( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:28:08.87 ID:gmEhDIqq0
  

どうしてこんなに都合よく事が進むんだ?
彼らを倒せば全てが解決。これではまるで、ご都合主義の漫画みたいじゃないか。
  _
( ゚∀゚)『【気】で【影】を包んで取り込んでるしな』

どうして彼はこんな情報を自分達によこした?
元工作員の彼なら、相手に情報を与えることがどれほど危険なことか、わかるはず。
これが彼らの計画を止められるヒントになるのなら、なおさらのこと。

なのに、どうして?
  _
( ゚∀゚)(来れるもんなら、来てみるんだな)

( ,,゚Д゚) (また、な。必ず来いよ)

あの邂逅の最後に感じられた、彼らの心の言葉。

( ^ω^)(もしかして、そういうことだったのかお?)

来れるものなら来てみろ。
必ず来い。

それはまるで、こちらを戦いの場へ誘っているような言葉。

つまり、自分達を止めたいなら、俺達の所へ来て戦え、と?
そう言いたいのか……ジョルジュ?



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:29:56.34 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「よし、そうと決まればすぐにジョルジュ達を見つけよう。
   こういう時は独立機関なのが重宝するよ、ほんとに。
   まずは諜報員を使って――」

(  ω )「……狐さん」

ブーンは、各員に指示を出す狐の言葉を遮る。

それは静かな声だったけど、確かな声。
狐が話すのをやめ、みんながこちらを見る。

ブーンはひとつ息を吸い、そして言葉を確かめるようにしながら、言った。

( ゜ω ゜)「ドクオとショボンとツンを……たのみますお!」

ブーンは走り出し、テントから飛び出した。
後ろで誰かが止める声が聞こえるが、そんなことは気にしていられない。
今は走って、目的地へと向かうだけ。

迷いはない。





  
50: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:32:08.85 ID:gmEhDIqq0
  



川 ゚ -゚) 「ちっ! ブーン! 待て!」

いきなりテントを出て行ったブーンを追いかけようと、クーは立ち上がり走り出そうとした。

だが、「待ってくれ」という狐の言葉で制止せざるをえず、クーは前に出した足を元に戻す。

狐は椅子に座ったまま、眉をひそめて腕を組んでいた。

川 ゚ -゚) 「所長! 早く追わないと、きっと彼は……!」

狐 「わかってる。彼はたぶん、1人でジョルジュのところへと向かうつもりなんだろう。
   けど、彼だけでなく、君もここを離れられては防御が甘くなってしまう。それはよくない」

正論を盾にしてくる狐に、クーはかすかに舌打ちをした。
確かに、ここを『影』に襲撃される可能性がないとは言えず、だとしたら『気』を扱える自分はここの防御に徹するべきだろう。

ブーンのように、一時の感情任せに事を進めてしまったら、何もかも台無しになってしまう。
ジョルジュを止めるのならば、それなりの作戦を立てていかないといけない。

それはわかる。分かりすぎるほどに分かる。



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:33:54.95 ID:gmEhDIqq0
  

だが、感情がそれを許さない。

かつて、正論によって仲間をなくした自分。
合理と感情の狭間に立たされ、どちらを取ることもできなかったために、罪を犯すこととなった自分。

もう、あんな思いはごめんだ。

いくら合理的には正しくても、感情が先立つならばそれに身を任せても良い。
そうして感情に身を任せた先で、合理的な判断を行えばいい。
それは兵士としては失格でも、人間としてはそれで正しいと思える。そうだろう?

と、そこでクーは自分の思考に疑問を持った。


合理よりも感情? そうなのか? 本当に?

ならば、自分の取るべき道は……



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:35:33.72 ID:gmEhDIqq0
  

川 ゚ -゚) 「……とにかく、彼1人では危険です。 ここは私も!」

狐 「一時の感情に身を任せるな。もっと冷静に判断するんだ」

川 ゚ -゚) 「っ! しかし!」

狐 「と、お偉いさんなら言うだろうね」

そう言いながら、狐がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
え、とクーは乗り出しかけた身体を元に戻し、彼の顔を呆然と見つめた。

狐 「君を『VIP』に誘ったときに言っただろう? ここは独立した組織。私達のやるべきことをやりたいようにできるんだ。
   君が行きたいと思うなら、それを止めはしないし、私も君が行った方がいいと思ってる」

川 ゚ -゚) 「……所長」

狐 「さあ、装備を整えて行くんだ。きっとブーン君ならジョルジュ達を見つけることもできるだろう。
   ぃょぅ君、君もだよ。早く用意をするんだ」

(=゚ω゚)ノ「は、はいだょぅ!」



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:37:19.83 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「こちらのことは気にしなくて良い。戦力は整ってきてるし、まだ『影』が襲撃してくるまでには時間があるはず」

川 ゚ -゚) 「しかし、ビルを襲ってきた兵士たちのことは……」

狐 「……彼らはジョルジュ達の兵士なんだろうけど、それも大丈夫だ。
   少ないながら『H.L』の試作品もまだ残ってる。こちらはこちらで対抗する力がある」

そう言う狐だが、きっと本心ではなんとかなるとは思ってはいまい。

『H.L』の試作品が残っていたとしても、ブーンの光が足りていないはず。
もしサンプル用として残していたとしても、それは微量だろう。

『影』と兵士の総攻撃を受ければ、いくら『VIP』と自衛隊の軍勢でも太刀打ちできるものではない。
『気』の使い手が1人は必要なはず。

だが、それにもかかわらず彼は「行け」と言う。
必要だとか合理的だとかは関係なく、個人の感情と因縁による判断に任せようとしてくれている。

ありがたかった。
『VIP』に入って本当によかった。

こんな上司がいるからこそ、自分は思うとおりに動くことができる。やりたいことを懸命に行うことできる。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:40:07.56 ID:gmEhDIqq0
  

狐 「死なないでくれよ、クー君。またお酒を飲んでもらわないと、贈り物がたまって困るんだからね」

川 ゚ -゚) 「ええ、その時は酔いつぶれるまで飲んであげますよ」

狐 「……がんばってくれ」

クーは立ち上がり、ぃょぅに目配せをした。
彼にはバイクを取ってきてもらい、自分は装備を整える。
それを察してくれたぃょぅは頷きを返し、テントを出て行った。

そしてクーもまた、テントを出ようとした時、

(*゚ー゚)「クーさん……」

しぃが目の前に立ちはだかった。
その目は、涙で潤んでおり、これから何が起こるのか不安がっていることが一目でわかる。

クーは冷静に、彼女を諭す。

川 ゚ -゚) 「しぃ……私は行かなくてはならない。ジョルジュを止めるために」

(*゚ー゚)「わかっています。もう何も言いません。私ができるのは、これを渡すことだけ」

そう言ってしぃが差し出したのは、『疑似障壁』の発生装置だった。
樹海での殲滅戦で全て使ってしまったと思っていたが、まだ残っていたとは驚きだった。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:42:05.53 ID:gmEhDIqq0
  

(*゚ー゚)「これが最後のひとつです。何かの役に立てばいいんですが……」

川 ゚ -゚) 「いや、十分役に立つ。ありがとう。
     それに、お前に指示をもらわないと、ジョルジュ達やブーンの居場所が分からなくなる。頼んだぞ」

(*゚ー゚)「……はい!」

(=゚ω゚)ノ「クーさん! バイクの用意できたょぅ!」

外からぃょぅの声が聞こえ、クーはしぃを思い切って抱きしめた。
「無事で」と呟くと、「クーさんも」という答えが返ってくる。

これで、思い残すことはなし。
戦いに望める。

クーはテントを出て、空を見た。
青い空と白い雲。晴れ渡るこの空は、クリスマスにしては陽気すぎる。

だが、これから戦いに望む身としては、すがすがしい気分にさせてくれるものだった。

青い空の一端に、よく見知った白い光が瞬いているのを見つめながら、クーはバイクにまたがった。
これから装備を整え、ブーンを追いかけ……

全ての決着をつける。





  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:44:06.94 ID:gmEhDIqq0
  



テントから離れ、避難している人が集まる倉庫の方へと向かう。
そこには多くの人がブルーシートの上で座り、身体を休めていた。

おそらく彼らは、ここよりももっと安全な地帯に避難することになるのだろう。
自衛隊の車に乗る人々を見れば、そういうことは容易に想像がつく。

ブーンは彼らの横を走りながら、考えた。

自らの安全のために逃げる。それもまたひとつの選択肢。
だが、少なくとも自分は逃げてはならない。
今自分ができることを、自分はやらなくてはならない。

そう思いながら走り続ける。

倉庫郡を抜け、大型の駐車場のような広い場所に出た。
普段は多くの従業員がそこに車を止めるのだろうが、今は自衛隊や『VIP』関連の車が置いてあるだけで、大部分は空白だった。

駐車場の向こう側には山が見え、ここが都会から遠い田舎だということがわかる。

あの山の向こうまではかなりの距離があるはずで、きっと歩いて行くことなんてできない。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:45:58.19 ID:gmEhDIqq0
  

「ブーン!」

後ろから声をかけられ、ブーンは、はっ!と振り返った。
聞き覚えのある声。自分の大切な人たちの声。

('A`)「お、おい、お前どこに行くんだ?」
(´・ω・`)「クーさんたちと一緒じゃなかったのかい?」
ξ 凵@)ξ「……」

ドクオとショボンは息を切らせながら、ツンは彼らに車椅子を押されながら、こちらに近づいてくる。
彼らの顔を見た瞬間、思いがけず涙が出てしまいそうになったが、なんとかこらえた。

今は泣いている場合じゃない。
ひとつの感情に縛られず、自分の信念を貫き通すために戦う時なのだ。

( ^ω^)「僕ができることをするために……行かなくちゃいけないんだお」

('A`)「できる……こと?」
(´・ω・`)「それってもしかして、彼らと戦うことかい?」

( ^ω^)「そうだお。今やらなくちゃ、みんな死んじゃうんだお……
       だから、僕は行かなくちゃいけないお」



  
65: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:48:11.00 ID:gmEhDIqq0
  

('A`)「けど……こんな状況なんだぜ? 死ぬかもしれないんだぞ?」
(´・ω・`)「危険すぎるよ、そんなの」

心配してくれる彼らの心が胸に染みる。
こういう優しい人達だからこそ、自分が守りたいと思える。
彼らのために命を投げ出してもいいと確信できる。

ブーンは無理やり笑顔を作って、彼らに言った。

( ^ω^)「行くんだお……みんな幸せにならなくちゃいけないんだお」

ドクオとショボンの表情が変わる。
心配から決意の顔に……

('A`)「……そうか」
(´・ω・`)「もう僕達では止められない……いや、止める必要もないんだろうね」

( ^ω^)「ごめんだお……わがままで」

('A`)「そんなことはないさ」
(´・ω・`)「それが君の信念なんだろうからね」

( ^ω^)「……そうだお、ドクオ達にこれを渡しておくお」

ブーンはそう言いながら、近くにあった軍事車両の中に入り、備えられてあった小銃を手に持った。
きっと『VIP』の装備のひとつなのだろう。この辺りには民間人は入れないから放置しているのだろうが、どうにも無用心だ。

けど、今は好都合。



  
66: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:50:07.94 ID:gmEhDIqq0
  

その小銃は、重くて細長い銃身と茶色いグリップが何やら印象的だった。
AK−47Uと書いてある。意味はよくわからない。
けど、何やらすごい銃なのはわかる。

ブーンはその小銃(アサルトライフル)に向かって、意識を集中させた。特に弾倉部分に。
たちまちに白い光が手から現れ、銃全体を覆っていく。

別に、今までにもこういうことができると思っていたわけじゃない。
けど、今ならできるという自信があった。
クー達が武器の周りに『気』を張れるように、自分の光もそれができるはずだ、と。

銃全体に光が張られ、特に銃弾には高密度の光が張られた。
これなら、『影』にもダメージを与えられる。「彼ら」を守る武器になってくれるはず。

他の人たち全員の武器にこれを行うことはきっとできない。
友達を思うからこそ、できた技。

('A`)「ブーン……その光は……」

( ^ω^)「これで、守ってほしいお……自分とツンを」

光を張った小銃を1丁ずつ、ドクオとショボンに手渡す。
戸惑った表情を見せる彼らだったが、こちらの言葉の真剣さに何かを悟ったのか、すぐに表情を固くして「わかった」と応じてくれた。



  
67: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:52:11.12 ID:gmEhDIqq0
  

( ^ω^)「じゃあ……僕は行くお!」

('A`)「おう!」
(´・ω・`)「帰ってきなよ! 絶対に!」

ξ 凵@)ξ「……」

( ^ω^)「ツン……帰ってきたら、いっぱいお話しようだお」

ブーンはツンの指にある指輪を触り、彼女の目を見た。
光のない目。けど、その奥底にきっと彼女の意識はあるはず。

ブーンは立ち上がり、空を見た。

これで自分は戦いにいける、とブーンは思った。

彼らを守るために、戦いに行く。
みんなを守るために、行く。
全ての人たちを守るために。
意識を失くして眠る彼女を守るために。

そういうことなんだろう? ジョルジュ?
戦って、決着をつけて、この世界の命運を決めたいんだろう?

なら、戦ってやる。
守りたいものを守るために、戦ってみせる。



  
70: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:54:24.37 ID:gmEhDIqq0
  

ブーンは空白の駐車場を思いっきり走った。
空は青、向こうには緑の山。太陽は真上に位置し、きっとジョルジュのいる場所までは相当の距離があるだろう。

けど、距離なんて関係ない。
望めば、どこへだって行ける。何だって見れる。何でもできる。

いつだってそうだった。
光はそれに答えてくれた。
『光弾』も『剣状光』も『光障壁』も『飛槍光』も。

だから、

望めば……空だって飛べる!

( `ω´)「おおおおおお!!!!」

ブーンの身体がふわりと浮ぶ。

それは、彼の心が望んだこと。
飛ぶという思いを現実化させたもの。

常に身体を支配していた重力から解き放たれ、

望む場所へと向かう彼のために、

光はその背中に翼を生み出した。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/14(木) 00:55:57.47 ID:gmEhDIqq0
  

( ゜ω ゜)「……行くお!!」


それは、白い光の翼。


彼の背中から生まれ出でて、


天使のそれのように羽ばたき、


淡く光る羽を宙に散らせながら、


彼を青い空へやり、


全ての決着の場へと彼を導く。




第23話 「望めば空だって飛べる」 完



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