( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
3: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:00:03.85 ID:feDzEIXR0
  
第21話

12月25日、朝。
太陽が地平線から姿を現し、地上を照らし始めていた。
長い夜を切り裂いて、光の粒子を空気中にばら撒く太陽。
その光はどんな場所にでも、どんなものにでも平等に降り注ぎ、平等に暖かさを与えていく。

そんな時間、樹海ではまだ薄暗さが残りつつも、徐々に森に明るみが帯びてきていた。
冬の今は、それほど葉も茂っておらず、所々が枯れているものも多い。
だが、それでも『樹海』と呼ぶのにふさわしいほどの木々がそこにはある。

様々な種類の木が混在する原始林。地上に降り注ぐはずの光を遮り、昼であっても薄暗さを保つその地。
誰もが入るのを嫌い、俗説ではあるものの「入れば脱出できない森」と言われるだけの不気味さを持っている。



  
5: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:01:52.37 ID:feDzEIXR0
  

だが、その中に人の姿はなかった。
観光地でもあるその場所では、休日ともなれば観光客がちらほらと見られるが、今は静けさが森の中を支配していた。

「不発弾処理のため」という名目上の理由により、警察が樹海の全て封鎖してしまったからだ。
今となっては森は静寂に包まれ、鳥や爬虫類などの動物程度しか生き物は見られない。

だが、もしそこに人が入れば、まず見えるのは何か?
生い茂る木々? それとも腐葉土と化した地面?

いやそんなものよりも、はっきりと見え、はっきりと見えないものがある。

『影』。

漆黒の身体と、目も鼻も口も持たないその姿は、しかし誰にもその存在を悟られることなく、樹海の中を歩き回っていた。
『影』は深夜に活動が活発になり、昼にはあまり姿を現さないのが普通。
そのため、夜と昼の間である朝は、『影』の活動が鈍りつつも姿を消すことがないという時間帯だった。



  
7: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:03:46.16 ID:feDzEIXR0
  

幾分か動きがノロくなりつつも、『影』は変わらず樹海を歩き回っている。
5000体を超えるであろう大量の『影』が。

だが、そのことを知っている人物はごく少数でしかない。
周辺の住民はもちろんこと、警察官でさえ、この樹海で何が起こり、これから何が起ころうとしているのか知っている者はいない。
「不発弾の処理」というのが嘘であることを知っているのは、ごく一部の警察官僚と、『影』を倒す者達だけ。

そして、その『影』を倒す者達は今、樹海の入り口で全ての準備を終えていた。

『殲滅戦』

それが今から、始まる。





  
9: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:05:51.67 ID:feDzEIXR0
  



(*゚ー゚)『【H.L】、光の圧縮を開始します。光を注入してください』

通信機から聞こえるしぃの声を合図と共に、手の平から出る光を注ぎこむと、『Heaven’s Light』――『H.L』から空気が抜けるような排気音が弾ける。
デジタル表示の部分には「圧縮中 5%」という表示が浮かび上がった。

(*゚ー゚)『15分ほど注ぎ続けてください。圧縮が完了したら、また連絡します』

狐『じゃあ、君達、改めて作戦を説明するよ』

続いて聞こえてきた狐の声に、ブーンは注入を続けながら、身を固くして目の前の森へと視線を移した。

ブーン、クー、ぃょぅ、モナーの4人は、現在樹海の南の入り口の前に立っていた。
目の前には『A樹海』という看板が立ち、何やらこの場所の説明をしている立て板もある。
おそらく観光にやってきた人はここから入り、中を散策するようになっているのだろうが、自分達の目的は観光ではない。

だが、数え切れないほどの木が立ち並び、そのひとつひとつが奇妙な形をしているこの樹海に目を奪われずにはいられなかった。

都会に住んでいると、これほどの木々に囲まれることなんてまずない。
ここが本当に自分達の住んでいる国なのか? と思えるぐらいにここには雄大な自然が広がっている。



  
10: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:07:58.65 ID:feDzEIXR0
  

狐『まず、北と東、西の3方向から陽動をかける。
 【VIP】の兵士が何人か突撃・退却を繰り返すことで、【影】をなるべく君達の側から遠ざけておく』

狐の真剣味の帯びた声を聞くのは、これで何度目だろうか?
どうにも慣れない感じがするが、それだけ彼も本気なのだろうということは分かる。

狐『陽動が済めば、君達は圧縮の完了した【H.L】をひとつずつ持って、樹海の中へと入ることとなる。
  まずは4人一塊になって進み、襲ってくる【影】を撃退しつつ、樹海の中央へと向かってほしい』

ブーンは頭の中で地図を思い浮かべて、狐の言うルートをイメージでたどってみる。
南から突入して、4人一緒に樹海の中央へと向かう。うん、大丈夫だ。

狐『そして、中央へとたどりついたら、その時点で今日の朝に渡された2個の四角い装置の内、1つ目の装置のボタンを押す。
  それを押すと、君達ひとりひとりの周りにブーン君の【光障壁】と同じものが、短時間だけど発生させることができる。【疑似障壁】という代物だ。
  これである程度【影】の攻撃を防ぐことができる。
  ただし注意してほしいのは、ストックしておいたブーン君の光がなくなれば【擬似障壁】は消滅してしまう。時間には注意してくれ』

ブーンはみんなの腰にある、文庫本サイズぐらいの四角い白い装置を目を移した。
あそこに自分の光を溜めてスイッチを押すと、弱いながらも『光障壁』を発生させることができるらしい。
開発したのはしぃだと聞いたが、すごいとしか言いようがない。研究所出身というだけのことはあるのだろう。
十数個しか作れなかったというのが残念だが。



  
12: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:10:23.61 ID:feDzEIXR0
  

狐 『【疑似障壁】発生後、君達は4つに分散して、各自のポイントへ向かってほしい。
   ブーン君は北西、クー君は北東、ぃょぅ君は南西、モナー君は南東だよ』

頭の中の地図でイメージしてみる。
樹海の地図の上に正方形を描き、その中央に4人が集まっている。
そこから、各頂点へと向かう自分達……よし、大丈夫だ。

狐 『ポイントに向かう間も、おそらく【影】の襲撃を受けるだろうけど、ほとんどは無視してもらっていい。【疑似障壁】もあるしね。
   で、ポイントについた後、各自タイミングを合わせて起爆スイッチを押す。本番はここからだ』

ブーンは、いまも光の圧縮を続けている『H.L』をチラリと見てみた。
起爆スイッチは円筒の上面に位置している。ここを3秒間押せば、スイッチが入ったことになるらしい。

狐 『しぃ君の調べでは、スイッチを押してから爆発するまでには最短で10秒、最長で30分かかる。
   君達には、爆発するまでの間、【H.L】を守ってもらう。
   その頃になるとひとつ目の【疑似障壁】も切れかかってきているだろうから、自分の実力で守り抜いてもらうしかない。
   もちろん、【H.L】にも【擬似障壁】は張っているけど、それも10分程度の代物だ。
   安心はせず、なんとかして守ってもらいたい』



  
14: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:12:45.50 ID:feDzEIXR0
  

無茶な作戦と言えるだろう。
5000体の『影』がうごめく中で、たったひとつの兵器を守るために最長30分も戦わなくてはならない。
前も横も後ろも『影』の中で、どうやって戦えというのか?

だが、やるしかないのも現実。
いざとなったら、自分の力の全てを使い尽くしてでも、『H.L』を守り抜くしかない。

狐 『そうして守り抜き、【H.L】が爆発する際だが、この時に2つ目の【疑似障壁】を発生させてもらう。
   【H.L】の爆発は人間や周りのものには影響を与えないと言うが、そうではないとも言い切れない。
   だから、【疑似障壁】でその爆発をしのいでもらいたい。もちろん、爆発の際にはなるべく【H.L】から離れて、ね』

それはたぶん大丈夫だと、ブーンは思っていた。
『H.L』の爆発は、きっと『影』にしか影響が及ばないはず。
だって、ラウンジ教を吹き飛ばした時だって、大事な人であるツンやクーを吹き飛ばすことはなかった。
それと同じで、クーやぃょぅ、モナーといった大事な人を、光の影響を受けるはずがない。



  
16: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:15:13.97 ID:feDzEIXR0
  

狐 『時間差はあるだろうけど、全ての【H.L】が爆発すれば、【影】のほとんどを殲滅できる。
   もし、爆発の時間差で逃れることができた【影】があっても、それは微量だ。君達が力を合わせれば、すぐに殲滅できるはず。
   これが私達の考えうる、安全かつ最短時間で行える作戦だ。
   そろそろ圧縮が完了するはずだけど……』

(*゚ー゚)『はい。あと3分で圧縮が完了します』

狐『そうか。じゃあ、君達、用意して』

その声と同時に、みんなが立ち上がった。

川 ゚ -゚) 「よし……」

左の腰に刀が2振り、右の腰に『疑似障壁』の装置と拳銃を携えたクーが、ひとつ大きな息を吐いて、気合を入れる。

(=゚ω゚)ノ「準備……OKだょぅ」

ぃょぅの武器は短刀らしく、腰には小太刀が1振り、服の中にはくないが何十本と忍ばせているらしい。
いざとなって、小枝でもOKだとか。

( ´∀`)「今日は調子がいいモナ」

一方のモナーは武器ではなく、徒手格闘が主らしい。
彼の『気』に相性がよかったのはグローブと靴らしく、その周りに『気』を発生させて、格闘戦で『影』を倒す。
武器を使わないのは珍しいタイプだとか。



  
18: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:17:29.36 ID:feDzEIXR0
  

( ^ω^)「……うん、大丈夫だお」

そしてブーン自身も、まだ光を『H.L』に注ぎこみながらも、準備が万端であることを確認した。
手には何も持たず、腰には『疑似障壁』の装置(必要ないかもだが)。
武器は何も持たないが、自分の武器は自分自身なのだ。
手の平から湧き出る白い光を見つめながら、ブーンは「よし!」と気合を入れた。

狐 『準備はいいみたいだね……ああ、ブーン君、君に話しておかないといけないことがある』

( ^ω^)「なんだお?」

狐 『彼らだよ』

('A`)『おー、ブーン。大丈夫か? 緊張してないか?』
(´・ω・`)『緊張したら、手の平に【男】と書いて飲み込むんだよ』

( ^ω^)「ドクオ! ショボン!」

通信機から突如聞こえてきた見知った声に、ブーンは驚いた。
どうして彼らがここに?

('A`)『俺たちじゃねえぜ。ツンもここにいる』
(´・ω・`)『みんなで君の活躍を見ようって決めたんだ。迷惑かな?』

( ^ω^)「そんなことないお……心強いお!」

仲間の声が聞こえるというだけで、自分は強くなれる。
そういう意味もあってなのか、狐のこの計らいには本当に感謝できた。



  
20: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:19:55.20 ID:feDzEIXR0
  

('A`)『がんれよ、ブーン』
(´・ω・`)『一発【影】を掘っちゃいな』

( ^ω^)「ありがとうだお!」

狐『うん、じゃあそろそろ作戦の開始時間だ……用意はいいかい?』

( ^ω^)「はいですお」
川 ゚ -゚) 「いつでもどうぞ」
(=゚ω゚)ノ「いくょぅ!」
( ´∀`)「……OKだモナ」

(*゚ー゚)『圧縮、完了しました。各自ひとつずつ【H.L】を持ってください』

光を注ぐのを止めたブーンは、『H.L』を背中に担ぎ始めたクー達に習い、ひとつを手に持ってみた。
『H.L』には何やら紐のついた土台の上に乗せられており、その紐を肩にかけるとがくん、とその重さが感じられた。
せいぜい2,3キロの重さらしいが、これでもけっこうきつい。自分に筋力がないからだろう、たぶん。

狐 『よし……06:00時、作戦を開始する。陽動開始』

狐の言葉と共に、通信機から『了解』という陽動部隊の返答が聞こえた。





  
21: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:21:50.57 ID:feDzEIXR0
  



陽動部隊の行動は迅速だった。

短機関銃と目くらましのフラッシュグレネードを持ち、身体にはボディアーマーを着込んだ彼らは、まずわざと『影』に対して姿を現す。

陽動部隊の姿を捉えた『影』は、最初は興味のなさそうにそれを見ていたが、
陽動部隊から銃撃をいくつか受け、フラッシュグレネードの光を浴びると、彼らを敵性と認定し、すぐさま襲い掛かっていく。

普段は犯罪者しか襲わない『影』だったが、特定の人物や自分達に敵対する者には躊躇せず襲い掛かっていく性質を持つ。

今回はその性質を逆手に取り、わざと攻撃を浴びせることで『影』をおびき寄せる作戦だ。

『影』に襲われた陽動部隊だったが、彼らは1人が襲われるともう1人が攻撃して注意を自分に向け、そちらが襲われれば今度はまた別の1人が攻撃するという戦法を繰り返す。
そうしながらだんだんと後退することで、中央から北、西、東の一端へと『影』をおびき寄せ、南をがら空きにさせることが目的だ。

その甲斐もあってか、この作戦において重要な南区域の『影』の数はだんだんと減ってきていた。

だが、それでも『影』がその区域から消えたわけでもない。人を殺すには十分すぎるほどの数の『影』が、うじゃうじゃといるのだ。
それに、陽動にも限界がある。『影』を倒すことのできない陽動部隊では、せいぜいおびき寄せる程度しかできない。
限界が来れば彼らは退却せざるをえず、後は何度か陽動を繰り返して「彼ら」に任せるしかなかったのだ。

そう。唯一『影』を倒すことのできる能力の持ち主である「彼ら」に。





  
23: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:24:34.22 ID:feDzEIXR0
  


(*゚ー゚)『時間です。南側から突入してください』

狐『健闘を祈るよ』

川 ゚ -゚) 「よし、行くぞ!」

クーの掛け声と共に、ブーン達は一斉に走り出した。

樹海の森はかなり深い。
足場はちゃんとしておらず、足元に注意していないとすぐにこけてしまいそうになる。
最初は遊歩道らしき場所を走っていく。
どうやら観光に使われているもののようで、石や木の枝に目を瞑れば平たんな道のりだった。

朝独特の冷気が顔にぶつかり、寒さで凍えそうになりつつも、ブーンは走った。

周りの景色はどんどんと入れ替わっていく。木から木へ、石から石へ、草から草へ。
場所が変わりながらも変化のないその道のりは、思った以上に険しかった。



  
24: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:26:27.81 ID:feDzEIXR0
  

( ´∀`)「2時の方向に『影』だモナ!」

(=゚ω゚)ノ「任せるょぅ!」

木々の間にさっそく現れた『影』に対し、ぃょぅが懐からくないを取り出す。

(=゚ω゚)ノ「ふもっふ!」

走りながら小さく腕を振ってくないを投げるぃょぅ。
木々の間を器用に通り抜け、それは『影』に当たる。

消滅こそしなかったものの、『影』の動きは鈍くなった。

( ´∀`)「10時の方向にもいるモナ!」

(=゚ω゚)ノ「セカンドレイド!」

奇妙な掛け声と共に、くないがもう一方の『影』にも放たれ、それは見事足らしき部分へと当たる。
そうして動きの鈍くなった2体の『影』の横を、クー、自分、ぃょぅ、モナーの順で駆けていく。



  
27: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:28:43.27 ID:feDzEIXR0
  
道に大きく盛り上がった木の根を飛び越えると、走ってる道がそろそろ遊歩道から逸れてくる。

この樹海は、1度道を逸れて迷えば、2度と脱出できないという俗説が流れているが、そんなことはない。
確かに、そこら中に穴が空いてて道は不確かだし、どこまで行っても木ばかりなので方向感覚も狂うが、
方位磁石はちゃんと働くし、携帯電話も通じる。

ただ、頭上に鬱蒼と茂っている木の枝のせいでGPSは使えない。
だが、それでも、狐たちのナビゲートと自前の地図を使えば十分現在地は確認できる。

狐『そのまままっすぐ進んでくれ。中央まではまだ先だ』

その声と、先頭を走るクーの地図を頼りに、樹海の中央を目指す。

(=゚ω゚)ノ「12時の方向に2体!」

川 ゚ -゚) 「任せろ」

真正面に現れた『影』に対し、速度をあげたクーが腰の刀に手をかけながら一気に近づく。
『影』は上から勢いよく腕を振りおろすが、クーは急速に横にジャンプしてそれを避け、重心を立て直しつつ足に力を入れて『影』に飛び掛る。

川 ゚ -゚) 「っ!」

一気に刀を抜いたクーは、逆袈裟切りで『影』の腕を切り落とし、
そのままの速度を保ちながら返す刀で後ろにいたもう1体の『影』の足を切りつけた。



  
30: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:31:05.67 ID:feDzEIXR0
  

2体の『影』の間に隙ができ、ブーン達は走る足を止めずにその場を通り過ぎる。
クーもまた走り出し、今度は自分達の1番後ろについた。

森は更に深くなっていき、ついには木の葉に隠れた自然の落とし穴−―風穴もちらほらと見当たりはじめた。
これに落ちると怪我をして危ないというだけでなく、時間のロスになる上、『影』に一気に囲まれてしまうことになる。

クーの地図を頼りに、その風穴を飛び越えたり回避したりして、なんとか走る速度を落とさないままにしなければならない。

川 ゚ -゚) 「10歩先、あるぞ!」

( ^ω^)「把握!」

クーの指示通り、9歩進んだ所でジャンプして、落ち葉で隠れて見えなかった穴を飛び越える。
少し振り返ると、ちゃんと後ろの3人もついてきていて、無事にやり過ごせたようだ。

(=゚ω゚)ノ「1時と11時の方向に2体ずつ! ここは僕が!」

( ^ω^)「いや、任せてくださいですお!」

ぃょぅに制止の合図を出したブーン。
正面の4体の『影』を見据えながら、頭の中で何度もイメージを繰り返す。
8本の白い槍が自分から飛び出していき、曲線を描きながら『影』に突き刺さるイメージを。



  
33: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:33:32.10 ID:feDzEIXR0
  

( `ω´)「いけ!」

右手を横にあげると、腕から背中にかけて8本の『飛槍光』が出現した。
それらは自分のイメージどおり、階段状に射出され、複雑な曲線を描きながら『影』へと向かっていく。

『飛槍光』を使う上で1番大事なのはイメージだ。
猛スピードで宙を飛び、敵に突き刺さるまでのイメージを完璧に行わないと、命中させることはおろか発生させることもできない。

つまりは潜水艦の魚雷のようなものだ。
潜水艦の魚雷は敵がどの位置にどれくらいの速度で移動するかを予測し、その予測地点に魚雷を発射する。それに近い。
だが、『飛槍光』がそれと違うのは、たとえ射出した後でも、途中でイメージを変えれば『飛槍光』もそれに応えて軌道を変えてくれることだ。

射出された白い光の槍は、ほぼイメージ通りに飛んでいった。
複雑な軌道を描きながらも、『影』に感知されない猛スピードで飛んでいく。

( `ω´)「っ!!」

4体の『影』の内、3体まではイメージ通りに『飛槍光』が命中した。
しかし、もう1体が予想外にも大きなジャンプをしたために『飛槍光』は外れ、地面に突撃。

上空から自分達の方へと『影』が落ちてくるのを見たブーンは、とっさに『光障壁』を発生させようする。
が、その前に自分の横を通る人影に気付いた。



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:35:53.14 ID:feDzEIXR0
  

( ´∀`)「されるかモナ!」

それはモナーだった。
彼は、落ちてくる『影』にタイミングを合わせて、驚くべき高さでジャンプし、足を振り出す。

( ´∀`)「はぁっ!」

靴が白くぼんやりとした光をまとっているのは、『気』を張っている証拠。
彼の蹴りは見事に命中し、移動方向を縦から横のベクトルに強制変更させられた『影』は近くの木へと吹き飛ばされた。

( ^ω^)「すまないお」

( ´∀`)「気にするなモナ! それより走るんだモナ!」

礼を言っている暇もなく、ブーンはモナーにせかされて走り続ける。
彼の蹴りをくらった1体は木にぶつかったまま動かない。

その隙を見て、ブーンは先頭を切って走っていった。

前を見ると、うっそうとした森が広がる中で複数体の敵がいるのが見える。
しかし、こちらの走るスピードに追いつけるものは少なく、ブーン達は邪魔になる何体かだけに攻撃を加え、あとは全て無視をした。

それからもずっと走り続けた。『影』の邪魔はあまり入らず、スムーズに進んでいると言っていい。

だが、



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:38:06.64 ID:feDzEIXR0
  

狐『陽動部隊が一時撤退した。そちらの状況は?』

その狐の問いにクーが「あと数十分で到着。障壁の展開の用意をします」と答えるのを聞きながら、
ブーンは頭の中で、まだ着かないのだろうか?と思い始めていた。

もうずっと全色力で走り続けている。正直言って、体力の限界が近い。
だが、後ろを走るクー達はスピードを緩めようとはしない上、息切れなんてまったくしていないように見える。

(;^ω^)(み、みんなおかしいお)

こっちはもう足は痛いし、息も切れ始めてきた。
マラソンは得意な方ではないのだ。
いくらクーとの訓練を続けてきたとはいえ、学校マラソン万年学年最下位の自分がこの速度で走るのはきつい。

(;^ω^)「はぁ、はぁ、ひぃ」

(=゚ω゚)ノ「大丈夫かょぅ? あと少しで分岐地点に着くょぅ。頑張るょぅ」

(;^ω^)「わ、わかったお」

ぃょぅに励まされながら、なんとかブーンは走り続ける。
弱音は吐いてられない。まだまだやるべきことはたくさんあるのだ。
作戦を成功させるためにも、ここを全力で走らないといけない。



  
42: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:40:34.97 ID:feDzEIXR0
  

それから数分後、「止まれ!」というクーの声が聞こえて、ブーンは急いで立ち止まった。

そこは、ちょうど木の少ない草むらのような場所だった。視界がよく、もし敵が出てきても対処がしやすい。
敵から見つかりやすいのが難点だが、これだけ『影』がいる中で見つかるも見つからないも関係ない。

( ^ω^)「はぁ、はぁ……」

ブーンは膝に手をついて息を整える。ここまで走りっぱなしだったので、身体はもう悲鳴を上げ続けている。
けれども、逃げる気はない。クー達が心配そうにこちらを見る中、「大丈夫だお」とブーンは答えておいた。

川 ゚ -゚) 「……よし、ここだ。ここから四方に分かれる。それぞれの爆破地点まで『H.L』を守るんだぞ」

狐『ここからが正念場だ。よろしく頼む』

川 ゚ -゚) 「『疑似障壁』、展開」

クーの声を合図に、ブーン達は腰の装置のボタンを押した。
すると、白く濁った透明なドーム状の壁が自分達の周りに発生した。

『疑似障壁』――ブーンの光を人為的にドーム上に展開することで発生する、防御に特化した壁。
銃弾などは防げないが、『影』の攻撃ならある程度まで耐えられるという。いわば『光障壁』の劣化版か。

ブーンは自分の周りに展開されている『疑似障壁』を見て、まるでシャボン玉の中にいるみたいだな、と思った。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:42:59.42 ID:feDzEIXR0
  

ふと、自分が行く方向を見てみる。
自分は北西に行くようだが、そちらは今、北と西に引き寄せられた『影』で一杯になっていることだろう。
他のみんなも同じだ。今から行く場所は『影』で埋め尽くされた危険地帯。
いくら『疑似障壁』があるとはいえ、少しでも油断すれば死んでしまうだろう。

川 ゚ -゚) 「……ここが正念場だ。不退転の意志で望まなければならない」

(=゚ω゚)ノ「……」
( ´∀`)「……」
( ^ω^)「……」

それぞれ顔を見合わせ、視線を交わす4人。
これで終わりなのではない、まだ始まりなのだということを感じさせてくれるこの空気。

川 ゚ -゚) 「所長と同じ言葉になるが……死ぬな、みんな」

(=゚ω゚)ノ・( ´∀`)・( ^ω^)「了解!」

ブーン達は何もためらわず、四方に分散した。

ここからは1人で戦わなくてはならない。
だが、その緊張など微塵も感じなかった。





  
49: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:46:04.12 ID:feDzEIXR0
  



(*゚ー゚)「北側陽動部隊、撤退を確認。人的損害15%。死者は0。
     突入部隊、四方に分散。これより目標地点へと向かうようです」

狐 「予定よりも早いね。いいのか悪いのか……陽動部隊を南からも突入させるんだ。
   ここからは持久戦になる。少しでも彼らの手助けになるように、奮起しないと」

VIPのビル内。
テレビや通信設備、気候や周辺状況、それぞれの部隊の状況など、様々なものを移すモニター郡が揃っているこの部屋。
今ここでは、複数の怒声と怒号、しいの指示や状況説明などが飛び交っていた。

中心となっているのはしぃと狐だが、今回は他にも多数のオペレーターや指揮官がこの部屋にいる。

たぶん陽動部隊の指揮官なのだろう、1人の男が青い顔をしてモニターの前に立っているのを、ドクオは見た。
ついさっき「武器がまったく役に立たないか。ここは退くしかない」と言っているのを聞いたことから推測して、たぶん状況が良くないのだろう。



  
51: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:48:13.37 ID:feDzEIXR0
  

('A`)(すげえな……まるで戦争じゃねえか)

ドクオは、こんな光景をどこかで見たことがあるような気がしていた。

と言っても、それは映画とかテレビの中ででしかない。
自分は戦場にいたことなんてないし、今までこの国に戦争なんて起こらなかったのだから。

だが、今、目の前には戦場が広がっていた。
モニターに移る樹海の状況。そこには『影』と戦っているのであろう銃を持った人間がチラホラと写っている。
映画で見たような兵士の格好だった。

(*゚ー゚)「西側より入電。西側陽動部隊、人的損害30%。死者0、重傷者5です」

狐 「くっ……西は早く撤退だ! 南はまだか!」

('A`)(……)

ドクオは呆然と前だけを見据える。

まるで別世界に来たかのような感覚。
今までとは何もかもが違う緊張感。
綱渡りをしているかのような危機感。

怖い。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:50:35.32 ID:feDzEIXR0
  

「ドクオ?」

('A`)「え、ん? なんだ?」

いきなり呼びかけられて、ドクオはビクリと身を震わせながら横を向く。
そこには、ツンの車椅子の取っ手を持ちながら、いぶかしげな顔つきでこちらを見ているショボンがいた。

(´・ω・`)「なんだはこっちの台詞だよ。さっきから呼んでるのに全然反応しないし……どうかしたのかい?」

('A`)「いや、なんでもない……ちょっと雰囲気が苦手に酔っただけだ」

そう言いながら、ドクオはもう一度モニターへと目を移す。
そこには『影』にやられて頭から血を流している兵士の姿が映し出されていて、慌てて目を逸らす。

見たくはなかった、あんなもの。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:52:44.51 ID:feDzEIXR0
  

(´・ω・`)「……怖いかい?」

ショボンの静かな問いかけ。
何を思ってかは知らないが、的確すぎて笑いそうになった。

ドクオは少しだけ無理な笑みを浮かべて答えた。

('A`)「……ちょっとな」

(´・ω・`)「僕もだよ」

即答するショボン。

意外だった。ショボンから「怖い」という台詞を聞くことができるなんて。
彼は自分達の中でも1番冷静沈着で現実派だ。状況判断をすかさず行い、今やるべきことを合理的に判断できる力を持っている。

そのショボンが、怖い? 何かの冗談か?

そう思ったものの、ショボンの車椅子を持つ手が震えていることに気付いたドクオは、それから何も言わなかった。

自分だけが怖いわけじゃない。ショボンだって狐だってしぃだって怖い。陽動部隊の人たちはもっと怖い。
自分がへこたれてどうする。もっとちゃんと正視しなくてはならないのだ。この状況を、自分が今いる場所を、行くべき未来を。

そうだ。
自分たちより、もっと怖い思いをしているのはブーンであることを忘れてはいけないのだ。

だから、見届けなくてはならない。
彼の友達として……1人の男として。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:54:52.01 ID:feDzEIXR0
  

ξ 凵@)ξ「……」

無表情な顔で車椅子に座っているツンを一瞥しながら、ドクオは今一度モニターへと目を移した。
そこには『影』の注意を引いて、誘導を行っている陽動部隊や、怪我人を治している治療班など、戦っている人たちの姿が直で見られる。

自分はこの画面から目を逸らしてならない。見届けなければならない。

『こちら【クール】。ポイントに到着。これより【H.L】の設置を開始する』

無線機から聞こえるクーの声。

『こちら【バッファロー】。自分も到着したモナ。3分で爆破準備を終えるモナ』

自分とショボンの訓練に付き合ってくれたモナーの声。

『こちら【コウモリ】。到着したょぅ。【H.L】重かったょぅ』

おちゃらけたようで、真剣味が隠しきれていないぃょぅの声。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:56:52.86 ID:feDzEIXR0
  

(*゚ー゚)「現時点で3人がポイントに到着。あとは【ピザ】だけです」

不安そうなしぃの声。だが、大丈夫だとドクオは思っていた。

昨日と今日のブーンは今までと全然違っていた。
いじめられていた彼じゃない。
1人の人間として、男として、戦う決意に満ちた顔をしていた。

だから、どんなに遅くても彼は絶対にやり遂げる。それだけの精神力が彼にはあるのだ。

('A`)(……一発ぶちかましてやれ、ブーン)

ドクオは、モニター上のブーンの位置を示す光点が、徐々にポイントに近づいているのを見つめながら、
自分にできることはこれぐらいしかない、と心の中で祈りを捧げていた。





  
66: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/06(水) 23:59:03.66 ID:feDzEIXR0
  



『剣状光』の光はますます輝きを増していた。
白い発光体が『影』を切り裂き、黒い霧へと散らせていく。
自分の手の中にあっても、この『剣状光』は現実のもののように思えない。

だが、『影』を消し去っているのは確か。

( `ω´)「はぁ!!」

目の前に立ちはだかっていた『影』を一刀両断し、ブーンはスピードをゆるめずに走り続けていた。

クー達と別れてからすでにもう30分以上は経過している。
中央からポイントまでは4キロほどの距離なので、予定では約20分でたどりつく予定だったが、『影』の予想以上の多さに苦戦して時間を浪費していた。

何しろ30平方キロメートル前後の面積に5000体以上の『影』がいるのだ。
普通に計算しただけでも、50メートル間隔で『影』に出くわすことになる。正直言って、多すぎる。

だが、弱音なんて吐いてられないのも事実。
さっきの通信では、クーとモナー、ぃょぅの3人はもうポイントについたという。
遅れを取るわけにはいかない。彼らに負けないようにしなければ。



  
71: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:01:10.73 ID:t0QnZp7a0
  

( `ω´)「邪魔だお!」

進路をふさぐ『影』2体を『光弾』で吹き飛ばし、ブーンは足だけを動かし続けた。

ここでやらなければ誰がやる。
自分がこの『H.L』を担ぎ、ポイントまで運んで守るんだ。それが自分のやるべきことであり、やりたいこと。
それを成し遂げるためには、どんなことでもやるしかない。

( ゜ω ゜)「おおおおお!!!」

ブーンはがむしゃらになって走った。『影』なんてものには目もくれず、ただ先だけを目指して走り続ける。
背中が熱い。足も熱い。今ならどこへだっていけそうな気がする。

狐『【ピザ】、そこがポイントだ』

( ^ω^)「え、あ、はい」

そうしているといつの間にかポイントにたどりついていたらしく、狐の慌てた声が耳から聞こえてきた。
ブーンは立ち止まり、辺りを見渡す。『影』はまだ周りにうようよとしている。

『疑似障壁』のおかげで今まで無傷でやってこれたが、これだけの数を相手にするとなると、怪我のひとつやふたつ負いそうだ。



  
75: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:03:40.90 ID:t0QnZp7a0
  

狐『適当な場所を見つけて、【H.L】を地面に固定してくれ』

指示通りに周りを見渡してみると、1本の木の下に良い具合に平坦な場所があるのを見つけた。
草もそれほど生えておらず、なおかつ隣の巨大な木がガードの役目を果たしてくれると思い、
ブーンはその場所にワイヤーやら何やらをロックして、『H.L』を設置した。

狐『設置はしたかい?』

( ^ω^)「はいですお」

狐 『じゃあ、合図をするから、みんな同時に爆破ボタンを押してくれ。すると中で臨界活動が始まる。
   そこから爆発までの時間は不明だけど、なんとか【H.L】を【影】から守ってほしい』

川 ゚ -゚) 『了解』
( ´∀`)『わかったモナ』
(=゚ω゚)ノ『任せるょぅ』
( ^ω^)『わかったお』

狐『じゃあ、いくよ』

ブーンは『H.L』の前にしゃがみこんで、ボタンに手をかける。
これを押せば、後は守るだけ。
爆発の時間まで守りきり、『影』を全て消滅させるというこの作戦の終わりを待つだけ。



  
79: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:05:52.23 ID:t0QnZp7a0
  

狐『3、2』

ブーンは深く息を吸い込んだ。

狐『1、イグニッション!』

ボタンを押すと、『H.L』のデジタル表示に『スタート』の文字が浮かび上がった。

(*゚ー゚)『臨界活動、開始しました。あとは爆発を待つだけです』

これで準備は完了。
この間……『H.L』をなんとしでも死守する!

( ^ω^)「さあ……こいだお!」

ブーンは立ち上がり、周りの大多数の『影』に向かって叫んだ。
もう迷いはない。

右手には『剣状光』、左手には『光弾』、背中には『飛槍光』。

戦いに必要なものはもう揃っている。





  
83: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:08:32.53 ID:t0QnZp7a0
  



陽動部隊はすでに半分が撤退、後の半分も戦線を支えるには不十分な戦力だった。

そのため、『影』をおびき寄せることはほとんど不可能な状態となっており、
北・西・東に集められていた『影』が、樹海の中にいるブーン達に気付くのもそれほど遅くはなかった。

彼らは自分達に危害を及ぼすものに対して、より好戦的な反応を示す。
そういう性質のためなのか、それとも何かの意志があってのことなのか、
『影』は陽動部隊に対しての攻撃をやめて、大方4つに分散していく。

それらが向かう先は、もちろんブーン達のいる爆破ポイント。
いまや、樹下中の『影』がその4つの場所へと向かっていると言っても過言ではない。

大多数の敵との孤独な戦い。

だが、ブーン達が崩れることはなかった。

彼らの強さはもちろんのこと、『疑似障壁』の防御力、今の時間帯は動きが鈍い『影』など、様々な要因が重なってのことだが、
スイッチを押してから10分ほどが経過した後でも、ブーン達の守りが崩されることはなかった。



  
86: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:10:30.96 ID:t0QnZp7a0
  

彼らの体力はもはや尽きようとしているにもかかわらず、『影』を『H.L』に近づけさせることなど一度もなかった。

それは彼らの腰にある『疑似障壁』が切れたあとでも同じことであり、スイッチを押してから15分、20分と経過しても彼らは倒れない。
『影』の攻撃は一撃一撃が強烈であり、ひとつでも綺麗なものをもらうとそれだけで戦闘不能となってしまう。
『疑似障壁』がない今、彼らの身体を守るものは自分の腕ひとつしかない。

だが、彼らはかすり傷を負いはしても、致命傷となるものはひとつも受けていなかった。

彼らの戦いぶりは『VIP』の司令室や、陽動部隊の目から見ても獅子奮迅の活躍だった。

これまでで一番の強さを見せていた。



  
87: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:11:45.60 ID:t0QnZp7a0
  

だが、その活躍と反比例しているのか、『H.L』は一向に爆発の兆候を見せなかった。

それはスイッチを押してから30分を超えても変わらなかった。

『爆発までは早くて10秒、遅くて30分』

というしぃの言葉は軽く跳ね除けられ、35分、40分とただ時間だけが過ぎ去って行く。

これには、狐や陽動部隊の人間も動揺を隠せないでいた。

いくらなんでも遅すぎる。
この作戦に参加していたほとんどの人間がそう思っていた。





  
93: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:14:55.44 ID:t0QnZp7a0
  



( ^ω^)「く、はぁ!」

ブーンは『剣状光』を縦に振り、目前にまで迫っていた『影』の腕を切断し、左手から『光弾』を放って吹き飛ばす。

だが、その後ろにはまた『影』がいた。

ブーンは『光障壁』でその攻撃をふせぎ、右手の剣で攻撃しようとする。
が、その前に横から何かの気配がしてとっさに『光障壁』を発生させる。

( ゜ω ゜)「く、くぅ!」

しかし、その壁は完璧なものではなく、勢いを完全に殺すことはできなかった。
『光障壁』を破られ、『影』の腕が右肩に当たる。
人のパンチを受けた程度の衝撃でしかなかったが、それでもさっきからチクチクと攻撃を受けている身としては辛い。

身体がぎしり、という音を立てる。

( `ω´)「い、いけ!」

瞬間的にイメージを完成させて、ブーンは4つほどの『飛槍光』を射出。

直線軌道を描き、猛スピードで飛んでいくその白い槍。
周りにいた『影』数体は避ける間もなく、その白い槍に貫かれ、消滅した。



  
96: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:16:49.19 ID:t0QnZp7a0
  

そこでようやく一息つくブーン。

ちらりと後ろを振りかえり、いまだ何の反応も示さない『H.L』に視線を注いだ。

( ^ω^)(まだなのかお……!)

もうスイッチを入れてから45分も経っている。
しぃが言っていた『遅くて30分』というのはとうに過ぎ去り、もう『H.L』の周りに張っていた『疑似障壁』も消滅。
いまや、自分の腕だけで『H.L』を守らなくてはならない状況。なのに、何一つ爆発の兆候を見せない『H.L』。

汗をぬぐい、目の前の敵に集中したブーンだが、耳から聞こえてくる無線の声を無視することはできなかった。



  
101: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:19:08.46 ID:t0QnZp7a0
  

狐 『どういうことだ! まだ爆発しないのか……!』

(*゚ー゚)『モニター状況を見ても、爆破にはもう十分な圧縮率となっています。原因は不明です!』

川 ゚ -゚) 『こちら【クール】! 【H.L】に異常は見られないのか!?』

(*゚ー゚)『異常はありません! けど、どういうわけか爆発にはつながらない……どうして?』

狐、しぃ、クーの悲鳴にも近い声を聞きつつ、ブーンは『光弾』を発生させる。
『影』が2,3体まとめて吹き飛ぶが、それでもまだまだ後ろに『影』が控えている。
また、後ろにも気配が何個かする。挟み撃ちにあえば危険だ。

( ^ω^)「みんな無事なのかお!?」

ブーンは『飛槍光』のイメージを進めながら、無線機に声を吹き込んだ。

川 ゚ -゚) 『こちらはまだ大丈夫だ! だが、長くはもたん!』

(=゚ω゚)ノ『こちら【コウモリ】! そろそろ限界が近いょぅ! 2つ目の【疑似障壁】を使わないとやられるょぅ!』

狐『もう少しこらえてくれ……頼む!』

狐の深刻な声が聞こえて、ブーンはくそっ、と声を漏らした。

いくらクー達でも、これほど大量の『影』と、これほど長く戦った経験なんてないはず。
自分にしてもそうだ。体力の消耗具合が激しく、足がなかなか言うことを聞かなくなってきた。
『光弾』や『飛槍光』を使う分には問題ないが、接近戦は避けざるをえない。
こちらに近づく前に敵を倒さなければ、移動もできないままに攻撃を受け続けることとなる。



  
104: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:21:42.19 ID:t0QnZp7a0
  

( ^ω^)(どうしてだお、どうして『H.L』は……)

『H.L』は自分の光を使った兵器のはず。
今まで、自分の心が望めば、白い光はいつも応えてくれた。『剣状光』も『光障壁』もその産物。
ならば、『H.L』だって爆発してくれるはずなのに……

いったい、何がダメなんだ?

狐『各自状況を!』

川 ゚ -゚) 『まだ【H.L】は無事だが、もたない! どういうことだ!?』
(=゚ω゚)ノ『こっちもだょぅ!』

( ^ω^)「もう40分以上経過してるお……何がどうなってるんだお!」

ブーンは通信機に声を吹き込みながら、『H.L』へと飛びかかろうとする『影』に『光弾』を放つ。
すでに『H.L』の周りの『疑似障壁』も消失しており、一撃でも喰らえば切り札をなくしてしまう状況。

きついなんてレベルじゃない。絶体絶命だ。

川 ゚ -゚) 『モナー! どうした!? モナー!』

(*゚ー゚)『も、モナーさんの発信機の反応が……』

狐 『消えた……?』

通信機からそんな声が聞こえてきて、ブーンは、はたと戦う手を止めた。



  
109: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:23:55.56 ID:t0QnZp7a0
  

そういえば、先ほどからモナーからの連絡がない。
まさか……モナーが?

彼が、やられた?

その瞬間、後ろの『H.L』から、ブー! ブー!というすさまじい警告音が鳴り響いた。
防犯ブザーが連続して鳴っているようなすさまじい爆音に注意を引かれ、一瞬目の前の『影』への集中力を切らせてしまう。

( ^ω^)(な、なんだお? って、そんなこと考えてる暇は!)

すぐに自分を取り戻し、『剣状光』を横に一閃して『影』を切るブーン。

同時に『光弾』を全周囲に出して、敵を退けさせつつ、後ろの『H.L』へと近寄る。

( ゜ω ゜)「こ、これは……」

そのデジタル表示を見て、ブーンは目を見開いた。

『ERROR』

その文字は、白い『H.L』の表面に赤く浮かび上がっていた。

無常なまでに鳴り響く警告音。
そして、赤い文字。

それは、これまでの希望や夢を全て消し去るような、残酷な意味をもった文字だった。





  
113: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:26:08.62 ID:t0QnZp7a0
  



『VIP』のビル。
現在、ここでは殲滅戦の決行に伴い、様々な部署が忙しく走り回っていた。
警察との連絡役、実働部隊と補給部隊との中継役、周辺への情報操作やマスコミへの対応などなど……
今回の作戦を円滑に進めようと、みんなが奮起し、働きまわっていた。

司令室では狐達があわただしく指示を飛ばし、
通信室では今も文句を垂れ流してくる警察の高官への対応に追われ、
地下では陽動部隊への援軍が今か今かと出動の指令を待っていた。

そんな喧騒とは対照的に、ひとつだけ一際静かな場所があった。

特別治療区域。

ここに勤めるスタッフは、今は樹海の陽動部隊の治療班として出動しており、最低限、患者の世話を見る人員以外はほとんど出払っていた

そのため、いつものように医者が廊下を歩き回ることもなく、
骨折や怪我などで入院している患者も部屋の中でじっと、今回の作戦の成否の情報を待ちわびているだけだった。



  
116: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:28:11.35 ID:t0QnZp7a0
  

だから、なのだろう。
あるひとつの部屋の患者がいないことには、誰も気付かなかった。

その部屋は、子供のようにぬいぐるみやファンシーなグッズで囲まれながらも、どこか寂しさを覚えるような部屋。
精神病の患者対策として、ベッドに固定用のテープが備えられている、特別治療区域の中でも異彩を放つ場所。

その部屋の主は、今どこにいるのか、誰も知る者はなかった。

当たり前だろう。その患者は車椅子に乗っているから、1人でどこかに行くことなんて不可能と思われていたからだ。

だが、『彼女』にとって自分ひとりで移動することなど、何も難しくはなかった。
車椅子で移動することなどたやすいことで、上に行くのだってエレベーターを使えばいいだけのこと。
それに、少しだけなら歩くこともできる。無理をすれば階段だって昇れるのだ。

そう、いつだって彼女はどこにでも行くことができた。
何だって見ることができたし、どんな音も聞くことができた。



  
118: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:30:11.16 ID:t0QnZp7a0
  

(*゚∀゚)「……」

彼女は今、ビルの屋上で空を眺めていた。
車椅子に乗り、顔を上にあげて、すっかり白けてきた空を見つめていた。
西の方では薄い満月が見え、東では明るい太陽が輝かしい光を放っている。

夜と朝の境目。
昼と夜の境目よりも静謐な雰囲気を醸し出し、見る人は少ないであろう灰色から白への転換点。

その空の下で、つーはただ微笑みながら空を見上げる。
何も言葉も発せず、動きもせず、空を見上げ続けている。

それは何かを感じているかのようであり、何かを悟っているかのようでもあった。

(*゚∀゚)「……?」

白から青に変わりつつある空に、何かが浮かんでいることを見つけるつー。
最初は鉛筆でキャンパスにひとつの点を打ったかのような小さなものだったが、こちらに近づいてくるにつれて大きくなっていく。

黒い、何かの物体。
3メートルはあろうかというそれが、流れるかのように空を飛んでいる。



  
121: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:33:00.48 ID:t0QnZp7a0
  

(*゚∀゚)「……」

つーはそれを見つめ続けた。
恐怖も焦りもない。微笑みをそれに向けていた。

黒い物体は猛スピードでこちらへと近づいてきて、屋上の上で静止する。
そして何分間かじっとしたまま動かない。黒い小さな雲が屋上の上にあるようでもあった。

つーは目を見開き、そして口を大きく開いた。

最上級の笑顔。今まで、『彼』にしか見せなかった親密感の溢れる顔。
喜びと憧れが入り混じった、『彼』に向けた笑顔。

(*゚∀゚)「お迎ぇ〜?」

つーがそう呟いた瞬間、黒い物体は屋上へと降り立ち、彼女の体を包み込む。
何の抵抗もせず、されるがままになっているつーは、笑顔を浮かべながらきゃっきゃっと笑っていた。

見る人が見れば、きっと黒い物体に襲われていると思うであろう。
だが、彼女の顔には恐怖など微塵も浮かんでいない。ただ笑顔だけが彼女の顔にある。



  
124: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:34:08.97 ID:t0QnZp7a0
  





そして、彼女の身体を完全に包み込んだ黒い影は、再び空を飛び、どこかへと飛んでいった。




屋上には、彼女の痕跡などひとつも残っていなかった。







  
126: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:36:14.19 ID:t0QnZp7a0
  



『H.L』に浮かび上がる「ERROR」の赤い文字。
警告音が鳴り響く中、それはこの作戦に参加しているものにとっての死の宣告だった。

(*゚ー゚)『【H.L】内の内部気圧が急低下! 圧縮率が急激に下がっていきます! 1000%から、500、400、300、200……』

狐 『なぜだ……内部構造に欠陥はなかったはずなのに!』

(*゚ー゚)『このままでは圧縮が保てません!』

しぃの叫ぶような声と共に、『H.L』から白い光が漏れ出した。
爆発こそしなかったものの、その光は『H.L』の表面の隙間から次々と漏れ出していく。
まるで車からガソリンが漏れているかのようであり、それはつまり、この兵器がもう使い物にならないことを示していた。

シュー、という空気の抜ける音と共に、『H.L』のERROR表示すら消えてしまい、完全に沈黙。

それはこの作戦の失敗を意味していた。

(*゚−゚)『え、【H.L】、完全に無力化。内容量ゼロ』

狐『なんてことだ……!』

呆然としていたブーンだったが、後ろに気配を感じて、振り返る。
すると、大量の『影』が自分を囲うようにして立っていることに気が付いた。

モナーの音信不通、『H.L』の無力化に気を取られている内に、
陽動部隊におびき寄せられていた『影』達が森の中に帰ってきたようだった。



  
129: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:38:18.99 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンはじりと土を踏みしめた。
『影』はこちらを囲うだけで、襲ってくる気配がない。いや、タイミングを計っているのだろうか? 一斉に攻撃をしかけてくるタイミングを。

ブーンは手の『剣状光』を握り、『光弾』を出す準備をする。

前にも後ろにも横にも敵がいるこの状況。
『飛槍光』を出すためのイメージを行うには時間が足りず、ここは自力でなんとか切り抜けるしかない。

狐 『作戦中止! 各自、2つ目の【疑似障壁】を展開して、森から脱出するんだ!』

( ^ω^)「ダメだお……モナーさんを助けに行くんだお」

狐『だが、彼はもう……』

( ^ω^)「仲間なんだお。助けにいかないと……」

ブーンはまだ『影』が襲ってこないことを確認しつつ、ぼそぼそと言った。
通信機越しからでも、狐達が動揺しているのがわかる。当たり前だろう。

自分だって、この状況でモナーを助けに行くことがどれだけ危険かは理解している。
5000体の『影』が一斉に自分達を襲ってくる……どれだけ戦おうとも、かないっこないだろう。

だが、モナーは仲間だ。自分の守りたいものだ。
これ以上、誰だって死なせはしない。守りたいと思ったものは全部守ってみせる。

だから、行かなくてはならない。自分の心がそれを望んでいるのだ。



  
131: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:40:24.04 ID:t0QnZp7a0
  

川 ゚ -゚) 『ブーンに賛成だ』

クーの、冷静ながらも、裏に熱さを兼ね備えた声が聞こえる。

川 ゚ -゚) 『2つ目の【疑似障壁】を使えば、なんとかなるはずだ。4人揃えば、ある程度の数の【影】には対抗できるはず。
     私達を信じてくれ、所長』

狐『しかし……』

(=゚ω゚)ノ『たとえ反対しても、僕だけでも行くょぅ! モナーは……絶対に生きてるょぅ!』

ぃょぅの声がいつもよりも真剣だった。
同僚のピンチにいてもたってもいられないのだろうか?
普段の合理的なぃょぅの言葉とは思えなかったものの、それが変だとは思わなかった。

みんな、守りたいものを守るために戦っている。
だから、モナーを助けに行くんだ。

狐 『わかった……けど、タイムリミットは15分だ。モナー君のいる地点にヘリを送るから、15分経ったらちゃんと脱出するんだよ!』

( ^ω^)・川 ゚ -゚) ・(=゚ω゚)ノ「了解!」

助けに行く。きっと彼は生きているはず。



  
133: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:42:27.45 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンは左手をあげて、手の平に意識を集中させる。
そしてそれを上に向け、「はぁ!」と気合の声を出した。

手の平から巨大な『光弾』が発生する。
それはしばらく宙を漂っていたかと思うと、急に分裂を始める。
巨大なひとつの弾から、何個もの小さな『光弾』に。

分裂した『光弾』は、雨のように『影』の下へと降り注がれていく。
そうしてブーンの周り360度に存在していた『影』を、あまねく消し去っていった。

その技は、クーとの訓練の中で思いついたもの。

( `ω´)「邪魔をするなら、誰でも消し去ってやるお!」

ブーンは、周りにいた『影』がかなり減ったことを確認し、モナーのいる南東のポイントへと走り出した。

道はかなり険しい。『影』がうようよといる上に、モナーの地点までは5キロ程度の距離がある。
これまでの疲労具合から考えて、正直身体はもう限界に近いと言っていい。

だが、それでも行かなくてはならない。身体のことなんて気にしていられない。
クーとぃょぅも行くんだから、自分が行かなくてどうする?



  
135: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:44:07.69 ID:t0QnZp7a0
  

ブーンは『影』を倒しながら走り続けた。

不思議と、疲労感はだんだんと薄れていくように感じた。

ふと足を見たら、自分で出した光が自分の身体を包んでいる。それが疲労感を取ってくれているように思えた。

もしかしたら、しぃのように回復にも使えるのだろうか? この光は?
ならば好都合。これなら、望めばどこまでだって走れる。

5分、10分、15分とブーンは走り続ける。

川 ゚ -゚) 『こちらはもうすぐポイントにつくぞ。ブーン、どうだ?』

( ^ω^)「大丈夫だお! 僕ももうすぐ着くお!」

(=゚ω゚)ノ『身体は大丈夫かょぅ?』

( ^ω^)「元気もりもりだお! 今ならどこまでだって走ってやるお!」

その言葉に嘘はない。
自分が望めば、どこまでだって、どこへだって行ける。
光はその力を与えてくれるのだ。



  
138: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:46:36.32 ID:t0QnZp7a0
  

ポイントに近づくにつれて、ブーンはあることに気が着いた。
これまでずっと自分の邪魔をしてきた『影』が少なくなってきたのだ。
モナーのいるポイントに近づけば近づくほど、その数は減ってくる。

ブーンはふと立ち止まって、辺りを見回した。
『影』の気配がまったくない。それどころか、生物の気配そのものが感じられない。
風が木を揺らす音ぐらいしか聞こえず、静寂そのものだった。

どうしてここだけ、こんなにも静かなんだ?

疑問に思いつつ、ポイントに向かって歩き出すと、後ろから「ブーン!」という声が聞こえた。

川 ゚ -゚) 「よかった、無事だったか」

( ^ω^)「クーさん……」

(=゚ω゚)ノ「僕もいるょぅ!」

クーとぃょぅが一緒になって近づいてくる。
どうやら2人とも、自分より先にこのポイントにたどりついていたらしい。

2人もまた、この場所の異様な雰囲気に疑問を覚えているのか、周りにキョロキョロと視線を動かしながら歩いている。



  
140: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:48:09.81 ID:t0QnZp7a0
  

川 ゚ -゚) 「この場所……何か変だ。静かすぎる」

(=゚ω゚)ノ「『影』の気配がまったくしないょぅ。どうしてここだけ……もしかして、『H.L』が爆発したのかょぅ?」

川 ゚ -゚) 「それはないはずだ。それなら、所長が連絡のひとつでもよこしてくれるはず。
      ん? そういえばさっきから所長からの通信がないな……」

クーが通信機に「所長、こちらはすでにポイントに到着しましたが」と吹き込む。

だが、返事がない。ザーという砂嵐の音だけが聞こえる。

川 ゚ -゚) 「……所長?」

(=゚ω゚)ノ「……通信不能だょぅ。これは、たぶんジャミングを受けてるょぅ」

( ^ω^)「ジャミング? それって前にも……」

以前にも通信のジャミングを受けた記憶がある。
あの時は確か、ジャミングを受けながらも廃工場に向かい、謎の銃撃を受けつつ、変な兄弟と戦った覚えが……

まさか、とブーンは思った。

まさか、彼らがここに?



  
142: ◆ILuHYVG0rg :2006/12/07(木) 00:49:53.53 ID:t0QnZp7a0
  

「よう、こんな所で奇遇だな」

その声が聞こえた瞬間、隣のクーがビクリと身体を震わせた。
そしてブーンもまた、この声に聞き覚えがあり、まさかという言葉が頭の中に溢れていった。

恐る恐る後ろを振り向くと、そこには。
  _
( ゚∀゚)「久しぶり、だな。お前達とは」

ジョルジュが、いた。

そしてその横には、

( ,,゚Д゚) ・从 ゚―从・( ´_ゝ`)(´<_` )「……」

ギコ、ハインリッヒ、流石兄弟と、

( ´∀`)「……」

バラバラになった『H.L』を足元に置いた、モナーが立っていた。


第21話 「殲滅戦」 完



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