( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

4: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 23:57:23.32 ID:HAy5Gwiz0
  
その6 「体温」

襲撃後の後始末を終えて、ブーンとギコがバーボンハウスへとやってきたのは、翌日の昼頃。
一睡もせずに後始末に追われていたために、睡魔は限界にまで達している。
ショボンはレストルームの貸し出しを提案したが、二人はありがたく思いながらも拒否。
まだ寝るわけにはいかないし、聞きたいこと、話したいことが山ほどあるからだ。

ドクオとクックルの襲撃によって被った被害は、最下層市民の1/5の死亡。
これを多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところであるが、おそらく敵の目論見は外れたはずだ。
全市民を都市の浄化機能にて一斉に殺害するという計画からしてみれば、僥倖であったとみるべきだろう。

(,,゚Д゚)「とりあえず、都市警本部に来ている通達も『現状維持』だそうだ」

いち早く情報を聞きつけて上層へと非難していたショボンに、ギコが昨日のことを説明する。
ブーンの事情を全て聞かされていたショボンだったが、そのスケールの大きさには面食らったようだ。



5: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:00:00.91 ID:L3hgvnyl0
  
(´・ω・`)「さすが超大規模のカルト教団、といったところかな」

二人にサービステキーラを出して、自分の分を用意しながらショボンが感想を述べた。

(,,゚Д゚)「カルト教団、とは違うんだが。まあ、一般の見地から見れば同じようなものか」
( ^ω^)「そういえば、組織はどのくらいの大きさなのかお?」
(,,゚Д゚)「ああ、まだ詳しくは話せていなかったな」

良い機会だから、全て教えよう。
そう言って、ギコが自分の知りうる情報を語り始めた。

(,,゚Д゚)「『メリルヴィルの晩餐』に、俺は三年前まで入信していた。それも、七柱の一人『破軍』としてな」

その言葉を聞いて、ブーンは、やはりそうかと納得した。
ギコの今までの話しぶりからして、組織に属していたことがあることは明白だった。
しかし、まさか組織のトップである七柱の一人として所属していたとは思わなかったが。



7: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:01:22.09 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「俺が抜けた理由は……まあ、個人的な理由だ。どうでもいい。
     ちなみに、今現在『破軍』を占めるジョルジュは、俺の後釜として指定された男だ。
     以前から入信していた熱心な信者だったが、昇格して悪魔憑きとなった」
(´・ω・`)「その、七柱ってのは全員が悪魔憑きなのかい?」
(,,゚Д゚)「そうだ。逆に言えば、悪魔憑きは全て七柱に数えることが出来る」
( ^ω^)「ちょっと待って欲しいお。ボクがこの前見つけた、心臓えぐりの男は違うのかお?」
(,,゚Д゚)「それは多分……違うだろうな。奴はお前と同じく、試験的に悪魔憑きにされただけだろう。
     『文曲』――荒巻という、この前の老人がそうなんだが、奴によれば七柱に一人欠番が出ていたらしいからな」

その穴を埋めるために試験的に悪魔憑きにされたものの、上手くいかなかったので捨てられた。
つまりは、そういうことらしい。

(´・ω・`)「物騒なことだね。そんな存在を都市内に放つなんて」
(,,゚Д゚)「奴らにとってしてみれば、都市は一つの実験場みたいなものだからな。細かなフォローなぞ期待できん」
( ^ω^)「それでも、心臓えぐりの被害者は結構な数だったお……」
(,,゚Д゚)「100人前後の人死になど、奴らには些細な事だ。それは今回の襲撃計画でも明白だろう」

そう言って、テキーラを軽くあおるギコ。
それもそうだ。何せ、最下層市民を全て虐殺して『生け贄』とするような奴らなのだから。



9: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:04:27.39 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「まあ、とにかく、だ。悪魔憑きは俺達以外、全て敵。しかも七柱の人間と見て間違いないだろう。
     悪魔憑きを作れるのは組織の人間だけだし、まともな悪魔憑きは全て組織が管理するからな」
( ^ω^)「あれ……じゃあ、兄者と弟者も組織から抜けた人達なのかお?」

先の戦闘で超常の力を使役していた、顔のよく似た男達を思い出す。
あれは間違いなく悪魔憑きでしか使えない力だ。

(,,゚Д゚)「いや、あいつらは違う。あいつらは、俺が組織に対抗するために作り出したホムンクルスだ。
     あいつらは生まれつき悪魔を身に宿している。俺達のような悪魔憑きとは異なる存在だ」
(´・ω・`)「そんなことまで出来るのかい?」
(,,゚Д゚)「組織を抜ける際に、あらかじめいくつかの資器財と資料を持ち出していたからな」

そこまで言って、ブーンの責めるような視線に気づく。

(,,゚Д゚)「……俺だって、好きで戦いの道具としてあいつらを作り出したわけじゃない」
( ´ω`)「あう……ごめんだお」
(,,゚Д゚)「いや、かまわん。俺のした行為は、そういう目で見られるべきものだからな」
(´・ω・`)「本能的な嫌悪感を感じてしまうのは仕方がないからね」

さりげなくフォローを入れるショボン。
彼だけは、淡々とテキーラを口に運び続けていた。



13: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:06:25.71 ID:L3hgvnyl0
  
(´・ω・`)「それで、その兄者さんと弟者さんはどうなったの?」
(,,゚Д゚)「ああ……。あいつらは、現在療養中だ。体の浸食も進んでいたので、その治療もかねてな」
( ^ω^)「体の浸食が?」
(,,゚Д゚)「そうだ。あいつらはホムンクルスであるがゆえに、完璧に悪魔を制することができん。
     ゆえに、どれだけ破壊されようとも脳が無事な限り死にはしないが、悪魔の浸食だけは避けられん」

人間と違って、悪魔を縛る魂がないからな、と続けるギコ。

(,,゚Д゚)「あいつらは、力を使うたびに少しずつ体の浸食が進む。
     初めは肘から下、次に上腕部、胸。段々と悪魔に『喰われて』いく」

自らの腕を指でなぞりながら説明する。
そして、そのまま視線をブーンに向けた。

(,,゚Д゚)「お前も覚えがあるだろう。お前は、どれだけ進行しているんだ?」
(´・ω・`)「ブーンが……?」
( ^ω^)「……今は、足の付け根のあたりまで来てるお」

足をさすりながら、ブーンが応えた。



14: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:07:32.11 ID:L3hgvnyl0
  
異変に気づき始めたのは、丁度心臓えぐりの一見があってからだった。
初めて力を本格的に使った、悪魔憑きとの戦闘。
その後、痛みを感じていた部分が、徐々に上に上がってきていることに、ブーンは気づいていた。
初めは膝より少し下に痛みを感じていたが、戦闘後は膝が、更にジョルジュとの戦闘後は腿の半ばあたりに痛みがあった。

ブーンが感じている痛みは、不完全な悪魔との癒合による痛みである。
つまり、痛みを感じている部分が生身と悪魔との境界線。
ブーンの足は、すでにそのほとんどが悪魔化していた。

( ^ω^)「これは、他の悪魔憑きでもこうなるものなのかお?」
(,,゚Д゚)「いや、それはない。現に俺や他の悪魔憑きは、最初に悪魔を憑かせた部分から浸食は進んでいないからな」
(´・ω・`)「じゃあ、何故ブーンだけがこんなことに?」
(,,゚Д゚)「おそらくは、不完全な癒合をしてしまったせいだろう。傷口の消毒が不完全なまま放置されているようなものか」
( ^ω^)「じゃあ、このまま力を使い続けたら……」
(,,゚Д゚)「おそらく、全身を悪魔に喰われて地獄落ち……だろうな」

物騒な話を淡々と締めくくって、ギコは沈黙した。
ブーンとショボンも続けて沈黙する。
あたりに重苦しい空気が広がった。



17: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:09:45.96 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「……だが、それは逆にチャンスでもある」
(´・ω・`)「チャンス?」
(,,゚Д゚)「そうだ。浸食が今の段階まで進んだとき、ブーンは今までより遙かに強い力を発揮した。
     完全な悪魔憑きですら行うことが難しい『形質変化』をすることすらできたほどにな」
( ^ω^)「形質変化っていうと、あの翼が生えた時かお?」
(,,゚Д゚)「そうだ。悪魔の力を最大限に引き出せば、その力は肉体にまで影響を及ぼす。
     俺やジョルジュ、クックルのような場合がそれだ」

左腕を持ち上げて見せるギコ。
ブーンは戦闘時にその腕を覆っていた鱗を思い出し、頷いた。

(,,゚Д゚)「その点で言えば、ドクオはそれほど強い訳じゃない。力は強いが、形質変化を習得していなかったからな」
( ^ω^)「心臓えぐりの犯人も、外見は特に変わらなかったお」
(´・ω・`)「外見を変化させることができるかどうかが、一つの力の判断基準ってことだね」
(,,゚Д゚)「極論すればそうだ。もっとも、外見を変化させることが能力である奴もいるから、一概には言えんがな」

そう言うとグラスを持ち上げ、少なくなったテキーラを一気にあおるギコ。
ショボンがお代りを入れようとするのを止めて、ギコは体ごとブーンに向き直った。



19: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:11:57.17 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「俺がお前の浸食をチャンスだと言った理由は、二つある。一つは、敵がお前の実力を過小評価していること。
     今まではまともな戦力が俺だけだったから、相手の油断をつく意味でこれは大きい。
     二つめは、その力を使ってお前の浸食を止めた上で敵を無効化できるかもしれないことだ」
( ^ω^)「浸食を……止める?」
(,,゚Д゚)「今現在、お前を含める悪魔憑きは、全てがあの『悪魔降ろし』で召喚した悪魔を使用している」

アメリカを奈落落ちさせた、超大規模な召喚儀式。
その儀式は、大物小物を含めて、実に100を越える悪魔を呼び出したという。

(,,゚Д゚)「その儀式で使用された祭具。あの時は鏡を使用したんだが、それを破壊すれば、
     召喚された悪魔は全てこの世での力を失って、元いた場所に帰るだろう」
(´・ω・`)「儀式の核を破壊すれば、全て元の鞘におさまると。そういうことかな?」
( ^ω^)「でも、その鏡がどこにあるのかわからないお……」
(,,゚Д゚)「問題ない。鏡がどこにあるのかはわかっている」

驚いた顔をして見返してくるブーンとショボン。
二人にニヤリと笑い返して、ギコは言った。

(,,゚Д゚)「もっとも、あの場所から移動していなければの話だが……まあ、問題ないだろうな」



20: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:13:19.29 ID:L3hgvnyl0
  
『メリルヴィルの晩餐』 礼拝堂

暗く陰鬱な空間に、滲み出るようにローブを羽織った老人が現れた。

(*゚ー゚)「あら、おかえり荒巻さん」
/ ,' 3「ふむ、ただいま」

どこから持ち込んだのか、漆黒のソファに寝そべるしぃがひらひらと手を振って荒巻を出迎える。
その様子は気怠げでもあり、淫靡的な雰囲気でもある。

(*゚ー゚)「それで、どうだったの?」
/ ,' 3「うむ。やはり、ドクオとクックルはやられておったよ」
(*゚ー゚)「あらまぁ……やっぱりねー」
/ ,' 3「まったく。突っ走ったあげくに無駄死にしおって」
(*゚ー゚)「ほーんと。迷惑ったらありゃしないわ」

ぶつぶつとぼやく荒巻と、あっけらかんとした態度でそれに同意するしぃ。
二人の様子には、死んだ仲間に対する情はおろか、死者に対する敬意すら、微塵も感じ取ることはできない。



21: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:14:25.17 ID:L3hgvnyl0
  
(*゚ー゚)「まあ、ドクオっちもクックルちゃんも、あまり長生きしないタイプだったし。仕方ないんじゃない?」
/ ,' 3「仕方ないの一言ですめば苦労せんわい」
(*゚ー゚)「すまないの?」
/ ,' 3「無論じゃ。あのような奴らでも、いなくなれば戦力はガタ落ちじゃからの」

やれやれといったように、大きくため息をつく荒巻。

(*゚ー゚)「でも、どうせいらなかったんだからいいじゃない。主の力があればらくしょーでしょ」
/ ,' 3「主か……」

その名前を聞いた荒巻の顔が、苦々しげにしかめられる。

/ ,' 3「あの方の力は強大すぎる。あの方に出向いてもらうのは、最後の手段にせねばならん」
(*゚ー゚)「えー、なんでなんで?」
/ ,' 3「なんでも何も、あの方の『フェンリル』を解放すればこの都市ごとわしらまで消滅してしまうわい」
(*゚ー゚)「それは困るわねー」

こわいこわい、とおどけるしぃ。それを見て、更にため息をつく荒巻。
この所、荒巻はため息ばかりついているような気がして、更にため息をつきそうになる。

(*゚ー゚)「でも、そんなことも言ってられないんじゃない?」
/ ,' 3「なんじゃと?」
(*゚ー゚)「だってほら、お客さんが来たみたいよ」

しぃがそう言うと同時。
礼拝堂の壁が、爆発して吹き飛んだ。



22: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:15:31.51 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「よし。入り口は開いたな」
(;^ω^)「開けた、の間違いじゃないのかお……」
(,,゚Д゚)「以前も言ったが、都合の悪いことは聞こえないタチなんでな」

そう言ってニヤリと笑うギコ。
ギコは冷静沈着な性格だとブーンは思っていたが、どうやら認識を改めなければならないようだ。

( ^ω^)「それにしても、まさかこんなところに根城があるなんて思いもよらなかったお……」

呟いて、ブーンは辺りを見回す。
ここは都市最上部、自然の光を十二分に享受できる居住区のど真ん中。
その中でも一際突出した高層ビル、その最上階のある一室に『メリルヴィルの晩餐』の根城はあった。
悪魔信仰というイメージから大きくかけ離れた場所。
部屋の中こそ暗闇に満ちてはいたが、外に面した廊下の窓からは、中天にさしかかった太陽光が降り注いでいる。



24: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:17:16.55 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「思いもよらない場所にこそ、こういった悪は住み着くものだ」
/ ,' 3「えらい言われようじゃの。おまえさんだって少し前まではここにおったじゃろうに」

爆発の粉塵が落ち着いた頃、暗闇に閉ざされた部屋の中から荒巻が現れた。
相変わらず飄々とした風情で、優雅に顎髭をしごいている。

/ ,' 3「まったく。いきなり乗り込んでくるのはともかく、ノックの一つくらいしてはどうかね」
(,,゚Д゚)「すまんな。ノックはしたんだが、力加減をあやまった」
/ ,' 3「『ファフニール』で壁をぶち壊すのはノックとは言わんよ」

やれやれと頭をふる荒巻。
その時、ギコの背後に立っていたブーンが前に出て、荒巻を鋭く睨み付けた。

( ゚ω゚)「じいさん、ツンはどこだお」
/ ,' 3「む……お前さんはこの前の……」
( ゚ω゚)「ブーン、だお」
/ ,' 3「儂は荒巻じゃ。ふむ……あのお方を取り戻すために、ここまで来るということは……」

荒巻の視線が鋭くなり、ブーンを威圧するように細められる。

/ ,' 3「儂の警告は無視した、ということか。ならば、それなりの覚悟はできておるんじゃろうな」

膨れあがる殺気。
しかし、ブーンはそれを意に介さずに言葉を返す。



26: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:18:39.29 ID:L3hgvnyl0
  
( ゚ω゚)「ツンはボクの大切な、命よりも大切な人だお。ツンを助けるためなら、地獄でもどこでも行ってやるお」
/ ,' 3「ほ、いいよるわ。本当の地獄がどんなものかも知らずにな」

かか、と笑う荒巻。

/ ,' 3「まあええ。それでギコ、お前さんは今日はなんの用かね?」
(,,゚Д゚)「貴様らの力の源であるご神体を、破壊しにきた」
/ ,' 3「ほう、あの『鏡』をな。だが、我らがそれを許すと思うてか」
(,,゚Д゚)「無論、思ってなどおらん。実力行使だ」

全身から闘気を立ち上らせて、ギコが獰猛に笑う。
そして、黒い鱗を纏った左腕を持ち上げて見せた。

(,,゚Д゚)「今日こそは、貴様らの目論見全て、潰してみせる」
( ゚ω゚)「ツンも返してもらうお」
/ ,' 3「ふむ。ギコ、お前さんの用件は把握した。じゃが……」

そう言って、ブーンに視線を向ける荒巻。

/ ,' 3「わからんのはお前さんじゃよ、ブーン。あのお方とお前は、何の繋がりもない筈じゃがの?」



29: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:23:38.95 ID:L3hgvnyl0
  
ギコがその言葉を聞いて、眉をひそめる。
そしてブーンに向かって問いかけた。

(,,゚Д゚)「どういうことだ、ブーン……。その、ツンというのは、お前の恋人か何かじゃないのか?」
( ^ω^)「ボクは今まで誰かと付き合ったことはないお。ツンは、彼女なんかじゃないお」
/ ,' 3「それどころか、あのお方とお前さんは、ここに連れてこられた時期が同じなだけ。
    生まれも育ちも違うお前さん達には、それまで一度も面識などある筈もない。そうじゃろう?」

荒巻の言葉に頷くブーン。

/ ,' 3「では、何故そうまでしてあのお方に執着する。まさか一目惚れしたと言うのではあるまいな」
( ^ω^)「そんなんじゃないお。確かにツンは綺麗だし、ボクの好みにバッチリだお。でも……」

心臓辺りの服を、ぎゅっと掴むブーン。

( ゚ω゚)「そんな見た目がどうとかじやなく、ボクはツンを一目見て、大切な人に出会えたことを確信したんだお。
     ずっとずっと待っていた人に出会えたような、そんな感覚がしたんだお」
/ ,' 3「ほう……。どうやら、相当に思いこみの激しい性格か。それともただのヒロイズムに酔っているのか」
(,,゚Д゚)「……」

ブーンは荒巻をじっと見つめている。
その眼差しを見て、ギコは口を開いた。



31: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:24:33.48 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「……いいだろう。ブーン、お前の理由がなんであれ、俺はお前を信じよう」
( ^ω^)「ギコ……ありがとうだお」
/ ,' 3「なんとまあ、酔狂なことじゃの」
(,,゚Д゚)「世界秩序の崩壊を望む組織を潰しに来ているんだ。少しは酔わんと、やってられるか」

軽く笑い、荒巻の嘲笑を受け流すギコ。

(,,゚Д゚)「ブーン。お前がそう信じたのなら、それは確かにお前の中での真実だ。
     思う存分、惚れた女を守り通してみろ」
( ^ω^)「わかったお。絶対に、ツンはボクが助けてみせるお!!」

そう言って、ブーンもまた両足の力を解放する。
みりみりと音をたてて変質するブーンの両足。
今まで血の通っていた足に冷たい何かが流れ込み、下から徐々に『生身でない何か』に置き換わっていく。

( ゚ω゚)「ボクは絶対にツンを守るお。ツンはボクにとって、かけがえのない存在なんだお。
     だから――だからそのために、ボクはお前らを殺すお。ツンに害成す存在全てを消し去るお」

やがて、冷たい流れは腿の辺りから飛び出し、それは一対の黒い翼を形作った。

( ゚W゚)「ボクが得たこの力、この肉、その全て。それらをお前達にくれてやる。だから」

ばさり、と力強く翼を打ち振るブーン。そして疾走。

( ゚W゚)「ツンは……。ツンだけは返してもらう!! 絶対に!!」



33: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:27:07.94 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「ふ……惚れた女のためとはいえ、元気なことだ」

荒巻との戦闘に入ったブーンを見て、ギコが軽く笑う。
だが、その笑いは目の前に現れた女性によって掻き消された。

(*゚ー゚)「うふふ。まるで、昔のギコくんを見てるみたいよね」
(,,゚Д゚)「……しぃか。言ったはずだぞ、二度と俺の前に現れるな、と」
(*゚ー゚)「あら、あなたの方から会いに来たんじゃない」
(,,゚Д゚)「お前に会いに来たわけじゃない。用があるのは、奥の部屋にある鏡だ」

そう言ってしぃの背後、暗幕に隠された扉を見据えるギコ。

(,,゚Д゚)「そこをどけ。言うことに従えば、危害は与えない」
(*゚ー゚)「そんな強がり言っちゃってぇ。私知ってるよ? ギコくんがそんなこと出来るわけがないってこと」

そうだよねー、ギコくん。
昔と全く変わらぬ笑みを浮かべるしぃ。その顔にむかって、ギコは――熱線をはなった。



34: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:27:54.16 ID:L3hgvnyl0
  
――ボシュッ!!

一直線に伸びた火線は、しぃの顔があった場所を通り過ぎ、延直線上にあった暗幕を貫いた。

(*゚ー゚)「あー、びっくりした。危ないじゃないギコくん」

さしておどろいた様子も見せず、しぃが非難めいた口調で言う。
対するギコは最大限に苦々しげな表情を浮かべていた。

(,,゚Д゚)「俺が二度と現れるなと言ったのは何故か、わかるか」
(*゚ー゚)「わかるよー? ギコくんは、まだ私のことが好きだから。だよねー?」
(,,゚Д゚)「違う――いや、そうだな。半分は正解だ」
(*゚ー゚)「へぇ……じゃあ、もう半分は?」
(,,゚Д゚)「お前のことが、大嫌いだからだ」

強く言い放つギコ。
その言葉に対して、しぃは発作が起きたかのように大きく笑った。

(*゚ー゚)「あは、ははは、あはあはははー!! なにそれー、ギコくんおっかしー!!
    好きなのに大嫌いって、それおもっきり矛盾してるよー!!」
(,,゚Д゚)「仕方あるまい。それが本心だからな」



36: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:28:29.71 ID:L3hgvnyl0
  
ひとしきり笑い終わると、しぃは笑いを納めて真顔に戻った。

(*゚ー゚)「じゃあ、もう戻れないんだね」
(,,゚Д゚)「俺が鏡を壊さない限り、な」
(*゚ー゚)「それは無理だよ。だって、私がさせないもん」
(,,゚Д゚)「では、無理だ」
(*゚ー゚)「そっかぁ。無理かぁ」

ふぅ、と小さく息を吐く。

(*゚ー゚)「じゃあ、殺し合うしかないね」
(,,゚Д゚)「……」

ギコは無言。
最後ににこりと笑ったしぃにかける言葉を、今のギコは持ち得なかった。

かつて、互いの一番奥深くまで許し合った二人。
今は遠く離れてしまった二人の戦いは、静かな沈黙のうちに始まった。



37: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:29:36.22 ID:L3hgvnyl0
  
( ゚W゚)「はあぁっ!!」

気合い一閃。
両足の翼を大きく打ち振り、大気を切り裂いてブーンが疾走する。
その動きは直線的だが、目が追いつかないほどに早い。
だが、迫るブーンを見ても、荒巻は全く慌てず、むしろ冷静。
ゆったりと左腕をあげてブーンに向けた。

( ゚W゚)「くらえっ!!」

ごう、と空気をまとわり付かせた足をしならせる。
ブーンが引きずってきた空気の流れが、その足を中心に渦を巻き、無数のカマイタチを発生させた。
狙いは荒巻の細い首。
当たれば鉄筋すらも破砕する威力の蹴りを――しかし荒巻は左手一本で受け止めた。

/ ,' 3「ほぉ……不完全な融合をしたわりに、なかなかの威力じゃの」
( ゚W゚)「くそ……っ!!」

荒れ狂う風に長い顎髭をなびかせて、荒巻は笑う。
その左手に捕まれたブーンの足はビクともしなかった。



38: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:30:49.37 ID:L3hgvnyl0
  
( ゚W゚)「く……はなせっ!!」

右足を捕まれた姿勢のまま、左足を跳ね上げる。
荒巻はそれを見越していたかのように、ゆるりとした動作でこれも受け止めた。
両足を捕まれ、空中で無理矢理静止させられるブーン。
荒巻を見つめるその双眸が、ギラリと光る。

( ゚W゚)「かかったっ!!」

叫んで、空中に浮いたまま翼を大きくはためかせる。
凶悪なまでの大気の奔流をはらんだ翼は、それまでとは比べものにならない程にするどいカマイタチを生み出した。

/ ,' 3「む、こりゃいかん!!」

初めて慌てた様子を見せて、荒巻が両腕を戻して顔の前で交差させる。
吹きすさぶ烈風。
カマイタチは荒巻の両腕をズタズタに引き裂き、その体を後方へと吹き飛ばした。
ずん、と音をたてて壁に衝突。
周囲の暗幕もろとも荒巻のローブが切り刻まれ、細かい端切れとなって宙を舞った。



41: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:32:21.21 ID:L3hgvnyl0
  
/ ,' 3「むぅ……思ったよりも。いや、異常なまでに強い力じゃ。おぬし、本当にただの人間か?」
( ゚W゚)「正真正銘、ただの人間だ。だが、お前達を殺す力は十分に持っている」

不思議そうな面持ちでブーンを見やる荒巻。
ローブはかろうじて肩に掛かる程度のボロ切れとなり、両腕からはぼたぼたとおびただしい出血が続いている。
しかし、荒巻はそれらを一切気にしている風ではない。

/ ,' 3「しかしのう。お前さんに憑かせた『ヴィゾフニル』は、本来ならば光を象徴する存在じゃ。
    間違ってもお前さんのように黒い翼を生み出すような形質変化は起こさないはずなんじゃが……」
( ゚W゚)「お前達の考えなど知ったことか。ボクはボクだ。そして、この力はボクの怒りそのものだ」

ばさり、と翼をゆらめかせ、傲然と言い放つ。
その顔に浮かぶ表情は、大切な存在を奪われた者のみが持ちうる憤怒と憎しみ、
そして尽きることのない渇望に彩られている。

/ ,' 3「……まあええわい。お前さんが敵である以上、その存在を問うても詮無きこと。
    敵に対するは力、侵略には攻勢に出るまでじゃからの」
( ゚W゚)「ならボクは、その攻勢を全て打ち砕く。破砕して破砕して破砕して、完膚無きまでに叩きつぶす」

言うなり、ブーンはその体を再び荒巻に向かって加速させる。
言うべき事は言った。後は力で語るのみ。
暴力的な狂風を従えて疾走するブーンは――憑かれたように笑っていた。



42: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:33:14.55 ID:L3hgvnyl0
  
(,,゚Д゚)「くっ……!!」

じゃくり、と肩の肉を抉られて、ギコは大きく飛び退る。
しぃの攻撃は的確にギコの生身を削り、穿ち、時には強打した。
距離を取ったギコは、着地するまでの僅かな合間に、連続して熱線を飛ばす。
だが、

(*゚ー゚)「あははー、当たらないよーだ」

無造作に体を揺らめかせたしぃは、その全ての攻撃を避けて見せた。
しぃの動作は達人のそれとは違い、無駄が多く素人同然。
しかし、ギコが今までに放った攻撃は、一度たりともしぃを傷つけることはなかった。
大きく舌打ちをするギコ。

(,,゚Д゚)「くそ、やはりお前の力は厄介だ……」
(*゚ー゚)「えへへ、褒めてくれてありがと、ギコくん」

戦いの場に身をおいてもなお、美しく笑うしぃ。
しぃの心臓に憑く『ゴモリー』は、過去と未来を盗み見る力をもっている。
対象の過去全てと未来を見通すその力は、一対一ならばほぼ無敵。
一秒先までの未来ならば100%の確率で予見して、全ての攻撃を無効化する。



43: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:35:29.15 ID:L3hgvnyl0
  
(*゚ー゚)「ねぇ、いい加減に諦めたら?」
(,,゚Д゚)「馬鹿を言うな。俺は貴様ら組織には飽き飽きしている」

間合いを取ったまま、ごく自然体で語りかけてくるしぃに、噛みつくように言い放つ。

(,,゚Д゚)「貴様らのやっていること。目指す世界。今はそれら全てが気にくわん」
(*゚ー゚)「そうかなぁ。悪魔が満ちれば、全ての人が平等に力を得る機会を与えられて、虐げられる人がいなくなるんだよ?
    人を使うのがうまいだけのブタみたいな金持ちが、やせ細った子供の前で残飯を捨てたり、
    口が上手いだけの嫌な奴が、純粋な女の子を食い物にするような世界よりは、ずっと素敵だと思わない?」
(,,゚Д゚)「確かに……昔は、平等に与えられる力で、虐げられるものがいなくなる。そんな世界を目指したこともあった。
     だが、組織の目指す世界は、所詮理想論にすぎん。実現すればこの世は力が支配する地獄となる」

悔恨の表情を浮かべるギコ。
今は抜けたとはいえ、過去の自分の所行は、決して彼にとって誇れるものではないのだろう。

(,,゚Д゚)「それに、今は都市での生活も悪くはないと思っている。最下層は薄汚く、最低な場所だが、
     その場所に住む者にとっては秩序とルールが存在し、誰もが命を燃やしている」
(*゚ー゚)「それは、最底辺にいない人の理屈だよ。誰かを見下ろすことが出来る人は、
    自分より下の人を見て『ああ、あいつより自分は少しはマシなんだ』って安心できるからでしょう?」

エゴだよ、それは。
そう言って寂しそうに笑うしぃ。



46: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:37:46.81 ID:L3hgvnyl0
  
しぃは、子供の頃から最下層の最底辺に位置する人間だった。
親はしぃが幼い頃に蒸発していたし、両親の残した金は子供が生活するには少なすぎた。
暴力と金がものをいう最下層で子供が生きる術は、そう多くはない。
必然的に彼女は、変態向けのチャイルドポルノに幾度と無く出演することを余儀なくされた。

来る日も来る日も汚らしい男に体をまさぐられる日々が続く。
目が覚めれば粗末な食事とカメラに見つめられるだけの日常。
その中で、しぃの魂は摩耗し、何も考えない時間が多くなっていく。
何日も。何ヶ月も。そして何年も。
少女が大人になるまで、地獄の日々は続いた。

そんな彼女の転機となったのが、当時すでに組織で力を振るっていたギコとの出会いだった。
いつものようにがらんどうな気持ちで男に組み敷かれていたしぃは、ギコが部屋に入ってきたことに気が付かなかった。
気が付けば、目の前にあったのは赤く染まる頭欠死体。
直前まで腰を振っていた男の頭を左腕で吹っ飛ばし、ギコは続いて部屋にいた全ての人間を屠殺した。

助けが来た、とは思わなかった。
ただ、ギコが握ってくれた手の温もりと力強さは、しぃが今まで感じたことのないものだった。
気持ちいい温度。

(,,゚Д゚)「俺と共に来い。そうすれば、お前は虐げられることはなくなる」

初めて人に触れることを嬉しいと思ったしぃは、ただ純粋にギコを信じて頷いた。



48: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:41:56.97 ID:L3hgvnyl0
  
(*゚ー゚)「あなたが、どんな気まぐれで私を誘ってくれたのかは知らないよ。でも、あの時の言葉が私の全て。
    あの言葉を信じられなくなったら、私は私じゃなくなっちゃうんだよ」
(,,゚Д゚)「……」

儚げな笑みを浮かべるしぃを、ギコは無言で見つめ続ける。

(*゚ー゚)「だから、私は私の信じることをするだけ。たとえ、信じた言葉をかけてくれた人と敵対しても、ね」
(,,゚Д゚)「そうか……。なら、仕方ないな」

ため息を一つついて、ギコは左腕の『ファフニール』に最大限の力を込めた。
今までの何よりも強い力。
冷たい力を注ぎ込まれた悪魔は、やがて一つのリミットを越える。

激痛。

意図的に過剰な力を解放された悪魔は、その軛を破ってギコの体を浸食し始めた。
体を内側から貪り食われる感覚は、死んでもおかしくないほどの痛みを与える。
だが、ギコはそれに耐え、浸食を受け入れた。



49: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:46:53.84 ID:L3hgvnyl0
  
しぃの予見を打ち破る方法は、ただ一つ。
しぃの身体能力では避けきれない一撃で、必殺を狙うのみ。
そのためには、いままでのような単調な攻撃ではなく、限界を超えた力が必要となる。

愛した人を殺すために、自らの血肉を悪魔に捧げる。
下手をすれば間違いなく『地獄落ち』するその無謀な行動をギコは躊躇無くやってのけた。

(,,゚Д゚)「ぁああああああああああっ!!」

雄叫びをあげて突進。
振りかぶった左腕を、今までのどの攻撃よりも速く、鋭く打ち振るう。
鱗をまとった左腕から、鉄が砕ける音を立てて、邪龍の化身たる翼が飛び出した。
風を受けて広がる翼。
一面に鋭い鱗を生やしたそれは、ギコの体よりも遙かに大きく広がり、しぃを切り刻むために打ち振られる。

超広範囲、超高速、超威力の一撃。
生身の人間よりも少し強い程度の身体能力しか持たないしぃには、到底避けることの出来ない攻撃。
だが、迫り来る死の翼を見てもしぃは避けようとはしない。
眼前にまで翼が迫り、その顔に影を落とした時――しぃは小さく、呟いた。

(*゚ー゚)「それでも――私、ギコくんのことが大好きだよ」
(,,゚Д゚)「――っ!!」

――ざぎゅっ



50: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:48:56.99 ID:L3hgvnyl0
  
(;゚W゚)「ギ……ギコ!!」

荒巻と対峙していたブーンが、攻撃の手を休めてギコを振り返る。
肉を裂き骨を断つ異音。
その音の元となった男は、背中から血に染まる手を生やして静止していた。

(,,゚Д゚)「ぐ……がっ!!」

ごぼり、と血の塊を吐き出すギコ。
みぞおちのあたりを貫通した腕は、内臓を切り裂いて背中まで飛び出していた。

(;゚W゚)「ギコ、何で……」
(*゚ー゚)「……やっぱり、ギコくんも私のこと好きだったんだね」

貫通させた腕を回して、愛しい人を抱きしめる。
体の中の体温がギコの体を通る腕から感じられて、しぃは幸せな気持ちを感じた。

(*゚ー゚)「最後の攻撃、一瞬止めてくれたもんね。私が好きだって言ったから。
    私ね、あの時は力を使ってなかったんだよ。でも、ギコくんは絶対に私を殺さないってわかってたから」

強く強くギコを抱きしめるしぃ。
とくとくと脈打つ心臓が、肘の辺りに感じられた。



51: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:50:55.18 ID:L3hgvnyl0
  
(*゚ー゚)「あたたかい……。やっぱりギコくんの体温が、私は一番大好きだよ」
(,,゚Д゚)「く……」

ギコは最早言葉を発することも難しい。
逆流して肺に入ってこようとする血を、必死で吐き出そうとする。

(*゚ー゚)「ねぇギコくん。こんな結果になっちゃったけど、あなたはこれで幸せなの? あなたは後悔してないの?」
(,,゚Д゚)「後悔、なら……ずっとしている」

血を吐きながら。
それでもギコは、震える唇で言葉を紡いだ。

(,,゚Д゚)「俺は……お前を間違った道へ、誘ってしま、た……。お、お俺の後悔、ずっと」
(*゚ー゚)「後悔なんかしなくていいのに。私はここに居れられて幸せだったんだよ?」
(,,゚Д゚)「そ、それで、も。俺、おれは、ずっと……」

ギコの言葉が弱々しくなっていく。
だが、ギコは消えゆく定めに抗うかのように、両腕をしぃの背中に回して力強く抱きしめる。

(,,-Д-)「お、俺は、ず、ず、っと……お前……」

両腕から力が抜ける。足がギコの意識を無視して膝をつこうとする。
瞼がゆっくりと閉じられようとする、その最後の瞬間。

(,,゚Д゚)「俺はずっとお前と居たかった」



53: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 00:52:18.10 ID:L3hgvnyl0
  
沈黙。

(*゚ー゚)「……」

しぃはゆっくりとギコから身を離し、その顔をのぞき込む。

(,,゚Д゚)「……」

ギコは最期の言葉を言ったまま、止まっていた。
見開かれたままの両目が、静かにしぃの目を見返してくる。
しかし、意思の強そうなその目は、すでに何も写してはいなかった。

(*゚ー゚)「……馬鹿なギコくん。あの時にそれを言ってくれれば、私は……」

言葉を切って、しぃはギコの顔に自らの顔を近づけた。
優しい、触れるだけの口づけ。
最早何の反応も返さない愛しい人へ唇を重ねて。

――しぃは少しだけ泣いた。


「体温」終



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