( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
33: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:04:54 ID:
  

(=゚ω゚)ノ「……い、今戻ったょぅ」

そうこうしていると、あれから通信のなかったぃょぅがようやくテントに戻ってきた。
彼は中に入ってくると、とたんに地面に座り込み、「はぁ、はぁ」と何やら激しく呼吸をしていた。

狐「ぃょぅ君! どうしたんだい、いったい……怪我がひどいのか?」

(=゚ω゚)ノ「怪我はもう大丈夫だょぅ。ただ……空の黒いのを見ましたかょぅ?」

狐「ああ。どうやらつー君が行ったようだが……」

空の黒いの、とは先ほどから空を覆っている黒い光のことだ。

通信衛星の映像を見た限り、つーがあれを出したのは間違いない。
まだ太陽は沈みきっていないはずなのに、辺りを夜にしてしまった黒い光。

混乱する兵士たちをまとめるために、狐は苦労していたものだった。

(=゚ω゚)ノ「あれはやばいょぅ。きっとみんなに入り込んで、全てを変えてしまうょぅ」

狐「いったいどうなってるんだい? まったく理解ができないんだが……あれは世界を滅ぼすとでも?」

(=゚ω゚)ノ「違うょぅ。世界を『変える』んだょぅ。あれは純粋な恐怖だょぅ。やばいょぅ」

狐「『変える』……?」



  
34: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:06:11 ID:
  

突然、通信機が激しく音を鳴らし始めた。
狐は「またか」という表情を隠さずに通信機のボタンを押し、「こちら『VIP』本部。どうした?」とマイクに吹き込んだ。

『どうした、とはまたフランクな言葉だな』

狐「その声は……プギャー大佐?」

( ^Д^)『ああ。久しぶりだな、狐』

プギャー大佐、という名前を聞いて、ドクオは先ほどのしぃの話を思い出す。
確か、この国にやってきた連合軍の総指揮を取っている、アメリカ陸軍の大佐だっただろうか?

『VIP』と連携行動を取りつつも、独自に軍隊を展開しているらしいアメリカ軍は、いまや日本中にその戦力を散らばせている。
たったの半日でよくもまあ、そこまでできるものだ、と感心してしまう。

( ^Д^)『この状況を説明してもらおう。この空……例のジョルジュとかいう男が行ったことなのか?』

狐「それは分かりません。こちらでも把握に努めていますが、まだ何も確かなことは……」

にしても、アメリカ陸軍にいるくせに、どうして日本語を喋れるのだろう?



  
35: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:07:04 ID:
  

( ^Д^)『今は見えないものの、さきほど監視衛星で見たかぎりは、この黒い光の発生源と見られる場所にはジョルジュはいない。
     いるのは女性1人と少年1人のみ。
     これはいったいどういうことだ?』

狐「……戦っているんです。私達の仲間が、この世界を守るために」

( ^Д^)『ふん、1人でか。それはまた無茶なことをやっているものだな』

狐「……」

狐は唇を噛み締め、何かに耐えるかのように握りこぶしを作った。
おそらく罵詈雑言を浴びせたい気分になっているのだろう。
そうしたいと思えるほど、プギャーの言葉は不謹慎だった。

( ^Д^)『こちらとしては、その場所に一個大隊を送るつもりだ。アパッチも送る』

狐「それは待ってください。普通の軍隊では敵を倒すのは無理です」

アパッチ、とは攻撃ヘリの名前だ。
なんでも陸上では最強の要塞ヘリらしいが、実物を見たことはない。

だが、そんなものが送られれば、ブーンも無事ですまないかもしれない。
最悪、攻撃に巻き込まれる可能性も……



  
36: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:07:56 ID:
  

通信機から聞こえるプギャーの声はどこかしらいらついていた。

( ^Д^)『だが、手をこまねいて見ているわけにもいくまい。
     それに、あの場所にいる女は、お前たちが提出したレポートにあった、【影】と同化した人間ではないようだが?
     それなら通常の戦力でも大丈夫なはずだ』

狐「しかし……彼が戦っています。今はまだ待ってください」

( ^Д^)『……』

プギャーの声が途切れる。
少し話を聞いていただけで、プギャーが血気盛んで、待つということが嫌いな性格だということはよく分かった。
おそらく、普通の戦争なら真っ先に先頭に立ち、敵を殲滅しようとするのだろう。

だが、プギャーはそれからしばらくして『分かった』と答えた。

この調子なら狐と対立するんだろうな、と思っていたドクオは、少なからず驚いた。

( ^Д^)『こんな事態だ。より敵について知っている者の意見を聞くべきなのは当たり前……ここは待機させてもらおう』

狐「は、はい、ありがとうございます」



  
37: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:08:34 ID:
  

( ^Д^)『お礼を言う必要はない。日本人とはよくよくお礼を言うのが好きなものだな。
      それより、ひとつ聞きたいことがある。あの黒い光の影響か知らないが、私の部隊でも発狂者が続出している。
      どうやら世界的にも、数は少ないがそういう人間が多いようなのだが、何が起こっているのか知らないか?』

狐「それはまだ分かりません。とりあえず鎮静剤を打って安静にすることぐらいしか……」

狐とプギャーが何やら話しているのを聞きながら、ドクオは衛星の映像に目を移した。

先ほどまでブーンとつーの姿を写していたが、今は黒い光に遮られているからなのか、何も見えなくなっている。
つーが黒い光を出した所までは把握しているが、それからいったいどうなっているのか。

ブーンは戦っているのだろうか?
つーと? それとも別の敵と?

彼は無事なのだろうか?

ξ 凵@)ξ「……」

ピクリ、とツンの身体が動いたような気がして、ドクオは車椅子に乗る彼女を見つめた。

だが、それ以上はまったく動かない。
彼女は無表情なまま、何も写らないテレビ画面を見つめていた。

いったい、彼女には何が見えているのだ



  
38: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:10:19 ID:
  

狐「ふぅ、終わったよ……」

(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だょぅ」

狐「ぃょぅ君、もう大丈夫なのかい?」

通信を終えた狐と、ようやく立ち上がったぃょぅが話を始めるのを聞き、ドクオは再び視線を狐の方に戻した。
2人共、深刻な顔をして話し合いをしている。

(=゚ω゚)ノ「まだ頭が痛いけど、さっきよりマシだょぅ」

狐「何が起こっているのか、わかるかい?」

(=゚ω゚)ノ「何も。けど、今がやばい状況なのは分かるょぅ」

狐「ああ……日本全国でも、次々に叫び声をあげたり、卒倒してしまう人が続出しているらしい。
  みんな身体を震わせ、何かにおびえるように……まったく、いったい何が起こってるんだ」

(=゚ω゚)ノ「けど、進展はあったょぅ。アメリカ軍や他の軍勢も、『VIP』に味方してくれてるょぅ」

狐「ああ。ブーン君の無事が確認されたら、即彼を回収して、テロリストを掃討することに決まったよ。
  だが、『影』はまだ破壊活動を続けている。
  あとは、『影』を操るジョルジュ達――おそらく今はつー君だろう。彼女をブーン君がなんとかしてくれればいいんだが……」



  
39: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:11:05 ID:
  

(=゚ω゚)ノ「本当に彼女が敵になってしまったのかょぅ……」

狐「詳しいことはわからない。だが、もしそうならば……彼女を止めるのが、私達のやるべきことだ」

敵と味方、か。
世界中の軍勢がこちら側についてくれた今、おそらくテロリストなんて一ひねりなのだろう。
あとは『影』をどうにかすれば、全ては解決する。

だが、つーが敵になったということに、みんなもっと衝撃を受けないのだろうか?
全ての国の軍隊が味方についたということに、異様な感覚を覚えないのだろうか?

緊急事態だから? それとも、そうなってしまったから?

何かが違うような気がする。このままでは、何かが違う。

(´・ω・`)「ねえ、ドクオ」

('A`)「ん?」

いきなりショボンに声をかけられて、ドクオは彼の方へ顔を向けた。



  
40: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:12:35 ID:
  

ショボンは、何やら神妙な顔つきでこちらを見つめ、静かに言った。

(´・ω・`)「人ってさ……共通の敵があれば、こんなに簡単にひとつになれるものなんだね」

('A`)「……」

(´・ω・`)「恐怖を感じた時、人は団結して、ひとつになる。まるでジョルジュが言っていたことみたいだよね」

('A`)「ああ……」

そう答えるしかできなかった。
ショボンの言うとおりだったから。

ジョルジュ達という恐怖に対して、確かに自分達はひとつになっている。団結している。

(´・ω・`)「けど、さ」

ショボンは続けて、言った。
何も写さない、黒い画面のテレビを見ながら。

(´・ω・`)「この戦いの先に、何があるんだろう」



  
41: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:13:38 ID:
  

彼の目は、画面に移らない「何か」を見ているかのようだった。
ブーンを、つーを、あるいはその場所で起こっている『戦い』を。

(´・ω・`)「団結して、戦って、そうして勝って……その後に何があるんだろう」

ショボンの問いに、ドクオは何も答えられなかった。

今の今まで黙っていたショボンは、ずっとこのことを考えていたのだろうか?
それとも、ただ不意に浮かんだ疑問?

どちらにしても、ショボンの問いは、自分の胸の中をもやもやを照らし出してくれた気がした。

(´・ω・`)「……ごめん。今はそんなこと言ってる場合じゃないよね」

('A`)「いや……いいさ」

ドクオもまた、同じように黒いテレビ画面を見つめながら、思った。

この戦いの先に、何があるんだ? ブーン?

その問いに答えるものはおらず、ドクオは目を細めて、淡々と『彼』を想うことしかできなかった。





  
42: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:15:47 ID:
  



( ゚ω゚)「ああああぁ!!」

白い『剣状光』がつーの目先を空振ると、すぐに反撃の『光弾』を浴びせられる。
ブーンの身体はくの字に折れ曲がり、「ぐふっ」という声が漏れ出た。

だが、ブーンの手は止まらなかった。すでに何かを考えるための思考能力は欠如しており、今目の前に見えているのはつーの姿だけ。
取るべき行動は「戦うこと」、それだけ。

もう、つーを殺してしまうことへの迷いはなかった。あらゆる意味で。

( ゚ω゚)「うおおおお!」

翼を動かしてつーの下方へと位置取り、そこから巨大な『光弾』を放出してつーへの牽制とする。
彼女はそれを黒い『光障壁』で防ぎ、距離を取ろうとしてくるが、
ブーンは逃がさず彼女の目と鼻の先にもぐりこんだ。

(*゚―゚)「……!」

( ゚ω゚)「お前なんか!!」

『剣状光』の刃が、あと少しの所でつーに突き刺さるはずだった。
力を込めて前へと突き出したそれは、しかし8枚の黒い翼の内の1枚によって防がれてしまう。



  
43: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:17:04 ID:
  

( ゚ω゚)「くっ!」

(*゚―゚)「……」

なんとか距離をとって反撃に備えるブーン。

つーは無言で腕を上げ、黒い光を収縮、結合させて巨大な1本の黒い剣を作り上げた。
今までの『剣状光』とは違う。それよりももっと大きく、もっと破壊的で、恐ろしい。

まるで巨大な剣のオブジェがそこに出来上がったかのような、全長4メートル近い刃を、つーは一気に振り下ろした。

避ける暇もなかった。そのスピードは常軌を逸している。

『光障壁』でなんとか受け止めようとするものの、完全に衝撃を殺すことはできなかった。
揚力を失い、地球の重力に逆らうこともできず、ブーンは猛烈な勢いで地表へと叩きつけられた。

( ゚ω゚)「くふっ!」

地面に当たる直前に翼を少し動かしたおかげで、即死はまぬがれた。
だが、それでも受けたダメージは深刻だった。
連戦を経てきた身体のあちこちが悲鳴を上げ始め、今の衝撃で肋骨が折れたのか、やけに胸の辺りが痛い。吐き気もする。



  
44: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:18:15 ID:
  

自分が落とされたのが砂地だったことにようやく気付きつつ、ブーンは砂を踏みしめ、かろうじて立ち上がった。

(*゚―゚)「……」

つーは8枚の翼を携えたまま、動こうとはしなかった。
黒く染まった空を見上げ、何事か考える仕草を取る。

ブーンは飛び立とうとする。
白い翼が消えていることに気がつき、呆然と自分の背中を見た。

おかしい。白い翼が出せない。
今までずっと自分の意志通りに出てきてくれた白い光が、今は出せない。

ブーンは試しに『剣状光』を出そうとしてみるが、やはり白い剣は出てこなかった。

自分が傷ついているからなのだろうか。
光は露ほども出てこなかった。

(メ´ω`)「なんで……だお」

倒さなければ負ける。戦わなければ死ぬ。
分かりきっていること。今ここで白い光が出せなくなれば、自分は終わりだ。

死にたくはない。負けたくはない。

守りたい。守らなくちゃならない。



  
45: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:19:41 ID:
  

(*゚―゚)「……」

空に浮かぶ8枚の翼は、大きくその羽を広げるとさらに黒い光を放出し始めた。

空の黒い光と連動するかのように、辺りを夜にするかのように。

しばらくすると、空から黒い球体がちらほらと落ちてきた。

まるで黒い雪のようなそれは、建物や地面に落ちていく。

そして、接触した部分が跡形もなく、消えた。

消えたのだ。
まるでその存在が最初からなかったかのように、丸いくぼみが地面に出来たのだ。

次々と落ちてくるその黒い雪は、建物を穴だらけにしていき、その存在を否定していく。

自分に当たっても何も影響はないが、これがもし人間にも作用するのなら……

ぞくり、と背筋が震えるのを感じた。



  
46: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:20:28 ID:
  

(*゚―゚)「終わりの始まり。全てが始まるこの場所」

つーの声がダイレクトに聞こえる。心に直接語りかけられているような錯覚を覚える。

(*゚―゚)「終わらせましょう……これで」

つーが手をあげると同時に、8枚の黒い翼からひとつずつ、巨大な『光弾』が生成されていった。
それは自分が出す『光弾』よりも数倍大きく、凶暴だった。

( ゚ω゚)「ああっ……」

死ぬ。

どれだけ未来を見つめようとしても、何も見えない。
そうだ。未来が「ない」から、見えないんだ。

ここで自分は死ぬ。死んでしまう。

なぜ? 戦っていたから?

死にたくない。死にたくはない。



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