま受け入れることなどできない』

ジョルジュが何を考えているのかはわからない。
妹を失くし、自分やつー、しぃ、これまでの生活などの全てを捨てて、彼が探そうとしているのはいったい何なのか?

復讐? 生き方? それとも安全な場所?

わからない。けれども、彼はおそらくそれを見つけるのだろう。
見つけた時にいったい何をやるのか? そして、自分達の前に姿を現すのか?

全てはわからない。けれども、これだけは言える。

私も探そう、と。
私が私であり続けられるような道を探そう。今回のことを受け入れるために。
罪を受け入れ、償うために。



  
155: VIP下手人 :2006/11/25(土) 01:11:48.82 ID:jKdbHlH10
  

それからしばらくの間、私としぃとつーは、一緒のマンションで暮らし始めた。
『天国』は今回の事件があったからなのか、解体された。やはり不祥事を起こしたという負のイメージが拭い去れなかったようだ。

私達は職を失い、今までの貯金やアルバイトで生活をしのいでいた。
政府の機関に戻る気にはなれなかった。
『アンノウン』はすでにまったく現れなくなっており、政府の方でも私達はお払い箱となっていた。

1日が長く感じられる。アルバイトと家との往復しかしない生活。
その間、私は私のできることを探そうと、いつまでも考え続けていた。
だが、そう簡単に見つかるわけもなく、ほとんどが無駄な時間を過ごしていたように思う。

精神がおかしくなってしまったつーは、完全に外界からの刺激に反応しなくなっており、人格が失われている状態だった。
しぃが言うには、『アンノウン』に囲まれていた際、つーはしぃと照美だけを逃がして、敵をひとりで引き受けたのだという。
そして、ふらふらの姿で合流場所にやってきたつーは、すでにこの状態になっていたとか。

なぜ、彼女の精神がおかしくなったのか、まったくわからない。医者でも突き止められなかった。
そもそも、彼女ひとりで大量の『アンノウン』を倒せたのか? 彼女は、言っては悪いがそれほど強くはなかった。
なのに、殺されずに精神に異常をきたしただけなのは何故なのか?

疑問をあげればきりがないが、とにかくも私達はつーの看病に専念し、静かな生活に浸っていた。



  
161: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:15:59.41 ID:jKdbHlH10
  

そうして1年が過ぎ去り、もうそろそろ貯金もつきようとしていた時のこと。

狐から1本の電話が入った。

狐「協力してほしいんだ。『影』が現れ始めた」

『アンノウン』改め『影』。
最近になってまた現れ始め、自殺者を急増させている、というのが狐の話だった。
『天国』で培った力を、ぜひとも貸してほしいのだという。

私達は迷った。
政府機関に戻って、またあんな事件に合うことにはならないのか?
私達はまた政府の道具にされてしまうのではないか?
また仲間が死んでしまうような事態になるではないか?



  
165: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:18:28.71 ID:jKdbHlH10
  

狐「それは心配しなくていい。今回の組織は……ほぼ独立した機関だからね」

狐が色々と手を回して、今回は防衛庁の傘下ではない独立した組織を作ることができたのだという。

『Vacant Innominate People』。通称『VIP』。

ここならば、他から干渉されずに、自分達の意志で仕事ができる。

狐はそう言った。

「なら、いくつか条件があります」

私はそれに対し、3つの条件をつけた。

ひとつは、つーの治療を行うための施設を『VIP』内で作ること。
ふたつ目が、辞めたい思った時はすぐに辞めさせてもらうこと。
そして最後が……『影』を殲滅するために、全力を注いでほしい、ということ。

狐はそれらを全て飲んだ。

『VIP』での生活がその時から始まった。





  
168: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:21:33.98 ID:jKdbHlH10
  



狐「あとはだいたい分かるよね?
  彼女達は『VIP』で働き始め、そうして現在にいたる。

( ^ω^)「……そして、今回ジョルジュを見つけたということかお?」

狐「そう。かつての仲間を、ね。
  彼女の気持ちは計り知れないよ。いったい何を思っているのか……」

狐がそう言い、顔を俯けた。

クー、ジョルジュ、『天国』、ツイン照美……

彼女が仲間思いなのも、
会議室であれほどの怒りをぶちまいたのも、
全てはこの出来事が起因となっているのだろう。

ブーンはこれまでのクーのことを順次思い出し、確かに彼女は自分をよく守ってくれていたな、と思った。
それはきっと、過ちを繰り返さないため。
そして、ツイン照美やつーに対する贖罪の意味も込められていたのだろう。

ならば、ジョルジュはいったい何をしようとしているのだろうか?
ラウンジ教に協力したり、自分を助けてくれたり、新たに仲間を集めたり、世界の革命派とコンタクトを取ったり。

彼はいったい、何を行い、何を成そうとしているのだろうか?



  
171: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:24:19.42 ID:jKdbHlH10
  

『絶対的な悪なんて存在しないよな』というジョルジュの言葉をブーンは唐突に思い出した。
そして何かが思い浮かびそうになったものの、それは言葉にならなかった。

狐「さてと……長かったけど、話はこれで終わりだよ。だいたい分かってくれたかな?」

( ^ω^)「……狐さん」

狐「なんだい?」

( ^ω^)「ジョルジュさんは何をやろうとしているんだと思いますかお?」

狐「……それはわからない。今回のラウンジ教の事件がなんらかの布石なのだとはわかるけど。
  そこらへんはぃょぅ君に任せてあるし、彼の報告を待とう」

( ^ω^)「はい、ですお」

『良い目的のためならどんな残虐な方法をとってもいいのか否か』

そういえば、この問いに対してジョルジュ自身の答えを聞いていなかったように思う。
彼はいったい何と答えるだろうか?

手に持っていたコーヒーがすっかり冷めていることに気付き、ブーンはそれを一気に飲み干した。

止まらない思考に終止符を打つことはできなかったけど。





  
174: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:27:17.27 ID:jKdbHlH10
  



星空はあの時の数倍以上の輝きを放っている。
でも、それらが何か陰鬱なものを帯びていると思うのは気のせいなのだろうか?

川 ゚ -゚) 「……」

クーは屋上の手すりにつかまり、空を見上げ続けていた。
腰の刀は地面に置き、遠く離れた都会を目の端に入れながら、星の輝きをいつまでも見つめている。

風は冷たく、身体は寒い。けれども、中に戻る気にはなれなかった。

クーはずっと考えていた。ジョルジュはいったい何をしようとしているのだろう? と。

どうしてラウンジ教にいるのか? どうしてテロリストまがいの活動を行っているのか?
そして、どうして私達の目の前には現れないのか?

彼の考えていることを理解しようとするのが間違いなのかもしれない。
彼はいつも自分の先を行っていた。こちらの予想を裏切るような道を選び、予想外の速さで予想外の歩き方をする。

ただ言えるのは、彼は自分が信じる道を進むのであろうということだけ。



  
176: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/25(土) 01:30:01.76 ID:jKdbHlH10
  

川 ゚ -゚) (だが……)

だが、それがたとえジョルジュにとって信じる道でも、こちらにとって信じられない道ならば、彼の行く手を阻止しなくてはならない。
それが今の自分の仕事であり……自分の望みなのだから。

川 ゚ -゚) 「……ふっ」

クーは空を見上げるのを止め、地面に置いていた刀を手に取ろうとしゃがみこんだ。
その時、刀を包む袋に一滴の水の後が付くのを見た。

それが自分の涙だと気付くのに数秒かかった。
頬に手を添えてみると、暖かい水の雫がそこに流れており、冬の風でだんだんと冷たくなっていくのを感じた。

この涙が流れる理由は何だろうか?
悲しみ? 懐かしさ? 後悔? 罪悪感?

わからない。
けれど、この涙がターニングポイントになり、自分は新しい一歩を踏み出すのだろうというのは理解できる。

川 ゚ -゚) 「……報い、か」

そう呟いたクーは、自分の頬を流れる涙を袖で拭き取り、顔をあげた。
その顔には迷いはなく、全てに立ち向かう意志が込められていた。

第18話 完



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