( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:07:53.36 ID:zgn2QLwd0
  



狐「今日の未明、ある若者のグループから警察に向けて1本の通報がかかってきた」

会議室に集まったのは、しぃやクー、モナー、ぃょぅといった『VIP』のメンバーだけだった。
政府の人間はすでに自分達の仕事場所に帰っているらしく、緊急の会議だったため今回は欠席なのだとか。
いつもより緊張感が少ない部屋で幸いだ。事態は全然幸いじゃないが。

狐「彼らが言うには、『樹海で黒い変な影を見た!』とのことだった。
  警察から『VIP』に連絡が入り、急遽ぃょぅ君に調査を頼んだんだけど……」

珍しく戸惑った表情の狐がぃょぅへと視線を移す。
それに答えるかのように、視線を受け取った当人は立ち上がった。いつも以上に真剣な顔で。

(=゚ω゚)ノ「……樹海に入った瞬間、めちゃくちゃ怖い感じがしたんだょぅ」

川 ゚ -゚) 「怖い感じ?」

(=゚ω゚)ノ「中に入ると、『影』の気配がしたょぅ。
     で、ちょっと周りを見渡したら……」

ぃょぅの顔色が悪い。お化け屋敷に入ってしまった女子高生のようだ。



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:10:24.69 ID:zgn2QLwd0
  

(=゚ω゚)ノ「……そこら中が『影』で埋め尽くされていたんだょぅ」

川 ゚ -゚) 「そこら中?」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぅ。詳しく調べてみたら、樹海の中を1メートル進むごとに『影』に出会うような感じだったょぅ……
     たぶん、軽く3000体は超えているょぅ」

(;´∀`)「さ、さんぜんたいかモナ!?」

さんぜんたい……
ここ1週間で、自分は100体以上の『影』を倒してきた。それでもけっこう苦労したのだ。
その30倍……?
ありえない。どうして樹海にそんな大量の影が集まるのだろうか?

(=゚ω゚)ノ「『影』はまだまだ増えていると思うょぅ。で、それに反比例するかのように、世界中で『影』の発生数が激減しているんだょぅ」

ぃょぅが座ると同時に、今度はしぃが立ち上がった。
彼女も顔色が悪い。おそらくぃょぅと共に調査に当たっていたのだろう。今にも倒れそうに見える。

(*゚−゚)「ぃょぅさんの言うとおり、樹海に『影』が集中的に集まっているのに反して、世界中で『影』の発見例が少なくなっています。
    この日本の真裏側の国、例えばブラジルなどは、今は夜の時間帯ですが『影』の発見報告はまったく聞いていません。
    それどころか、ここ1週間1度も見たことがないというのです。
    これは全世界的にそうなっているらしく、現在『影』が見られるのは日本だけ。
    それでも、以前の報告通りに夜に『影』を見つけることがなくなっているのを考慮すると……」

狐「考慮すると……?」

(*゚−゚)「……現在、全世界の『影』が、あの樹海に集まっているものと推測できます」



  
40: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:12:59.52 ID:zgn2QLwd0
  

思わず呆けてしまいそうになり、ブーンは気合を入れて事態の理解に努めた。
全世界の『影』が樹海に?
どうして? どんな理由があって『影』が樹海に集まるというのだ?

そんな疑問に答えるかのように、しぃが「原因は不明です」と硬い声で言った。

(*゚−゚)「原因は不明ですが、緊急事態であることは確かです。早急な対処が必要だと思われます。
    あの樹海は観光地でもありますし、もし一般人に被害が出て、『影』の存在が世間に知られたら……」

狐「……大混乱、パニックを起こすだろうね」

重苦しい空気が会議室の中を流れていく。

原因不明の『影』の集中的な発生。
もし、世間に知れ渡れば、さっそくニュースで流れ、警察や政府が対策に追われるだろう。
そして、『影』が以前から街を歩き回り、頭なしの死体や自殺者を多く生み出しているというのは、たぶんすぐにバレることだ。

そうなれば、もう社会はパニックに陥る。
逃げたり、警察や政府を糾弾したり……普通の生活を送ることは不可能となるだろう。
今、世間は犯罪や怖いものに対して非常に敏感になっている。『影』というスパイスがひとつ加わるだけで、パニックを起こすのも必然だ。



  
41: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:15:38.45 ID:zgn2QLwd0
  

けど、

( ^ω^)「けど……これはチャンスじゃないかお?」

川 ゚ -゚) 「チャンス?」

( ^ω^)「そうだお……」

世界中の『影』が樹海に集まっているなら、それら全てをやっつけばこの戦いは終わるのではないか?
そうだ。絶対にそうだ。長く続いたこの生活ともおさらば。普通の日常に戻ることができるはず……

( ^ω^)「樹海にいる『影』を全部やっつけたら、それで全てが解決するんじゃないかお?」

狐「それはそうだけど……危険だ。お薦めしない」

初めて会議で発言したブーン。
煮え切らない狐の態度に、少しだけカチンときた。

( ^ω^)「けど、これが最後のチャンスかもしれないお! ここで終わらせないと、また前みたいにいたちごっこになるだけだお!」

狐「けどね、3000体だよ? どうやってそれほど『影』をやっつけるんだい?
  『VIP』の戦力をもってしてでも不可能だよ。もし殲滅戦を行うにしても、ちゃんと作戦を立ててからにしないと……」

(♯^ω^)「それじゃあ遅いお! ぐずぐずしてたら、チャンスが逃げちゃうお!」

思わず怒鳴ってしまったブーン。
会議室にいた全員が凍りつくのがわかる。けど、止まらない。
これで戦いが終わるなら、という思いに駆られ、口が止まらなくなっていた。



  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:18:17.05 ID:zgn2QLwd0
  

(♯゜ω゜)「力が足りないことはないお! そうだお! みんなで力を合わせればなんとかなるお!
      それに、あのラウンジ教の建物を吹き飛ばした力を使えば、すぐに……!
      そうだお! その力が僕にはあるんだお! だから今すぐ樹海に行くんだお!」

川 ゚ -゚) 「ブーン、落ち着け」

(♯゜ω゜)「落ち着いて考えなきゃいけないのはクーさん達だお!
      今やらなきゃ、いつかやられるんだお! なら、危険でもここは武器をとって、戦わなくちゃいけないんだお!
      武器をもつことを怖がっちゃいけないんだお! 戦うんだお!
      『影』なんて絶滅させなきゃいけないんだお! 邪魔する奴を全部倒して!
      みんなが行かないんなら、僕1人だけでも行くお! みんなを、」

パン!

守るために、と続けようとした瞬間、左の頬に鋭い痛みが走った。
一瞬何が起こったのかわからず、ブーンは呆然とその場に立ち尽くす。

数秒経ってちゃんと前を見ることができて、初めて自分がクーに掌でぶたれたことに気付いた。

険しい顔で目の前に立っているクー。振りぬかれた右手。

川 ゚ -゚) 「落ち着けと言っているだろう! そうやって力ばかりを先行させるな!
     どんな志を持っていようとも、意志の暴走した力は暴力にしかすぎない!
     頭を冷やせ!」

左頬の痛みをじんじんと感じながら、ブーンは周りを見渡してみた。

みんな、複雑そうな顔でこっちを見ている。まるで異星人になった知り合いでも見るかのような目。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:20:43.42 ID:zgn2QLwd0
  

――自分は今、何を言った?

ブーンは自分の言葉を振り返ってみる。

絶滅させる? 戦わなくちゃならない? 邪魔者を全て倒して?


なんだそれ。まるで、戦争好きの将軍みたいな言葉じゃないか。

いったい、いつから自分はそんな言葉を吐くようになったんだ?

( ^ω^)「あ……」

ブーンは自分の言葉を恥じた。
いくら守るためとは言え、これではただの暴力男にすぎない。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:22:38.61 ID:zgn2QLwd0
  



もっと……方法を考えなくちゃいけないんだ。



そうか。そうなんだ。



良い目的だからといって、残虐な方法を取っていいはずがない。方法を考えなくちゃいけないんだ



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:25:05.99 ID:zgn2QLwd0
  

( ´ω`)「……ごめんなさいだお」

狐「いや、その気持ちはよく分かるよ。正直言って、私だって今すぐなんとかしたい。『影』を殲滅させたい。
  けど、今いくのは危険なんだ。それはわかってくれるかい?」

( ´ω`)「はい、ですお」

狐のフォローの言葉が、今となっては心に痛い。

クーは何も言わず席に座り、いつの間にか立ち上がっていた他のメンバーも(きっとひと悶着あると思って準備していたのだろう)、安堵の息をつきながら席に座る。

狐「……今すぐどうにかすることはできない。けど、時間をもらえば、なんとかできるよ」

( ^ω^)「え?」

狐「しぃ君、『あれ』の開発状況は?」

(*゚ー゚)「え? あ、ええと……朝からまだあまり進んでいませんが、サンプルとして4つ、完成しています」

狐「それを使おう。準備を頼むよ」

断言する狐。
それを聞いたしぃとモナーが慌てて立ち上がった。

(*゚ー゚)「そ、それは無茶です! まだ試用段階でもないんですよ?」

( ´∀`)「最悪、暴発する可能性だってあるモナ!」



  
47: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:27:26.92 ID:zgn2QLwd0
  

狐「それをなんとかするんだよ。2、3日後を目処に頼む。
  完成次第、作戦を立てて殲滅戦を決行。いいね?」

(*゚ー゚)「は、はい」
( ´∀`)「わかったモナ……」

何が何やらわからない。『あれ』とはいったいなんのことだ? 開発? サンプル?

狐「ブーン君、君の気持ちは無駄にはしない。いい作戦を立ててみせるよ。
  各自、自分の部署で準備をしておいてくれ!」

(*゚ー゚)・(=゚ω゚)ノ・( ´∀`)・川 ゚ -゚) ・他 「了解」

かっこよく言葉を言い残して、会議は終わったとばかりに立ち去る狐としぃ達。

(*゚ー゚)「やはり圧縮に時間がかかりすぎるのが問題です。それまでの間、本体を守るためのものがやはり必要かと思いますよ」

( ´∀`)「時間の短縮か、守るための何かを作るかモナか。2、3日以内ではけっこうきついモナ」

(=゚ω゚)ノ「とりあえず僕は樹海についてもっと詳しく調査するょぅ」

みんな決意に満ちた表情で部屋を出て行く。
しぃとモナーは少し不安の色をその顔に滲ませているが、それでも「なんとかしなければ」という思いがひしひしと彼らから伝わってくる。
ぃょぅなど、歌を歌いながら意気揚々と部屋を去っていく有様。

いったい、何があったのかブーンには理解できなかった。



  
48: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:30:49.70 ID:zgn2QLwd0
  

川 ゚ -゚) 「ブーン」

唯一出て行かなかったクーが話しかけてくる。
ちょうどいい。彼女に話を聞けばいい。

( ^ω^)「あ、クーさん。これからいったい何が……」

川 ゚ -゚) 「頬、すまなかったな」

クーが手を伸ばして左の頬をさすってくる。
思いがけない感触に、ブーンは「おお!」と驚いて後ずさりしてしまった。

それを見たクーが、不安そうな顔で「ん? 何か変なことでもしたか?」と言った。

( ^ω^)「そ、そんなことはないお。ちょっと驚いただけだお」

川 ゚ -゚) 「そうか、それはよかった。すまなかったな。殴ったりして」

( ^ω^)「え、いや……あれは僕が悪かったんだお。あの時はどうにかしてたんだお」

川 ゚ -゚) 「……いや、戦う人間には付き物な感情だ。私だってそんな頃があった。
      けどな……」

言葉を切り、顔を俯かせるクー。
お叱りの言葉で受けるのか? と思ったブーンは思わず身構えてしまう。

しかし、反対に彼女の声はすごく優しいものだった。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/27(月) 18:36:21.34 ID:zgn2QLwd0
  
川 ゚ -゚) 「私達は戦っていても、戦いたいわけではないんだ。守りたいものがあるから戦っている。君もそうだろう?」

( ^ω^)「はいですお」

川 ゚ -゚) 「戦いが起こるのは仕方のないことだ。恐れてはいけないという、君の言葉も分かる。
      だが、暴走してはいけない。いつも流れる水のように穏やかでいないとな」

( ^ω^)「……はい」

川 ゚ -゚) 「それだけだ。呼び止めてすまないな。それでは、私もやることがあるので、失礼する」

あ、と声をかける前にクーは足早に部屋を立ち去っていった。
結局、『あれ』や『作戦』について詳しく聞くことができなかった。いったい彼らは何をしようというのだろうか?

けど、何かが始まるということだけはわかる。
狐は「時間をくれれば、なんとかしてみせる」と言ってくれた。
ということは、2、3日すれば樹海に集まる『影』を倒すための作戦でも立ててくれるのだろう。

ならば、自分ができることは何か?

( ^ω^)「……寝るかお」

そう、今は彼らに全てを任せるだけ。
自分は準備を怠らず、数日後に決行するであろう「作戦」に備えるだけだ。

これで終わる。これでこの戦いの全てが終結する。
やれることはどんなことでもやってみせる。
みんなを守るために。これ以上誰も傷つかないようにするために。

第19話「流れる水のような心で」 完



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