( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
227 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:21:33.88 ID:t0QnZp7a0
  

(=゚ω゚)ノ「これは……」

川 ゚ -゚) 「襲撃を受けている、と見るのが妥当だな……まずいぞ。今あちらには戦力がない」

ぃょぅとクーがそう話しているのを聞きながら、ブーンはジョルジュの言葉を思い出した。

『目的のためならどんな犠牲でも払う』

彼の言葉は本気だった。きっと、どれだけの人の命を犠牲にしてでも自分の目的を達成しようとするに違いない。
ならば、『VIP』を襲撃したのは彼らの仲間であると考えるのが妥当。

と、急にドクオやショボン、そしてツンの事を思い出す。
彼らもまた『VIP』にいる。なら、今彼らも危機に陥っている?

自分の心に暗い闇が落ちてくるのを、ブーンははっきりと感じた。
これは、友達が殺されかけて、初めて『光弾』を出した時のものと同じ。
韓国人のエージェントがツンを撃とうとしていた時のものと同じ。
ツンがラウンジ教に捕らわれ、心を失くした時に感じたものと同じ。

失う恐怖。
守りたいものがなくなる恐怖。
自分が無力だと思い知らされる恐怖。

それは自分の心をしっかりとつかみ、放さない。
どうやっても逃れることのできない負の感情。誓ったものが大きければ大きいほど、暗さを増す絶望。



  
230 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:23:55.10 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンはそれに戸惑い、頭を抱えた。

また守りたいものを傷つけてしまうのか?

そんなの……絶対に嫌だ!

(=゚ω゚)ノ「ヘリだょぅ……!」

ブーンは上を向いて、ヘリがこちらに梯子を下ろすのを見た。
ちゃんと地面に降りたそれを、ブーンは真っ先に走り寄って掴んだ。

(  ω )「させないお……」

川 ゚ -゚) 「ブーン?」
(=゚ω゚)ノ「ょぅ?」

( ゜ω ゜)「絶対に、誰も傷つけさせないお!」

ブーンは急いで梯子を上り始めた。

その叫びは、自分の信念と現実をつなぐ1本のロープ。
必ず守るという誓いをつなぎとめるための生命線。

その線は非常にもろいもののようにも感じたが、しかしそれでも信じて進むしかないというのがブーンの心が決めた結論だった。





  
231 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:26:03.52 ID:t0QnZp7a0
  



混乱の種は、すでに世界中にばらまかれていた。

ある国のビル街。
様々な人種の人々が行き交い、有名な女神像が島の上に立てられ、様々なショップが立ち並び、
巨大なテレビや電光掲示板が商品のCMやテレビ放送を流している、その街。

クリスマスだったその日、その時間帯の街は、人でごった返していた。
ショッピングを楽しむ人、友達とのおしゃべりをする人、恋人と甘い時間を共有する人、様々な人が様々な時間を過ごしていた。

みんなが楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな顔をしていた。

だが、そこにひとつの異分子が入り込む。

その異分子は最初、誰にも気付かれることはなかった。
建物と建物の間の路地や、ゴミ箱の中、ダンボールや茂みの中など、人の目に着きにくいところに潜んでいた。
その黒い身体のおかげで潜むのはたやすかった。

そして、ひとつの合図と共にそれらは外へと身を表す。



  
234 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:28:27.11 ID:t0QnZp7a0
  

「きゃあああ!」
「わ、ワッツザット!」

黒い身体を持ち、コンクリートでも易々と打ち壊す腕力を振るって、その異分子は次々と街を壊していく。
ショーウインドウのガラスは散乱し、コンクリートの壁は破砕され、街路樹は根から折られる。

カフェテリアでコーヒーを飲んでいたお客達はその姿を見て逃げ出す。
手をつないで歩いていたカップルは別々の方向へと逃げていく。

破壊、破壊、破壊。
破壊だけがその街を支配する。

『影』。

彼らは建物を壊しまわっていた。
時にはビルの中に入り込み、壁を打ち壊し、エレベーターを破壊し、オフィスフロアの机をぶん投げていく。

時には抵抗する人間もいたが、しかし普通の人間が彼らに敵うわけもなく、なすすべもなく骨を折られるか、首を両断されていく。
そういった犠牲者が出るたびに、その場所からは悲鳴が響き渡る。

警官が出動することもあったが、彼らの拳銃すら『影』には効かない。
邪魔をする人間には容赦なく死を与え、辺りの建物を破壊しまわっていく彼ら。

それは、爆弾が爆発する以上の根源的な恐怖を人々に与えていく。
その恐怖を受けた人々は、走り、転び、逃げまどう。

活気のあったその街はいつもの空気を失っていた。
混乱と破壊だけが辺りを支配していた。



  
236 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:30:48.87 ID:t0QnZp7a0
  

他の国の都心部でも同じだった。
大抵の大都市では『影』が現れ、建物を破壊して回り、邪魔する人々を殺していく。
たとえ警官や軍隊が現れようとも、彼らを倒すことなどできない。

そして、その『影』の進行に合わせるかのように、様々な国で革命軍が爆破テロを起こしていた。

ある国では、大統領の屋敷の支柱に仕掛けられていた爆弾が爆発。
屋敷は根元から完全に破壊され、中に居た大統領夫妻は即死。
また、ちょうど家を訪問していた軍隊の総司令官もそれに巻き込まれて死亡した。

またある国では、『影』を倒そうと躍起になっている警官隊に向けて、ゲリラ戦をしかけるテロリストもいた。
革命軍は、街中で銃を連発し、民間人が何人死のうとも構わず、混乱だけを目的とした戦いを繰り広げる。

悲鳴と怒号。発砲音と爆発音。

平和な日常はすでに打ち壊され、混乱だけが広がっていく街中。

『影』と革命軍。テロリスト。

混乱をばら撒いていく『種』は、じわじわと恐怖を人の心に染み込ませていく。





  
237 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:32:43.07 ID:t0QnZp7a0
  



そして、この国でもその恐怖は広がっていた。

『今入ってきたニュースです。R本木、G座など、都心部で謎の爆発現象が起こりました。
 死者、けが人などは不明ですが、現場は惨状と化しているようです。
 え? あ、はい……』

ニュースキャスターは困惑顔で、今出来上がったばかりの原稿を読み上げていく。

『今また新しい情報が入ってきました。他府県のO府、H道、H県など、大都市でも同じような爆発現象が起こっているようです。
 また、正体不明の黒い物体が建物を壊しまわっているという未確認情報も入ってきました』

テレビ画面上に、白いテロップの文字が流れていく。
それは、謎の爆発現象が怒ったり、黒い物体が現れた都市を50音順に示していた。

『今テロップで流れている都市にお住まいの皆様。これらは全て避難勧告が出されている場所です。
 これらにお住まいの方々は、警察や自衛隊、地元自治体の誘導に従い、速やかに避難を行ってください。
 繰り返します。テロップで流れている都市にお住まいの皆様、避難勧告が出されています。
 警察や自衛隊、地元自治体の誘導に従い、速やかに避難してください』



  
242 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:35:03.59 ID:t0QnZp7a0
  

そのテロップは尋常でなく長かった。
ニュースキャスターが何度も避難勧告について喋っていても、まだ終わりが見えない。
100、いや200以上の都市で勧告が出されているようだった。

『今から、地図で避難勧告が出されている都市、都道府県を示します。これらにお住まいの方は、すみやかに避難してください』

画面上に全国地図が出される。
避難勧告が出されている地域は赤く塗られている、と画面端には書かれている。

しかし、そんな説明は必要なかった。

地方などの例外を除いて、その国の地図上のほとんどが赤く染められていたからだ。

『ただいま政府、官房長官の記者会見が行われており、中継でつなぎます』

画面が変わった。
今年の秋に新しく官房長官に就任した1人の男を正面に据え、記者がその周りを囲っている様子が映し出される。



  
244 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:37:01.54 ID:t0QnZp7a0
  

『かかる都市部での爆破テロ、正体不明の生物の襲撃をかんがみ、国家安全の危険ありと政府は判断しました。
 よって、国民保護法に基づき、これを緊急対処事態と認定し、避難命令を全国に発令します。
 国民のみなさん、自衛隊や警察の誘導に従い、速やかに最寄の緊急避難場所に移動してください。
 また、車での避難はやめてください。自衛隊の輸送車が来るまで、一時避難場所で待機してください』

「国民保護法」。

正式名称を「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」という。
これは一昨年頃に制定された、武力攻撃やテロなどの悪意による災害から、国民を保護する役割を果たす法律だ。

「緊急対処事態」とは、テロや災害が起こった状況を指している。

制定されてから今まで、これが適用されたことは1度もなかった。
大きな戦争の後60年、さしあたってテロや戦争に巻き込まれることのなかったこの国。

世界でも有数の軍事力を持ちながらも平和ボケしていると言われ続けていたこの国。



  
246 : ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 23:38:24.63 ID:t0QnZp7a0
  

だから、今回の出来事はこの国にも、国民にも、頭に強烈なパンチを喰らったかのうような衝撃を与えていた。

最初は事態を把握していなかった人々も、テレビで悲壮感を漂わせ続けるキャスターの顔と、黒い物体が暴れている映像を見て、恐れおののいた。
家でじっとしていた人たちは、まず家族と連絡を取り、合流した後、車で逃げたり電車に乗って遠くに行こうとする。
そのせいで交通機関は完全に麻痺。そこらじゅうの道路が渋滞していた。

そして、緊急避難場所である小学校や公民館などでは人がごった返し、自衛隊の輸送車が来るや、我先にと乗り込もうとする。
子供も女も関係ない。みんなが、生き残ろうと必死になっていた。

恐怖は、入り混じり、溶け込んでいく。じわじわと人を苦しめていく。

『影』は街を破壊して回る。
革命軍はテロを繰り返す。

12月25日、クリスマス。

世界は恐怖によって発狂した。


第22話 「祭りの始まり」 完



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