( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
43: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:00:43.70 ID:zD7q22Rl0
  

(‘A`)「ひっ!」

力を振り絞り、ステアーAUGを少年に向けるハインリッヒ。
だが、また銃声が鳴り響き、爆発したかのような衝撃によって、身体がくの字に曲がる。

从 ゚―从「じゃ、ま……!」

倒れまいと歯を食いしばり、邪魔者にAUGを向ける。
その邪魔者は、驚きの表情でこちらに銃口を向けていた。

「まだなのか! この!」

从 ゚―从「わ、たしは……!」

引き金をひいたのはほぼ同時だった。

邪魔者の腕に銃弾を浴びせることができた一方、

自分の身体に3発目の弾が命中したことを自覚したハインリッヒは、急激に力を失い、地面に倒れこんだ。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:03:03.25 ID:zD7q22Rl0
  

从 ゚―从(私は……)

撃たれた場所から広がっていく痺れに抗うこともできず、ハインリッヒは朦朧とする頭で目の前を見つめた。

从 ゚―从(私はもっと……)

動かない。どうやっても動けない。

鼻から血の匂いを感じ取り、どうやらこれで終わりのようだと自覚したハインリッヒは、
その目に見えてきたものをすんなりと受け入れていた。

走馬灯なのだろうか?

見えてくるのはジョルジュの顔。ついさっき眺めていた静かな川沿い。木造の質素な家。

ジョルジュ達と生活したマンションの部屋が見える。

ジョルジュが苦い笑顔でチャーハンを食べている姿がそこにはり、その横でギコが悠々とカップラーメンを食べている。
流石兄弟とモナーの姿が見えなかったが、台所から光が見えていから、きっと一緒に料理でもしているのだろう。

ハインリッヒはその情景をなんなく受け入れ、ジョルジュ達から視線を外し、外へと目を向けた。

ベランダから見える青い空。

アメリカや北欧に比べればくすんだ色をしているものの、ここの空はけっこう好きだった。
ジョルジュ達と一緒に見る空はもっと好きだった。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:04:33.36 ID:G5J0Rr2A0
  

と、ふと場面が変わり、本当の青い空が広がっているのを見たハインリッヒは目を細めてそれを見つめた。
そして、最後に見えた淡く光る白い光に心をやった。

それは、どこかで見たことのあるような優しい光。
空からぽつぽつと舞い降り、自分を包みこみ、導こうとしてくれている光。

どうしてこんなものが見えるのだろう?
罪にまみれた自分への、神様の同情なのだろうか?

けど、そんなことはどうでもいいぐらいに綺麗だった。

ずっと、ずっと見ていたいぐらいに綺麗だった。

从 ゚―从(もっと……私は……)

最後の言葉を紡ぎだす前に、ハインリッヒの命の炎は消えた。

離さなかった右手のステアーAUG。

目尻からは水滴が零れ落ち、湿った唇は閉じたまま。

そして左手の形は、まるで何かを握りしめているかのよう。


彼女の目の前には、白い携帯電話がぽつりと落ちていた。





  
47: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:06:17.35 ID:G5J0Rr2A0
  



('A`)「はぁ、はぁ……」

(´・ω・`)「終わ、った……?」

動かなくなった女性。
あまりにも強く、何人もの人たちがこの人に殺されていった。

ドクオは激しく呼吸を繰り返しながら、赤い血を流し地面に倒れこむ女性を見る。

最後まで離さなかった銃と、左手の握りこぶし。顔は無表情のままだった。

ドクオはぺたりと地面に座り込み、死ななかった自分の身体を再確認して、敵を撃った誰かに目を移した。

狐「危なかった……ね」

それは狐だった。

今まで作戦指揮所にいたはずの狐がどうしてここに? と思う暇もなく、「立てるかい?」と声をかけられた。



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:07:44.48 ID:zD7q22Rl0
  

('A`)「は、はい」

狐「休んでる暇はない。早くテントに戻ろう。ここはまだ危ないからね」

(´・ω・`)「け、けど『影』が……」

狐「この辺りの『影』は君達が倒してしまったよ。他のものは……もうすぐ対策がうたれるから大丈夫だ。
  それに……援軍が来たんだ。もう大丈夫。勝敗は決したよ」

('A`)「援軍?」

狐「詳しいことはテントに戻ってからだ。ブーン君達の様子も気になる。早く戻らないと」

とりあえずここは狐に従うことにして、ドクオは歩き出した。
ふと後ろを向き、あの女性が倒れたまま動かないことを確認する。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:10:08.09 ID:zD7q22Rl0
  

彼女は……死んだ。
自分達を殺そうとしてきたのだから、殺さなければならないというのは理解している。
だが、ひとつの命がここで消えたという事実は少なからず自分の心に打撃を与えてくる。

今まで動いていた人間が、急に動かなくなるという現象。
しかも、それを目の前に立つ男が行った。

怖いとか悲しいとかじゃない……ただ「儚い」。それだけ。

人の命とはこうも簡単に失われていく。まるで夢のように。
ゲームでもテレビでもない。実際の『戦争』とはドラマチックでもなんでもない。ただ人の命が失われていくだけなのだ。

その現実を目の当たりにして、ドクオは何も言葉を発することができなくなっていた。

(´・ω・`)「……狐さん」

狐「なんだい?」

(´・ω・`)「ありがとうございます。助けてくれて。それに、腕の怪我も……」

狐「……君達を頼む、とブーン君に頼まれていたからね。怪我は大丈夫。かすっただけさ」

肉が裂け、スーツに赤い染みが浮き出ているその身体で、笑みを浮かべる狐。

ドクオは彼を見て、再び思った。

これが『戦争』なんだ、と。





  
53: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:12:32.09 ID:zD7q22Rl0
  



『VIP』とテロリスト達の戦争は、いつまでも続くかと思われた。

だが、ハインリッヒという強力な駒を失い、『影』の数も減らされてしまったテロリスト達。

そんな中、『VIP』の作戦は、ようやく決行された。

それは、数少ない『H.L』を使った切り札的なものだった。

テロリスト達を押さえ込みつつ、『影』をある一定の場所に誘い込み、『H.L』を起爆。そうして『影』を殲滅する。
単純な作戦だったものの、その効果は絶大だった。

ドクオとショボンのおかげで『VIP』兵の負担が少なくなったため、残りの『影』は完全に所定の位置に誘い込まれた。
そこで爆発した『H.L』は、樹海の時とは違って、ほぼ完璧に起爆。
白い光が円球状に広がり、範囲内にいた『影』を全滅させる。

これにより、形勢は逆転した。
『影』の手助けを失ったテロリスト側は、一気に劣勢に立たされた。

元々の実力では『VIP』側に軍配が上がっていたし、武装自体もそれほど強力ではなかったテロリスト達は、徐々に追い込まれていった。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 00:15:41.44 ID:zD7q22Rl0
  



そして、『VIP』側に援軍が現れたことで勝敗は決した。

その援軍は、アメリカや中国、ロシアなど、様々な国の連合軍だった。

国連の安保理にて、『影』への対策を話し合っていた際、
『VIP』が今回の事態をなんとかするために戦っているという情報が舞い込んできたのだ。

『影』対策に追われていた各国首脳は、しかしこの状況を打開できるのならば支援するべきだという結論に達し、
安保理でも超法規的措置が取られることとなった。

そうして、歴史上でも稀にみる各国の連合軍がこの国に送り込まれることとなったのだ。

その軍勢は、それぞれの国の軍の数%ずつ出し合って結成されたものでしかなかったが、『VIP』にとっては強力な援軍だった。

『VIP』と連絡を取り合い、互いに連携することでテロリスト達をさらに追い込む。

これにより、勝負はついに決した。
小競り合いを除けば、その場は『終戦』を迎えたと言ってもいいだろう。





  
2: 閉鎖まであと 9日と 21時間 :2007/01/13(土) 23:06:52.25 ID:zD7q22Rl0
  



冷たい風が吹いている。
プレハブ小屋の屋上にいるため、その風がまともに当たってくる。

『影』と同化してしまったこの身体が冷たさを感じることはないが、
それでもその風に乗ってやってきた気配の消失に寒気を覚えたジョルジュは、顔をしかめた。
  _
( ゚∀゚)「高岡……」

ハインリッヒの気配が消えた。

感覚でしかわからないが、確実に彼女の生きる鼓動は消えてしまった。
目を瞑り、彼女を探そうと思ってもどこにいない。この世界という容器から、彼女1人だけが別の器に移し替えられたかのように。

おそらく彼女は……
  _
( ゚∀゚)「……くそっ」

悪態をつき、空を見上げるものの、完全に彼女の心の鼓動は消えているのを再確認するだけでしかなかった。

彼女を失ったということ。
それはただ単に戦力的に大幅なダウンを強いられるとか、そんな論理的なものではとどまらない。



  
3: 閉鎖まであと 9日と 21時間 :2007/01/13(土) 23:08:02.05 ID:zD7q22Rl0
  

出会ってから今まで、ずっと自分の傍に居てくれたハインリッヒ高岡という人間は、すでにジョルジュの心の奥深くでその位置を占めていた。
傍に人がいるという安心感は筆舌に表しがたいものがある。
戦力を集めるためにラウンジ教に入った時も、彼女はついてきた。
そうしてくれたおかげで色々と助けになってくれた面もあった。

そんな支えを失ったという喪失感。

ジョルジュは胸を押さえ、痛みに耐える。

この痛みは無駄ではない。彼女が死んだことは無駄ではない。

妹の死も、彼女の死も、なんらかの形で報われるのだ。

そうなるために自分はここにいる。



  
4: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:08:54.14 ID:zD7q22Rl0
  

  _
( ゚∀゚)「……まだ、なのか?」

ジョルジュは横で無表情に座っている女性に静かに問いかけた。

車椅子に乗り、無言で目の前をじっと見つめている彼女は、何も答えてくれない。
その頭の中では様々なことが混じりあい、今も「道」を探しているのだろう。
理解もできなければ助けることもできない。

ただ彼女が決めてくれるのを待つだけ。

もう時間も残り少ない。少しすれば『VIP』の軍勢がここに押し寄せてくるだろうし、『人の子』達もやってくる。
そうなれば今回の出来事は全て無駄に終わる。

だけれども、ジョルジュは彼女のことを信じていた。
きっと彼女は自分と一緒の道を選んでくれるはずだと。
様々な犠牲と苦難の上に立つ、この世界の本当の未来を勝ち取るために、彼女は立ち上がってくれるはずだと。

ちゃんとした根拠なんてない。ただ『彼女だから』という単純な思いが信じる心を確かなものにしてくれる。
  _ 
( ゚∀゚)「……」

握りこぶしを作り、彼女が目覚めてくれるのをジョルジュは待った。

この世界の心の鼓動が消えていくのを感じながら。





  
5: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:10:07.84 ID:zD7q22Rl0
  



(=゚ω゚)ノ「はぁ!」

( ´∀`)「モナ!」

右足を踏み出して右手の小太刀で相手を突くと、敵は手の甲でそれを受け流し、逆に蹴りを入れようと足を振りかぶる。
それが腹に当たる直前、ぃょぅは左腕でガードし、受け流された勢いをそのままに、右足を軸に右回転した。
モナーはすぐにバックステップを取ろうとするが、こちらの速さがそれに勝った。

回転しながらの逆袈裟切りが相手に決まり、モナーの腕を軽く切り裂く。

( ´∀`)「くっ」

(=゚ω゚)ノ「まだだょぅ!」

ぃょぅは続いて懐からくないを取り出し、左手でそれを逆手に持った。

(=゚ω゚)ノ「はぁ!」

まずは左肘で肘鉄。

( ´∀`)「ぐふっ!」

腹にまともに入り、モナーは口からつばを吐き飛ばした。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2007/01/13(土) 23:12:00.93 ID:zD7q22Rl0
  

だが、くないで突き刺してやろうとする試みは、モナーがこちらの肘をからめ取り、
肘鉄の衝撃をうまく利用した柔術によって阻まれた。

とたんに地面の感触がなくなり、力強く身体を引っ張られる。
ぃょぅは受け身を取ったが、それも遅く、硬い更地の地面に身体をうちつけられた。

(=゚ω゚)ノ「く……」

( ´∀`)「いつも言っているモナ。無駄な動きが多いと!」

さらに追い討ちをかけられる気配を感じ、ぃょぅは急いで立ち上がって小太刀を構える。
モナーは、『気』をまとって黒光りする手袋と靴のずれを直しながら、無表情でこちらを見た。

( ´∀`)「……ぃょぅでは勝てないモナ」

(=゚ω゚)ノ「馬鹿にするなょぅ!」

右足を踏み出して、再び小太刀による突きを繰り出す。
だが、今度は完璧に見切られ、逆に強烈なローキックを喰らってしまった。

ぎり、という尋常ではない痛みが太ももに広がり、一瞬崩れ落ちそうになるのを、ぃょぅは気合で耐えた。

倒れられないのだ、ここは。
自分がここで負ければ、クーやブーン達に余計な負担をかけてしまうことになる。
ジョルジュとの戦いも控えているであろう今、こちらの戦力を少しでも欠いてはならない。

自分がやるべきことは、少しでも体力を残しつつモナーに勝つこと。



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