( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
109: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:23:55.56 ID:t0QnZp7a0
  

そういえば、先ほどからモナーからの連絡がない。
まさか……モナーが?

彼が、やられた?

その瞬間、後ろの『H.L』から、ブー! ブー!というすさまじい警告音が鳴り響いた。
防犯ブザーが連続して鳴っているようなすさまじい爆音に注意を引かれ、一瞬目の前の『影』への集中力を切らせてしまう。

( ^ω^)(な、なんだお? って、そんなこと考えてる暇は!)

すぐに自分を取り戻し、『剣状光』を横に一閃して『影』を切るブーン。

同時に『光弾』を全周囲に出して、敵を退けさせつつ、後ろの『H.L』へと近寄る。

( ゜ω ゜)「こ、これは……」

そのデジタル表示を見て、ブーンは目を見開いた。

『ERROR』

その文字は、白い『H.L』の表面に赤く浮かび上がっていた。

無常なまでに鳴り響く警告音。
そして、赤い文字。

それは、これまでの希望や夢を全て消し去るような、残酷な意味をもった文字だった。





  
113: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:26:08.62 ID:t0QnZp7a0
  



『VIP』のビル。
現在、ここでは殲滅戦の決行に伴い、様々な部署が忙しく走り回っていた。
警察との連絡役、実働部隊と補給部隊との中継役、周辺への情報操作やマスコミへの対応などなど……
今回の作戦を円滑に進めようと、みんなが奮起し、働きまわっていた。

司令室では狐達があわただしく指示を飛ばし、
通信室では今も文句を垂れ流してくる警察の高官への対応に追われ、
地下では陽動部隊への援軍が今か今かと出動の指令を待っていた。

そんな喧騒とは対照的に、ひとつだけ一際静かな場所があった。

特別治療区域。

ここに勤めるスタッフは、今は樹海の陽動部隊の治療班として出動しており、最低限、患者の世話を見る人員以外はほとんど出払っていた

そのため、いつものように医者が廊下を歩き回ることもなく、
骨折や怪我などで入院している患者も部屋の中でじっと、今回の作戦の成否の情報を待ちわびているだけだった。



  
116: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:28:11.35 ID:t0QnZp7a0
  

だから、なのだろう。
あるひとつの部屋の患者がいないことには、誰も気付かなかった。

その部屋は、子供のようにぬいぐるみやファンシーなグッズで囲まれながらも、どこか寂しさを覚えるような部屋。
精神病の患者対策として、ベッドに固定用のテープが備えられている、特別治療区域の中でも異彩を放つ場所。

その部屋の主は、今どこにいるのか、誰も知る者はなかった。

当たり前だろう。その患者は車椅子に乗っているから、1人でどこかに行くことなんて不可能と思われていたからだ。

だが、『彼女』にとって自分ひとりで移動することなど、何も難しくはなかった。
車椅子で移動することなどたやすいことで、上に行くのだってエレベーターを使えばいいだけのこと。
それに、少しだけなら歩くこともできる。無理をすれば階段だって昇れるのだ。

そう、いつだって彼女はどこにでも行くことができた。
何だって見ることができたし、どんな音も聞くことができた。



  
118: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:30:11.16 ID:t0QnZp7a0
  

(*゚∀゚)「……」

彼女は今、ビルの屋上で空を眺めていた。
車椅子に乗り、顔を上にあげて、すっかり白けてきた空を見つめていた。
西の方では薄い満月が見え、東では明るい太陽が輝かしい光を放っている。

夜と朝の境目。
昼と夜の境目よりも静謐な雰囲気を醸し出し、見る人は少ないであろう灰色から白への転換点。

その空の下で、つーはただ微笑みながら空を見上げる。
何も言葉も発せず、動きもせず、空を見上げ続けている。

それは何かを感じているかのようであり、何かを悟っているかのようでもあった。

(*゚∀゚)「……?」

白から青に変わりつつある空に、何かが浮かんでいることを見つけるつー。
最初は鉛筆でキャンパスにひとつの点を打ったかのような小さなものだったが、こちらに近づいてくるにつれて大きくなっていく。

黒い、何かの物体。
3メートルはあろうかというそれが、流れるかのように空を飛んでいる。



  
121: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:33:00.48 ID:t0QnZp7a0
  

(*゚∀゚)「……」

つーはそれを見つめ続けた。
恐怖も焦りもない。微笑みをそれに向けていた。

黒い物体は猛スピードでこちらへと近づいてきて、屋上の上で静止する。
そして何分間かじっとしたまま動かない。黒い小さな雲が屋上の上にあるようでもあった。

つーは目を見開き、そして口を大きく開いた。

最上級の笑顔。今まで、『彼』にしか見せなかった親密感の溢れる顔。
喜びと憧れが入り混じった、『彼』に向けた笑顔。

(*゚∀゚)「お迎ぇ〜?」

つーがそう呟いた瞬間、黒い物体は屋上へと降り立ち、彼女の体を包み込む。
何の抵抗もせず、されるがままになっているつーは、笑顔を浮かべながらきゃっきゃっと笑っていた。

見る人が見れば、きっと黒い物体に襲われていると思うであろう。
だが、彼女の顔には恐怖など微塵も浮かんでいない。ただ笑顔だけが彼女の顔にある。



  
124: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:34:08.97 ID:t0QnZp7a0
  





そして、彼女の身体を完全に包み込んだ黒い影は、再び空を飛び、どこかへと飛んでいった。




屋上には、彼女の痕跡などひとつも残っていなかった。







  
126: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:36:14.19 ID:t0QnZp7a0
  



『H.L』に浮かび上がる「ERROR」の赤い文字。
警告音が鳴り響く中、それはこの作戦に参加しているものにとっての死の宣告だった。

(*゚ー゚)『【H.L】内の内部気圧が急低下! 圧縮率が急激に下がっていきます! 1000%から、500、400、300、200……』

狐 『なぜだ……内部構造に欠陥はなかったはずなのに!』

(*゚ー゚)『このままでは圧縮が保てません!』

しぃの叫ぶような声と共に、『H.L』から白い光が漏れ出した。
爆発こそしなかったものの、その光は『H.L』の表面の隙間から次々と漏れ出していく。
まるで車からガソリンが漏れているかのようであり、それはつまり、この兵器がもう使い物にならないことを示していた。

シュー、という空気の抜ける音と共に、『H.L』のERROR表示すら消えてしまい、完全に沈黙。

それはこの作戦の失敗を意味していた。

(*゚−゚)『え、【H.L】、完全に無力化。内容量ゼロ』

狐『なんてことだ……!』

呆然としていたブーンだったが、後ろに気配を感じて、振り返る。
すると、大量の『影』が自分を囲うようにして立っていることに気が付いた。

モナーの音信不通、『H.L』の無力化に気を取られている内に、
陽動部隊におびき寄せられていた『影』達が森の中に帰ってきたようだった。



  
129: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:38:18.99 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンはじりと土を踏みしめた。
『影』はこちらを囲うだけで、襲ってくる気配がない。いや、タイミングを計っているのだろうか? 一斉に攻撃をしかけてくるタイミングを。

ブーンは手の『剣状光』を握り、『光弾』を出す準備をする。

前にも後ろにも横にも敵がいるこの状況。
『飛槍光』を出すためのイメージを行うには時間が足りず、ここは自力でなんとか切り抜けるしかない。

狐 『作戦中止! 各自、2つ目の【疑似障壁】を展開して、森から脱出するんだ!』

( ^ω^)「ダメだお……モナーさんを助けに行くんだお」

狐『だが、彼はもう……』

( ^ω^)「仲間なんだお。助けにいかないと……」

ブーンはまだ『影』が襲ってこないことを確認しつつ、ぼそぼそと言った。
通信機越しからでも、狐達が動揺しているのがわかる。当たり前だろう。

自分だって、この状況でモナーを助けに行くことがどれだけ危険かは理解している。
5000体の『影』が一斉に自分達を襲ってくる……どれだけ戦おうとも、かないっこないだろう。

だが、モナーは仲間だ。自分の守りたいものだ。
これ以上、誰だって死なせはしない。守りたいと思ったものは全部守ってみせる。

だから、行かなくてはならない。自分の心がそれを望んでいるのだ。



  
131: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:40:24.04 ID:t0QnZp7a0
  

川 ゚ -゚) 『ブーンに賛成だ』

クーの、冷静ながらも、裏に熱さを兼ね備えた声が聞こえる。

川 ゚ -゚) 『2つ目の【疑似障壁】を使えば、なんとかなるはずだ。4人揃えば、ある程度の数の【影】には対抗できるはず。
     私達を信じてくれ、所長』

狐『しかし……』

(=゚ω゚)ノ『たとえ反対しても、僕だけでも行くょぅ! モナーは……絶対に生きてるょぅ!』

ぃょぅの声がいつもよりも真剣だった。
同僚のピンチにいてもたってもいられないのだろうか?
普段の合理的なぃょぅの言葉とは思えなかったものの、それが変だとは思わなかった。

みんな、守りたいものを守るために戦っている。
だから、モナーを助けに行くんだ。

狐 『わかった……けど、タイムリミットは15分だ。モナー君のいる地点にヘリを送るから、15分経ったらちゃんと脱出するんだよ!』

( ^ω^)・川 ゚ -゚) ・(=゚ω゚)ノ「了解!」

助けに行く。きっと彼は生きているはず。



  
133: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:42:27.45 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンは左手をあげて、手の平に意識を集中させる。
そしてそれを上に向け、「はぁ!」と気合の声を出した。

手の平から巨大な『光弾』が発生する。
それはしばらく宙を漂っていたかと思うと、急に分裂を始める。
巨大なひとつの弾から、何個もの小さな『光弾』に。

分裂した『光弾』は、雨のように『影』の下へと降り注がれていく。
そうしてブーンの周り360度に存在していた『影』を、あまねく消し去っていった。

その技は、クーとの訓練の中で思いついたもの。

( `ω´)「邪魔をするなら、誰でも消し去ってやるお!」

ブーンは、周りにいた『影』がかなり減ったことを確認し、モナーのいる南東のポイントへと走り出した。

道はかなり険しい。『影』がうようよといる上に、モナーの地点までは5キロ程度の距離がある。
これまでの疲労具合から考えて、正直身体はもう限界に近いと言っていい。

だが、それでも行かなくてはならない。身体のことなんて気にしていられない。
クーとぃょぅも行くんだから、自分が行かなくてどうする?



  
135: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:44:07.69 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンは『影』を倒しながら走り続けた。

不思議と、疲労感はだんだんと薄れていくように感じた。

ふと足を見たら、自分で出した光が自分の身体を包んでいる。それが疲労感を取ってくれているように思えた。

もしかしたら、しぃのように回復にも使えるのだろうか? この光は?
ならば好都合。これなら、望めばどこまでだって走れる。

5分、10分、15分とブーンは走り続ける。

川 ゚ -゚) 『こちらはもうすぐポイントにつくぞ。ブーン、どうだ?』

( ^ω^)「大丈夫だお! 僕ももうすぐ着くお!」

(=゚ω゚)ノ『身体は大丈夫かょぅ?』

( ^ω^)「元気もりもりだお! 今ならどこまでだって走ってやるお!」

その言葉に嘘はない。
自分が望めば、どこまでだって、どこへだって行ける。
光はその力を与えてくれるのだ。



  
138: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:46:36.32 ID:t0QnZp7a0
  

ポイントに近づくにつれて、ブーンはあることに気が着いた。
これまでずっと自分の邪魔をしてきた『影』が少なくなってきたのだ。
モナーのいるポイントに近づけば近づくほど、その数は減ってくる。

ブーンはふと立ち止まって、辺りを見回した。
『影』の気配がまったくない。それどころか、生物の気配そのものが感じられない。
風が木を揺らす音ぐらいしか聞こえず、静寂そのものだった。

どうしてここだけ、こんなにも静かなんだ?

疑問に思いつつ、ポイントに向かって歩き出すと、後ろから「ブーン!」という声が聞こえた。

川 ゚ -゚) 「よかった、無事だったか」

( ^ω^)「クーさん……」

(=゚ω゚)ノ「僕もいるょぅ!」

クーとぃょぅが一緒になって近づいてくる。
どうやら2人とも、自分より先にこのポイントにたどりついていたらしい。

2人もまた、この場所の異様な雰囲気に疑問を覚えているのか、周りにキョロキョロと視線を動かしながら歩いている。



  
140: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:48:09.81 ID:t0QnZp7a0
  

川 ゚ -゚) 「この場所……何か変だ。静かすぎる」

(=゚ω゚)ノ「『影』の気配がまったくしないょぅ。どうしてここだけ……もしかして、『H.L』が爆発したのかょぅ?」

川 ゚ -゚) 「それはないはずだ。それなら、所長が連絡のひとつでもよこしてくれるはず。
      ん? そういえばさっきから所長からの通信がないな……」

クーが通信機に「所長、こちらはすでにポイントに到着しましたが」と吹き込む。

だが、返事がない。ザーという砂嵐の音だけが聞こえる。

川 ゚ -゚) 「……所長?」

(=゚ω゚)ノ「……通信不能だょぅ。これは、たぶんジャミングを受けてるょぅ」

( ^ω^)「ジャミング? それって前にも……」

以前にも通信のジャミングを受けた記憶がある。
あの時は確か、ジャミングを受けながらも廃工場に向かい、謎の銃撃を受けつつ、変な兄弟と戦った覚えが……

まさか、とブーンは思った。

まさか、彼らがここに?



  
142: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:49:53.53 ID:t0QnZp7a0
  

「よう、こんな所で奇遇だな」

その声が聞こえた瞬間、隣のクーがビクリと身体を震わせた。
そしてブーンもまた、この声に聞き覚えがあり、まさかという言葉が頭の中に溢れていった。

恐る恐る後ろを振り向くと、そこには。
  _
( ゚∀゚)「久しぶり、だな。お前達とは」

ジョルジュが、いた。

そしてその横には、

( ,,゚Д゚) ・从 ゚―从・( ´_ゝ`)(´<_` )「……」

ギコ、ハインリッヒ、流石兄弟と、

( ´∀`)「……」

バラバラになった『H.L』を足元に置いた、モナーが立っていた。


第21話 「殲滅戦」 完



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