( ^ω^)ブーンが心を開くようです
- 209 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:00:30.02 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「『影』のせいか? 直接的にはそうだが、根本的には違う。
俺たちを追いかけてきた警官達のせい? 違うな。
嘘の任務を告げてきた上司か? それとも、あの腐った国会議員?
もしくはお前か?」
川 ゚ -゚) 「……私は」
_
( ゚∀゚)「全て違う!」
ジョルジュがコートのポケットから手を出した。
その手は、人間の肌の色ではなかった。『影』のように漆黒で、深い絶望を蓄えた色。
おそらく、彼の身体は顔以外、全てがそうなっているのだろう、よくよく見れば、彼の身体に肌色が見当たらない。
顔だけが、不自然に人の肌をもっている。
ジョルジュはまた冷徹な表情を浮かべて、喋り続ける。
_
( ゚∀゚)「妹を殺したのは、この国に、この世界に蔓延しているシステムそのものだ!
恐怖で人を律し、恐怖で心を支配するという世界のシステム。
そして、他人のことなど考えもせず、自分が守りたいものだけを守るために戦うという人間のシステム。
分かるか? 人は生きたいという『生存本能』と、守りたいという『防衛本能』は持っているにも関わらず、
他人と分かり合うための『統合本能』は持たないんだ」
言葉の波が頭の中へと押し寄せてくる。
ジョルジュの口から放たれるそれらの言葉は、この世界の矛盾と真実を照らしているかのような……はっきりしとした言葉。
今まで自分が持っていたもやもや感をはっきりと示すもの。
しかし、にわかには受け入れがたい事柄。
- 210 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:02:45.40 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「だから、守りたい対象が違うだけで、人は争ってしまう。
それはこれまでの歴史を振り返れば、いや今現在の世界の状況を見ても明らかだろう?
自分の国が攻撃されるという根拠のない恐怖から、どれだけの戦争が生まれたと思う?
世界平和をうたっている国が、今も武器を捨てずに使い続けているのは何故だ?
自分の人権だけを考えるあまりに、他人の人権を考えない人間。
生存本能だけが先立ち、理性という言い訳を使い、動物に本来備わっているはずの『統合本能』を失った人間。
他人を信じず、自分しか信じるものはないという思想。世界を見れば、嫌でも感じる」
ジョルジュはそこでひとつ息をつき、黒い腕をポケットに戻した。
ちゃんと意識を集中すれば、ジョルジュからは『影』の気配がすることに気がついた。
_
( ゚∀゚)「俺はそれら全てを変える。恐怖で縛られて混乱する世界を、もう一段階上の恐怖で安定させる」
- 212 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:04:42.41 ID:t0QnZp7a0
川 ゚ -゚) 「恐怖で人を安定させるだと……そんなこと」
_
( ゚∀゚)「不可能、か? そうでもないぜ?
例えば、だ。ナショナリズムって言葉は知ってるか? 自分の民族の国をうちたて、それを守ろうとする思想、ってな感じだな。
これがあるのは、もちろんその民族自身の存在が不可欠だが、もうひとつ、それに敵対する集団の存在も必要なんだ。
わかるか? 外の集団への恐怖が、その民族をナショナリズムへと掻き立てる。
第2次世界大戦、欧米の国の人々を『鬼』としたこの国のように。
そして今、新たな外の恐怖を感じ始めたこの国がとるであろう方向も、それを示している」
たった一つの些細な恐怖から、人々は発狂し、自分の身を守るために躍起になる。
「警察力の強化」「軍備増強」「核武装論」、身近なところなら「護身術」。
ニュースや世論でこれらが話題になる時、必ずと言っていいほど自分達以外への恐怖――外への恐怖がある。
ブーンはジョルジュの言葉からそんなことを連想した。
- 214 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:06:39.60 ID:t0QnZp7a0
「つまりだ。人は自分達だけを守るためなら、団結しやすい。統合本能を少しながらでも思い出す」とジョルジュは言葉を続けた。
_
( ゚∀゚)「外への恐怖に抗うために、人の心はひとつになる。
ならば俺は、人類全体の『敵』となり、人々の心の奥底に純粋恐怖を植えつける。
そうした時、人はどうする? 簡単なことだろう?
恐怖が人をひとつにするのさ……」
川 ゚ -゚) 「そんなこと……間違っている」
_
( ゚∀゚)「なぜだ? なぜそう言える? 俺が間違っていて、お前が正しい。本当にそうなのか?
もしかしたら俺が正しくて、お前が間違っているかもしれない。
もしくはどちらも間違っていて、正解は別にあるのかもしれない。
まあ、現時点でこれを判断する術なんてない。それをするのは後世の歴史家だけだ。
俺たちにできることは、自分の信じる道を、自分の信じる歩き方で歩くだけ。
だから、俺はどうやってでも俺の目的を達成してみせる。
たとえ、どれだけの人を犠牲にしようとも……」
- 217 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:09:40.04 ID:t0QnZp7a0
ピクリ、とブーンは彼の言葉の一つに反応した。
『たとえ、どれだけの人を犠牲にしようとも』?
それはつまり、人の死を構わないということ?
人の犠牲の上に、自分の目的の達成を置く?
そんな……そんなやり方は……
_
( ゚∀゚)「この世界は、そうやって妹の死に報いなければいけない」
( ゜ω ゜)「間違ってるお!」
ブーンは心の奥底からの叫びを放った。
それは本心の言葉。絶対にそれだけは正しいと思える言葉。
これ以上、どんな人の犠牲も払ってはいけない。
たとえどんな高尚な目的があったとしても、だからと言ってどんな方法を取ってもいいわけではないのだ。
方法を考え、その中で最善のものを選ぶ。
それが、1番重要なこと。
- 218 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:11:43.78 ID:t0QnZp7a0
_
( ゚∀゚)「『人の子』……いや、ブーン。どうやらお前はそちらにつくようだな」
( ゜ω ゜)「そうだお。僕は、守りたい人ならどんな人も死なせないって誓ったんだお。
もし無差別に人を殺すような方法を取るなら……全力で止めるお」
_
( ゚∀゚)「そうか……お前が導く世界がどの方向に向かうのかは分からないが、とにかく俺は俺の信じる道を進む。
止められるなら、止めてみろ! もう祭りは始まってるぜ!」
ジョルジュがそう叫んだ瞬間、上空に爆音が響いた。
鼓膜をつんざく巨大な音に、ブーンは思わず耳を塞ぐ。激しい風も急に自分の身体を打ち付けてきた。
それはヘリコプターの音と風だった。
いつの間にか上空を飛んでいた1機のヘリコプターが、森に接触するスレスレまで降下し、ホバリング体勢に入っていたのだ。
爆音と爆風に戸惑っていると、ヘリの扉が開き、プラスチックの梯子がジョルジュたちのいる地点に下ろされていく。
_
( ゚∀゚)(来れるもんなら、来てみるんだな!)
やかましいヘリの音の間からそんな声が聞こえ、ブーンは風に負けずにヘリの方を見る。
すると、ジョルジュが梯子に手をかけて上っている姿が見られた。
- 219 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:13:20.95 ID:t0QnZp7a0
( ,,゚Д゚) (また、な。必ず来いよ)
爆音の中でも聞こえるその声。
いや、違う。これは、もしかしたら心の声なのだろうか?
きっとそうだ。こんなローターの音が響き渡っている状況で、ギコの呟きが聞こえるはずがない。
なぜだ? 完全にクリアーに人の心の声が聞こえる。
从 ゚―从(……彼のために)
なぜ、聞こえる?
人の感情を掴むことは得意だったけど、いつからこんな風に心の声が聞こえるようになった?
( ´_ゝ`)(『影』との同化)
(´<_` )(進めないとな)
自分にはこんな力もあるというのか?
しかし、こんな力があっていったい何の役に立つというんだ。
人の心を読むだなんて、そんなわずらわしい能力……!
( ´∀`)(すまないモナ……みんな)
モナーの声が聞こえ、ブーンはハッと顔をあげた。
- 221 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:15:28.82 ID:t0QnZp7a0
すでにジョルジュを含めた6人全員がヘリコプターに乗っていた。
ヘリはある程度体勢を立て直すと、急激に高度を上げ、ゆっくりと前進して行く。
その窓からジョルジュ達の顔を見ようとしたけれども、叶わず、ヘリはそのまま彼方へと去っていってしまった。
徐々に馬鹿になっていた耳も元に戻ってくる。すると、また森の静けさだけがあたりに残っていた。
『影』の気配はおろか、生物の気配もしない静寂の森。
ジョルジュとの邂逅のショックからか、その静けさが逆に苦痛だった。
川 ゚ -゚) 「ジョルジュ、お前がやろうとしていることは……」
クーのそんな呟きが宙に浮き、霧散する。
彼女は刀の柄を握ったまま、何かを考え込むように立ち尽くしている。
彼女の心も読めるのだろうか? と思ったブーンは、意識的にやってみたが、しかしもう心の声は聞こえなくなっていた。
いったい自分の身体には何があるのだろう? と思いながら、ブーンはクーの顔を見つめる。
彼女は唇を噛み、何かを決意したように空を見上げた。
川 ゚ -゚) 「私は……!」
- 222 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:17:23.29 ID:t0QnZp7a0
ピー ピー ピー
突然、無線機から電波受信の音が鳴り出した。ジョルジュ達が去ったからなのか、ジャミングは切られたようだった。
無線機に手を伸ばしたクー。ブーンもまた、自分の無線機を操作する。
川 ゚ -゚) 「はい、所長……今、こちらでは――」
狐 『大変なんだ!!』
通信機を壊す勢いで大声を出してきたのは狐だった。
切羽詰った口調で、クーが何事か問いかける前に早口でまくし立てていく。
狐 『今、この国中で【影】が大量に出現してる! 樹海にいたものが一斉に外に飛び出したらしい!
周辺国でも【影】の出現が報告されているし、何より主要な国家で革命軍による大規模なテロも起こってるんだ!』
川 ゚ -゚) 「なっ……」
狐 『革命軍と【影】が協力体制を取っているところもあるらしく、世界中が混乱している!
とにかく今からヘリを寄こすから、早くこっちに、」
狐が話し終える前に、通信機から爆発音が轟いた。
ラウンジ教の施設で同じものを聞いたことがある。これは爆弾が爆発した音……?
- 224 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:19:32.68 ID:t0QnZp7a0
狐 『何が起こった!』
(*゚ー゚)『地下の施設にて爆破現象を確認! 隔壁を閉鎖しました!』
狐 『爆発……?』
狐としぃの声が遠くなってくる。
そして、また連続で爆発音。
明らかに、ビルが爆破されている音。
狐 『くっ……退避だ! 特別治療区域の患者から順にビルから脱出だ!』
(*゚ー゚)『3、4階が爆破されました! エレベーターも停止! 間に合いません!』
狐 『間に合わせるんだ! 早く!』
(*゚ー゚)『はい!』
遠くに聞こえていた彼らの声が、また近くなる。
『クー君!』というはっきりとした声が通信機から流れてくる。
狐 『君達はヘリに乗って、指示を待ってくれ! とにかくこちらは大丈夫だから安心s』
プツン、という音と共に通信が切れた。
おそらく通信設備が爆破されたのだろう。いくらこちらからコールを送っても、何も返してこない。
戻る/携帯用3ページ目