( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
56: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:52:44.51 ID:feDzEIXR0
  

(´・ω・`)「……怖いかい?」

ショボンの静かな問いかけ。
何を思ってかは知らないが、的確すぎて笑いそうになった。

ドクオは少しだけ無理な笑みを浮かべて答えた。

('A`)「……ちょっとな」

(´・ω・`)「僕もだよ」

即答するショボン。

意外だった。ショボンから「怖い」という台詞を聞くことができるなんて。
彼は自分達の中でも1番冷静沈着で現実派だ。状況判断をすかさず行い、今やるべきことを合理的に判断できる力を持っている。

そのショボンが、怖い? 何かの冗談か?

そう思ったものの、ショボンの車椅子を持つ手が震えていることに気付いたドクオは、それから何も言わなかった。

自分だけが怖いわけじゃない。ショボンだって狐だってしぃだって怖い。陽動部隊の人たちはもっと怖い。
自分がへこたれてどうする。もっとちゃんと正視しなくてはならないのだ。この状況を、自分が今いる場所を、行くべき未来を。

そうだ。
自分たちより、もっと怖い思いをしているのはブーンであることを忘れてはいけないのだ。

だから、見届けなくてはならない。
彼の友達として……1人の男として。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:54:52.01 ID:feDzEIXR0
  

ξ 凵@)ξ「……」

無表情な顔で車椅子に座っているツンを一瞥しながら、ドクオは今一度モニターへと目を移した。
そこには『影』の注意を引いて、誘導を行っている陽動部隊や、怪我人を治している治療班など、戦っている人たちの姿が直で見られる。

自分はこの画面から目を逸らしてならない。見届けなければならない。

『こちら【クール】。ポイントに到着。これより【H.L】の設置を開始する』

無線機から聞こえるクーの声。

『こちら【バッファロー】。自分も到着したモナ。3分で爆破準備を終えるモナ』

自分とショボンの訓練に付き合ってくれたモナーの声。

『こちら【コウモリ】。到着したょぅ。【H.L】重かったょぅ』

おちゃらけたようで、真剣味が隠しきれていないぃょぅの声。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:56:52.86 ID:feDzEIXR0
  

(*゚ー゚)「現時点で3人がポイントに到着。あとは【ピザ】だけです」

不安そうなしぃの声。だが、大丈夫だとドクオは思っていた。

昨日と今日のブーンは今までと全然違っていた。
いじめられていた彼じゃない。
1人の人間として、男として、戦う決意に満ちた顔をしていた。

だから、どんなに遅くても彼は絶対にやり遂げる。それだけの精神力が彼にはあるのだ。

('A`)(……一発ぶちかましてやれ、ブーン)

ドクオは、モニター上のブーンの位置を示す光点が、徐々にポイントに近づいているのを見つめながら、
自分にできることはこれぐらいしかない、と心の中で祈りを捧げていた。





  
66: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:59:03.66 ID:feDzEIXR0
  



『剣状光』の光はますます輝きを増していた。
白い発光体が『影』を切り裂き、黒い霧へと散らせていく。
自分の手の中にあっても、この『剣状光』は現実のもののように思えない。

だが、『影』を消し去っているのは確か。

( `ω´)「はぁ!!」

目の前に立ちはだかっていた『影』を一刀両断し、ブーンはスピードをゆるめずに走り続けていた。

クー達と別れてからすでにもう30分以上は経過している。
中央からポイントまでは4キロほどの距離なので、予定では約20分でたどりつく予定だったが、『影』の予想以上の多さに苦戦して時間を浪費していた。

何しろ30平方キロメートル前後の面積に5000体以上の『影』がいるのだ。
普通に計算しただけでも、50メートル間隔で『影』に出くわすことになる。正直言って、多すぎる。

だが、弱音なんて吐いてられないのも事実。
さっきの通信では、クーとモナー、ぃょぅの3人はもうポイントについたという。
遅れを取るわけにはいかない。彼らに負けないようにしなければ。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:01:10.73 ID:t0QnZp7a0
  

( `ω´)「邪魔だお!」

進路をふさぐ『影』2体を『光弾』で吹き飛ばし、ブーンは足だけを動かし続けた。

ここでやらなければ誰がやる。
自分がこの『H.L』を担ぎ、ポイントまで運んで守るんだ。それが自分のやるべきことであり、やりたいこと。
それを成し遂げるためには、どんなことでもやるしかない。

( ゜ω ゜)「おおおおお!!!」

ブーンはがむしゃらになって走った。『影』なんてものには目もくれず、ただ先だけを目指して走り続ける。
背中が熱い。足も熱い。今ならどこへだっていけそうな気がする。

狐『【ピザ】、そこがポイントだ』

( ^ω^)「え、あ、はい」

そうしているといつの間にかポイントにたどりついていたらしく、狐の慌てた声が耳から聞こえてきた。
ブーンは立ち止まり、辺りを見渡す。『影』はまだ周りにうようよとしている。

『疑似障壁』のおかげで今まで無傷でやってこれたが、これだけの数を相手にするとなると、怪我のひとつやふたつ負いそうだ。



  
75: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:03:40.90 ID:t0QnZp7a0
  

狐『適当な場所を見つけて、【H.L】を地面に固定してくれ』

指示通りに周りを見渡してみると、1本の木の下に良い具合に平坦な場所があるのを見つけた。
草もそれほど生えておらず、なおかつ隣の巨大な木がガードの役目を果たしてくれると思い、
ブーンはその場所にワイヤーやら何やらをロックして、『H.L』を設置した。

狐『設置はしたかい?』

( ^ω^)「はいですお」

狐 『じゃあ、合図をするから、みんな同時に爆破ボタンを押してくれ。すると中で臨界活動が始まる。
   そこから爆発までの時間は不明だけど、なんとか【H.L】を【影】から守ってほしい』

川 ゚ -゚) 『了解』
( ´∀`)『わかったモナ』
(=゚ω゚)ノ『任せるょぅ』
( ^ω^)『わかったお』

狐『じゃあ、いくよ』

ブーンは『H.L』の前にしゃがみこんで、ボタンに手をかける。
これを押せば、後は守るだけ。
爆発の時間まで守りきり、『影』を全て消滅させるというこの作戦の終わりを待つだけ。



  
79: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:05:52.23 ID:t0QnZp7a0
  

狐『3、2』

ブーンは深く息を吸い込んだ。

狐『1、イグニッション!』

ボタンを押すと、『H.L』のデジタル表示に『スタート』の文字が浮かび上がった。

(*゚ー゚)『臨界活動、開始しました。あとは爆発を待つだけです』

これで準備は完了。
この間……『H.L』をなんとしでも死守する!

( ^ω^)「さあ……こいだお!」

ブーンは立ち上がり、周りの大多数の『影』に向かって叫んだ。
もう迷いはない。

右手には『剣状光』、左手には『光弾』、背中には『飛槍光』。

戦いに必要なものはもう揃っている。





  
83: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:08:32.53 ID:t0QnZp7a0
  



陽動部隊はすでに半分が撤退、後の半分も戦線を支えるには不十分な戦力だった。

そのため、『影』をおびき寄せることはほとんど不可能な状態となっており、
北・西・東に集められていた『影』が、樹海の中にいるブーン達に気付くのもそれほど遅くはなかった。

彼らは自分達に危害を及ぼすものに対して、より好戦的な反応を示す。
そういう性質のためなのか、それとも何かの意志があってのことなのか、
『影』は陽動部隊に対しての攻撃をやめて、大方4つに分散していく。

それらが向かう先は、もちろんブーン達のいる爆破ポイント。
いまや、樹下中の『影』がその4つの場所へと向かっていると言っても過言ではない。

大多数の敵との孤独な戦い。

だが、ブーン達が崩れることはなかった。

彼らの強さはもちろんのこと、『疑似障壁』の防御力、今の時間帯は動きが鈍い『影』など、様々な要因が重なってのことだが、
スイッチを押してから10分ほどが経過した後でも、ブーン達の守りが崩されることはなかった。



  
86: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:10:30.96 ID:t0QnZp7a0
  

彼らの体力はもはや尽きようとしているにもかかわらず、『影』を『H.L』に近づけさせることなど一度もなかった。

それは彼らの腰にある『疑似障壁』が切れたあとでも同じことであり、スイッチを押してから15分、20分と経過しても彼らは倒れない。
『影』の攻撃は一撃一撃が強烈であり、ひとつでも綺麗なものをもらうとそれだけで戦闘不能となってしまう。
『疑似障壁』がない今、彼らの身体を守るものは自分の腕ひとつしかない。

だが、彼らはかすり傷を負いはしても、致命傷となるものはひとつも受けていなかった。

彼らの戦いぶりは『VIP』の司令室や、陽動部隊の目から見ても獅子奮迅の活躍だった。

これまでで一番の強さを見せていた。



  
87: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:11:45.60 ID:t0QnZp7a0
  

だが、その活躍と反比例しているのか、『H.L』は一向に爆発の兆候を見せなかった。

それはスイッチを押してから30分を超えても変わらなかった。

『爆発までは早くて10秒、遅くて30分』

というしぃの言葉は軽く跳ね除けられ、35分、40分とただ時間だけが過ぎ去って行く。

これには、狐や陽動部隊の人間も動揺を隠せないでいた。

いくらなんでも遅すぎる。
この作戦に参加していたほとんどの人間がそう思っていた。





  
93: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:14:55.44 ID:t0QnZp7a0
  



( ^ω^)「く、はぁ!」

ブーンは『剣状光』を縦に振り、目前にまで迫っていた『影』の腕を切断し、左手から『光弾』を放って吹き飛ばす。

だが、その後ろにはまた『影』がいた。

ブーンは『光障壁』でその攻撃をふせぎ、右手の剣で攻撃しようとする。
が、その前に横から何かの気配がしてとっさに『光障壁』を発生させる。

( ゜ω ゜)「く、くぅ!」

しかし、その壁は完璧なものではなく、勢いを完全に殺すことはできなかった。
『光障壁』を破られ、『影』の腕が右肩に当たる。
人のパンチを受けた程度の衝撃でしかなかったが、それでもさっきからチクチクと攻撃を受けている身としては辛い。

身体がぎしり、という音を立てる。

( `ω´)「い、いけ!」

瞬間的にイメージを完成させて、ブーンは4つほどの『飛槍光』を射出。

直線軌道を描き、猛スピードで飛んでいくその白い槍。
周りにいた『影』数体は避ける間もなく、その白い槍に貫かれ、消滅した。



  
96: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:16:49.19 ID:t0QnZp7a0
  

そこでようやく一息つくブーン。

ちらりと後ろを振りかえり、いまだ何の反応も示さない『H.L』に視線を注いだ。

( ^ω^)(まだなのかお……!)

もうスイッチを入れてから45分も経っている。
しぃが言っていた『遅くて30分』というのはとうに過ぎ去り、もう『H.L』の周りに張っていた『疑似障壁』も消滅。
いまや、自分の腕だけで『H.L』を守らなくてはならない状況。なのに、何一つ爆発の兆候を見せない『H.L』。

汗をぬぐい、目の前の敵に集中したブーンだが、耳から聞こえてくる無線の声を無視することはできなかった。



  
101: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:19:08.46 ID:t0QnZp7a0
  

狐 『どういうことだ! まだ爆発しないのか……!』

(*゚ー゚)『モニター状況を見ても、爆破にはもう十分な圧縮率となっています。原因は不明です!』

川 ゚ -゚) 『こちら【クール】! 【H.L】に異常は見られないのか!?』

(*゚ー゚)『異常はありません! けど、どういうわけか爆発にはつながらない……どうして?』

狐、しぃ、クーの悲鳴にも近い声を聞きつつ、ブーンは『光弾』を発生させる。
『影』が2,3体まとめて吹き飛ぶが、それでもまだまだ後ろに『影』が控えている。
また、後ろにも気配が何個かする。挟み撃ちにあえば危険だ。

( ^ω^)「みんな無事なのかお!?」

ブーンは『飛槍光』のイメージを進めながら、無線機に声を吹き込んだ。

川 ゚ -゚) 『こちらはまだ大丈夫だ! だが、長くはもたん!』

(=゚ω゚)ノ『こちら【コウモリ】! そろそろ限界が近いょぅ! 2つ目の【疑似障壁】を使わないとやられるょぅ!』

狐『もう少しこらえてくれ……頼む!』

狐の深刻な声が聞こえて、ブーンはくそっ、と声を漏らした。

いくらクー達でも、これほど大量の『影』と、これほど長く戦った経験なんてないはず。
自分にしてもそうだ。体力の消耗具合が激しく、足がなかなか言うことを聞かなくなってきた。
『光弾』や『飛槍光』を使う分には問題ないが、接近戦は避けざるをえない。
こちらに近づく前に敵を倒さなければ、移動もできないままに攻撃を受け続けることとなる。



  
104: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:21:42.19 ID:t0QnZp7a0
  

( ^ω^)(どうしてだお、どうして『H.L』は……)

『H.L』は自分の光を使った兵器のはず。
今まで、自分の心が望めば、白い光はいつも応えてくれた。『剣状光』も『光障壁』もその産物。
ならば、『H.L』だって爆発してくれるはずなのに……

いったい、何がダメなんだ?

狐『各自状況を!』

川 ゚ -゚) 『まだ【H.L】は無事だが、もたない! どういうことだ!?』
(=゚ω゚)ノ『こっちもだょぅ!』

( ^ω^)「もう40分以上経過してるお……何がどうなってるんだお!」

ブーンは通信機に声を吹き込みながら、『H.L』へと飛びかかろうとする『影』に『光弾』を放つ。
すでに『H.L』の周りの『疑似障壁』も消失しており、一撃でも喰らえば切り札をなくしてしまう状況。

きついなんてレベルじゃない。絶体絶命だ。

川 ゚ -゚) 『モナー! どうした!? モナー!』

(*゚ー゚)『も、モナーさんの発信機の反応が……』

狐 『消えた……?』

通信機からそんな声が聞こえてきて、ブーンは、はたと戦う手を止めた。



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