( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
84: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:32:09.96 ID:FKCcxNOW0
  

後ろを振り向くと、クーがいた。
心配そうな、それでいて悲しそうな顔をしている彼女は 「終わったか?」と静かに尋ねてきた。

ブーンは涙を拭いて、答えた。

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚) 「……心残りは、もうないな?」

( ^ω^)「ないですお」

川 ゚ -゚) 「そうか」

短く答えるだけのクー。それが今はありがたく、ブーンは涙声を隠しながら、他の2人はどうだろうか? と視線を移す。

ドクオとショボンも、ちょうど今電話が終わった所だった。
2人共、少し目が赤かった。

('A`)「へへ……ちゃんと連絡しろって怒られたぜ」

(´・ω・`)「僕も怒られた……で、土産はペナントにしろって言われたよ。はは」

ふざけたように笑いながらも、その声は少し濁っている。
ドクオとショボンは、自らの顔を隠すように「ありがとうございました」とクーにお礼を言い、足早に部屋を出て行った。

ブーンもまた、「ありがとうだお」とクーにお礼を言った。
「いや、いい」という短い返事だけが返ってきて、彼女はそのまま受話器を手に取り、何やら番号を押し始める。
彼女もどこかに連絡する所があるのだろうか?



  
86: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:34:50.54 ID:FKCcxNOW0
  

受話器を耳に当てて、番号を押し始めるクーの後姿。
ブーンは「……クーさん」と呼びかけた。

川 ゚ -゚) 「ん?」

振り向かないまま、クーは答えた。

ブーンはその華奢の背中を見つめつつ、震えないように腹から声を出した。

( ^ω^)「……僕は、守るお。みんなを」

川 ゚ -゚) 「ああ」

( ^ω^)「だから、絶対に作戦を成功させましょうだお」

川 ゚ -゚) 「……もちろんだ」

それだけ会話をして、ブーンはクーに背中を向け、部屋を出た。
その直後に「私だ……父さん」という声が聞こえたけど、聞かなかったことにした。
彼女にだって彼女の時間があるのだ。

廊下に出るとまた涙があふれてきそうになり、ブーンは必死になってそれを止めた。
今は泣いている場合じゃない。武器を取り、戦う準備を行う時なのだ。

もう昼も過ぎて、夕方にさしかかろうとしている時間。
窓からはオレンジ色の夕焼けが見えた。
自分の身体や、ビルや、空や、地面をオレンジ色に染めているその光は、ブーンにとってこの上なく綺麗だと思えるものだった。





  
87: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:36:59.27 ID:FKCcxNOW0
  



同時刻、会議室内。

狐「明日、か……はてさて、どうなるものやら」

(*゚ー゚)「成功しますよ、きっと」

狐「そうかい? そう思いたいね……本当に」

狐としぃは、会議室内で作戦の最後の推敲を行っていた。
『H.L』を使った「特攻」とも言える今回の無謀な作戦。

大事な所を4人に任せ、自分達は作戦を立てるしかないというのは歯がゆいもので、
ならば完全な作戦にしようと彼らは最後の最後まで作戦を練っていた。

(*゚ー゚)「『影』、および『H.L』の爆発対策のためのブーン君の光を応用した装置も、ついさっき完成しました。
    『擬似障壁』……少しは彼らの手助けになるはずです」

狐「そうだね。君は本当に働き者で助かるよ」



  
89: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:38:50.88 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚ー゚)「所長以上に働いている人なんていませんよ。
    今回の作戦、警察や政府、防衛庁の人たちがうるさく反対していたのを、
    所長が一喝して認めさせたって、みんなの噂になってますよ」

狐「あんなのは当たり前のことだよ……あれが私の仕事だからね。
  正直言って、この2、3日で『影』が樹海からいなくならないか、戦々恐々としてたんだよ」

(*゚ー゚)「それにしては立派に仕事をされてましたよ」

狐「そうかい? ありがとう」

狐はタバコをふかしながら、書類を再度見直す。

今回の作戦、何かひとつでも不備があれば成功しない。
彼らが無事に帰ってくるためにも、何一つ失敗は許されなかった。



  
90: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:41:03.43 ID:FKCcxNOW0
  

狐「……これで終わると良いんだけどね」

(*゚ー゚)「きっと終わります。なんだか、そんな予感がしますから」

狐「ふふ、マザーみたいなことを言うんだね。予言にでも目覚めたかい?」

(*゚ー゚)「まさか。私はただの治療役でしかありませんよ」

しぃはふふ、と笑い、『H.L』の調整を終えた手を灰皿に伸ばした。

それを狐の前に置き、落ちそうになっていた灰を受け止める。
「お、悪いね」と狐はすまなそうに言った。

狐「タバコ、すっかり禁煙前に戻っちゃったね……また、禁煙しないと」

(*゚ー゚)「私が協力してあげますよ。とりあえず、1日1本ぐらいにまで減らしましょう」

狐「うわー、それはきつい」

笑いながら、書類に目を通していく狐。
そして、また『H.L』の調整を始めるしぃ。

わきあいあいと喋りながらも、彼らの働く手は止まらない。
作戦が無事に終わるまで、彼らの仕事は続くのだ。





  
94 名前: ◆ILuHYVG0rg [訂正orz] 投稿日: 2006/12/02(土) 01:43:59.88 ID:FKCcxNOW0
  



そして、また同時刻。『VIP』のビル内、休憩室にて。

(=゚ω゚)ノ「明日はちゃんと寝坊しないように気をつけないといけないょぅ」

( ´∀`)「お前は朝に弱いから、目覚ましを100個ぐらいセットしておかないといけないモナ」

ぃょぅとモナーは、休憩室のソファで座ってコーヒーを飲みながら、雑談を交わしていた。
ぃょぅは情報収集で、モナーは管轄内での指示に走り回っていたが、今はつかの間の急速を味わっていた所だ。

(=゚ω゚)ノ「……モナー、『VIP』に入った時のことは覚えてるかょぅ?」

( ´∀`)「入った時? ああ、入って早々、お前と喧嘩した時のことかモナ?」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。あの時の喧嘩の理由、覚えてるかょぅ?」

( ´∀`)「もうほとんど忘れたモナ。確か……カップラーメンをお前が食べたかどうか、モナか?」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。僕がカップラーメンを食べたと思ったモナーが、いきなり殴りかかってきたんだょぅ」



  
96: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:45:44.40 ID:FKCcxNOW0
  

ぃょぅはコーヒーのカップを傾けながら、薄く笑みを浮かべた。

(=゚ω゚)ノ「結局はお前の勘違いで終わったょぅ。それから、なんだかんだで腐れ縁が続いて、ここまで来たんだょぅ」

( ´∀`)「そうだったモナね……」

モナーは不意に顔を俯け、何か考え込む仕草を取る。
長い間付き合ってきた中でも見たことのない種類の顔で、ぃょぅは「どうしたょぅ?」と彼に問いかけた。

( ´∀`)「なんでもないモナ。ちょっと昔を思い出しただけモナ」

(=゚ω゚)ノ「……そうかょぅ」

同じ時期に『VIP』に入った2人。
これまでずっと一緒に仕事をしてきて、互いの癖やら考え方を完全に熟知している仲。
柄にもなく緊張しているんだな、と思ったぃょぅは、なるべく明るい声で「モナー」と呼びかけた。

( ´∀`)「ん?」

(=゚ω゚)ノ「この国を守るために、死力を尽くすょぅ。それが僕達の仕事だし、僕達のやりたいことだょぅ!」

( ´∀`)「そうモナね」

休憩室には、いつの間にか夕焼けの光が差し込んでいる。カップコーヒーにそのオレンジ色の光が反射している。
それからのぃょぅとモナーは何も喋らず、ただコーヒーに口をつけるだけだった。



  
100: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:47:40.41 ID:FKCcxNOW0
  



夜。ツンの病室。

午後9時を回った『VIP』のビル内だったが、中はいつもと違って早めに消灯していた。
明日の作戦は午前3時にはこのビルを出発し、5時には樹海前にて準備を完了しておかなくてはならない。
そのため、今日は夜の7時に就寝するように狐に言われていたのだ。

だが、ブーンは眠れなかった。
「みんなで寝よう」というドクオの言葉に賛成し、ツンの病室に布団を持ってきて夜の7時半には寝床についたのだが、それから一睡もできていなかった。

明日には生死をかけた戦いが待っているという緊張感が、強制的に眠りからひきずりおろされているような状態だった。

( ^ω^)(ね、眠れないお。これはまずい)

うーん、とブーンは考える。こんな時にはどうしたらよかったっけ? 
小学生の遠足の前日に眠れなかった時に、荒巻から教えてもらったような気がする。

/ ,' 3『羊を数えるのは普通の人じゃ。逆に数字を羊で数えるんじゃ』

( ^ω^)(……小学生の時も意味不明だったけど、今もイミフだお)

荒巻流の睡眠導入方法を早々と放棄し、ブーンは布団から抜け出した。



  
102: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:49:56.05 ID:FKCcxNOW0
  

周りを見てみると、ベッドの上ではツンが眠っており、その周りの床で男2人が並んで布団に入っていた。

(´−ω−`)「zzzzz ハァハァ、ドクオ型ATMタン……zzzzz」

(−A−)「う、うーん……来るなあ……zzzzz」

2人共、同じ夢を見ているのだろうか?

少し笑いながら、ブーンは静かに部屋を出た。
ちょっとだけ外を歩けば、気分転換になるはず。そうしたら眠れるだろう。

廊下に出ると、やはりビル内は真っ暗で足元も見えないような状態だった。
唯一、窓からの月明かりが目の前を照らしてくれるが、それでも薄暗くて、何かにぶつかりそうで怖かった。

そろりそろりと注意しながら歩いていき、階段の前を通った時、不思議なものを見つけた。
赤い毛布が階段に落ちていたのだ。それも、足掛けに使うような。

( ^ω^)(これは確か……)

これと同じようなものを見たことがあるような気がして、ブーンは頭をこねくりまわして、なんとか思い出してみる。

そうだ。これはつーがひざ掛けにつかっていたものだ。



  
104: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:52:03.86 ID:FKCcxNOW0
  

( ^ω^)(……もしかして)

上に行く階段に落ちていたということは、彼女は上に行ったのか? しかも1人で?
拾われていないということは、消灯時間以後の人がいなくなった後に行ったということで……もしかしてまだ上にいるのだろうか?

車椅子なのにどうやって上に行ったのかが不思議だったが、ブーンは彼女のことが気になり始めて、階段を上りだした。

上を昇って各階を調べていっても彼女の気配はせず、結局屋上にたどりつく。

屋上への扉を開けると、彼女はいた。

(*゚∀゚)「……」

車椅子に乗ったまま、薄着で身動きもしないつー。

いったい何をしているのだろうか? と思っていると、不意につーがこちらに振り向いた。

(*゚∀゚)「……ぁ」

つーは少しだけ声を出すだけで、それは言葉になっていなかった。

彼女の病状はここ最近になってかなり悪化しているらしく、言葉はほとんど話せなくなっているとか。
表情の反応も薄く、ツンと同じ、心を失っている状態の直前にまで病状が進んでいると聞いた。



  
107: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:54:39.86 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚∀゚)「……」

けど、この時の彼女は笑っていた。
唇の端を上げ、目を細めて、とても嬉しそうに笑っていた。

それは今まで見た中でも1番輝かしい笑顔だった。

( ^ω^)「何をしてるんだお?」

(*゚∀゚)「ぁ……月を、見て、たぁ」

たどたどしいながらも、つーは答えてくれた。

( ^ω^)「そうかお。今日は満月だから、さぞかし綺麗だお」

(*゚∀゚)「う、ん……」

ブーンはつーの横に立ち、月を眺める。
満月。黒い空にぽつりと浮かぶ、黄色がかった白い光。

その光は暗い闇を照らしてくれる唯一の自然光。
電球や蛍光灯にはない、優しさを感じさせてくれる光だった。

(*゚∀゚)「き、れい……」

( ^ω^)「そうだお。綺麗だお……」



  
108: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:56:51.84 ID:FKCcxNOW0
  

2人そろって満月を見る。
恋人と見れば、もっとロマンチックになるのだろうけど……今はつーと一緒に見るだけで満足だった。
彼女はなんだか、自分と似ているような似ていないような、そんな感じがしたから。

(*゚∀゚)「あ、した……行く、のぉ?」

( ^ω^)「明日かお? そうだお。明日は朝早くから戦いに行くんだお」

(*゚∀゚)「そ、っかぁ……き、きっ、と、いっぱい、光、が見れるん、だろう、ねぇ」

( ^ω^)「そうかお?」

(*゚∀゚)「見れ、るよぉ。私も、見たい、けど、見れない……私は、白い光を、出せ、ないからぁ」

( ^ω^)「帰ってきたら、いくらでも見せてあげるお」

(*゚∀゚)「う、ん……」

満月はずっと変わらずに光っている。
その光は太陽とは違った、優しくも暖かい光。けど、どこか寂しそうな光。

自分の出す光とはまた違った種類のもの。



  
110: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/02(土) 01:58:27.27 ID:FKCcxNOW0
  

(*゚∀゚)「……」

( ^ω^)「……」

こんな風に満月を見上げられる時間を守りたい。
また次の満月も見上げることができるように、つーを守りたい。

そういった「守る」という言葉は重いものだけど、決して背負いきれないものではない。

そう、きっと自分ならできるはず。
心を強くもてば……きっと。

ブーンは黒い空と月光のコントラストを眺めながら、少しだけ手の平から白い光を出してみた。
淡く光るその光は手の平から離れ、空へと立ち昇り、地から天へと星屑のように流れていく。

尾を引きながら、次第に消えていく白い光。

それはまるで黒いキャンパスの上を滑る白い筆のように見えた。


第20話 「スペクトル」 完



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