( ^ω^)ブーンが心を開くようです

  
112: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:11:11.91 ID:7fQNAVNT0
  



( ・∀・)「くそぉ! くそっ! どうして『VIP』がこんなに早くここに……!」

教祖専用の部屋にて、モララーはひとり叫び声に近い愚痴をこぼしていた。
彼は、『VIP』と思われる軍隊が攻めてきたと聞いた途端、この部屋に逃げるようにして入ってきたのだ。

この部屋は防弾ガラスや防弾壁で囲われており、ちょっとやそっとでは侵攻されない。
それに、秘密の脱出路だってある。比較的安全な場所だ。

けど、命の保証がなされたわけではない。早く逃げないといけなかった。

( ・∀・)「ジョルジュ! ジョルジュはどこだ!」

モララーは自分の護衛人の名を呼ぶが、しかし姿を現さない。
いつもは一声かけるだけで現れるはずなのに、これはどうしたことだ?

( ・∀・)「くそぉ、どうして誰もこない!」

いったいどうしてこんなことになった。
自分はこんな所で終わるような人間ではない。
ラウンジ教は、自分の地位をあげ、自分を世界で唯一の存在とするために、ここまで苦労を重ねて大きくしていった団体だ。

自分のための、大事な大事な道具。せっかくここまで鍛え上げていったのに、こんな所で死んでしまっては元も子もない!



  
115: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:13:40.23 ID:7fQNAVNT0
  

机の中からトカレフ拳銃を出したモララーは、「死なない、私は死なない」とぶつぶつ唱えながら、いつ敵がここに入ってきてもいいように、扉に向かって銃口を向ける。

と、突然扉ががちゃりと空いた。

( ・∀・)「あああああ!!!!」

モララーは恐怖に陥って、引き金をしぼる。
だが銃弾は発射されない。ど、どうして?

「セーフティ解除を忘れるぐらいに混乱しているということか。無様だな」

「そう言うな兄者。狂わないだけ大したものだ」

( ・∀・)「だ、誰だお前達は!」

部屋に入ってきたのは3人。顔の似ている兄弟らしき2人と、中年にさしかかると見られる男が1人。

どれも見たことのない顔で、モララーはますます混乱し、トカレフの引き金を何度もしぼる。
だが、銃弾は一向に発射されない。

( ´_ゝ`)「無様すぎてどうしようもないな」

(´<_` )「これも人間というものなんだよ、兄者」

( ,,゚Д゚) 「……」

手ぶらながらも、余裕の表情で近づいてくる3人。



  
117: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:16:08.27 ID:7fQNAVNT0
  

( ・∀・)「く、くるなあ! くるなあ!」

モララーは拳銃を3人に向けつつ、秘密の脱出路がある壁の方へと向かう。

壁に小さくついているボタンを押せば、自動ドアのように壁に通路が現れ、そこから外に逃げ出せる仕組みだ。

モララーは迷わずボタンを押した。すぐに壁に穴が現れ、モララーはほっと息をついた。

が、通路に入ろうとした瞬間、前から人影が現れ、ドンと押されて部屋に戻された。

从 ゚―从「……」

( ・∀・)「ひ、ひぃ! ど、どうしてお前がここに!」

通路にいたのはハインリッヒだった。
いつもジョルジュの後ろにくっついているだけの、金魚の糞のような女。
今まで喋ったところを見たことがなければ、修行に参加したこともない。気味の悪い女。

从 ゚―从「逃げるのは許さない……」

( ・∀・)「く、くそぉぉぉ!!!」

見知らぬ男3人とハインリッヒ。
交互に銃口を向けるモララー。その手は震え、歯はガチガチと音を立てている。完全に恐慌に陥っていた。

しかし、相手4人はまったく動こうとしない。ただモララーを見つめているだけ。



  
119: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:19:43.17 ID:7fQNAVNT0
  

( ・∀・)(なんなんだよぉ、こいつらは!!)

そんな時間が数十秒過ぎると、また扉が開いた。
次に入ってきたのは、待望の男――ジョルジュだった。
  _
( ゚∀゚)「……教祖様」

( ・∀・)「ジョルジュ! 遅いじゃないか! 早く私を助けろ!」
  _
( ゚∀゚)「ええ、今助けますよ」

ジョルジュが拳銃を取り出す。モララーは今度こそ助かると、息を吐いた。
セーフティを解除し、ジョルジュは引き金に指をかける。

その銃口は、しかしこちらに向けられていた。

( ・∀・)「な、何のまねだ!」
  _
( ゚∀゚)「教祖様……あなたの役目はもう終わりました」

パン!
  _
( ゚∀゚)「現実という束縛から、今助けてあげましたから。安らかに眠ってください」

モララーの意識はすでになかった。
眉間にたったの1発の銃弾が命中しただけで、人間は死ぬ。
モララーは恐怖にゆがんだ顔のまま、静かに倒れこんでいった。
彼の口からは、最後の言葉すら出されることがなかった。



  
120: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:22:18.34 ID:7fQNAVNT0
  


  _
( ゚∀゚)「……みんな、そろったな」

( ´_ゝ`)(´<_` )「ああ」
( ,,゚Д゚) 「おう」
从 ゚―从「……うん」

モララーの死体だけがある部屋の中。

ジョルジュ、兄者、弟者、ギコ、ハインリッヒの5人は互いを確かめ合うように顔を見合わせ、頷きあった。

ジョルジュは手にしていたマグナム拳銃を腰のホルスターにしまい、ふぅと一息つく。
  _
( ゚∀゚)「兄者、C4の設置状況は?」

( ´_ゝ`)「完了している。あんたの言うとおり、30分後にはここは全て火の玉だ」

兄者がにやりと笑いながら言う。



  
123: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:25:15.11 ID:7fQNAVNT0
  
  _
( ゚∀゚)「よし。ギコさん、『VIP』とラウンジ教の戦況は?」

( ,,゚Д゚) 「『VIP』優勢だ。おそらくあと20分もすれば決着はつくぜ、ゴラァ」

ギコが難しい顔をしながら答えた。
  _
( ゚∀゚)「わかりました……高岡、脱出路は?」

从 ゚―从「大丈夫……任せて」

無表情のまま、ハインリッヒは呟く。
  _
( ゚∀゚)「頼むぞ。よし、弟者、無線の用意を頼む」

(´<_` )「わかってるさ。ほら」

弟者は呆れ顔で無線を放り投げる。ジョルジュはそれを上手く掴みとり、うなずいた。
  _
( ゚∀゚)「みんな、ご苦労さまだな。これで最終準備は終了だ」

仲間の顔を順番に見つめながら、ジョルジュは一息に言った。
  _
( ゚∀゚)「もうすぐ祭りが始まる」

( ´_ゝ`)(´<_` )「……」
( ,,゚Д゚) 「……」
从 ゚―从「……」
  _
( ゚∀゚)「みんな、死ぬな」



  
129: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:33:00.18 ID:7fQNAVNT0
  



ピー、ピー

川 ゚ -゚) 「ん? 無線機か?」

ブーンを探して建物中を探し回っていたクー。
たった今、兵士を無力化させたイングラムを下げ、無線機に手を伸ばす。

川 ゚ -゚) 「私だ」

『俺だ……』

川 ゚ -゚) 「……誰だ?」

『俺だよ、クー』

川 ゚ -゚) 「誰だと言っている!」

聞きなれない声。機械で変えられた、不自然なほど低い声。
しかし、なんだろう。自分はこの口調を知っているような気がした。



  
130 :VIP魔法使い:2006/11/17(金) 01:35:52.74 ID:7fQNAVNT0
  

『もう忘れたのか? まあいい……今から20分後、この建物はC4によって塵となる』

川 ゚ -゚) 「なに!?」

『できるだけ脱出させることだな。死者を増やしたくなければ……』

川 ゚ -゚) 「貴様、誰だ!」

『ディープ・スロートとでも名乗っておこう。はは!』

ぷつり、と無線が切れた。

川 ゚ -゚) (ディープ・スロート……アメリカのウォーターゲート事件の内部告発者?)

そんなわけがない。これは何かの冗談だろう。
ただ、こんな冗談を、自分は1度聞いたことがある。あれは確か……

川 ゚ -゚) (こんなことを考えている場合じゃない! C4だと……まさか)

匿名の情報はこれが初めてじゃない。
もしかしたら『ツンはラウンジ教にさらわれた』という電話も今のと同じ人物かもしれない。

もし本当ならば、これは由々しき事態だ。

川 ゚ -゚) 「……」

クーは考える。



  
131 :VIP魔法使い:2006/11/17(金) 01:38:43.96 ID:7fQNAVNT0
  

もしこれが本当なら、建物内部にいる人間はもちろんのこと、モナーやぃょぅもその爆発に巻き込まれるだろう。そうなれば全滅だ。

無駄死には避けたい。死ぬ必要のない命をなくす必要はない。

爆発の可能性があるのなら……選択肢はひとつだ。

川 ゚ -゚) 「【コウモリ】!【バッファロー】! 聞こえるか!」

(=゚ω゚)ノ『なんだょぅ?』
( ´∀`)『どうしたモナ?』

川 ゚ -゚) 「今すぐこの場から離れろ! できるだけ遠くにだ!」

(=゚ω゚)ノ『ど、どうしてだょぅ?』
( ´∀`)『何かあったのかモナ?』

川 ゚ -゚) 「C4で建物が爆破されるんだ! 私は館内放送をかけて、全ての人間に避難するよう呼びかける。
      お前達は避難の手伝いをするんだ! いいな!?」

(=゚ω゚)ノ『わ、わかったょぅ』
( ´∀`)『気をつけろモナ!』

こちらの緊迫した声を察してくれたのだろう。2人は素直に言うことを聞いてくれた。



  
134: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:41:50.49 ID:7fQNAVNT0
  

後はこちらの仕事だ。
まず館内放送をかけて兵士や研究員、信者達に避難を促し、特殊班にその手伝いをさせなければならない。
その後、自分はブーンとツンを探す。

川 ゚ -゚) (無事でいろよ、ブーン……!)

頼りにならずとも優しい少年。
彼のことを思い浮かべながら、クーは放送室に向かって一気に足を進めた。



クーの館内放送はすぐさま実行された。

『建物内にいる人間に告ぐ。すぐに戦いをやめ、外へと逃げろ。30分後にはこの建物は爆破される。死にたくなければ早くしろ! 
 繰り返す――』

しかし、ラウンジ教の人間は頑として逃げ出そうとはしなかった。
自分達の場所を守る。自分達の守るべきものを守る。
それだけが頭の中にある彼らには、見知らぬ人間の館内放送などに耳を貸すはずもなかった。

『VIP』の特殊班がなんとか彼らに戦いを止めさせようと説得するも、耳を貸そうともしない。



  
138: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:44:29.92 ID:7fQNAVNT0
  

しかし、状況はひとつの伝令で一変した。

それは幹部クラスの人間しか出せない特AAクラスの伝令だった。

ラウンジ教の人間はその伝令を聞いた瞬間、すぐさま『VIP』に投降し、建物の外へと避難を始める。

その伝令はなんだったのか?
内容はこうだ。

『モララー教祖からの命令:すぐさま『VIP』に投降し、彼らの言うことに従うこと』

ただそれだけの内容だった。
しかし、神ともあがめていたモララー教祖からの命令を、特AAクラスの伝令で伝えられたということが、ラウンジ教の人間にとって重要なのだ。
内容は二の次。「誰が出したか?」というのが問題なのであり、あとはその内容に従うだけ。

それがラウンジ教の『教育』の成果だった。





  
140: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:48:11.64 ID:7fQNAVNT0
  


――25分後

川 ゚ -゚) 「あと5分で爆発か……ブーン、どこにいる?」

すっかり人気のなくなった建物の中、クーは部屋のひとつひとつを丁寧に調べ、ブーンを探し回っていた。

あれからラウンジ教と『VIP』の人間は全員避難が完了したらしく、ついさっきぃょぅから連絡があった。

彼からは、『早くクーさんも逃げるょぅ!』と言われたが、そんなことはできない。
ブーンが脱出したという情報はまだない。まだブーンがここにいるかもしれないのだ。

早く見つけて、すぐに脱出しないといけない。

川 ゚ -゚) 「ここか!」

196号室の扉を開ける。そこには誰もおらず、中の収容者はすでに脱出した後のようだった。

ということは、後残っているのは195号室と司令室だけだ。

川 ゚ -゚) (ここにいないなら……私だけで脱出するしかないか)

ミイラとりがミイラになることだけは避けないといけない。
ブーンを見捨てるなんてことはやりたくはないが……

クーは廊下に出て、緊張した面持ちで195号室の扉に手をかけた。

と、その瞬間。



  
141: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:50:36.80 ID:7fQNAVNT0
  

目の前が光で覆われた。

川 ゚ -゚) (何! まだ爆発には早いはずだぞ!)

その光は自分の目を覆い、視界を全て白くする。

しかし、爆発の光ではないようだった。
爆音が聞こえないし、何より光の直撃を受けたのに自分の身体はまだ存在するし、意識だってある。

それに、この光は見覚えがあった。

川 ゚ -゚) (ブーン……?)

理由はわからないが、その光がブーンのものだとわかってしまった。

まるでブーンの心が自分に直接語りかけているかのような感覚。
頭の中に言葉を打ち付けられ、ブーンの感情が全て自分に入り込んでくる。

それは全て、悲しみに満ちていた。





  
143: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:53:22.63 ID:7fQNAVNT0
  


その光はドーム状に広がっていた。
地面に白いボール膨らんでいくかのように、真っ白で丸い光がそこから発せられていく。

爆発にありがちな轟音も、爆風もない。
無音の光だけが広がり、ついには建物全てを覆い尽くしてしまった。

『VIP』とラウンジ教の人々は驚愕に満ちた目で、それを見つめていた。
いまや、その光は膨らみきった風船のように、その形状をそのままに保っている。
爆弾が爆発すると知らされていた彼らにとって、それはあまりにも美しく、爆弾とは違った種類の恐怖を呼び起こす元となった。

畏敬。
人は自分に理解できないものを見た時、その感情を呼び起こすという。
まさしく彼らに襲い掛かっていたのはその畏敬の念だった。

まもなくその光は収束していく。ボールがしぼんでいくかのように、ひとつの場所へと縮んでいく。

そして、全ての光がなくなったその場所を見て、周りの人間はさらに驚かざるを得なかった。


かつてあったラウンジ教の建物は跡形もなく消え、


地面には隕石のクレーターのような穴が開き、


そしてその中心地点に、3人の人間が立っていたのだ。



  
145: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:55:49.40 ID:7fQNAVNT0
  

( ;ω;)「……」
ξ 凵@)ξ「……」
川;゚ -゚) 「……」

虚ろな顔をしたツン。
彼女を腕に抱えるブーン。
そして、呆然とした表情でその側に立つクー。

人々は何が起こったのかを理解できなかった。
だが、誰がこの現象を引き起こしたのかだけは、理解できた。

ブーン。『人の子』。

( ;ω;)「ツン……」

この現象を引き起こし、自分とツン、クー以外の全てを消滅させた彼は、ひとつの涙を地面にぽろりと落とした。



  
149: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 01:58:23.56 ID:7fQNAVNT0
  



( ´_ゝ`)「あれを、『人の子』が引き起こしたのか?」
(´<_` )「信じられないな」

( ,,゚Д゚) 「……」
从 ゚―从「……」

ジョルジュ、流石兄弟、ギコ、ハインリッヒの5人は、ラウンジ教の施設から遠く離れた丘の上で、事の終末を眺めていた。

それぞれが信じられないといった顔でクレーターを見ている中、ジョルジュは「そうだ」と彼らの疑問に答えるように呟いた。
  _
( ゚∀゚)「あれが本当の力……でもないな。力の一部でしかないだろ。
     あれは彼の怒りと悲しみが、無意識に抑圧していた力の一端を引き出したにすぎない。『心の開放』とでも言うかな。
     世界を導くと『人の子』なんだ。その気になれば、地球を丸ごと消し去ることもできるかも」

( ,,゚Д゚) 「……わかんねえもんだ、あのガキがねえ」
  _
( ゚∀゚)「ギコさん、実際に起こる『事実』とは疑いようもないほどの真実なんですよ。これがこの世界の真実です」

ジョルジュはしばらく複雑そうな顔でクレーターを眺める。
どうやらブーンはそのまま倒れてしまったらしく、救護班が彼の傍に近寄ってきているのが見える。



  
151: ◆ILuHYVG0rg :2006/11/17(金) 02:01:13.38 ID:7fQNAVNT0
  

ふっ、とジョルジュは笑い、4人の方へと向き直った。
  _
( ゚∀゚)「みんな、最後に確認したい」

その声が真剣味の帯びたものとなり、4人は自然と姿勢を正した。
  _
( ゚∀゚)「……祭りが始まれば、俺はたぶん、100年後の歴史の授業で大悪人として紹介されると思う」

寂しげな顔。けど、決意に満ちたその言葉。
  _
( ゚∀゚)「……それでも、ついてきてくれるか?」

( ´_ゝ`)「当たり前だ」
(´<_` )「これが俺たちの意志だから、な」
( ,,゚Д゚) 「人生最後の大博打だ。賭ける価値はあるさ、ゴラァ」
从 ゚―从「ジョルジュがそれを望むなら……私はついていくだけ」
  _
( ゚∀゚)「そっか」

ジョルジュは再びクレーターの方へと目を向ける。
風が彼の短髪とコートをたななびかせる。
コートから見え隠れする彼の身体は、まるで夜のような黒さを持っていた。
  _
( ゚∀゚)「ありがとな、みんな」

仲間達に向けられたそれは、最高級の笑顔だった。

第16話 完



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