( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
139 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:07:22.37 ID:Pq8gNNQw0
  

この丸が、他の丸と重なり合うことはないかもしれない。

だが、だからと言って他の丸を完全否定していいはずはない。
もし否定しているのなら、それは根拠の無い恐怖を抱いているからだ。

その恐怖が、本来は敵ではない相手を、「敵」と認識させてしまう。
行う必要のない争いを続けてしまう。

この恐怖は本能的なものだ。生存本能か防衛本能が、他人を疑わせる。

だけど、こんな根拠のない恐怖に振り回されてどうする?

自分はずっと、恐怖を抱いて生きてきた。
戦うことを恐れ、大切なものを失うことを恐れてきた。
そして、そのたびにその恐怖を乗り越えようとしてきた。

ならば、この恐怖も乗り越えよう。

『信じる』ことで。

本能で人はひとつになれないなら、「信じる」という理性的なもので補おう。

これはものすごく頼りないものかもしれない。少しでも恐怖に振り回されれば、すぐ切れてしまう細い糸のようなものだ。

けど、成長することもある。変化することもある。時には鋼鉄のロープのような、太く切れ難いものになることもある。
そうなれば、きっと大丈夫だ。



  
141 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:10:25.60 ID:Pq8gNNQw0
  

もし、それでも切れてしまったらどうするか?
根拠の無い恐怖が、現実的で対象を持つ恐怖となっても、信じ続けるのか?

そんなことはしなくていい。その時は戦うしかない。
守るために戦うことは、もはや正否を超えた、あって当然なものとなっている。

だが、勘違いしてはならない。
現実化する前の、根拠の無いあやふやな恐怖を、戦うことで消し去って良いわけではない。

相手が引き金を引くことで、初めて恐怖は具現化するのだ。
それ以前は、まだ細くても糸がつながっているはず。それを太くする努力を続けよう。
もし戦いが起こったとしても、今後起こらない方法を模索していこう。

武器を持ってはいても、それを使わない勇気を。

そうだ。そうなんだ。

( ^ω^)「……」

公園が、砂場が、急激に形を崩していった。
空の夕焼けは白い光に変わり、滑り台やジャングルジムは砂のように分解されていく。

全てが白い光の粒子に変った時、周りに広がるのはどこかで見た白い空間だった。

上下左右も分からない。ここがどこなのかも知れない。



  
144 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:12:43.77 ID:Pq8gNNQw0
  

どうすればいい?

そう自分に問い詰めたら、ひとつの答えが返ってきた。

( ^ω^)「あっち……かお」

見つめた先は、ある一方向。
その先に行かなければいけないようだと、ブーンは直感的に感じ取った。

それは遠いかもしれない。永遠にたどりつかない場所かもしれない。

だが、行けないことはない。



だって、こことあそこは道でつながっているのだから



  
145 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:15:22.03 ID:Pq8gNNQw0
  

道も、行き先も、走り方も分かっているんだ。

だから……走ろう!

( ^ω^)「……行くお!」

中学の学生服が、変化し始めた。
黒い詰襟から、今の自分が普段着ている私服に変わる。

セーターとズボン。ただそれだけ。

指輪をズボンのポケットにしまい、ゆっくりと足を踏み出したブーン。

白い翼も、白い剣も持たない。

その身ひとつだけで、ブーンは走り出す。

⊂二二二( ^ω^)二⊃「ブーーーーーン」

思いっきり足を上げ、腕を振って走る。
行き先がどんな所かは分からない。
けど、走らなくちゃいけない。

逃げてはいけない。退いてもいけない。

もう走れるんだ。
怖がらずに、笑顔で!



  
148 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:17:56.04 ID:Pq8gNNQw0
  

ブーンは一心不乱に足を動かし続けた。

( ゚ω゚)「おっ!」

急ブレーキをかけて止まるブーン。
目の前を見れば、そこには地面を大きく裂いている黒い地割れ。

右と左を見て、その地割れはどこまで続いていることを確認する。
どうやら避けることはできなさそうだった。

対岸までは4メートルぐらい。
走り幅跳びが苦手な自分としては、なかなか辛い距離だった。

( ^ω^)「……お?」

と、後ろに気配がして、ブーンは振り返る。
そこには、4つの白い光が浮かんでいた。

( ^ω^)「これは……」

ふわふわと浮かぶ光の球を見て、その暖かさのおかげか、決心がついた。

ブーンは再び前を向き、助走をつけるために走り出す。



  
150 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:20:08.29 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「はぁ!」

思いっきりジャンプするブーン。

だが、思ったよりもジャンプが高くない。

( ゚ω゚)「ま、まずいお!」

このままでは黒い奈落の底に落ちてしまう。
ブーンはぎゅっと目を瞑る。

だが、背中からドン!という衝撃を受けて、跳躍の距離が伸びた。
なんとか対岸の地面で受け身を取り、崖を乗り越えたブーン。

後ろを振り返ると、4つの光の球が笑うように飛び交っていた。

ブーンは目を細めてその光を見つめる。
ありがとう、と礼を言うと、4つの光は、それより早く行け、という返事をしてきた。





分かる。それは、流石兄弟、モナー、ハインリッヒの光だ。



  
154 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:22:23.91 ID:Pq8gNNQw0
  

見知った光は、徐々にその光量を薄めていき、ついには消えていった。
それぞれ満足した感じだったのは、気のせいじゃない。

ブーンは、彼らがずっと傍にいるということを確信し、前を向いて走り出す。

( ^ω^)「はぁ、はぁ」

さらに走り続けること2、30分。
体力という概念がここにあるのかは分からないが、ブーンは息切れを起こし始めていた。
行きたい場所があるというのに、走れないというのは、なんともどかしいことか。

だが、足と腕の疲労に勝てるはずもなく、ブーンはついにその場にしゃがみこんだ。

( ^ω^)「はぁはぁ……お?」

また、白い光が現れた。
今度は3つ。それぞれ、こちらの周りを飛び交ってきては、何か言いたげに近寄ってくる。

まず、ひとつの光、自分の目の前でこう言った。「頑張れ」と。

その声は、落ち着いた大人のもの。人生の道しるべを立て、いろんなことを教えてくれる人のもの。


狐、だ。



  
157 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:24:47.93 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「はぁはぁ……」

残り2つの光は、自分の足と腕の周りを飛び交っている。
すると、徐々にだが疲労が取り除かれていっているように思えた。
特に、足の周りを飛んでいる白い光は、優しい光を浴びせてくれている。

これは、しぃ。
そして、もうひとつの光は、ぃょぅ。

ふたつの光は「これで大丈夫」とでも言いたげに、身体の周りを飛び交うのを止めた。

ブーンはゆっくりと立ち上がると、身体の疲労が全て取れていることに気がついた。

( ^ω^)「……ありがとうだお」

3つの光は、満足気に消えていった。
だが、寂しくない。一緒に走っているようなものなのだから。

ブーンは軽い足を前に投げ出し、スピードを上げていく。



  
159 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:26:27.84 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、そこで気がついた。1度しゃがみこんだから、どこに行けばいいのか分からなくなっていることを。

( ^ω^)「しまったお……」

右と左を見て、上も見る。
完全に道が分からなくなっている。

途方にくれたブーンだったが、不意にふたつの光が目の前に現れた。


こっちだ、早くしろ。
がんばれぇ〜。


互いに寄り添うようにしながら宙を漂い、道を示して消えていった光。

それはきっと、ジョルジュとつーなんだろう。

ブーンは彼らが示してくれた道を走る。

走り続ける。

( ^ω^)「……もう少し!」

目的の場所が近付いてきたのを実感し、ブーンはさらにスピードを上げる。



  
162 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:29:06.40 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、そこでいきなり、上から黒い球のようなものが落ちてきた。
ブーンは避けようと身体をひねるが、間に合いそうもない。

当たる。
そう思った瞬間、後ろから白い何かが飛んできて、その黒い塊を粉々に打ち砕いた。

( ^ω^)「なっ……」

後ろを振り返ると、そこにはひとつの白い光が。

優しく、それでいて厳しい目が自分を見つめている。
自分の何倍もの年を重ね、様々なことを知っているであろうその目。
ギコだ、あれは。

しょうがねえな、お前は。

そんな声が聞こえると同時に、次々に振ってくる黒い塊を、その光は白い矢で貫いていく。

その間に、ブーンは前へと進む。
後ろの光は背中を押してくれている。援護してくれている。

ギコの光が見えなくなったぐらいのこと。
目的地は近い。この道のりも、もう終わり。



  
164 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:31:40.46 ID:Pq8gNNQw0
  

だが、急に嫌な予感がして、ブーンは立ち止まる。

それは的中し、今度は黒い壁のようなものがいきなり現れ、立ちはだかった。

(;^ω^)「ど、どうすれば……」

戸惑い、右と左を見る。
道は全て黒い壁にふさがれてしまっている。
これでは進めない。あと少しなのに。


そうして出てきた、最後の白い光。

それは、宙を漂っていたかと思うと、黒い壁を一閃のし、進路を切り開いた。

刀と長い髪が見えたような気がして、ブーンは目を見開いてその背中を見つめた。

暖かい。自分をいつも見てくれていた人。
ずっと、自分を守ってくれた、一緒に戦ってくれた、その光。


安心して行け。


そんなクーの声が聞こえて、ブーンは力強く頷いて、走る。

もうすぐだ。もうすぐたどりつく。



  
167 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:34:16.41 ID:Pq8gNNQw0
  

そうしてたどりついた、この世界の果て。
白い空間の端っこ、それ以降は全てが黒く塗りつぶされており、目の前には巨大な崖が立ちはだかっている。

ブーンはその端っこに立ち、下を見つめた。
何も見えない。本当の暗闇がそこには広がっている。

怖い。
けど、ここに行かなくては始まらない。自分が行きたい場所に行けない。

それが分かってはいるものの……恐怖は、自分の心を押しつぶしてくる。

(どうした?)

声が、聞こえた。

懐かしく、それでいていつも身近にいてくれた人の声。

自分の……友達の声。

振り返ると、やっぱりみんながいた。

ツンの、素直じゃないけど優しい光。
ドクオの、おちゃらけつつも親しげな光。
ショボンの、頼りになる光。



  
168 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:36:43.90 ID:Pq8gNNQw0
  

(怖いのか?)

ドクオの光がそう尋ねてきて、ブーンは「うん、ちょっとだけ」と答えた。

(大丈夫さ、君ならね)

(;^ω^)「けど……ここから先は、暗くて何も見えないお」

(私達も一緒よ……みんな、一緒にいる。あんたの胸の中にいる)

( ^ω^)「そうなのかお?」

ツンの光の言葉に、ブーンは自分の胸に手を当てた。
確かに、聞こえるような気がする。
みんなの光が、この先を照らしてくれているような気がする。

(あんたは、色々な人と接し、彼らの言葉を聞き、その心を見てきたでしょう?
そこから得たものは、みんなあんたの中にあるはず。
それを元に考えて、自分の道を探し出した。そうでしょう?)

( ^ω^)「みんなの心が……僕に……」

(さあ、行こうぜ)

(僕達も一緒に行って、見てるから)

(今度は、あんたの心を……みんなに見せましょう!)



  
170 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:39:34.43 ID:Pq8gNNQw0
  

みんなの心が僕の中にある。
みんなの心を、見せてもらった。

だから、今度は自分の心を見せよう。
今こうやって考えていることを、みんなに伝えよう。

( ^ω^)「……行くお!」

(ああ、行ってこい)
(君なら大丈夫!)
(きっと……!)

みんなの声を背に、意を決して飛び込んだ崖。

どんどんと落ちていく。
下があるのか分からないけど、自分は今落ちている。
そこは暗闇が広がっていると思いきや、自分の中から発せられた白い光が空間に溶け込み、徐々に辺りを照らしていった。



  
171 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:41:51.72 ID:Pq8gNNQw0
  

そうなんだ。こうやって、黒と白が混ざりあえばいい。

それと同じだ。

色々と対極に位置するものはたくさんある。

本能と理性、戦うことと戦わないこと、右と左、
新しいものと古いもの、内と外、白と黒、自分と他人。

そんな、両立せず、矛盾するとされているものを、あえて合わせればいい。
そうやって出来上がったものが、自分のとるべき道。

それでも間違いは起きるだろう。
けど、それを糧にして人間は進んでいく。

ゆっくりだけれども、確実に。何十も世代を重ねていって。

だから、可能性はたくさんある。
もしかしたら、自分の考えたこんなものよりも、もっとすごいものを後々に考えてくれるかもしれない。

それに賭けたっていいはずだ。

人は、少しずつ進んでいくのだから。

だから、自分も進もう。
今、こうやって一歩を踏み出そう。



  
172 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:43:46.69 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「……お?」

目の前に現れた白い光。
それは、もう誰なのかはわかる。『従者』だ。
けど、今度は誰かの姿をとっていない。いや、今度は……

( ^ω^)

自分の姿だ。

( ^ω^)「そうだったのかお……」

一歩を踏み出すのなら、やはりここからだったのだ。
いつだって、虚栄心を取り払わなくてはならない。

まずは、僕は僕を受け入れよう。

ブーンは手を伸ばし、『従者』の腕を取った。

( ^ω^)「君は……僕だったのかお」

にこりと、『従者』が笑った。
『従者』は再び白い光になって、身体に入り込んでくる。

僕は、僕を受け入れた。



  
179 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:55:39.23 ID:Pq8gNNQw0
  

( ^ω^)「……うん、そうだお」

さあ、僕は心を開こう。

みんなに、自分に、様々な人に。
理性も感情も、恐怖も勇気も、悲しみも喜びも、全部、全部ひっくるめた、



僕の、心を。







  
180 : ◆ILuHYVG0rg :2007/02/06(火) 23:56:25.65 ID:Pq8gNNQw0
  



8枚の翼は、その大きさをさらに増していった。

今や、世界の全てはブーンと一体化していたとも言える。

だが、まだ残り少なくその世界にいた人々は、空を覆っていた白い光が、さらに光り始めたのを見た。

それは、まばゆいほどの光。

世界を包み、地球を包み、そして宇宙にまで届こうとする光。






彼の心が、全てに届いた瞬間だった。



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