( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

17: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:15:28.26 ID:03mleon20
  
その4 「悪魔会合」

ブーンがギコと遭遇して、一週間がたった。
あれからギコがバーボンハウスへやってくることはなく、最下層はいつも通りの喧噪に満ちている。

異常な事件、その中でも特に異常性を際だたせている事件を追い求めてブーンは捜索する。
心臓えぐりのように異常な事件は、ブーンと同じく『悪魔憑き』によるものが多いと思ったからだ。
確証はない。だが、ありえないとも言い切れない。
ショボンの情報には期待しているが、それだけでは集まる情報が少なすぎる。

メリルヴィルの晩餐。
ブーンに力を与え、捨てた組織。
せめて彼らの末端に接触できればと、藁にもすがる気持ちで始めた捜索。
それは実を結んだかと思ったが、あの一件以来、何の情報も掴むことは出来ていない。

( ^ω^)「……やっぱり、虎穴に入らなければならないのかお」

完全に手詰まりとなった捜索。
それでも諦めずにブーンは事件を探し、常夜の最下層を歩き回る。
ギコに接触するのは、出来るだけ避けたい。
得体の知れない相手でもあるし、何より自分の力でこの件は解決したかった。

悪魔憑きが近くに居れば、『足』が教えてくれるはずだ。
生きたセンサーを頼りに、ブーンはあらゆる場所へと足を向けた。



19: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:18:21.16 ID:03mleon20
  
メリルヴィルの晩餐について、ブーンは多くを知らない。
最初にして最後の接触――『悪魔憑き』にされた時に得られた情報は大きかったが、それからの進展はゼロ。
わかっていることはギコが語ったこととほぼ重なる。

悪魔憑きの情報にしても同様に少ない。
体の一部を依り代にして悪魔の特性を体に降ろす邪法。
一般には秘匿されているが、その存在は一般社会に食い込み、人々の生活を直接的、間接的におびやかす。
完全に独立した結界として人の体を捉え、その内に高次の存在を召喚した『生けるデーモントラップ』。
魂を元に契約する魔女などと違って限定的な契約であるため、魂は負の引力に引きずられて堕ちることはない。
しかし、適正の無い者が悪魔憑きの儀式を受けた場合だけは別だ。
一瞬でその魂と肉体は食い荒らされて、地獄へと真っ逆さまに落ちることとなる。


馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑うような話。
ブーンも、普通であればこんな話は到底信じなかっただろう。
科学と合理性で出来た都市の中で、悪魔だとか魂だとかを、存在するかのようにのたまう。
狂った信者共が描いた妄想だと、何も知らない人からは一蹴されること間違いなしだ。
だが、これが本当の話であることは、誰よりもブーン自身が体験している。
そしてブーンは、大切なものを奪い取った奴らを許さない。



20: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:20:45.79 ID:03mleon20
  
( ^ω^)「お?」

メインストリートから若干離れた路地に入ったとき、ブーンの目に言い争う二つの人影が飛び込んできた。
一人は男、もう一人は女。
風俗関係だと一目でわかる女に、男はしつこく絡んでいた。

( ゚∀゚)「なあ、いいだろ? ちょっと胸を見せてくれるだけでいいんだよ」
女「いやだって言ってんじゃないの!! この体だって金がかかってんだ、あんたにタダで見せる筋合いはないよ!!」
( ゚∀゚)「いいじゃねーか、減るモンじゃなし。ちょっとばかしポロリを恵んでくれたっていいだろよ」
女「しつっこいねぇ!! それ以上言うなら店のモン呼ぶよ!!」

言い争いを続ける二人。
大方、女を買った男が金払いをしぶるか何かしたのだろう。
このあたりではそれこそ日常茶飯事の光景だ。
ブーンは興味を失ってその場を離れようとした。
正義面をして助けるほど暇ではないし、助けて利があるわけでもない。
無色透明の無関心。
それが下層で生きる賢い術である。



22: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:22:51.68 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「まぁまてよ、ちょっとだけでいいんだって。な?」
女「嫌だってば!! イカ臭い手で触んじゃないよっ!!」

――パシンッ

鋭い破裂音に、思わずブーンが足を止めて振り返る。
見ると、女が手を振り抜いた姿勢で止まり、男は横っ面を張り飛ばされて顔を横に向けていた。
ああ、まずいな、とブーンは思った。
言い争いならともかく、ああされては男も引っ込みがつかないだろう。
しかも、よく見ると男の右頬が裂けて血が流れ出ている。
女の指に嵌めた指輪で頬肉がざっくり切れたらしい。
メインストリートの喧噪が遠く聞こえる路地裏。
数人の浮浪者の目があるにせよ、男が暴力をふるうことにためらうはずがない。

( ゚∀゚)「……」
女「あ……あんたが悪いんだよ!! し、しつこくするから!!」

言い訳をするように吐き捨てる女。
男はゆっくりと顔を戻し、頬に左手を当てた。

( ゚∀゚)「……いてぇ」

頬に当てた手を開いて、そこに血がついていることを確認。
意外と深い傷だったのか、その血はかなりの量だ。



24: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:25:07.89 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「あーあーあーあー……血が出てるよ。こんなに、大量に」

そう言って、男は口元に手を持って行き。
べろり、とその手についた血を舐め取った。

( ゚∀゚)「もったいねー。もったいねーなー、血がこんなに出てるじゃねーか」

べちょり、べろり。べちょり、べろり。
頬に手をあてては付いた血を舐め取る。
何度もその行動を繰り返す男の異様さに、女がおびえて後ずさる。

( ゚∀゚)「もったいねーなー、おい。血ってのは命なんだぜ。滋養なんだぜ。栄養なんだぜ」

べちょり、べろり。べちょり、べろり。
べちょり、べろり。べちょり、べろり。
べちょり、べろり。べちょり、べろり。

幾度となく繰り返される男の奇行。
耐えきれなくなったのか、女が悲鳴を上げて背を向ける。
そして逃げようとして、しかしそれは叶わなかった。

( ゚∀゚)「まあ待てよ」

男が右手を伸ばし、女を掴む。
ブーンの足がギクリと痛む。
瞬間、女の体が猛烈な音と腐臭をあげて瞬く間に腐った。



25: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:27:53.03 ID:03mleon20
  
――バジュウゥゥゥゥゥ

女の体の水分が蒸発し、残った肉がみるみる腐敗していく。
あたりに漂う猛烈な腐臭。
女は悲鳴を最後まであげきることなく事切れた。

( ゚∀゚)「あ、しまった。またやっちまった」

ふと気づいて、男が腐り果てた死体から手を離す。
死体はそのまま膝を折り、腰が折れ、背骨も何もかもがぐずぐずとなって地面に広がった。
完全に液状の腐肉となった死体は、ぷつぷつと泡立ちながら未だに腐り続けている。
それを見るブーンの足は、ズキズキと鮮明な痛みを送り続けていた。

( ゚∀゚)「あー、もったいねーな。どうせなら血を啜ってからやるんだった」

いかんなぁ、どうもがさつなんだよなぁ。だから彼女もできねーのかなぁ。
そう言いながら、男が右手に付いた腐肉を払う。
ぴしゃりと壁に張り付いたそれを一瞥し、次に視線をブーンに向けた。

( ゚∀゚)「まあいいか。代わりに栄養になりそうな奴もみっかったことだしな」

ブーンの足が、一際大きくジクリと痛んだ。



26: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:29:46.41 ID:03mleon20
  
( ^ω^)「お前……『悪魔憑き』かお」
( ゚∀゚)「もちろんそうだぜ。あんたもそーだろ?」

秘密を見せびらかすように、右手をひらひらと振る男。

( ゚∀゚)「俺はジョルジュ。ジョルジュ長岡。あんたは?」
( ^ω^)「ボクはブーンだお」
( ゚∀゚)「ブーン?」

ジョルジュの顔がひそめられ、何かに思い当たるような表情を見せる。

( ゚∀゚)「……ああ、思い出した。ちょっと前のデキソコナイか」

せせら笑うようにブーンを見るジョルジュ。
その目が足に向いていることを確認し、ブーンは期せずして組織と接触できたことを確信した。

( ゚∀゚)「あんたの足、痛むだろ? そりゃそうだよな、うまく癒合せずにそのまま捨てられたんだから」
( ^ω^)「お前、組織の人間なのかお」
( ゚∀゚)「組織? おお、一ヶ月ほど前まではな。今は一介の浮浪者同然だけど」

軽く笑うジョルジュ。
一ヶ月ほど前までということは、今は組織を離れているということだろうか。
それでもかまわない。少しでも情報を得ることが出来るなら、なんでもいい。



27: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:31:19.53 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「まあ、ここで知り合ったのも何かの縁だ。よろしくやるか、よろしく殺り合うか、どっちがいい?」
( ^ω^)「お前みたいな奴とよろしくやるのは御免だお」
( ゚∀゚)「つれないこったね。んじゃ、殺り合うとするか」

悪魔憑きを喰うのは久しぶりだから、丁度いいや。
そう言葉を続けて、ジョルジュが右腕に力を込める。
右手が黒く変質し、鱗が生え、その長さが二倍ほどに伸長。
爪が牙のように鋭く尖り、関節の無くなった腕が、じゃらりととぐろを巻いた。

( ゚∀゚)「俺はジョルジュ長岡。憑いてるのは『ニーズホッグ』。あんたの持ち駒は?」
( ^ω^)「知らんし、知りたくもないお」
( ゚∀゚)「ほんっと、つれないよなぁ。そんなんじゃ女にもてないぜ?」
( ^ω^)「お前こそ、右手にそんな汚いモンぶら下げてたら、まともな女は寄りつかないお」
( ゚∀゚)「ひゃひゃ!! ちがいねぇ!!」

軽口をたたき合いながら、ブーンとジョルジュが間合いを詰めていく。
じゃらり、じゃらりと音を鳴らしながら、ジョルジュの右腕が鎌首をもたげて威嚇する。

( ^ω^)「もしかしたら殺してしまうかもしれないから、先に聞いておくお」
( ゚∀゚)「あん? なんだ?」
( ゚W゚)「ツンは……ボクと一緒にお前達がさらった人は、どうした」
( ゚∀゚)「はぁ? ツンだぁ?」

ギラリと凶暴な顔を覗かせて、ブーンが問う。
その顔をニヤリと笑いながら眺めて、ジョルジュは言い放った。

( ゚∀゚)「……くっちまったよ。胸はたいしたことなかったが、中々うまかったぜぇ」
( ゚W゚)「そうか。じゃあ死ね」

両足に猛烈な風をまとわりつかせて、ブーンはジョルジュに向かって突進した。



28: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:33:09.73 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「死ねと言われて死ぬ奴がいるかよォ!!」

高く嘲笑しながら、ジョルジュは突進するブーンに対して右腕を大きく振るった。
長く伸びたそれは、地面をえぐり、壁をぶちこわし、それでも勢いよく迫ってくる。

( ゚W゚)「ふっ!!」

ブーンは両足に力をこめて跳躍。
足下を通り過ぎる黒い鞭をかわして、一気にジョルジュに攻撃をしかけた。
だが、眼前にブーンが迫っても、ジョルジュは顔に張り付かせた嘲笑を崩さない。

( ゚∀゚)「かみ砕かれて、腐って死ねバーカ」

ごう、と背後から猛烈なプレッシャーを感じる。
ブーンは本能的に体を捻り、背後に迫る何かに向かって、鋭く風を巻き付けた蹴りを放った。
背後にあったのは、長く伸びた上にぐるりと周回してきたジョルジュの右腕――ニーズホッグ。
蛇の頭に似た形をもつ先端を蹴り飛ばし、ブーンは勢いもそのままにジョルジュの後方に着地した。

( ゚∀゚)「おお、やるじゃねーか。大抵の奴はあれで死ぬんだけどな」
( ゚W゚)「お前のその腕……蛇か」
( ゚∀゚)「蛇っつーか、元は邪龍らしいけどな。まあ、あまりかわんねーだろ」

伸びきった右腕を手元に戻しながら、ジョルジュがブーンに体を向ける。
その背後、ニーズホッグがえぐった地面や壁が、材質に関わらず腐敗しているのを見て、ブーンは一筋の汗を流した。



29: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:34:49.07 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「俺はあんまり好きじゃないんだよ、これ。なんでも腐らせちまうし、見てくれも悪い」
( ゚∀゚)「でも、殺るのにはすげーいいから、とりあえずこれで我慢してる」

じゃらり、じゃらりと。
右腕を頻繁にくねらせながら、ジョルジュはブーンに話しかける。
心理戦などを狙っているのではないだろう。
ジョルジュという男は、いつどんな時でもこうなのだ。

( ゚∀゚)「お前の足のそれ、結構いいよな。カマイタチも起こせるみたいだしよ」
( ゚∀゚)「それで首をパツーンを飛ばせば、うまく血が飲めそうだぜ」

だから、それ、もらうな。
そう言ってジョルジュが右腕を振りかぶる。

( ゚∀゚)「ほいさっと!!」

空気を切り裂いて振るわれるニーズホッグ。
その黒い軌跡から、何か無数の細かい物体が散らばって飛んだ。

( ゚W゚)(広い――よけきれない!!)

広範囲に広がるそれは、ブーンの速度でも避けきれる物ではない。
考える暇もなく、ブーンは両足から凄まじい勢いで風を前方に向かって噴出させた。



30: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:37:02.92 ID:03mleon20
  
ぶあっ、と目に見えるほどの密度で広がる風の障壁。
瞬間的に大型台風をも凌ぐ勢いの風圧は、しかし飛来する物体の全てを防ぎきることは出来なかった。
ぼ、ぼぼっ、と音を立てて、数個ほどが障壁を貫通。
そのうちの一つが、ブーンの右前腕部に着弾した。

( ゚W゚)「ぐぁっ!?」

風の勢いで更に後方へと退いたブーンは、痛みの走った右腕に視線を落とす。
羽織っていた厚手の上着を貫通して、親指の爪くらいの、ギラギラと光る黒い物体が突き刺さっていた。

( ゚W゚)「くそ……鱗か」
( ゚∀゚)「ご名答!! 腐りはしねーけど、イタイだろ? どんどん行くぜぇ!!」

笑いながらジョルジュが連続して腕を振り回す。
腕が払われるたびに、ニーズホッグの体表から射出される無数の鱗。
まるでショットガンのように飛び来るそれは、致死性でなくとも多くもらえば動けなくなる。

( ゚W゚)「そうそう――何度もくらうか!!」

ブーンは連続して風を噴出させ、防壁を張りながらも高速で移動。
急加速と急減速により凄まじいGがブーンを襲う。
生身のままの脳と眼球は、幾度と無くブラックアウトを起こしそうになる。
指先などの毛細血管がパンパンにふくれあがって、いくつかが内出血をおこし始めた。



31: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:39:39.46 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「おいおい、大丈夫か? そろそろグロッキーになってきたんじゃあねーのか?」
( ゚W゚)「お前は自分の心配をしていろ。腕にプラプラと卑猥なモンぶら下げた阿呆が」

ひゃひゃひゃ、と笑うジョルジュ。
♪ 右腕ヘビさんプーラプラ  ♪ 股にもも一つブーラブラ
ブーンの言い回しが気に入ったのか、即興の歌を楽しげに歌っている。

( ゚∀゚)「楽しいねぇ、嬉しいねぇ。あんたガチガチの真面目君かと思ったら、そうでもなさそうじゃねーの」
( ゚W゚)「お前と話す口はない。臭い息を垂れずにかかってこい」

ジョルジュの笑みが深まる。
その間にも絶えず放たれる鱗の攻撃を避け続け、ブーンは高速で飛び回った。

( ゚W゚)「ふっ!!」

ブーンは右足を鋭く一閃。
鱗の隙をついてカマイタチを飛ばすが、ジョルジュは右腕をなぎ払ってそれを打ち消す。
鱗が数枚ほど飛び散るが、ジョルジュにはダメージが無いようだ。

強い。
今更ながらに、ブーンは相手の力量が自分を遙かに上回ることに気が付いた。
ジョルジュの攻撃は大雑把で荒い。
しかし、その荒さを上回るほどの反応と圧倒的な力。
ブーンの足はまだ動くことが出来るが、それに振り回される生身の部分は、そろそろ限界にさしかかっていた。



32: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:41:58.91 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「足下がお留守だぜぇ!!」
( ゚W゚)「しまっ……っ!!」

疲労の色が濃くなったブーンの一瞬の隙をついて、鋭く放たれる鱗の一撃。
それまでの物とは違い、複数枚の鱗を束ねたそれは、ブーンの生身の太股を大きく抉り抜いた。

( ゚W゚)「がぁっ!!」

大きくバランスを崩すブーン。
そのまま埃まみれの地面に、背中から勢いよく落下する。
肺の中の空気が押し出され、軽い呼吸困難になる。
激しい運動により酸素を要求していた体は、酸素が途絶えると共に激しい痙攣を起こした。

( ゚W゚)「が、ぐ……くそっ」
( ゚∀゚)「あんた、まだ戦い慣れしてないな? それでも、デキソコナイとは言えなかなかのもんだったぜ」
( ゚W゚)「く……知るか……」
( ゚∀゚)「へっ、そうかい。褒めてやってんのによぉ」

休み無く振るっていた腕を止めて、ジョルジュがブーンを見下ろす。

( ゚∀゚)「まあ、悪く思うなよな。俺は食事を邪魔されんのが大っ嫌いなんだ」
( ゚∀゚)「喰い損ねた分は、あんたからきっちり頂くぜ」

そう言ったジョルジュの右腕が、大きく先端から上下に裂けた。
その内側には、無数の牙が並んでいる。
ジョルジュはブーンを、文字通り『喰う』のだろう。

ブーンはゆっくりと迫ってくる牙を見つめながら、最後の反撃のために両足に力を込めた。



33: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:44:50.80 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「……」

だが、ジョルジュはその腕をそのまま進めようとはしなかった。
それどころか、ブーンから視線を外し、ブーンの後方に目を向けている。
その目は新しいオモチャを見つけたかのように光を放ち、顔の笑みは一層ギラついて見えた。

( ゚W゚)「……?」

不審に思ったブーンは、現状を忘れて思わず後ろを振り返る。
そしてそこに、黒い軍用コートを羽織った長身の人影を発見した。

(,,゚Д゚)「なかなか面倒な事に巻き込まれているようだな」

都市警のギコが、いつのまにかそこに現れていた。



34: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:48:19.97 ID:03mleon20
  
( ゚∀゚)「やれやれ……誰かと思えば、あんたか」
(,,゚Д゚)「ふん。腐った臭いがするとは思ったが、やはり貴様か」

目を合わせた二人が言葉を交わす。
旧知の間柄なのか、その言葉には親しみすら感じられるほどの敵対心が感じられた。
ジョルジュが開いていた腕を手元に戻し、戦闘態勢を取る。

( ゚∀゚)「それで、何の用だ? まさかこのデキソコナイを引き取りに来たのか?」
(,,゚Д゚)「そんなつもりは毛頭無い。俺はただ、貴様らを潰すために行動するのみだ」
( ゚∀゚)「おいおい、本気で言ってんのか、ギコさんよ」
(,,゚Д゚)「貴様ごときにジョークをきく口は持ち合わせておらん」

ギコはゆっくりと、しかし自然な足取りでジョルジュに近づく。
それを見たジョルジュは、円を描くようにして間合いを取った。
先ほどまでのブーンとの戦闘では、見せたことのない慎重さ。
それがすでに、ギコの実力を示していた。

(,,゚Д゚)「貴様と俺の相性は最悪だ。貴様には万に一つの勝ち目もないぞ」
( ゚∀゚)「そいつぁどうかな。もしかしたら勝てるかもしんねーぞ?」
(,,゚Д゚)「強がりはよすがいい。貴様の手の内は全て知り尽くしている」
( ゚∀゚)「……クソッタレが」

変わらず笑みを浮かべながらも、憎々しげに吐き捨てるジョルジュ。
混沌としてきたその風景は、しかし更にその度合いを深めることになる。



35: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:52:31.27 ID:03mleon20
  
/ ,' 3「その辺でやめておかんかね、『破軍』よ」

不意に上空から投げかけられた声に、その場にいた者達全てが上方を仰ぎ見る。
そこには、闇色のローブを纏った老人が浮遊していた。

( ゚∀゚)「『文曲』か……。余計なお世話だ、クソじじい。俺の食事の邪魔すんじゃねーよ」
/ ,' 3「ほ。いつにも増して元気なことじゃの。じゃが、そろそろ大人しく帰らんかね」
( ゚∀゚)「誰が、あんな陰気くせぇとこに帰るか」

諭すように話す老人に向かって、ジョルジュは吐き捨てるように言い放つ。
その瞳は紛れもない殺気を放っているが、態度はどこか子供っぽい。
まるで親に説教をくらう子供のようだと、ブーンは場違いなことを考えた。

/ ,' 3「まったく、世話がやける。我らが主にも、もう少し放任主義を見直していただかんとな」
( ゚∀゚)「一年に一度顔を出すか出さないかの主なんぞ知ったことか。俺はもう飽き飽きしてんだ」
/ ,' 3「それで、都市に出てやることは人食いかね? 少しは中間管理職の苦労も考えんか」

老人はやれやれと首を振ると、今度はギコに視線を移した。



36: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:56:15.35 ID:03mleon20
  
/ ,' 3「お前さんにも帰って来て欲しいんじゃが、やはり無理なんじゃろうなぁ」
(,,゚Д゚)「当然だ。俺はもう、貴様らと組む気はない」
/ ,' 3「そう駄々を捏ねずに。『禄存』も欠席であることじゃし。それに『廉貞』も待っておるぞ」
(,,゚Д゚)「……今は、敵だ」

『廉貞』という言葉が出た瞬間、ギコの強い眼差しが一瞬だけ曇る。
心の底を掻き乱されたような苦々しい表情が、その冷徹にも見える顔に浮かんだ。
その顔は後悔、そして諦めの表情のようにもとれる。

(,,゚Д゚)「……帰ってあいつに伝えろ。出来ることなら、俺の目の前にはもう現れるな、とな」
/ ,' 3「あの子がその言葉を飲むかどうかはわからんぞ?」
(,,゚Д゚)「それでも、だ。そこの馬鹿を見逃すんだ、そのくらい頼まれてくれてもよかろう」
/ ,' 3「ふむ、それなら仕方がないの」

長く伸びた顎髭をしごきながら、未だ空中に浮遊して頷く老人。
どのような力が働いているのか、そのローブは小揺るぎもせず、まるで地面があるかのようにそこに立っている。



38: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:59:37.11 ID:03mleon20
  
/ ,' 3「では、行こうか『破軍』よ」
( ゚∀゚)「はぁ? 勝手に話を進めんじゃねーよじじい!! 俺は帰るつもりなんざねーぞ!!」

話がついたと思ったのか、老人は眼下のジョルジュに向かって話しかける。
ジョルジュはそんな老人を見上げながら、反抗するように叫んだ。

( ゚∀゚)「俺はもう抜けたんだ、『破軍』なんて名前で呼ぶんじゃねー!!」
/ ,' 3「我らが主はそう思っとらん。お前は未だに組織に名を連ねておる」
( ゚∀゚)「仲間をぶっ殺した奴に、おめでてーこった。勝手にほざいてろ、俺は帰んねーからな!!」

そう言い放つと、ジョルジュは右腕を大きく振った。
じゃらじゃらと鱗を鳴らしながら、ニーズホッグが長く伸長し、ジョルジュの足下にとぐろを巻く。
その上に飛び乗ると、ジョルジュの体はふわりと宙に浮き上がった。

( ゚∀゚)「ったく、勝手に色々しゃしゃり出てきやがって。興ざめだぜ」
/ ,' 3「またんか!! こりゃ!!」
( ゚∀゚)「知るかってんだ耄碌じじぃ!! せいぜい元気にマスでもかいてな!!」

わざわざアカンベェをしたジョルジュは、その身を加速。
凄まじい勢いで路地裏をすり抜け、暗闇へと消えていった。



39: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/17(火) 00:02:56.06 ID:/ylaXmqY0
  
/ ,' 3「やれやれ……困った奴じゃの」
(,,゚Д゚)「少しなら同情はしてやろう」
/ ,' 3「そう思うなら、儂の苦労を減らすために戻ってきて欲しいもんじゃな」

大きくため息をつく老人に、ギコが無感動に言葉をかける。
わかっていたことだが、二人は随分と深い知り合いのようだった。
殺意を振りまいていたジョルジュが消えたことにより、張りつめていた場の空気が和み、霧散していく。
この奇妙な会合が終わりを告げようとしていることを感じ取り、ブーンは痺れる体を起こして、老人に声をかけた。

(;゚ω゚)「ちょっと待つお!!」

震える腕を踏ん張って、空中の老人を見上げる。
老人は、まるで初めて存在に気づいたかのようにブーンを冷たく見下ろした。

/ ,' 3「なんじゃね、お前さんは」
( ゚ω゚)「ボクの名前はブーン。お前達に聞きたいことがあるんだお」
/ ,' 3「ブーン……?」

ブーンの名前を聞いた老人が、ジョルジュと同じような反応を返す。
やはり、何か思い当たる節があるらしい。



40: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/17(火) 00:06:58.59 ID:/ylaXmqY0
  
/ ,' 3「ふむ……いいじゃろ。言ってみなさい」
( ゚ω゚)「ボクは……ボクは、お前達に無理矢理『悪魔憑き』にされたんだお。そして大切な人を奪われたんだお」
( ゚ω゚)「ボクと一緒に連れて行かれた人は――ツンは、どうしたんだお」

言うことを聞かない体を、必死に押さえつけながら。
それでも、返答によっては許さないという気迫をこめて、ブーンは頭上の老人を睨み付ける。
だが、老人はその視線をどこ吹く風といった感じで受け流しながら、静かな声で問いかけに答えた。

/ ,' 3「全てを忘れ……静かにその短い生を全うするがいい、若者よ」
/ ,' 3「そしてその生涯において二度と、その尊き御名を口にしてはならん」

言い終えて、老人はブーンに背を向ける。
言外に、この話は終わりであると強く告げて。
それでもなお続けようとしたブーンの目の前で、老人のローブがゆらりと歪んだ。

――ごうっ

一陣の強い風が、老人に吸い込まれるようにして吹きすさぶ。
思わず目を閉じたブーンが再び目を開けた時、すでに老人の姿はその場から消えていた。



41: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/17(火) 00:09:14.41 ID:/ylaXmqY0
  
(,,゚Д゚)「……大丈夫か、ブーン」

老人が消えたことを確認したギコが、ブーンに歩み寄る。
未だに体の自由が利かないブーンを、力強い腕で支えて立たせた。

(,,゚Д゚)「お前の事情は知らん。だが、お前も奴らには何らかの縁があるようだな」

助け起こしたブーンに、存外優しい声音で話しかけるギコ。
張りつめていた緊張がほぐれ、かろうじて繋がれていた意識が瞬く間に闇に落ちていくのを、ブーンは感じた。
隣で何かしらしゃべり続けるギコの声が遠くなる。
周囲が暗闇に飲み込まれる途中、ブーンはただ一つの事だけを考えていた。


――『全てを忘れ……静かにその短い生を全うするがいい、若者よ』
――『そしてその生涯において二度と、その尊き御名を口にしてはならん』



42: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/17(火) 00:12:01.79 ID:/ylaXmqY0
  
奴は。おそらく組織に属する老人は、ツンの名前を『尊き御名』と言った。
ツンの現状は知らない。だが、生きていることは間違いない。

( ^ω^)(生きてさえいれば、必ず会える。助けられる。だから)

――だから、もう少しまっていて欲しいお

それだけを考え終えると、ブーンの意識は暗転した。


※ジョルジュ長岡
27歳。『メリルヴィルの晩餐』七柱の一人『破軍』。
元々は陽気な男だったが、三年前に組織に属してからは残虐性を増す。
いつも滋養と健康に飢えており、食事を邪魔されることを最も嫌う性格。
ニーズホッグ 《Nidhhoggr》出身地:北欧
ジョルジュの右腕に憑く悪魔。龍族で、分類は邪龍。
自在に長さを変えることができ、先端の牙からは全てを腐敗させる『フヴェルゲルミルの水』が分泌されている。
その体表は鉄よりも固く、鱗をショットガンのように飛ばすことも可能。
ニーズホッグはゲルマン神話における最も邪悪な存在。
「怒りに燃えてとぐろを巻く者」「あざ笑う殺人者」「恐るべき咬む者」など様々な二つ名で呼ばれ、恐れられている。
イグドラシルというトネリコの大樹の根の1本に噛み付き、世界の滋養を奪い、世界に暗い影を及ぼしている。
そして世界の終末ラグナロクの日には、イグドラシル全体を倒してしまうとされる。
霧深きニフルヘイムに湧き出ている、フヴェルゲルミルの泉という有毒の熱泉の底に潜んでいると言われる。
ニーズホッグはイグドラシルの根の滋養だけでは飽きたらず、死者を喰らい、その血をすするものとされている。


「悪魔会合」終



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