( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
47: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:21:30 ID:
  

(*゚―゚)「……」

つーが手を下に下げると、8つの『光弾』はひとつとなり、さらに巨大な球体へと変容する。
それがゆっくりと落ちてくるのを見たブーンは、まるで空が落ちてくるようだと思い、さらに黒い衝動が胸の中をかけていくのを感じた。

死にたくない。死ねない。死にはしない。

( ゚ω゚)「うぅ……わああっ!!」

生きたい。生きたい。

たとえ、



つーを殺してでも。



瞬間、自分の身体から白い光があふれ出るのを、ブーンは見た。





  
48: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:23:35 ID:
  



それは、まさに『爆発』と呼ぶにふさわしいものだった。

空から落ちてくる巨大な球体に対し、地面から発せられたその白い光は、瞬く間にドーム上に広がっていった。

かつてラウンジ教の施設を吹き飛ばした光の爆発。

ブーンを中心に広がっていた白い光は、最初は黒い光とせめぎ合っていた。
黒い球体が落ちてくるのを防ぐように。

黒とも白ともつかない光がせめぎあい、互いに静止した。

だが、徐々に黒い球は勢いを失っていった。白い光に押し負けたのだ。

さらに広がっていく白い光は、黒い球体を消し去る。
空中に浮かんでいたつーをも巻き込み、それまでにない規模で拡大していく。

かつての『天国』の土地を全て覆い、それでも足りないとばかり広がる白い光。

街をまるごと覆い隠し、空の黒い光をも吹き飛ばし、白いドームを形成していく。



  
49: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:25:05 ID:
  

ついには雲の高さまで届いた所で、白い光は突然霧散した。

きらきらと空中を漂う白い光。

空中からひとつの影が落ち、地面に転がるのを見たのは、おそらく『彼』だけだっただろう。

ひとつの影は、ふたつに分かれる。
地面に倒れていたのは、2人の男女。

ジョルジュと呼ばれた男と、つーと呼ばれた女。
  _
( ゚∀゚)「つー……」

(*゚―゚)「ジョル……ジュ」

2人はそう呟いたところで、動かなくなり、絶命した。

最後の最後で彼らが求めていたのは、互いの手。

2人はしっかりと手を握り締め合いながら、目を瞑った。



  
50: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:26:13 ID:
  

黒い光は晴れ、本来の空が戻ってくる。

すでに時間は夜に差し掛かっていたため、空は灰色に近かった。

その空は、黒い光のような不気味さを伝えることなく、戦いが終わったことを眼下の人間に示していた。

全てが終わったのだ。





  
51: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:27:25 ID:
  



兵士「やった……!」

通信兵「やった、勝ったぞ!」

わぁ、という歓声が一斉にテントの周りで発せられていった。
急に黒い光が晴れたかと思うと、衛星からの映像が復活し、ブーンがいる場所が映し出されたがついさっき。

そこで倒れてうごかないジョルジュとつーの姿が確認され、それが兵士やスタッフの間に伝わると一斉に歓喜の雄たけびがあがり始めたのだ。

「終わった……! これで終わりだ!」

「やっとこれで……帰れる!」

「っしゃあ!!」

兵士らしくない喜びの声をあげる周りのみんな。
ドクオはそれを聞きながら、確かに空の黒い光がなくなっていることを、外を見て確認した。



  
52: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:28:24 ID:
  

確かに終わった。

おそらくブーンが倒したのだろう。
ジョルジュとつーは動かない。あの様子では生きている可能性はゼロに近い。

敵を殺せば、全てが終わるのだ。

これで『影』の活動は鈍り、本来の夜にしか現れない、犯罪者しか殺さない存在に戻るだろう。
全世界的に広がっていった恐怖の種は取り除かれた。
これから国の軍隊が出動し、テロリストを一掃してしまえば、完全に今回の出来事は収束に向かうことだろう。

だが、それ以上に気になっていたことがドクオにはあった。

それは、ショボンや狐も同じだった。隣の部屋のベッドで、ぼんやりと座っているしぃも同じに違いない。

衛星からの映像は未だ写されており、ドクオ、ショボン、狐、しぃは、喜びもそっちのけでそのモニターを見つめていた。

そこに映し出されているのはブーンの姿。
豆粒みたいな人影しか見えないが、クレーターのようなくぼみの中心に立つ彼。
戦いが終わったというのに、その場から一歩も動かない。

喜びも悲しみも、怒りもそこからは感じられない。

ただ呆然と立ち尽くすだけなのだ。



  
53: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:29:07 ID:
  

('A`)(どうしたんだ? ブーン……)

ドクオは眉をひそめて、彼の姿を注視し続けた。

今までにないブーンの様子に、ドクオは何かしらの胸騒ぎがしていた。





  
54: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:30:00 ID:
  



どうしてこんなに心が重いのだろう――罪悪感?
どうしてこんなに、色々な人の声が聞こえるのだろう――みんなの心の声?

『やっと終わった!』『ママー、変な光がなくなったよう?』
『なんだ? ニュースで言ってた黒い怪物ってのはいなくなったのか?』
『隊長! 敵は浮き足だってます!』『敵はいないぞ! こっちの勝ちだ!』
『助かった……!』『おい、黒いやつがいなくなったみたいだぞ』
『爆発がなくなった?』『敵は殺されたのか……よかった』

徐々に多くなっていく歓喜の声。
黒い光による恐怖がなくなり、本能的に『敵』がいなくなったことを悟ったのだろうか。

みんなが喜びと安堵の心をあらわにしていく。

みんな、敵が殺されて喜んでいる。
敵の守るものをつぶして、喜んでる。



  
55: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:30:55 ID:
  

けど、『敵』とはなんだ?
あそこで2人して倒れているジョルジュとつーのことか?

――そうなのだろう。だって、今自分は彼らを敵と判断し、戦い、そして勝った。

つーを殺して。

殺して。

ころして。




コロシテ。



  
56: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:32:08 ID:
  

( ゚ω゚)「うぅ……あぁ」

それを行ったであろう自分の手が、急に怖くなった。
まるで黒いぬめぬめしたものに覆われているかのように思えて、何度も手を振るけど、それは取れない。

これはなんだ?
血? それとも、つーの意思?


どうしてつーを殺した?――敵だったから。
何故つーは敵になった?――考え方や行動が自分と違っていたから。こちらの利益を損なうから。

流石兄弟もジョルジュも自分が殺した。
それと違うとでも言うのか?

違う。
つーは守るべきものだった。そのはずだった。最初から互いを敵と認識して戦ってきたジョルジュ達とは違うはず。

だが、ちょっとした考え方の相違で、守りたいものは敵になってしまった。



  
57: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:33:24 ID:
  

人は『自分の守りたいと思ったもののためだけに戦う』。

ジョルジュが言っていた通りだ。彼の心を感じられた今、もう彼の考え方は全て理解できていた。

全ての戦いは、人の生存本能と防衛本能によりもたらされるのだ。

しかも、自分の守りたいものなんて簡単に変わり、だから敵も味方も流動的となる。
ついさっき味方だったものが敵になる。

他人と完全に同じ考えになることなんて絶対にない。

ということは、全ての「他人」は、敵にになる可能性があるのだ。

ならば、世界が自分1人だけになって、初めて戦いはなくなるのではないか?

そうだろう?

自分は何のために戦ってきた? 守りたいものを守るため?

そうだ、その通りだ。戦わなければ守れなかった。人も、ものも、世界も。



  
58: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:34:25 ID:
  

だが、その戦いの先に何がある? ジョルジュ達を殺して、「今の」敵はいなくなった。
けど、それで終わりか? 人はこの戦いの後も戦い続ける。傷つけあい、守りたいものを守るために戦う。

「統合本能を持たない人間」

「自分の守りたいものを守るためだけに戦う人間」

全ての人間が敵になる可能性があるのなら、人は争いをやめるはずがない。

たとえ敵を滅ぼしても、今度は味方だったものが敵となる。

たとえ平和になっても、今度はその平和を守るために戦いが起きる。

戦いは終わらない。終わることはない。



  
59: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:35:18 ID:
  

どうすればいい?

みんなが本当に傷つかなくなるには。
敵の守りたいものも守るためには。
戦いが本当になくなるためには。
「彼ら」を守るためには。









そうか。





  
60: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:37:18 ID:
  



モニターが急に真っ白になったと思った瞬間、外からも強烈な光が舞い込んできた。

ドクオは何事か、と外へと飛び出し、空を見上げる。

('A`)「こりゃあ……」

そこにあったのは、夜の空ではなかった。

ブーンがいる方向から発せられるまばゆい白い光。

それが空を照らし、夜を昼に変えていたのだ。

(=゚ω゚)ノ「……これは、なんだょぅ?」

隣にいたぃょぅが呟き、テントから続々と人が出てくる。

狐「な、なんだい、これは?」

狐が空を見上げ、驚きの声をあげている。



  
61: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:38:34 ID:
  

狐「ぃょぅ君、これは……?」

(=゚ω゚)ノ「わからないょぅ……」

狐「い、一応指示を出さないと!」

戸惑いつつも無線機を取り出し、次々と部隊に指示を送っていく狐。

周りの兵士たちも慌てたように無線で仲間と連絡を取り合っている。



  
62: ◆ILuHYVG0rg :2007/02/03(土) 22:39:06 ID:
  

ドクオはその様子を眺めていると、テントから、ツンの車椅子を押すショボンが出てくる。

(´・ω・`)「これは何事?」

('A`)「さあ……だが」

ドクオはブーンがいるであろう方向を見つめ、言った。

('A`)「あいつに何かあったってのは、確かだな」

(´・ω・`)「……」

ξ 凵@)ξ「……」

空は更に明るさを増していく。

その明るさは、むしろ残酷なもののように、ドクオは思った。



第28話 「内の光/外の光 白の光/黒の光」 完



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