( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:56:02.45 ID:5bA3acr60
  

もし「彼女」が出てきたとしても、ジョルジュと出会ってから培ってきた心でそれを押さえつけ、コントロールすればいい。

力だけではない。心がこの戦いを決するのだ。

ハインリッヒはそう結論付け、橋の下にあったブルーシートを剥ぎ取った。

その下にはこれまで使っていた狙撃銃M24と、その他多くの武器が隠されていた。自分の愛用の銃「AUG」もだ。

ハインリッヒはひとつひとつの武器を吟味し、どれを持っていくか慎重に決めていった。

ここからの狙撃はもう無理だろう。断熱材を兼ねたこのブルーシートで身を隠し続けるのも限界がある。
ヘリが落とされたとなれば、『VIP』は全力でここの捜索に乗り出してくるだろう。

ならば、自分がやるべきことはもう狙撃ではない。突撃だ。

ハインリッヒは重量と火力のバランスを考え、銃はアサルトライフル「AUG」とハンドガンのみ。
スティンガーは重量がありすぎるので置いていき、あとは手榴弾やセムテックス、銃のマガジンなどにとどめておく。

準備を終えると、ハインリッヒは立ち上がり、辺りを見回した。

人影なんてひとつもない、静かな川沿い。
戦いの後はこういう場所で過ごしてみてもいいかな、とハインリッヒは思った。
ジョルジュは愛しい人と一緒にいたがるだろうから、おそらく1人暮らしになるのだろう。
けど寂しくない。都会の喧騒から離れて静かな所で一生を終えるというのも、いいものだ。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:57:45.73 ID:5bA3acr60
  

ふふ、と笑みを浮かべるハインリッヒ。

次の瞬間、自分が今とった表情に自ら驚いた。

笑った……?
自分が?

狂った笑いではなく、普通に笑うことができている?

驚き、感慨深くなり、涙が落ちそうになるのをハインリッヒはこらえた。

今自分がやるべきことはそんなことじゃない。『VIP』と戦い、少しでもジョルジュの手助けをすること。それだけだ。

そのためなら、たとえ「彼女」の力を使ってでも目的をやり遂げてみせる。

それが、自分のやりたいことであり、やるべきことなのだから。

ハインリッヒはAUGを手に持ち、ゆっくりと歩き出した。
その先には、今も戦いが続いている工場があった。





  
45: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/23(土) 23:59:32.38 ID:5bA3acr60
  



(*゚ー゚)「『影』の動きが止まりません。現在、工場の中央付近に向かって進行中。それに付き従うようにして敵兵士も進んでいます」

狐 「ちっ……避難民は?」

(*゚ー゚)「避難はほぼ完了しています」

狐 「よし、そろそろ作戦区域に『影』を追い込もう。奴らを倒すには失敗は許されない。耐えるんだ……!」

しぃと狐が緊張を顔に浮かべる中、戦いは更に続いているようだった。

現在、『影』が敵兵士に加わったことで圧倒的に『VIP』側が不利になっている。
それを覆そうと、狐達が何か作戦を立てているらしいが、状況は悪化する一方だ。

(*゚ー゚)「コブラCが撃墜された模様。おそらくスナイパーの仕業です」

狐 「コブラDを墜落地点に送って、探索させるんだ。
   コブラA・Bはこちらに戻しておけ。くれぐれも注意するように、と」

(*゚ー゚)「すでに送っています」

狐 「上出来だ」

モニターと手元の時計を交互に見る狐。
その顔は言葉とは裏腹に苦渋に満ちている。



  
47: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:01:39.70 ID:6AENGMAg0
  

(*゚ー゚)「作戦地域まで『影』を追い込むことが困難になっているようです。
     敵兵士を相手にしつつ、これを行うのは無理があるかと」

狐 「けど、やるしかない。『影』を倒せば、あとはなんとかなる。耐えるんだ!」

どうやら『影』を思うように誘い込むことができず、そのため『VIP』全体が危なくなっているようだ。

ドクオは彼らの様子を見つつも、頭の中で『影』の姿を思い浮かべてみる。

2メートルはあろうかという大きさと、全身が真っ黒の異形のモノ。
それらには通常兵器はまったく役に立たず、唯一ブーン達だけが対抗できる力を持つ。

兵士達は辛い戦いに身をおいているだろう。

だが、彼らはもっと辛い戦いに赴いている。
この混乱の現況を倒すために、彼らは今も生死をかけている。

('A`)(……)

ドクオはひとつのモニターに目を移した。
それは偵察衛星からの映像を写すためのものであり、
今もまだ準備中なのか、砂嵐だけがそこには映し出されている。



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:04:16.36 ID:6AENGMAg0
  

ドクオはそれを見つめながら、何か胸の中にもやもやとしているものを言葉で定義付けようと試みた。

何なのかはよくわからない。
けど、このままここに立ったままではいけないような気がするのだ。

ボキャブラリーのない自分には、それを上手く説明する言葉が思いつかない。

ブーン達が戦い、狐達も戦い、『VIP』の兵士達も戦い……けど、自分は何もしていない。
それが悔しいようであり、何か寂しいような気持ちにさせてくるのだ。

(´・ω・`)「ドクオ」

眉をひそめて言葉を探していると、ショボンが声をかけてくる。

「なんだよ」とドクオはぶっきらぼうに答えた。

(´・ω・`)「……いや、なんでもない」

('A`)「そうか……」

ショボンはツンの車椅子の取っ手を掴みながら、こちらと同じように眉をひそめていた。
彼も感じているのだろうか? 胸のもやもやを。悔しいような、寂しいような気持ちを。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:06:13.81 ID:6AENGMAg0
  

ドクオはなんとかしてそれを言葉で表そうと努力し、頭をひねり、そして導き出した。

これは責任感だ。

そして欲求なのだ。

自分もやらなければならない。やりたい。

周りはやっているのに自分はやっていないことが不快で、まるでグループから外されたいじめられっ子のような気持ち。
けど、グループに入るための能力は自分達にはなく、だから欲求不満になる。
そして、グループに入る勇気も湧かない。

そういう所からくる「もやもや」なのだ。

けど、そうなのか?
自分には、本当にそれをやり遂げる能力がないのか? 勇気はないのか?

ドクオは足元のAK−47Uを見つめた。
ブーンが光を浴びせ、自分達を守る盾となったそのアサルトライフル。

この盾は剣にはならないのか?

自分には恐怖に抗う勇気はないのか?



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:08:00.96 ID:6AENGMAg0
  

(*゚ー゚)「偵察衛星からの映像、来ました」

狐 「映し出してくれ」

そんな声が聞こえて、ドクオは慌ててモニターへ目を向けた。

今まで砂嵐しか移さなかったその画面に、徐々に光が帯びてくる。
それは上空からの映像で、人ひとりを見分けるには限界があったが、だがひとつだけ分かるものがあった。

白色の砂の上に、ぽつんと浮かび上がる光の粒子。
それはハイスピードで辺りを飛び回り、まるで蛍のように光を出し続けている。

そう、それは光の翼。
彼の姿。

('A`)「……」

ドクオはその姿を見て、続いてショボンの方へと顔を向けた。

彼もまたモニターを凝視し、こちらを向いた。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:10:01.43 ID:6AENGMAg0
  

('A`)「……俺達にできることは?」

(´・ω・`)「……ちっぽけなことしかできないだろうね。けど」

('A`)「やらないよりはマシ、だな」

(´・ω・`)「そういうことだね」

笑い合い、同時に足元のAK−47Uを取り上げる。
ツンの車椅子のブレーキにストッパーをかけておき、ここから動き出さないように固定しておく。

('A`)「このロックを外して、と」

アサルトライフルの扱い方は、一応知っている。
『VIP』のビルにいたころ、大抵の武器の使用方法は習った。モナーに。

皮肉なことだが、今はそれが役に立つ。
AK−47Uの安全装置を解除し、設定をセミオートに。



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:11:15.74 ID:6AENGMAg0
  

('A`)「準備は?」

(´・ω・`)「おーけー」

('A`)「よし」

そうして走り出そうとした時、後ろから狐の声がした。

狐「ど、どこに行くんだ! 2人共!?」

('A`)「……戦うんっすよ!」
(´・ω・`)「それが今、僕達ができることだから!」

2人はテントから飛び出した。

向かう先は生死の境目が非常にあいまいな場所。

戦場だ。





  
54: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:13:05.43 ID:6AENGMAg0
  



戦況は更に悪化していった。

『VIP』の兵士達にとって、『影』に対する有効手段は皆無だと言っていい。
唯一、狐の立てた作戦だけが生命線だったが、それを行うためには『影』をおびき寄せ、少しでも作戦地域に密集させることが必要なのだ。

だが、樹海で行ったような、1人が攻撃し、それを追いかける『影』にもう1人が攻撃する、という誘導方法は今回使えなかった。
なぜなら『影』の他にも敵の兵士もいたからだ。

『影』を誘導しようとしても敵兵士に邪魔され、作戦は一向に進まない。
それどころから味方の兵士だけがやられていき、戦況は最悪だと言ってもよかった。

「衛生兵! こちらに重傷者2名! 早く来い!」

「敵兵士は1部隊が担当して、残りで『影』をおびき寄せられないのか!?」

「無理です! 敵兵士はすでに四方を囲んでいます! 一時的にでも『影』をなんとかしないと、敵にやられることに!」

「ちっ……!」

第1部隊チームγ。
『影』を誘い込む任務を受けている彼らは、敵の妨害に会ったため一時的に後方に下がっていた。
そして現在は前線からの連絡を待っていた。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:14:25.70 ID:6AENGMAg0
  

前線から1度連絡があれば、すぐに走り出して『影』をおびき寄せる作戦に出るつもりだったが、
今前線は『VIP』と『影』、そして敵兵士が混在した激戦区と化している。
そんな状況で誘導なんて悠長なことはできない。

チームγの隊長はこの状況をなんとか打開しようと頭を捻るが、『影』に対する攻撃が何も効かないとなってはどうしようもなかった。
このままでは敗北は必至。

γ隊長「本部! なんとかならないのか!」

(*゚ー゚)『ごめんなさい。今検討中です。少し待ってください』

γ隊長「だが、時間がない! このままでは全滅するだけだ!」

通信士の女性にイライラをぶつけているだけだというのは分かっている。彼女に言ってもどうしようもない。
だが、この状況で冷静を保つことなど、もはや難しいのだ。

それぐらいに事態は切迫している。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:16:07.35 ID:6AENGMAg0
  

周りで衛生兵に治療を受けている負傷兵に目を向けながら、「『影』への対策はないのか!」と通信機に怒鳴った。

(*゚ー゚)『ごめんなさい……もう少し待ってください。
     それと、少年2人がそちらの方に向かったようですので、見つけ次第保護をお願いします』

「そんな暇は、」

ない、と言いかけた所で、隊長は後ろからやってくる足音に気がつき、振り返った。

軍用車や救護班の間を潜り抜けてやってくるその2人は、明らかに兵士風な服装ではなく、民間人のように見える。

だが、彼らの手に持つものを見て、隊長は目を見開いた。
それはAK−47U。
『VIP』が独自に輸入している、信頼性の高いアサルトライフルだった。

「何者だ!」

隊員の1人が2人に銃を向ける。
少年2人は持っていたアサルトライフルごと両手を上げる。

('A`)「俺達は……『影』をやっつけられます!」
(´・ω・`)「だから、行かせてください!」

彼らの真剣な目。そして、アサルトライフルから漏れ出ている何かの光。
それらを見て、隊長は何か気になった。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:18:06.27 ID:6AENGMAg0
  

「民間人は去れ! ここはお前達のような者がくる場所じゃない!」

('A`)「今はそんなこと言ってられないっすよ!」
(´・ω・`)「僕達が『影』をなんとかするから、作戦を……!」

「黙れ! 去らなければ無理やりにでも、」

γ隊長「待て」

隊長は隊員を手で制止し、2人の少年の目を見つめた。
彼らの目は兵士のように暗くくすんでおらず、気持ちを直にぶつけてくる純粋さを秘めていた。
嘘を言っているようにも思えず、ここに来たことが強固な意志を伴ったものだということが、ありありと分かる。

γ隊長「……『影』を倒せると言ったな。それは本当か?」

('A`)「はい!」

γ隊長「……戦場は怖くはないか?」

(´・ω・`)「そりゃ怖いけど……それでもやらなくちゃいけないことがあるんです」

γ隊長「……いい根性だ」

隊長は彼らの言葉を聞き、目を見つめ、決意した。

これからが『VIP』の反撃だ、と。





  
60: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:19:16.75 ID:6AENGMAg0
  



『影』の侵攻はとどまることを知らなかった。

『VIP』の兵士をなぎ倒し、敵の兵士を助けるその異形のモノ達。
彼らによって、戦いはひとつの結末に向かうかと思われていた。

だが、

2人の少年によってそれらは覆される。

('A`)「おりゃああああ!」

(´・ω・`)「おおおおお!」

アサルトライフルの引き金を引き、次々と『影』に命中していく少年達の銃弾は、

影『gyぎゃyがが!』

「『影』が……消えるぞ!」

戦局を覆すには十分な要素だった。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:20:20.88 ID:6AENGMAg0
  

そんな中を、彼女は訪れた。

从 ゚―从「あれは……」

2人の少年が戦っている姿を見たハインリッヒは、

从 ゚―从「……」

しっかりとAUGのグリップを握り、



从 ゚∀从



从 ゚―从「っ!」

内なる「彼女」をコントロールしながら、その引き金をひく。


第25話「心の戰い 中編」 完



  
63: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/24(日) 00:21:48.70 ID:6AENGMAg0
  

第25話終わり。支援してくれた方々、ありがとうございます。

ここで補足説明を2つほど。



補足1
物語内で出てきた狙撃距離に関することですが、700〜800メートル前後で狙撃を行うのが普通のようです。
銃の性能的には1000メートルを超えても大丈夫らしいですが、それでもやはり2000メートルを超えるとめちゃくちゃ難しくなるとか。

ちなみに、日本の警察が銀行の立てこもり事件なので行う「狙撃」は、50メートルという至近距離で行ったりします

補足2
狐が狙撃の技術を持っていることは、以前の話でちょこっとだけ出てきたりしてます。
気付いた人は……すごい!



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