( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:19:46.01 ID:WXn7MLxz0
  
その1 「バーボンハウス」

中方都市最下層。
ストリート・キッズと風俗嬢、ひたすらに神の啓示を垂れる浮浪者が、ここでは日常風景だ。
地下深くに作られたここでは、太陽光の配給など存在しない。
天井に作られたサン・ライトは十年前に割れてそのままだ。
ネオンの明かりと店舗の照明、ところどころに立つ街灯で割られていない物が約3割ほど。
ここで得られる光は、おおむねそんなところだ。

意識を取り戻したブーンは、雑然とした町並みの中を歩いていた。
足の痛みはもう収まり、慣れ親しんだ鈍痛が時折走る程度。
ストリート・キッズの「ばくしーしー」という物乞いの声を軽くスルーして、一つの店に入り込む。

『バーボンハウス』

路上から直接地下に続く階段を下りると、この界隈にしては珍しいほど地味な看板が、やる気なさげに点灯中。
酒と女と薬、その他諸々を取り扱う非合法ショップ。
店主の趣味でバーも兼ねているそこは、ここ一年ほど繁盛も寂れもせずに現状維持。
店舗の8割が非合法である最下層では、若干大人しいレベルに分類される。

( ^ω^)「どうも、だお」
(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ」

いつもの挨拶に、しょぼくれた顔の友人が出迎える。
店主兼店員兼マスター兼オーナーのショボン。
彼とブーンは、共同高校時代からの顔見知り。
脱サラしてショップを開くといったショボンを、当時のブーンは随分心配したものだった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:21:54.99 ID:WXn7MLxz0
  
店内には、時代錯誤のクラシック音楽とテレビからの音声が混じり合っていた。
テーブルには風俗嬢数人をはべらせた男と、数人で一つの水キセルを囲んだ黒ずくめが居た。
床に数人ほど転がっているが、いつものことなので気にしない。
おおかた低品質のドラッグが悪い方向にでもキマってしまったのだろう。ご愁傷様。

(´・ω・`)「ブーン、どうしたんだい? こんな朝早くに」
( ^ω^)「……ここは朝も夜も関係ないお」

それもそうだねという言葉を聞き流しながら、カウンターのスツールに腰掛ける。
目の前に滑り出てきた液体は、いつものサービステキーラだろう。
合成酒ではない、本物の上質酒であるそれを、ブーンは嫌いではなかったが遠慮する。
今は酔う気分でも場合でもない。

(´・ω・`)「それで、今日のご用件は何かな?」
( ^ω^)「情報が欲しいお。出来るだけ多く、広く、かつ正確な」
(´・ω・`)「それはそれは……なんとも贅沢なことだね」
( ^ω^)「でも、必要なんだお」

ポケットから海賊紙幣の束を取り出し、カウンターにドサリと置く。
最下層では都市政府発行の真札は流通してない。全てはこれだ。
周囲から紙幣に注がれる視線にブーンは気づいたが、一切無視。
ショボンはちらりと紙幣を目にしながらも、すぐに目をそらしてブーンを見つめた。
テレビから今日のニュースが流れ続ける。
今日は最近話題のミンチ殺人、心臓えぐり、連続窒息事件の三本立て。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:24:41.36 ID:WXn7MLxz0
  
(´・ω・`)「いくら積まれても無理なものは無理だよ」
( ^ω^)「ショボンなら情報を集められるはずだお」
(´・ω・`)「簡単に言わないで欲しいな。これでも僕は平凡な一市民だよ」

小さく息をつきながら、ショボンが紙幣の束をブーンに押し返す。
ブーンは沈黙。

(´・ω・`)「それに、そんな物を貰わなくても、知ってることぐらいは教えるさ」
( ^ω^)「それじゃ足りない、と言ったら?」

改めて、マジマジとブーンを見つめるショボン。
こいつ本気か? と言外に語る視線を、ブーンは真っ向から受け止める。

(´・ω・`)「……つまり、僕の知ってる程度の情報じゃ君の役に立たない、と?」
( ^ω^)「その通りだお。ありきたりな情報くらいじゃ、『奴ら』の足下にも近づけないお」

奴ら、と言ったブーンの表情が、一瞬、おそろしく凶暴なものになる。
ここ一ヶ月ほどで見せるようになった、暴力的な表情。
ショボンは背筋に冷たい汗が浮かぶのを実感する。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:27:00.67 ID:WXn7MLxz0
  
(´・ω・`)「君の気持ちはわかるよ。でも、やっぱり無理な相談だな」
( ^ω^)「……」

静かにショボンを見つめるブーン。
何も言わないが、その目は懇願ではなく、強制の色が強い。

(´・ω・`)「君の欲しがっている情報は、金とネットで得られるものじゃない」
(´・ω・`)「このあたりの情報屋に聞けばわかることだけど、あまりにも近づくのは危険なんだ」
( ^ω^)「……」

ショボンはそう言って、首を振る。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。ブーンは虎穴に入って情報を探れと、そう言っているのだ。

(´・ω・`)「誰だって、噛まれるとわかってて犬に触ろうとする人はいないよ」
(´・ω・`)「その犬に鎖がついてなくて、しかも狂犬病にかかってればなおさらだ」
(´・ω・`)「大切な情報や、悪い奴に関する情報は、それぐらい危険に秘匿されている」
( ^ω^)「ショボン。ボクは、強制するつもりはないお。でも、力を貸して欲しいんだお」

ありとあらゆる情報を集めることに定評のあるショボンは、この界隈ではそれなりに有名。
だが、彼の仕事は集めるだけ、危険なことにトライする義務はない。
しかし、その力を持っていることは、ブーンも知っている。

ブーンの瞳に、先ほどとは違う懇願の色が浮かぶのを見て、ショボンはため息をついた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:29:19.19 ID:WXn7MLxz0
  
(´・ω・`)「……わかった。でも、あまり期待しないでくれよ。僕も命は惜しいんだ」
( ^ω^)「わかってるお。無理にとは言わないお」
(´・ω・`)「どうだか。ま、頑張ってみるさ」

そう言って、酒の補充のために背を向けるショボン。
ブーンもまた、テキーラに手をつけずに席を立つ。
入り口に向かうブーンの背中に、振り返ったショボンが声をかけた。

(´・ω・`)「そういえば、今日は事件情報は聞いていかないのかい」

ここ最近、ブーンが執拗に聞き続けていた事件情報、特に殺人事件。
テレビでは視聴率優先で語られるために詳細が得られないと言って、ブーンはよく聞いてきていた。

( ^ω^)「今日は……必要ないお」

振り返り、笑みを浮かべるブーン。
これから恋人に会いに行くような、晴れ晴れとした笑顔。だが、どこか危ない。
ショボンの中に違和感が生まれる。

(´・ω・`)「ブーン……君、本当にブーンかい?」
( ^ω^)「……また来るお。情報よろしくだお」

ショボンの問いかけに答えず、入り口の扉を押し開いて外に出るブーン。
その背中に、ショボンは何も声をかけられなかった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/16(月) 00:32:12.57 ID:WXn7MLxz0
  
バーボンハウスを出たブーンは、再び歩き出す。
目的とする方向は判っている。
それこそ『足が勝手に動くように』ブーンは迷い無く歩き始めた。
途中でぶつかった風俗嬢がインポ野郎と毒づく。
一々訂正するのも面倒なので、そのままスルー。

ブーンは走り出したい気持ちを抑えて、メインストリートを歩く。
まだだ。まだ我慢。
行動を起こすのは、事が起こってから。
その方が捕捉できる確率は高いし、面倒も少ない。

再びブーンに声をかけようとしたストリート・キッズが、ぎょっとして道をあけた。
ブーンは凶暴な顔で笑っていた。


「バーボンハウス」終



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